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■レビュー REVIEW |
■先ごろ発表された第90回アカデミー賞。脚色賞は少年と年上の若い男性のひと夏の恋を描いた『君の名前で僕を呼んで』だった。受賞したのは『眺めのいい部屋』(86年)や『モーリス』(87年)で一時代を築いた監督にして脚本家のジェームズ・アイヴォリー。今年90歳になろうという大ベテランによる久々の脚本だ。 また女性へと性転換したトランスジェンダーの男性が、世間の荒波にもまれながらも健気にそして力強く生きてゆく『ナチュラルウーマン』は、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(カンヌの最高賞パルムドール受賞)など強敵を押さえて外国語映画賞を受賞している。 ■思えば昨年のアカデミー賞で発表取り違え事件の末に作品賞に収まったのも同性への純愛を描いた『ムーンライト』だったし、前の年にはパトリシア・ハイスミスの原作をトッド・へインズ監督で映画化した女性同士のラブストーリー『キャロル』(15年)があった。こちらは女優賞をはじめ多部門でノミネートされて話題を集めた。また数年前にはパルムドールを受賞した女性同士の愛憎劇『アデル、ブルーは熱い色』(13年)がカンヌを大いに騒がせたのも思い出される。LGBT関連の秀作映画が次々と生まれているのがここ数年の傾向だろう。 ■そんななか、今年に入ってからLGBT関連の話題作が相次いで順次公開されている。1月公開の『レディ・ガイ』、2月の『アバウト・レイ 16歳の決断』と『ナチュラルウーマン』、3月の『彼の見つめる先に』と『BPMビート・パー・ミニット』、そして4月には前述の『君の名前で僕を呼んで』も控えている。 以上6作品をあらためてレビューする。 (Text by NorikoYamashita 2018年3月11日 記) <関連記事|『モーリス 4K』ー4Kデジタル修復版ー> <関連記事|『最初で最後のキス』> |
■REVIEW『君の名前で僕を呼んで』 |
■ジェームズ・アイヴォリーが久々に脚本家として登板。この6月で90歳になるがまだ引退はしていなかった。『眺めのいい部屋』(86年)や『日の名残り』(93年)などの監督として知られる長老だが、本作を観て思い出されるのは脚本も兼ね日本でも大ヒットした『モーリス』(87年)だ。 17歳の少年と24歳の大学院生のひと夏の恋を描いたラブストーリー。アイヴォリー自身に言わせると同名原作(アンドレ・アシマン作)に忠実に脚色したという。実際は時代設定を1987年からAIDSがまだ深刻化していない83年に移し、原作では20年後へと飛ぶエンディングも変えられている。アイヴォリーらしい品の良さとヨーロッパテイスト、そして避暑地を舞台にした成長物語という意味で、フランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」をふと思わせる。 ●君の名前で僕を呼んで|4月27日(金)~TOHOシネマズシャンテ他全国順次公開 監督:ルカ・グァダニーノ 出演:ティモシー・シャラメ/アーミー・ハマー 2017年伊国=仏国=ブラジル=米国(132分) 配給:ファントム・フィルム 原題:CALL ME BY YOUR NAME (c)Frenesy, La Cinefacture |
■REVIEW『BPM ビート・パー・ミニット』 |
■90年代初め、AIDSが深刻化し始めたパリが舞台だ。しかし進歩的に見えるパリでさえ政府のAIDS対策は後手後手で性教育もままならない。しかも死者も出始めているというのに製薬会社は儲け優先で一向に救済そのものに本腰を入れようとしない。そこで当事者に加えて家族や友人、シンパシーらによる活動団体「ACT UP-Paris」が組織される。去年のカンヌ映画祭で次席のグランプリを受賞したロバン・カンピヨ監督自身、同団体に加わったひとりだという。 |
■REVIEW『彼の見つめる先に』 |
■目が見えず、まだ恋というものを知らない少年がどのようにひとを好きになり、恋愛感情を抱いてゆくのか。ブラジルの新鋭ヒベイロ監督は、そんな難しいテーマを軽やかなタッチの青春映画で瑞々しく描いて見せた。 盲目というハンデを負っていることから過保護気味に育てられ、自由に羽ばたくことを夢見るレオナルド。そんな彼をずっと見守り支え続けてきたのは、彼のことが大好きな幼ななじみの少女ジョヴァンナだ。ある日、さわやかなイケメン青年ガブリエルが転校してきて3人は親しくなるが、均衡を保ってきた感情のバランスが少しずつ崩れてゆく。しかし嫉妬心はあってもドロドロ感はなく、青春映画の理想のような形で初恋物語が生まれてゆく。 ●彼の見つめる先に|3月10日(土)~新宿シネマカリテ他全国順次公開 監督:ダニエル・ヒベイロ 出演:ジュレルメ・ロボ/ファビオ・アウディ 2014年ブラジル(96分) 配給:アーク・フィルムズ 英題:THE WAY HE LOOKS |
■REVIEW『ナチュラルウーマン』 |
■雨にも負けず、風にも負けず、世間の荒波にも飲みこまれることなく健気に、たくましく生きてゆくひとりのトランスジェンダーのお話。 エンターティナーとして大成する夢は道半ばだが、マリーナにはすべてをやさしく包み込んでくれる最愛のひとオルランドがいる。ところがその彼が急逝し、途端にマリーナの社会的な立場は危うくなる。ここぞとばかりに襲ってくるのはオルランドが捨てた家族、法定相続人たちだ。ここチリの法律がどうであれ、おそらく社会的な扱いは内縁の妻以下、ゼロ以下だろう。マンションを息子が占拠し、たちまち追い出されてしまう。 松浦理英子の小説「ナチュラル・ウーマン」から30年。ここでもアレサ・フランクリンの「ナチュラル・ウーマン」(キャロル・キング作曲/ゲリー・ゴーフィン作詞)が静かに流れる。内容はふつうのラヴソングだけれど、なぜか国を問わずにLGBTのラヴに対する応援歌みたいに使われるのが面白い。 主人公役ダニエラ・ヴェガの個性が強烈に脳裏に残るこの映画、今年のアカデミー賞で外国語映画賞受賞。 ●ナチュラルウーマン|2月24日(土)~シネスイッチ銀座他全国順次公開 監督:セバスティアン・レリオ 出演:ダニエラ・ヴェガ/フランチェスコ・レジェス 2017年チリ=独国=スペイン=米国(104分) 配給:アルバトロス・フィルム 原題:A FANTASTIC WOMAN (c)2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH;SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA |
■REVIEW『アバウト・レイ 16歳の決断』 |
■今年20歳。本作を撮った時はまだ16、17歳だったエル・ファニングが少年っぽさを生かし、男性への性転換を望んでやまない多感な少女役に挑んでいる。女性として生まれた体にメスを入れ、ホルモン療法で性転換したいと望む少女のシリアスなお話。しかしその辺をあまり深く掘り下げることはせず、ウィットに富んだ方向にもっていこうしているのがこの作品だ。どんな祖母からどんな母親が生まれ、さらにその娘が生まれ育ったのか。じつは3世代を描いた作品で、邦題の先入観があると少し肩透かしを食らうけれど、原題が「3GENERATIONS」と知るとなるほどと少し納得。エル・ファニングに加えて母役のナオミ・ワッツ、祖母役のスーザン・サランドンという豪華なキャスティングもこの映画の売りのひとつ。 ●アバウト・レイ 16歳の決断|2月3日(土)~新宿ピカデリー他全国順次公開 監督:ゲイビー・デラル 出演:ナオミ・ワッツ/エル・ファニング/スーザン・サランドン 2015年米国(92分) 配給:ファントム・フィルム 原題:3GENERATIONS (c)2015 Big Beach, LLC. All Rights Reserved. |
■REVIEW『レディ・ガイ』 |
■最愛の弟を殺された整形外科の女医が、復讐目的で殺し屋の男を女性に変えてしまうハードボイルドタッチのエンターテインメント。LGBTが主題の映画ではない。性転換手術で女にされた主人公は、自分を拉致したマフィアを探し出してリベンジを重ねてゆく二重構造の復讐劇になっている。 |
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