シネマカルチャー❘注目のロードショー『システム・クラッシャー』『マンティコア 怪物』『異人たち』『パスト ライブス/再開』『ゴッドランド/GODLAND』『12日の殺人』『水平線』『落下の解剖学』『ファイアバード』『瞳をとじて』『ダム・マネー ウォール街を狙え!』『哀れなるものたち』




               ロードショー ROADSHOW 2024   

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        ママと暮らしたいそれだけ…でも少女の暴走はだれにも止められない!
       『システム・クラッシャー』 SYSTEMSPRENGER(SYSTEM CRASHER)
      2024年4月27日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

© 2019 kineo Filmproduktion Peter
Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF

■ふとしたことですぐに切れてしまい、あらゆる施設を転々とする少女。その暴力はだれにも止められず、ママのいる家に帰りたいというささやかな願いもかなわない。〝システム・クラッシャー(組織破壊)〟の幼い少女と彼女をケアする周囲の切ない思いを、切れ味鋭く描いた人間ドラマ。ノラ・フィングシャイト監督が5年におよぶリサーチ等を経て書いたオリジナル脚本で、長編映画デビューにしてベルリン国際映画祭銀熊賞ほかを受賞した注目作。

■SYNOPSIS■ ブロンドヘアの可愛らしいベニー(ヘレナ・ツェンゲル)は、キャンディが似合う一見ごくふつうの9歳の少女。けれどちょっとしたことで切れやすく、いったん怒りに火がつくとそのすさまじい破壊力はだれの手にも負えない問題児だ。シングルマザーのビアンカ(リザ・ハーグマイスター)から行政の手にわたり、里親やグループホーム、特別支援学校とさまざまな手を講じてきたがいずれも失敗。社会福祉課のバファネ(ガブリエラ=マリア・シュマイデ)は懸命に受け入れ先を探すものの、いまは閉鎖病棟、精神病院、アフリカでの集中体験プログラムといった〝最終手段〟を話し合う段階まできている。そんなとき、通学付添人のミヒャ(アルブレヒト・シュッフ)が、暴力に走る少年たちと向き合ってきた過去の経験から、水も電気もない森で3週間、1対1で対峙してみたいと提案する。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画の舞台となっているドイツは、明らかに福祉行政が日本に比べて手厚そうだ。それだけに最終手段に慎重になるというジレンマもある。9歳の小さな子どもを閉鎖病棟や精神病院のような隔離施設に入れていいのか。ではどうするのか。行きどまりを行ったり来たり、思考がぐるぐる巡り着地点が見えないなか、フィングシャイト監督はとてもパンクなエンディングを用意した。ニーナ・シモンの歌「A'int Got No/I Got Life」とともに。(NORIKO YAMASHITA) 2024年4月19日 記

監督/脚本:ノラ・フィングシャイト
出演:ヘレナ・ツェンゲル/アルブレヒト・シュッフ/リザ・ハーグマイスター/ガブリエラ=マリア・シュマイデ
2019年ドイツ(125分)  原題:SYSTEMSPRENGER(SYSTEM CRASHER)
配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:http://crasher.crepuscule-films.com






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      クリーチャー・デザイナーが生み出し、まわりが引いた得体の知れない〝もの〟とは!
                  『マンティコア 怪物』
       2024年4月19日(金)からシネマート新宿/渋谷シネクイントほか全国順次公開



■隣人の少年を火災から救い出して以来、たびたびパニック障害を起こすゲームデザイナーの青年。その原因は?そして彼が密かにデッサンしてつくりあげた〝もの〟とは。ひとが抱えるアンモラルな心の闇に迫った人間ドラマ。『マジカル・ガール』のスペインの気鋭カルロス・ベルムト監督によるオリジナル脚本。

■SYNOPSIS■ ゲームデザイナーとして在宅で仕事をしている青年フリアン(ナチョ・サンチェス)は、隣の部屋の少年を火災から救い出し、ことなきを得るがパニック障害を起こすようになり、クラブで出会った女性と気分転換を図るもうまくいかない。そんなある日、美術史を学んでいるボーイッシュな女性ディアナ(ゾーイ・ステイン)と知り合い意気投合する。ディアナは脳卒中で倒れた父親を自宅で介護しているが苦にしていない様子。行動をともにするうちに親密になってゆくふたりだったが、フリアンが急に引っ越しディアナは戸惑いを隠せない。フリアンに会社から呼び出しがかかる。

■ONEPOINT REVIEW■ 朝井リョウ原作の『正欲』では「水」に大きく反応するひとたちが描かれていて、テーマは似ている。性癖という言葉を使うなら、主人公フリアンは〝ふつう〟と違う性癖が彼を苦しめていて、多様性が浸透してきたこの時代にでさえなお、周囲のだれもが引いてしまうほどの彼のセクシャリティと創造物とは何なのか。本作には文章で言う「行間」が方々にあり、観るものの想像力をかき立ててくれる。
              (NORIKO YAMASHITA) 2024年4月12日 記


監督/脚本:カルロス・ベルムト 
出演:ナチョ・サンチェス/ゾーイ・ステイン/アルバロ・サンス・ロドリゲス/アイツィべル・ガルメンディア
2022年スペイン=エストニア(116分)
原題:MANTICORE  映倫:PG12
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:www.bitters.co.jp/manticore/
© Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE








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         山田太一原作の『異人たちの夏』を大きく翻案した海外リメイク作品
               『異人たち』 ALL OF US STRANGERS
    2024年4月19日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテ/渋谷シネクイントほか全国公開

Ⓒ2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.


■幼いころに両親を失い、喪失感を抱えたままおとなになった男性。ある日、訪れたふるさとの町で若き日の両親と出会い交流するようになる。一方、高層マンションに暮らす彼はそこに住むひとりの青年と知り合い親しくなってゆく。『異人たちの夏』として大林宣彦監督で映画化された山田太一の原作を、『さざなみ』や『荒野にて』のイギリスの監督アンドリュー・ヘイがみずから脚本を書いて映画化。まったく違ったテイストの作品としてよみがえらせている。

■SYNOPSIS■ ロンドンのタワーマンションに単身で暮らすアダム(アンドリュー・スコット)は40代の脚本家。両親を12歳のときに交通事故でなくして以来、孤独な日々を送っているが、ある日、同じマンションに住むハリー(ポール・メスカル)と名乗る見知らぬ青年がウィスキーを抱え一緒に飲もうと誘いに来る。戸惑いやんわりと断るアダム。彼が目下取り組んでいるのは両親との思い出を織り込んだ作品だが一向に筆が進まない。そんななか子ども時代を過ごした郊外の町を訪れ、そこで出会ったひとりの男性に導かれるままについてゆくと彼は父親(ジェイミー・ベル)で、懐かしい家にはむかしのままの母(クレア・フォイ)も暮らしていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 両親(幽霊)との〝蜜月〟と並行して描かれる恋愛が男女から男×男へと変えらたことにより、セクシャリティというテーマをはらむ作品に生まれ変わっている。加えて新旧、米日作品のテイストがまったく異なるのは、もとよりスタッフ、キャストの持ち味の違いが大きく、大林宣彦が大いに泣かせる作品をつくったのに対し、アンドリュー・ヒル版はシリアス感が濃厚。昨年冬に亡くなった原作の山田太一が観ていたなら、リメイク版にどんな感想を抱いただろうか。
             (NORIKO YAMASHITA) 2024年4月10日 記

監督/脚本:アンドリュー・ヘイ
原作:山田太一「異人たちとの夏」(新潮文庫)
出演:アンドリュー・スコット/ポール・メスカル/ジェイミー・ベル/クレア・フォイ
2023年イギリス=アメリカ(105分)   映倫:R15+
原題:ALL OF US STRANGERS  配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers






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               『パスト ライブス/再会』 PAST LIVES
          2024年4月5日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 



■おなじ小学校に通い初恋の相手として想いを寄せあう少女と少年。家庭の都合で離ればなれとなり別々の人生を生きるも、24年後にニューヨークで再会する。自伝的ラブストーリーをセリーヌ・ソン自身が描いた監督第一作。アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞など海外映画祭でも評判となった米=韓合作作品。

■SYNOPSIS■ 韓国ソウルの小学校に通う少女ナヨンと少年へソン12歳。ふたりは成績を競いあう良きライバルであり大親友、そしてなにより初恋の相手だったが、ナヨンがカナダに移住することになりふたりの絆は切断される。12年後、親元を離れてニューヨークに移住したナヨンは作家としてスタートし、一方のへソンは大学卒業後に兵役を経て就職する。へソンがSNSを駆使してナヨンを探し出したことからふたりはオンラインで奇跡的に再会。さらに12年後、久々にナヨンとコンタクトをとったへソンは彼女が結婚しているのを知りながらニューヨーク行きを決断する。

■ONEPOINT REVIEW■ ニューヨークにひとり渡り、作家仲間の米国人と結婚し、アメリカで活動するために必要なグリーンカードも取得するナヨン。その日常はおそらく濃厚で緊張感もあって、韓国からロマンチックに想いを寄せるへソンの気持ちとは若干温度差があったかもしれない。だが実際に再会してその差は一気に縮まる。平静を装いながらもふたりの再会を恐れていただろう米国人夫の気持ちも痛いほど伝わる。いろんな切ないが伝わってくるラブストーリーの秀作。
               (NORIKO YAMASHITA) 2024年4月1日 記

監督/脚本:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー/ユ・テオ/ジョン・マガロ
2023年アメリカ=韓国(106分)  原題:PAST LIVES
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/pastlives
公式X:@pastlives_jp
© Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved







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              『ゴッドランド/GODLAND』  GODLAND
      2024年3月30日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



■19世紀後半、植民地アイスランドの辺境の地に教会を建てるという使命を負った若きデンマーク人牧師が、写真機材を馬に乗せ、撮影をしながら過酷な旅をつづける人間ドラマ。監督はアイスランド出身で、映画祭をのぞいては本邦初登場のフリーヌル・パルマソン。第96回アカデミー賞国際長編映画賞アイスランド代表作。

■SYNOPSIS■ 通訳の男と荷物を運ぶ人夫数人とともに牧師ルーカスが船でたどり着いたのは、教会を建てる目的地から遠く離れたアイスランドの浜辺。あえて遠回りのルートを選んだのは異国の風景を写真機に収めながら旅をしようという意図があったからで、それゆえいっそう過酷な旅となる。しかも現地ガイドとして待ち受けていたのは、デンマーク人に対して敵意丸出しの不愛想な老人で、重要な荷物である大きな十字架さえも足手まといと暴言を吐くような男だった。ある日、過酷な旅が頂点に達する。

■ONEPOINT REVIEW■ 過酷な旅が頂点に達したその先に、もうひとつの物語が始まる。待ち受けるのはふたりの姉妹とその父親。アイスランドを象徴するような氷だけの世界から一転して色どりが加わり、観るほうもなにかホッとする。しかし物語としての展開を見せながらやはり全体を貫くのは、デンマークに支配されたアイスランド人の鬱屈とした感情だろう。  
             (NORIKO YAMASHITA) 2024年3月19日 記

監督/脚本:フリーヌル・パルマソン 
撮影監督:マリア・フォン・ハウスヴォルフ
出演:エリオット・クロセット・ホーヴ/イングヴァール・E・シーグルズソン/ヴィクトリア・カルメン・ゾンネ/ヤコブ・ローマン
2022年デンマーク=アイスランド=フランス=スウェーデン(143分)
原題:VANSKABTE LAND(VOLADA LAND)GODLAND
配給:セテラ・インターナショナル
© 2023 ASSEMBLE DIGITAL LTD. ALL RIGHTS RESERVED.






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         『12日の殺人』  LA NUIT DU 12(THE NIGHT OF THE 12TH)
     2024年3月15日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開


© 2022 - Haut et Court - Versus Production
- Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma


ある夜、帰宅途中の若い女性がガソリンをかけられうえに火をつけられて焼殺される。捜査チームが結成され容疑者が次々浮かび上がるも、決定打には至らない。実際に起きた未解決事件を、ポリーヌ・ゲナの原作をもとに映画化したのは、『ハリー、見知らぬ友人』などミステリー作品を得意とするベテランのドミニク・モル監督。長年コンビを組んできたジル・マルシャンと今回も共同で脚本を書いている。地元フランスのセザール賞で6冠受賞。

■SYNOPSIS■ 2016年10月12日の夜、友人の家でのパーティーの帰り道、21歳の女性クララは何者かにとつぜんガソリンをかけられて火をつけられ、翌朝その焼死体が道端で発見される。所轄のグルノーブル署では定年にともなう班長の引継ぎが行われたばかりで、新しい班長ヨアン(バスティアン・ブイヨン)のもと捜査チームが立ち上げられる。女性が所持していたスマホから身元が割れ、聞き込みがつづけられるうちに被害者の奔放な男性関係が明らかになってゆくが、親友のステファニーはガードがゆるかったクララにまるで非があるかのような捜査に、「彼女が殺されたのは女の子だったからよ」と反発する。

■ONEPOINT REVIEW■ 原題の「12日の夜」と邦題の「12日の殺人」を合わせた、12日の夜に起きた殺人の話だ。実際にフランスで未解決となっている女性殺人事件を、寡黙でストイックな刑事を主人公に描いている。警察というとむかしもいまも男の世界。捜査を進めるなかでそこにある種の偏見は生まれないのか。終盤新たに加わる女性刑事が言う言葉「男が殺して男が取り締まる不思議」、がこの物語のひとつの方向性を示している。  (NORIKO YAMASHITA)  2024年3月11日 記

監督/共同脚本:ドミニク・モル
共同脚本:ジル・マルシャン
原案:ポリーヌ・ゲナ「18.3. Une année passée à la PJ」
出演:バスティアン・ブイヨン/ブーリ・ランネール/テオ・チョルビ /ヨハン・ディオネ /ティヴー・エヴェラー/ポーリーヌ・セリエ/ルーラ・コットン・フラピエ
2022年フランス(114分)  原題:LA NUIT DU 12(THE NIGHT OF THE 12TH)
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://12th-movie.com/






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                  『水平線』  SUIHEISEN
        2024年3月1日(金)からテアトル新宿/UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開



■震災で妻を失くし散骨業を営む男とその娘。持ち込まれた遺骨が訳ありだったことから周囲の冷たい視線を浴び、娘との関係もギクシャクとしてくる。俳優の小林且弥による長編監督第一作で、脚本家で監督でもある斉藤孝の書き下ろしオリジナル。主役をピエール瀧が演じている。

■SYNOPSIS■ 福島の港町。黙々と骨を砕き、遠くまで船を出して小さな包みをまく散骨業の男、井口真吾(ピエール瀧)。かつては猟師だったが、いまは散骨のほかにビニールハウスで小規模な菜園を維持しながら、水産加工場で働く娘の奈生(栗林藍希)と暮らしている。妻はあの震災の津波で失った、というか行方知れずのままいまに至っている。ある日、ひとりの若い男が遺骨をもってあらわれる。どこか訳ありに見えた。

■ONEPOINT REVIEW■ 漁師から罵声を浴びる真吾。漁師という仕事柄、散骨を嫌うのは当然にも見えるが、風当たりが強いのはそれだけではなさそう。だが彼をかばう老漁師もいる。考え方や立場は違っても、同じ痛みを抱える同胞でもあるのだ。娘との関係にしても、負担はかけまいと自由に生きろとけしかけるが、娘にしてみれば突き放されたように感じてしまう。そんなひとりひとりの心の機微を、小林且弥監督と脚本の斉藤孝はやさしく丁寧に描き、ピエール瀧の佇まいもさすが。
               (NORIKO YAMASHITA) 2024年2月17日 記

監督:小林且弥  脚本:齋藤孝
出演:ピエール瀧
栗林藍希/足立智充/内田慈 
押田岳/円井わん/高橋良輔/清水優/遊屋慎太郎
大方斐紗子/大堀こういち 渡辺哲
2024年日本(119分)
配給:マジックアワー  公式サイト:https://studio-nayura.com/suiheisen/
© 2023 STUDIO NAYURA








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      『落下の解剖学』  ANATOMIE D'UNE CHUTE(ANATOMY OF A FALL)
        
2024年2月23日(金・祝)からTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開


© 2023 L.F.P. – Les Films Pelléas /
Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

■山荘で暮らす家族を襲ったアクシデント。落下し死亡した夫は、事故死だったのか他殺だったのかあるいは自殺だったのか。夫婦仲を疑われるなか人気作家の妻が被疑者として浮上し、世間をさわがせる裁判にまで発展してゆく。ジュスティーヌ・トリエ監督の長編4作目で、2023年のカンヌ映画祭最高賞パルムドールを受賞。ことしのアカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門でノミネートされている(3月11日発表)。主演は『ありがとう、トニ・エルドマン』のドイツ人俳優ザンドラ・ヒュラー。

■SYNOPSIS■ フランスの雪深い山の上にぽつんと立つ大きな山荘。夫、息子と暮らす作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)はこの日、学生からインタビューを受けていた。ところが取材がはじまるやいなや、階上から大音量の音楽が鳴りひびき鳴りやまない。またの機会にしましょうと学生を帰らせるサンドラ。教師職の夫のサミュエル(サミュエル・タイス)は息子の勉強を見ながら家で執筆していたが、山荘を改装して宿にするという目標もあり、みずからリフォーム中だった。一方、視覚障害のある息子のダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は、愛犬のスヌープと雪が積もった自然のなかを慣れた様子で散歩中。家にもどると雪が血で染まり父が倒れていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 夫婦の関係が崩壊してゆく様子を描きたい、それが出発点だったと監督は言う。おたがい自由な関係からスタートした夫婦に見える。だが妻は人気作家として成功し、夫のほうはと言えば構想ばかりで先に進まない、小説も山小屋も…。これが男性×男性、女性×女性のカップルだったらどうだったのだろうか。あるいは才能が開花するのが男性のほうだったなら。事件の真相とともに横たわる人間関係の深さが映画をさらに面白くしている。 (NORIKO YAMASHITA) 2024年2月10日 記

監督/共同脚本:ジュスティーヌ・トリエ  
共同脚本:アルチュール・アラリ
出演:ザンドラ・ヒュラー/スワン・アルロー/ミロ・マシャド・グラネール/アントワーヌ・レナルツ/サミュエル・タイス
2023年フランス(152分) 
原題:ANATOMIE D'UNE CHUTE(ANATOMY OF A FALL)
配給:ギャガ 
公式サイト:gaga.ne.jp/anatomy






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               『ファイアバード』  FIREBIRD
            2024年2月9日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開            


●公開にあわせてぺーテル・レバネ監督、 主演のトム・プライヤー、共演のオレグ・ザゴロドニーの来日が決定! 初日舞台あいさつを行う予定。

■1970年代後半、ソ連占領下のエストニアの空軍基地を舞台に、役者志望の二等兵とパイロット将校の禁断の恋を描いたラブストーリー。原作者セルゲイ・フェティソワの実話物語で脚本づくりにも参加したが、完成前に急逝した。監督はエストニア出身で英オックスフォード大や米ハーバード大、カリフォルニア大などで学んだのちに、ミュージックビデオなどを制作してきたぺーテル・レバネ。

■SYNOPSIS■ 1977年、ソ連領エストニア。兵役終了まであとわずかの二等兵セルゲイ(トム・プライヤー)は、実家に戻って家業を継ぐかモスクワに出て役者になるか、進路で迷っていた。そんなある日、ロマン(オレグ・ザゴロドニー)というパイロット将校が転属してきて、彼を見たセルゲイは一瞬で心を奪われる。しかし心を奪われたのはセルゲイだけではなく、仲のいい同僚女性のルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)は積極的にロマンにアプローチするが、ロマンの心をとらえたのはセルゲイのほうだった。ある日こっそりとセルゲイをストラヴィンスキー作曲のバレエ「火の鳥」に誘い出すロマン。ふたりは徐々に距離を縮めてゆくも密告するものがあらわれる。

■ONEPOINT REVIEW■ トム・プライヤーとオレグ・ザゴロドニーという美男×美男を主役に据えた絵に描いたようなラブストーリーは、原作者の実話物語だった。みずから原作をレバネ監督のもとに持ち込み、脚本の段階で参加もしているが、2017年に急逝して完成を目にすることはなかった。映画自体悲恋物語ではあるけれど、かつての『モーリス』や『アナザー・カントリー』のときの女性たちのざわめきを彷彿とさせるような、そんな作品になっている。 (NORIKO YAMASHITA) 2024年1月31日 記

監督/共同脚本:ペーテル・レバネ  共同脚本:トム・プライヤー 
原作/共同脚本:セルゲイ・フェティソフ 
出演:トム・プライヤー/オレグ・ザゴロドニー/ダイアナ・ポザルスカヤ
2021年エストニア=イギリス(107分)
原題:FIREBIRD  配給:リアリーライクフィルムズ 
公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/firebird

© FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms







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         『瞳をとじて』 CERRAR LOS OJOS(CLOSE YOUR EYES)
      2024年2月9日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開         


■撮影中に主演俳優が失踪し迷宮入りとなった事件を、20余年後にTV番組が追跡。その映画の監督で俳優の親友でもあった男が証言者として番組に呼ばれ、ともに過ごした青春時代や自身の過去を振り返るなかで事件に迫るミステリータッチのヒューマンドラマ。『ミツバチのささやき』(1973年)のスペインの名匠ヴィクトリア・エリセ監督が『マルメロの陽光』以来31年ぶりに発表した長編映画。

■SYNOPSIS■ 俳優フリオ・アレナスの失踪事件から22年経ったある日、元映画監督でいまは海辺の町で隠遁者のように暮らすミゲルは、未解決事件を追うTV番組に出演するため都会におもむく。フリオとミゲルは水兵としてともに青春時代を送った仲で、映画業界に入ってからも恋敵となったりかかわりは深かった。恋多き男フリオは酒におぼれることもあった。いろいろと回想しゆかりのひとに会ってゆくなか、番組を見たひとから情報が寄せられる。

■ONEPOINT REVIEW■ 「悲しみの王」と名づけられた重厚な屋敷から始まる。そこを訪れた男は屋敷の主から、生き別れとなり中国にいる娘を探してほしいと依頼される。さては中国が舞台、と思えばそうではなく、20数年後に場面は変わり劇中劇だったことが判明する。失踪した主演俳優をめぐるミステリアスな物語だった。その転換はみごとで一気に引きこまれる。『ミツバチのささやき』で知られた当時の子役、アナ・トレントがフリオの娘役で登場し、エリセ監督と50年ぶりの長編映画共働。 
                (NORIKO YAMASHITA) 2024年1月30日 記

監督/共同脚本:ヴィクトル・エリセ  共同脚本:ミシェル・ガスタンビデ
出演:マノロ・ソロ/ホセ・コロナド/アナ・トレント
2023年スペイン(169分)  原題:CERRAR LOS OJOS(CLOSE YOUR EYES)
配給:ギャガ  公式サイト:https://gaga.ne.jp/close-your-eyes/
© 2023 La Mirada del Adios A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.






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           『ダム・マネー ウォール街を狙え!』  DUMB MONEY
          2024年2月2日(金)からTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
          


© 2023, BBP Antisocial, LLC.
All rights reserved.

■ひとりの男の呼びかけが、米金融界を牛耳るウォール街を震撼させることになった「ボロ株」値上がり騒動。コロナ禍に実際に起こり裁判沙汰にまで発展した事件の顛末を描いたエンタメタッチの社会派ドラマ。映画『ソーシャル・ネットワーク』などの原作者ベン・メズリックのノンフィクションを、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピー監督で映画化。

■SYNOPSIS■ 米マサチューセッツ州。保険会社で金融アナリストとして働くサラリーマンのキース・ギル(ポール・ダノ)にはもうひとつの顔があった。退社後「ローリング・キティ」と名乗り株式投資の動画を配信しているのだ。目下の推し株は、ゲームソフトを実店舗で売る会社「ゲームストップ」株で、投資家のあいだでは「ボロ株」と言われていたが、この株を推す確固たる自信がキースにはあって、全財産の5万3000ドルを自ら投資し妻のキャロライン(シャイリーン・ウッドリー)も優しく見守っていた。ゲームストップ株不振の一因には大手ヘッジファンドによる株価操作があったが、その意に反して株価は徐々に上昇。株式市場に異変が起きる。

■ONEPOINT REVIEW■ キースが煽り、彼のフォロワーであるふつうのひとたちが個人投資家となってゲームストップ株が買われてゆく背景には、手数料なしで株が買えるアプリ「ロビンフッド」の登場がある。しかしこの新興会社はいったいなにで儲けを出しているのか。彼らが決して庶民の味方ではなかったことが騒動のさなか明らかになってゆく。魑魅魍魎とした株式の世界。そんななかキースらの一発逆転劇は果たして実を結ぶのか。どう決着がつくのかという面白さもある。
(NORIKO YAMASHITA) 2024年1月19日 記

監督:クレイグ・ギレスピー
脚本:ローレン・シューカー・ブラム/レベッカ・アンジェロ
原作:ベン・メズリック
出演:ポール・ダノ/ピート・デヴィッドソン/ヴィンセント・ドノフリオ/アメリカ・フェレーラ/ニック・オファーマン/アンソニー・ラモス/セバスチャン・スタン/シャイリーン・ウッドリー /セス・ローゲン
2023年アメリカ(105 分)  原題:DUMB MONEY
配給:キノフィルムズ  公式サイト:dumbmoney.jp






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              『哀れなるものたち』 POOR THINGS 
    2024年1月19日(金)から TOHOシネマズ日本橋/TOHOシネマズ日比谷ほか先行上映
    2024年1月26日(金)から TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開



■とある科学者にひろわれたひとりの女性の命が、再生されあらたな命へと生まれ変わる。SFチックな発想をベースに、壮大な物語へと展開してゆく人間ドラマ。アラスター・グレイの同名小説を、ギリシャ出身で『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモスで映画化。

■SYNOPSIS■ 橋の欄干から身を投げるひとりの女性。この世から失せたかと思われたがある男に拾われ、あたらしい命が誕生する。男は大学で教える科学者のゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)。生まれ変わった少女ベラ(エマ・ストーン)をわが子のように可愛がりながら観察し、教え子のマックス・マッキャンドレス(ラミ―・ユセフ)を助手として招き入れる。ベラに惹かれてゆくマックス。バクスターもいつまでも彼女を手元に置きたいと望むが、自我が芽生えはじめたベラは「世界を自分の目で見たい」と、怪しげな弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)とともに旅に出る。

■ONEPOINT REVIEW■ ドラマチックな導入部から一転、自由奔放に育った発展途上のベラの姿へと移り、さらにアイデンティティに目覚め、性にも目覚めて少女からおとなの女性になってゆくベラへと移ってゆく。その展開は壮大で観客は大海の中に放り込まれ泳がされるが、終盤になりふと女性が身を投げた導入部を思い出す。ひとりの女性のアドベンチャー物語であるとともに復讐劇であり、そしてジェンダーが大いにからんだお話だった。 (NORIKO YAMASHITA)

監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:トニー・マクナマラ
原作:アラスター・グレイ「哀れなるものたち」(早川書房)
出演:エマ・ストーン/マーク・ラファロ/ウィレム・デフォー/ラミー・ユセフ/ジェロッド・カーマイケル/クリストファー・アボット
2023年イギリス(142分)  原題:POOR THINGS
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.






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               『ミツバチと私』 20,000 SPECIES OF BEES
    2024年1月5日(金) から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開


■夏のバカンスを故郷で過ごす母と子どもたち。男の子として生まれた末っ子アイトールは女の子として生きたいと思っているがかなわず、心を閉ざしがち。そんなデリケートな心を持つ幼い子と、彼をとりまく親族たちを描いた人間ドラマ。アイトールを演じたソフィア・オテロは初演技の本作でベルリン映画祭最優秀主演俳優賞を受賞。長編第一作のエスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督も同映画祭銀熊賞受賞。

■SYNOPSIS■ 仕事だという夫を残し、あわただしくバカンスに出る妻のアネと子どもたち。向かうは隣接する故郷だが、とつぜんの帰省にも優しく受け入れる母や叔母たち。古くからさまざまな文化をはぐくんできたバスク地方。叔母が営む養蜂もそのひとつで、彼女はミツバチの針を使った伝統的な蜂針療法の診療も行っていた。そしてアネの亡き父親は有名な彫刻家で、彼女自身もかつては同じ道を目指していた。そんな彼女の子育ての悩みは、末っ子アイトールがココ(坊やの意味)と呼ばれるのを嫌がり、女の子になりたがっていることだった。 

■ONEPOINT REVIEW■ 故郷スペインのバスク地方に隣接するフランス領バスク地方のバイヨンヌで暮らす一家は、夫を残して妻と子どもたちだけで夏のバカンスのために帰省する。中心で描かれるのは末っ子アイトールの、女の子として生きたいジェンダー問題だがそれだけではない。もともとは彫刻家を目指していたアイトールの母アネは人生の岐路で生き方を見つめ直すことになり、またスペインとフランスに分断されているバスク地方の民族的アイデンティティという問題も背後に横たわっている。幅広い意味でのアイデンティティをソラグレン監督は複合的に描いている。 
(NORIKO YAMASHITA)

監督/脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン 
出演:ソフィア・オテロ/パトリシア・ロペス・アルナイス/アネ・ガバライン
2023年スペイン(128分)  英題:20,000 SPECIES OF BEES
配給:アンプラグド  公式サイト:https://unpfilm.com/bees_andme/
© 2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS ESPECIES DE ABEJAS AIE








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               『PERFECT DAYS』 PERFECT DAYS
        2023年12月22日(金) から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開


■公共トイレの清掃員として働き、規則正しい日々を黙々と生きるひとり住まいの中年男性。『ベルリン天使の詩』のドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督が、東京渋谷と下町押上周辺を舞台に撮った人間ドラマ。主役の役所広司が第76回カンヌ国際映画祭男優賞を受賞。実際に展開されてきたTOKYO TOILETプレジェクトとの連携作品。

■SYNOPSIS■ 日が昇るまえに起床し、仕事着のつなぎを着て自前の軽バンで仕事場に向かう平山(役所広司)は、渋谷の方々につくられた特徴あるトイレの清掃員。黙々と仕事をこなす寡黙な平山とは対照的にチャラい後輩、タカシ(柄本時生)が話しかけても返事はない。ある日仕事からアパートに戻ってくると女子高生がひとり外階段に座り待っていた。家出してきた姪のニコ(中野有紗)だった。

■ONEPOINT REVIEW■アパートに家財らしきものはほとんどなく、粗末な箪笥と薄っぺらな布団が一組あるくらい。友人や親族とのつき合いもないが、平山の一日はけっこう充実している。仕事から戻ると銭湯でひと汗流し、なじみの居酒屋で一杯。フィルムカメラに収めた木々のゆらめきを写真店で現像焼き付けしてもらうのも楽しみのひとつだ。そしてミニバンの中では好みの音楽がカセットテープで流される。アニマルズ、ヴァン・モリソン、パティ・スミス、ルー・リード、ニーナ・シモン…。ルー・リードの「パーフェクト・デイ」をヴェンダース監督は『アランフェスの麗しき日々』(2016年)でも使っており、姪の名前ニコもヴェルヴェット・アンダーグラウンドつながりか。古本屋で幸田文を買い、夜はフォークナーを読みながら眠りに落ちる。恐らく訳ありの過去を持ちながらいまはシンプルな日々を送る平山という男を、役所広司は品よく美しく演じている。  (NORIKO YAMASHITA)

監督/共同脚本:ヴィム・ヴェンダース
共同脚本:高崎卓馬  製作:柳井康治
出演:役所広司/柄本時生/中野有紗/アオイヤマダ/麻生祐未/石川さゆり/田中泯/三浦友和
2023日本(124分)
配給:ビターズ・エンド  公式サイト:https://perfectdays-movie.jp/
ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.






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    『きっと、それは愛じゃない』 WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT?
 2023年12月15日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開


■異文化であるパキスタンからの移民が多い英国ロンドン周辺を舞台に、家が隣同士の幼なじみふたり、英国人の白人女性とパキスタン系の男性の恋の行方を追ったラブコメディ。監督は『エリザベス』(1998年)のパキスタン系ベテラン監督シェカール・カプール。脚本はパキスタンの前首相イムラン・カーンと結婚歴のある英国出身のジェミマ・カーン。ふたりの出自経歴が生かされた作品になっていて、主役は『ダウントンアビー』(TV)や『シンデレラ』(2015年)のリリー・ジェームズ。

■SYNOPSIS■ 隣人家で次男の結婚パーティーがあり、新進のドキュメンタリー監督ゾーイ(リリー・ジェームズ)は久しぶりに同家の長男で幼なじみのカズ(シャザド・ラティフ)と再会する。おたがい独身同士のふたり、すぐに打ち解けて雑談するなか、ぼくも結婚するんだと告げられてゾーイは驚くが、相手はまだいなくてお見合いすると言われ、いまどきなんでとさらに仰天する。一方ゾーイは、次回作の打ち合わせをプロデューサーとしているとき話の流れからとっさに、「パキスタン出身の両親を持つ幼なじみが、親が選んだ赤の他人と結婚するまでを追いたい」と提案する。

■ONEPOINT REVIEW■ 王道ラブコメディ。たぶんこうなるだろうなと想像させながらも、あれれ?と思わせる紆余曲折があり、なかなか着地点が見えてこない。脚本のジェミマ・カーンによると、ロマンスに対するアプローチが東西でどう違うかを探究することが出発点だったという。人と人が誓いを立てて生涯をともにする結婚という儀式。恋愛の延長とシンプルに考えるひともいれば、家族同士のつながりを考え、その背後にある生活様式や宗教などでがんじがらめになるパターンもあるだろう。そんな軽くはないテーマを背景にコミカルに描いてゆく。(NORIKO YAMASHITA)

監督:シェカール・カプール
脚本:ジェミマ・カーン
出演:リリー・ジェームズ/シャザド・ラティフ/シャバナ・アズミ/エマ・トンプソン/サジャル・アリー
2022年イギリス(109分)
原題:WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT?
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://wl-movie.jp/
© 2022 STUDIOCANAL SAS. ALL RIGHTS RESERVED. 






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  『ポトフ 美食家と料理人』 LA PASSION DE DODIN BOUFFANT(THE TASTE OF THINGS)
                2023年12月15日(金)から
    Bunkamuraル・シネマ渋⾕宮下/シネスイッチ銀座/新宿武蔵野館ほか全国順次公開
       


■19世紀後半のフランス。当代髄一の美食家の男性と、彼が生み出した料理の数々を調理し具現化してゆく女性。食に打ち込み人生を捧げるふたりの同志的友情と愛を描いた人間ドラマ。ガストロノミー(美食学)の代名詞的存在で「美味礼賛」の著者、ブリア=サヴァランをモデルにしたとされるマルセル・ルーフ作「美食家ドダン・ブーファンの生涯と情熱」をベースに、『青いパパイアの香り』のトラン・アン・ユン監督が映画化。第76回カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞している。

■SYNOPSIS■ 1885年のある日。広々とした土間の調理場でテキパキと指示を出すドダン(ブノワ・マジメル)と、指示に従い黙々と調理するウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)。ふたりはお互い尊敬し合い、20年間阿吽の呼吸で至福の料理を生み出してきた仲。この日はドダンの美食仲間4人を招いての午餐会。大切な日なのだ。そんなドダンのもとにユーラシア皇太子から晩餐会の招待状が舞い込む。それは3部構成8時間にも及ぶ食事会で驚嘆させるものではあったが、ドダンは考え込んでしまう。そしてお返しに皇太子を招待するにあたり、フランスの家庭料理でシンプル極まりない「ポトフ」が彼の頭に上る。

■ONEPOINT REVIEW■ 美食映画はいくつもあるが、ひとを幸せにする至福の料理という点で、35年前の名作『バベットの晩餐会』をふと思い出させる。しかし料理シーンをみっちり見せる一方で、ドダンとウージェニーの関係も丁寧に描かれ、じつにバランスよく進んでゆく。そしてある出来事が起きどう展開するのか。最初のころから登場する絶対味覚を持つ少女が重要な役回りで関わってゆく。(NORIKO YAMASHITA)

監督/脚本︓トラン・アン・ユン
出演︓ジュリエット・ビノシュ/ブノワ・マジメル
料理監修/出演︓ピエール・ガニェール
2023年フランス(136分)
原題︓LA PASSION DE DODIN BOUFFANT(THE TASTE OF THINGS)
配給︓ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/
©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA






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             『VORTEX ヴォルテックス』 VORTEX 
                 2023年12月8日(金)から
   ヒューマントラストシネマ渋谷/新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開


■代表作『アレックス』をはじめ暴力やセックスの過激な表現で独自の世界観を貫いてきたギャスパー・ノエ監督。ときに過激度が激しすぎて、なにが描かれているのか分からないほどモザイクがかかった作品もあった。そのノエ監督の新境地と言っていいのか、新作は老夫婦の死を正面から描いていて全体が黒枠に囲まれている。まさにあの世に片足を突っ込んだような、ほかに比べようのない作品になっている。老人夫婦の夫役は『サスペリア』のイタリアの著名監督ダリオ・アルジェント、そして『ママと娼婦』のフランス人俳優フランソワーズ・ルブランが妻を演じている。黒枠だけではなく2分割のスプリット画面で進められてゆく。

■SYNOPSIS■ 共用の小さなテラスで穏やかに朝食をとる老夫婦。だがふたりは一緒に暮らしてはいない。隣りあわせになったマンションの二部屋にそれぞれ住み、たがいに行き来する別居生活。夫のルイは映画評論家で現在「映画と夢」の本を執筆中。一方妻のエルは精神科医だったが認知症を患い、日に日に症状は悪化している。この日もいつの間にか徘徊をはじめ、気づいた夫が探し回る羽目に。連絡を取り合う息子がいるがドラッグ中毒からなかなか抜け出せず、不安定な生活を送っている。ある日、ルイは持病の心臓発作で倒れるも薬が見つからない。

■ONEPOINT REVIEW■ エドガー・アラン・ポーが、(人生は)すべて夢の中の夢に過ぎないのでしょうかと詠った詩作「夢の中の夢」、そしてバラの美しさと儚さを歌ったフランソワーズ・アルディの曲「MON AMI LA ROSE(邦題:バラのほほえみ)」。導入部での核心をついたこのふたつの作品の引用によって、一気にギャスパー・ノエの世界に引きずり込まれてゆく。かつては若く溌溂としていたであろう老夫婦のあっという間の夢のような人生。静かに静かに感情をゆさぶる。
(NORIKO YAMASHITA)

監督/脚本:ギャスパー・ノ エ
出演:ダリオ・アルジェント/フランソワーズ・ルブラン/アレックス・ルッツ
2021年フランス(148分)
原題:VORTEX  配給:シンカ  映倫:PG12
公式サイト:https://synca.jp/vortex-movie/
© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA





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          『マイ・ファミリー~自閉症の僕のひとり立ち』(ドキュメンタリー) 
               KEES VLIEGT UIT(A PLACE LIKE HOME) 
           
2023年11月25日(土)~12月8日(金)新宿K'sシネマで公開


■長年実家の離れで〝半分だけ自立〟して生活してきた42歳の自閉症の男性。だが両親も高齢になり、〝完全なる自立〟を目指し奮闘するその様子を、8年間にわたって追ったドキュメンタリー。監督は一家と25年以上の交流があり、3人の関係を撮り続けてきたモニーク・ノルテ監督。前作『ケースのためにできること』は本国オランダで延べ450万人が見た国民的作品となり、主人公のケースは有名人でもある。

■SYNOPSIS■ 自閉症と診断されているケースは実家と行き来できる隣の離れで、半自立という暮らしを送っている。しかしこれまではそれがベストな形だったが、彼自身42歳になり両親も年老いてきたいま、いつかはふたりが先に逝ってしまうだろうことも頭をよぎる。そこで今後を考えた結果、完全なる自立を目指し完全なるひとり暮らしを実行に移すことに。

■ONEPOINT REVIEW■ ふしぎと悲壮感がない。一家が裕福で暮らしに恵まれていることがまず第一にあるだろう。また福祉的な話は一切出てこないが、オランダという国がその点において一歩リードしているのが背景にあるようにも感じられる。そしてなによりケースと両親の人柄。彼は細密画のアーティストでもあり、気難しい気性を少なからず持っていてときに癇癪を起こすこともあるが、彼の怒りについ耳を傾けたくなってしまう。ドキュメンタリーというより家族ドラマを見ているようなそんな錯覚を覚える作品だ。

監督/脚本:モニーク・ノルテ
出演:ケース・モンマ/ヘンリエッテ・モンマ/ヴィレム・モンマ/ヤスパー・モンマ
2023年オランダ(83分) 原題:KEES VLIEGT UIT(A PLACE LIKE HOME)
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/myfamily/






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                    『正欲』 seiyoku
          2023年11月10日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開


■正常な欲望<正欲>とはなにか。ふつうとは?多様性とは?法の番人として正義感にあふれる一方で、息子の不登校に不寛容で妻とも分かり合えない検事の男性と、多くのひととは違う性的指向を抱えながら社会と折り合いをつけて生きている女性。そのふたりを軸に5人の人物の人生が交差して描かれる人間ドラマ。朝井リョウのベストセラー小説を、『あゝ、荒野』の岸善幸監督、『MOTHER マザー』の港岳彦の脚本で映画化。
新垣結衣が新境地。

■SYNOPSIS■ 妻と息子の3人家族の寺井啓喜(稲垣吾郎)は地方検察庁の検事。ある日、息子の泰希から憧れのユーチューバーのように、学校に行かずに動画配信をしてみたいと相談されるも、理詰めで一蹴する。そんな啓喜が現在扱っている案件は奇妙なものだったが、世の中には異常性愛のひとって多いみたいですよ、と事務官から聞かされる。一方、ショッピングモールに勤めながら両親と広島に暮らす桐生夏月(新垣結衣)は、退屈な日々を送っていた。世の人々のように結婚願望がない。そんな彼女には中学時代、横浜へ転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)との忘れがたい思い出のシーンがあった。その佳道が15年ぶりに広島に戻ってくるという。

■ONEPOINT REVIEW■ サドマゾ、フェティシズム…ひととは少し違ったセクシャリティは、これまでも興味本位あるいは文学的な扱いで描かれてきた。朝井リョウが取り上げたのも、ただ隠れていただけあるいは隠されていただけで、むかしから存在したもの、かもしれない。けれど同じ嗜好を持つひとがつながることによって、新たな家族の形が生まれる可能性もある。そんな暗示が寺井啓喜の一家とは対照的に描かれている。

監督:岸善幸  脚本:港岳彦
原作:朝井リョウ「正欲」(新潮文庫)  音楽:岩代太郎
主題歌:Vaundy「呼吸のように」(SDR)
出演:稲垣吾郎/新垣結衣/磯村勇斗/佐藤寛太/東野絢香/山田真歩/徳永えり 
2023年日本(134分)  配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://bitters.co.jp/seiyoku/
©2021朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会






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      『パトリシア・ハイスミスに恋して』(ドキュメンタリー)LOVING HIGHSMITH
                 2023年11月3日(金・祝)から
    新宿シネマカリテ/Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


上© RolfTietgens_CourtesyKeithDeLellis
中© EllenRifkinHill_CourtesySwissSocialArchives


■ヒッチコック監督『見知らぬ乗客』、アラン・ドロン主演『太陽がいっぱい』,ヴェンダース監督『アメリカの友人』など映画の原作者としても広く愛されたパトリシア・ハイスミスを追ったドキュメンタリー。自身の体験から創作された「キャロル」は大ベストセラーとなったが、同性愛を扱った作品ゆえにクレア・モーガン名義で発表せざるを得なかった当時の状況を含め、その私生活に踏み込んだ作品になっている。監督はハイスミスが晩年暮らしたスイス出身のエヴァ・ヴィティヤ。これが長編ドキュメンタリー2作目となる。

■SYNOPSIS■ パトリシア・ハイスミスは1921年1月19日、米テキサス州フォートワースの生まれ。誕生するわずか9日前に両親は離婚。中絶も考えられていた望まれない子だった。すぐに母親はニューヨークに移り、ハイスミスは6歳まで祖母のもとで育てられる。やがてニューヨークの母に引き取られるも愛されることはなく、10代半ばには同性愛を疑われ、ボーイフレンドをあてがわれるという嫌な経験もした。その後作家としての才能が開花し、長編1作目の「見知らぬ乗客」(1950年)が早々にアルフレッド・ヒッチコック監督によって映画化されるが、それ以前に書かれていたのがレズビアン小説の「キャロル」だった。同作品は60余年のときを経て2015年にトッド・ヘインズ監督によって映画化された。

■ONEPOINT REVIEW■ 2021年に生誕100年を迎えたのを契機に日記とノートが出版されたというが、ヴィティヤ監督がスイス文学資料館に通い日記等を読んだのはおそらく出版前のことだろう。資料を読みすすめるなかでドキュメンタリーの方向性が固まっていったにちがいない。作家としての成功の陰に隠れていた私生活。アンダーグラウンドの世界で輝いていたハイスミスの華やかな恋愛事情が明かされてゆく。
(NORIKO YAMASHITA) 2023年11月2日 記

監督/脚本:エヴァ・ヴィティヤ 
ナレーション:グウェンドリン・クリスティー
出演:マリジェーン・ミーカー/モニーク・ビュフェ/タベア・ブルーメンシャイン/ジュディ・コーツ/コートニー・コーツ/ダン・コーツ 
音楽:ノエル・アクショテ 
演奏:ビル・フリゼール/メアリー・ハルヴォーソン
2022年スイス=ドイツ(88分) 原題:LOVING HIGHSMITH
配給:ミモザフィルムズ  公式サイト:
© 2022 Ensemble Film / Lichtblick Film 






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              『理想郷』  AS BESTAS(THE BEAST)
  2023年11月3日(金・祝)からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/シネマート新宿ほか全国順次公開
 


© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

■理想郷をもとめて美しい山間の村に移住してきた都会育ちの夫婦。しかし開発をめぐり地元の兄弟と対立し、しだいに険悪な様相を深めてゆくサスペンスタッチの人間ドラマ。メガホンは『おもかげ』のスペインの監督ロドリゴ・ソロゴイェン。『ジュリアン』や『苦い涙』のドゥ二・メノーシェと、『私は確信する』『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』のマリナ・フォイスという名優ふたりが夫婦を演じている。昨年の東京国際映画祭でグランプリ、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞の3冠を受賞。

■SYNOPSIS■ 村の酒場で〝フランス野郎〟とからまれるアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)。2年前にフランスの都会からスペインの緑豊かな山岳地帯ガリシア地方の寒村に妻のオルガ(マリナ・フォイス)と移住してきたが、どう見ても村に溶け込んでいるとは言い難かった。とくに新参者の夫妻に対し敵意をもってバリアを張るのは、隣家のシャロンとロレンソ兄弟。対立のきっかけは風力発電の開発計画で、貧困に苦しむシャロンらは一時金欲しさに賛成に回ったが、アントワーヌら反対票のせいで開発はとん挫しかかっていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 1997年にスペインで実際に起きた現地では有名な事件を、オランダ人夫婦からフランス人夫婦に置き換えて描いているが、ここにはいろんな問題が潜んでいる。閉鎖された村社会と都会のインテリ夫婦、そのうえスペイン人とフランス人では気質もちがうことだろう。そして慢性的な貧困。そこに開発という思いがけないチャンスがめぐってくるが、2年前に越してきた都会人がここは自分たちの故郷と言って開発に反対したなら、それもまたひとつのエゴにちがいない。いちばん面白いのは終盤に事件が起きて、主人公がアントワーヌから妻のオルガへと移るところ。みごとな構成になっている。(NORIKO YAMASHITA) 2023年11月2日 記

監督/共同脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン  共同脚本:イザベル・ペーニャ
出演:ドゥニ・メノーシェ/マリナ・フォイス/ルイス・サエラ/ディエゴ・アニード/マリー・コロン
2022年スペイン=フランス(138分)  原題:AS BESTAS(THE BEAST)
配給:アンプラグド  公式サイト:







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                  『SISU/シス 不死身の男』 SISU  
          2023年10月27日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開


■ツルハシ一丁でメッタ切り! 大戦末期のフィンランドを舞台に、侵攻しわがもの顔で庶民から略奪し凌辱するソ連およびナチス・ドイツの軍隊に対し、ひとり立ち向かう伝説の老兵を描いた超ド級バイオレンス・アクション。監督はCMなどで活躍し、『レア・エクスポーツ~囚われの サンタロ-ス~』ほかの長編映画作品がある地元フィンランド出身のヤルマリ・ヘランダー。ヘランダ―監督の長年の相棒で『…囚われの サンタロ-ス~』でも主役を務めていたヨルマ・トンミラが不屈の男を演じている。

■SYNOPSIS■ 1944年、第二次大戦末期。ソ連軍が侵攻し、さらにナチス・ドイツの焦土作戦で焼け野原と化したフィンランド。そんな焼きつくされた祖国の大地を満身創痍の老兵が馬に乗り、汚れきった愛犬とともにゆく。男はたったひとりでソ連兵300人に打ち勝ったと伝えられる伝説の男、アアタミ(ヨルマ・トンミラ)だった。背中に担いでいるツルハシはときには武器にもなるが、しかし携えているほんとうの理由は金塊を掘り当てるため。ある日…。

■ONEPOINT REVIEW■ 300人のソ連兵に打ち勝ったという伝説どおりこの男、地雷に吹き飛ばされても、縛り首になっても死なない。しかしその不死身ぶりは漫画チックなのっぺり感はなくとてもリアル。タイトルの「SISU」は不屈の魂とか、反骨精神とかの意味を含むフィンランド独自の比較的新しい言葉だという。ソ連やドイツにいじめられ続ける歴史のなかで生まれた反骨も、女性たちの強さもコンパクトに収められた、真の意味で小気味のいいバイオレンス・アクションだった。 
(NORIKO YAMASHITA) 
  
2023年10月26日  記

監督/脚本:ヤルマリ・ヘランダー
出演:ヨルマ・トンミラ/アクセル・ヘニー/ジャック・ドゥーラン/ミモサ・ヴィッラモ/オンニ・トンミラ
2022年フィンランド(91分)
原題:SISU  配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/sisu/
© 2022 FREEZING POINT OY AND IMMORTAL SISU UK LTD. ALL RIGHTS RESERVED.






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         『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』 LA SYNDICALISTE  
       2023年10月20日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開


©2022 le Bureau Films - Heimatfilm GmbH + CO KG – France 2 Cinéma

■陰惨なレイプの被害者か、それとも自作自演の犯罪者か。中国への原子力技術移転をめぐる内部告発に端を発した労組トップ襲撃事件。フランスで実際に起きて世間をにぎわせた事件を、当事者モーリーン・カーニーにフォーカスして描いたサスペンスタッチの社会派ドラマ。イザベル・ユペールがモーリーン役を演じ、『ゴッドマザー』で協働したジャン=ポール・サロメ監督がメガホンを取っている。

■SYNOPSIS■ 原子力企業アレバの労働組合トップとして世界を飛び回るモーリーン・カーニー(ユペール)。本社のあるパリに戻るとおなじ女性として心強い存在の盟友アンヌ(マリナ・フォイス)が、大統領サルコジから社長の任を解かれる。後任は〝小物〟のウルセル(イヴァン・アタル)。ある日、フランス電力公社の男から内部告発の書類を渡されそれをアンヌに見せると、ウルセルの野望は中国と手を組み、低コストの原発を建設することだと聞かされる。危機感を感じたモーリーンが国の上層部に訴えはじめると警告が届き、身辺に不穏な空気がただよう。

■ONEPOINT REVIEW■ 危機管理がむずかしく、しかもフランスのトップ技術であった原子力開発分野で中国と手を組むという失態。国家戦略の大きな局面を描いた社会派ドラマだが、それ以上にジェンダーの問題を意識的に強く描いているのがこの作品の特徴。サロメ監督は「カーニーの事件は告発者の物語であり、また男性社会の中のひとりの女性の物語である。この社会の男たちにとって、いかなる危険を冒してでも告発しようとする女性は異物でしかなかった」と言う。カーニーに寄り添って記事を書いた女性記者、キャロリーヌ・ミシェル=アギーレの著書「LA SYNDICALISTE(組合活動家の意味)」がベースになっている。 (NORIKO YAMASHITA) 
2023年10月18日  記

監督:ジャン=ポール・サロメ   脚本:ファデット・ドゥルアール
原作:キャロリーヌ・ミシェル=アギーレ「LA SYNDICALISTE」
出演:イザベル・ユペール/グレゴリー・ガドゥボア/フランソワ=グザヴィエ・ドゥメゾン/ピエール・ドゥラドンシャン/アレクサンドリア・マリア・ララ/ジル・コーエン/マリナ・フォイス/イヴァン・アタル
2022年フランス=ドイツ(121分)  原題:LA SYNDICALISTE
配給:オンリー・ハーツ  公式サイト:http://mk.onlyhearts.co.jp/






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              『シック・オブ・マイセルフ』  SICK OF MYSELF 
2023年10月13日(金)から新宿武蔵野館/渋谷ホワイトシネクイント/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


■成功しつつある恋人に対する対抗心と嫉妬心がむき出しとなり、とんでもない手段で世間の注目を集めようとする若い女性を描いたホラーチックなドラマ。本邦初登場、30歳代後半のノルウェーの新鋭クリストファー・ボルグリ監督が、スノッブ志向の強い若いカップルをスタイリッシュかつシニカルに描き出してゆく。

■SYNOPSIS■ 恋人のトーマスは新進アーティストとして脚光を浴びようとしていた。なのにカフェのウェイトレスの自分は何者にもなれず、彼とパーティーに出てもだれの注目も集めない。せいぜいアレルギーの患者を装って人々の気を引いてみる。そんなシグネの恋人に対する対抗心と嫉妬心はつのるばかりだったが、ある日ネットで見たロシアの怪しげなドラッグに釘づけとなる。そのクスリの副作用は半端ではなく、顔中を激しいできもので覆われたひとが続出していた。

■ONEPOINT REVIEW■ なんとしてでも名声がほしい若い男と女。男は著名家具を窃盗して、それを素材に作品をつくりつづけている新進のアーティスト。一方女は、注目されるパートナーがうらやましいどころか妬ましく、自分の肉体を痛めてででもひとの目にとまりたい。しかしこれはいまや突飛な話ではない。顔中に星のタトゥーを入れて戻せなくなったひとや、美容整形の失敗の繰り返しで取り返しのつかなくなったひとたち。監督は現実に起こっていることを、ちょっと誇張して描いただけなのかもしれない。(NORIKO YAMASHITA)
   
2023年10月15日  記

監督/脚本:クリストファー・ボルグリ
出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ/アイリク・サーテル/ファンニ・ヴァーゲル/ヘンリク・メスタド/アンドレア・ブライン・ホヴィグ
2022年ノルウェー=スウェーデン=デンマーク=フランス(97分)
英題:SICK OF MYSELF  配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/sickofmyself/
©Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022






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                  『ヨーロッパ新世紀』  R.N.M 
          2023年10月14日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開


■パルムドールを受賞した『4ヶ月、3週と2日』や『汚れなき祈り』などでカンヌ映画祭の常連となったクリスティアン・ムンジウ監督の新作は、祖国ルーマニアの村社会を舞台にした人間ドラマ。出稼ぎ先のドイツで差別的な言葉を受け故郷に舞い戻る男、外国人労働者の雇用に抵抗する村人たちの様子などが群集劇風に描かれてゆく。

■SYNOPSIS■ クリスマスシーズンのドイツ。出稼ぎ中のマティアスは職場で侮蔑的な言葉を吐かれカッとなり、思わず暴力をふるい故郷ルーマニアの村トランシルヴァニアに逃げ帰る。だが息子とふたりでひっそりと暮らしてきた妻にしてみれば、夫の今さらながらの帰郷に納得いかない。一方、女性ふたりが経営するパン工場の悩みは慢性的な人手不足。EUからの補助金も当てにしつつなんとかスリランカ人ふたりの雇用を確保するが、SNSでの差別的な書き込みをきっかけに彼らへの風当たりが強くなってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 差別的な言動や行動が渦巻いている。ドイツの職場でマティアスは先輩らしいき男から〝ジプシー〟と罵られるが、頭に血が上るのは彼自身が日ごろロマのひとたちに対して差別的な感情を持っているからにほかならない。さらにマティアスは突然帰った家で妻の意向を無視し突然親面をして、息子を〝男らしく〟育てようと親の権利を行使する。この家庭では男女の序列がはっきりしていたに違いない。ジェンダー的な視点は入っていないが、おのずとその差別も浮き彫りになってくる。                (NORIKO YAMASHITA) 
  
2023年10月13日  記

監督:脚本:クリスティアン・ムンジウ
出演:マリン・グリゴーレ/エディット・スターテ/マクリーナ・バルラデアヌ
2022年ルーマニア=フランス=ベルギー(127分)  原題:R.M.N.
配給:活弁シネマ倶楽部/インターフィルム  
公式サイトhttps://rmn.lespros.co.jp
©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022







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           『ヒッチコックの映画術』  MY NAME IS ALFRED HITCHCOCK 
 2023年9月29日(金)から新宿武蔵野館/YEBISU GARDEN CINEMA/角川シネマ有楽町
ほか全国公開


■自作著書を映画化した『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』で、ひと味違う切り口による映画史を展開してみせたドキュメンタリー作家のマーク・カズンズ。今回彼が取り上げたのはスリラー/サスペンス映画の大御所アルフレッド・ヒッチコック監督。映画黎明期から数々の作品のなかで築いてきた独自の映画テクニックを、(死んだはずの)彼自身が解説してゆくという遊び心いっぱいのドキュメンタリー。

■SYNOPSIS■ イギリスで生まれたアルフレッド・ヒッチコックは、サイレント時代から英国映画界で活躍。米ハリウッドに移ってからも、いきなり『レベッカ』(1940年)が第13回アカデミー賞作品賞を受賞。さらに『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)、『裏窓』(1954年)、『泥棒成金』(1955年)、『北北西に進路を取れ』(1959年)、『サイコ』(1960年)、『鳥』(1963年)など大ヒット作を連発。ここでは英国時代の作品を含めた52作品が取り上げられてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ マーク・カズンズ監督は時代順に作品を並べるのではなく、6つの章に分けて考察している。①逃避 ②欲望 ③孤独 ④孤独 ⑤充実 ⑥高さ。ちがう時代の作品がつながれることにより生まれる新たな意味。ドキュメンタリー制作の過程でカズンズ監督は、ヒッチコックのもっとも良き生徒のひとりになっていったのかもしれない。そしてヒッチコック自身に語らせるという遊び心もまたヒッチコック的センスかも。        (NORIKO YAMASHITA) 
  
2023年9月27日  記


監督/脚本:マーク・カズンズ
声の出演:アリステア・マクゴーワン
2022年イギリス(120分)
原題:MY NAME IS ALFRED HITCHCOCK
配給:シンカ
公式サイト: https://synca.jp/hitchcock/
© Hitchcock Ltd 2022






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    『ルー、パリで生まれた猫』 MON CHAT ET MOI, LA GRANDE AVENTURE DE RROU
       2023年9月29日(金)から新宿ピカデリー
/シネスイッチ銀座ほか全国順次公開


■パリの瀟洒なアパルトマンに両親と暮らす10歳の少女と、その屋根裏部屋で生まれすぐに母親と離ればなれになった子猫。両親の不仲で孤独を抱える少女の心を癒してくれる子猫は、夏のバカンスで訪れた別荘の森で野性に目覚めてゆく。『アイロ〜北欧ラップランドの小さなトナカイ〜』のギヨーム・メダチェフスキがモーリス・ジュヌヴォワの原作を現代パリに置き換え、瑞々しく描いている。

■SYNOPSIS■ 屋根裏部屋で生まれてすぐに母猫に放置された子猫たち。階下のアパルトマンに暮らす少女クレムがその一匹のキジトラを連れ帰ると両親は口論中。恐るおそるパパとママに頼み込み家で飼うことに。名前は男の子でも女の子でもルー。パパの見立てによると女の子らしい…。
夏のバカンスの時期、一家は森のある別荘に向かう。恒例の行事だがことしはルーも一緒だ。隣家には年中ひとりで暮らす女性がいて、クレムは心の中で〝魔女〟と呼んでいる。そして都会生まれながら好奇心旺盛なルーは、さっそく森に飛び出してゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ (可愛い可愛いだけの)デレデレした(動物)映画にする気はなかった。とメダチェフスキ監督は言う。森のシーンに移るまでもなく、パリに暮らす猫たちの野性味あふれる姿が冒頭から描き出され、一級の動物映画としてもグイグイ引き込まれてゆく。ドラマとドキュメンタリー的手法がうまくマッチした、キリっとしたファミリードラマだった。     (Noriko YAMASHITA) 
  
2023年9月26日  記


監督/共同脚本:ギヨーム・メダチェフスキ  共同脚本:ミカエル・スエテ
原作:モーリス・ジュヌヴォワ
出演:キャプシーヌ・サンソン=ファブレス/コリンヌ・マシエロ/リュシー・ローラン/ニコラ・ウンブデンシュトック
2023年フランス=スイス(83分)
原題:MON CHAT ET MOI, LA GRANDE AVENTURE DE RROU(A CAT'S LIFE)
配給:ギャガ  
公式サイト:https://gaga.ne.jp/parisnekorrou/
© 2023 MC4–ORANGE STUDIO–JMH & FILO Films






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   『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』 GODARD SEUL LE CINEMA
                 2023年9月22日(金)から
  新宿シネマカリテ/シネスイッチ銀座/渋谷・ユーロスペース/アップリンク吉祥寺
ほか全国順次公開


© 10.7 productions/ARTE France/INA - 2022

■ヌーヴェルヴァーグの立役者ジャン=リュック・ゴダール監督は2022年9月、尊厳死という形で91歳の生涯を閉じた。存命中に完成し、亡くなる少し前にヴェネチア国際映画祭でお披露目されたのが本ドキュメンタリー。生い立ちからスイス移住後の晩年まで、代表作や記録映像、ゆかりの人物へのインタビューなど4章でゴダール像に迫っている。監督は歌手バルバラのドキュメンタリーなどを手がけてきたシリル・ルティ。

■SYNOPSIS■ ジャン=リュック・ゴダールは1930年、パリの高級住宅地で医師の父と銀行に勤める母とのあいだに誕生。一家は大戦中ナチスの片棒を担いだヴィシー政権寄りだったという。若くして家を出たゴダールと一家は絶縁。母が交通事故で急死するも葬儀への出席を拒まれた。一方、大学在学中にフランソワ・トリュフォーらカイエ・デュ・シネマ誌周辺の映画仲間と出会ったゴダールは、1960年『勝手にしやがれ』で長編監督デビューして脚光を浴びた。そして新作の女優探しのなか公私のミューズとなるアンナ・カリーナと出会う。

■ONEPOINT REVIEW■ 既存の映画に変革をもたらしたヌーヴェルヴァーグの中心にいて、若き感性を作品に注ぎ込んだゴダール。映画ファンは作品を通しゴダールの才能を一身に浴び、多大な恩恵を受けた。そんな彼は女性からモテもしたが、いまならアウトかともしれないところもある。みずから見出したアンナ・カリーナもアンヌ・ヴィアゼムスキーも私生活のパートナーとなり、代表作のヒロインとなったが、私生活のほうをお断りしたらどうなるのか。『彼女について私が知っている二、三の事柄』で起用されて友人関係を結んでいたマリナ・ブラディはある日、交際の誘いを受けたという。ボーイフレンドもいたので断ったところ「それっきり。それ以来一度も口をきいていない」と明かす。そんな裏話もいろいろ。 (Noriko YAMASHITA) 
  
2023年9月21日  記
 
監督:シリル・ルティ
出演:ジャン=リュック・ゴダール/マーシャ・メリル/ティエリー・ジュス/クリストフ・ブルセイエ/アラン・ベルガラ/マリナ・ヴラディ/ロマン・グピル/ダヴィッド・ファルー/ダニエル・コーン=ベンディット/アントワーヌ・ドゥ・ベック/ジェラール・マルタン/ナタリー・バイ/ドミニク・パイーニ/ハンナ・シグラ/ジュリー・デルピー
2022年フランス(105分)  原題:GODARD SEUL LE CINEMA(GODARD CINEMA)
配給:ミモザフィルムズ  公式サイト:http://mimosafilms.com/godard/  






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             『ロスト・キング 500年越しの運命』 THE LOST KING
          2023年9月22日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開



■すでに散逸したとされ500年間行方不明だったイングランド王リチャード三世の遺骨を探し当てたのは、名もない子持ちの女性だった!英国で10年ほど前に世間を騒がせたおどろきの実話を、ファンタジーも交えて描いたヒューマンドラマ。
主人公役は『シェイプ・オブ・ウォーター』ほかの個性派俳優サリー・ホーキンス。その元夫役で製作の一角も担うスティーブ・クーガンが共同で脚本も書いている。監督は『クィーン』ほかの大ベテラン、スティーヴン・フリアーズ。

■SYNOPSIS■ 持病がありながらも子どもたちのためにとキャリアを磨くフィリッパ(サリー・ホーキンス)だったが、上司に無視され気が滅入るばかり。そんな彼女を応援し子育てにも協力的な元夫(スティーヴ・クーガン)の存在がせめてもの慰めか。
そんななか息子と行った舞台劇「リチャード三世」を見てふと疑問がわく。シェークスピアは極悪非道の男として描いたが実際はどうだったのか。目の前に彼の幻影があらわれるようになり、リチャード三世熱に目覚めたフィリッパは、失われたとされる亡骸が英レスターの教会下に眠る説があることを知る。そこはいまは駐車場になっていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 会社では彼女のキャリアを無視して若い金髪女子を登用する上司からのある種いじめを受け、疑問点を指摘した大学の講師からはミーハー扱いされ小馬鹿にされるフィリッパ。そしてもっとも悔しい思いをするのは手柄を横取りされそうな雲行きの終盤だ。大発見をした手柄話であると同時に、悔しい思いをたくさんしてきた主人公(作者)の思いが込められた物語でもあった。          
                  (Noriko YAMASHITA) 
 
2023年9月19日 記  
監督:スティーヴン・フリアーズ  脚本:スティーヴ・クーガン/ジェフ・ポープ
原作:フィリッパ・ラングレー/マイケル・ジョーンズ
出演:サリー・ホーキンス/スティーヴ・クーガン/ハリー・ロイド/マーク・アディ
2022年イギリス(108分)  原題:THE LOST KING  配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:https://culture-pub.jp/lostking/
© PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2022
ALL RIGHTS RESERVED.






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            『燃えあがる女性記者たち』 WRITING WITH FIRE
         2023年9月16日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開



■インドでいまもあたり前に受けつがれている階級制度カーストの、枠組みの中にさえ入らない最下層の女性たちで立ち上げられた新聞社「カバル・ラハリヤ」が誕生して10年ほど。紙媒体からインターネット・メディアへと形を変えながら、勇気ある行動をつづけてきた女性記者たちの仕事ぶりや日常に迫るドキュメンタリー。
監督は本作が長編第一作となるインド出身の男女コンビ。サンダンス映画祭やアカデミー賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭など各国で支持されてきた作品だ。

■SYNOPSIS■ カースト制度のさらに下層におかれ、「不可触民」として差別を受けてきたダリト(ダリット)の女性たちが立ち上げ、運営する弱小地方新聞「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波の意味)は転機を迎えていた。紙媒体からYouTube配信やSNSを駆使したネットメディアへの転換。女性記者たちには真新しいスマホが配られ、リーダー格のミーラや若手のスニータらはそれぞれの取材現場へと向かう。女性への暴力、石の不法採掘、選挙戦、家にトイレがない問題…と取材内容はさまざま。地道な取材を重ね記事をアップロードするうちに、再生回数は倍々の勢いで伸びてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 男性の顔しか見えない集団のなかに、女ひとりでグイグイ入り込んで突撃取材をしてゆく。これまでジャーナリストの何十人もが殺害されているというから、まさに命がけ。また若手のスニータは結婚しないことを心に決めていたが、家族のことを思うとそうもいかない状況に陥ってゆく。彼女たちは生まれたときに女であるがゆえに両親から疎まれ、結婚すると夫の使用人となり、挙句の果てに殺害されると嘆く。そんな世を少しでも変えようと、ペン1本(スマホ一台)で静かに闘う勇気ある女性たちの物語だ。       (Noriko YAMASHITA) 
 
2023年9月13日 記

監督:リントゥ・トーマス/スシュミト・ゴーシュ
2021年インド(93 分)  原題:WRITING WITH FIRE  配給:きろくびと
公式サイト:https://writingwithfire.jp/
© BLACK TICKET FILMS. ALL RIGHT RESERVED.






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              『ダンサー イン Paris』 EN CORPS
               2023年9月15日(金)から

ヒューマントラストシネマ有楽町/Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開


© 2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA 
Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES

■エトワールへの夢なかばで足をけがし、立ち止まったときにコンテンポラリー・ダンスの魅力と出合ったクラシックバレエ・ダンサーの女性が、新たな選択肢も視野に入れながら進路を見つめ直してゆく。

監督は『猫が行方不明』や『スパニッシュ・アパートメント』などでパリジャン、パリジェンヌの若者たちを魅力的に描いてきたセドリック・クラピッシュ。
パリ・オペラ座の現役バレエダンサー、マリオン・バルボーが主役を演じているほか、コンテンポラリーのダンサーおよび振付師として活躍するホフェッシュ・シェクター、AirPodsのコマーシャルで一躍有名になったメディ・バキも実名で出演している。

■SYNOPSIS■ パリ・オペラ座の『ラ・バヤデール』公演で主役をつとめるエリーズ(マリオン・バルボー)は、ステージに出ようとしたそのとき、恋人の裏切り現場を目撃する。そのままステージに立つものの着地に失敗し病院に運ばれる。
かかりつけの理学療法士ヤンに慰められるも、病院での診断は剥離骨折。最悪ダンサーとしては再起不能という厳しいものだった。傷心の彼女をブルターニュのとある宿泊所のバイトに誘ってくれたのは、元ダンサー仲間でいまは女優を目指すサブリナ。その宿泊施設ではアーティストに練習場を提供していたが、エリーズはそこでホフェッシュ・シェクター率いるコンテンポラリー・ダンス集団と出合う。

■ONEPOINT REVIEW■ 亡き母に導かれ、トップダンサーを目指すのが人生唯一の目標のように生きてきたルイーズだが、けがでオペラ座を除籍になり放り出される。そんなときに出合うコンテンポラリー・ダンスの世界は、クラシックバレエとは違い自由でチュチュのような鎧もない。だがルイーズを含む元バレエダンサーの女性3人が、余興に普段着でバレエを披露するシーンは自由で、またちがった美しさに目をうばわれる。原題は「EN CORPS」。おなじ肉体が踊るふたつの世界。                              (Noriko YAMASHITA) 
  
2023年9月12日 記 

監督/共同脚本:セドリック・クラピッシュ  共同脚本:サンティアゴ・アミゴレーナ
出演:マリオン・バルボー/ホフェッシュ・シェクター/ドゥニ・ポダリデス/ミュリエル・ロバン/ピオ・マルマイ/フランソワ・シヴィル/メディ・バキ/スエリア・ヤクーブ
2022フランス=ベルギー(118分)  原題:EN CORPS
配給:アルバトロス・フィルム/セテラ・インターナショナル
公式サイト:https://www.dancerinparis.com/ 






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             6月0日 アイヒマンが処刑された日」  JUNE ZERO
           2023年9月8日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開


■ユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)に関わった悪名高きナチス戦犯アイヒマン。裁判で死刑が確定後、イスラエルで秘密裏に行われた処刑とその遺体をめぐり、虚実ないまぜにしながら説得力のある作品に仕立てたのはハリウッド俳優グウィネス・パルトロウを姉に持つ芸能一家のジェイク・パルトロウ監督。知らぬ間に一大事に巻き込まれてゆく少年の物語を軸に、3つの話で紡がれる。ヘブライ語とスーパー16mmフィルムを使ったこだわりの作品。

■SYNOPSIS■ リビアからイスラエルに家族で移住してきたダヴィッド少年は、自分はイスラエル人と胸を張るものの、世間をにぎわせているアイヒマンが何者なのか知る由もない。父親にとある鉄工所に連れていかれて出入りするようになったある日、社長のところに戦友の刑務官がやってきてなにやら相談事。ダヴィッドはひょんなことからその話を聞いてしまう。刑務官が社長に依頼したのは処刑後のアイヒマンの遺体を焼く焼却炉の製作で、なんとその設計図はナチスが収容所で採用したトプフ商会製だった。
      
■ONEPOINT REVIEW■ テイストのちがう3つの話で構成されている。全体を大きく包み込むのはユーモアで描いた少年の物語。それがいつしかアイヒマンを警護する刑務官の話へとスライドしてゆく。彼の最大の任務は処刑の日までアイヒマンに生きていてもらうこと、皮肉な役回りなのだ。そしてもうひとつは、イスラエル警察の捜査官をしているアウシュヴィッツの生き証人の話。そこはユーモラスな全体から浮くほどシリアスな内容だが、だからこそ監督が作品に込めた思いが伝わってくる。
                  (NORIKO YAMASHITA)   
2023年9月5日 

監督/共同脚本:ジェイク・パルトロウ   共同脚本:トム・ショヴァル
出演:ツァヒ・グラッド/ヨアブ・レビ/トム・ハジ/アミ・スモラチク/ジョイ・リーガー/ノアム・オヴァディア
2022年イスラエル=アメリカ(105分)  原題:JUNE ZERO  配給:東京テアトル
公式サイト:https://rokugatsuzeronichi.com/
© THE OVEN FILM PRODUCTION LIMITED PARTERNSHIP 






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                 バカ塗りの娘」  BAKANURINOMUSUME
   2023年9月1日(金)からシネスイッチ銀座ほか全国公開/8月25日(金)から青森県先行公開


■祖父の代からつづく名工ながら、廃れる一方の津軽塗職人の家を舞台に、密かに津軽塗にあこがれる娘と寡黙な父親。それぞれの葛藤と家族の絆をさわやかなタッチで描いた人間ドラマ。高森美由紀作「ジャパン・ディグニティ」を『まく子』の鶴岡慧子監督で映画化。

■SYNOPSIS■ 塗っては削り、削っては塗るというばか丁寧な工程などから、バカ塗りとも呼ばれる青森に伝わる漆の伝統工芸、津軽塗。青木家は祖父が文部科学大臣賞をとった名工で、受け継いだ息子の清史郎(小林薫)の仕事も定評があったが、津軽塗自体が時代のニーズに合わず衰退気味。青木家の生業は傾き、息子は家業を継ぐことを放棄していた。母も家を出て父とふたり暮らしの娘の美也子(堀田真由)は、父を手伝いながら家計の足しにとスーパーに勤めているが性に合わない。パートをやめて本格的に父を手伝うなか、ある大きな挑戦を決断する。

■ONEPOINT REVIEW■ 家を出た母と娘の美也子が久しぶりに会う場面がある。会話のなかで黙り込む娘に激怒する母。「あなたはいつもそうやって黙り込んでしまう」と。似たような言葉をかつて自分の夫にも発したのではないのか。良くも悪くも寡黙な似た者父娘。けれどふたりは世代もちがえば男と女、ジェンダーもちがう。美也子の前途はなんだか開けている。     (NORIKO YAMASHITA)
  2023年8月30日 記

 

監督/共同脚本:鶴岡慧子   共同脚本:小嶋健作
原作:髙森美由紀「ジャパン・ディグニティ」(産業編集センター)
出演:堀田真由 /坂東龍汰/宮田俊哉/片岡礼子/酒向芳/松金よね子/篠井英介/鈴木正幸/ジョナゴールド/王林/木野花/坂本長利/ 小林薫
2023年日本(118分)  配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/bakanuri-movie/
© 2023「バカ塗りの娘」製作委員会






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                 『ウェルカム トゥ ダリ」 DALILAND 
                   2023年9月1日(金)から
    ヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開


■ショッキングな内容が物議を醸した『アメリカン・サイコ』に加え、アンディ・ウォーホルやチャーリー・マンソンを取り上げて独自の世界観を築いてきたメアリー・ハロン監督。新作の題材となったのは、奇をてらった行動で話題に事欠かなかったシュールレアリズムの画家サルバドール・ダリ。70年代ニューヨーク。妻のガラとともに高級ホテルに住み、パーティー三昧のダリは一向に筆が進まない。そんな彼のもとに画廊からひとりの美形青年が送り込まれる。

■SYNOPSIS■ 1985年、テレビのブラウン管の中でひとりの男が話題になっていた。世界的に有名なスペインの画家サルバドール・ダリ(ベン・キングズレー)が火事で大やけどを負ったのだ。それを見たジェームズ(クリストファー・ブライニー)は10年ほど前の夢のようなひとときを思い出していた。1974年、ニューヨークのとある画廊に就職したジェームズは、オーナーのクリストフから、画家ダリのもとに現金を届けるよう言われる。高級ホテルに行くと「ダリランドにようこそ」と部屋に招き入れられ、そこには見たこともないきらびやかな世界が広がっていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 独特の超現実的な作風で世間を驚かせ名を上げたダリだったが、思えば天才を発揮した代表作は戦前と戦後まもなくに集中している。以降はあの独特のヒゲが象徴する自己演出に代表されるパフォーマンスで世の耳目を引いた。そんな彼の筆が進むはずもなく,切羽詰まったひらめきから生まれたハプニング的な絵画類がいまはどこにどうしているのか。そんな興味もふとわいた。   
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2023年8月29日 記

監督:メアリー・ハロン  脚本:ジョン・C・ウォルシュ
出演:ベン・キングズレー/バルバラ・スコヴァ/クリストファー・ブライニー/ルパート・グレイヴス/アレクサンダー・ベイヤー/アンドレア・ペジック/スキ・ウォーターハウス/エズラ・ミラー
2022年イギリス(97分)  原題:DALILAND  
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://dali-movie.jp   © 2022 SIR REEL LIMITED






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                  『ファルコン・レイク』 FALCON LAKE 
            2023年8月25日(金)から渋谷シネクイントほか全国順次公開


■家族で過ごすことになった異国の避暑地で、久しぶりに再会した年上の少女と接し、はじめて女性への憧れを抱く思春期の少年。フランスのバンド・デシネ(漫画の一ジャンル)を原作に、フランスを拠点に俳優として活躍するカナダ出身のシャルロット・ル・ボンが監督として手がけた長編第一作。

■SYNOPSIS■ もうじき14歳になるバスティアン(ジョセフ・アンジェル)は、カナダ・ケベックの湖に家族とともにフランスからやってくる。ひとときを過ごすのは母の知り合いの女性と娘のクロエ(サラ・モンプチ)が暮らす湖畔のコテージ。まだ子どもの部類のバスティアンは違和感なくクロエと相部屋になるが、16歳になっていたクロエは前に会ったときよりずっと大人になっていた。ある日、水着姿になり桟橋から湖に飛び込む彼女を見たバスティアンに、いままで経験したことのない感情が沸き起こる。年上のクロエがリードする形でふたりは友情を深めてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 小さな湖を舞台にしたひと夏の恋、あるいははじめての恋の物語、なのだろうか?神秘の湖に浮かぶ白いなにかとやや不気味な音楽。これはもしかして幽霊譚なのではないかと思わせる演出で映画は始まる。シャルロット・ル・ボン監督はまだスマホも持たせてもらえない無垢なたたずまいの少年と、大人びてはいるがじつはピュアな愛への憧れをうちに秘める少女、かれらふたりのふれ合いを16mmフィルム・カメラを使って丁寧に描いてゆく。本作はただの思春期映画なのか…。余韻を残すエンディングが待っている。    (NORIKO YAMASHITA)
  2023年8月23日 記

監督/共同脚本:シャルロット・ル・ボン  共同脚本:フランソワ・ショケ
出演:ジョセフ・アンジェル/サラ・モンプチ/モニア・ショクリ
原作:バスティアン・ヴィヴェス「年上のひと」(リイド社)
2022年カナダ=フランス(100分)
原題:FALCON LAKE  配給:パルコ 
公式サイト:https://sundae-films.com/falcon-lake/
© 2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI






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                   『エリザベート1878』 CORSAGE 
  2023年8月25日(金)からTOHOシネマズシャンテ/Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国順次公開


■欧州宮廷一の美貌と謳われたオーストリア(兼ハンガリー)皇妃エリザベートの中年の一時期を描いた歴史ドラマ。史実をもとにしながら大きく翻案し、ミステリアスな展開をもたらすのはオーストリア出身、本邦初登場のマリー・クロイツァー監督。また『ファントム・スレッド』以降『彼女のいない部屋』など話題作が連なるヴィッキー・クリープスがエリザベートの物語を提案し、主演と製作総指揮をつとめている。

■SYNOPSIS■ 1877年12月。クリスマスイブに40歳の誕生日を迎えるエリザベートは美貌の衰えを感じるなか、コルセットでウエストを締めつけ体重管理にも余念がない。そんな自分を人前にさらし、国民の期待に応えなければならない境遇にうんざりしていたが、フランツ・ヨーゼフ皇帝は妻の心の内を理解することができず関係は冷え込むばかりだった。エリザベートは宮廷を抜け出し、思いを寄せる乗馬教師のいるイギリスや、心が通い合う従兄弟ルートヴィヒ2世の城のあるバイエルンへと旅をするも憂鬱な気分は収まらない。ある日、自慢のロングヘアをバッサリ斬り落とすことに。

■ONEPOINT REVIEW■ 40歳といえば人によってはホルモンバランスが大きく崩れる時期。
讃えられた美貌の衰えを誰よりも知るのはエリザベート自身のはずであり、体調不良や精神的ダメージも大きかったろう。そんなときに処方されるのが、麻薬のヘロインだから150年前とはいえ恐い時代ではある。しかし意外なエンディングがちょっとしたカタルシスをもたらす。
                  (NORIKO YAMASHITA)
  2023年8月22日 記
監督/脚本:マリー・クロイツァー
出演:ヴィッキー・クリープス/フロリアン・タイヒトマイスター/カタリーナ・ローレンツ/マヌエル・ルバイ/フィネガン・オールドフィールド/コリン・モーガン
2022年オーストリア=ルクセンブルク=ドイツ=フランス(114分)
原題:CORSAGE  配給:トランスフォーマー/ミモザフィルムズ
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/corsage/
© 2022 FILM AG - SAMSA FILM - KOMPLIZEN FILM - KAZAK PRODUCTIONS - ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN - ZDF/ARTE - ARTE FRANCE CINEM




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                『ふたりのマエストロ』 MAESTRO(S) 
                  2023年8月18日(金)から
 ヒューマントラストシネマ有楽町/Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下/シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開


■栄光を築いてきた父親と飛ぶ鳥落とす勢いのいまが旬の息子。ふとした手違いからスカラ・ミラノ座総監督就任のトラブルに巻き込まれる親子二代、ふたりの名指揮者を描いた音楽ドラマ。監督はコメディ『バルニーのちょっとした心配事』のブリュノ・シッシュ。息子指揮者役は監督としても活躍するイヴァン・アタル。

■SYNOPSIS■ フランス最大の音楽賞ヴィクトワール賞を受賞し絶好調の人気指揮者ドニ・デュマ―ル(イヴァン・アタル)。だが授賞式の日、家族席にに父フランソワ・デュマール(ピエール・アルディティ)の姿はなかった。ともに名の知れた親子二代の有名指揮者だったが、ふたりのあいだに意思の疎通は見られない。ある日、フランソワの携帯が鳴り出てみると、夢だったミラノ・スカラ座総監督就任の吉報が届く。

■ONEPOINT REVIEW■ まるで子どもみたいに息子への対抗心と嫉妬心をむき出しにするのは父のフランソワだ。あまりにも露骨な感情表現がコミカルだが、対照的に息子ドニのおとななふるまいが、シリアスな方向に引き戻してゆく。なぜふたりは打ち解けないのか、もともと相性が悪いのか。その訳の一端が親子がはじめて対峙する場面で明かされてゆく。いわゆるクラシックの名曲が満載された音楽映画であり、ロマンチック・コメディの要素も少しからませた軽妙な作品になっている。
                  (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年8月9日 記

  
監督:ブリュノ・シッシュ
出演:イヴァン・アタル/ピエール・アルディティ/ミュウ=ミュウ/キャロリーヌ・アングラーデ/パスカル・アルビロ/ニルス・オトナン=ジラール/カテリナ・ムリノ
2022年フランス=ベルギー(88分)  原題:MAESTRO(S)  配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/MAESTROS/
© 2022 VENDÔME FILMS ‒ ORANGE STUDIO ‒ APOLLO FILMS






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       『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』 QT8: THE FIRST EIGHT 
    2023年8月11日(金・祝)からヒューマントラストシネマ渋谷/新宿シネマカリテほか全国公開


■超個性派にして人気の米国人監督、クエンティン・タランティーノにフォーカスした初の本格ドキュメンタリー。本邦初登場の女性監督タラ・ウッドは、タランティーノのデビュー作『レザボア・ドッグス』から8作目『ヘイトフル・エイト』までに出演したゆかりの俳優やプロデューサーらにインタビュー。撮影秘話やエピソードを通してタランティーノの映画づくりの秘密に迫る。ちなみに9作目は本作と同年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、10作目の次回作で監督をやめると伝えられている。

■SYNOPSIS■ 3つの章で構成されている。「第1章:革命」では、低予算映画『『レザボア・ドッグス』上映で一夜にして映画関係者らの熱い視線を浴び、2作目『キル・ビル』でカンヌの最高賞パルムドールを受賞。無名の映画オタクの男から映画界の革命児となったそのシンデレラ・ストーリーが語られる。そして『キル・ビル』や『ジャッキー・ブラウン』の「第2章:強い女&ジャンル映画」。さらに『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がれざる者』ほかの「第3章:正義」へとつづいてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 俳優のサミュエル・L・ジャクソンやダイアン・クルーガー、ジェイミー・フォックス、ティム・ロス、さらにはスタントウーマンのゾーイ・ベルら、インタビューを受けているひとたちの暴露話が止まらない。『イングロリアス・バスターズ』でわたしの首を絞めていたのはクリストフ・ヴァルツ゚ではなくタランティーノだったと語るクルーガーなどなど。彼らの証言を通して人物像、仕事術をテンポよく引き出してゆく。そして長年タランティーノ作品の製作者だったハーヴェイ・ワインスタインの事件に触れることも忘れない。(NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年8月4日 記

監督/脚本:タラ・ウッド
出演:ゾーイ・ベル/ブルース・ダーン/ロバート・フォスター/ジェイミー・フォックス/サミュエル・L・ジャクソン/ジェニファー・ジェイソン・リー/ダイアン・クルーガー/ルーシー・リュー/マイケル・マドセン/イーライ・ロス/ティム・ロス/カート・ラッセル/クリストフ・ヴァルツ
2019年アメリカ(101分)  原題: QT8: THE FIRST EIGHT  映倫:R15+
配給:ショウゲート  公式サイト:https://qt-movie.jp    © 2019 Wood Entertainment   






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           『ジェーンとシャルロット』 JANE PAR SHARLOTTE(JANE BY SHARLOTTE)
        2023年8月4日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷シネクイントほか全国順次公開

■女優のシャルロット・ゲンズブールが母で女優、歌手のジェーン・バーキンを撮ったドキュメンタリー。シャルロットにとっては初の映画監督作品だが、本邦公開の少し前の2023年7月16日にバーキンが急逝。最晩年を知る最後の作品となった。

■SYNOPSIS■ 撮影は日本から始まる。2017年夏に行われた渋谷オーチャードホールでのライブ、そして小津安二郎監督ゆかりの日本旅館、茅ケ崎館での母子向き合って行われたインタビュー。そこから舞台は米ニューヨーク、仏ブルターニュ、パリへと移ってゆく。ブルターニュのジェーンの家ではシャルロットの末娘ジョーも交え、ふだんの生活の様子が映されてゆく。さらにパリでは、シャルロットの父でバーキンの元夫の故セルジュ・ゲンズブールと3人で暮らした通称「セルジュの家」に足を踏み入れる。バーキンがここを訪れるのは彼と離婚後はじめてだという。

■ONEPOINT REVIEW■ 日本での撮影を終えたあと、プロジェクトは一旦中止となる。バーキンが撮影を拒否したからだ。シャルロットの取材ノートには自分への恨み言が箇条書きにされていて、怖くなったとバーキンは語っている。ふたりは仲良し親子のような印象が強いけれど、十代半ばという早い時期に自立したシャルロットは、ほかの父親違いの姉妹に比べて母との距離感を感じていた。そしておそらく母親であるバーキンもまた。撮影は2年ほどして再開されるが、これは娘シャルロットから母ジェーン・バーキンへの熱烈ラブレターであった。そのことはとくにエンディングから強烈に伝わってくる。            (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年7月25日 記

監督/脚本/共同プロデュース:シャルロット・ゲンズブール
出演:ジェーン・バーキン/シャルロット・ゲンズブール/ジョー・アタル
2021年フランス=イギリス(92分)
原題:JANE PAR SHARLOTTE(JANE BY SHARLOTTE)
配給:リアリーライクフィルムズ
公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/janeandcharlotte
© 2021 NOLITA CINEMA - DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms






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       『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』 SCHACHNOVELL(CHESS STORY/THE ROYAL GAME)
              2023年7月21日(金)からシネマート新宿ほか全国順次公開

■ドイツに併合されて政局が一変する大戦中のオーストリア。貴族たちの莫大な資産を管理をしていたことから連行され精神的な拷問を受ける公証人の男が、偶然手に入れたチェスの本をよりどころに生き抜くさまを、男の幻想をまじえてミステリアスに描いた人間ドラマ。反骨のドイツの文豪シュテファン・ツヴァイクの代表作を『アイガー北壁』ほかのフィリップ・シュテルツェル監督で映画化。

■SYNOPSIS■ 大戦中ながらパーティーを繰り広げ、優雅な生活を崩さない貴族や富豪たち。彼らの資産を管理する公証人でウィーンの名士バルトーク(オリヴァー・マスッチ)もまた、戦争はまるで他人事のように華やかな暮らしをつづけている。そんなある日、ナチス・ドイツによる併合がすぐそこまで迫り、すみやかにアメリカに脱出するよう友人の忠告を受けるも聞く耳を持たない。たが秘密警察の手が迫り、管理する資産の暗証番号を頭に叩き込んでいるときに連行される。待っていたのは精神的な拷問だった。活字中毒の彼にとって読書できないことが何よりの苦痛だったが、ある日ふとしたことからチェスの対局本を手に入れる。

■ONEPOINT REVIEW■ バルトークはいったいいつから正気を失っていたのか。解放され、妻とともにアメリカに脱出かと思えば(その一部?)幻想であり、彼のなかではもはや彼はバルトークという男でさえない(誰なのかはここでは伏せる)。どれが真実でどこまでが幻想なのか。バルトークの頭の中の混乱がミステリーとなって観客を混乱させる。            (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年7月14日 記

監督:フィリップ・シュテルツェル  脚本:エルダル・グリゴリアン
原作:シュテファン・ツヴァイク
出演:オリヴァー・マスッチ/アルブレヒト・シュッへ/ビルギット・ミニヒマイアー/アンドレアス・ルスト/サミュエル・フィンジ/ロルフ・ラスゴ ード
2021年ドイツ(112分)  原題:SCHACHNOVELL(CHESS STORY/THE ROYAL GAME)
配給:キノフィルムズ  公式サイト:https://royalgame-movie.jp/
© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO,
BAYERISCHER RUNDFUNK






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                    『CLOSE/クロース』 CLOSE
                   2023年7月14日(金)から全国公開

■兄弟のように育てられ、一緒に寝泊まりも当たり前の仲のいい少年ふたり。だが中学進学をきっかけに周囲の少年少女たちの好奇の目にさらされ、ふたりの関係が大きく変わってゆく。バレエダンサーを目指すトランスジェンダーの子を描いた『Girl/ガール』で注目されたベルギー出身、ルーカス・ドン監督の長編2作目。レオ役の少年は監督にスカウトされてオーディションに臨み、レミ役の少年もオーディションでキャスティングされた。第75回カンヌ映画祭グランプリ受賞作。

■SYNOPSIS■ 花き農家の息子レオ(エデン・ダンブリン)と、幼なじみのレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)は大の仲良し。家族ぐるみの付き合いがあり四六時中一緒にいるふたりは、一方の家に泊まるときは一緒のベッドで寝るのも当たり前という仲で、同じ中学校に進学する。ある日の昼食時間、ふたりを見て女子生徒が質問する。「あなたたち、つき合ってるの?」。意表を突く問いに固まるレオとレミ。とくにそのルックスから女の子扱いされることの多いレオは、あからさまにレミを遠ざけはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ 中学進学まで子ども時代を満喫してきたレオとレミ。女子生徒のなにげない、しかし十分に残酷なひと言がなければ、あるいはクラスメートたちの好奇の目がなければ、ふたりはごく自然に思春期を迎えられたのかもしれない。レオは〝男らしさ〟を目指してアイスホッケーを始める。監督の経験がもとになっているというが、矯正器具にはめられたような生きづらい現実社会の成り立ちをここに見るようだ。               (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年7月7日 記


監督/共同脚本:ルーカス・ドン  共同脚本:アンジェロ・タイセンス
出演:エデン・ダンブリン/グスタフ・ドゥ・ワエル/エミリー・ドゥケンヌ
2022年ベルギー=オランダ=フランス(104分)  原題:CLOSE
配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://closemovie.jp/
© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022






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                 『アイスクリームフィーバー』 ICE CREAM FEVER
          2023年7月14日(金)からTOHOシネマズ シャンテ/渋谷シネクイントほか全国公開

■定まらない人生の進路、姉妹間の恋愛のトラブル…。さまざまな悩みを抱える世代の異なる女性たちのいまを描いたアンサンブル・ドラマ。広告業界で活躍するアートディレクター千原徹也の映画初監督作品で、原案のひとり、作家の川上未映子らのアドバイスを得ながら、軽やかにポップにときに詩的に描いてゆく。

■SYNOPSIS■ 美大を卒業し晴れてデザイン会社に就職したもののなじめず、いまはアイスクリーム店でバイトをしている常田菜摘(吉岡里帆)はある日、客としてやってきた個性的な女性(モトーラ世理奈)にひと目惚れの恋をする。彼女はじつは有名な作家だったが、大きな賞を受賞後は書けずに苦しんでいた。一方、アイスクリーム店の近くに住む高島優(松本まりか)のところに突然、姉(安達祐実)の娘の美和(南琴奈)がやって来て、出て行ったきりの父を探すと居候を決め込む。男は優の恋人だったが姉に乗り換えられ、その苦い経験がいまも心の傷となっていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 吉岡里帆がモトーラにまるで白昼夢のような恋をするエピソードは、川上未映子の短編を川上自身のアドバイスで女性同士の話に変え、松本まりかと姉の安達祐実、その娘の物語はユーミンの初期の作品「静かなまぼろし」(アルバム『流線型'80」1978年収録)にインスパイアされて生まれたという。そういう裏話が面白く、アイスクリーム店名に秘められた意味(ここでは伏せるが)もウォン・カーウァイ監督『恋する惑星』(1994年)のセリフとつながるらしい。いま風とレトロ感覚が混ざり合った居心地のいい作品になっている。    
                 (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年7月6日 記

監督:千原徹也  脚本:清水匡
原案:川上未映子「アイスクリーム熱」(「愛の夢とか」講談社文庫) 
主題歌:吉澤嘉代子「氷菓子」(ビクターエンタテインメント) エンディングテーマ:小沢健二「春にして君を想う」(ユニバーサルミュージック/Virgin Music)  音楽:田中知之
出演:吉岡里帆/モトーラ世理奈/詩羽(水曜日のカンパネラ)
安達祐実/南琴奈/後藤淳平(ジャルジャル)/はっとり(マカロニえんぴつ)/コムアイ
MEGUMI/片桐はいり/松本まりか
2023年日本(104分)  配給:パルコ  公式サイト:https://icecreamfever-movie.com/
©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会 






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                 『遺灰は語る』 LEONORA ADDIO
        2023年6月23日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか全国順次公開

■イタリアを代表する作家ルイジ・ピランデッロの遺灰が故郷シチリアに戻るまでの多難な歳月を、ユーモアも交えて描いたドラマ。パオロ・タヴィアーニ監督は、長年コンビを組んで名作を送り出してきた兄のヴィットリオ・タヴィアーニを2018年に亡くし、これが初めての単独作品となる。遺灰の主ピランデッロは、ふたりの代表作のひとつ「カオス・シチリア物語」の原作者でもある。

■SYNOPSIS■ 1934年にノーベル文学賞を受賞し晴れてイタリアを代表する作家となったルイジ・ピランデッロは、2年後の1936年に他界する。彼は生前、遺灰が故郷シチリアに帰還することを願い遺言を残すが、すんなりとことは運ばない。時の独裁者ムッソリーニが遺灰を手放そうとしなかったからだ。しかしやがて戦争も終わり、いよいよ作家の願いがかなう時代が訪れる。遺灰を運ぶ大役を担うのはシチリアの特使。だが戦勝国米国が手配してくれた空軍機に大きな木箱とともに乗り込むも〝縁起でもない〟とパイロットから拒否される。そしてトラブルはこれだけではなかった。

■ONEPOINT REVIEW■ 戦前戦後のドキュメンタリー映像およびロッセリーニらネオレアリズもの名作を交えながら、美しいモノクロ映像で紡ぎ出してゆく遺灰の物語。そしてそこから派生するようにピランデッロの短篇「釘」がカラー映像で描かれ物語を結んでゆく。シチリアから父とニューヨークに渡り、そこで殺人を犯す少年の話だ。死と故郷にまつわるふたつの物語。しかも〝主役〟はタヴィアーニ兄弟ゆかりの作家の遺灰。兄ヴィットリオを追悼するみごとな形の作品になっている。       
                (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年6月20日 記

監督/脚本:パオロ・タヴィアーニ
出演:ファブリツィオ・フェッラカーネ/マッテオ・ピッティルーティ/ロベルト・エルリツカ(声)
2022年イタリア(90分)  原題:LEONORA ADDIO  
配給:ムヴィオラ
公式サイト:https://moviola.jp/ihai/
© Umberto Montiroli






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                 『カード・カウンター』 THE CARD COUNTER
        2023年6月16日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷/シネマート新宿ほか全国順次公開

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■捕虜収容所での罪をつぐないいまはギャンブラーとして生きる男が、同じ罪の父親を持つ若者と出会ったことから過去とふたたび対峙し、事件に巻き込まれてゆくサスペンスタッチの人間ドラマ。1970年代半ばに『タクシードライバー』の脚本家としてマーティン・スコセッシ監督と組んで脚光を浴びたポール・シュレイダー監督。ここでは監督と脚本を務め、スコセッシが制作総指揮に名を連ねている。主演は『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』で注目されたオスカー・アイザック。

■SYNOPSIS■ アブグレイブ捕虜収容所での虐待と拷問の罪で米国軍刑務所に8年間服役したウィリアム(オスカー・アイザック)は、ギャンブラーとしてひっそりと生きていた。ある日、アトランティックシティの会場でとあるセミナーを傍聴していると、カーク(タイ・シェリダン)という若者から声をかけられる。じつはセミナーの講師は虐待や拷問を主導した上官のジョン・ゴード(ウィレム・デフォー)で、カークの父も同じ罪で服役した末に精神を侵され一家は離散していた。密かに復讐を企むカーク。一方、出資者とギャンブラーを結ぶブローカーの女性ラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)と再会したウィリアムは、大金が動くポーカーの世界大会に誘われる。

■ONEPOINT REVIEW■ 賭博場を転々としながらギャンブラーとして生きる男と、卑劣な男への復讐が頭から離れない若者。ギャンブルと復讐が物語の中心にありながら、ほんとうの主題はそのどちらでもなく「贖罪」だった。ウィリアムは8年間服役しても、自分の罪が消えたとも軽くなったとも思っていない。おそらく出所後の偏見も身に応えているはずだ。だから相思相愛に見えるラ・リンダとの関係も前に進めない。そしてそれ以前に、自分は幸せにはなっていけない人間という思いが強い。そこに愛情を注げる存在としてあらわれるのがカークだが、思いはうまく伝わるのか空回りするのか、終盤の展開へとつながってゆく。   (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年6月16日 記

監督/脚本:ポール・シュレイダー  
出演:オスカー・アイザック/ティファニー・ハディッシュ/タイ・シェリダン/ウィレム・デフォー
2021年アメリカ=イギリス=中国=スウェーデン(112分)
原題:THE CARD COUNTER  映倫:R15  配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/cardcounter/






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                  『青いカフタンの仕立て屋』 THE BLUE CAFTAN
         2023年6月16日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか全国公開

■トルコの伝統衣装〝カフタン〟の小さな仕立て屋を舞台に、店を営むおしどり夫婦と見習い職人の3人が織りなすジェンダーがからんだ愛の物語。監督は長編デビューの前作『モロッコ、彼女たちの朝』が評判を呼んだマリアム・トゥザニで、今回も彼女のオリジナル脚本。前作につづき『灼熱の魂』のルブナ・アザバルが妻役で続投。

■SYNOPSIS■ モロッコの首都ラバトに隣接するサレの旧市街地で、伝統衣装カフタンの仕立て屋を営むハリム(サーレフ・バクリ)とミナ(ルブナ・アザバル)夫妻。高価で時間も要する手仕事はミシン仕立ての大量生産に押されがちだったが、ハリムは父から受け継いだ職人の技をかたくなに守り、ミナも夫の美しい手仕事を誇りに思ういちばんの理解者として店を切り盛りしてきた。しかしミナは多忙なうえに病を抱えていた。そんなある日、ひとりの青年が見習い職人として雇われる。

■ONEPOINT REVIEW■ どこから見ても仲睦まじいおしどり夫婦。実際ふたりは深く愛し合っているのだが、お互いの愛の形は微妙に違っている。お互い求めるものが違うことを知りながら、それを乗り越えて人生をともにしてきた。そしてそこに変化が加わって展開してゆくのがこの物語だ。トゥザニ監督はいみじくもこう言っている。「愛する人にありのままの自分を受け入れてもらう。人生においてこれほど美しいことがあるだろうか」と。           (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年6月14日 記


監督・脚本:マリヤム・トゥザニ 
出演:ルブナ・アザバル/サーレフ・バクリ/アイユーブ・ミシウィ 
2022年フランス=モロッコ=ベルギー=デンマーク(122分)
英題:THE BLUE CAFTAN  配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/bluecaftan/  
© LES FILMS DU NOUVEAU MONDE - ALI N’ PRODUCTIONS - VELVET FILMS - SNOWGLOBE  






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                  『テノール!人生はハーモニー』 TENOR
2023年6月9日(金)から新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

■スシのデリバリーで訪れたオペラ座で、ふとしたことから音楽教師にスカウトされるオペラとは無縁の青年。地元フランス・オペラ界のスター、ロベルト・アラーニャをゲストに迎え、オペラ・ガルニエでの内部撮影も見どころ十分なコメディタッチのサクセス・ストーリー。主演はこれが映画初出演、ラップほかで音楽活動をするMB14。教師役で共演するのはベテラン女優のミシェル・ラロック。監督はクロード・ジディ監督の息子で、単独ではこれが初監督となるクロード・ジディ・ジュニア。

■SYNOPSIS■ 両親不在のなか兄に育てられ、期待を一身に背負いながら経営学を学ぶアントワーヌ(MB14)は教師からの信頼も厚い優秀な学生。趣味のラップで日々のうっぷんを吐き出す一方、生活費は寿司屋のバイトで稼いでいる。ある日、オペラ座にスシの出前に行ったのがことの発端だった。レッスンを受けていた男子学生に小馬鹿にされ、思わずオペラ風に言い返すアントワーヌ。響き渡る声にだれもが度肝を抜かれるなか、オペラ教師のマリー(ミシェル・ラロック)はだれよりもその声の虜になる。

■ONEPOINT REVIEW■ オペラ座にスシの出前をする。こんなことってあるのだろうか。いずれにしてもアントワーヌはスシが入った紙袋を持ってあの有名な、あの美しいオペラ・ガルニエの内部にどんどん入ってゆく。しかもそこはすべて本物のオペラ座の建物。現地ロケに成功した点はこの作品の誇りと言っていいだろう。特別出演のアラーニャも一節歌ってくれるし。そしてコメディエンㇴのラロックが、品よくコメディの世界に誘ってゆく。         (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年6月6日 記

監督/共同脚本:クロード・ジディ・ジュニア
共同脚本:シリル・ドルー/ラファエル・ベノリエル
出演: ミシェル・ラロック/MB14/ロベルト・アラーニャ
2022年フランス(101分)  原題:TENOR  配給:ギャガ 
公式サイト:https://gaga.ne.jp/TENOR/
© 2021 FIRSTEP - DARKA MOVIES - STUDIOCANAL - C8 FILMS  






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                      『苦い涙』 PETER VON KANT
        2023年6月2日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか全国順次公開

■若く美しい青年に一目惚れしのめり込んでゆく映画監督。一方的な愛が空回りし、ジゴロのようなふるまいの青年に振り回される様子を描いたフランソワ・オゾン監督最新作。敬愛するライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の代表作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を自由に翻案するなかでオゾン監督は、コメディ要素を加味してパロディ風に描いてゆく。主人公の映画監督役は『ジュリアン』のDV父の印象が強烈なドゥ二・メノーシェ。そこにアジャ―二が大女優役で登場してコミカルに応じる。美青年を演じるのは長編映画初出演、今後が注目されるハリル・ガルビア。

■SYNOPSIS■ 1972年秋、西ドイツのケルン。オフィスを兼ねた瀟洒な邸宅に暮らす映画監督ピーター・フォン・カント(メノーシェ)は、失恋の痛手を引きずり不機嫌だった。とばっちりを食うのは下僕のように扱われ影のような存在の助手カール(ステファン・クレポン)。そんななかピーターの元恋人で大女優のシドニー(アジャ―二)が訪れるが、連れのアミール(ガルビア)を見てピーターはたちまち恋に落ちる。

■ONEPOINT REVIEW■ 『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』から50年。ファスビンダー監督は同作から10年後の82年に37歳で早々と亡くなっているが、本作を見たなら笑ってくれただろうか。オリジナルの女性カップルが男性カップルに代わっただけでなく、メノーシェが演じた映画監督はどう見てもファスビンダーそのひと。おまけにペトラ・フォン・カントの恋人を演じ、ファスビンダー作品のミューズ的存在だったハンナ・シグラも祖母役で登場する。歳月の流れも感じさせるオマージュ作品。
                (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年5月31日 記

監督/脚本:フランソワ・オゾン
出演:ドゥニ・メノーシェ/イザベル・アジャーニ/ハリル・ガルビア/ステファン・クレポン/ハンナ・シグラ/アマント・オディアール
2022年フランス(85分)  原題:PETER VON KANT
配給:セテラ・インターナショナル  映倫:PG12
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nigainamida/
© 2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION ©Carole BETHUEL_Foz






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              『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 WOMEN TAKING
        2023年6月2日(金)からTOHOシネマズシャンテ/渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

■社会から隔絶して生きるプリミティブな宗教コミュニティで、村の男らから許しがたい性暴力を受けてきた女性たちがについに立ち上がる。南米で実際に起きた出来事からインスパイアされたというミリアム・トウズの小説を、『死ぬまでにしたい10のこと』などの女優で秀作『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』ほかを撮ってきたカナダのサラ・ポーリ―監督で映画化。自身による脚本はことしのオスカー脚色賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 自給自足生活を送るキリスト教系コミュニティで奇妙なことが続発する。朝目覚めると少女たちの足の付け根付近に、前夜までなかったアザができているのだ。2010年のある朝もひとりの少女の悲鳴で穏やかな村に戦慄が走る。母親たちは薄々感づいていたはずだ。だが男たちは訴えを聞き流し悪魔の仕業と片づける。そんなある晩、寝室に忍び込んだ若い男に少女が気づき声を上げたことから、悪事が明るみに出る。レイプ犯らが保釈されるまでの2日間がチャンスだった。赦すのか、闘うのか、それともここを去るのか。限られた時間内での女性たちによる話し合いと投票が始まる。

■ONEPOINT REVIEW■ 時代は100年前か200年前か…。いやいやこれは現代のお話。スピーカーのついた軽トラックが「外部」からやって来て、コミュニティの村人になにかをアナウンスしてゆくことで時代がわかる。だがいつであろうと、どこであろうとも、延々と続いてきたジェンダーの問題。舞台が舞台なだけに一見古典的な話にも思えそうだが、じつはまさに現代を生きる女性たちの話だった。                  (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年5月29日 記

監督/脚本:サラ・ポーリー
原作:ミリアム・トウズ  制作:フランシス・マクド―マンド  製作総指揮:ブラッド・ピット
出演:ルーニー・マーラ/クレア・フォイ/ジェシー・バックリー/ジュディス・アイヴィ/シーラ・マッカーシー/ミシェル・マクラウド/ケイト・ハレット/リヴ・マクニール/オーガスト・ウィンター/ベン・ウィショー/フランシス・マクドーマンド
2022年アメリカ(104分)  原題:WOMEN TALKING 配給:パルコ/ユニバーサル映画 
公式サイト:https://womentalking-movie.jp/
Ⓒ2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved. 






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                        『波紋』 HAMON
              2023年5月26日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

■サラリーマンの夫の突然の失踪、そして突然の帰還。人生設計を狂わされ、新興宗教にすがりながらも懸命に生きるひとりの女性の波乱の歳月を、ブラック・ユーモアも交えて描いた荻上直子監督最新作。名バイプレーヤーにして、主演作の『淵に立つ」(深田晃司監督)や『よこがお』(同)でも高い評価を得ている筒井真理子が主人公に扮し、光石研がその夫役で共演している。今回も荻上監督(『かもめ食堂』ほか)のオリジナル脚本。

■SYNOPSIS■ 寝たきりの義父の介護をしながらも、夫の修(光石研)とひとり息子の拓哉(磯村勇人)とともにごくふつうの家庭生活を送る主婦の須藤依子(筒井真理子)。だがある日突然、夫が姿を消し状況は一変する。怪しげな新興宗教にすがり、心の平穏を取り戻すのにどれだけの時間がかかったか。庭も夫が可愛がっていたカラフルな草花はぜんぶ引き抜き、こころ鎮まる枯山水に変えた。十余年の歳月が流れ新しい生活が動きはじめたころ、夫が浮浪者のような姿で依子の前に舞い戻る。

■ONEPOINT REVIEW■ 震災で不安が広がり、家族がいっそう一体とならなければいけないときに修は失踪してしまう。残された依子と拓哉は、いつか帰ってくると待ち続けたに違いない。依子はそのあいだに義父を看取り、息子をひとりで育て上げ、無責任な存在を消したころにヤツは病気を言い訳に戻ってくる。身勝手なその男を〝赦すのか否か〟。ブラックな笑いをちりばめたホームドラマがそこから始まる。                (NORIKO YAMASHITA) 
 2023年5月23日 記


監督/脚本:荻上直⼦
出演:筒井真理⼦/光⽯研
磯村勇⽃ / 安藤⽟恵/江⼝のりこ/平岩紙
津⽥絵理奈/花王おさむ
柄本明 / ⽊野花/キムラ緑⼦
2023年日本(120分)  配給︓ショウゲート  公式サイト:https://hamon-movie.com/
©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ






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                   『aftersun/アフターサン』 aftersun
        2023年5月26日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿ピカデリーほか全国公開


■20年前の父とのふたり旅。あの頃の父と同じ年齢になったいま、思い出の旅を回想しながら娘の視点で父の内面に思いを馳せる人間ドラマ。スコットランドの新鋭シャーロット・ウェルズ監督の自伝的要素を含むデビュー作で、ホームビデオを交えノスタルジックに描いてゆく。主人公のソフィー役は難関のオーディションで選ばれたフランキー・コリオ。父親役は『GLADIATOR 2』をはじめ次回作目白押しのポール・メスカル。

■SYNOPSIS■ 20年前の11歳の夏、ソフィーは離ればなれに暮らしている大好きな父とのふたりだけのバカンスが実現する。ホテルに着き、父が持参したビデオを回しながらソフィーは父に問いかける。「11歳のとき、将来は何をしてると思ってた?」。トルコのリゾート地でのキラキラしたかけがえのない時間。陽気で兄のように若々しく楽しい父だったが、ある晩ソフィーが申し込んでいたカラオケの誘いに乗らず、ひとり消えてしまう。 

■ONEPOINT REVIEW■ ホームビデオを含めバカンスの映像が大半を占めていて、現在のソフィーが出てくるのはほんの一瞬。ウェルズ監督は多くを語らない。それだけにいろいろな解釈が生まれてもいいはずだ。父の苦悩とはなんだったのか。ソフィーは追想するうちに、自分と同じセクシャリティを父に見たのではないか。
              (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年5月24日 記


監督/脚本:シャーロット・ウェルズ
出演:ポール・メスカル/フランキー・コリオ/セリア・ロールソン=ホール
2022年イギリス=アメリカ(101分)  原題:AFTERSUN
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022






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                   『老ナルキソス』 OLD NARCISSUS
              2023年5月20日(土)から新宿K’s cinemaほか全国順次公開

■老いをだれよりも受け入れられず苦悩するゲイでナルシストの老絵本作家と、恋人がいながらウリセンボーイとして日々を生きる若く美しい青年。自分にはないものをたがいに見たふたりは、しだいに心を通わせ絆を結んでゆく。レインボーリール映画祭などで注目されてきた東海林毅監督が自身の短編を長編映画化。状況劇場出身の名脇役、田村泰次郎と若手の水石亜飛夢がW主演で共演。

■SYNOPSIS■ ゲイでナルシスト、家族を持たない老絵本作家の山崎(田村泰次郎)がスマホを通して選んだお相手は、若く美しいレオ(水石亜飛夢)という青年だった。老いが深まり老醜が目立つ自分にはない若さとそれゆえの美しさ。すぐに惹かれた山﨑がたびたび指名するうちに言葉を交わすようになり、レオは幼いころお気に入りだった絵本の作家が山﨑と知り、ふたりの距離は一気に縮まる。パートナーシップを結んで家族になることを望む恋人と暮らすレオ。だが家族というものを知らないレオは、恋人の思いとの温度差に戸惑いを感じていた。
 
■ONEPOINT REVIEW■ 山﨑は『ベニスに死す』のアッシェンバッハほど気取ってもいなければ陰キャラでもないけれど、心境は近いのではないか。レオという美しい青年と出会い心ときめくも、途端に自分の老醜が際立ってくる。だが彼もかつては若さみなぎる美しい青年だった。レオとともにホンダのS800(600?)に乗ってその若き日に思いを馳せる旅に出る。       (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年5月19日 記


監督/脚本:東海林 毅
出演:田村泰二郎/水石亜飛夢
寺山武志/日出郎/モロ師岡/田中理来/津田寛治/千葉雅子  村井國夫
2023年日本(110分)  映倫:R15+
配給:オンリー・ハーツ  公式サイト:https://oldnarcissus.com/
© 2022 老ナルキソス製作委員会






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                       『TAR/ター』 TAR
              2023年5月12日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

■世界最高峰のオーケストラ初の女性主席指揮者として、また作曲家としても輝かしい実績を残し君臨してきたリディア・ター。だが奔放な生きざまが私生活に影を落とし、スキャンダラスな陰謀にもはまってゆくサスペンスタッチの人間ドラマ。ター役のケイト・ブランシェットがゴールデングローブ賞、ヴェネチア映画祭ほか女優賞を多数受賞。『イン・ザ・ベッドルーム』『リトル・チルドレン』のトッド・フィールド監督が脚本も書き下ろしている。

■SYNOPSIS■ 米国の5大オーケストラを経たのちにベルリン・フィル初の女性主席指揮者として迎えられて7年、リディア・ター(ブランシェット)は絶好調のなか多忙を極めていた。ライブ録音が予定されているマーラーの交響曲第5番の準備を進める一方、作曲家としても新曲を制作中。さらに公開インタビューに応じ、ジュリアード音楽院で講義をし、若手女性指揮者の育成にも情熱を注ぐ毎日。とは言え息抜きも忘れない。いくつもの浮名を流してきたことは公私のパートナー、シャロン(ニーナ・ホス)も薄々感づいていることなのか。ターが目下心をとらわれているのが、新星チェリストのオルガ(ソフィー・カウアー)であることは明らかだった。そんななか、育成プログラムで指導した若手指揮者クリスタが自殺する。

■ONEPOINT REVIEW■ 実在のベルリン・フィルが舞台であることにまず驚かされるが、劇中の公開インタビューや音楽院での講義、あるいは会話の端々に現在進行形のクラシック音楽界事情、批評、スキャンダルなどが織り込まれていて、導入部から引き込まれてゆく。ターがパワハラ、セクハラまがいのことをするあたりも、現実の男性指揮者らの行いと重ねているのか。加えて、とある女性音楽家をパロっているのかと思わせるところもあるが、いずれにしてもターが女性であることにより、また別ものの物語となって展開してゆくところが面白い。ケイト・ブランシェットはまさにはまり役。仮に代役を考えるとしたらティルダ・スウィントンくらいかな。
                 (NORIKO YAMASHITA)
 
 2023年5月9日 記
 
監督/脚本:トッド・フィールド  音楽:ヒドゥル・グドナドッティル
出演:ケイト・ブランシェット/ノエミ・メルラン/ニーナ・ホス/マーク・ストロング/ソフィー・カウアー/ジュリアン・グローヴァ―/アラン・コーデュナー
アメリカ2022年(159分) 原題:TAR 配給:ギャガ 公式サイト:https://gaga.ne.jp/TAR/






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                       『EO イーオー』 EO
         2023年5月5日(土)からヒューマントラストシネマ渋谷/新宿シネマカリテほか全国公開

■EO(イーオー)という名のロバの数奇な運命を追った物語。『アンナと過ごした4日間』のポーランドの異才監督イエジ―・スコルモフスキがさりげなく、そして優しい目をもって、あてもなく彷徨いさまざまな人びとの多彩な人生と出会うロバの行く末を見つめてゆく。

■SYNOPSIS■ サーカス団のパートナーであるカサンドラに溺愛され、舞台に立ってきたロバのEOだったが、ある日、動物愛護団体のデモがあり、動物たちのショーは閉鎖される。別れを嫌がるカサンドラから引き離され、どこかに移送されるEO。思いもよらぬうちに脱走を重ね、さまざまなひとたちの様々な人生に遭遇するうちに、とうとう国を越えてイタリアまで来てしまう。そこは瀟洒な邸宅。だが金持ちは金持ちなりの問題を抱えていた。

■ONEPOINT REVIEW■ サーカスで幸せに暮らしていたロバが、よりによって動物愛護団体による動物保護がきっかけで数奇な運命をたどる、という皮肉がこの物語の起点となっている。そして、EOという無垢な存在が出会う人たちは騒々しかったり、喧嘩っ早かったり、ひとを簡単に殺したり…。EOはそんな人たちから(恐らくは無意識に)離れるうちに放浪の旅を重ねてゆく。スコリモフスキ監督が唯一涙を流したというブレッソンの名作、『バルタザールどこへ行く』にインスパイアされて本作はつくられた。                    (NORIKO YAMASHITA)
 
2023年5月3日 記   
    
監督/共同脚本:イエジー・スコリモフスキ 
共同脚本:エヴァ・ピアスコフスカ
出演:サンドラ・ジマルスカ/ロレンツォ・ズルゾロ/イザベル・ユペール
2022年ポーランド=イタリア(88分)  原題:EO
配給:ファインフィルムズ  公式サイト:https://twitter.com/EO_jp0505
© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERV ED






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           『それでも私は生きていく』  UN BEAU MATIN(ONE FINE MORNING)
           2023年5月5日(土)から新宿武蔵野館/シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

■仕事をしながらひとり娘を育て、記憶を失いつつある最愛の父にも寄り添う、そんな滅私的なあわただしい日々を送るシングルマザーに、ある日思いがけない愛が生まれるが…。『ベルイマン島にて』につづくミア・ハンセン=ラヴ監督の新作は、多忙、喪失、歓びが渦巻くひとりの女性の人生を描いた人間ドラマ。監督のお気に入り俳優、レア・セドゥ、メルヴィル・プポー、パスカル・グレゴリーが共演している。

■SYNOPSIS■ 夫を亡くして5年。会議などの同時通訳をしているサンドラ(セドゥ)は、仕事をつづけながら8歳になるひとり娘を育ててきたが、目下の最大の悩みは病気を患い、記憶も視力も失いつつある最愛の父ゲオルグ(グレゴリー)のこと。ひとり住まいのアパルトマンを引き払い、施設に入所というところまで病気は悪化していた。ゲオルグの元妻でサンドラの母フランソワーズ(ニコール・ガルシア)らと病院や施設探しに奔走するなか、ある日、古い知り合いのクレマン(プボー)と偶然再会する。

■ONEPOINT REVIEW■ サンドラの役はレア・セドゥをイメージして書いたと、脚本を書き下ろしたハンセン=ラヴは言う。『美しいひと』や『アデル、ブルーは熱い色』のときのような、ハリウッド作品とは違う自然体のセドゥがここにはいる。パスカル・グレゴリーやメルヴィル・プボー、そして女優としても女性監督としても大先輩のニコール・ガルシアらに囲まれて、気負いのないハンセン=ラヴの新作になっている。
                 (NORIKO YAMASHITA)
 
2023年5月2日 記     

監督/脚本:ミア・ハンセン=ラヴ
出演:レア・セドゥ/パスカル・グレゴリー/メルヴィル・プポー/ニコール・ガルシア/カミーユ・ルバン・マルタン
2022年フランス(112分)  原題:UN BEAU MATIN(ONE FINE MORNING) 映倫:R15+
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/soredemo/






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         『私、オルガ・へプナロヴァ―』 JA, OLGA HEPNAROVA(I, OLGA HEPNAROVA)
          2023年4月29日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

■1973年にチェコで実際に起き、世間を騒がせたトラックによる大量無差別殺人事件。その犯人で同国最後の女性死刑囚となった若い女性、オルガ・へプナロノヴァ―を描いた人間ドラマ。2010年に出版された原作本をもとにトマーシュ・ヴァインレプとペトル・カズダ、ふたりの監督が脚本を書き映画化した。

■SYNOPSIS■ 13歳のある日、オルガ・へプナロヴァ―は大量の精神安定剤を飲んで自殺を図る。未遂に終わったもののそれを機に精神病院に入れられ、そこで待っていたのは周囲の女性患者たちからの集団リンチだった。退院後にオルガは家族から離れてひとり暮らしすることを望む。裕福な家に生まれ育ったオルガだったが父親から暴力を受けており、実家は忌まわしい記憶しかなかった。職を見つけ質素な小屋を手に入れて始まった新生活。自由を得たオルガは、職場でイトカという女性に心を奪われ接近する。

■ONEPOINT REVIEW■ 精神病院に入院の過去があり、医者にもかかっていたオルガに果たして責任能力があったのかどうか。だがそれを論じる映画ではない。しかし、せめて犯行を止める手立てはなかったのか。自分の不幸に対する怒りを社会全体にに向けて犯行に及んだオルガ。自死でひっそりとこの世から消えるくらいなら、だれかを巻き添えにして自分の不幸を世に知らせたい。そんなやけっぱちな思いがあったのか。 
              (NORIKO YAMASHITA)
 
2023年4月25日 記     

監督/脚本: トマーシュ・ヴァインレプ/ペトル・カズダ  
原作:ロマン・ツィーレク
出演: ミハリナ・オルシャニスカ/マリカ・ソポスカー/クラーラ・メリーシコヴァー/マルチン・ペフラート/マルタ・マズレク
2016年チェコ=ポーランド=スロバキア=フランス(105分)
原題:JA, OLGA HEPNAROVA(I, OLGA HEPNAROVA)
配給:クレプスキュール フィルム  
公式サイト:https://olga.crepuscule-films.com/






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              『午前4時にパリの夜は明ける』 LES PASSAGERS DE LA NUIT
        2023年4月21日(金)からシネスイッチ銀座/新宿武蔵野館/渋谷シネクイントほか全国公開


■夫と別れ外で働くことになったことから、また仕事先で出会ったホームレスの若い女性を家に招き入れたことから、彼女や息子の人生が動き出してゆくその7年間を描いたヒューマンドラマ。監督は『アマンダと僕』で注目されたミカエル・アース。ふたりの子を持つ主人公にシャルロット・ゲンスブール。そしてエマニュエル・べアールが主人公の上司でちょっと風変わりなラジオのパーソナリティとして登場する。

■SYNOPSIS■ ミッテラン政権が誕生し、変革の空気漂う1980年代初頭のフランス・パリ。それから数年たち、エリザベート(ゲンスブール)の人生も大きく変わろうとしていた。夫が家を出て娘と息子、青春期のふたりの子を持つシングルマザーになったのだ。自活を余儀なくされ、採用されたのはいつも愛聴しているラジオ・フランスの深夜番組。名物パーソナリティとして知られるヴァンダ(べアール)のアシスタントとしてだった。一歩前に歩き出したエリザベート。ある日、スタジオに遊びに来たホームレスの少女タルラを家に招き入れたことから、家庭内にも変化が起きはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ ラース・フォン・トリアーやギャスパー・ノエといった、アグレッシブな監督のエキセントリックな役柄に好んで取り組んできたシャルロット・ゲンスブール。それが彼女自身の財産になっているのは間違いないが、一方でエリザベートのようなごくふつうの、でも品のいいパリジェンヌ役がこれほどハマるひとは数えるほど。シャルロット・ファンはこれこれ、と思うのではないか。パリの街をただ歩くだけで様になる。          (NORIKO YAMASHITA)
 
2023年4月18日 記

監督/脚本:ミカエル・アース
出演:シャルロット・ゲンズブール/キト・レイヨン=リシュテル/ノエ・アビタ/メーガン・ノータム/エマニュエル・ベアール
2022年フランス(111分)   原題:LES PASSAGERS DE LA NUIT
配給:ビターズ・エンド 
公式サイト:https://bitters.co.jp/am4paris/
© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA 






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                   『幻滅』 ILLUSIONS PERDUES
  2023年4月14日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿ピカデリー/YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

© 2021 CURIOSA FILMS - GAUMONT - FRANCE 3 CINÉMA - GABRIEL INC. – UMEDIA

■19世紀フランスの文豪オノレ・ド・バルザックの代表作「人間喜劇」から「幻滅―メディア戦記」を映画化。詩人を夢見る田舎育ちの純朴な青年が、恋仲の貴族夫人とパリに出たのちに都会の荒波にもまれ、いつしか初心を忘れて欲得の世界に飲み込まれてゆく。監督は『情痴 アヴァンチュール』『偉大なるマルグリット』のグザヴィエ・ジャノリ。地元フランスのセザール賞で作品賞ほか7冠獲得。

■SYNOPSIS■ 19世紀初頭フランスの田舎町アングレーム。詩作にはげみ詩人を夢見る青年リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)は、芸術に理解を示す貴族のルイーズ・ド・バルデュトン夫人(セシル・ド・フランス)に目をかけられ、いつしかふたりは恋仲となる。夫人の夫に気づかれたふたりはパリに出るも、田舎者のリュシアンは社交界で浮いた存在となり、夫人に見限られ自力で生きることを余儀なくされる。ある日、新聞記者のルストー(ヴァンサン・ラコスト)と知り合ったリュシアンは活字と批評の世界に強引に食い込んでゆく。
 
■ONEPOINT REVIEW■ ソルボンヌ大学の文学部で「人間喜劇」も学んだというバルザック通のジャノリ監督は、いつか映画化したいと思っていたという。小説に絵をつけたようなものではなく、映画としての独自の「幻滅」を。この時代の先端メディア、新聞業界やそこで展開される批評が物語の中心になる。そこは発信がスピーディーで広告もたくさん入るが、いまのフェイクニュースを超える虚実ないまぜの情報がえげつなく広がる。現代と重なる部分も多く、またジャノリ監督のセンス、あるいは主演ヴォワザンのいま風のルックスもあってか、ときどきコスチューム劇であることを忘れさせる。                 (NORIKO YAMASHITA) 
2023年4月13日 記

監督/脚本:グザヴィエ・ジャノリ
脚色/台詞:グザヴィエ・ジャノリ/ジャック・フィエスキ
出演:バンジャマン・ヴォワザン/セシル・ド・フランス/ヴァンサン・ラコスト/グザヴィエ・ドラン/サロメ・ドゥワルス/ジャンヌ・バリバール/ジェラール・ドパルデュー/アンドレ・マルコン/ルイ=ド・ドゥ・ランクザン/ジャン=フランソワ・ステヴナン
2022年フランス(149分)  原題:ILLUSIONS PERDUES 
配給:ハーク  配給協力:FLICKK   公式サイト:https://www.hark3.com/genmetsu/






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                  『聖地には蜘蛛が巣を張る』 HOLY SPIDER
                       2023年4月14日(金)から
      新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ渋谷/日比谷・TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

■2000年ごろにイランで実際に起きた娼婦連続殺人事件を、女性蔑視が蔓延する同国の社会的背景に視線を向けて描いたクライム・サスペンス。ヨーロッパに拠点を移したのちに撮ったダークファンタジー『ボーダー 二つの世界』で大注目されたイラン出身のアリ・アッバシ監督が、祖国にはびこる根深い闇を15年の構想を経て描いている。

■SYNOPSIS■ イスラム教シーア派の聖地マシュハド。予約済みのホテルに着いたラヒミだったが宿泊をフロントから拒否される。ジャーナリストのIDカードを見せ問答の末にチェックインできたものの、女性のひとり客ゆえの拒否は明白だった。彼女がこの街にやって来たのは、世間を騒がせている娼婦連続殺人事件の取材のため。限られた区域での犯行なのになぜ犯人は捕まらないのか。恐れられる反面、娼婦〝粛清〟を英雄視する空気さえ世間にはあった。警察や聖職者の判事と接触したラヒミはその態度に不信感を抱く一方で、自らオトリとなって殺人鬼の蜘蛛の巣にかかることを決意する。

■ONEPOINT REVIEW■ 女性蔑視どころか女性憎悪がここには満ちている。人として扱ってもらえていない娼婦だけでなく、運よく?家庭に収まった女性も夫に浮気されないように、捨てられないようにびくついているように見える。そして、だからこそ孤軍奮闘するラヒミの強さが際立つのだが、演じているザーラ・アミール・エブラヒミも訳ありでイランを追われ、スタッフだったところを主役に抜擢されたひと。カンヌ映画祭で女優賞を受賞した。      (NORIKO YAMASHITA) 2023年4月12日 記

監督/共同脚本:アリ・アッバシ  共同脚本:アフシン・カムラン・バーラミ
出演:メフディ・バジェスタニ/ザーラ・アミール・エブラヒミ/アラシュ・アシュティアニ/フォルザン・ジャムシドネジャド
2022年デンマーク=ドイツ=スウェーデン=フランス(118分)
原題:HOLY SPIDER  配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/seichikumo/
©Profile Pictures / One Two Films






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             『ガール・ピクチャー』 TYTOT TYTOT TYTOT(GIRL PICTURE)
        2023年4月7日(金)から新宿シネマカリテ/YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

■大人ではないけれど子どもでもない。セクシャリティや親との関係、打ち込む競技から受けるプレッシャー。三者三様の悩みを抱える少女たちを、何かが起きそうな週末にフォーカスして描いたフィンランド発青春映画。監督のアッリ・ハーパサロをはじめ脚本家、プロデューサー、制作会社と、つくり手の主要ポストも女性スタッフが占め、女性目線で描かれている。

■SYNOPSIS■ 体育の授業中、クラスメートのもの言いにキレて暴力をふるってしまったミンミをそっと慰めるロンコ。ふたりは一緒にスムージー・スタンドでバイトする大の仲良しで、ロンコはミンミが繊細で優しい性格なのをよく知っている。ロンコの目下の悩みは、間違いなく男の子が好きなのに性的な欲望を感じないこと。そんなロンコに付き添ってパーティに参加したある金曜日、ミンミはバイト中に出会ったエマと再会する。彼女はヨーロッパ選手権を目指す優秀なスケーターだったが、いまにも重圧で押しつぶされそうだった。

■ONEPOINT REVIEW■ まだ親と生活する年齢なのに、ひとり暮らしをしているミンミの姿が切ない。父親はどこかに消えてしまったらしく、母親とは連絡を取りあう仲だが新しい家庭を築いていて、彼女の視界に娘の姿はほぼない。やさしかった母の印象が胸に刻まれているだけに、少女ミンミは恋に落ちて幸せをつかみかけても、疑心暗鬼になってしまう。観客も胸をギュッと締め付けられる瞬間だ。      
                   (NORIKO YAMASHITA)
 2023年4月7日 記

監督:アッリ・ハーパサロ  脚本:イロナ・アハティ/ダニエラ・ハクリネン
出演:アーム・ミロノフ/エレオノーラ・カウハネン/リンネア・レイノ
2022年フィンランド(100分)    原題:TYTOT TYTOT TYTOT(GIRL PICTURE)
配給:アンプラグド 
公式サイト:https://unpfilm.com/girlpicture/
© 2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved






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                   『パリタクシー』 UNE BELLE COURSE
            2023年4月7日(金)から新宿ピカデリー/角川シネマ有楽町ほかで公開


■借金を抱えてどん詰まりの人生を送るタクシー運転手が、終の棲家となるホームに向かう老婦人を乗せたことから、ふたりのあいだに芽生える強い絆。驚きの結末へと向かう心温まる物語は地元フランスで大ヒットした。監督は『戦場のアリア』で注目されたクリスチャン・カリオン。御年94歳、シャンソン界の大スターでもあるリーヌ・ルノーが、こちらもフランスの国民的コメディアンで俳優のダニー・ブーンと共演。

■SYNOPSIS■ 借金の返済がままならず、命綱である運転免許証も免停まであと2点、タクシードライバーのシャルルは追い込まれていた。そんなときにパリ東側の郊外、ブリ=シュル=マルヌまで客を迎えに行ってほしいとやっかいな無線連絡が入る。渋々行くと高齢の女性マドレーヌが待っていた。目的地はパリ市内を突っ切って西側の郊外、シャヴァンㇴ通りにある老人施設。92歳という高齢の彼女は医者のすすめで独り住まいの住居を引き払い、施設に入る決心をしたのだった。タクシーが走り出してすぐにマドレーヌはシャルルにお願いする「寄り道してくれないかしら?」

■ONEPOINT REVIEW■ マドレーヌの話を聞くうちにシャルルの仏頂面がどんどん和らいでゆく。はじめは初恋ののろけ話だったが、その穏やかな表情からはうかがい知れない過酷な人生を送って来たマドレーヌ。とくにシャルルが心を許すのは、彼女の父らがナチスに銃殺された場所を訪れたときだろうか。原題は「UNE BELLE COURSE」。目的地を大きく外れた思い出の地を巡るわがままコースは、パリの美しさをタクシーで満喫しながらひとりの女性の人生をふり返る、濃厚な1日となる。      
               (NORIKO YAMASHITA)
 2023年4月5日 記

監督/共同脚本:クリスチャン・カリオン  共同脚本:シリル・ジェリー
出演:リーヌ・ルノー/ダニー・ブーン/アリス・イザーズ/ジェレミー・ラウールト/グウェンドリーヌ・アモン/トマ・アルダン/ジュリー・デラルム
2022年フランス(91分)  原題:UNE BELLE COURSE  配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/paristaxi/
© 2022 - UNE HIRONDELLE PRODUCTIONS, PATHE FILMS, ARTÉMIS PRODUCTIONS,
TF1 FILMS PRODUCTION






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                     『ザ・ホエール』 THE WHALE
            2023年4月7日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほかで公開

■心に深い傷を負って引きこもり、過食症から度を超す巨体となった余命わずかな男性。生きる力もないなか、疎遠となっていた娘との絆を取り戻そうと最後の気力をふり絞ってもがく姿を描いた人間ドラマ。監督は『レスラー』や『ブラック・スワン』のダ―レン・アロノフスキー。『ハムナプトラ』シリーズのブレンダン・フレイザーが巨漢を演じ、ことしのアカデミー賞主演男優賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 自宅からオンラインで大学の授業を行っているチャーリー(ブレンダン・フレイザー)。彼の目に学生たちの姿は見えているが逆のカメラはオフにされ、彼の姿は見えていない。272キロの醜い巨体を、画面の向こうにさらしたくないのだ。理不尽なできごとから愛する男性アランを失った彼は引きこもり、過食症となっていまの姿となった。芳しくない体調をアランの妹で看護師のリズが案じて管理しているが、死期が迫っていることをふたりは感じている。そんなチャーリーにとっての心残りは、8年前に恋人のもとに走り捨てる形となったひとり娘エリ―のことだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 悲しい物語の背景にあるのは、統一教会問題とおなじような意味での〝宗教問題〟。キリスト教系の宗教団体の宣教師だったチャーリーの恋人アランは、二世信者だったのではないか。そんな環境でチャーリーとの同性愛が認められるはずもなく、教会と父親の両方から追い込まれ悲劇が起きる。そしてタイトルのザ・ホエール=鯨は主人公の巨漢を連想するが、加えて父と娘を結ぶ思い出の一冊、メルヴィルの小説「白鯨」から取られている。  (NORIKO YAMASHITA)
 2023年4月4日 記

監督:ダーレン・アロノフスキー
原案/脚本:サム・D・ハンター
出演:ブレンダン・フレイザー/セイディー・シンク/ホン・チャウ/タイ・シンプキンス/サマンサ・モートン
2022年アメリカ(117分)  原題:THE WHALE  配給:キノフィルムズ  映倫:PG12
公式サイト:https://whale-movie.jp/  © 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.






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          『ノートルダム 炎の大聖堂』 NOTRE-DAME BRULE(NOTRE-DAME ON FIRE)
                  2023年4月7日(金)から全国IMAXほかで公開


 Photo credit:Mickael Lefevre
Photo credit(上から):
David Koskas/Guy Ferrandis/Mickael Lefevre

■2019年、工事中の建物から失火し炎上したパリの観光名所ノートルダム寺院。世界中を震撼させた世界遺産大炎上の顛末が劇映画になった。報道映像や現場で撮られた動画などを巧みに織り交ぜながら、スペクタクルなパニックムービーとして映画化したのは、『薔薇の名前』や『愛人/ラマン』などの地元フランスの大ベテラン、シャン=ジャック・アノー監督。全国のIMAXを中心に公開。

■SYNOPSIS■ 2019年4月15日、鉄骨が組まれ火花も散るような工事が行われていたパリのノートルダム寺院。大聖堂でミサが行われていた夕刻、新入りの警備員が事務所で待機していると突然、警報機が点滅しけたたましく鳴り響いた。報告を受けた上司が大急ぎで石の階段をかけ上り現場を確認するも異常は見あたらない。また誤作動だったのか。報告を何度も上げているのに一向に調査してもらえていないのだ。だがそのうちに周辺の市民から消防署に電話が入り始める。まるでバチカンのコンクラーベのように寺院から煙が立ち昇っていたのだ。

■ONEPOINT REVIEW■ アノー監督はノートルダム寺院という建造物を主演女優と見立ててこの映画を撮ったという。対するは炎という悪魔。そして〝貴婦人〟を炎から救い出す勇敢な男女の若い消防士たち。脇に回るのは物語に導いてゆく新米の警備員や、遠く離れたベルサイユ宮殿にいてなかなか現場にたどり着けない文化財の担当者。重要文化財救出の鍵を握る彼の到着を待ちわび、観客は手に汗握る。そして報道映像で登場するマクロン大統領もいる。いずれも実在の人物たちだが、本作とは別の視点からの物語も見てみたい気がする。     (NORIKO YAMASHITA)
 2023年4月3日 記

監督:ジャン=ジャック・アノー
出演:サミュエル・ラバルト/ジャン=ポール・ボーデス/ミカエル・チリ二アン
2021年フランス=イタリア(110分)  原題:NOTRE-DAME BRULE(NOTRE-DAME ON FIRE)
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://notredame-movie.com/
©2022 PA:THÉ FILMS – TF1 FILMS PRODUCTION – WILDSIDE – REPÉRAGE – VENDÔME PRODUCTION






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                    『生きる LIVING 』 LIVING
                 2023年3月31日(金)から全国東宝系で公開

■黒澤明監督が志村喬主演で撮った1950年代の代表作『生きる』を、イギリスを舞台にノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本でリメイクした人間ドラマ。生ける屍のような日々を送る公務員の男性が、余命宣告を受けたことから残り少ない命と向き合い、最後の生きがいを見出す姿が描かれる。主演は英国のベテラン、ビル・ナイ。監督は南アフリカ出身のオリヴァー・ハーマナス。

■SYNOPSIS■ 第二次大戦が終わって間もない1953年のロンドン。役所への初出勤の日を迎えたピーター(アレックス・シャープ)は先輩たちと通勤列車で相席になるなか、ひとり別の車両に乗る初老の英国紳士の存在が気になる。市民課の直属の上司、ウィリアムズ(ビル・ナイ)だった。向上心をもって公務員となったピーターとは対照的にウィリアムズは明らかに惰性で職務をこなしていた。妻に先立たれたあと彼は同居する息子夫婦に無視され、生ける屍のようになっていた。そんなある日、医者から余命宣告を受けた彼は無断欠勤するようになる。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画ファンには『日の名残り』や『わたしを離さないで』の原作者としてもおなじみのカズオ・イシグロは、映画オタクらしい。プロデューサー氏との映画談議をきっかけにこの企画は実を結んでいった。ブランコに乗って歌う有名なシーン。志村喬バージョンは「ゴンドラの唄」だが、ビル・ナイはウィリアムズの故郷であるスコットランドを想う、ナナカマドの歌を歌いこれもまた心に沁みる。
                  (NORIKO YAMASHITA)
 2023年3月27日 記

監督:オリヴァー・ハーマナス
脚本:カズオ・イシグロ  原作:黒澤明監督作品『生きる』
出演:ビル・ナイ/エイミー・ルー・ウッド/アレックス・シャープ/トム・バーク
2022年イギリス=日本(103分) 英題:LIVING
配給:東宝  公式サイト:https://ikiru-living-movie.jp/
©Number 9 Films Living Limited






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                    『トリとロキタ 』 TORI ET LOKITA
    2023年3月31日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/渋谷シネクイントほか全国順次公開

■難民船の上で出会い、固く結ばれたニセの姉弟ロキタとトリ。借金返済と祖国の母への送金のために、少女ロキタは少年トリとともにドラッグの運び屋をし、さらに正体不明の闇の世界に手を染めてゆく。『ロゼッタ』をはじめ子どもたちに寄り添った秀作を送り続けるダルデンヌ兄弟監督が、祖国を離れ異国の地で危なげに生きる少年少女を描いている。カンヌ映画祭75周年記念大賞受賞作。

■SYNOPSIS■
 トリはベナン出身、ロキタはカメルーン出身。見ず知らずのふたりはアフリカからの難民ボートの上で出会い、姉弟のような強い絆で結ばれている。すでにビザを取得済みのトリに対し未取得のロキタ。ふたりは姉弟だと面接で言い張るロキタだが認めてもらえず、危機感を募らせる。密航あっせん業者からの借金取り立てに追われ、アフリカの母からも送金を迫られる日々。ふたりは麻薬の運び屋としてわずかな収入を得ているが、ビザの取得を焦るロキタは内容も知らない闇の仕事に手を染める。

■ONEPOINT REVIEW■ 外部からの注文をつぎつぎと電話で受け、ひとり黙々とパスタやピザをつくる料理人の男。宅配専門の店なのだろうか。ゆうに生活できそうな繁盛ぶりだが、特別な野心があるのかそれとも大きな借金があるのか。ロキタとトリに運び屋の仕事を発注しているのはこの男だ。ごく普通の市民生活と反社との境目があいまいな世界。そして子どもと言えどお構いなく借金取取り立てをするあっせん業者。そんな世界に放り込まれた子たちはいったいどうしたらいいのか。ダルデンヌ兄弟はいつものように淡々と描いてゆく。    (NORIKO YAMASHITA)
 2023年3月26日 記

監督/脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 
出演:パブロ・シルズ/ジョエリー・ムブンドゥ/アウバン・ウカイ/ティヒメン・フーファールツ/シャルロット・デ・ブライネ/ナデージュ・エドラオゴ/マルク・ジンガ
2022年ベルギー=フランス(89分)  原題:TORI ET LOKITA
配給:ビターズ・エンド  公式サイト:https://bitters.co.jp/tori_lokita/
©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv
– PROXIMUS - RTBF(Télévision belge) Photos ©Christine Plenus






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                 『メグレと若い女の死 』 MAIGRET
        2023年3月17日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

■パリの広場で発見された若い女性の刺殺死体。鋭い洞察力を発揮する担当刑事、メグレ警視が事件の真相と本質に迫り、背景にある社会的な問題も暴いてゆくミステリー作品。古典的名作「メグレ警視シリーズ」の原作のまま、50年代のレトロなタッチで描いたのは、シムノン作品は『仕立て屋の恋』につづきこれが2作目のパトリス・ルコント監督。ジェラール・ドパルデューがイメージに近いメグレ警視を演じている。

■SYNOPSIS■ 婚約披露宴が華やかに行われている会場にひとり現れる若い女性。だが招かれざる客なのか、すぐに主催者の女性の手で追い出されてしまう。翌日、パリのモンマルトル・ヴァンティミーユ広場で若い女性の死体が発見される。死体には無数の刺し傷があり他殺だった。目撃者もなく身元も判明しない難事件。捜査を任されたメグレ警視は、若い女性には不釣り合いな高価なイブニングドレスに着目し、地道に調べを進めてゆくうちに被害者と同居していたある女性にたどり着く。

■ONEPOINT REVIEW■ 生まれ故郷に見切りをつけて憧れの都会にやってくる若者たち。いまも昔も変わらない図式だが、50年代のパリは階級の違いもいまよりはっきりしていたのではないか。憧れの街には来たものの…感が強い。どんよりとした空気が漂う。少なくともここではそう描かれる。そんな年ごろの娘たちに、幼くして亡くした自分の娘を重ねるメグレ。哀愁ただよう男の物語でもある。 
                (NORIKO YAMASHITA)
 20
23年3月17日 記

監督/共同脚本:パトリス・ルコント  共同脚本:ジェローム・トネール
原作:ジョルジュ・シムノン「メグレと若い女の死」
出演:ジェラール・ドパルデュー/ジャド・ラベスト/メラニー・ベルニエ/オーロール・クレマン/アンドレ・ウィルム
2022 年フランス(89分)  原題:MAIGRET  
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/maigret/
©2021 CINÉ-@ F COMME FILM SND SCOPE PICTURES.






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          『コンペティション』 COMPETENCIA OFICIAL(OFFICIAL COMPETITION)
        2023年3月17日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテほか全国公開

©2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

■名声を残そうと富豪の道楽で始まった映画製作。世界有数の映画監督と人気俳優、実力派俳優が招集され、用意されたのはノーベル賞受賞小説。監督と俳優のエゴイズムがぶつかり合う破天荒なリハーサル風景、そして意外な結末を描いたシニカルなヒューマン・コメディ。『ル・コルビュジェの家』の映画監督コンビ、G・ドゥプラットとM・コーンが、自国アルゼンチンからベテランのオスカル・マルチネス、スペインから人気俳優ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスを招いて撮影している。

■SYNOPSIS■ 製薬業界で大成功を収めた男が残り少ない人生で欲しいのは〝名声〟。側近から勧められるまま映画製作を決断し、偉大な作品をということでいまもっとも旬な映画監督ローラ・エクバス(クルス)に白羽の矢を立てる。用意されたのはノーベル賞受賞のベストセラー小説「ライバル」。ローラはみずから脚色し、W主役に世界的な人気スターのフェリックス(バンデラス)と、学者タイプのイバン(マルチネス)という好対照なふたりの俳優を選び出す。3人はさっそく脚本の読み合わせを始めるが、ローラはいきなりリハーサル終盤のような深い感情表現を要求する。

■ONEPOINT REVIEW■ 原作本さえ読む気のないスポンサーのご老人。ついでに娘を映画に出してしまおう、というのはよくある話なのか。それにしてもずいぶんと年の離れた親子。きっと若い妻がいるに違いない。一方、映画界の3人はと言えば、目立ちたがりの監督に、映画業界を首尾よく乗り越えてきたらしいスター俳優、そしてイバンはじつはエセ文化人なのか。だまし合いもあって、さてどう転がってゆくのか。                 (NORIKO YAMASHITA)
 20
23年3月15日 記

監督:ガストン・ドゥプラット/マリアノ・コーン
出演:ペネロペ・クルス/アントニオ・バンデラス/オスカル・マルティネス/ホセ・ルイス・ゴメス/イレーネ・エスコラル
2021年スペイン=アルゼンチン(114分)  
原題:COMPETENCIA OFICIAL(OFFICIAL COMPETITION)  配給:ショウゲート
公式サイト:https://competition-movie.jp/





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                    『The Son/息子』 The Son
           2023年3月17日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■両親の離婚が原因なのか。心に闇を抱え社会に適応できない息子と、息子と新しい家族とのはざまに立ち苦悩する父親。袋小路にはまった家族の姿を描いたのは、緻密な演出で認知症の父を描き注目された『ファーザー』のフロリアン・ゼレール監督。劇作家でもある彼の自作戯曲を、ベテラン脚本家クリストファー・ハンプトンとともに脚本化し映画化した。監督2作目。また主演を買って出たヒュー・ジャックマンが制作総指揮し、彼の父親役を『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスが演じている。

■SYNOPSIS■ 若く美しい妻と幼い息子。政治にも関わろうかという有力弁護士ピーター(ジャックマン)の新生活は順調そうに見えた。だがある日、元妻のケイト(ローラ・ダーン)がやって来て、ふたりの息子ニコラス(ゼン・マクグラス)が不登校で、自分に向ける目にも憎しみを感じると訴える。ニコラスは自傷行為をくり返していた。彼を追いこんだのは自分のせいだとピーターには負い目があり、深く愛してもいた。現妻のベス(ヴァネッサ・カービー)を説得し、息子の望みどおり同居することにしたがある日、ニコラスはベスに対して深い憎しみの言葉を口にする。

■ONEPOINT REVIEW■ ニコラスはただの反抗期か、それとも誠意を尽くして向き合っても解決できない病なのか。重い病だとしてもここにその答えがあるわけではない。けれどゼレール監督は、こころの病に対する対話のきっかけになることを期待すると語っている。            (NORIKO YAMASHITA)
 20
23年3月14日 記

監督/共同脚本/原作戯曲:フロリアン・ゼレール
共同脚本:クリストファー・ハンプトン  製作総指揮:ヒュー・ジャックマン
音楽:ハンス・ジマー
出演:ヒュー・ジャックマン/ローラ・ダーン/ヴァネッサ・カービー/ゼン・マクグラス/アンソニー・ホプキンス
2022年イギリス=フランス(123 分)  原題:THE SON
配給:キノフィルムズ  公式サイト:https://www.theson.jp/
© THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.






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                      『赦し』 DECEMBER
             2023年3月18日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開

■7年前に重刑の判決が下りたクラスメート殺人事件に再審の機会が与えられ、召喚される被害者の両親。事件後に離婚しそれぞれの道を歩む元夫婦をふたたび襲う悲しみ、怒りが複雑にからみ葛藤する姿と、加害少女との対峙を描いた人間ドラマ。2011年に来日し日本で活動するインド系監督、アンシュル・チョウハンがメガホンを取っている。両親役は尚玄とMEGUMI。個性派の松浦りょうが加害者少女を演じている。

■SYNOPSIS■ 7年前、高校生の娘をクラスメートの少女に殺害されるという事件に遭ったのち離婚し、各々の道を歩む元夫婦。妻の澄子(MEGUMI)は被害者の会で出会った男性と再婚し、夫の克(尚玄)はひとり酒浸りの生活を送っていたが、ある日裁判所からそれぞれに召喚状が届く。未成年で20年の刑を受け服役中の加害者、夏奈(松浦りょう)に再審の機会が与えられたというのだ。怒りが収まらない克、事件を忘れたい澄子。ふたりが顔を合わせるのも久しぶりのことだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 夏奈はなぜクラスメートを殺害したのか。そのわけは少しずつ映画のなかで明かされてゆくが、登場人物である両親は知らない。そのことからふたり、とくに克と観客とのあいだに心情の温度差が生じているように見えるところが面白い。そして終盤、事件当時のできごとが夏奈自身の口から明かされ、一気に緊張感が高まる。              (NORIKO YAMASHITA) 
20
23年3月13日 記

監督:アンシュル・チョウハン   脚本:ランド・コルター 
出演:尚玄/MEGUMI/松浦りょう/生津徹/成海花音/藤森慎吾/真矢ミキ 
2022年日本(98分) 英題:DECEMBER
配給:彩プロ  
公式サイト:https://yurushi-movie.com/
©2022 December Production Committee. All rights reserved






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              『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』 MAIJA ISOLA
2023年3月3日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテ/YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

写真下は娘のクリスティーナ・イソラ
© 2021 Greenlit Productions and New Docs

■カーテン生地などのファブリック製品を中心に洋服から日用品まで、色鮮やかな色彩と個性的なデザインで世界に進出したフィンランドのファッションブランド「マリメッコ」。その顔となったデザイナー、マイヤ・イソラの自由奔放な放浪の人生を追ったドキュメンタリー。旅先から娘のクリスティーナに送った手紙、クリスティーナ本人による回想、日記やアーカイブ映像などで生きざま、創作のヒントやインスピレーションの源、あるいはマリメッコのオーナーであるアルミ・ラティアとの確執などを追ってゆく。監督は長編ドキュメンタリー2作目のレーナ・キルぺライネン。マイヤ・イソラのファブリックには子どものころから親しんできたという。

■SYNOPSIS■ 1927年3月15日、フィンランド南部農家の3姉妹の末っ子として誕生。1945年に17歳年上の商業芸術家の男性と結婚。翌年19歳で娘のクリスティーナを出産するも離婚し、娘を母に預けてヘルシンキの芸術大学に進学。やがて旅先からクリスティーナに手紙を送り始める。そして初めての海外旅行先ノルウェーで出合った壺をモチーフにファブリックをデザインし、大学のコンテストに出品。その作品を買い上げデザイナーとして雇ってくれたのが、1951年にマリメッコを創業するアルミ・ラティアだった。さまざまな人気シリーズを繰り出してゆくなかでも「花シリーズ」がマイヤとマリメッコを象徴する人気商品となる。

■ONEPOINT REVIEW■ 根っからのボヘミアンだったのだろう。若き日にはバックパッカーとしてヨーロッパ各地を旅し、野宿することもあった。そのなかでひととのつながりを築き恋もし影響も受け、40代には北アフリカに移住。さらに50代のはじめにはアメリカにも移り住んでいる。娘クリスティーナとは手紙のやり取りが中心になるが、絆はしっかりと築いていたようで、米国からの帰国後は母娘の共同制作も行っている。そして2001年の他界後は娘と孫娘がマリメッコ時代のデザインを継承しているというから、結婚離婚をくり返し波乱に満ちながらも、うらやましいほど幸せな生涯に見える。                  (NORIKO YAMASHITA)
 20
23年3月5日 記

監督/脚本:レーナ・キルペライネン
出演:マイヤ・イソラ/クリスティーナ・イソラ/エンマ・イソラ
声の出演:パイヴィ・ヤルヴィネン(マイヤ・イソラ)/マルギット・ウェステッルンド(アルミ・ラティア)  2021年フィンランド=ドイツ(97分)  原題:MAIJA ISOLA
配給:シンカ + kinologue  公式サイト:http://maija-isola.kinologue.com/






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                『エッフェル塔~創造者の愛~』 EIFFEL
     2023年3月3日(金)から新宿武蔵野館/シネスイッチ銀座/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

■世界有数の観光地フランス・パリのシンボルとして、セーヌ川のほとりにそびえ立つエッフェル塔。100年以上経ったいまも変わらない姿を見せるあの鉄の塔には、いったいどんなドラマが隠されているのか。生みの親ギュスターヴ・エッフェルの知られざる人物像と若き日の激しい恋を、想像もめぐらせながら描いた人間ドラマ。ロマン・デュリスの相手役として、Netflixの人気シリーズ「セックス・エデュケーション」で注目のエマ・マッキーが抜擢。そしてブルブロン監督は本邦初登場。

■SYNOPSIS■ 1886年、アメリカ合衆国に寄贈した自由の女神の基礎をつくった技術者として、一目置かれる存在となったギュスターヴ・エッフェル(デュリス)。周囲からは3年後に迫る万国博覧会へのコンペ参加を進められるも本人は無関心。そんなある日、パーティーである女性と出会いエッフェルは動揺する。それは25年も前の若き日に激しい恋に落ちたアドリエンヌ(マッキー)。階級の違いから女性の親に引き離され、いまはジャーナリストの妻となっていた。動転するなか同席の大臣からシンボル建設を促され、女性からも野心作を期待されたエッフェルは、「パリの中心にブルジョワも労働者も楽しめる300メートルの鉄の塔をつくる」と公言する。

■ONEPOINT REVIEW■ パリにはぜったい欠かせないシンボルにしてランドマーク。しかし100年前パリのひとたちとくに文化人と言われるひとたちは、シックなパリの街に300メートルもの鉄の塔が建設されることに猛反発した。技術的な困難を打開するだけではなく、美的な側面からもエッフェルは闘わなければならなかったのだが、結果彼は技と美の両面を克服する。そしてその原動力としての恋の存在を本作では浮かび上がらせている。           (NORIKO YAMASHITA) 
2023年2月21日 記

監督:マルタン・ブルブロン 脚本:カロリーヌ・ボングラン
出演:ロマン・デュリス/エマ・マッキー/ピエール・ドゥラドンシャン/アレクサンドル・スタイガー/アルマンド・ブーランジェ/ブルーノ・ラファエリ
2021年フランス=ドイツ=ベルギー(108分)  原題:EIFFEL
配給:キノフィルムズ  公式サイト:https://eiffel-movie.jp/
© 2021 VVZ Production – Pathé Films – Constantin Film Produktion – M6 Films






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                『逆転のトライアングル』 TRIANGLE OF SADNESS
             2023年2月23日(木・祝)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

■さまざまなセレブが集う豪華客船が難破。数名が生きて無人島にたどり着くと、そこでリーダーとなるのは裕福な者ではなく、生きるすべを知っている意外な人物だった。シニカルな語り口が持ち味のオストルンド監督は、今回も格差社会を皮肉たっぷりに描き、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』につづいて2作連続でカンヌ映画祭の最高賞パルムドールを受賞。また主要人物のひとりヤヤ役を好演したチャールビ・ディーンは公開間もない昨年8月、32歳の若さで他界している。

■SYNOPSIS■ モデルとして駆け出しのカール(ハリス・ディキンソン)が、恋人で売れっ子モデルにしてインフルエンサーのヤヤ(チャールビ・ディーン)とバカンスを楽しんでいるのは豪華客船のなか。そこには武器の売買で財を成した夫婦からロシアの新興財閥まで、怪しげな商売で成り上がった輩がウヨウヨ。彼らは専制君主のように振い、高額なチップを期待する乗務員はそれに従う。ある日、酒に寄った女性客が女性乗務員に無茶ぶりをしたことから、悪天候もからんで大変な事態となってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ ファッション業界、豪華客船、無人島と舞台は大きく変わってゆくが、一貫してつらぬかれているテーマは格差社会、そしてお金。とりわけカールとヤヤが高級レストランで食事をし、どちらが払うか問題が面白い。明らかにカールよりも稼いでいるヤヤは、自分が払うと誘いながら結局はカールに払わせて彼を激怒させる。これもひとつのジェンダー問題。そしてこの無人島では、サバイバー能力だけでなく若さや美形もものを言ってくる。   (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月19日 記

監督/脚本:リューベン・オストルンド
出演:ハリス・ディキンソン/チャールビ・ディーン/ウディ・ハレルソン/ヴィッキ・ベルリン/ヘンリク・ドルシン/ズラッコ・ブリッチ/ジャン=クリストフ・フォリー/イリス・ベルベン/ドリー・デ・レオンズニー・メレス/アマンダ・ウォーカー/オリヴァー・フォード・デイヴィス/アルヴィン・カナニアン/キャロライナ・ギンニン/ラルフ・シーチア

2022年スウェーデン=ドイツ=フランス=イギリス(147分)
原題:TRIANGLE OF SADNESS  配給:ギャガ
公式サイト:https://twitter.com/triangle0223






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                  『ワ―ス 命の値段』 WORTH
            2023年2月23日(木・祝)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■2001年9月11日の同時多発テロ発生直後に、犠牲者および遺族のために米政府が立ち上げた救済基金。その分配をめぐり基金の責任者となった数字のエキスパートと、受給当事者たちとのあいだに生まれた亀裂およびその顛末を描いた社会派ヒューマンドラマ。実在の弁護士ケン・ファインバーグの回顧録をもとに、『スポットライト 世紀のスクープ』『それでも夜は明ける』のスタッフ、新進のサラ・コランジェロ監督が手がけている。

■SYNOPSIS■ 同時多発テロが起きて間もなくの同年9月22日、数々の訴訟を手がけてきた弁護士で数字の専門家ファインバーグは、政府の司法委員会に召喚される。テロの被害者とその遺族を救済する基金を創設するにあたり、協力してくれないかという打診だった。救済対象は庶民から富裕層まで格差も激しく、トラブルが起きるのは必至。決してやさしい仕事ではなかったが、ファインバーグは考えた末に無償で協力すると申し出て、部下にもそれを伝える。だが最初の説明会から紛糾し、雲行きは怪しかった。

■ONEPOINT REVIEW■ 訴訟大国と言われるアメリカ。基金創設は訴訟を避ける目的もあったが、それにしても政府の動きが早く驚かされる。ファインバーグは稼ぎ高をもとに命に値段をつけることなどしたくなかったはずだ。だが全員同額にしたならば収拾がつかないことも経験から知っている。そこで心を鬼にして…。だがそのクールさが反発を買う。            (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月18日 記


監督:サラ・コランジェロ  脚本:マックス・ボレンスタイン
出演:マイケル・キートン/スタンリー・トゥッチ/エイミー・ライアン/シュノリ・ラーマナータン
2019年アメリカ(118分)  原題:WORTH
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/worth/
© 2020 WILW Holdings LLC. All Rights Reserved.






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                 『エンパイア・オブ・ライト』 EMPIRE OF LIGHT
              2023年2月23日(木・祝)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

■1980年代初頭。イギリスのとある町の歴史ある映画館を舞台に、そこで働く人々の人間模様、上司と従業員の主従関係、そして古参の女性マネージャーと新入り男性の恋愛関係などを描いた人間ドラマ。脚本はサム・メンデス監督自身が、みずからの青春期をふり返りながらコロナ下に書き上げた。 

■SYNOPSIS■ 英国の静かな海辺の町で、市民の娯楽の場として親しまれてきた映画館エンパイア劇場。アールデコ調の豪華で美しい建物はいまも威厳を保っているが、時代に取り残されている感はやや否めない。そこに長年勤める中年女性ヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、心の病を抱えながらも同僚たちの暖かな目で見守られ、マネージャーの職務をこなしている。だが、良好な従業員同士の関係をぶち壊しにしているのが支配人のエリス(コリン・ファース)。彼は部下に威圧的なだけでなく、立場を利用してヒラリーに性的な関係を強いているのだ。ある日、建築家への夢を断たれた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)がスタッフとして加わることになる。


■ONEPOINT REVIEW■ 不況下のイギリスで、仕事を奪ったと勘違いされ逆恨みの標的となった移民たち。西インド諸島からの移民二世スティーヴンもそのひとりで、過去も現在もなにかと因縁をつけられ、生きにくい人生を強いられている。そんな彼が好んで聴いている音楽が、当時世界中で人気を集めていた黒人×白人の混合バンド、スペシャルズであり彼らが在籍したツートーン・レーベル。若き日のサム・メンデスもこの音楽で踊っていたらしい。      (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月17日 記

監督/脚本:サム・メンデス
出演:オリヴィア・コールマン/マイケル・ウォード/コリン・ファース/トビー・ジョーンズ/ターニャ・ムーディ/トム・ブルック/クリスタル・クラーク
2022年イギリス=アメリカ(115分)  原題:EMPIRE OF LIGHT
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.





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                『別れる決心』 헤어질 결심(DECISION TO LEAVE)
               2023年2月17日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

■不審な死を調べるうちに、重要参考人である女性に心を奪われのめり込んでゆく刑事。恋と使命の板挟みとなって苦悩する、仕事熱心で生真面目な男をミステリーで描く愛のドラマ。『オールドボーイ』や「お嬢さん』のカンヌ映画祭の常連パク・チャヌクが同映画祭で監督賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 史上最年少で警部になったチャン・へジュン(パク・ヘイㇽ)は、ひと一倍仕事熱心なだけではなく真面目で品行方正、人間的にも刑事の鑑のような男。仕事を持つ妻とは離ればなれに暮らしていて、週末だけ一緒に過ごすような生活を送っている。ある日、崖から男が転落。若い妻ソン・ソレ(タン・ウェイ)が夫の死にも平然としていることにへジュンは不審を抱き監視を始めるが、そのうちに特別な感情が芽生え、ソレも気づくようになる。そんななかソレにはアリバイがあり男の遺書も見つかったことから、自殺ということで事件は一件落着、に見えたのだが。

■ONEPOINT REVIEW■ パク・チャヌク作品らしく物語は二転三転し、複雑にからみ合い、先の見えない展開になってゆく。ミステリー作品としての面白さだが、それではこの作品はミステリーとラブのどちらに重きがおかれているのか。最後まで観てしまうとこれは、破滅的でしっとりとしたラブストーリーであった。                 (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月15日 記


監督/共同脚本:パク・チャヌク  
共同脚本:チョン・ソギョン
出演:パク・ヘイル/タン・ウェイ/イ・ジョンヒョン/コ・ギョンピョ
2022年韓国(138分)  
原題:헤어질 결심(DECISION TO LEAVE)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/wakare-movie/
© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED






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           『コンパートメント No.6』 HYTTI NRO 6(COMPARTMENT NUMBER 6)
               2023年2月10日(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開

© 2021 - AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION

■モスクワからロシア北端の町までの長距離寝台列車で、粗野な男と同室になった女性の困惑、葛藤を経て心をかよわせてゆく様子を描いた愛の物語。『オリ・マキの人生で最も幸せな日』のユホ・クオスマネン監督が、原作を大きく翻案して映画化した。第74回カンヌ映画祭で次席のグランプリを獲得。

■SYNOPSIS■ フィンランドからロシアの大学に留学中のラウラは、大学教授の恋人イリーナと同棲中だが、イリーナの仲間からは〝下宿人〟と呼ばれていた。その彼女と岩面彫刻遺跡ペトログリフを見に行く計画を立てるも直前にドタキャンされ、ひとりで出かける羽目に。モスクワから終点の目的地ムルマンスクまで長距離列車で2000キロはあろうかという長旅。仕方なくひとりで2等寝台の6号コンパートメントに入ると先客がいた。リョーハというその男はウォッカをラッパ飲みし、下品な言葉を浴びせる粗野な男。ラウラはすぐにも無秩序な列車から逃げ出したくなる。

■ONEPOINT REVIEW■ 不本意にもひとり旅を強いられることになったラウラは、劣悪な環境のコンパートメントから一旦逃げ出すが、心変わりして戻ってくる。妥協点はなにか。遺跡を見たい一心…は別にして、粗野なリョーハを受け入れ得るなにか、シンパシーとまでは言わないが、同じ匂いをどこかに感じ取っていたのかもしれない。ともあれそれをきっかけに、彼のやさしい面を知ってゆくことになる。それにしても劣悪なコンパートメントは論外として、なんと魅惑的な極寒の旅か。異論も多そうだけれど。                  (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月6日 記

監督/脚本:ユホ・クオスマネン
脚本:リヴィア・ウルマン/アンドリス・フェルドマニス
原案:ロサ・リクソム「Compartment No.6」(フィンランディア文学賞受賞)
出演:セイディ・ハーラ/ユーリー・ボリソフ/ディナーラ・ドルカーロワ/ユリア・アウグ/リディア・コスティナ/トミ・アラタロ
2021年フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ(107分)
原題:HYTTI NRO 6(COMPARTMENT NUMBER 6)
配給:アット エンタテインメント 
公式サイト:https://comp6film.com/






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                        『対峙』 MASS
               2023年2月10日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか公開

■6年前に高校の校内で起きた銃乱射事件の被害者と加害者の両親が、初めて顔を合わせて対峙するスリリングな対話劇。俳優としてキャリアを重ねてきたフラン・クランツが、実際に起きた事件やいくつかのリポートに衝撃を受け、みずから脚本を書いた監督デビュー作。映画やテレビ、演劇界で活躍する4人の俳優のコラボも見どころ。


■SYNOPSIS■ 郊外の美しい町並みにたたずむ小さな教会。職員らしき女性が部屋のセッティングをしていると、会合の仲介者と見られる女性が訪れ、挨拶もそこそこに隅々まで神経質そうにチェックする。何の会合か。やってきたのは中年と初老のふた組の夫婦。6年前に地元の高校で起きた銃乱射事件の被害者と加害者の両親で、ジェイとゲイルの息子は射殺され、リチャードとリンダの息子は数名を殺害したのちに本人も命を絶っていた。穏やかに対話が始まるも、ぎこちなさは免れない。息子さんのことを何もかも話して、とジェイが言うと、なぜ?と反射的に言ってしまうリチャード。うちの息子を殺したからよとゲイル。もちろんお話しますと応じたのはリンダだった。


■ONEPOINT REVIEW■ ほぼひと部屋だけで進む対話劇だが、濃密で核心をついた会話はスリリングで、ぐいぐい引き込んでゆく。そればかりか驚くような落ちもある。その落ちを見て『二トラム』の母子関係をふと思った。そして重い会話劇の前後につけられた、心を軽くしてくれるイントロとエンディング。そのテクニックも巧みな、鮮やかな初監督作だった。       (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月4日 記


監督/脚本︓フラン・クランツ
出演︓ リード・バーニー/アン・ダウド/ジェイソン・アイザックス/マーサ・プリンプトン
2021年アメリカ( 111 分)   
原題︓MASS   配給:トランスフォーマー
公式サイト︓https://transformer.co.jp/m/taiji/ Twitter︓@taiji_movie
© 2020 7 ECCLES STREET LLC






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              『すべてうまくいきますように』 TOUT S'EST BIEN PASSE
      2023年2月3日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/渋谷・Bunkamuraほか公開

■脳卒中で体が不自由になり安楽死を望む父と、戸惑いながらも父の幸せを模索する娘たち。安楽死が条件つきで認めらているスイスの隣国フランスを舞台に、ユーモアも交えて描いたオゾン監督最新作。原作者のエマニュエル・ベルンエイムはオゾン作品の共同脚本家として監督と旧知の仲だったが、自身の体験を書いた本作を残し癌で他界している。そのエマニュエル役を演じるのは、オゾンと初共働のフランスの国民的人気者ソフィー・マルソー。共演はアンドレ・デュソリエ、シャーロット・ランプリング。

■SYNOPSIS■ 高齢の父アンドレ(デュソリエ)が倒れ、作家であるエマニュエル(マルソー)が妹のパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)と病院に駆けつけると、身体にマヒが残る父がいた。ふたりはショックを受けるも父の口は相変わらず達者で、毒舌を吐いたり笑わせたり。別居中の彫刻家の妻(ランプリング)も見舞いに来るが、元気そうねと言い残し帰ってしまう。しかし検査をしてみると脳梗塞が見つかり回復は望めそうもない。転院先でエマニュエルとふたりきりになったアンドレは、終わらせてほしいと懇願し娘を動揺させる。なんで私に…。

■ONEPOINT REVIEW■ 米国のように中絶論議が再燃する国がある一方で、ヨーロッパを中心に安楽死を容認する動きもジワリと広がっている。けれどそれを議論する映画ではない。自己チューでひとの意見に耳を貸さない頑固者の父親。あなたの気持ちはわかります。けれどかと言って愛する父親の自死に手を貸せるかどうか。本音が出る人間らしいドラマとなっている。    (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月29日 記

監督/脚本:フランソワ・オゾン   原作:エマニュエル・ベルンエイム
出演:ソフィー・マルソー/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/ハンナ・シグラ
2021年フランス=ベルギー(113分)  原題:TOUT S'EST BIEN PASSE
配給:キノフィルムズ   公式サイト:https://ewf-movie.jp/
© 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES ewf-movie.jp





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              『イニシェリン島の精霊』 THE BASHEES OF INISHERIN
           2023年1月27日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

■評判を呼んだ衝撃作『スリー・ビルボード』から5年。マーティン・マクドナー監督の新作は、舞台をアメリカから彼のルーツであるアイルランドに移しての人間ドラマ。長年の親友と思っていた老境の男から、ある日突然絶交を告げられ途方に暮れる主人公。その戸惑いと葛藤と怒り、さらにはふたりの壮絶な戦いに至る不条理なできごとを、設定に似たアイルランドの島々でロケ撮影した。ふたりの男ファレルとグリーソン、主人公の妹役ケリー・コンドンら地元アイルランド出身の俳優陣が演じている。今回もマクドナー監督の書下ろし脚本。

■SYNOPSIS■ 1923年。内戦が続く本土アイルランドから大砲や銃の音が届きながら、まるでひと事のようにのどかな離れ小島のイニシェリン島。妹や可愛がっているロバと暮らすパードリック(コリン・ファレル)も、豊かではないがお気楽な毎日を過ごしている。この日もいつもどおり親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)を誘い、昼からパブで一杯やろうと彼の家に寄るが彼は出てこない。そして突然絶交を告げられる。理由を聞いても、お前が嫌いになっただけ、つまらない話につき合うのは時間の無駄というばかり。納得のいかないパードリックが食い下がると、恐ろしいことを口にし、彼は実行に移してゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ パードリック側からしてみればあり得ない、不条理なできごと。しかしどうだろう。老年を迎え残りの人生が見えてきたコルムは真剣に、彼とのバカ話で人生を終えたくないと思い始めたのかもしれない。賢い妹のシボーンもお人好しで心優しい兄を愛しながら、突き放したい衝動に駆られるときがあるのかも。人の心の内はそれぞれ。視点を変えるとまったくべつのドラマができそうで面白い。                 (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月23日 記

監督/脚本:マーティン・マクドナー
出演:コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン/ケリー・コンドン/バリー・コーガン
2022年イギリス=アメリカ=アイルランド(109分)
原題:THE BASHEES OF INISHERIN   配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin





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         『ヒトラーのための虐殺会議』 DIE WANNSEEKONFERENZ(THE CONFERENCE)
  2023年1月20日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ有楽町/YEBISU GARDN CINEMAほか全国順次公開

■ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅作戦――。戦後明らかになってゆく「ユダヤ人問題の最終解決」とはどのようなもので、いかにして進められたのか。「ヴァンゼ―会議」と呼ばれるカンファレンスの全貌を描いた歴史映画。地元ドイツでおもにテレビ映画を手がけてきたマッティ・ゲショネック監督がメガホンをとり、ドイツやオーストリアの名優たちが確かな演技で見せてくれる。

■SYNOPSIS■ 1942年1月20日。ドイツ・ベルリンの西端に位置するヴァンゼー(ヴァン湖)湖畔の瀟洒な別荘に、ナチス親衛隊を中心に首相官房局長、内務省次官ら政府高官が招集され、主催した国家保安本部長官ラインハルト・ハイドリヒみずからが議長となった会議が開かれる。議題はユダヤ人問題の最終解決。「最終解決」とは絶滅を意味したがだれひとり驚く者はなく、会議は粛々と進められてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ ナチスの計算では1200万人にも上るユダヤ人絶滅に向け、すでに方々で虐殺が行われているなか、会議の核心はいかに〝効率よく〟絶滅させるか。銃殺では手間がかかり、ガストラックなるものには怖がって乗りたがらないのだという。そこに〝名案〟が示される。より効率的に安楽死させる毒ガスはどうかと。アウシュヴィッツの強制収容所も順調に開所されているという。どこが安楽死なのか。想像力のかけらもないメンツによる狂気の沙汰が、わずかな時間で決められてゆく。                 (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月18日 記

監督:マッティ・ゲショネック
出演:フィリップ・ホフマイヤー/ヨハネス・アルマイヤー/マキシミリアン・ブリュックナー/ジェイコブ・ディール/マルクス・シュラインツァー/フレデリック・リンケマン/マティアス・ブントシュー/ファビアン・ブッシュ/ゴーデハート・ギーズ/ペーター・ヨルダン/アルント・クラヴィッター/トーマス・ロイブル/サッシャ・ネイサン/ジーモン・シュヴァルツ/ラファエル・シュタホヴィアク/リリー・フィクナー
2022年ドイツ(112分)  原題:DIE WANNSEEKONFERENZ(THE CONFERENCE)
配給:クロックワークス  公式サイト:https://klockworx-v.com/conference/ 
© 2021 Constantin Television GmbH, ZDF





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               『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』 SHE SAID
       2023年1月13日(金)からTOHOシネマズ 日比谷/渋谷・ホワイト・シネクイントほか全国公開


© Universal Studios. All Rights Reserved.

■世界を震撼させ、性犯罪告発運動「#MeToo」のきっかけとなったハリウッドのハーヴェイ・ワインスタイン事件。ピューリッツア賞を受賞した米ニューヨーク・タイムズ紙の女性記者ふたりのスクープが回顧録となり、ハリウッドで映画化された。監督は『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』のマリア・シュラーダー、脚本は『イーダ』や『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』のレベッカ・レンキェヴィチと女性陣で固められている。

■SYNOPSIS■ ジャーナリストとしてつねにアンテナを張る米国大手新聞社、ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道記者ジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、ハリウッドの大物プロデューサーとして名高いハーヴェイ・ワインスタインが長年にわたり性暴力を働いているといううわさを耳にし、調査をはじめる。上司のレベッカ・コーベット(パトリシア・クラークソン)に相談すると同僚のミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)を紹介してくれた。ミーガンは性差別に詳しく、ドナルド・トランプによるハラスメントの調査経験もあった。だがふたりの調査は難航する。調査対象の女性たちがそろって何かに怯え、口を開いてくれなかったからだ。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画業界内ではワインスタインの悪徳は薄々知られていたのかもしれない。しかし被害者から告発されないための工作が綿密に行われていたことも調査を進めるうちに明らかになってゆく。どこまで卑劣なのか。そしてそれに巻き込まれ、隠滅工作に手を貸した男たちもまた被害者なのかも。映画は記者ふたりの悪戦苦闘を中心に描いている。        (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月10日 記

監督:マリア・シュラーダー  脚本:レベッカ・レンキェヴィチ
原作:ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー「その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―」(新潮社)/レベッカ・コーベット(当時ニューヨーク・タイムズ紙編集局次長)
出演:キャリー・マリガン/ゾーイ・カザン/パトリシア・クラークソン/アンドレ・ブラウアー/ジェニファー・イーリー/サマンサ・モートン/アシュレイ・ジャッド
2022年アメリカ(129分)  原題:SHE SAID  配給:東宝東和
公式サイト:https://shesaid-sononawoabake.jp/





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                  『モリコーネ 映画が恋した音楽家』 ENNIO
      2023年1月13日(金)からTOHOシネマズ シャンテ/渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

写真中:アカデミー賞名誉賞をクリント・イーストウッドから授与されるエンニオ・モリコーネ
写真下:モリコーネ(左)とジュゼッペ・トルナトーレ監督

■500以上の映画およびテレビのための作品を残し、2020年に91歳で他界したイタリアの音楽家、エンニオ・モリコーネの全貌をとらえたドキュメンタリー。『ニュー・シネマ・パラダイス』以来協働し続けたジュゼッペ・トルナトーレ監督が2016年にカメラを回しはじめ、モリコーネと交流のあった多彩な関係者へのインタビューも交えて構成した入魂の一作。

■SYNOPSIS■ モリコーネは1928年イタリア・ローマの生まれ。トランペット奏者だった父の勧めで幼いころからトランペットをはじめ、やがて音楽院に入学。著名作曲家のゴッフレード・ペトラッシに作曲を学ぶも、父親が病で倒れたことからナイトクラブのバイト演奏を余儀なくされ、クラシック一筋で生きられないことがその後長らく彼を悩ませる。レコード会社と契約を結び、ジャンニ・モランディらポップスシンガーの曲を手がけてヒット曲を連発。やがて映画音楽の仕事が舞い込むようになり、セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演のマカロニウエスタン映画『荒野の用心棒』(1964年)によって、世間はモリコーネを「映画音楽の作曲家」として強く認識するようになってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 『荒野の用心棒』や『ニュー・シネマ・パラダイス』をはじめ、制作秘話がつぎつぎと明かされワクワクするなか、レオーネの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』に至っては作曲済の曲が撮影現場で流され、それに合わせてロバート・デ・ニーロが演技する姿に驚かされる。恩師や音楽院の同窓生からはなかなか認められず葛藤も多かったモリコーネだったが、映画音楽の世界での存在感と栄光は圧倒的で、やはり本人は不本意でも「映画音楽の巨匠」という冠をつけたくなる。
                   (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月7日 記

監督/出演:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:エンニオ・モリコーネ/セルジオ・レオーネ/クリント・イーストウッド/ベルナルド・ベルトルッチ/ピエル・パオロ・パゾリーニ/クエンティン・タランティーノ/ジャンニ・モランディ/ブルース・スプリングスティーン/ジョン・バエズ/クインシー・ジョーンズ
2022年イタリア(157分)  原題:ENNIO  配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/ennio/
©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras





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                    『恋のいばら』 KOINO IBARA
          2023年1月6日(金)からTOHOシネマズ 日比谷/渋谷シネクイントほか全国公開


■わかれた恋人から自分の画像を取り戻したい一心で、元カレの現在の恋人にまとわりつく若い女性。元カノ、今カノふたりの女性はいつしか情報を共有し合うようになり、不思議な三角関係が築かれてゆくミステリアスでコミカルなラブストーリー。監督は『女子高生に殺されたい』などの城定秀夫。今泉力哉監督とのコンビも多い脚本家の澤井香織が、城定とともにひとひねりした脚本を書いている。

■SYNOPSIS■ バイトをしながらダンサーを志す莉子(玉木ティナ)はある日、見知らぬ女性に急接近されしぶしぶ話を聞くと、莉子がいまつき合っているカメラマン健太郎(渡邉圭祐)の前代彼女の桃(松本穂香)だった。彼のパソコンに残された自分の画像が悪用されることを恐れ、それを消す手伝いをしてほしいと言う。〝リベンジポルノ〟
という言葉まで持ち出してきた。聞く耳を持たない莉子だったが、巻き込まれ健太郎の行動を探るうちに、ふたりはしだいにシンパシーを感じるようになってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 恋愛関係にあること「つき合う」とはどういうことなのか。桃はある日唐突に、一年間つき合ってきた健太郎から別れ話を切り出される。そもそもオレたちつき合っていなかったしとも言われる。女の思い込みなのか、男が不誠実なのか。そしてSNS経由の個人情報ダダ洩れ問題。
そんな現代の縮図とは別次元の夢のなかに生きる健太郎の祖母(白川和子)の愛らしいこと。そして、〝つき合っている〟問題はこの物語の結末と大きく関わってくる。