シネマカルチャー❘注目のロードショー『クィア/QUEER』『うぉっしゅ』『トレンケ・ラウケン』『ミステリアス・スキン』『シンシン/SING SING』『終わりの鳥』『レイブンズ』『エミリア・ぺレス』『悪い夏』『教皇選挙』


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●うぉっしゅ●ロザリー●トレンケ・ラウケン●異端者の家●シンシン/SING SING●ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今●終わりの鳥●セッション・デジタルリマスター●レイブンズ●エミリア・ぺレス●悪い夏●ROSETTA FOREVER!●教皇選挙●Flow●早乙女カナコの場合は●第97回アカデミー賞●白夜●安楽死のススメ●ANORA アノーラ●名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN ……


               ロードショー ROADSHOW 2025   

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      ビート・ジェネレーションを代表する作家ウィリアム・S・バロウズの自伝的小説
              『クィア/QUEER』 QUEER (R15+)
            2025年5月9日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開




■酒と男とドラッグに溺れる日々を送るメキシコ駐在の米国人男性。ある日、ひとりの青年に一目ぼれして恋の沼にはまってゆく。ビート詩人の代表格で、『ジャンキー』や『裸のランチ』の作家として知られるウィリアム・S・バロウズの未完の自伝小説「クィア」を、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が映画化。バロウズを思わせる主人公を演じるのは007でおなじみダニエル・クレイグ。

■SYNOPSIS■ 1950年代のメキシコシティ。米国人駐在員のウィリアム・リー(ダニエル・クレイグ)は、カフェや酒場に入り浸っては男漁りに余念がなく、成功するときもあれば、あからさまな誘いに疎まれることも。そんなある日、ユージーン・アラートン(ドリュー・スターキー)という美しくもミステリアスな青年に出会いクギづけになる。いつものようにアプローチを試みるもそっけなく、女性と楽し気に話すアラートン。脈はなしかと思えたが…。

■ONEPOINT REVIEW■ 4章から成っていて、全編を通して描かれるのは恋する中年男リー。とくに前半はナンパに失敗しまくるだけでなく、本命のアラートンと結ばれるも心をとらえることができない破滅的なふられ男を、ジェームズ・ボンドから一転、ダニエル・クレイグが黄昏感いっぱいに演じている。そして映画は後半の密林入りで様相を変える。快適なトリップにはならないと釘を刺された幻のドラッグがもたらす摩訶不思議な体験。アマゾンの奥地に暮らす植物学者をレスリー・マンヴィルが怪演している。
           (NORIKO YAMASHITA)2025年5月7日 記

監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:ジャスティン・カリツケス
原作:ウィリアム・S・バロウズ「クィア」(河出書房新社)
出演:ダニエル・クレイグ/ドリュー・スターキー/ジェイソン・シュワルツマン/レスリー・マンヴィル
2024年イギリス=アメリカ(137分)
原題:QUEER
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/queer/
©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.





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        内緒でソープ嬢をしている主人公が、日中は祖母の介護をすることになり…   
                   『うぉっしゅ』 WASH
        2025年5月2日(金)から新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座ほか全国公開



■身内や周囲に内緒でソープ嬢として働く女性のもとに母から電話があり、一週間限定で祖母の介護をしてほしいと懇願される。かくして彼女は、日中は介護、夜は男たち相手に性サービスという二重生活を送ることに…。つい先ごろ公開された『安楽死のススメ』で注目を集めた岡崎育之助監督/脚本の劇場公開第2弾。注目株の中尾有伽が祖母役の研ナオコと共演。

■SYNOPSIS■ 都会に出て働いている加那(中尾有伽)のところに、怪我で入院することになったので、一週間だけ祖母(研ナオコ)の介護をしてくれないかと母(磯西真喜)から電話が入る。母は娘が不動産屋で働いていると信じており、ソープ嬢をしていることは口が裂けても言えない。仕事のことを詮索されるのも嫌なので、仕方なく介護を引き受ける加那。こうして、日中は祖母の介護、夜はソープ嬢という二重生活がスタートする。そして久しぶりに会ってみると、孫のことをすっかり忘れている祖母がいた。

■ONEPOINT REVIEW■ 『安楽死のススメ』と本作『うぉっしゅ』、立て続けの公開で監督デビューとなった岡崎育之助。2作品に共通して言えるのは、軽やかでユーモアがあるけれど、かと言って軽すぎることなく芯がしっかりとあって、言いたいことをしっかりとセリフのなかに落とし込んでいるところだろうか。バランスの良さでも成功しているシネアストの誕生だ。
          (NORIKO YAMASHITA)2025年4月29日 記

監督/脚本:岡崎育之助
出演:中尾有伽/研ナオコ
中川ゆかり/西堀文/嶋佐和也(ニューヨーク)
諏訪珠理/井筒しま/中山慎悟/サトウヒロキ
名倉右喬/佐藤まり/順哉/惣角美榮子/越山深喜/広瀬蒼
石原滉也/松原怜香/岡﨑育之介/細川佳央/藤井千咲子
髙木直子/赤間麻里子/磯西真喜
2025年日本(115分)
配給:NAKACHIKA PICTURES
公式サイト:https://wash-movie.jp/
©役式







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            図書館で秘密の往復書簡を見つける主人公ラウラ、さらに…
              『トレンケ・ラウケン』 TRENQUE LAUQUEN
       2025年4月26日(土)から渋谷・ユーロスペース/下高井戸シネマほか全国公開







■アルゼンチンの田舎町トレンケ・ラウケンである日、植物採取のために長期滞在していた植物学者の女性がすがたを消す。遠方から恋人がやってきて、彼女と行動していた男とともに探し始めるのだが…。ラウラ・シタレラ監督本邦初登場。監督第1作『オステンデ』(2011年)とともに、ラウラというひとりの女性が異なる場所で異なる人生を送るというサーガ(大河ドラマ)の一環をなす作品だという。2023年の仏カイエ・デュ・シネマ誌ベストテン1位。
*本作のほかに「ラウラ・シタレラ監督特集 響きあう秘密」として、『オステンデ』『ドッグ・レディ』『詩人たちはフアナ・ビニョッシに会いに行く』の未公開3作品が同時上映される。

■SYNOPSIS■ ラウラ(ラウラ・パレーデス)と音信不通となり急遽、首都ブエノスアイレスからやってきた恋人のラファエルは、トレンケ・ラウケン滞在中のラウラの運転手役だったエセキエルとともに捜索をはじめる。じつはエセキエルはラファエルが想像する以上にラウラから信頼されていて、彼女が発見したあるミステリアスな事案を共有していた。そしてその謎解きをするために多くの時間をともに過ごすなか、特別な感情を彼女に抱くようになっていた。

■ONEPOINT REVIEW■ ラウラは植物採取に夢中なだけではなかった。図書館通いをするうちに秘密の往復書簡を見つけてエセキエルと秘密を分かち合い、彼がその関係に有頂天になっているかと思うと、いつの間にかそこをするりとすり抜けて、ほかに興味が移ってゆく。パート1、2合わせて4時間超えの長丁場ながら、奇想天外な話も含めてプロットが面白く、とくに後半は畳みかけるような展開で目が離せない。
            (NORIKO YAMASHITA)2025年4月21日 記

監督/共同脚本:ラウラ・シタレラ
共同脚本:ラウラ・パレーデス
出演(パート1):ラウラ・パレーデス/エセキエル・ピエリ/ラファエル・スプレゲルブル/セシリア・ライネロ
出演(パート2): ラウラ・パレーデス/エセキエル・ピエリ/フリアナ・ムラス/エリサ・カリカホ/ベロニカ・ジナス
2022年アルゼンチン=ドイツ(PART1:128分)(PART2 :132分)
原題:TRENQUE LAUQUEN
配給:トーデスフィルム/ユーロスペース
公式サイト:trenquelauquen.eurospace.co.jp




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            少年ふたりが8歳だったあの夏、起こったこと…
             『ミステリアス・スキン』 MYSTERIOUS SKIN
         2025年4月25日(金)から渋谷ホワイト・シネクイントほか全国公開





■田舎町に暮らす少年ふたりが8歳だったあの夏、彼らの身になにが起きたのか。野球チームのコーチから常習的に性的虐待を受け、その後の人生が微妙におかしくなっていくふたりの青年を描いた人間ドラマ。近年再評価されているグレッグ・アラキ監督の8作目となる2004年作品で、20年のときを経て日本ではじめて劇場公開。人気俳優のジョセフ・ゴードン=レヴィットと、アカデミー賞をにぎわせた『ブルータリスト』の監督としても注目されるブラディ・コーベット、若き日のふたりが共演しているのも見どころ。

■SYNOPSIS■ 〝あの日〟以来、意味不明のトラウマで、悪夢や失神や鼻血をくり返すブライアンは、あのできごとは宇宙人によるものと思い込むようになり、UFOや宇宙人に興味を持ちながら成長する。一方、家庭環境があまり良くなく悪ガキに育ったニールは、その美貌を武器に、年上の男たちに身を売るような生活を送っていた。接点なく青年期を迎えるふたりだったが、大学生になったブライアン(ブラディ・コーベット)が〝真実〟を求めつづけるなか、少年野球時代のチームメイト、ニール(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の存在が浮上してくる。

■ONEPOINT REVIEW■ こども時代におとなの男からいたずらされ、人生を大きく狂わされる青年…ベルトルッチ監督の『暗殺の森』をふと思い出す。心に傷を負い、だれにも言えないまま大人になってゆく子どもたち。ここではふたりの青年はまったくちがう道を歩んでいるけれど、ふたたび人生が交わるまでを、アラキ監督はミステリアスなタッチも交えながら丁寧に描いていく。(NORIKO YAMASHITA) 2025年4月19日 記

監督/脚本:グレッグ・アラキ
原作:スコット・ハイム「謎めいた肌」(ハーパーBOOKS)
出演:ブラディ・コーベット/ジョセフ・ゴードン=レヴィット/ジェフリー・リコン/ミシェル・トラクテンバーグ/リサ・ロング/ビル・セイジ/エリザベス・シュー
2004年アメリカ(105分)
原題:MYSTERIOUS SKIN
配給:SUNDAE
公式サイト:https://sundaefilms.com/mysterious-skin/
©MMIV Mysterious Films, LLC






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       ニューヨークに実在する「シンシン刑務所」を舞台にしたヒューマンドラマ
              『シンシン/SING SING』 SING SING
       2025年4月11日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開



■米ニューヨークに実在する「シンシン刑務所」を舞台に、そこで行われている演劇による更生プログラムにフォーカスし、さまざまな人間模様を描いたヒューマンドラマ。アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた主役のコールマン・ドミンゴを除いてはほとんどがシンシンでの演劇経験者たちで、その点でも話題にのぼった作品。ドミンゴが演じた実在の主人公ウィットフィールドによる原案がもとになっている。

■SYNOPSIS■ ニューヨークのハドソン川沿いに立つシンシン刑務所。おもに重罪で有罪になった人たちが収監されているそこでは、演劇による更生プログラムRTAが収監者たちの励みになっていたが、新たな出し物を制作するタイミングで、刑務所内でも悪党として恐がられているディヴァイン・アイ(クラレンス・マクリン)が参加することに。演劇グループの古参で、仲間からの信頼も厚いウィットフィールド(コールマン・ドミンゴ)も温かく迎え入れるが…。 

■ONEPOINT REVIEW■ 刑務所内がきれいごとだけで済むはずもない。だがそんななか自分たちで演目を選び、キャスティングもしてゼロからつくり上げてゆく更生プログラムが、いかに収監者たちの心を和ませ、希望の明かりになっているか。ところが放免されるか否かの審査が行われる席で主人公は、その優等生的な受け答えも演技なの?と言われ絶望する。そんなこともあったから、とりわけ感動的なエンディングになっている。
           (NORIKO YAMASHITA) 2025年4月8日 記

監督・共同脚本:グレッグ・クウェダー
共同脚本: クリント・ベー リント
原作 /『The SING SING Follies(原題)』
出演:コールマン・ドミンゴ/クラレンス・マクリン/ショーン・サン・ホセ/ポール・レイシー
2023年アメリカ(107分)
原題:SING SING
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/singsing/
© 2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.






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             病の少女のもとにやってくる、ちょっととぼけた死の鳥
                   『終わりの鳥』 TUESDAY
         2025年4月4日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開



■病におかされて余命少ない少女と、その現実を受け入れられず敢えて娘から遠ざかる母。そこに死を告げる鳥がやってきて…。だれにも必ずおとずれる死との向き合いを、ファンタジックに描いた人間ドラマ。新しい才能の発掘に余念のない映画会社A24が送り出したのは、クロアチア出身の新星ダイナ・O・プスィッチ監督。これが長編デビュー作となる。

■SYNOPSIS■ ベッドの上か車椅子で一日を過ごす少女チューズデー。まだ15歳だというのにその死が遠くないことを本人も周囲も薄々感じている。看護するのは看護師のビリーで、シングルマザーのゾラはと言えば、彼女の訪問と同時に家を出て、カフェや公園で日がな一日を過ごす。ビリーが少しは娘さんと一緒にいて上げて、と忠告するも聞く耳を持たない。そんなある日、チューズデイのもとに終わりを告げる鳥〝DEATH〟がやってくる。

■ONEPOINT REVIEW■ 死期が迫り、娘は母に甘えたくてしょうがないのに看護師まかせの母。冷たいひとなのかと思えばそうではなかった。娘の死と、彼女がいなくなったあとの世界が怖くてたまらないのだ、おそらく。そんな切実な話を、巨大から極小まで変幻自在の、ちょっととぼけた死の鳥が緩衝材になって、ファンタジックに描いてゆく。
           (NORIKO YAMASHITA)2025年3月31日 記

監督/脚本:ダイナ・O・プスィッチ
出演:ジュリア・ルイス=ドレイファス/ローラ・ペティクルー
2024年英=米(110分)
原題:TUESDAY
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:happinet-phantom.com/tuesday
©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024











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     伝説のフォトグラファー永瀬昌久の破滅的な生きざまと究極の愛 浅野忠信×瀧内公美
                  『レイブンズ』 RAVENS
                  2025年3月28日(金)から
     日比谷・TOHOシネマズシャンテ/新宿武蔵野館/渋谷・ユーロスペースほか全国公開



■生前から内外で注目され、近年いっそう評価が高まっているフォトグラファーの深瀬昌久。代表作「鴉」ほかで知られる彼の鬼気迫る仕事ぶりと破滅的な生きざま、そして最愛の女性とのかけがえのない愛にフォーカスした人間ドラマ。監督は英マンチェスター出身、ミュージシャンとして出発し、『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』の監督として知られるマーク・ギルで、音楽へのこだわりが感じられる作品になっている。そして監督の頭には彼しかなかったという浅野忠信が深瀬を演じ、瀧内公美との共演も見どころ。

■SYNOPSIS■ 深瀬昌久(浅野忠信)は1934年、明治時代からつづく北海道美深町の老舗写真館の長男として誕生。だが封建的で威圧的な父親(古舘寛治)との関係は良くはなく、長男が家を継ぐものという父の一方的な決めつけに背いて三代目の座を拒否。東京の日大芸術学部写真学科に入学し、写真館ではなく写真家としての道を歩みはじめる。東京で暮らすようになった昌久はある日、能楽師になりたいというはっきりとした夢を持つ女性、鰐部洋子(瀧内公美)と出会い、昌久のインスピレーションのもととなってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 跡取りとしての厳しいしつけや、家父長制度の見本のように独断的な父親の存在は、家業の写真館から昌久を遠ざけたが、写真そのものから彼を遠ざけることはなかった。むしろ幼少期の厳しいしつけは、写真家としての深瀬昌久を形成する核となっていたのでは。そして鰐部洋子との出会い、別れ、再会。ギル監督はふたりの表情や佇まいを繊細にとらえて、哀感あふれるラブストーリーをつくり上げている。
(NORIKO YAMASHITA) 2025年3月 記

監督/脚本:マーク・ギル  
出演:浅野忠信/瀧内公美/古舘寛治/池松壮亮/高岡早紀
2025年フランス=日本=スペイン=ベルギー (116分)
配給:アークエンタテインメント
公式サイト:https://www.ravens-movie.com/
© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, The Y House Films









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             女性になることを切に願う極悪非道の麻薬王の男!
               『エミリア・ぺレス』 EMILIA PEREZ
            2025年3月28日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開



■『真夜中のピアニスト』や『リード・マイ・リップス』などの名匠にして、奇抜なアイデアも多々持ち合わせているフランスの監督ジャック・オーディアール。彼が今回挑戦したのは、悪徳の限りを尽くして巨万の富を築いた麻薬王が、女性への性の移行を願い実行してゆく話。しかもミュージカル仕立て! トランスジェンダーの女優カルラ・ソフィア・ガスコンが麻薬王を演じ、カンヌ映画祭では彼女をはじめ主要女性キャスト4人全員が女優賞を受賞。またゾーイ・サルダナがアカデミー賞助演女優賞に輝いている。

■SYNOPSIS■ 高い能力を持ちながらその能力を上司の男に悪用され、鬱屈とした日を過ごす弁護士リタ(ゾーイ・サルダナ)のもとにある日、思いがけない人物から連絡が入る。接触してきたのはメキシコ全土にカルテル組織を張り巡らし、巨万の富を築いてきた極悪非道の麻薬王、マニタス・デル・モンテ(カルラ・ソフィア・ガスコン)だった。依頼は思いがけないもので、女性として新たな人生を歩みたいので、その手立てを極秘に講じてほしい、もちろん巨額の謝礼と引き換えに、というものだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 左の写真は上から女性になった元麻薬王の男(カルラ・ソフィア・ガスコン)、その手引きをする弁護士(ゾーイ・サルダナ)、そして麻薬王の元妻(セレーナ・ゴメス)。この複雑さを見ただけで作品の独特感が少し伝わってくるかもしれない。オーディアール監督はエンターテインメントをからめてぐいぐい作品に引き込みながら、今後ますます考えられてゆくだろうジェンダーのことをこの映画で示している。
(NORIKO YAMASHITA) 2025年3月19日 記

監督/脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ/カルラ・ソフィア・ガスコン/セレーナ・ゴメス/アドリアーナ・パス
2024年フランス=ベルギー(133分)
原題:EMILIA PEREZ
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/emiliaperez/
© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉM






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          生活保護を食い物にする者たちのワナにかかるケースワーカー
                 『悪い夏』 WARUINATSU 
               2025年3月20日(木・祝)から全国公開



■裏社会で暗躍する男たちに目をつけられ、罠にかけられて自滅してゆく市役所勤務の主人公。生活保護を不正受給する者や生活保護ビジネスを企む者など、社会の善意を逆手にとる輩を繰り出し、第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人の出世作を映画化。注目やまない河合優実が北村匠と共演。監督は『嗤う蟲』ほか多作な城定秀夫。

■SYNOPSIS■ 生活福祉課のケースワーカーとして働く佐々木守(北村匠)がこの日訪問したのは、元運転手山田(竹原ピストル)の家。昼間から酒を飲み、ポルノ雑誌をかたわらに置く彼に仕事を探すよう説得するも糠に釘。無力感だけをもって役所に戻る。そんな佐々木に耳打ちしてきたのは同僚の宮田優子(伊藤万理華)で、先輩の高野(毎熊克哉)がシングルマザーの受給者、林野愛美(河合優実)と肉体関係を持っているという。真相究明の手伝いをしてほしいと持ちかけられ、断ることのできない彼は気が進まないまま愛美の家を宮田と訪問する。

■ONEPOINT REVIEW■ 生活保護のことを「ナマホ」と言って不正受給する者がいる一方で、明らかに生活苦に陥りながら保護を受けられないひとがいる。だが困りに困って市役所を訪れる子連れの母(木南晴夏)を叱責する佐々木の精神はもはや尋常ではなく、北村演じる彼の崩壊ぶりが映画の見どころのひとつ。(NORIKO YAMASHITA) 2025年3月18日 記

監督:城定秀夫
脚本:向井康介
原作:染井為人「悪い夏」(角川文庫/KADOKAWA)
出演:北村匠海/河合優実/窪田正孝/竹原ピストル/木南晴夏/伊藤万理華/毎熊克哉/箭内夢菜
2025年日本(115分)
配給:クロックワークス
公式サイト:waruinatsumovie.com
© 2025 映画「悪い夏」製作委員会









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         混迷を極める教皇選挙コンクラーベ。あっと息をのむエンディング!  
                  『教皇選挙』 CONCLAVE
       2025年3月20日(木・祝)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開 




■ローマ教皇(法王)が急逝。急遽、教皇選挙(コンクラーベ)が行われるも本命候補がおらず選挙は迷走してゆく。原作は『エニグマ』や『ゴーストライター』など映画化作品も多い英国人作家ロバート・ハリス。『裏切りのサーカス』などの脚本家ピーター・ストローハンがことしのアカデミー賞脚色賞を受賞している。

■SYNOPSIS■ カトリックの総本山バチカン市国で、最高指導者ローマ教皇が心臓発作で急逝。側近の枢機卿らが駆けつけ悲しみに浸る間もなく、イギリス人の首席枢機卿トマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)が執行責任者となって教皇選挙(コンクラーベ)の準備が進められてゆく。コンクラーベのあいだは中が見えないように鎧戸が下ろされ、外部との交流も一切禁止。だが完全秘密主義の内部では枢機卿の何人かが野心をむき出しにし、本命候補がいないまま選挙は混迷を極めてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 長引くコンクラーベの期間中、ドラマ内では候補者たちの〝身体検査〟が行われ、つぎつぎと過去の悪徳やさまざまな真実が露わになってゆく。そんななか、最後の最後にひとりの人物がクローズアップされ、そしておいしいところをさらってゆく!あっとのけぞるエンディングであり、終わってみれば古臭いバチカンを舞台に多様性を問題提起した、いまに訴えるドラマだった。
(NORIKO YAMASHITA) 2025年3月12日 記

監督:エドワード・ベルガー
脚本:ピーター・ストローハン
原作:ロバート・ハリス著「CONCLAVE」
出演:レイフ・ファインズ/スタンリー・トゥッチ/ジョン・リスゴー/イザベラ・ロッセリーニ
2024年アメリカ=イギリス(120分)
原題:CONCLAVE
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://cclv-movie.jp
© 2024 Conclave Distribution, LLC.






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           大学の演劇サークルで出会った男女の紆余曲折の10年
            柚木麻子原作×矢崎仁司監督 橋本愛×中川大志
           『早乙女カナコの場合は』saotomekanakonobaaiwa
           2025年3月14日(金)から新宿ピカデリーほか全国で公開




■大学の演劇サークルで出会いつき合い始めた男女の、紆余曲折のその後の10年を描いた青春物語。早稲田大学を舞台にした柚木麻子の小説「早稲女、女、男」を、『風たちの午後』や『ストロベリーショートケイクス』『無伴奏』などの秀作を送り出してきた矢崎仁司監督で映画化。主演は橋本愛と中川大志。

■SYNOPSIS■ 2014年春。大学生活をスタートさせ、憧れのキャンパスに足を踏み入れた早乙女カナコ(橋本愛)が出会ったのは、演劇サークルのメンバーで脚本家志望の長津田啓士(中川大志)だった。意気投合しつき合い始めるふたり。ぼんやりではあるがふたりの将来を思い描くようになるカナコに対し、脚本の執筆で思ったような成果が上げられずに留年も視野に入れている長津田。ふとしたことから別れがやってくる。

■ONEPOINT REVIEW■ にじみ出るキラキラ感、おぼつかない足元、漠然とした未来、成功が確約されていない野望…。ふたりがともに好きな映画作家は、40歳代はじめに自死し名作も残したジャン・ユスターシュであり、若者特有の厭世観への憧れみたいなものも少しだけ感じられる。設定はこの10年だが、50年前の若者たちでもおかしくない物語がここにある。
(NORIKO YAMASHITA) 2025年3月5日 記

監督:矢崎仁司
脚本:朝西真砂/知 愛
原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫)
出演:橋本愛
中川大志/山田杏奈
根矢涼香/久保田紗友/平井亜門/吉岡睦雄/草野康太/のん
臼田あさ美
中村蒼
2025年日本(119分)
配給:日活/KDDI
公式サイト:saotomekanako-movie.com
©2015 柚木麻子/祥伝社 ©2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会









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    ロシアの財閥のバカ息子の玉の輿に乗りかかるアノーラ <カンヌ映画祭パルムドール受賞>
               『ANORA アノーラ』ANORA (R18+)
                2025年2月28日(金)から全国公開



■男たちを相手にストリップダンサーとして生きるロシア系アメリカ人女性アノーラはある日、ロシアの怪しげな財閥のバカ息子に見初められ玉の輿に乗りかかる…。『タンジェリン』などインディーズ寄りの作家として注目されてきたショーン・ベイカー監督の新作。昨年のカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞。

■SYNOPSIS■ 米ニューヨーク・ブルックリン。アニーの通称で呼ばれているロシア系アメリカ人女性アノーラ(マイキー・マディソン)は、ポールダンスなどのストリップショーや、男たちを相手にした店内でのきわどいプレイで日々生きている。だが店から搾取されているだろうことは、質素な暮らしぶりを見ると明らかだ。そんなある日、嫌々接客した相手が大当たり!アノーラのことがすっかり気に入ったその青年(マーク・エイデルシュテイン)はロシアの富豪の息子で、大金を積まれて短期の愛人契約を結ぶことに。さらに豪遊先のラスベガスで結婚式まで挙げてしまうのだが…。

■ONEPOINT REVIEW■ セックスワーカー的なことしか知らないで生きてきた女性の悲しい物語だ。ショーン・ベイカー監督はユーモアを方々にちりばめて笑わせようとするが、笑えない。笑えるひともいるのかな。でもあの精いっぱいのユーモアは、悲しい悲しいエンディングとの対比としてぜったいに必要なものだったろう。
          (NORIKO YAMASHITA) 2025年2月18日 記

監督/脚本:ショーン・ベイカー
出演:マイキー・マディソン/マーク・エイデルシュテイン/ユーリー・ボリソフ/カレン・カラグリアン/ヴァチェ・トヴマシアン
2024年アメリカ(139分)
原題:ANORA
配給:ビターズ・エンド/ユニバーサル映画 映倫:R18 +
公式サイト:https://www.anora.jp/
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            ティモシー・シャラメが演じる若き日のボブ・ディラン
        『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』A COMPLETE UNKNOWN
                 2025年2月28日(金)から全国公開









■60余年前、ひとりの青年がニューヨークにやってくる。無名の彼はその後〝フォークのプリンス〟として頭角を現し、地元米国および世界中の音楽シーンを席巻するも4年後、ニューポート・フォークフェスティバルでみずから殻を破り新たな旅立ちをしてゆく。ミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞した伝説のひとボブ・ディランの若き日を、人気のティモシー・シャラメ主演で描いた実話物語。監督はプロデューサーとしても活躍するジェイムズ・マンゴールド。『沈黙 -サイレンス-』などの大ベテラン、ジェイ・コックスとの共同脚本。

■SYNOPSIS■ 1961年、ニューヨークのマンハッタンにやってきたボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)の旅の目的は、敬愛するフォークシンガー、ウディ・ガスリー(スクート・マクネイリー)に会うことだった。ガスリーは入院中で、ディランは重篤な様子の彼と、見舞いに来ていた人気フォーク歌手ピート・シーガー(エドワード・ノートン)の前で自作曲を披露する。その歌を聴いたシーガーは、この無名の青年が只者でないことを確信するのだった。シーガーの導きもあって人々の心をとらえてゆくディラン。なかにはすでに人気を集めていたジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)もいた。一方、教会のライブでシルヴィ・ルッソ(エル・ファニング)という女性と出会い、ふたりは恋に落ちる。

■ONEPOINT REVIEW■ ディランを演じるのはフランス系の血が流れるティモシー・シャラメ。オシャレ顔のボブ・ディランというのはちょっとした衝撃だった。ところが見始めるとまったく違和感がないのはなぜだろう。みずから歌って演奏しているシャラメは、コロナなどをはさんだために練習期間がたっぷりあって、上達ぶりは半端ではない。きっちりとした脚本があって音楽シーンも充実の、見応えのある音楽映画になっている。
(NORIKO YAMASHITA)2025年2月17日 記

監督/共同脚本:ジェイムズ・マンゴールド
共同脚本:ジェイ・コックス
出演:ティモシー・シャラメ/エドワード・ノートン/エル・ファニング/モニカ・バルバロ/ボイド・ホルブルック/ダン・フォグラー/ノーバート・レオ・バッツ/スクート・マクネイリー
2024年アメリカ(140分)
原題:A COMPLETE UNKNOWN
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/acompleteunknown
©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.







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             銃の紛失をきっかけにあらわになる家族間の溝
           『聖なるイチジクの種』THE SEED OF THE SACRED FIG
       2025年2月14日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開


■要職を目前に理不尽な仕事を負わされて葛藤する一家の主と、夫の昇進を喜ぶ妻。そして親世代とはまったく考え方のちがうふたりの娘。ある事件をきかっけに反政府デモが国を揺るがすなか、主が国から貸与された護身用銃が消えて家族間の疑心暗鬼と対立が激しくなってゆく。イラン政府を批判して有罪判決を受けているというモハマド・ラスロフ監督、本作でカンヌの審査員特別賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 政府の仕事をしているイマンは昇進を果たして要職目前、だが仕事内容に愕然とする。それは反政府デモの逮捕者たちの訴状をろくに読まずに、すべて重刑送りするという役目だった。そんな夫の心の内を知らずに、出世に小躍りする妻。一方、娘ふたりと親世代の考え方の違いは歴然としていたが、街ではある女性の死をきっかけに反政府デモが激しさを増し、姉の女ともだちも巻き込まれる。そして父親が国から貸与されていた銃がなくなり娘たちにも疑いの目が向けられる。 

■ONEPOINT REVIEW■ モハマド・ラスロフという男性監督は男たちの恐ろしさを突きつけてくる。たとえば一家の主イマン。ふだんの彼はどちらかというと温厚な部類だろうが、後半一気にキレて手がつけられなくなる。体制と反体制、親世代と若者世代、そしてなにより男性と女性。埋めきれないいろいろな溝が憂鬱にさせる。
          (NORIKO YAMASHITA)2025年2月5日 記

監督/脚本:モハマド・ラスロフ
出演:ミシャク・ザラ/ソヘイラ・ゴレスターニ/マフサ・ロスタミ/セターレ・マレキ
2024年フランス=ドイツ=イラン(167分)
原題:THE SEED OF THE SACRED FIG
配給:ギャガ公式
サイト:https://gaga.ne.jp/sacredfig/
©Films Boutique








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            支え合いながら刹那に生きる血のつながらない〝兄弟〟   
       『Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり』ABANG ADIK(富都青年)
         2025年1月31日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開



■大都会のスラムで息を殺してひっそりと生きる、血のつながらない〝兄弟〟。身分証明書の発行にボランティアの女性が尽力するなか事件は起きる。身分を保証されないひとたちが数十万人いるというマレーシアの現実を描いた人間ドラマ。『ミス・アンディ』などプロデューサーとして社会派映画を送り出してきたジン・オンによる監督第一作。

■SYNOPSIS■ マレーシアの首都クアラルンプールにある活気あふれる市場の街プドゥ。その一角のスラムでひっそりと暮らすアバン(ウー・カンレン)とアディ(ジャック・タン)は、ともに親兄弟はいないが幼いころからほんとうの兄弟以上に固い絆で結ばれ、そのふたりを親代わりとなって見守るのはトランスジェンダーのマニー(タン・キムワン)だ。そしてマレーシア生まれにもかかわらずIDを発行してもらえないふたりのために、尽力を惜しまないソーシャルワーカーのジアエン(セレーヌ・リム)。だが彼女とアディのあいだにトラブルが起きる。

■ONEPOINT REVIEW■ 聾啞という障がいを抱えながらコツコツと働いて地道に生きる兄貴分のアバンと、一方、裏社会に手を染めて危なっかしい存在の弟分アディ。水と油のように性格も生き方も違うふたりだが、アバンの優しさ、そしてともに天涯孤独という境遇が、ふたりをガッチリと引き寄せ合う。しかし観客が事件の行方を見誤りそうになるのは、アバンの優しさゆえか。(NORIKO YAMASHITA) 2025年1月22日 記

監督/脚本 : ジン・オン
出演:ウー・カンレン/ジャック・タン/タン・キムワン/ セレーン・リム/エイプリル・チャン/ブロント・パララエ
2023年マレーシア=台湾(115分)
原題:ABANG ADIK(富都青年)
配給:リアリーライクフィルムズ
公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/brother
公式X:https://twitter.com/brother_movie
©2023 COPYRIGHT. ALL RIGHTS RESERVED BY MORE ENTERTAINMENT SDN BHD / ReallyLikeFilms







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         美しい海と環境問題、そして地域の社会規範を背景に描かれるある恋 
             『今日の海が何色でも』SOLIDS BY THE SEASHORE
        2025年1月17日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開



■護岸の是非を問う環境問題に揺れるタイの港町で、問題提起のインスタレーションを制作するためにやってきた女性アーティストと、画廊で働く地元女性が出会い惹かれ合うが…。愛するひとに出会いながら、道徳や宗教など社会的規範に縛られ苦しむひとりの女性を、地元タイのパティパン・ブンタリク監督が書き下ろし、スタイリッシュな映像で撮った長編第1作。

■SYNOPSIS■ マレーシアの国境に近く、さまざまな文化や宗教が混在したタイ南部の港町ソンクラー。画廊で働くシャティの家は保守的なイスラム教徒で、家同士で見合い話が進められておりシャティの気は重い。そんなある日、環境問題をテーマにした作品づくりのためにフォンという女性アーティストがやってきてシャティの心を強くとらえる。だがふたりが急接近する一方、見合い話も進められていくのだった。

■ONEPOINT REVIEW■ この愛を周囲は認めないだろうというあきらめの気持ちをシャティは持っている。と同時に、それ以上に彼女が闘っているのはおそらく自分自身ではないのか。イスラムの被り物ヒジャブを、フォンに会うときには可愛らしくアレンジする、そんなささやかな抵抗がシャンティの気持ちを象徴している。自分自身に沁みついて離れない伝統や宗教。揺れ動く気持ちを示唆するようなエンディングになっている。
(NORIKO YAMASHITA 2025)  2025年1月17日(金)公開

監督/共同脚本:パティパン・ブンタリク
共同脚本:KALIL PITSUWAN
出演:アイラダ・ピツワン/ラウィパ・スリサングアン
2023年タイ(93分)
英題:SOLIDS BY THE SEASHORE
配給:配給:Foggy
配給協力:アークエンタテインメント
公式サイト:movie.foggycinema.com/kyounoumi
公式Instagram:@foggyjapan
公式X:@foggyjp
公式Facebook:@foggyjp








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       やがて訪れるその時を、意識しながら日々生きるフランス文学の元大学教授   
                    『敵』 TEKI
            2025年1月17日(金)からテアトル新宿ほか全国公開




■妻に先立たれ、やがて自分にも訪れるその時を意識しながら、慎ましく清廉に生きるフランス文学者の元大学教授。だが季節がうつろうにつれて、愛妻家でも人格者でもなかったのかと思わせる実像が微かに見え隠れする。原作は25年前、現在90歳の筒井康隆が老境に入ったころに書いた作品。途中、敵の襲来という悪夢が全体の穏やかなトーンを切り裂く。監督は『桐島、部活やめるってよ』や『紙の月』の吉田大八。

■SYNOPSIS■ 渡辺義助77歳は20年前に妻を亡くし、長くひとり暮らし。10年ほど前に大学の教授職を辞してからは、講演会や執筆のギャラと預貯金の切り崩しで暮らしている。あと何年もつか、というシビアな計算も時々するが、食事は自分でつくり、好きな音楽を聴きながら蕎麦やひとり焼き肉を楽しみ、行きつけのバーもあって、慎ましくもある種の優雅さを実践している。そんな儀助に独り言がふえ、妄想や白昼夢を見はじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ やさしくて誠実で端正な性格のフランス文学の元教授。そんなイメージが、みずからの白昼夢なのか妄想なのか悔恨なのか…、徐々にくずれてゆく。どこまで事実なのかもわからない。しかし亡き妻がフランス旅行に連れて行ってもらえなかったと愚痴るあたりはリアルであり、儀助が彼のマドンナで教え子の靖子(瀧内公美)と、妻を前にフランス語で通じ合うあたり、残酷でもある。
(NORIKO YAMASHITA 2025)2025年1月10日 記

監督/脚本:吉田大八
原作:筒井康隆
出演:長塚京三
瀧内公美/河合優実/黒沢あすか
中島歩/カトウシンスケ/髙畑遊/二瓶鮫一
髙橋洋/唯野未歩子/戸田昌宏/松永大輔
松尾諭/松尾貴史
2025年日本(108分)
配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/teki
公式X:https://x.com/teki_movie
©1998 筒井康隆/新潮社 ©2023 TEKINOMIKATA







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           指南役となった悪名高い弁護士と、成り上がってゆく青年
         『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』THE APPRENTICE
           2025年1月17日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開  



■まだ何者でもなかった青年が、悪名高くもカリスマ性のあるひとりの弁護士と出会い変貌してゆく。ドナルド・トランプをつくったとされる男と、彼から影響を受け成り上がっていくトランプの様子を赤裸々に描いた人間ドラマ。監督は『ボーダー 二つの世界』で独特の世界観が強烈な印象を残したアリ・アッバシ。脚本はガブリエル・シャーマンのオリジナル。

■SYNOPSIS■ ニューヨーク。父親に見切られた長男に代わり不動産会社の副社長となり、家賃の取り立てなど裏仕事にも精を出す次男ドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン)。政財界の顔役が名を連ねる高級クラブの最年少会員となった20代の彼は、食事中にひとりの男から声をかけられる。訴訟で無敗を誇るも、悪徳弁護士として名を轟かせるロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)だった。ロイはドナルドの父が黒人の入居を断り訴えられているのを知っていて、だれに部屋を貸そうと自由、反訴しろとけしかける。ロイの勝利への3つのルールは①とにかく攻撃しろ②非を認めず全否定しろ③劣勢に立たされても勝利を主張し負けを認めるな!だった。

■ONEPOINT REVIEW■ ロイ・コーンの3つのルールをまとめると、とにかく保身のためには嘘をつけ、ということになる。嘘つき大統領誕生の秘話は、過去の大統領ならまだしも、現役も現役、今後4年間を託されている人物のことなのだから、よその国の話とはいえ〝虚しい〟の言葉しか出てこない。(NORIKO YAMASHITA 2025) 2025年1月6日 記

監督:アリ・アッバシ
脚本:ガブリエル・シャーマン
出演:セバスチャン・スタン/ジェレミー・ストロング/マリア・バカローヴァ/マーティン・ドノヴァン
2024年アメリカ(123分)
原題:THE APPRENTICE
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://www.trump-movie.jp/
© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.








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       エテロ48歳独身。わたしはわたしの道をゆく。けれど…人生はままならない       
              『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』
       SHASHVI SHASHVI MAQ'VALI(BLACKBIRD BLACKBIRD BLACKBERRY)
          2025年1月3日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開     



■女性向け日用雑貨の店をいとなみながらマイペースに生きる中年の独身女性が、ある日、九死に一生を得たことから何かに目覚め、これまで触れてこなかった遅咲きの青春を、周囲にはこっそりと謳歌してゆく。地元ジョージアではフェミニズムの作家として知られるというタムタ・メラシュヴィリのベストセラー小説を、エレネ・ナヴェリアニ監督が映画化。長編3作目にして本邦初登場。

■SYNOPSIS■ 雑貨店をひとりいとなむエテロ48歳独身。生まれたときに母を亡くし、兄と父も看取り、いまは天涯孤独。茶飲み友だちの女たちはみんな結婚していて、エテロに対しネチネチと憐みの言葉を放つが、自分のほうがずっと幸せと心から思っているエテロは意に介さない。そんなある日、ブラックベリーを摘んでいたときに美しい黒ツグミを見つけ、そのはずみで崖から滑り落ちそうになったエテロのなかでなにかが変わる。

■ONEPOINT REVIEW■ テラス付のちいさな家を建て、読書や英語の勉強をし、山の霧や庭の花など周りにあふれる美しいものの写真を撮るのがエテロの思い描く老後の楽しみ。ささやかだが清々しく美しい。そこに恋仲の男が彼女をさらっていこうとし、エテロを戸惑わせる。「エテロという主⼈公の中には、矛盾と革命に満ちた世界そのものがあります」と監督は言う。だれもが白馬の王子を望んでいるわけではないのだ。
         (NORIKO YAMASHITA 2025)2025年1月3日 記

監督:エレネ・ナヴェリアニ
原作:タムタ・メラシュヴィリ「Blackbird Blackbird Blackberry」
撮影:アグネス・パコズディ
出演:エカ・チャヴレイシュヴィリ/テミコ・チチナゼ
2023年ジョージア=スイス(110分)
原題:SHASHVI SHASHVI MAQ'VALI(BLACKBIRD BLACKBIRD BLACKBERRY)
配給:パンドラ
公式サイト:www.pan-dora.co.jp/blackbird
公式X:@bbb_iamme
©- 2023 - ALVA FILM PRODUCTION SARL - TAKES FILM LLC











               ロードショー ROADSHOW 2024   

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            人との出会いのなか視野を広げてゆく映画オタクの青年
          『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』I LIKE MOVIES
                  2024年12月27日(金)から
     新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ渋谷/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


■ニューヨーク大学で映画を学ぶことしか頭にない映画オタクの青年が、高額な学費をねん出するために始めたバイト先のビデオ店で、店長ら個性的なメンバーと出会い、少しずつ視野を広げてゆく青春映画。監督と脚本はこれが長編映画デビュー作で、ジャーナリスト、批評家の顔も持つチャンドラー・レヴァック。主役はラッパーでもあるというアイザイア・レティネン。

■SYNOPSIS■ カナダ・オンタリオ州のちいさな都市バーリントンで、母のテリ(クリスタ・ブリッジス)と暮らすローレンス(アイザイア・レティネン)17歳。自他ともに認める映画オタクの彼は、米ニューヨーク大に入って敬愛する映画監督トッド・ソロンズの授業を受ける、と心に決めている。だが果たして難関のニューヨーク大に入れるのか。しかも9万ドルという高額な学費が母を悩ませる。周囲のことがあまり見えないローレンスは、唯一の友と言っていいマットを怒らせ孤立するなか、学費の足しにとビデオ店でアルバイトを始める。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画オタクのローレンスだが、人との出会いのなか視野を広げ淡い恋も芽生える。その女性との会話でローレンスは、個人的なこと聞いていい?とたずねる。何を聞くかと思えば、好きな映画はなに?苦笑しながら相手は自分が大好きな映画は(ハーバート・ロスの)『マグノリアの花たち』と即答。彼が関わってこなかった分野だ。そこからさらに素敵なエンディングへとつながってゆく。        (NORIKO YAMASHITA) 2024年12月22日 記

監督/脚本:チャンドラー・レヴァック
出演:アイザイア・レティネン/ロミーナ・ドゥーゴ/クリスタ・ブリッジス/パーシー・ハインズ・ホワイト
2022年カナダ(99分)
原題:I LIKE MOVIES
配給:イーニッド・フィルム
公式サイト:https://enidfilms.jp/ilikemovies
© 2022 VHS Forever Inc.All Rights Reserved.











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            カリキュラム無視?ラディカルな先生がやって来た!
                 『型破りな教室』RADICAL
   2024年12月20日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか全国順次公開



■麻薬、窃盗、殺人…治安の悪化による子どもたちへの悪影響が懸念されるメキシコ。なかでも最低レベルの学力に沈む小学校を舞台に、赴任してきたばかりの教師が学校の用意したカリキュラムを無視し、独自のスタイルで教室に変化をもたらせてゆく様子を、実話をもとに描いた群像劇。教師役は『コーダ あいのうた』のエウヘニオ・デルベス。

■SYNOPSIS■ 父親がゴミ拾いで生計を立てている父子家庭のパロマ。そんな彼女のことが気になって仕方がないニコはもうじき学校をやめて、兄とおなじ危ない仕事の仲間入り寸前だ。そして母親が夜勤の仕事でほとんど家にいないルぺの役割は、幼いきょうだいの面倒を見ること。そんな子どもたちが学ぶ教室にフアレス先生が赴任してくる。先生は受験に必要な一方通行の勉強は無視して、子どもたちにいろんなことを問いかけてくるのだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 右に行くのか左に行くのか、上に昇れるのか下降してしまうのか。大切な分岐点でのフアレス先生との出会いが、子どもたちの才能や実力を開花させてゆく。実際の落ちこぼれ教室は平均レベル以上の学力を発揮し、パロマとして描かれた少女に至っては数学の点数で全国一になって天才を発掘されたという。まさに奇跡の教室の物語。
        (NORIKO YAMASHITA) 2024年12月17日 記

監督/脚本:クリストファー・ザラ
翻案:ジョシュア・デイヴィス
出演:エウヘニオ・デルベス/ダニエル・ハダッド
/ジェニファー・トレホ/ミア・フェルナンダ・ソリス/ダニーロ・グアルディオラ
2023年:メキシコ(125分)
原題:RADICAL
配給:アット エンタテインメント
公式サイト:https://www.katayaburiclass.com/
© Pantelion 2.0, LLC









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          はじめての選挙で起こる騒動をユーモラスにアイロニカルに…
            『お坊さまと鉄砲』THE MONK AND THE GUN
                 2024年12月13日(金)から
     ヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開



■ブータン国王が退位を表明。はじめての選挙が行われることになり、それを聞いた高僧が鉄砲を用意するよう弟子に伝える。『ブータン 山の教室』で注目されたパオ・チョニン・ドルジ監督が「民主主義」導入で起こる騒動を、ユーモラスに描いた人間ドラマ。

■SYNOPSIS■ いつもは静かな村がざわついているのは、国王が退位を表明し、はじめての選挙が行われることになったから。それに先がけての模擬選挙に向けて、小さな争いも生じはじめていた。国の変化をラジオで聞いた高僧が、弟子のタシに満月の日まで鉄砲を2丁用意するよう言いつける。しかし一体なんのために?一方、都会で通訳をしているベンジは病身の妻を置き、数日家を空けることに。じつは通訳は表向きで、銃コレクターのアメリカ人男性ロンにその売買を仲介する闇仕事だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 時は2006年、TV、インターネットにつづいて選挙権も。実際にはじめての総選挙が2008年に行われたブータンの現実とほぼ重なる。村人の多くは選挙がなにかを知らない。けれど監督は無知と純粋は違うのだという。みんな命がけで民主主義を勝ち取ってきたんですよと説くと、命をかけなかったのは必要なかったからと村人のひとりが答える。ほかの国々とは違う特殊な状況のなか民主化に至ったブータン。それを愛情をもってユーモラスに、ときにアイロニカルに描くのがこの監督流だ。
           (NORIKO YAMASHITA) 2024年12月11日 記

監督/脚本:パオ・チョニン・ドルジ
出演:タンディン・ワンチュク/ケルサン・チョジェ/タンディン・ソナム
2023年ブータン=フランス=アメリカ=台湾(112分)
原題:THE MONK AND THE GUN
配給:ザジフィルムズ/マクザム
公式サイト:https://www.maxam.jp/obousama/
公式X:@obousama_movie
© 2023 Dangphu Dingphu: A 3 Pigs Production & Journey to the East Films Ltd. All rights reserved









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       『ワンダー 君は太陽』のいじめっ子ジュリアンが主人公のアナザーストーリー    
           『ホワイトバード はじまりのワンダー』WHITE BIRD
        2024年12月6日(金)から日比谷・TOHOシネマズシャンテほか全国公開




■世界的ベストセラーで映画にもなった『ワンダー 君は太陽』の作者R.J.パラシオによるアナザーストーリーを、『ショコラ』や『オットーという男』のマーク・フォスター監督で映画化。周囲や学校になじめずに孤立する高校生の孫に、悲惨な体験のなか大戦を生き抜いた祖母が、少女時代に出会ったひとりの少年との秘められた思い出話を語り聞かせる。

■SYPNOSIS■ 前の学校でいじめ事件を起こし退学になったジュリアン(ブライス・ガイザー)は、新たな学校に転校してくるも殻に閉じこもったまま。そんな孫の様子を心配して、パリ在住の祖母サラ(ヘレン・ミレン)がニューヨークのジュリアンの家を訪れる。世界的に成功を収めている画家のサラは、メトロポリタン美術館での回顧展開催が決まり、その折にジュリアンのところに寄ったのだった。ふたりきりで食事をとりながらサラは、大戦中に起きたある悲しい出来事の封印を解き、ジュリアンに話し始める。

■ONEPOINT REVIEW■ 『ワンダー 君は太陽』で障がいのある主人公をいじめた少年、ジュリアンのスピンドラマということになる。そして祖母のサラが、彼に語り聞かせる戦中の秘話のなかに出てくる足に障がいを持った少年もまたジュリアンだ。それぞれの時代に生きるジュリアンは直接はからみ合わないけれど、時代を超えて目には見えない糸で結ばれている。ちなみに本作のジュリアンは、『ワンダー 君は太陽』のときのジュリアン役ブライス・ガイザーが成長しそのまま演じている。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年12月2日 記

監督:マーク・フォースター
脚本:マーク・ボムバック/R.J.パラシオ
出演:アリエラ・グレイザー/オーランド・シュワート/ブライス・ガイザー/ジリアン・アンダーソン/ヘレン・ミレン
2024年アメリカ(121分)
原題:WHITE BIRD
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://whitebird-movie.jp
© 2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved.







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            異なるふたつの愛のはざまで女性が出した答えは?
            『山逢いのホテルで』 LAISSEZ-MOI(LET ME GO)
     2024年11月29日(金)からシネスイッチ銀座/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


■山間のちいさな村で障がいのある息子を育てる一方、山の上のホテルでアバンチュールを楽しむ女性が本気の恋に陥り、人生の岐路に立たされる人間ドラマ。脚本と監督は元ファッション・デザイナーで、クリストフ・オノレ監督との出会いが映画界転身のきっかけとなったというスイス出身のマキシム・ラッパズ。これが長編デビュー作。複雑な役柄の主人公を演じるのは監督ご指名のジャンヌ・バリバール。

■SYNOPSIS■ 真っ白なシャツドレスに身を包み、サングラスをかけて高原に向かうひとりの女性。観光客が宿泊しているホテルに着くと顔なじみのボーイにチップを渡し、単身の男性客はだれか尋ねる。狙いが定まると男性に近づき、出る言葉は単刀直入だ。部屋に行かない?腕のいい洋服の仕立て屋として固定客を持ち、金銭的には不自由なく障害のある愛息をひとりで育てているクローディーヌ(ジャンヌ・バリバール)。そんな彼女の颯爽としたすがたを、ダムのほとりで目にしていた男性がいた、水力発電を研究しているミヒャエル(トマス・サーバッハー)だった。

■ONEPOINT REVIEW■ だれか男性がクローディーヌと同じ行動を取ったなら、すぐにナンパかと気づくが、女性だとその意味を考えてしまうのは、ひとつの偏見に違いない。だがラッパズ監督はそんな女性をごく自然に、当たり前のように描いてジェンダーの問題をさらりと乗り越えてゆく。クローディーヌが葛藤するのは世間体とかそういうことではなく、まさに自分はどうしたいかという、誰にも介入できない、だからこそいっそう難しい究極の選択だ。        (NORIKO YAMASHITA)2024年11月26日 記

監督/共同脚本:マキシム・ラッパズ
共同脚本:マリオン・ヴェルヌー/フロランス・セイヴォス 
出演:ジャンヌ・バリバール/トマス・サーバッハー/ピエール=アントワーヌ・デュベ/ヴェロニク・メルムー
2023年スイス=フランス=ベルギー(92分)
原題:LAISSEZ-MOI(LET ME GO)
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/letmego/
© GoldenEggProduction | Paraíso Production | Fox the Fox 2023 

 

 


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   うだつの上がらない税務署員が天才詐欺師と手を組み、脱税王を追いつめてゆく痛快犯罪コメディ  
        『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』 ANGRY SQUAD
           2024年11月22日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開


■脱税の悪徳実業家に苦しめられる実直で平凡な税務署員が、ひょんなことから天才詐欺師とその仲間たちと手を組み、脱税王に詐欺を仕掛けてゆく犯罪コメディ。韓国ドラマシリーズを『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督で映画版リメイク。共同脚本の岩下悠子とともにスリム化し独自の展開も盛り込んでいる。内野聖陽×岡田将生×小澤征悦をはじめ豪華共演。

■SYNOPSIS■ 10億円もの脱税疑惑がありながらなぜか見逃されてきた実業家の橘大和(小澤征悦)。見て見ぬふりをする税務署員の熊沢二郎(内野聖陽)を焚きつけたのは、正義感に燃える部下の望月さくら(川栄李奈)だった。だがさくらに促されて接触を試みるも、逆に侮辱され立場さえ危うくなる始末。そしてさらなる悲劇が彼を襲う。妻に頼まれて即金で中古車を購入したはずが詐欺に遭ってしまったのだ。しかし詐欺師、氷室マコト(岡田将生)との出会いが熊沢を未体験のステージへと誘ってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 藤沢周平ドラマ「蝉しぐれ」の牧文四郎役で鮮烈な印象を残してから20年。近年では「きのう何食べた?」のケンジ役の変身ぶりも評判を呼び、そこからの近作映画『八犬伝』ではよぼよぼの葛飾北斎に化けた内野聖陽が、今作では会社でも家庭でもうだつの上がらない税務署員を情けなーく演じている。その男が天才詐欺師と手を組んで悪人をワナにかけてゆく面白さと爽快感。それに応えて小澤征悦も思いっきり悪いヤツに成りきっている。
          (NORIKO YAMASHITA) 2024年11月18日 記

監督/共同脚本:上田慎⼀郎
共同脚本:岩下悠子
原作:「元カレは天才詐欺師 〜38師機動隊〜」©STUDIO DRAGON CORPORATION created by Han Jung-Hoon distributed by CJ ENM Co., Ltd
出演:内野聖陽/岡田将生
川栄李奈/森川葵/後藤剛範/上川周作/鈴木聖奈 /真矢ミキ
皆川猿時/神野三鈴/吹越満 / 小澤征悦
2024年日本(120分)
配給:NAKACHIKA PICTURES/JR西日本コミュニケーションズ
公式サイト:https://angrysquad.jp/
© 2024アングリースクワッド製作委員会






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           愛するひとが「新生物」になってもその愛はゆるぎないのか
          『動物界』 LE REGNE ANIMAL(THE ANIMAL KINGDOM)
                  2024年11 月8 日(金)から
   新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開






■ある日突然、人間とのハイブリッドな生き物「新生物」にひとが変異する病が世界中に蔓延。妻がその奇病にかかり災禍に巻き込まれてゆく夫と息子を、家族愛で描いたサスペンスタッチのサイエンスドラマ。監督は本邦初登場、本国フランスではすでに注目のトマ・カイエで、脚本はポリーヌ・ムニエのオリジナル脚本を今回共同で書き直している。人気俳優ロマン・デュリスが父親役、その息子を俳優イレーヌ・ジャコブの子としても注目のポール・キルシュが演じている。『アデル、ブルーは熱い色』のアデル・エグザルコプロスが捜索隊の役で共演。フランスで大ヒット。

■SYNOPSIS■ 父フランソワ(ロマン・デュリス)に反抗して病院での見舞いを拒もうとする息子のエミール(ポール・キルシェ)。見舞いの相手は隔離中の母ラナだったが、変わり果てたすがたを目の当たりにし、ふたりは愕然とする。南仏に移送されることになり、フランソワは息子と移住を決意。だが行った矢先「新生物」を乗せた乗り物が転落事故を起こし、ラナを含む大勢が行方不明になってしまう。捜索が打ち切られ、フランソワは自力で探し出すことを決意する。

■ONEPOINT REVIEW■ 愛するひとが「新生物」になってしまう戸惑いと哀しみ。揺るぎない愛、ロマンチシズム、深い闇…。スウェーデンの作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが生み出し映画にもなった『ぼくのエリ 200歳の少女』や『ボーダー 二つの世界』の、あの空気感を感じずにはいられない。妻に会いたい、でも会うのが怖いと本音を漏らす主人公を、中年の渋みを増したロマン・デュリスが好演。
          (NORIKO YAMASHITA ) 2024年11月6日 記

監督/共同脚本:トマ・カイエ
共同脚本:ポリーヌ・ムニエ
出演:ロマン・デュリス/ポール・キルシェ/アデル・エグザルコプロス/トム・メルシエ/ビリー・ブラン
2023年フランス(128分)
原題:LE REGNE ANIMAL(THE ANIMAL KINGDOM)
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://twitter.com/kino_arthouse
© 2023 NORD-OUEST FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS.







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          創作現場の江戸と、曲亭馬琴が生み出した伝奇物語の世界を結ぶ
                  『八犬伝』 HAKKENDEN
               2024年10月25日(金)から全国公開




■里見家の呪いを解くために戦うことを宿命づけられた八人の剣士たち。人気戯作作家・曲亭馬琴(=滝沢馬琴)の新作をめぐり、創作の現場である江戸と、戯作の舞台となっている過去を交差させながら、人間ドラマとファンタジーの世界を交互に描いてゆく時代劇。原作は馬琴の「南総里見八犬伝」をモチーフに再構築された山田風太郎の「八犬伝」(1983年)。馬琴とその親友、葛飾北斎を役所広司と内野聖陽が演じ、寺島しのぶ、磯村勇斗、黒木華と役者がそろった。

■SYNOPSIS■ 勧善懲悪の伝奇物語「椿説弓張月」が江戸で評判となり、大名がわざわざ家に訪れるほどの人気作家となった曲亭馬琴(役所広司)。新作の構想も生まれ、今回も挿絵は親友の絵師・葛飾北斎(内野聖陽)にと心に決めていたが、あっさりと断られてしまう。それでも北斎は馬琴の家にやってきては新作の第一稿を真っ先に読み、そのイメージを描いて馬琴に見せるのだった。もともとは武士だった馬琴は下駄屋の娘お百(寺島しのぶ)と結婚し、いまは筆一本で暮らしている。息子宗伯(磯村勇斗)を大名お抱えの医者にするのが夢で、その夢はかなうものの宗伯はやがて病に伏してしまう。

■ONEPOINT REVIEW■ 「南総里見八犬伝」の書きはじめからスタートするこの物語は、30年近くのスパンで展開される。物語の連載が長きにわたり、28年の年月を要したからだが、この間、滝沢家(馬琴)一家にも平たんではない運命が訪れる。終盤、作品の完成を待たずに筆を折ろうかというところまで追いつめられる馬琴を救うのは、宗伯の妻お路(黒木華)だ。字もまともにかけないこの女性が博学の馬琴を助けるくだりは、物語を締めくくるにふさわしい人情ばなしとなっている。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年10月22日 記

監督/脚本:曽利文彦
原作:山田風太郎『八犬伝 上・下』(角川文庫)
出演:役所広司/内野聖陽
土屋太鳳/渡邊圭/祐鈴木仁/板垣李光人
水上恒司/松岡広大/佳久 創/藤岡真威人/上杉柊平
河合優実/小木茂光/丸山智己/真飛 聖/忍成修吾/塩野瑛久/神尾 佑/ 栗山千明
中村獅童/尾上右近
磯村勇斗/大貫勇輔/立川談春/黒木華
寺島しのぶ
2024年日本(149分)
配給:キノフィルムズ
公式サイト:www.hakkenden.jp
©2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.







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           ロシアの辺境の地、キャンピングカーで旅をつづける父と娘
                 『グレース』 BLAZH(GRACE)
        2024年10月19日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



■僻地の集落で映画の野外上映会を開き、あるいは海賊版ポルノを密かに売って日々の糧を得ている父と娘。ロシア南西部の辺境の地コーカサスを、古びたキャンピングカーで旅する親子の心の機微を、ドキュメンタリー作家のポヴォロツキー監督が撮った初の劇映画。軍事侵攻の影響もあってロシア映画が世界に届きにくくなっているなか、カンヌで注目された数少ない1作。映画学校で監督術と演技を学んだルキャノヴァの初出演、初主演作。

■SYNOPSIS■ 初潮というものを迎えたようだが相談する相手もいない。少女(マリア・ルキャノヴァ)が小川からキャンピングカーにもどると中から女が出てきて、察したのか生理用品をわたして去っていった。少女と父(ジェラ・チタヴァ)は15年もこんな生活を送っている。海に行きたいとつぶやく娘。南から北に向かっているようだが行くあてはあるのか。本を売っている男から集落の情報を仕入れる父親。カフカはないの?と聞く娘。本を読むこと、ポラロイド写真を撮ること、そしておしゃれは限られた娯楽であり友だち。ある日、小さな集落に立ち寄って野外上映会を開くと、良からぬよそ者として目をつけられる。

■ONEPOINT REVIEW■ ふたりに重くのしかかっている心の傷。とりわけ重傷は父親のほうだろう。それにつき合わされて少女時代を過ごしてきた娘。海に行きたいという少女のつぶやきは何を意味する?父親がいつかは区切りをつけなくてはいけないこと、娘にとっては新たな出発になるのだろう。
(NORIKO YAMASHITA)2024年10月16日 記

監督/脚本:イリヤ・ポヴォロツキー
出演:マリア・ルキャノヴァ/ジェラ・チタヴァ  
/エルダル・サフィカノフ/クセニャ・クテポワ
2023年/ロシア(119分)
原題:BLAZH(GRACE)
配給:TWENTY FIRST CITY 
配給協力:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://grace.twentyfirstcity.com/










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        名優ふたり、マイケル・ケイン×グレンダ・ジャクソンの見納め作品
                 『2度目のはなればなれ』
              2024年10月11日(金)から全国公開




■英国からドーバー海峡を渡り、ノルマンディー上陸作戦の式典にひとり臨む90歳。そのプチ冒険と、おなじ老人施設で余生を送る妻との深い絆を、実話をもとに描いたヒューマン・ドラマ。これを最後に引退宣言をしているマイケル・ケインと、本作が遺作となったグレンダ・ジャクソン。英国のふたりの名優の、長い俳優生活を締めくくる感慨深い作品になっている。監督は『理想の結婚』や『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』のオリヴァー・パーカー。

■SYNOPSIS■ めぐまれた老人施設で優雅に余生を送る、バーニー(マイケル・ケイン)とレネ(グレンダ・ジャクソン)のおしどり夫妻。バーニーはノルマンディー上陸作戦にも加わった退役軍人で、もうじき同作戦の70周年記念式典がドーバー海峡をはさんだ対岸の国、フランスで行われようとしていた。だがなぜか参加申し込みを躊躇するバーニー。そのうちに定員オーバーになり、式典当日の早朝、愛妻レネにも告げずにバーニーは施設を抜け出し、捜索願が出される騒動へと発展していく。レネにとっては戦時につづく2度目の離ればなれだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 『アルフィー』で名を上げたマイケル・ケインと『マルキ・ド・サド……』(略してマラー・サド)や『日曜日は別れの時』などで日本のミニシアターの女王さま的存在だっただったグレンダ・ジャクソン。長い俳優生活のなかどちらもいろんな役を見せてくれたが、ここではともに90歳前後の実年齢に近い役を演じ、言い方は悪いがよぼよぼの等身大のふたりが画面のなかで生きている。動きはゆっくり、けれど英国っぽいジョークも出て、ふたりとも口は超達者だ。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年10月8日 記

監督:オリヴァー・パーカー  
出演:マイケル・ケイン/グレンダ・ジャクソン/ダニエル・ヴィタリス/ヴィクター・オシン/エリオット・ノーマン
2023年イギリス(96分)
原題:THE GREAT ESCAPER
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:https://hanarebanare.com/
© 2023 Pathe Movies. ALL RIGHTS RESERVED.








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        ブラック・サバス×ロシア正教? 修道僧を目指すカンフー野郎
   『エストニアの聖なるカンフーマスター』 NAHTAMATU VOITLUS(THE INVISIBLE FIGHT)
            2024年10月4日(金)から新宿武蔵野館ほか全国公開



■突然現れた3人組のヘビメタ・カンフーマスターに刺激され、髪を伸ばしブラック・サバスとカンフーにはまる主人公。だが次に出会った正教会の老師にさらに衝撃を受け、修道僧の道を目指し始める。純粋がゆえに感化されやすい、ソ連監視下のエストニアの青年を描いたカンフー・コメディ。『ノベンバー』が強烈な印象を残した同国出身のライナル・サルネットによる本邦公開2作目。

■SYNOPSIS■ 1970年代、ソ連占領下のエストニアで国境の警備にあたるラファエルらの前に突然、フレアパンツに身を包んだ長髪のカンフー野郎たちがブラック・サバスのメタル音楽とともに現れ、現場に緊張が走る。3人に衝撃を受け感化されたラファエルはロン毛となり、ラジカセでブラック・サバスを流しながらカンフーマスターを気取るのだった。そんなある日、車が郊外でエンストし道に迷い込むと、そこで目にしたのは人間業とも思えない超絶カンフーを操るロシア正教の修道僧たち。ラファエルはひとりの長老を師と仰ぎ、修道僧になることを心に決める。

■ONEPOINT REVIEW■ 70年代に流行ったデヴィッド・キャラダインのTVシリーズ「燃えよ!カンフー」と、キョンシーや酔拳などのお笑い系カンフー映画を足して割ったような奇想天外、摩訶不思議なアクション・コメディ―。本人はいたって真面目なのだが、コミカル&おちゃらけ感がにじみ出る主人公が、純粋ゆえに正教の聖なる部分にもはまってゆく。音楽でいうとブラック・サバスのメタル系VS宗教音楽。聖と俗、シリアスとコメディが一緒くたとなり、妙に頭から離れない。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年10月4日 記

監督/脚本:ライナル・サルネット
出演:ウルセル・ティルク/エステル・クントゥ/カレル・ポガ/インドレク・サムル
2023年エストニア=フィンランド=ラトビア=ギリシャ=日本(115 分)
原題:NAHTAMATU VOITLUS(THE INVISIBLE FIGHT)
配給:フラッグ/鈴正
© Homeless Bob Production / White Picture / Neda Film / Helsinki Filmi
公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/estonia-kungfumaster/
公式X:https://x.com/estoniakungfu











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       黒沢清監督が菅田将暉主演で描くネットの闇世界、そしてバーチャルな世界へと
                   『Cloud クラウド』
           2024年9月27日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開



■ネットでの転売を生業にしようと腰を据えはじめた男が、いつしか被害者を生み、バイオレンスの標的にされてゆくサスペンスタッチの人間ドラマ。フランスやベルギーなど海外との共同製作も多く海外での評価も定着している黒沢清監督が、今回は日本に腰を据え菅田将暉と初共働。ひと癖ある俳優陣が共演で名を連ねている。

■SYNOPSIS■ 吉井良介(菅田将暉)は町工場での仕事ぶりが優秀で、社長の滝本(荒川良々)から一目置かれる存在。だが管理職への昇進を打診されるも断り続けている。良介にとって工場の雇われ人は仮の姿。家で密かにつづけているネットでの転売が軌道に乗りはじめているのだ。工場にはなんの未練もなく、ある日唐突に辞職を申し出て滝本を当惑させる。良介には半同棲状態の恋人秋子(古川琴音)がいたが、彼女とともに広大な湖畔の一軒家に移り住み、アシスタントに地元の若者佐野(奥平大兼)を雇い、転売事業を本格化させてゆく。そんな良介の周囲で不審なことが起きはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ 安く仕入れて高値で売る転売屋。彼らは法を犯すか否かスレスレのところで勝負しており、良介も偽ブランドの転売で警察から目をつけられる。だがむしろ恐いのは合法で人を泣かせている部分かもしれない。そんな被害者と、ただ暴れたいだけの男たちがネットの闇世界で手をつなぎ良介を標的にする。さらにここに、佐野という正体不明の青年が放り込まれる。彼の正体はもはや人間ではなくゲームの中の存在ではないのか。そんなバーチャルな世界に良介も巻き込まれてゆく。
(NORIKO YAMASHITA)2024年9月25日 記

監督/脚本:黒沢清
出演:菅田将暉/古川琴音/奥平大兼/岡山天音/荒川良々/窪田正孝
配給:東京テアトル/日活
公式サイト:https://cloud-movie.com/
公式X:@cloudmovie2024
©2024「Cloud」製作委員会










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        生涯の伴侶との波乱の人生を『セルフィーヌの庭』のプロヴォ監督が描く
        『画家ボナール ピエールとマルト』BONNARD, PIERRE ET MARTHE
        2024年9月20日(金)からシネスイッチ銀座/UPLINK吉祥寺ほか全国公開




■19世紀から20世紀に筆をふるったフランス、ナビ派の画家ピエール・ボナール。生涯をともにした女性マルトとの平坦ではない私生活を描いた人間ドラマ。監督は『セラフィーヌの庭』のマルタン・プロヴォ。『セラフィーヌの庭』『ヴィオレット ある作家の肖像』でコンビを組んだマルク・アブデルヌールが共同で脚本を書いている。ボナール役はギヨーム・ブラック監督の『女っ気なし』『やさしい人』の強烈なキャラクターから一転した役づくりのヴァンサン・マケニュ、マルト役はセシル・ドゥ・フランス。

■SYNOPSIS■ 1893年、パリの狭いアパートでピエール・ボナールとマルトは画家とモデルとして出会う。その日のうちに惹かれ合うふたり。ボナールは貧乏画家かと思えばブルジョアの出身で、サロンの中心にいたミシアらパトロンもいた。生活のほぼすべてを画に捧げている彼は、制作に集中できる落ち着いた環境を見つけ、マルトと暮らすようになる。セーヌ川沿いのそこは、画家モネが睡蓮を求めてやってくるような牧歌的な場所。だが時が経つにつれ、パリで教えるボナールが家を空けるようになる。

■ONEPOINT REVIEW■ いまも美しいパリとその近郊だが、ボナールとマルトが生きた戦前のパリはもっと穏やかでちがう美しさがあったかもしれない。なにしろモネがパリからボナールの家にやってくるときは、ワイン片手に舟を漕いでくるのだから。そんな美しい田舎を顧みずに画学生にうつつを抜かすボナール。悲劇的な展開がある。
         (NORIKO YAMASHITA) 2024年9月18日 記

監督/共同脚本:マルタン・プロヴォ
共同脚本:マルク・アブデルヌール
出演:セシル・ドゥ・フランス/ヴァンサン・マケニュ/ステイシー・マーティン/アヌーク・グランベール/アンドレ・マルコン
2023年フランス(123分)
原題:BONNARD, PIERRE ET MARTHE
配給:オンリー・ハーツ
公式サイト:http://bpm.onlyhearts.co.jp/
©2023-Les Films du Kiosque-France 3 Cinéma-Umedia-VolapukAppleTypeServices






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        名指揮者との出会いのなか拓かれる移民姉妹のオーケストラ結成の夢        
           『パリのちいさなオーケストラ』 DIVERTIMENTO
   2024年9月20日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテほか全国順次公開





■パリ郊外でクラシック音楽を学ぶアルジェリア移民の姉妹。パリの名門音楽院への編入を契機に、指揮者希望に進路変更したことから起こる波紋と立ちふさがる壁。困難のなかオーケストラ結成を夢見る少女たちを描いた実話物語。監督は女性映画人のグループ「フランス映画女性サークル」を率いる『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』のマリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール。モデルとなった音楽家姉妹が全面的に協力している。

■SYNOPSIS■ クラシック音楽好きの父の影響を受け、地元パリ郊外の音楽院に通うふたご姉妹。姉のザイア(ウーヤラ・アマムラ)はヴィオラを妹のフェットゥマ(リナ・エル・アラビ)はチェロを学んでいるが、パリ市内の名門音楽院への編入が認められ、それを契機にザイアは指揮者への進路変更を決める。そんな彼女たちを待ち受けていたのは、上から目線のパリの生徒たちと、女性に指揮者は無理と決めつける音楽院の校長ら。鼻で笑われ指揮の練習授業もままならないなか、ある日、世界的に有名な指揮者チェリビダッケ(ニエル・アレストリュプ)が特別授業にやってきて事態は急転する。

■ONEPOINT REVIEW■ クラシックの名曲が楽しめる音楽映画であると同時に、弱者と強者、富める者とそうでないものをある意味マンガチックに、くっきりと描き出した娯楽作品になっている。アルジェリアからの移民である主人公姉妹を見下す金持ち御曹司たちの小憎らしさは尋常ではないが、そこに現れて生意気な小僧たちをしゅんとさせるのが、実在の名指揮者チェリビダッケだ。移民にして女性。指揮者になるには圧倒的に不利な立場の人間が、運も味方につけて門戸を拓いてゆくサクセスストーリー。
          (NORIKO YAMASHITA) 2024年9月16日 記

監督/共同脚本:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
共同脚本:クララ・ブロー
出演:ウーヤラ・アマムラ/リナ・エル・アラビ/ニエル・アレストリュプ
2022年フランス(114分)
原題:DIVERTIMENTO
配給:アット エンタテインメント
公式サイト:https://parisorchemovie.com/
© Easy Tiger / Estello Films / France 2 Cinéma








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              ノルウェーの美しい港町を背景に描かれる
           切り捨てられがちな社会のできごと、そして恋人との絆 
            『ヒューマン・ポジション』 A HUMAN POSITION
       2024年9月14日(土)から渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開






■休職中だった新聞記者の女性が、職場復帰するなかで仕事に対する新たなやり甲斐を見出し、同居中の同性パートナーとの絆も再確認してゆく静かな静かなスロームービー。ノルウェー出身のエンブレム監督の生まれ故郷、港町オーレスンを舞台に、ブルーグレーの町並みや白夜の夏の夜が絵画のように美しいのも特徴的な作品。

■SYNOPSIS■ 休職中だったアスタ(アマリエ・イプセン・ジェンセン)が久しぶりに職場復帰すると上司が静かに迎えてくれた。取材をして記事を書くのが彼女の仕事。地元新聞社の記者なのだ。ちょっと広めのアパートには子猫とパートナーのライヴ(マリア・アグマロ)が一緒に暮らしていて、ある日ライヴがこれあなたが書いたの?と聞いてきた。それは自分ではないだれかが書いた『労働法違反で難民申請者が強制送還』という記事だったが、書いた記者はすでに退職していた。その後を追ってみようとアスタは動き出す。

■ONEPOINT REVIEW■ アスタの恋人ライヴはデザイナー・チェアの修復をしているアート系の職人だが、アスタが書いた記事をいつもチェックしており、一方のアスタも修復を手伝ったり、ライヴ好みの椅子が捨てられていないか目を光らせている。職業的には接点がないのに、おたがいの仕事に興味を持ち尊敬し合っているふたり。ともに日本びいきなのか、柔道着と着物を着て過ごす姿も微笑ましい。いろんな思いやメッセージが言葉少ない78分の作品から伝わってくる。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年9月7日 記

監督/脚本:アンダース・エンブレム
出演:アマリエ・イプセン・ジェンセン/マリア・アグマロ/ラース・ハルヴォー・アンドレアセン
2022年ノルウェー(78分)
原題:A HUMAN POSITION
配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://position.crepuscule-films.com/
© Vesterhavet 2022




 

 


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              カンヌ映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞!
             河合優実主演×山中瑤子監督のフレッシュコンビ  
              『ナミビアの砂漠』  NAMIBIANOSABAKU
           2024年9月6日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開







■やさしい同棲相手に未練もなく、新しいパートナーに乗り換える主人公カナ。しかし心は満たされず、新しい関係も不安定になってゆく。言葉にならない不満と不安を抱えて生きる若い女性を描いたドラマ。主演は『あんのこと』ほか話題作が連なる売出し中の河合優実、監督は本作が長編第一作の山中瑤子。カンヌ映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞。山中監督のデビュー中編『あみこ』を見たデビュー前の河合が、自分は役者になるのでいつかキャスティング候補にと声をかけたことが今回の協働につながったという。23歳の河合と27歳の山中、注目のフレッシュなシネアストたち。

■SYNOPSIS■ 友人から元クラスメイトの自死を伝えられてもとくにどうということもないカナ(河合優実)。動揺する友を慰めようとホストクラブに誘うが、自分は気が乗らず最近仲が深まっているクリエイターのハヤシ(金子大地)と夜のデートを楽しむ。飲み過ぎたカナを優しく迎え入れて介抱するのは同棲相手のホンダ(寛一郎)だった。ある日カナはホンダに一言も告げることなく、夜逃げ同然にハヤシの家へと鞍替えする。新鮮な新生活がスタートするも、やがてハヤシのマイペースな仕事ぶりにイライラがつのりはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ 好きな監督のことをいろいろ考えてているうちにジャック・オディアール監督の『パリ13区』とショーン・ベイカー監督の『レッド・ロケット』からヒントを得て、どうしようもない主人公を魅力的に描くことへのあと押しをもらったと山中監督は言う。主人公のカナはじぶんの感性に忠実なせいか自己チューな女で、夜遊びしてきても責めずに酔いの介抱をしてくれるような優しく(しかもイケメンな)男をあっさりと捨て、新しい男へと乗り換える。しかし新しい彼ともすぐに不安定な関係となり苛立ちが爆発する。自分は心の病を抱えているのか。うっすらと悩む姿がいじらしい。 
(NORIKO YAMASHITA) 2024年9月3日 記

監督/脚本:山中瑶子 
出演:河合優実/金子大地/寛一郎
新谷ゆづみ/中島 歩/唐田えりか 渋谷采郁/澁谷麻美/倉田萌衣/伊島 空
堀部圭亮/渡辺真起子
2024年日本(137分)
配給:ハピネットファントム・スタジオ 
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会







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          ドキュメンタリー作家の代名詞フレデリック・ワイズマン監督、
             フランスの三つ星レストラン「トロワグロ」に潜入!
       『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』 MENUS-PLAISIRS LES TROISGROS
   2024年8月23日(金)からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

© 2023 3 Star LLC. All rights reserved.


■インタビューやナレーション、音楽などを一切排除した独自のスタイルを貫き、高い評価を得てきた米ボストン出身の長老ドキュメンタリー作家フレデリック・ワイズマン。『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』や『ボストン市庁』につづきまな板に乗ったのは、美食家羨望の三つ星レストラン「トロワグロ」。緑に囲まれた田園地帯のレストランとその厨房、隣接のホテル、周辺の農家やワイナリーにも潜入してトロワグロを丸裸にする。

■SYNOPSIS■ 前の店舗があった町にいまも所有するブラッスリー「ル・サントラル」で、トロワグロの3代目オーナー・シェフのミシェル・トロワグロと長男セザール(4代目)、次男レオの3人が真剣に討論を交わしている。息子ふたりが考案した新メニューに父がアドバイスをしているのだ。仏中部の町ロアンヌ駅前にあった三つ星フレンチレストラン「トロワグロ」は、2017年に近郊の田園地帯ウーシュに建てたモダンで開放的な店舗へと移転した。新店舗はホールだけではなく厨房も広々と開放的で、料理人たちが鮮やかに包丁をさばき、ホール係が手際よくテーブルを整え、すべてがテンポよく運んでゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 志しが高そうな料理人が揃ってはいるが見習いに近い者もいて、食材となる脳みその血抜きに失敗してミシェルが少しだけ声を荒げる場面がある。味つけが納得できないときもたびたび。必ずしも完ぺきではないのだ。けれど完ぺきに近い連携を見せるのが行き届いたサービス。三つ星を55年間も続けられてきたのは味はもちろんだが、おもてなしの精神が一級だからなのかも。客がなかなか料理に手をつけられないほどミシェルが話好きなのも微笑ましく、意外にもそんな下町気質が居心地のよさであり店の魅力の秘密かもしれない。  (NORIKO YAMASHITA)2024年8月20日 記

監督/製作/編集:フレデリック・ワイズマン
撮影:ジェームス・ビショップ
出演:ミッシェル・トロワグロ/セザール・トロワグロ/レオ・トロワグロ、マリー=ピエール・トロワグロ/トロワグロで働くスタッフ
2023年アメリカ(240分)
原題:MENUS-PLAISIRS LES TROISGROS
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:www.shifuku-troisgros.com
公式X:https://twitter.com/troisgros_movie





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     天才画家ダリの来店を待つ、彼の狂信的信奉者が経営するレストランと天才シェフ
       『美食家ダリのレストラン』 ESPERANDO A DALÍ(WAITING FOR DALI)
    2024年8月16日(金)から新宿武蔵野館/シネスイッチ銀座/シネ・リーブル池袋ほか全国公開

© ESPERANDO A DALI A.I.E. 2022




■独裁政権に抵抗し警察に追われる料理人兄弟が、たどり着いた港町で祖国の天才画家サルバドール・ダリの狂信的信奉者でレストラン・オーナーの男と出会い、騒動に巻き込まれてゆくお料理コメディ。有名レストラン「エル・ブリ」を追ったTVドキュメンタリー・シリーズ「エル・ブリ:夢の物語」のダビド・プジョル監督が、同レストランの天才シェフ、フェラン・アドリアをモデルに、美食家だったダリと組み合わせて描いた〝空想〟〝妄想〟ドラマ。ちなみにプジョル監督はダリのドキュメンタリーも手がけている。

■SYNOPSIS■ 1974年、スペイン・バルセロナ。フランコ将軍の独裁政権に抵抗して騒乱を起こした料理人のアルベルト(ポル・ロペス)と、シェフの腕前を持つ兄のフェルナンド(イバン・マサゲ)らは、海辺の町カダケスへとたどり着く。そこは海産物が美味しい、美食で有名な天才画家ダリの別荘がある町で、友だちのつてでダリの狂信的信者ジュールズ(ジョゼ・ガルシア)が経営するレストラン「シュルレアル」で働くことに。だがジュールズの熱烈な歓迎ぶりにも関わらず、ダリは一向に来店の気配を見せなかった。一方、前任者に代わりシェフとなったフェルナンドは調理場を磨き上げ、あっと驚くような料理をつぎつぎ発案していった。

■ONEPOINT REVIEW■ まったくのつくりごとなのに、どこかリアル感が漂うのは、プジョル監督がフェラン・アドリアとサルバドール・ダリ両者のドキュメンタリーを手がけ、ふたりのことを知りつくしているからだろうか。舞台となっているのは実際にダリの別荘があったスペイン・カタルーニャの漁村カダケス。そこの露店で供されるエビや貝類を鉄板で焼いただけの素朴な料理、これがまたフェラン・アドリアの代名詞となった泡の料理とは対照的だが食欲を誘う。
           (NORIKO YAMASHITA) 2024年8月14日 記

監督/脚本:ダビド・プジョル  
出演:ジョゼ・ガルシア/イバン・マサゲ/クララ・ポンソ/ポル・ロペス
2023年スペイン(115分)  原題:ESPERANDO A DALÍ(WAITING FOR DALI)
配給:ファインフィルムズ=コムストックグループ
公式サイト:https://dali-restaurant.com/







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大戦末期にドイツ人の難民受け入れを強制させられ、人道と国民感情のはざまに立たされるデンマーク人一家
               『ぼくの家族と祖国の戦争』 BEFORE
        2024年8月16日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/
        YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開





■ナチス・ドイツ占領下の第二次大戦末期のデンマーク。難民と化した多数のドイツ人を押し付けられた大学学長一家が、人道的心情と敵国に対する国民感情のはざまに立たされ、家族間の分断にも追い込まれてゆく人間ドラマ。監督と脚本は『バーバラと心の巨人』以来2度目の長編となる地元デンマーク出身のアンダース・ウォルター。オーディションで選ばれたラーセン少年が、右にも左にも傾きかねない不安定な子どもの役を演じている。

■SYNOPSIS■ 1945年、第二次大戦末期のデンマーク。ナチス・ドイツ占領下ながらヤコブが学長を務めるリュスリンゲ市民大学には穏やかな空気が流れていたが、敗戦濃厚なドイツ軍から難民の受け入れを強制されて一転する。200人と聞かされていた難民の数は実際には500人を超え、明け渡した体育館はたちまちカオス状態に。しかもその多くが老人と子どもで、劣悪な環境から発生した感染症ジフテリアによって死者もふえてゆく。食べ物を分け与えるヤコブの妻リス。ヤコブも薬剤探しに奔走するが周囲からは売国奴扱いされ、息子のセアンも卑劣ないじめを受ける。

■ONEPOINT REVIEW■ 一方的に侵攻してやりたい放題のナチス・ドイツに対するデンマーク市民の怒りと憎しみは、どれほどのものだったか。そこからようやく解放されようというときの話だ。妻リスの慈愛も、感染症を止めようとするヤコブの姿も誤解され、レジスタンスで一枚岩となっている人々には売国奴に映ってしまう。窮地に追い込まれる一家を最後に救うのは、両親の子どもたちに対する確固たる愛情だろうか。
               (NORIKO YAMASHITA) 2024年8月14日 記

監督/脚本:アンダース・ウォルター
出演:ピルー・アスベック/ラッセ・ピーター・ラーセン/カトリーヌ・グライス=ローゼンタール
2023年デンマーク(101分)
英題:BEFORE
配給:スターキャット
公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/bokuno/
© 2023 NORDISK FILM PRODUCTION A/S







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       ラヴェルの名曲誕生秘話とミステリアスな私生活をアンヌ・フォンテーヌ監督で描く
                 『ボレロ 永遠の旋律』 BOLERO
        2024年8月9日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

© 2023 CINÉ-@ - CINÉFRANCE STUDIOS
- F COMME FILM - SND - FRANCE 2
CINÉMA- ARTÉMIS PRODUCTIONS



■クラシック音楽の垣根を越えて世界中で愛されてきたモーリス・ラヴェル作曲のバレエ音楽「ボレロ」。その制作秘話とラヴェルのミステリアスな私生活に迫る音楽映画。監督は『夜明けの祈り』のアンヌ・フォンテーヌ。主演は10年前『黒いスーツを着た男』でアラン・ドロンの再来ともてはやされたラファエル・ペルソナ。共演はドリヤ・ティエリ、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズ、そしてアレクサンドル・タローという顔ぶれ。

■SYNOPSIS■ 若手アーティストの登竜門ローマ賞の落選をくり返す作曲家モーリス・ラヴェル(ラファエル・ペルソナ)。だがやがてその才能は認められ一目置かれる存在となる。そんなある日、バレエダンサーで振付師のイダ・ルビンシュタイン(ジャンヌ・バリバール)から、新作のための曲を書いてほしいと依頼される。既存曲の編曲でお茶を濁そうとするラヴェルだったが、米国ツアー中も一向に筆が進まず帰国。すると、曲はもうすぐ完成するとイルダが吹聴してると、友人のミシア(ドリヤ・ティリエ)から聞かされ当惑する。ミシアは富豪と結婚しているサロンの花で、ラヴェルとは微妙で不思議な関係を築いていた。ある日、家政婦のルヴロ夫人からヒントを得てついに曲が完成。しかし斬新な作品につけられたイダの振り付けは、到底ラヴェルが受け入れられるものではなかった。

■ONEPOINT REVIEW■ 音楽ファンにサプライズがふたつ。ひとつはフランスのピアニスト、アレクサンドル・タローが、ラヴェルの作品に難癖をつける小憎らしい音楽評論家ピエール・ラロを演じていること。演技者としてはミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』につづいて2度目となり、加えてここではサントラの数曲を演奏し、ラヴェルの手の役も数カ所(約20パーセントだそうだ)担っている。もうひとつは「ボレロ」誕生の舞台となった家(いまはラヴェル博物館)で撮影していること。そしてモーリス・ベジャール振り付け以前の〝初演〟ボレロを、イダを演じたジャンヌ・バリバールみずから踊るのも見どころだ。    (NORIKO YAMASHITA)2024年8月9日 記

監督/共同脚本:アンヌ・フォンテーヌ
共同脚本:クレール・バルレ/ジャック・フィエスキ
音楽:ブリュノ・クーレ
出演:ラファエル・ペルソナ/ドリヤ・ティリエ/ジャンヌ・バリバール/エマニュエル・ドゥヴォス/ヴァンサン・ペレーズ/アレクサンドル・タロー
2024年フランス(121分)  原題:BOLERO
配給:ギャガ  公式サイト:https://gaga.ne.jp/bolero






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           イタリア中に衝撃を与えた「赤い旅団」による元首相誘拐事件 
         『夜よ、こんにちは』のベロッキオ監督が視点を変えてふたたび挑む
     『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』 ESTERNO NOTTEE(EXTERIOR NIGHTE)
        2024年8月9日(金)からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開


■1978年にイタリアで実際に起きたアルド・モーロ元首相誘拐事件。2003年発表の『夜よ、こんにちは』ではテロリストの視点から描き問題提起したマルコ・ベロッキオ監督が、おなじテーマを多角的なべつの視点で描き直した340分の大作作品。時の政治家やローマ教皇、モーロの妻、モーロ自身、そしてふたたびテロリスト集団にも目を向けながら、当時の政治状況やそれぞれの心情、事件の真相に迫ってゆく。前後編の2回に分けて劇場公開。

■SYNOPSIS■ かつては共産党を激しく非難していた元イタリア首相でキリスト教民主党の党首アルド・モーロ(ファブリツィオ・ジフーニ)は、考えを変えて彼らとの連立政権を実現しようと画策していた。右派の反発や旧知のローマ法王(トニ・セルヴィッロ)からも苦言を呈されるなか連立の話はまとまってゆくが、そんな折1978年3月のある日、モーロはテロリスト集団「赤い旅団」に誘拐される。警備員ら数人の犠牲者も出た。モーロ奪還を目指し指揮を執るのは、彼を父と慕う内務大臣のコッシ―ガ(ファウスト・ルッソ・アレジ)。赤い旅団からの犯行声明が届くなか、ローマ中に包囲網を張りめぐらせ盗聴を仕掛けるが、犯人のしっぽはつかめない。裏取引はあるのかないのか。優柔不断な捜査にモーロの妻エレオノーラ(マルゲリータ・ブイ)は苛立ちを隠せなかった。

■ONEPOINT REVIEW■ イタリア国内だけでなく世界中を震撼させた有名なテロ事件だが、すでに45年前の話。事件の結末を知らなかったり忘れていると、ベロッキオ監督は関連人物の心の揺れをうまくつかってミステリーへと誘導してゆく。また『夜よ、こんにちは』同様のテロリスト集団の視点では、英雄気取りで短絡的な犯行に及ぶ男性テロリストたちに対し、古くからのメンバーでありながら中心的な活動には参加させてもらえない女性活動家の葛藤という、今日的なジェンダーがらみの問題も浮き彫りになる。           (NORIKO YAMASHITA) 2024年8月6日 記

監督/共同原案/共同脚本:マルコ・ベロッキオ 
共同原案:ジョヴァンニ・ビアンコーニ/ニコラ・ルズアルディ 
共同原案/共同脚本:ステファノ・ビセス 
共同脚本:ルドヴィカ・ランポルディ/ダヴィデ・セリーノ 
音楽:ファビオ・マッシモ・カポグロッソ 
出演:ファブリツィオ・ジフーニ/マルゲリータ・ブイ/トニ・セルヴィッロ/ファウスト・ルッソ・アレジ/ダニエーラ・マッラ
2022年イタリア(340分)  原題:ESTERNO NOTTEE(EXTERIOR NIGHTE)
配給:ザジフィルムズ
公式サイト: https://www.zaziefilms.com/yorusoto
公式X:@yorusoto2024
©2022 The Apartment – Kavac Film – Arte France. All Rights Reserved.






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           小児性愛を容認されてきた実在の作家ガブリエル・マツネフ
            窮地に追い込んだヴァネッサ・スプリンゴラの告発本
          『コンセント/同意』 LE CONSENTEMENT(CONSENT)
            2024年8月2日(金)からシネマート新宿ほか全国公開

© 2023 MOANA FILMS – WINDY PRODUCTION - PANACHE PRODUCTIONS
- LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE - FRANCE 2 CINEMA - LES FILMS DU MONSIEU

■長年、子どもたちへの性的虐待を放置されてきた小児性愛の作家、ガブリエル・マツネフ。14歳で彼と出会い翻弄された被害者ヴァネッサ・スプリンゴラが著し、地元フランスで大きな反響を呼んた告発本の映画化。監督は『マイ・エンジェル』のヴァネッサ・フィロ。主演はオーディションで選ばれたキム・イジュラン、30年後の主人公を『天使が見た夢』のエロディ・ブシェーズが演じている。

■SYNOPSIS■ 1980年代半ば。中学校に通う少女ヴァネッサ(キム・イジュラン)は母親(レティシア・カスタ)とともに出席した晩餐会で著名作家のガブリエル・マツネフ(ジャン=ポール・ルーヴ)に見つめられ困惑する。母とふたり暮らしのヴァネッサは大の文学好きだったが、マツネフの本は読んだことがなく、書店で手にしようとすると店主から君にはまだ早いと止められる。マツネフは自分の性癖を公言する小児性愛者で、少女少年たちとの行為を日記に克明に記しては文学作品として出版し、時代の寵児ともてはやされてきた。そんな彼に導かれるようにヴァネッサは、彼との関係にのめり込んでゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ フランス文壇や文化人と呼ばれるひとたちによって、知識人であり弁も立つマツネフは守られてきた。ミッテラン元大統領も擁護者のひとりだったが、マツネフは自分の身が危うくなったときに彼の名を出すという卑怯な手も使った。しかし〝高尚な文学〟の名のもとに聖域として守られ続けてきた悪行への風向きは一気に変わる。ヴァネッサ・スプリンゴラの告発本が大きな反響を呼んだのは、MeeToo運動の影響を感じずにはいられない。  (NORIKO YAMASHITA) 2024年7月31日 記

監督/脚本:ヴァネッサ・フィロ
脚本協力/原作:ヴァネッサ・スプリンゴラ「同意」(中央公論新社)
脚本協力:フランソワ・フィロ 
出演:キム・イジュラン/ジャン=ポール・ルーヴ/レティシア・カスタ/エロディ・ブシェーズ
2023年フランス=ベルギー(118分)
原題:LE CONSENTEMENT(CONSENT) 映倫:R15+
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/consent/
公式X(旧Twitter):@klockworxinfo









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  ホロコーストで家族を失ったユダヤ人の男と、なにからなにまでヒトラーにそっくりなドイツ人の隣人
           『お隣さんはヒトラー?』 MY NEIGHBOR ADOLF
       2024年7月26日(金)から新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座ほか全国公開


■家族をホロコーストで失い、南米の地にひとり寂しく生きる老人。隣接する一軒家にヒトラーそっくりの男が越してきたことから起こる騒動と、頑固な老人ふたりのやり取りをユーモラスに描いた人間ドラマ。監督はロシア生まれイスラエル育ちのレオン・プルドフスキー。スコットランド出身のデヴィッド・ヘイマンと、ドイツ人俳優ウド・キアというベテランふたりが共演。

■SYNOPSIS■ 終戦から15年経った1960年、南米コロンビア。人里離れた土地にぽつんと立つ2軒の家のひとつに住むのは、家族がナチスの殺りくに遭い、生きる気力も失せたまま暮らしているポーランド系ユダヤ人のポルスキー(デヴィッド・ヘイマン)。愛妻が愛でた黒バラの世話が唯一の生きがいだろうか。ある日、空き家となっていた隣家に真っ黒なサングラスをかけた高齢のドイツ人、ヘルマン・ヘルツォーク(ウド・キア)が越してくる。ドイツ人と聞いただけで不快なのに、あろうことか彼の猛犬が大事な黒バラをへし折る事件が。怒り心頭のポルスキーは代理人の女性をはさんで抗議するも、話はこじれて取っ組み合いの喧嘩に。と、その勢いでサングラスがずり落ちた瞬間に見えたのは、かつて本物を見たことのあるヒトラーの青い目だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 舞台はナチス残党の多くが逃亡したとされる南米。隠れナチスのひとりアドルフ・アイヒマンが拘束されて新聞をにぎわせているそんなときに、ヒトラーそっくりの男が隣人となり、ポルスキーは彼こそヒトラーだと確信する。しかしあの独裁者は自害したはず、この男はいったい何者なのか。ふたりの頑固おやじが少しずつ接近してゆく過程を名優ふたりがユーモアとペーソスで演じ、さらにミステリー的要素も加味された人間ドラマになっている。
              (NORIKO YAMASHITA) 2024年7月25日 記

監督/共同脚本:レオン・プルドフスキー 
共同脚本:ドミトリー・マリンスキー
出演:デヴィッド・ヘイマン/ウド・キア/オリヴィア・シルハヴィ
2022年イスラエル=ポーランド(96分)  原題:MY NEIGHBOR ADOLF
配給:STAR CHANNEL MOVIES  公式サイト:https://hitler-movie.com/
© 2022 All rights resrved to 2-Team Productions (2004) Ltd and Film Produkcja







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         空虚で単調な日々を淡々と生きるひとり暮らしの女性、ある日変化が…
          『スター・ウォーズ』シリーズのレイ役デイジー・リドリー主演
          『時々、私は考える』 SOMETIMES I THINK ABOUT DYING
           2024年7月26日(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開

©2023 HTBH, LLC ALL RIGHTS RESERVED.



■シュールでブラックな空想を抱きながら、単調な日々をやり過ごしているひとり暮らしの事務職の女性。ある日、中途採用の男性が職場にやって来たことから、代わり映えのしなかった日常が少しずつ動きはじめる。監督は米出身で本邦初登場の新鋭レイチェル・ランバート。そして、ハリウッド作品『スター・ウォーズ』シリーズのレイ役で名を上げた英国俳優デイジー・リドリーが主人公を演じ、プロデューサーとしても一角を担っている。

■SYNOPSIS■ 米オレゴン州、人口1万人ほどのちいさな港町アストリア。従業員10人足らずのオフィスで事務職を務めるフラン(デイジー・リドリー)の日常は規則正しく単調だ。夜の10時台にはベッドに入り、朝は簡単な食事をとって職場に向かう。人づきあいが苦手なのか同僚たちのたわいのない会話に入ることもなく、ときには超現実的な空想が現実世界と交差する。ある日、ベテラン女性職員が定年退職することになり、代わりにロバート(デイヴ・メルヘジ)という男性が中途採用されるが、フランは彼のことが気になるのだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 主人公のフランはなにがきっかけで殻に閉じこもるようになったのだろう。「SOMETIMES I THINK ABOUT DYING」の原題からわかるように心に抱えるのは闇、か。若い女性がオーナーの職場はそんな彼女の性格や生き方を丸ごと受け入れ、みんなの輪のなかに無理して入ろうとしない彼女のことを容認してくれていて、職場自体は居心地がよさそう。だが他人にはぜんぜん関心のなさそうなフランが、なぜか新たな同僚ロバートのことは気になって仕方がない。恋なのか、なんらかの共感なのか。そんな気持ちの変化によって、閉ざされていた心の扉が少しずつ開いてゆく。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年7月24日 記

監督:レイチェル・ランバート
脚本:ケヴィン・アルメント/ステファニー・アベル・ホロウィッツ/ケイティ・ライト・ミード
出演:デイジー・リドリー/デイヴ・メルヘジ/パーヴェシュ・チーナ/マルシア・デボニス
2023年アメリカ(93分)
原題:SOMETIMES I THINK ABOUT DYING
配給:樂舎  公式サイト:sometimes-movie.jp







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         イタリア・トスカーナの地中に眠る古代エトルリア人の埋葬品泥棒
           『幸福なラザロ』のアリーチェ・ロルヴァケル監督が描く
               『墓泥棒と失われた女神』 LA CHIMERA
   2024年7月19日(金)からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma
■紀元前に独自の文化を築いたエトルリア人の墓を荒らし、日銭を稼ぐ墓泥棒たち。そのひとりでお宝探しの特殊能力を持つ男の遺物をめぐる真の思いと、失われた恋人を探し求める姿を想像力豊かに描いたドラマ。監督は『幸福なラザロ』ほかで独特の感性を見せ、イタリア映画界を牽引するアリーチェ・ロルヴァケル。主役は『ゴッズ・オウン・カントリー』『帰らない日曜日』の英国俳優ジョシュ・オコナー。共演はベテランのイザベラ・ロッセリーニほか。

■SYNOPSIS■ ムショ帰りの英国人アーサー(ジョシュ・オコナー)が列車に乗って向かうのは、最愛の女性の母親フローラ(イザベラ・ロッセリーニ)が暮らす田舎町。だが愛するひとの所在はわからないままで、幻のような存在をひたすら探し求めるしかない。一方、彼の帰還を手ぐすね引いて待っていたのは墓泥棒という闇の〝仕事〟で結束する仲間たち。アーサーは地中に眠る埋葬品を探し当てる特殊能力を備えていて、彼なしではお宝さがしもままならないのだ。ある日、みんなで海岸で戯れていたときのこと、アーサーのアンテナがなにかをキャッチする。そして掘っていくとそこには世にも美しい女神像が佇んでいた。

■ONEPOINT REVIEW■ ときどき現れては消える若い女性。彼女はこの世のひとか、あるいはあの世のお方なのか。それによってエンディングの意味も大きく変わってくるように思える。アーサーは骨董品で一獲千金を狙うのではなく、考古学的な興味やその美しさに惹かれる男であり、幻みたいな女性を探しつづける男。古代の埋葬品がザックザクのイタリア・トスカーナを舞台にした、ロマンチックな男の物語だった。
                (NORIKO YAMASHITA) 2024年7月19日 記
監督/脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:ジョシュ・オコナー/イザベラ・ロッセリーニ/アルバ・ロルヴァケル/カロル・ドゥアルテ/ヴィンチェンツォ・ネモラート
2023年イタリア=フランス(131分)
原題:LA CHIMERA
配給:ビターズ・エンド  公式サイト:www.bitters.co.jp/hakadorobou
公式X:https://twitter.com/BittersEnd_inc

 

 


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    13歳の少年と36歳の女性が起こした不倫騒動「メイ・ディセンバー事件」その内面を描く     
          『メイ・ディセンバー ゆれる真実』  MAY DECEMBER
         2024年7月12日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開



■13歳の少年と36歳の女性との不倫が世間を騒がせてから20数年後、〝事件〟が映画化されることになり、いまは結婚しているふたりのもとを、主演女優が役づくりのために訪れる…。1996年にアメリカで実際にあった「メイ・ディセンバー事件」をベースに、実話から少し離れて、当事者たちの内面を描いた人間ドラマ。監督は『アイム・ノット・ゼア』『キャロル』のトッド・ヘインズ。映画業界でキャスティング・スタッフとして働き、夫とともにショート・フィルムの脚本や監督も務めてきたサミー・バーチの書下ろし脚本。ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、そして新星のチャールズ・メルトンが共演している。

■SYNOPSIS■ グレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)は親子ほども年が離れた夫婦。20数年前、結婚していた36歳のグレイシーが、まだ13歳だった少年ジョーと起こした不倫騒動は俗に言う「メイ・ディセンバー事件」として世間を騒がせたが、いまは3人の子どもたちと静かに暮らしていた。そんなふたりのもとに、ある日女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)がやってくる。〝事件〟が映画化されることになり、その役づくりのためだった。エリザベスはふたりだけでなくグレイシーの元夫や当時の弁護士にも取材し、さらには〝不倫現場〟まで訪れて役になりきってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ トッド・ヘインズ監督はサミー・バーチが書いた脚本を読んだとき、ベルイマン監督の代表作『仮面/ペルソナ』が頭に浮かんだという。その印象は大いに反映されていて、ジュリアン・ムーアとナタリー・ポートマンが重なり合うようにして正面を向いて写ったメインビジュアルは、まさにペルソナのそれだし、ペルソナでリヴ・ウルマンが演じた舞台女優の名は、ポートマン演じるドラマ女優のエリザベスとほぼ同じだった。
エリザベスが役づくりでムーア=グレイシーの内面を探るうちに、両者の意識はいっとき重なり合う。さらに彼女はジョーにも接近して彼の感情を揺さぶってゆくが、子どもだった彼が30代のいままで封印し、あるいは自分自身さえもわからなかった感情がいっきに噴き出すあたりが作品のクライマックスだろうか。ジョー役に抜擢された韓国系アメリカ人俳優チャールズ・メルトンの存在感が注目される。「メイ・ディセンバー(5月・12月)」とは、親子ほど年が離れたカップルを指すという。
               (NORIKO YAMASHITA) 2024年7月9日 記

監督:トッド・ヘインズ
脚本/共同原案:サミー・バーチ  共同原案:アレックス・メヒャニク
出演:ナタリー・ポートマン/ジュリアン・ムーア/チャールズ・メルトン/コーリー・マイケル・スミス
2023年アメリカ(117分) 映倫:R15+
原題:MAY DECEMBER
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/maydecember/
©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.

 

 


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        波乱に富んでいながらシンプルで清々しい、名もない男の生涯
                  『ある一生』 ARUISSYO
          2024年7月12日(金)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開



■1900年ごろからのオーストリア・アルプスを舞台に、養子としてもらわれてきた孤児の少年のその後の生涯を描いた人間ドラマ。ローベルト・ゼータ―ラーのベストセラー小説を『マーサの幸せレシピ』の共同プロデューサー、ウルリッヒ・リマ―が脚本化し、『アンネの日記』(2016年)のハンス・シュタイン監督で映画化した。主役のアンドレアスは、少年期、青年期、老年期を3人の俳優で演じている。

■SYNOPSIS■ 孤児となった少年アンドレアス・エッガーが養子としてもらわれてきたのはアルプスの谷間にある農場。遠縁にあたる農場主のユベール・クランツシュトッカ―は冷酷な男で少年を働き手としか見ておらず、食卓を共に囲むことさえ許さなかったが、優しい祖母が唯一の慰めとなった。骨折をするほどの仕置きを受け、重労働を課せられるなかアンドレアスは筋骨たくましい青年に成長する。ある日、祖母が亡くなり、この家にいる理由はなくなった彼は外の世界へと飛び出す。

■ONEPOINT REVIEW■ アンドレアス・エッガーの生涯は波乱に富んでいながら、逆説的だがシンプルでもある。仕事は子どものころからの使役で鍛え上げられた肉体労働ひと筋。生涯を貫く愛も迷うことなくひとつ。そんな彼の生きざまになぜこんなに感動させられるのだろう。晩年、故郷にもどったときの彼の顔には満足感からか、うっすらと笑みさえ浮かんでいる。人の数だけあるはずのさまざまな人生の一片を切り取ったこの物語が、強い力を放っている。(NORIKO YAMASHITA) 2024年7月5日 記

監督:ハンス・シュタインビッヒラー  
脚本:ウルリッヒ・リマー
原作:ローベルト・ゼーターラー「ある一生」(新潮クレスト・ブックス)
出演:シュテファン・ゴルスキー/アウグスト・ツィルナー/アンドレアス・ルスト/ユリア・フランツ・リヒター
2023年ドイツ=オーストリア(115分)
原題:EIN GANZES LEBEN(A WHOLE LIFE)
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://awholelife-movie.com/
©2023 EPO Film Wien/ TOBIS Filmproduktion München









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             さわやかな風の向こうに見える人びとの複雑な心の内  
                  『WALK UP』 WALK UP
                  2024年6月28日(金)から
ヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテ/アップリンク吉祥寺/菊川・Strangerほか全国順次公開



■小さなビルを舞台に、オーナーの女性と旧知の映画監督、その娘、そこで出会った女性らによる人間関係、恋模様をユーモラスにアイロニカルに描いたホン・サンス監督最新作。映画監督を演じるのは〝冬ソナ〟以来日本でもおなじみ、ホン・サンス作品にもたびたび登場するクォン・ヘヒョ。女性陣もサンス作品の常連が並んでいる。

■SYNOPSIS■ 有名な映画監督ビョンス(クォン・ヘヒョ)が娘のジョンス(パク・ミソ)と訪れたのは、知人でインテリアデザイナーとして成功しているキム・へオク(イ・ヘヨン)所有の白い小さな4階建ビル。インテリア業界に入りたいと望む娘のために、弟子入りできないかと頼みに来たのだ。ビョンスの来訪を歓迎するへオクは上機嫌でビルを案内して見せる。1Fがレストラン、2Fが料理教室、3Fが賃貸住宅、4Fがアトリエ、地下が彼女の作業場になっていて、すっかり気に入った様子の監督にへオクは、まもなく部屋が空くのでぜひ住んでください、監督なら半額でいいですよと誘う。少し時が流れへオクのビルを再訪したビョンスはレストランのオーナーシェフ、ソニ(ソン・ソンミ)を紹介され3人で飲むことに。ソニはビョンスの大ファンだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 今回の舞台はシンプルモダンな小さな白いビル。オープニングからホン・サンスらしいさわやかな風が白黒画面を流れ、余計なものはそぎ落とした語り口も変わらない。がしかし、破綻している親子関係や猫を被る娘、くせ者のインテリアデザイナーなど人びとの心の内はかなり複雑で、おどろくのは映画監督の本性というか素姓と言ったら語弊があるのかもしれないが(こいつ、じつは気取ってたのか的な)、それが垣間見られる終盤。そして巧妙な時間空間の扱いにも不意打ちを食わせられる。          (NORIKO YAMASHITA) 2024年6月27日 記

監督/脚本/音楽:ホン・サンス 
出演:クォン・ヘヒョ/イ・ヘヨン/ソン・ソンミ/チョ・ユニ/パク・ミソ/シン・ソクホ
2022年韓国(97分)  英題:WALK UP
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/hongsangsoo/
© 2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED.








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         恋人をナチスに殺され復讐をくり返す男の前にひとりの女性が現れて…
                 『フィリップ』  FILIP
    2024年6月21日(金)から新宿武蔵野館/シネスイッチ銀座/アップリンク吉祥寺ほか全国公開

©TELEWIZJA POLSKA S.A.
AKSON STUDIO SP.



■幸せの絶頂のさなかに恋人をナチスに殺され、抜け殻のようになったポーランド系ユダヤ人男性フィリップ。復讐をくり返す彼の前に、ひとりのドイツ人女性が現れて心をとらえる。原作はポーランド人作家レオポルド・ティルマンドが書いた発禁処分の自伝的小説。監督は『カティンの森』や『残像』などアンジェイ・ワイダ監督作品をプロデュースしてきたミハウ・クフィェチンスキ。

■SYNOPSIS■ 1941年、ポーランド・ワルシャワ。フィリップ(エリック・クルム)はダンスのお披露目の舞台で、突然乱入してきたナチスの兵士たちに恋人サラと親族を殺される。2年後、ドイツ・フランクフルトの高級ホテルに、フランス人と偽りウェイターとして働くフィリップがいた。肉体を鍛え上げた彼は、戦場に行っている上級軍人の妻たちを誘惑しては屈折した復讐をくり返していたが、遊び半分で声をかけた若いドイツ人女性リザ(カロリーネ・ハルティヒ)に心惹かれてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ セクシーな肉体を武器に、ナチスの妻たちをつぎつぎ誘惑しては復讐をくり返すフィリップは、ある日出会った若いドイツ人女性に心をうばわれてゆく。そもそも彼がつづけてきた復讐は、志というより自暴自棄の果ての行いだったのか。それとも敵味方関係なく愛の力は強大ということか。フィリップの身辺で悲劇がさらに重なり、捨て身となったこの男は大胆な行動に出て、サスペンス的吸引力で終盤を迎える。(NORIKO YAMASHITA) 2024年6月20日 記

監督/共同脚本:ミハウ・クフィェチンスキ
共同脚本:ミハル・マテキエヴィチ
原作:レオポルド・ティルマンド「Filip」
出演:エリック・クルム・ジュニア/ヴィクトール・ムーテレ/カロリーネ・ハルティヒ/ゾーイ・シュトラウプ/ジョゼフ・アルタムーラ/トム・ファン・ケセル/ガブリエル・ラープ/ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ/サンドラ・ドルジマルスカ/ハンナ・スレジンスカ/マテウシュ・ジェジニチャク/フィリップ・ギンシュ
2022年ポーランド(124分)   原題:FILIP  配給:彩プロ
公式サイト:https://filip.ayapro.ne.jp/






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         ひとりの若い女性の壮絶な人生。実話をもとに描いた再生と挫折
                 『あんのこと』 ANNOKOTO
      2024年6月7日(金)から新宿武蔵野館/丸の内TOEI/池袋シネマ・ロサほか全国公開



■学校にも通わず十代のころから生活のため母親に売春を強いられ、挙句の果てにクスリにも手を染めた若い女性。その壮絶な生きざまと再生、挫折を描いた人間ドラマ。『SR サイタマノラッパー』で注目されて以来多彩な作品を送り出してきた入江悠監督が、ちいさな新聞記事に引きつけられ自ら脚本を書いて映画化した。主演は2021年ブルーリボン賞新人賞受賞の河合優実、癖のある刑事役に佐藤二朗、そして記者役に稲垣吾郎。

■SYNOPSIS■ 買春の客も売春の自分も覚醒剤で朦朧とするなか、あんは警察に逮捕されて多々羅(佐藤二朗)という刑事の取り調べを受ける。多々羅は得体の知れない男だったが、彼にすすめられるままに薬物更生の自助グループに出入りするようになり、そこで桐野(稲垣吾郎)という記者とも言葉を交わすようになる。ふたりともあんのことを気遣ってくれているように見えた。小学校もろくに通っていないあんにとって〝ふつう〟の就職は困難。しかし多々羅はあんが希望する介護の仕事を探してきてくれた。だが母と祖母と暮らす団地に久しぶりに帰ってみても、母親の虐待は相変わらずだった。

■ONEPOINT REVIEW■ ゴミ屋敷と化した部屋で足の悪い祖母(広岡由里子)が一日中テレビを見ている。あんが介護職を希望したのは、自分のことをかばってくれる祖母の面倒を見たいから。一方娘への虐待がやまない母親の春海(河井青葉)は、不思議なことに娘のことをママと呼ぶ。彼女もまた親の愛情を得られないまま親になってしまった人間なのか。負の連鎖はいったいどこから始まっているのか。あんの痛ましい人生の背後にいくつもの同類の人生が垣間見られる。
                 (NORIKO YAMASHITA) 2024年6月6日 記

監督/脚本:入江悠
出演:河合優実/佐藤二朗/稲垣吾郎
河井青葉/広岡由里子/早見あかり
2024年日本(114分)
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://annokoto.jp/  ©2023『あんのこと』製作委員会







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     コミュ力ゼロでひととの暮らしが大の苦手の女性。ある日、姉の娘と同居することになり…    
                 『違国日記』  IKOKUNIKKI
                 2024年6月7日(金)から全国公開


■絶縁状態にあった姉夫婦が急死し、そのひとり娘を勢いで引きとることになったひと見知りでひととの暮らしが大の苦手の女性。手探りの同居生活のなか、不器用に築かれてゆくふたりの絆を描いた人間ドラマ。ヤマシタトモコ原作のコミックを脚本化し実写映画化したのは、東京藝大大学院映像研究科修了の新鋭、瀬田なつき。ぶっきらぼうな叔母を新垣結衣が、その姪で明るく人懐っこい少女をテレビドラマやCMで売出し中の早瀬憩が演じている。

■SYNOPSIS■ 中学の卒業式を間近に控えたある日、両親が目の前で交通事故に遭い、朝(早瀬憩)は突然みなしごになってしまう。通夜の席、親戚をたらい回しかと、親類たちの心無いひそひそ話が飛び交うなか、わたしが引き取ると名乗りを上げたのは、朝の母親の妹で、姉とは相容れず絶縁状態にあった槙生(新垣結衣)だった。ひととのコミュニケーションもひとと暮らすのも死ぬほど苦手な槇生は、親友と呼べる人間はいるものの、ほぼ一日家に閉じこもりで書き物の仕事をしているそんなひと。槇生の家にやって来た朝は、まず部屋の乱雑ぶりに驚くのだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 姉とはすべてが正反対で受け入れることができなかった槇生。だからと言ってその娘とも相性が悪いとは限らない。この子は妹が知らなかった姉のいい面をたくさん受けついでいるかもしれない。また朝が槇生の存在を知りながらとくに悪印象を持っていないのは、彼女の母が自分の妹の悪口を娘に言っていなかった証拠ではないか。槇生自身、未知の世界に一歩踏み出したことにより、みずから囲っていた殻がひとつ割れたようにも見える。 (NORIKO YAMASHITA) 2024年6月5日 記

監督/脚本:瀬田なつき
原作:ヤマシタトモコ「違国日記」(祥伝社FEEL COMICS)
出演:新垣結衣/早瀬憩
夏帆/小宮山莉渚/中村優子/伊礼姫奈/滝澤エリカ/染谷将太/銀粉蝶/瀬戸康史
2024年日本(139分)
配給:東京テアトル/ショウゲート
公式サイト:ikoku-movie.com
Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会







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         わたくしたちは何者なのでしょうか。 生と死のあいだを彷徨う魂たち
            『わたくしどもは。』  WATAKUSHIDOMOWA
          2024年5月31日(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開


■ある日、見知らぬ島でめざめ、そのまま島で暮らすようになる若い女性。金山として栄えた佐渡島を舞台に、生と死のはざまでさまよう者たちの魂を幻想的に描いた人間ドラマ。プロデューサーでパートナーの畠中美奈とともに、二人三脚で生み出した富名哲也監督の長編2作目。佐渡島に眠るさまざまな遺構でのロケが独特の雰囲気を醸し出している。小松菜奈と松田龍平のダブル主演。

■SYNOPSIS■ かつて金山として栄えた佐渡島。島の施設で清掃の仕事をするキイ(大竹しのぶ)は建物内で倒れていた若い女性(小松菜奈)を発見して家につれ帰る。家にはふたりの小さな子どももいて、女性はミドリと名づけられキイとおなじように島で清掃員として働くようになる。ある日猫の鳴き声に導かれるように入った建物で、ミドリはアオ(松田龍平)と出会うが、彼もまたミドリと同じように過去の記憶がなく、ふたりは寺の山門で待ち合わせてはおなじ時を過ごすようになる。

■ONEPOINT REVIEW■ 「生まれ変わったら、今度こそ一緒になろうね」。そう言って身を投げたように見えた男女。しかしあれは現実だったのか、それとも夢の世界だったのか。富名監督の脚本はループの糸口が見当たらず幻想的なだけではなくミステリアスで、観ているものを惑わせる。映画の起点となったという佐渡金山にひっそりと眠る鉱山労働者「無宿人」の墓。彷徨えるそれら魂の向こうには、かならずだれにでも訪れる死があって、その魂に捧げられているようにも見える。
                (NORIKO YAMASHITA) 2024年5月28日 記

監督/脚本:富名哲也
企画/プロデュース/キャスティング:畠中美奈  音楽:野田洋次郎
出演:小松菜奈/松田龍平
片岡千之助/石橋静河/内田也哉子/森山開次/辰巳満次郎 / 田中泯
大竹しのぶ
2024年日本(101分)
配給:テツヤトミナフィルム  配給協力:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://watakushidomowa.com/
©2023 テツヤトミナフィルム





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     『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督が、再開発をめぐる行政と移民たちとの軋轢を描く
             『バティモン5 望まれざる者』  BÂTIMENT 5
     2024年5月24日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開





■老朽化とスラム化が著しい団地の一掃をはかる行政と、不満が募る住民たち。市長が急死しクリーンなイメージの男性が臨時市長となるが、職務を遂行するうちに強硬な態度をとるようになり、住民たちとの軋轢が激しくなってゆく。同じパリ郊外の少年たちと警察の攻防をアグレッシヴに描き注目された『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督による長編2作目で、群像劇として書きおろされている。タイトルの「バティモン5」は、郊外のモンフェルメイユで育った監督がじっさいに暮らしていた建物の名前だという。

■SYNOPSIS■ 移民が多く暮らすパリ郊外。老朽化したアパート爆破のデモンストレーションのさなかに市長が急死し、小児科医でもある若き政治家ピエールが臨時市長となる。一方、バティモン5の住人で移民たちのケアにあたっているアフリカ系フランス人女性アビーは、副市長から協働を持ちかけられるも行政に不信感を抱いており、容易には応じない。そのアビーが何かと頼りにしている友人ブラズが理不尽な目に遭い収監。背後には臨時市長による強硬策があった。移民と行政との関係が日々悪化してゆくなか、ある日トラブルが起きる。

■ONEPOINT REVIEW■ 数十年前の開発時にはさぞかし美しかったであろうモダンな建物群。けれどいまや外観だけでなく内部もボロボロ。高層にもかかわらずエレベーターは止まったままで、壁はいたずら書きだらけだ。もはや取り壊ししか手の施しようのない状況に追い込まれるなか事故が起こり、それがきっかけでひとりの青年の怒りが爆発してしまう。そして怒りの先がごくふつうの小市民なのがまた切ない。
               (NORIKO YAMASHITA)  2024年5月23日 記

監督/脚本:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ/アレクシス・マネンティ/アリストート・ルインドゥラ/スティーヴ・ティアンチュー/オレリア・プティ/ジャンヌ・バリバール
2023年フランス=ベルギー(105分)  原題︓BÂTIMENT 5
配給:STAR CHANNEL MOVIES  公式サイト:block5-movie.com
© SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE –2023









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       アウシュヴィッツ強制収容所となりの邸宅で暮らす、所長一家の優雅な生活
             『関心領域』  THE ZONE OF INTEREST
    2024年5 月24 日(金)から新宿ピカデリー/日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
■牧歌的な田舎暮らしに憧れるナチス将校の妻が、数年かけてつくりあげた庭。陽光がふりそそぎ、子どもたちが歓声を上げて駆けまわるその庭の向こうには、塀一枚で隔てられたアウシュヴィッツ強制収容所が広がる。視点を180度変えて描いた異色のホロコースト作品。マーティン・エイミスの原作を『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のイギリス人監督ジョナサン・グレイザーで映画化。収容所所長役を『ヒトラー暗殺、13分の誤算』のクリスティアン・フリーデルが、その妻役を『落下の解剖学』のザンドラ・ヒュラーが演じている。第76 回カンヌ国際映画祭でパルムドールに次ぐグランプリ受賞。

■SYNOPSIS■ ドイツ東方の占領国ポーランドにつくられたユダヤ人を抹殺するための強制収容所。その目と鼻の先に塀ひとつで区切られて立つ瀟洒な邸宅には、収容所所長のルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻へートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)、そして子どもたちがなに不自由なく健やかに暮らしている。妻のへ―ㇳヴィヒは庭づくりに余念がなく、塀をツタでおおって〝向こう側〟を完全に見えなくするつもり、と遠くから遊びに来ている母親に説明する。ところがある日、夫ルドルフの栄転が決まり、ここを引き払うと妻に告げる。

■ONEPOINT REVIEW■ ユダヤ人虐殺で悪名高い実在の戦争犯罪人、ルドルフ・ヘス一家を描いた物語だが、虐殺シーンのたぐいはなく、ホームドラマのように描かれてゆく。しかし収容所と地続きという立地を考えれば、へ―ㇳヴィヒが鏡の前でポーズをとって羽織ってみるファーコートやそのポケットから取り出して唇にさす口紅が、虐待したユダヤ人からの戦利品であることがわかりぞっとさせる。ホロコースト映画をさんざん見てきたからこそわかるこの作品の恐ろしさ。
               (NORIKO YAMASHITA) 2024年5月22日 記

監督/脚本:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス
出演:クリスティアン・フリーデル/ザンドラ・ヒュラー
2023年アメリカ=イギリス=ポーランド(105分)
原題:THE ZONE OF INTEREST
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/







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      生徒を守ろうと起こした行動が思わぬ波紋を呼び、窮地に追い込まれる新任教師
       『ありふれた教室』  DAS LEHRERZIMMER(THE TEACHER'S LOUNGE)
   2024年5月17日(金)から新宿武蔵野館/シネスイッチ銀座/シネ・リーブル池袋ほか全国公開


©ifProductions_JudithKaufmann
©BorisLaewen(上)
©ifProductions_JudithKaufmann(中と下)

■盗みの疑いをかけられた生徒を守ろうと起こした行動が誤解を招き、信頼を得ていたはずの子どもたちからも糾弾されて窮地に追い込まれてゆく新任教師を、サスペンスタッチで描いた人間ドラマ。主演はミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』などに出演してきたレオニー・ベネシュ。脚本は長編4作目にして劇場公開本邦デビューとなるイルケル・チャタク監督のオリジナルで、ドイツ映画賞5部門(作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞)受賞をはじめ、アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートなど多数の映画祭でも注目。

■SYNOPSIS■ 中学校教師のカーラ・ノヴァク(レオニー・ベネシュ)は赴任してきて日が浅いが、同僚や生徒たちからの信頼を得ていて新学期からは1年生のクラスを受け持っている。彼女自身ポーランド系ドイツ人であるように生徒たちの人種は多様で、学力もバラバラ。それでもうまくいっている一因は、彼女が分け隔てなく接しているからだが、そんな一見平和そうな学校に盗難事件が頻発し暗雲が立ち込める。カーラのクラスの生徒に疑いがかけられ、「不寛容方式」の教育を掲げる校長らは、あろうことかほかの生徒に「密告」を強要するような態度に出る。生徒の潔白を信じるカーラは真相を突き止めようとある行動に出るが、それが思わぬ波紋を広げてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 「不寛容方式」を掲げる学校は大金を持っていた生徒を疑い、あるいはほかの生徒たちに密告を迫ったりする。校長らのそんな態度を見て頭にカーっと血が上ったカーラ先生は正義感がひとり歩きし、客観的に見ればこれまた人権問題になりかねない行動をとってしまうのだが、そのことに気づいてもあとの祭り。大ごととなり収拾がつかなくなってゆくなか、ひと筋の光が差し込むようなエンディングが観客のざわついた心を鎮めてくれる。

監督/共同脚本:イルケル・チャタク
共同脚本:ヨハネス・ドゥンカー
出演:レオニー・ベネシュ/レオナルト・シュテットニッシュ/エーファ・レーバウ/ミヒャエル・クラマー/ラファエル・シュタホヴィアク
2022年ドイツ(99分)
原題:DAS LEHRERZIMMER(THE TEACHER'S LOUNGE)
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://arifureta-kyositsu.com/
© if… Productions/ZDF/arte MMXXII







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    バカンスで知り合った陽気な夫婦の正体とは!  独特の美意識と感性がただよう北欧ホラー
                 『胸騒ぎ』 SPEAK NO EVIL
           2024年5月10日(金)から新宿シネマカリテほか全国公開


■デンマーク人の夫婦と幼い娘一家。イタリア休暇中に出会ったオランダ人夫婦と意気投合し、招待されるままに人里離れた一軒家で過ごすのだが…。独特の音楽的スタイル、視覚的美意識が見られる北欧ホラー。スザンネ・ビア監督の『アフター・ウェディング』などに出演してきた俳優にして、監督としてはこれが長編3作目になるクリスチャン・タフドルップの本邦初登場監督作。

■SYNOPSIS■ 幼い娘をつれて訪れたイタリアでのバカンス中にデンマーク人夫婦のビャアンとルイーセは、医師だというパトリックとその妻カリンのオランダ人夫婦と出会い、同じ年ごろの子どもを持つ同世代として、またパトリックの陽気でざっくばらんな性格にも惹きつけられて意気投合する。やがて日常に戻ったある日、パトリック夫妻から遊びに来ませんかという招待状が届く。週末の短期間、断る理由もなく訪れたそこは人里離れた一軒家で、着いたその日から不愉快なことがつぎつぎと起こる。

■ONEPOINT REVIEW■ 不愉快なことや不気味なことがあってもじっと耐えるデンマーク人夫妻。これは実際にタフドルップ監督の身に起きたことがベースにあって、じっと耐える自分自身を揶揄しているようにも見えるが、それが強調されてやがてホラー・サスペンスとなってゆく。そして怖いことがまだ起こっていないのに恐怖心を誘う音楽、さらに美的センスいっぱいのラストシーン。独特の感性がただよう。
                 (NORIKO YAMASHITA) 2024年5月6日 記

監督/共同脚本:クリスチャン・タフドルップ  
共同脚本:マッズ・タフドルップ
出演:モルテン・ブリアン/スィセル・スィーム・コク/フェジャ・ファン・フェット、カリーナ・スムルダース
2022年デンマーク=オランダ(97分)
英題:SPEAK MO EVIL  映倫:PG-12
配給:シンカ 
公式サイト:sundae-films.com/muna-sawagi   
© 2021 Profile Pictures & OAK Motion Pictures







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 『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督と音楽の石橋英子がふたたび手を組みヴェネチア映画祭で受賞
            『悪は存在しない』 AKUWASONZAISHINAI
                 2024年4月26日(金)から 
    Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下/下北沢・シモキタ-エキマエ-シネマK2ほか全国順次公開

© 2023 NEOPA/Fictive

■高原の田舎町にひとり娘と暮らす男性。ある日、グランピング場をつくる計画がもち上がり、町民たちは動揺し説明会は紛糾する。映画では開発者対住民という対立構図からしだいに視点を移し、デベロッパー側の社員の心情も浮き彫りにしてゆく。カンヌ国際映画祭脚本賞受賞の『ドライブ・マイ・カー』で濱口竜介監督と協働したミュージシャン石橋英子との共同企画で、今回も石橋が音楽を担当。ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリを受賞。

■SYNOPSIS■ 長野の自然豊かな町に代々暮らす巧(大美賀均)は、ひとり娘の花(西川玲)とふたり暮らし。都会から移住してくる人たちに生活や仕事のアドバイスをしながら、薪を割り小川の湧水を汲み、慎ましやかだが自然に溶け込んだ暮らしを実践している。玉にキズは下校する娘の迎えをしょっちゅう忘れること。ある日、いまはやりのグランピング場の建設がもち上がり、東京からふたりの社員がやってくる。芸能事務所によるコロナ禍で得た補助金を使っての計画だった。ずさんさが露呈して説明会は紛糾、もの別れに終わる。一方、巧の迎えを待ちきれずひとり下校した花が行方不明になる。

■ONEPOINT REVIEW■ デベロッパーVS住民の対立というシンプルな構造ではなかった。開発の担当責任者として派遣され、住民たちのつるし上げ寸前になる社員ふたりもまた、仕事や生き方にゆきづまりを感じている。さらに主人公の巧も地に足の着いた生活を送っているよう見えて、じつは心ここに在らずなのではないか。それが幻想的なエンディングにつながっていくように見える。
                (NORIKO YAMASHITA) 2024年4月20日 記

監督/脚本/共同企画:濱口竜介
音楽/共同企画:石橋英子
出演:大美賀均/西川玲
小坂竜士/渋谷采郁/菊池葉月/三浦博之/鳥井雄人
山村崇子/長尾卓磨/宮田佳典  田村泰二郎
2023年日本(106分)  配給:Incline  配給協力:コピアポア・フィルム
公式サイト:https://aku.incline.life/






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        ママと暮らしたいそれだけ…でも少女の暴走はだれにも止められない!
       『システム・クラッシャー』 SYSTEMSPRENGER(SYSTEM CRASHER)
      2024年4月27日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

© 2019 kineo Filmproduktion Peter
Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF

■ふとしたことですぐに切れてしまい、あらゆる施設を転々とする少女。その暴力はだれにも止められず、ママのいる家に帰りたいというささやかな願いもかなわない。〝システム・クラッシャー(組織破壊)〟の幼い少女と彼女をケアする周囲の切ない思いを、切れ味鋭く描いた人間ドラマ。ノラ・フィングシャイト監督が5年におよぶリサーチ等を経て書いたオリジナル脚本で、長編映画デビューにしてベルリン国際映画祭銀熊賞ほかを受賞した注目作。

■SYNOPSIS■ ブロンドヘアの可愛らしいベニー(ヘレナ・ツェンゲル)は、キャンディが似合う一見ごくふつうの9歳の少女。けれどちょっとしたことで切れやすく、いったん怒りに火がつくとそのすさまじい破壊力はだれの手にも負えない問題児だ。シングルマザーのビアンカ(リザ・ハーグマイスター)から行政の手にわたり、里親やグループホーム、特別支援学校とさまざまな手を講じてきたがいずれも失敗。社会福祉課のバファネ(ガブリエラ=マリア・シュマイデ)は懸命に受け入れ先を探すものの、いまは閉鎖病棟、精神病院、アフリカでの集中体験プログラムといった〝最終手段〟を話し合う段階まできている。そんなとき、通学付添人のミヒャ(アルブレヒト・シュッフ)が、暴力に走る少年たちと向き合ってきた過去の経験から、水も電気もない森で3週間、1対1で対峙してみたいと提案する。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画の舞台となっているドイツは、明らかに福祉行政が日本に比べて手厚そうだ。それだけに最終手段に慎重になるというジレンマもある。9歳の小さな子どもを閉鎖病棟や精神病院のような隔離施設に入れていいのか。ではどうするのか。行きどまりを行ったり来たり、思考がぐるぐる巡り着地点が見えないなか、フィングシャイト監督はとてもパンクなエンディングを用意した。ニーナ・シモンの歌「A'int Got No/I Got Life」とともに。(NORIKO YAMASHITA) 2024年4月19日 記

監督/脚本:ノラ・フィングシャイト
出演:ヘレナ・ツェンゲル/アルブレヒト・シュッフ/リザ・ハーグマイスター/ガブリエラ=マリア・シュマイデ
2019年ドイツ(125分)  原題:SYSTEMSPRENGER(SYSTEM CRASHER)
配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:http://crasher.crepuscule-films.com






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      クリーチャー・デザイナーが生み出し、まわりが引いた得体の知れない〝もの〟とは!
                  『マンティコア 怪物』
       2024年4月19日(金)からシネマート新宿/渋谷シネクイントほか全国順次公開



■隣人の少年を火災から救い出して以来、たびたびパニック障害を起こすゲームデザイナーの青年。その原因は?そして彼が密かにデッサンしてつくりあげた〝もの〟とは。ひとが抱えるアンモラルな心の闇に迫った人間ドラマ。『マジカル・ガール』のスペインの気鋭カルロス・ベルムト監督によるオリジナル脚本。

■SYNOPSIS■ ゲームデザイナーとして在宅で仕事をしている青年フリアン(ナチョ・サンチェス)は、隣の部屋の少年を火災から救い出し、ことなきを得るがパニック障害を起こすようになり、クラブで出会った女性と気分転換を図るもうまくいかない。そんなある日、美術史を学んでいるボーイッシュな女性ディアナ(ゾーイ・ステイン)と知り合い意気投合する。ディアナは脳卒中で倒れた父親を自宅で介護しているが苦にしていない様子。行動をともにするうちに親密になってゆくふたりだったが、フリアンが急に引っ越しディアナは戸惑いを隠せない。フリアンに会社から呼び出しがかかる。

■ONEPOINT REVIEW■ 朝井リョウ原作の『正欲』では「水」に大きく反応するひとたちが描かれていて、テーマは似ている。性癖という言葉を使うなら、主人公フリアンは〝ふつう〟と違う性癖が彼を苦しめていて、多様性が浸透してきたこの時代にでさえなお、周囲のだれもが引いてしまうほどの彼のセクシャリティと創造物とは何なのか。本作には文章で言う「行間」が方々にあり、観るものの想像力をかき立ててくれる。
              (NORIKO YAMASHITA) 2024年4月12日 記


監督/脚本:カルロス・ベルムト 
出演:ナチョ・サンチェス/ゾーイ・ステイン/アルバロ・サンス・ロドリゲス/アイツィべル・ガルメンディア
2022年スペイン=エストニア(116分)
原題:MANTICORE  映倫:PG12
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:www.bitters.co.jp/manticore/
© Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE








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         山田太一原作の『異人たちの夏』を大きく翻案した海外リメイク作品
               『異人たち』 ALL OF US STRANGERS
    2024年4月19日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテ/渋谷シネクイントほか全国公開

Ⓒ2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.


■幼いころに両親を失い、喪失感を抱えたままおとなになった男性。ある日、訪れたふるさとの町で若き日の両親と出会い交流するようになる。一方、高層マンションに暮らす彼はそこに住むひとりの青年と知り合い親しくなってゆく。『異人たちの夏』として大林宣彦監督で映画化された山田太一の原作を、『さざなみ』や『荒野にて』のイギリスの監督アンドリュー・ヘイがみずから脚本を書いて映画化。まったく違ったテイストの作品としてよみがえらせている。

■SYNOPSIS■ ロンドンのタワーマンションに単身で暮らすアダム(アンドリュー・スコット)は40代の脚本家。両親を12歳のときに交通事故でなくして以来、孤独な日々を送っているが、ある日、同じマンションに住むハリー(ポール・メスカル)と名乗る見知らぬ青年がウィスキーを抱え一緒に飲もうと誘いに来る。戸惑いやんわりと断るアダム。彼が目下取り組んでいるのは両親との思い出を織り込んだ作品だが一向に筆が進まない。そんななか子ども時代を過ごした郊外の町を訪れ、そこで出会ったひとりの男性に導かれるままについてゆくと彼は父親(ジェイミー・ベル)で、懐かしい家にはむかしのままの母(クレア・フォイ)も暮らしていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 両親(幽霊)との〝蜜月〟と並行して描かれる恋愛が男女から男×男へと変えらたことにより、セクシャリティというテーマをはらむ作品に生まれ変わっている。加えて新旧、米日作品のテイストがまったく異なるのは、もとよりスタッフ、キャストの持ち味の違いが大きく、大林宣彦が大いに泣かせる作品をつくったのに対し、アンドリュー・ヒル版はシリアス感が濃厚。昨年冬に亡くなった原作の山田太一が観ていたなら、リメイク版にどんな感想を抱いただろうか。
             (NORIKO YAMASHITA) 2024年4月10日 記

監督/脚本:アンドリュー・ヘイ
原作:山田太一「異人たちとの夏」(新潮文庫)
出演:アンドリュー・スコット/ポール・メスカル/ジェイミー・ベル/クレア・フォイ
2023年イギリス=アメリカ(105分)   映倫:R15+
原題:ALL OF US STRANGERS  配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers






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               『パスト ライブス/再会』 PAST LIVES
          2024年4月5日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 



■おなじ小学校に通い初恋の相手として想いを寄せあう少女と少年。家庭の都合で離ればなれとなり別々の人生を生きるも、24年後にニューヨークで再会する。自伝的ラブストーリーをセリーヌ・ソン自身が描いた監督第一作。アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞など海外映画祭でも評判となった米=韓合作作品。

■SYNOPSIS■ 韓国ソウルの小学校に通う少女ナヨンと少年へソン12歳。ふたりは成績を競いあう良きライバルであり大親友、そしてなにより初恋の相手だったが、ナヨンがカナダに移住することになりふたりの絆は切断される。12年後、親元を離れてニューヨークに移住したナヨンは作家としてスタートし、一方のへソンは大学卒業後に兵役を経て就職する。へソンがSNSを駆使してナヨンを探し出したことからふたりはオンラインで奇跡的に再会。さらに12年後、久々にナヨンとコンタクトをとったへソンは彼女が結婚しているのを知りながらニューヨーク行きを決断する。

■ONEPOINT REVIEW■ ニューヨークにひとり渡り、作家仲間の米国人と結婚し、アメリカで活動するために必要なグリーンカードも取得するナヨン。その日常はおそらく濃厚で緊張感もあって、韓国からロマンチックに想いを寄せるへソンの気持ちとは若干温度差があったかもしれない。だが実際に再会してその差は一気に縮まる。平静を装いながらもふたりの再会を恐れていただろう米国人夫の気持ちも痛いほど伝わる。いろんな切ないが伝わってくるラブストーリーの秀作。
               (NORIKO YAMASHITA) 2024年4月1日 記

監督/脚本:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー/ユ・テオ/ジョン・マガロ
2023年アメリカ=韓国(106分)  原題:PAST LIVES
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/pastlives
公式X:@pastlives_jp
© Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved







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              『ゴッドランド/GODLAND』  GODLAND
      2024年3月30日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



■19世紀後半、植民地アイスランドの辺境の地に教会を建てるという使命を負った若きデンマーク人牧師が、写真機材を馬に乗せ、撮影をしながら過酷な旅をつづける人間ドラマ。監督はアイスランド出身で、映画祭をのぞいては本邦初登場のフリーヌル・パルマソン。第96回アカデミー賞国際長編映画賞アイスランド代表作。

■SYNOPSIS■ 通訳の男と荷物を運ぶ人夫数人とともに牧師ルーカスが船でたどり着いたのは、教会を建てる目的地から遠く離れたアイスランドの浜辺。あえて遠回りのルートを選んだのは異国の風景を写真機に収めながら旅をしようという意図があったからで、それゆえいっそう過酷な旅となる。しかも現地ガイドとして待ち受けていたのは、デンマーク人に対して敵意丸出しの不愛想な老人で、重要な荷物である大きな十字架さえも足手まといと暴言を吐くような男だった。ある日、過酷な旅が頂点に達する。

■ONEPOINT REVIEW■ 過酷な旅が頂点に達したその先に、もうひとつの物語が始まる。待ち受けるのはふたりの姉妹とその父親。アイスランドを象徴するような氷だけの世界から一転して色どりが加わり、観るほうもなにかホッとする。しかし物語としての展開を見せながらやはり全体を貫くのは、デンマークに支配されたアイスランド人の鬱屈とした感情だろう。  
             (NORIKO YAMASHITA) 2024年3月19日 記

監督/脚本:フリーヌル・パルマソン 
撮影監督:マリア・フォン・ハウスヴォルフ
出演:エリオット・クロセット・ホーヴ/イングヴァール・E・シーグルズソン/ヴィクトリア・カルメン・ゾンネ/ヤコブ・ローマン
2022年デンマーク=アイスランド=フランス=スウェーデン(143分)
原題:VANSKABTE LAND(VOLADA LAND)GODLAND
配給:セテラ・インターナショナル
© 2023 ASSEMBLE DIGITAL LTD. ALL RIGHTS RESERVED.






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         『12日の殺人』  LA NUIT DU 12(THE NIGHT OF THE 12TH)
     2024年3月15日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開


© 2022 - Haut et Court - Versus Production
- Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma


ある夜、帰宅途中の若い女性がガソリンをかけられうえに火をつけられて焼殺される。捜査チームが結成され容疑者が次々浮かび上がるも、決定打には至らない。実際に起きた未解決事件を、ポリーヌ・ゲナの原作をもとに映画化したのは、『ハリー、見知らぬ友人』などミステリー作品を得意とするベテランのドミニク・モル監督。長年コンビを組んできたジル・マルシャンと今回も共同で脚本を書いている。地元フランスのセザール賞で6冠受賞。

■SYNOPSIS■ 2016年10月12日の夜、友人の家でのパーティーの帰り道、21歳の女性クララは何者かにとつぜんガソリンをかけられて火をつけられ、翌朝その焼死体が道端で発見される。所轄のグルノーブル署では定年にともなう班長の引継ぎが行われたばかりで、新しい班長ヨアン(バスティアン・ブイヨン)のもと捜査チームが立ち上げられる。女性が所持していたスマホから身元が割れ、聞き込みがつづけられるうちに被害者の奔放な男性関係が明らかになってゆくが、親友のステファニーはガードがゆるかったクララにまるで非があるかのような捜査に、「彼女が殺されたのは女の子だったからよ」と反発する。

■ONEPOINT REVIEW■ 原題の「12日の夜」と邦題の「12日の殺人」を合わせた、12日の夜に起きた殺人の話だ。実際にフランスで未解決となっている女性殺人事件を、寡黙でストイックな刑事を主人公に描いている。警察というとむかしもいまも男の世界。捜査を進めるなかでそこにある種の偏見は生まれないのか。終盤新たに加わる女性刑事が言う言葉「男が殺して男が取り締まる不思議」、がこの物語のひとつの方向性を示している。  (NORIKO YAMASHITA)  2024年3月11日 記

監督/共同脚本:ドミニク・モル
共同脚本:ジル・マルシャン
原案:ポリーヌ・ゲナ「18.3. Une année passée à la PJ」
出演:バスティアン・ブイヨン/ブーリ・ランネール/テオ・チョルビ /ヨハン・ディオネ /ティヴー・エヴェラー/ポーリーヌ・セリエ/ルーラ・コットン・フラピエ
2022年フランス(114分)  原題:LA NUIT DU 12(THE NIGHT OF THE 12TH)
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://12th-movie.com/






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                  『水平線』  SUIHEISEN
        2024年3月1日(金)からテアトル新宿/UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開



■震災で妻を失くし散骨業を営む男とその娘。持ち込まれた遺骨が訳ありだったことから周囲の冷たい視線を浴び、娘との関係もギクシャクとしてくる。俳優の小林且弥による長編監督第一作で、脚本家で監督でもある斉藤孝の書き下ろしオリジナル。主役をピエール瀧が演じている。

■SYNOPSIS■ 福島の港町。黙々と骨を砕き、遠くまで船を出して小さな包みをまく散骨業の男、井口真吾(ピエール瀧)。かつては猟師だったが、いまは散骨のほかにビニールハウスで小規模な菜園を維持しながら、水産加工場で働く娘の奈生(栗林藍希)と暮らしている。妻はあの震災の津波で失った、というか行方知れずのままいまに至っている。ある日、ひとりの若い男が遺骨をもってあらわれる。どこか訳ありに見えた。

■ONEPOINT REVIEW■ 漁師から罵声を浴びる真吾。漁師という仕事柄、散骨を嫌うのは当然にも見えるが、風当たりが強いのはそれだけではなさそう。だが彼をかばう老漁師もいる。考え方や立場は違っても、同じ痛みを抱える同胞でもあるのだ。娘との関係にしても、負担はかけまいと自由に生きろとけしかけるが、娘にしてみれば突き放されたように感じてしまう。そんなひとりひとりの心の機微を、小林且弥監督と脚本の斉藤孝はやさしく丁寧に描き、ピエール瀧の佇まいもさすが。
               (NORIKO YAMASHITA) 2024年2月17日 記

監督:小林且弥  脚本:齋藤孝
出演:ピエール瀧
栗林藍希/足立智充/内田慈 
押田岳/円井わん/高橋良輔/清水優/遊屋慎太郎
大方斐紗子/大堀こういち 渡辺哲
2024年日本(119分)
配給:マジックアワー  公式サイト:https://studio-nayura.com/suiheisen/
© 2023 STUDIO NAYURA








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      『落下の解剖学』  ANATOMIE D'UNE CHUTE(ANATOMY OF A FALL)
        
2024年2月23日(金・祝)からTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開


© 2023 L.F.P. – Les Films Pelléas /
Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

■山荘で暮らす家族を襲ったアクシデント。落下し死亡した夫は、事故死だったのか他殺だったのかあるいは自殺だったのか。夫婦仲を疑われるなか人気作家の妻が被疑者として浮上し、世間をさわがせる裁判にまで発展してゆく。ジュスティーヌ・トリエ監督の長編4作目で、2023年のカンヌ映画祭最高賞パルムドールを受賞。ことしのアカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門でノミネートされている(3月11日発表)。主演は『ありがとう、トニ・エルドマン』のドイツ人俳優ザンドラ・ヒュラー。

■SYNOPSIS■ フランスの雪深い山の上にぽつんと立つ大きな山荘。夫、息子と暮らす作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)はこの日、学生からインタビューを受けていた。ところが取材がはじまるやいなや、階上から大音量の音楽が鳴りひびき鳴りやまない。またの機会にしましょうと学生を帰らせるサンドラ。教師職の夫のサミュエル(サミュエル・タイス)は息子の勉強を見ながら家で執筆していたが、山荘を改装して宿にするという目標もあり、みずからリフォーム中だった。一方、視覚障害のある息子のダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は、愛犬のスヌープと雪が積もった自然のなかを慣れた様子で散歩中。家にもどると雪が血で染まり父が倒れていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 夫婦の関係が崩壊してゆく様子を描きたい、それが出発点だったと監督は言う。おたがい自由な関係からスタートした夫婦に見える。だが妻は人気作家として成功し、夫のほうはと言えば構想ばかりで先に進まない、小説も山小屋も…。これが男性×男性、女性×女性のカップルだったらどうだったのだろうか。あるいは才能が開花するのが男性のほうだったなら。事件の真相とともに横たわる人間関係の深さが映画をさらに面白くしている。 (NORIKO YAMASHITA) 2024年2月10日 記

監督/共同脚本:ジュスティーヌ・トリエ  
共同脚本:アルチュール・アラリ
出演:ザンドラ・ヒュラー/スワン・アルロー/ミロ・マシャド・グラネール/アントワーヌ・レナルツ/サミュエル・タイス
2023年フランス(152分) 
原題:ANATOMIE D'UNE CHUTE(ANATOMY OF A FALL)
配給:ギャガ 
公式サイト:gaga.ne.jp/anatomy






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               『ファイアバード』  FIREBIRD
            2024年2月9日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開            


●公開にあわせてぺーテル・レバネ監督、 主演のトム・プライヤー、共演のオレグ・ザゴロドニーの来日が決定! 初日舞台あいさつを行う予定。

■1970年代後半、ソ連占領下のエストニアの空軍基地を舞台に、役者志望の二等兵とパイロット将校の禁断の恋を描いたラブストーリー。原作者セルゲイ・フェティソワの実話物語で脚本づくりにも参加したが、完成前に急逝した。監督はエストニア出身で英オックスフォード大や米ハーバード大、カリフォルニア大などで学んだのちに、ミュージックビデオなどを制作してきたぺーテル・レバネ。

■SYNOPSIS■ 1977年、ソ連領エストニア。兵役終了まであとわずかの二等兵セルゲイ(トム・プライヤー)は、実家に戻って家業を継ぐかモスクワに出て役者になるか、進路で迷っていた。そんなある日、ロマン(オレグ・ザゴロドニー)というパイロット将校が転属してきて、彼を見たセルゲイは一瞬で心を奪われる。しかし心を奪われたのはセルゲイだけではなく、仲のいい同僚女性のルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)は積極的にロマンにアプローチするが、ロマンの心をとらえたのはセルゲイのほうだった。ある日こっそりとセルゲイをストラヴィンスキー作曲のバレエ「火の鳥」に誘い出すロマン。ふたりは徐々に距離を縮めてゆくも密告するものがあらわれる。

■ONEPOINT REVIEW■ トム・プライヤーとオレグ・ザゴロドニーという美男×美男を主役に据えた絵に描いたようなラブストーリーは、原作者の実話物語だった。みずから原作をレバネ監督のもとに持ち込み、脚本の段階で参加もしているが、2017年に急逝して完成を目にすることはなかった。映画自体悲恋物語ではあるけれど、かつての『モーリス』や『アナザー・カントリー』のときの女性たちのざわめきを彷彿とさせるような、そんな作品になっている。 (NORIKO YAMASHITA) 2024年1月31日 記

監督/共同脚本:ペーテル・レバネ  共同脚本:トム・プライヤー 
原作/共同脚本:セルゲイ・フェティソフ 
出演:トム・プライヤー/オレグ・ザゴロドニー/ダイアナ・ポザルスカヤ
2021年エストニア=イギリス(107分)
原題:FIREBIRD  配給:リアリーライクフィルムズ 
公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/firebird

© FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms







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         『瞳をとじて』 CERRAR LOS OJOS(CLOSE YOUR EYES)
      2024年2月9日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開         


■撮影中に主演俳優が失踪し迷宮入りとなった事件を、20余年後にTV番組が追跡。その映画の監督で俳優の親友でもあった男が証言者として番組に呼ばれ、ともに過ごした青春時代や自身の過去を振り返るなかで事件に迫るミステリータッチのヒューマンドラマ。『ミツバチのささやき』(1973年)のスペインの名匠ヴィクトリア・エリセ監督が『マルメロの陽光』以来31年ぶりに発表した長編映画。

■SYNOPSIS■ 俳優フリオ・アレナスの失踪事件から22年経ったある日、元映画監督でいまは海辺の町で隠遁者のように暮らすミゲルは、未解決事件を追うTV番組に出演するため都会におもむく。フリオとミゲルは水兵としてともに青春時代を送った仲で、映画業界に入ってからも恋敵となったりかかわりは深かった。恋多き男フリオは酒におぼれることもあった。いろいろと回想しゆかりのひとに会ってゆくなか、番組を見たひとから情報が寄せられる。

■ONEPOINT REVIEW■ 「悲しみの王」と名づけられた重厚な屋敷から始まる。そこを訪れた男は屋敷の主から、生き別れとなり中国にいる娘を探してほしいと依頼される。さては中国が舞台、と思えばそうではなく、20数年後に場面は変わり劇中劇だったことが判明する。失踪した主演俳優をめぐるミステリアスな物語だった。その転換はみごとで一気に引きこまれる。『ミツバチのささやき』で知られた当時の子役、アナ・トレントがフリオの娘役で登場し、エリセ監督と50年ぶりの長編映画共働。 
                (NORIKO YAMASHITA) 2024年1月30日 記

監督/共同脚本:ヴィクトル・エリセ  共同脚本:ミシェル・ガスタンビデ
出演:マノロ・ソロ/ホセ・コロナド/アナ・トレント
2023年スペイン(169分)  原題:CERRAR LOS OJOS(CLOSE YOUR EYES)
配給:ギャガ  公式サイト:https://gaga.ne.jp/close-your-eyes/
© 2023 La Mirada del Adios A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.






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           『ダム・マネー ウォール街を狙え!』  DUMB MONEY
          2024年2月2日(金)からTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
          


© 2023, BBP Antisocial, LLC.
All rights reserved.

■ひとりの男の呼びかけが、米金融界を牛耳るウォール街を震撼させることになった「ボロ株」値上がり騒動。コロナ禍に実際に起こり裁判沙汰にまで発展した事件の顛末を描いたエンタメタッチの社会派ドラマ。映画『ソーシャル・ネットワーク』などの原作者ベン・メズリックのノンフィクションを、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピー監督で映画化。

■SYNOPSIS■ 米マサチューセッツ州。保険会社で金融アナリストとして働くサラリーマンのキース・ギル(ポール・ダノ)にはもうひとつの顔があった。退社後「ローリング・キティ」と名乗り株式投資の動画を配信しているのだ。目下の推し株は、ゲームソフトを実店舗で売る会社「ゲームストップ」株で、投資家のあいだでは「ボロ株」と言われていたが、この株を推す確固たる自信がキースにはあって、全財産の5万3000ドルを自ら投資し妻のキャロライン(シャイリーン・ウッドリー)も優しく見守っていた。ゲームストップ株不振の一因には大手ヘッジファンドによる株価操作があったが、その意に反して株価は徐々に上昇。株式市場に異変が起きる。

■ONEPOINT REVIEW■ キースが煽り、彼のフォロワーであるふつうのひとたちが個人投資家となってゲームストップ株が買われてゆく背景には、手数料なしで株が買えるアプリ「ロビンフッド」の登場がある。しかしこの新興会社はいったいなにで儲けを出しているのか。彼らが決して庶民の味方ではなかったことが騒動のさなか明らかになってゆく。魑魅魍魎とした株式の世界。そんななかキースらの一発逆転劇は果たして実を結ぶのか。どう決着がつくのかという面白さもある。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年1月19日 記

監督:クレイグ・ギレスピー
脚本:ローレン・シューカー・ブラム/レベッカ・アンジェロ
原作:ベン・メズリック
出演:ポール・ダノ/ピート・デヴィッドソン/ヴィンセント・ドノフリオ/アメリカ・フェレーラ/ニック・オファーマン/アンソニー・ラモス/セバスチャン・スタン/シャイリーン・ウッドリー /セス・ローゲン
2023年アメリカ(105 分)  原題:DUMB MONEY
配給:キノフィルムズ  公式サイト:dumbmoney.jp






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              『哀れなるものたち』 POOR THINGS 
    2024年1月19日(金)から TOHOシネマズ日本橋/TOHOシネマズ日比谷ほか先行上映
    2024年1月26日(金)から TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開



■とある科学者にひろわれたひとりの女性の命が、再生されあらたな命へと生まれ変わる。SFチックな発想をベースに、壮大な物語へと展開してゆく人間ドラマ。アラスター・グレイの同名小説を、ギリシャ出身で『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモスで映画化。

■SYNOPSIS■ 橋の欄干から身を投げるひとりの女性。この世から失せたかと思われたがある男に拾われ、あたらしい命が誕生する。男は大学で教える科学者のゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)。生まれ変わった少女ベラ(エマ・ストーン)をわが子のように可愛がりながら観察し、教え子のマックス・マッキャンドレス(ラミ―・ユセフ)を助手として招き入れる。ベラに惹かれてゆくマックス。バクスターもいつまでも彼女を手元に置きたいと望むが、自我が芽生えはじめたベラは「世界を自分の目で見たい」と、怪しげな弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)とともに旅に出る。

■ONEPOINT REVIEW■ ドラマチックな導入部から一転、自由奔放に育った発展途上のベラの姿へと移り、さらにアイデンティティに目覚め、性にも目覚めて少女からおとなの女性になってゆくベラへと移ってゆく。その展開は壮大で観客は大海の中に放り込まれ泳がされるが、終盤になりふと女性が身を投げた導入部を思い出す。ひとりの女性のアドベンチャー物語であるとともに復讐劇であり、そしてジェンダーが大いにからんだお話だった。 (NORIKO YAMASHITA)

監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:トニー・マクナマラ
原作:アラスター・グレイ「哀れなるものたち」(早川書房)
出演:エマ・ストーン/マーク・ラファロ/ウィレム・デフォー/ラミー・ユセフ/ジェロッド・カーマイケル/クリストファー・アボット
2023年イギリス(142分)  原題:POOR THINGS
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.






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               『ミツバチと私』 20,000 SPECIES OF BEES
    2024年1月5日(金) から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開


■夏のバカンスを故郷で過ごす母と子どもたち。男の子として生まれた末っ子アイトールは女の子として生きたいと思っているがかなわず、心を閉ざしがち。そんなデリケートな心を持つ幼い子と、彼をとりまく親族たちを描いた人間ドラマ。アイトールを演じたソフィア・オテロは初演技の本作でベルリン映画祭最優秀主演俳優賞を受賞。長編第一作のエスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督も同映画祭銀熊賞受賞。

■SYNOPSIS■ 仕事だという夫を残し、あわただしくバカンスに出る妻のアネと子どもたち。向かうは隣接する故郷だが、とつぜんの帰省にも優しく受け入れる母や叔母たち。古くからさまざまな文化をはぐくんできたバスク地方。叔母が営む養蜂もそのひとつで、彼女はミツバチの針を使った伝統的な蜂針療法の診療も行っていた。そしてアネの亡き父親は有名な彫刻家で、彼女自身もかつては同じ道を目指していた。そんな彼女の子育ての悩みは、末っ子アイトールがココ(坊やの意味)と呼ばれるのを嫌がり、女の子になりたがっていることだった。 

■ONEPOINT REVIEW■ 故郷スペインのバスク地方に隣接するフランス領バスク地方のバイヨンヌで暮らす一家は、夫を残して妻と子どもたちだけで夏のバカンスのために帰省する。中心で描かれるのは末っ子アイトールの、女の子として生きたいジェンダー問題だがそれだけではない。もともとは彫刻家を目指していたアイトールの母アネは人生の岐路で生き方を見つめ直すことになり、またスペインとフランスに分断されているバスク地方の民族的アイデンティティという問題も背後に横たわっている。幅広い意味でのアイデンティティをソラグレン監督は複合的に描いている。 
(NORIKO YAMASHITA)

監督/脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン 
出演:ソフィア・オテロ/パトリシア・ロペス・アルナイス/アネ・ガバライン
2023年スペイン(128分)  英題:20,000 SPECIES OF BEES
配給:アンプラグド  公式サイト:https://unpfilm.com/bees_andme/
© 2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS ESPECIES DE ABEJAS AIE








               ロードショー ROADSHOW 2023   

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               『PERFECT DAYS』 PERFECT DAYS
        2023年12月22日(金) から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開


■公共トイレの清掃員として働き、規則正しい日々を黙々と生きるひとり住まいの中年男性。『ベルリン天使の詩』のドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督が、東京渋谷と下町押上周辺を舞台に撮った人間ドラマ。主役の役所広司が第76回カンヌ国際映画祭男優賞を受賞。実際に展開されてきたTOKYO TOILETプレジェクトとの連携作品。

■SYNOPSIS■ 日が昇るまえに起床し、仕事着のつなぎを着て自前の軽バンで仕事場に向かう平山(役所広司)は、渋谷の方々につくられた特徴あるトイレの清掃員。黙々と仕事をこなす寡黙な平山とは対照的にチャラい後輩、タカシ(柄本時生)が話しかけても返事はない。ある日仕事からアパートに戻ってくると女子高生がひとり外階段に座り待っていた。家出してきた姪のニコ(中野有紗)だった。

■ONEPOINT REVIEW■アパートに家財らしきものはほとんどなく、粗末な箪笥と薄っぺらな布団が一組あるくらい。友人や親族とのつき合いもないが、平山の一日はけっこう充実している。仕事から戻ると銭湯でひと汗流し、なじみの居酒屋で一杯。フィルムカメラに収めた木々のゆらめきを写真店で現像焼き付けしてもらうのも楽しみのひとつだ。そしてミニバンの中では好みの音楽がカセットテープで流される。アニマルズ、ヴァン・モリソン、パティ・スミス、ルー・リード、ニーナ・シモン…。ルー・リードの「パーフェクト・デイ」をヴェンダース監督は『アランフェスの麗しき日々』(2016年)でも使っており、姪の名前ニコもヴェルヴェット・アンダーグラウンドつながりか。古本屋で幸田文を買い、夜はフォークナーを読みながら眠りに落ちる。恐らく訳ありの過去を持ちながらいまはシンプルな日々を送る平山という男を、役所広司は品よく美しく演じている。  (NORIKO YAMASHITA)

監督/共同脚本:ヴィム・ヴェンダース
共同脚本:高崎卓馬  製作:柳井康治
出演:役所広司/柄本時生/中野有紗/アオイヤマダ/麻生祐未/石川さゆり/田中泯/三浦友和
2023日本(124分)
配給:ビターズ・エンド  公式サイト:https://perfectdays-movie.jp/
ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.






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    『きっと、それは愛じゃない』 WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT?
 2023年12月15日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開


■異文化であるパキスタンからの移民が多い英国ロンドン周辺を舞台に、家が隣同士の幼なじみふたり、英国人の白人女性とパキスタン系の男性の恋の行方を追ったラブコメディ。監督は『エリザベス』(1998年)のパキスタン系ベテラン監督シェカール・カプール。脚本はパキスタンの前首相イムラン・カーンと結婚歴のある英国出身のジェミマ・カーン。ふたりの出自経歴が生かされた作品になっていて、主役は『ダウントンアビー』(TV)や『シンデレラ』(2015年)のリリー・ジェームズ。

■SYNOPSIS■ 隣人家で次男の結婚パーティーがあり、新進のドキュメンタリー監督ゾーイ(リリー・ジェームズ)は久しぶりに同家の長男で幼なじみのカズ(シャザド・ラティフ)と再会する。おたがい独身同士のふたり、すぐに打ち解けて雑談するなか、ぼくも結婚するんだと告げられてゾーイは驚くが、相手はまだいなくてお見合いすると言われ、いまどきなんでとさらに仰天する。一方ゾーイは、次回作の打ち合わせをプロデューサーとしているとき話の流れからとっさに、「パキスタン出身の両親を持つ幼なじみが、親が選んだ赤の他人と結婚するまでを追いたい」と提案する。

■ONEPOINT REVIEW■ 王道ラブコメディ。たぶんこうなるだろうなと想像させながらも、あれれ?と思わせる紆余曲折があり、なかなか着地点が見えてこない。脚本のジェミマ・カーンによると、ロマンスに対するアプローチが東西でどう違うかを探究することが出発点だったという。人と人が誓いを立てて生涯をともにする結婚という儀式。恋愛の延長とシンプルに考えるひともいれば、家族同士のつながりを考え、その背後にある生活様式や宗教などでがんじがらめになるパターンもあるだろう。そんな軽くはないテーマを背景にコミカルに描いてゆく。(NORIKO YAMASHITA)

監督:シェカール・カプール
脚本:ジェミマ・カーン
出演:リリー・ジェームズ/シャザド・ラティフ/シャバナ・アズミ/エマ・トンプソン/サジャル・アリー
2022年イギリス(109分)
原題:WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT?
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://wl-movie.jp/
© 2022 STUDIOCANAL SAS. ALL RIGHTS RESERVED. 






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  『ポトフ 美食家と料理人』 LA PASSION DE DODIN BOUFFANT(THE TASTE OF THINGS)
                2023年12月15日(金)から
    Bunkamuraル・シネマ渋⾕宮下/シネスイッチ銀座/新宿武蔵野館ほか全国順次公開
       


■19世紀後半のフランス。当代髄一の美食家の男性と、彼が生み出した料理の数々を調理し具現化してゆく女性。食に打ち込み人生を捧げるふたりの同志的友情と愛を描いた人間ドラマ。ガストロノミー(美食学)の代名詞的存在で「美味礼賛」の著者、ブリア=サヴァランをモデルにしたとされるマルセル・ルーフ作「美食家ドダン・ブーファンの生涯と情熱」をベースに、『青いパパイアの香り』のトラン・アン・ユン監督が映画化。第76回カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞している。

■SYNOPSIS■ 1885年のある日。広々とした土間の調理場でテキパキと指示を出すドダン(ブノワ・マジメル)と、指示に従い黙々と調理するウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)。ふたりはお互い尊敬し合い、20年間阿吽の呼吸で至福の料理を生み出してきた仲。この日はドダンの美食仲間4人を招いての午餐会。大切な日なのだ。そんなドダンのもとにユーラシア皇太子から晩餐会の招待状が舞い込む。それは3部構成8時間にも及ぶ食事会で驚嘆させるものではあったが、ドダンは考え込んでしまう。そしてお返しに皇太子を招待するにあたり、フランスの家庭料理でシンプル極まりない「ポトフ」が彼の頭に上る。

■ONEPOINT REVIEW■ 美食映画はいくつもあるが、ひとを幸せにする至福の料理という点で、35年前の名作『バベットの晩餐会』をふと思い出させる。しかし料理シーンをみっちり見せる一方で、ドダンとウージェニーの関係も丁寧に描かれ、じつにバランスよく進んでゆく。そしてある出来事が起きどう展開するのか。最初のころから登場する絶対味覚を持つ少女が重要な役回りで関わってゆく。(NORIKO YAMASHITA)

監督/脚本︓トラン・アン・ユン
出演︓ジュリエット・ビノシュ/ブノワ・マジメル
料理監修/出演︓ピエール・ガニェール
2023年フランス(136分)
原題︓LA PASSION DE DODIN BOUFFANT(THE TASTE OF THINGS)
配給︓ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/
©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA






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             『VORTEX ヴォルテックス』 VORTEX 
                 2023年12月8日(金)から
   ヒューマントラストシネマ渋谷/新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開


■代表作『アレックス』をはじめ暴力やセックスの過激な表現で独自の世界観を貫いてきたギャスパー・ノエ監督。ときに過激度が激しすぎて、なにが描かれているのか分からないほどモザイクがかかった作品もあった。そのノエ監督の新境地と言っていいのか、新作は老夫婦の死を正面から描いていて全体が黒枠に囲まれている。まさにあの世に片足を突っ込んだような、ほかに比べようのない作品になっている。老人夫婦の夫役は『サスペリア』のイタリアの著名監督ダリオ・アルジェント、そして『ママと娼婦』のフランス人俳優フランソワーズ・ルブランが妻を演じている。黒枠だけではなく2分割のスプリット画面で進められてゆく。

■SYNOPSIS■ 共用の小さなテラスで穏やかに朝食をとる老夫婦。だがふたりは一緒に暮らしてはいない。隣りあわせになったマンションの二部屋にそれぞれ住み、たがいに行き来する別居生活。夫のルイは映画評論家で現在「映画と夢」の本を執筆中。一方妻のエルは精神科医だったが認知症を患い、日に日に症状は悪化している。この日もいつの間にか徘徊をはじめ、気づいた夫が探し回る羽目に。連絡を取り合う息子がいるがドラッグ中毒からなかなか抜け出せず、不安定な生活を送っている。ある日、ルイは持病の心臓発作で倒れるも薬が見つからない。

■ONEPOINT REVIEW■ エドガー・アラン・ポーが、(人生は)すべて夢の中の夢に過ぎないのでしょうかと詠った詩作「夢の中の夢」、そしてバラの美しさと儚さを歌ったフランソワーズ・アルディの曲「MON AMI LA ROSE(邦題:バラのほほえみ)」。導入部での核心をついたこのふたつの作品の引用によって、一気にギャスパー・ノエの世界に引きずり込まれてゆく。かつては若く溌溂としていたであろう老夫婦のあっという間の夢のような人生。静かに静かに感情をゆさぶる。
(NORIKO YAMASHITA)

監督/脚本:ギャスパー・ノ エ
出演:ダリオ・アルジェント/フランソワーズ・ルブラン/アレックス・ルッツ
2021年フランス(148分)
原題:VORTEX  配給:シンカ  映倫:PG12
公式サイト:https://synca.jp/vortex-movie/
© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA





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          『マイ・ファミリー~自閉症の僕のひとり立ち』(ドキュメンタリー) 
               KEES VLIEGT UIT(A PLACE LIKE HOME) 
           
2023年11月25日(土)~12月8日(金)新宿K'sシネマで公開


■長年実家の離れで〝半分だけ自立〟して生活してきた42歳の自閉症の男性。だが両親も高齢になり、〝完全なる自立〟を目指し奮闘するその様子を、8年間にわたって追ったドキュメンタリー。監督は一家と25年以上の交流があり、3人の関係を撮り続けてきたモニーク・ノルテ監督。前作『ケースのためにできること』は本国オランダで延べ450万人が見た国民的作品となり、主人公のケースは有名人でもある。

■SYNOPSIS■ 自閉症と診断されているケースは実家と行き来できる隣の離れで、半自立という暮らしを送っている。しかしこれまではそれがベストな形だったが、彼自身42歳になり両親も年老いてきたいま、いつかはふたりが先に逝ってしまうだろうことも頭をよぎる。そこで今後を考えた結果、完全なる自立を目指し完全なるひとり暮らしを実行に移すことに。

■ONEPOINT REVIEW■ ふしぎと悲壮感がない。一家が裕福で暮らしに恵まれていることがまず第一にあるだろう。また福祉的な話は一切出てこないが、オランダという国がその点において一歩リードしているのが背景にあるようにも感じられる。そしてなによりケースと両親の人柄。彼は細密画のアーティストでもあり、気難しい気性を少なからず持っていてときに癇癪を起こすこともあるが、彼の怒りについ耳を傾けたくなってしまう。ドキュメンタリーというより家族ドラマを見ているようなそんな錯覚を覚える作品だ。

監督/脚本:モニーク・ノルテ
出演:ケース・モンマ/ヘンリエッテ・モンマ/ヴィレム・モンマ/ヤスパー・モンマ
2023年オランダ(83分) 原題:KEES VLIEGT UIT(A PLACE LIKE HOME)
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/myfamily/






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                    『正欲』 seiyoku
          2023年11月10日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開


■正常な欲望<正欲>とはなにか。ふつうとは?多様性とは?法の番人として正義感にあふれる一方で、息子の不登校に不寛容で妻とも分かり合えない検事の男性と、多くのひととは違う性的指向を抱えながら社会と折り合いをつけて生きている女性。そのふたりを軸に5人の人物の人生が交差して描かれる人間ドラマ。朝井リョウのベストセラー小説を、『あゝ、荒野』の岸善幸監督、『MOTHER マザー』の港岳彦の脚本で映画化。
新垣結衣が新境地。

■SYNOPSIS■ 妻と息子の3人家族の寺井啓喜(稲垣吾郎)は地方検察庁の検事。ある日、息子の泰希から憧れのユーチューバーのように、学校に行かずに動画配信をしてみたいと相談されるも、理詰めで一蹴する。そんな啓喜が現在扱っている案件は奇妙なものだったが、世の中には異常性愛のひとって多いみたいですよ、と事務官から聞かされる。一方、ショッピングモールに勤めながら両親と広島に暮らす桐生夏月(新垣結衣)は、退屈な日々を送っていた。世の人々のように結婚願望がない。そんな彼女には中学時代、横浜へ転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)との忘れがたい思い出のシーンがあった。その佳道が15年ぶりに広島に戻ってくるという。

■ONEPOINT REVIEW■ サドマゾ、フェティシズム…ひととは少し違ったセクシャリティは、これまでも興味本位あるいは文学的な扱いで描かれてきた。朝井リョウが取り上げたのも、ただ隠れていただけあるいは隠されていただけで、むかしから存在したもの、かもしれない。けれど同じ嗜好を持つひとがつながることによって、新たな家族の形が生まれる可能性もある。そんな暗示が寺井啓喜の一家とは対照的に描かれている。

監督:岸善幸  脚本:港岳彦
原作:朝井リョウ「正欲」(新潮文庫)  音楽:岩代太郎
主題歌:Vaundy「呼吸のように」(SDR)
出演:稲垣吾郎/新垣結衣/磯村勇斗/佐藤寛太/東野絢香/山田真歩/徳永えり 
2023年日本(134分)  配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://bitters.co.jp/seiyoku/
©2021朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会






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      『パトリシア・ハイスミスに恋して』(ドキュメンタリー)LOVING HIGHSMITH
                 2023年11月3日(金・祝)から
    新宿シネマカリテ/Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


上© RolfTietgens_CourtesyKeithDeLellis
中© EllenRifkinHill_CourtesySwissSocialArchives


■ヒッチコック監督『見知らぬ乗客』、アラン・ドロン主演『太陽がいっぱい』,ヴェンダース監督『アメリカの友人』など映画の原作者としても広く愛されたパトリシア・ハイスミスを追ったドキュメンタリー。自身の体験から創作された「キャロル」は大ベストセラーとなったが、同性愛を扱った作品ゆえにクレア・モーガン名義で発表せざるを得なかった当時の状況を含め、その私生活に踏み込んだ作品になっている。監督はハイスミスが晩年暮らしたスイス出身のエヴァ・ヴィティヤ。これが長編ドキュメンタリー2作目となる。

■SYNOPSIS■ パトリシア・ハイスミスは1921年1月19日、米テキサス州フォートワースの生まれ。誕生するわずか9日前に両親は離婚。中絶も考えられていた望まれない子だった。すぐに母親はニューヨークに移り、ハイスミスは6歳まで祖母のもとで育てられる。やがてニューヨークの母に引き取られるも愛されることはなく、10代半ばには同性愛を疑われ、ボーイフレンドをあてがわれるという嫌な経験もした。その後作家としての才能が開花し、長編1作目の「見知らぬ乗客」(1950年)が早々にアルフレッド・ヒッチコック監督によって映画化されるが、それ以前に書かれていたのがレズビアン小説の「キャロル」だった。同作品は60余年のときを経て2015年にトッド・ヘインズ監督によって映画化された。

■ONEPOINT REVIEW■ 2021年に生誕100年を迎えたのを契機に日記とノートが出版されたというが、ヴィティヤ監督がスイス文学資料館に通い日記等を読んだのはおそらく出版前のことだろう。資料を読みすすめるなかでドキュメンタリーの方向性が固まっていったにちがいない。作家としての成功の陰に隠れていた私生活。アンダーグラウンドの世界で輝いていたハイスミスの華やかな恋愛事情が明かされてゆく。
(NORIKO YAMASHITA) 2023年11月2日 記

監督/脚本:エヴァ・ヴィティヤ 
ナレーション:グウェンドリン・クリスティー
出演:マリジェーン・ミーカー/モニーク・ビュフェ/タベア・ブルーメンシャイン/ジュディ・コーツ/コートニー・コーツ/ダン・コーツ 
音楽:ノエル・アクショテ 
演奏:ビル・フリゼール/メアリー・ハルヴォーソン
2022年スイス=ドイツ(88分) 原題:LOVING HIGHSMITH
配給:ミモザフィルムズ  公式サイト:
© 2022 Ensemble Film / Lichtblick Film 






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              『理想郷』  AS BESTAS(THE BEAST)
  2023年11月3日(金・祝)からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/シネマート新宿ほか全国順次公開
 


© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

■理想郷をもとめて美しい山間の村に移住してきた都会育ちの夫婦。しかし開発をめぐり地元の兄弟と対立し、しだいに険悪な様相を深めてゆくサスペンスタッチの人間ドラマ。メガホンは『おもかげ』のスペインの監督ロドリゴ・ソロゴイェン。『ジュリアン』や『苦い涙』のドゥ二・メノーシェと、『私は確信する』『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』のマリナ・フォイスという名優ふたりが夫婦を演じている。昨年の東京国際映画祭でグランプリ、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞の3冠を受賞。

■SYNOPSIS■ 村の酒場で〝フランス野郎〟とからまれるアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)。2年前にフランスの都会からスペインの緑豊かな山岳地帯ガリシア地方の寒村に妻のオルガ(マリナ・フォイス)と移住してきたが、どう見ても村に溶け込んでいるとは言い難かった。とくに新参者の夫妻に対し敵意をもってバリアを張るのは、隣家のシャロンとロレンソ兄弟。対立のきっかけは風力発電の開発計画で、貧困に苦しむシャロンらは一時金欲しさに賛成に回ったが、アントワーヌら反対票のせいで開発はとん挫しかかっていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 1997年にスペインで実際に起きた現地では有名な事件を、オランダ人夫婦からフランス人夫婦に置き換えて描いているが、ここにはいろんな問題が潜んでいる。閉鎖された村社会と都会のインテリ夫婦、そのうえスペイン人とフランス人では気質もちがうことだろう。そして慢性的な貧困。そこに開発という思いがけないチャンスがめぐってくるが、2年前に越してきた都会人がここは自分たちの故郷と言って開発に反対したなら、それもまたひとつのエゴにちがいない。いちばん面白いのは終盤に事件が起きて、主人公がアントワーヌから妻のオルガへと移るところ。みごとな構成になっている。(NORIKO YAMASHITA) 2023年11月2日 記

監督/共同脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン  共同脚本:イザベル・ペーニャ
出演:ドゥニ・メノーシェ/マリナ・フォイス/ルイス・サエラ/ディエゴ・アニード/マリー・コロン
2022年スペイン=フランス(138分)  原題:AS BESTAS(THE BEAST)
配給:アンプラグド  公式サイト:







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                  『SISU/シス 不死身の男』 SISU  
          2023年10月27日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開


■ツルハシ一丁でメッタ切り! 大戦末期のフィンランドを舞台に、侵攻しわがもの顔で庶民から略奪し凌辱するソ連およびナチス・ドイツの軍隊に対し、ひとり立ち向かう伝説の老兵を描いた超ド級バイオレンス・アクション。監督はCMなどで活躍し、『レア・エクスポーツ~囚われの サンタロ-ス~』ほかの長編映画作品がある地元フィンランド出身のヤルマリ・ヘランダー。ヘランダ―監督の長年の相棒で『…囚われの サンタロ-ス~』でも主役を務めていたヨルマ・トンミラが不屈の男を演じている。

■SYNOPSIS■ 1944年、第二次大戦末期。ソ連軍が侵攻し、さらにナチス・ドイツの焦土作戦で焼け野原と化したフィンランド。そんな焼きつくされた祖国の大地を満身創痍の老兵が馬に乗り、汚れきった愛犬とともにゆく。男はたったひとりでソ連兵300人に打ち勝ったと伝えられる伝説の男、アアタミ(ヨルマ・トンミラ)だった。背中に担いでいるツルハシはときには武器にもなるが、しかし携えているほんとうの理由は金塊を掘り当てるため。ある日…。

■ONEPOINT REVIEW■ 300人のソ連兵に打ち勝ったという伝説どおりこの男、地雷に吹き飛ばされても、縛り首になっても死なない。しかしその不死身ぶりは漫画チックなのっぺり感はなくとてもリアル。タイトルの「SISU」は不屈の魂とか、反骨精神とかの意味を含むフィンランド独自の比較的新しい言葉だという。ソ連やドイツにいじめられ続ける歴史のなかで生まれた反骨も、女性たちの強さもコンパクトに収められた、真の意味で小気味のいいバイオレンス・アクションだった。 
(NORIKO YAMASHITA) 
  
2023年10月26日  記

監督/脚本:ヤルマリ・ヘランダー
出演:ヨルマ・トンミラ/アクセル・ヘニー/ジャック・ドゥーラン/ミモサ・ヴィッラモ/オンニ・トンミラ
2022年フィンランド(91分)
原題:SISU  配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/sisu/
© 2022 FREEZING POINT OY AND IMMORTAL SISU UK LTD. ALL RIGHTS RESERVED.






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         『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』 LA SYNDICALISTE  
       2023年10月20日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開


©2022 le Bureau Films - Heimatfilm GmbH + CO KG – France 2 Cinéma

■陰惨なレイプの被害者か、それとも自作自演の犯罪者か。中国への原子力技術移転をめぐる内部告発に端を発した労組トップ襲撃事件。フランスで実際に起きて世間をにぎわせた事件を、当事者モーリーン・カーニーにフォーカスして描いたサスペンスタッチの社会派ドラマ。イザベル・ユペールがモーリーン役を演じ、『ゴッドマザー』で協働したジャン=ポール・サロメ監督がメガホンを取っている。

■SYNOPSIS■ 原子力企業アレバの労働組合トップとして世界を飛び回るモーリーン・カーニー(ユペール)。本社のあるパリに戻るとおなじ女性として心強い存在の盟友アンヌ(マリナ・フォイス)が、大統領サルコジから社長の任を解かれる。後任は〝小物〟のウルセル(イヴァン・アタル)。ある日、フランス電力公社の男から内部告発の書類を渡されそれをアンヌに見せると、ウルセルの野望は中国と手を組み、低コストの原発を建設することだと聞かされる。危機感を感じたモーリーンが国の上層部に訴えはじめると警告が届き、身辺に不穏な空気がただよう。

■ONEPOINT REVIEW■ 危機管理がむずかしく、しかもフランスのトップ技術であった原子力開発分野で中国と手を組むという失態。国家戦略の大きな局面を描いた社会派ドラマだが、それ以上にジェンダーの問題を意識的に強く描いているのがこの作品の特徴。サロメ監督は「カーニーの事件は告発者の物語であり、また男性社会の中のひとりの女性の物語である。この社会の男たちにとって、いかなる危険を冒してでも告発しようとする女性は異物でしかなかった」と言う。カーニーに寄り添って記事を書いた女性記者、キャロリーヌ・ミシェル=アギーレの著書「LA SYNDICALISTE(組合活動家の意味)」がベースになっている。 (NORIKO YAMASHITA) 
2023年10月18日  記

監督:ジャン=ポール・サロメ   脚本:ファデット・ドゥルアール
原作:キャロリーヌ・ミシェル=アギーレ「LA SYNDICALISTE」
出演:イザベル・ユペール/グレゴリー・ガドゥボア/フランソワ=グザヴィエ・ドゥメゾン/ピエール・ドゥラドンシャン/アレクサンドリア・マリア・ララ/ジル・コーエン/マリナ・フォイス/イヴァン・アタル
2022年フランス=ドイツ(121分)  原題:LA SYNDICALISTE
配給:オンリー・ハーツ  公式サイト:http://mk.onlyhearts.co.jp/






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              『シック・オブ・マイセルフ』  SICK OF MYSELF 
2023年10月13日(金)から新宿武蔵野館/渋谷ホワイトシネクイント/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


■成功しつつある恋人に対する対抗心と嫉妬心がむき出しとなり、とんでもない手段で世間の注目を集めようとする若い女性を描いたホラーチックなドラマ。本邦初登場、30歳代後半のノルウェーの新鋭クリストファー・ボルグリ監督が、スノッブ志向の強い若いカップルをスタイリッシュかつシニカルに描き出してゆく。

■SYNOPSIS■ 恋人のトーマスは新進アーティストとして脚光を浴びようとしていた。なのにカフェのウェイトレスの自分は何者にもなれず、彼とパーティーに出てもだれの注目も集めない。せいぜいアレルギーの患者を装って人々の気を引いてみる。そんなシグネの恋人に対する対抗心と嫉妬心はつのるばかりだったが、ある日ネットで見たロシアの怪しげなドラッグに釘づけとなる。そのクスリの副作用は半端ではなく、顔中を激しいできもので覆われたひとが続出していた。

■ONEPOINT REVIEW■ なんとしてでも名声がほしい若い男と女。男は著名家具を窃盗して、それを素材に作品をつくりつづけている新進のアーティスト。一方女は、注目されるパートナーがうらやましいどころか妬ましく、自分の肉体を痛めてででもひとの目にとまりたい。しかしこれはいまや突飛な話ではない。顔中に星のタトゥーを入れて戻せなくなったひとや、美容整形の失敗の繰り返しで取り返しのつかなくなったひとたち。監督は現実に起こっていることを、ちょっと誇張して描いただけなのかもしれない。(NORIKO YAMASHITA)
   
2023年10月15日  記

監督/脚本:クリストファー・ボルグリ
出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ/アイリク・サーテル/ファンニ・ヴァーゲル/ヘンリク・メスタド/アンドレア・ブライン・ホヴィグ
2022年ノルウェー=スウェーデン=デンマーク=フランス(97分)
英題:SICK OF MYSELF  配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/sickofmyself/
©Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022






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                  『ヨーロッパ新世紀』  R.N.M 
          2023年10月14日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開


■パルムドールを受賞した『4ヶ月、3週と2日』や『汚れなき祈り』などでカンヌ映画祭の常連となったクリスティアン・ムンジウ監督の新作は、祖国ルーマニアの村社会を舞台にした人間ドラマ。出稼ぎ先のドイツで差別的な言葉を受け故郷に舞い戻る男、外国人労働者の雇用に抵抗する村人たちの様子などが群集劇風に描かれてゆく。

■SYNOPSIS■ クリスマスシーズンのドイツ。出稼ぎ中のマティアスは職場で侮蔑的な言葉を吐かれカッとなり、思わず暴力をふるい故郷ルーマニアの村トランシルヴァニアに逃げ帰る。だが息子とふたりでひっそりと暮らしてきた妻にしてみれば、夫の今さらながらの帰郷に納得いかない。一方、女性ふたりが経営するパン工場の悩みは慢性的な人手不足。EUからの補助金も当てにしつつなんとかスリランカ人ふたりの雇用を確保するが、SNSでの差別的な書き込みをきっかけに彼らへの風当たりが強くなってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 差別的な言動や行動が渦巻いている。ドイツの職場でマティアスは先輩らしいき男から〝ジプシー〟と罵られるが、頭に血が上るのは彼自身が日ごろロマのひとたちに対して差別的な感情を持っているからにほかならない。さらにマティアスは突然帰った家で妻の意向を無視し突然親面をして、息子を〝男らしく〟育てようと親の権利を行使する。この家庭では男女の序列がはっきりしていたに違いない。ジェンダー的な視点は入っていないが、おのずとその差別も浮き彫りになってくる。                (NORIKO YAMASHITA) 
  
2023年10月13日  記

監督:脚本:クリスティアン・ムンジウ
出演:マリン・グリゴーレ/エディット・スターテ/マクリーナ・バルラデアヌ
2022年ルーマニア=フランス=ベルギー(127分)  原題:R.M.N.
配給:活弁シネマ倶楽部/インターフィルム  
公式サイトhttps://rmn.lespros.co.jp
©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022







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           『ヒッチコックの映画術』  MY NAME IS ALFRED HITCHCOCK 
 2023年9月29日(金)から新宿武蔵野館/YEBISU GARDEN CINEMA/角川シネマ有楽町
ほか全国公開


■自作著書を映画化した『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』で、ひと味違う切り口による映画史を展開してみせたドキュメンタリー作家のマーク・カズンズ。今回彼が取り上げたのはスリラー/サスペンス映画の大御所アルフレッド・ヒッチコック監督。映画黎明期から数々の作品のなかで築いてきた独自の映画テクニックを、(死んだはずの)彼自身が解説してゆくという遊び心いっぱいのドキュメンタリー。

■SYNOPSIS■ イギリスで生まれたアルフレッド・ヒッチコックは、サイレント時代から英国映画界で活躍。米ハリウッドに移ってからも、いきなり『レベッカ』(1940年)が第13回アカデミー賞作品賞を受賞。さらに『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)、『裏窓』(1954年)、『泥棒成金』(1955年)、『北北西に進路を取れ』(1959年)、『サイコ』(1960年)、『鳥』(1963年)など大ヒット作を連発。ここでは英国時代の作品を含めた52作品が取り上げられてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ マーク・カズンズ監督は時代順に作品を並べるのではなく、6つの章に分けて考察している。①逃避 ②欲望 ③孤独 ④孤独 ⑤充実 ⑥高さ。ちがう時代の作品がつながれることにより生まれる新たな意味。ドキュメンタリー制作の過程でカズンズ監督は、ヒッチコックのもっとも良き生徒のひとりになっていったのかもしれない。そしてヒッチコック自身に語らせるという遊び心もまたヒッチコック的センスかも。        (NORIKO YAMASHITA) 
  
2023年9月27日  記


監督/脚本:マーク・カズンズ
声の出演:アリステア・マクゴーワン
2022年イギリス(120分)
原題:MY NAME IS ALFRED HITCHCOCK
配給:シンカ
公式サイト: https://synca.jp/hitchcock/
© Hitchcock Ltd 2022






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    『ルー、パリで生まれた猫』 MON CHAT ET MOI, LA GRANDE AVENTURE DE RROU
       2023年9月29日(金)から新宿ピカデリー
/シネスイッチ銀座ほか全国順次公開


■パリの瀟洒なアパルトマンに両親と暮らす10歳の少女と、その屋根裏部屋で生まれすぐに母親と離ればなれになった子猫。両親の不仲で孤独を抱える少女の心を癒してくれる子猫は、夏のバカンスで訪れた別荘の森で野性に目覚めてゆく。『アイロ〜北欧ラップランドの小さなトナカイ〜』のギヨーム・メダチェフスキがモーリス・ジュヌヴォワの原作を現代パリに置き換え、瑞々しく描いている。

■SYNOPSIS■ 屋根裏部屋で生まれてすぐに母猫に放置された子猫たち。階下のアパルトマンに暮らす少女クレムがその一匹のキジトラを連れ帰ると両親は口論中。恐るおそるパパとママに頼み込み家で飼うことに。名前は男の子でも女の子でもルー。パパの見立てによると女の子らしい…。
夏のバカンスの時期、一家は森のある別荘に向かう。恒例の行事だがことしはルーも一緒だ。隣家には年中ひとりで暮らす女性がいて、クレムは心の中で〝魔女〟と呼んでいる。そして都会生まれながら好奇心旺盛なルーは、さっそく森に飛び出してゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ (可愛い可愛いだけの)デレデレした(動物)映画にする気はなかった。とメダチェフスキ監督は言う。森のシーンに移るまでもなく、パリに暮らす猫たちの野性味あふれる姿が冒頭から描き出され、一級の動物映画としてもグイグイ引き込まれてゆく。ドラマとドキュメンタリー的手法がうまくマッチした、キリっとしたファミリードラマだった。     (Noriko YAMASHITA) 
  
2023年9月26日  記


監督/共同脚本:ギヨーム・メダチェフスキ  共同脚本:ミカエル・スエテ
原作:モーリス・ジュヌヴォワ
出演:キャプシーヌ・サンソン=ファブレス/コリンヌ・マシエロ/リュシー・ローラン/ニコラ・ウンブデンシュトック
2023年フランス=スイス(83分)
原題:MON CHAT ET MOI, LA GRANDE AVENTURE DE RROU(A CAT'S LIFE)
配給:ギャガ  
公式サイト:https://gaga.ne.jp/parisnekorrou/
© 2023 MC4–ORANGE STUDIO–JMH & FILO Films






  注目のロードショー
   ROADSHOW

   『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』 GODARD SEUL LE CINEMA
                 2023年9月22日(金)から
  新宿シネマカリテ/シネスイッチ銀座/渋谷・ユーロスペース/アップリンク吉祥寺
ほか全国順次公開


© 10.7 productions/ARTE France/INA - 2022

■ヌーヴェルヴァーグの立役者ジャン=リュック・ゴダール監督は2022年9月、尊厳死という形で91歳の生涯を閉じた。存命中に完成し、亡くなる少し前にヴェネチア国際映画祭でお披露目されたのが本ドキュメンタリー。生い立ちからスイス移住後の晩年まで、代表作や記録映像、ゆかりの人物へのインタビューなど4章でゴダール像に迫っている。監督は歌手バルバラのドキュメンタリーなどを手がけてきたシリル・ルティ。

■SYNOPSIS■ ジャン=リュック・ゴダールは1930年、パリの高級住宅地で医師の父と銀行に勤める母とのあいだに誕生。一家は大戦中ナチスの片棒を担いだヴィシー政権寄りだったという。若くして家を出たゴダールと一家は絶縁。母が交通事故で急死するも葬儀への出席を拒まれた。一方、大学在学中にフランソワ・トリュフォーらカイエ・デュ・シネマ誌周辺の映画仲間と出会ったゴダールは、1960年『勝手にしやがれ』で長編監督デビューして脚光を浴びた。そして新作の女優探しのなか公私のミューズとなるアンナ・カリーナと出会う。

■ONEPOINT REVIEW■ 既存の映画に変革をもたらしたヌーヴェルヴァーグの中心にいて、若き感性を作品に注ぎ込んだゴダール。映画ファンは作品を通しゴダールの才能を一身に浴び、多大な恩恵を受けた。そんな彼は女性からモテもしたが、いまならアウトかともしれないところもある。みずから見出したアンナ・カリーナもアンヌ・ヴィアゼムスキーも私生活のパートナーとなり、代表作のヒロインとなったが、私生活のほうをお断りしたらどうなるのか。『彼女について私が知っている二、三の事柄』で起用されて友人関係を結んでいたマリナ・ブラディはある日、交際の誘いを受けたという。ボーイフレンドもいたので断ったところ「それっきり。それ以来一度も口をきいていない」と明かす。そんな裏話もいろいろ。 (Noriko YAMASHITA) 
  
2023年9月21日  記
 
監督:シリル・ルティ
出演:ジャン=リュック・ゴダール/マーシャ・メリル/ティエリー・ジュス/クリストフ・ブルセイエ/アラン・ベルガラ/マリナ・ヴラディ/ロマン・グピル/ダヴィッド・ファルー/ダニエル・コーン=ベンディット/アントワーヌ・ドゥ・ベック/ジェラール・マルタン/ナタリー・バイ/ドミニク・パイーニ/ハンナ・シグラ/ジュリー・デルピー
2022年フランス(105分)  原題:GODARD SEUL LE CINEMA(GODARD CINEMA)
配給:ミモザフィルムズ  公式サイト:http://mimosafilms.com/godard/  






  注目のロードショー
   ROADSHOW
             『ロスト・キング 500年越しの運命』 THE LOST KING
          2023年9月22日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開



■すでに散逸したとされ500年間行方不明だったイングランド王リチャード三世の遺骨を探し当てたのは、名もない子持ちの女性だった!英国で10年ほど前に世間を騒がせたおどろきの実話を、ファンタジーも交えて描いたヒューマンドラマ。
主人公役は『シェイプ・オブ・ウォーター』ほかの個性派俳優サリー・ホーキンス。その元夫役で製作の一角も担うスティーブ・クーガンが共同で脚本も書いている。監督は『クィーン』ほかの大ベテラン、スティーヴン・フリアーズ。

■SYNOPSIS■ 持病がありながらも子どもたちのためにとキャリアを磨くフィリッパ(サリー・ホーキンス)だったが、上司に無視され気が滅入るばかり。そんな彼女を応援し子育てにも協力的な元夫(スティーヴ・クーガン)の存在がせめてもの慰めか。
そんななか息子と行った舞台劇「リチャード三世」を見てふと疑問がわく。シェークスピアは極悪非道の男として描いたが実際はどうだったのか。目の前に彼の幻影があらわれるようになり、リチャード三世熱に目覚めたフィリッパは、失われたとされる亡骸が英レスターの教会下に眠る説があることを知る。そこはいまは駐車場になっていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 会社では彼女のキャリアを無視して若い金髪女子を登用する上司からのある種いじめを受け、疑問点を指摘した大学の講師からはミーハー扱いされ小馬鹿にされるフィリッパ。そしてもっとも悔しい思いをするのは手柄を横取りされそうな雲行きの終盤だ。大発見をした手柄話であると同時に、悔しい思いをたくさんしてきた主人公(作者)の思いが込められた物語でもあった。          
                  (Noriko YAMASHITA) 
 
2023年9月19日 記  
監督:スティーヴン・フリアーズ  脚本:スティーヴ・クーガン/ジェフ・ポープ
原作:フィリッパ・ラングレー/マイケル・ジョーンズ
出演:サリー・ホーキンス/スティーヴ・クーガン/ハリー・ロイド/マーク・アディ
2022年イギリス(108分)  原題:THE LOST KING  配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:https://culture-pub.jp/lostking/
© PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2022
ALL RIGHTS RESERVED.






  注目のロードショー
   ROADSHOW
            『燃えあがる女性記者たち』 WRITING WITH FIRE
         2023年9月16日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開



■インドでいまもあたり前に受けつがれている階級制度カーストの、枠組みの中にさえ入らない最下層の女性たちで立ち上げられた新聞社「カバル・ラハリヤ」が誕生して10年ほど。紙媒体からインターネット・メディアへと形を変えながら、勇気ある行動をつづけてきた女性記者たちの仕事ぶりや日常に迫るドキュメンタリー。
監督は本作が長編第一作となるインド出身の男女コンビ。サンダンス映画祭やアカデミー賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭など各国で支持されてきた作品だ。

■SYNOPSIS■ カースト制度のさらに下層におかれ、「不可触民」として差別を受けてきたダリト(ダリット)の女性たちが立ち上げ、運営する弱小地方新聞「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波の意味)は転機を迎えていた。紙媒体からYouTube配信やSNSを駆使したネットメディアへの転換。女性記者たちには真新しいスマホが配られ、リーダー格のミーラや若手のスニータらはそれぞれの取材現場へと向かう。女性への暴力、石の不法採掘、選挙戦、家にトイレがない問題…と取材内容はさまざま。地道な取材を重ね記事をアップロードするうちに、再生回数は倍々の勢いで伸びてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 男性の顔しか見えない集団のなかに、女ひとりでグイグイ入り込んで突撃取材をしてゆく。これまでジャーナリストの何十人もが殺害されているというから、まさに命がけ。また若手のスニータは結婚しないことを心に決めていたが、家族のことを思うとそうもいかない状況に陥ってゆく。彼女たちは生まれたときに女であるがゆえに両親から疎まれ、結婚すると夫の使用人となり、挙句の果てに殺害されると嘆く。そんな世を少しでも変えようと、ペン1本(スマホ一台)で静かに闘う勇気ある女性たちの物語だ。       (Noriko YAMASHITA) 
 
2023年9月13日 記

監督:リントゥ・トーマス/スシュミト・ゴーシュ
2021年インド(93 分)  原題:WRITING WITH FIRE  配給:きろくびと
公式サイト:https://writingwithfire.jp/
© BLACK TICKET FILMS. ALL RIGHT RESERVED.






  注目のロードショー
   ROADSHOW
              『ダンサー イン Paris』 EN CORPS
               2023年9月15日(金)から

ヒューマントラストシネマ有楽町/Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開


© 2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA 
Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES