シネマカルチャー❘注目のロードショー『生きる LIVING』『トリとロキタ』『メグレと若い女の死』『コンペティション』『The Son/息子』『赦し』『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』『エッフェル塔~創造者の愛~』『逆転のトライアングル』『ワ―ス 命の値段『エンパイア・オブ・ライト』『別れる決心』『コンパートメント No.6』『対峙』『すべてうまくいきますように』






               ロードショー ROADSHOW 2023   

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                    『生きる LIVING 』 LIVING
                 2023年3月31日(金)から全国東宝系で公開

■黒澤明監督が志村喬主演で撮った1950年代の代表作『生きる』を、イギリスを舞台にノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本でリメイクした人間ドラマ。生ける屍のような日々を送る公務員の男性が、余命宣告を受けたことから残り少ない命と向き合い、最後の生きがいを見出す姿が描かれる。主演は英国のベテラン、ビル・ナイ。監督は南アフリカ出身のオリヴァー・ハーマナス。

■SYNOPSIS■ 第二次大戦が終わって間もない1953年のロンドン。役所への初出勤の日を迎えたピーター(アレックス・シャープ)は先輩たちと通勤列車で相席になるなか、ひとり別の車両に乗る初老の英国紳士の存在が気になる。市民課の直属の上司、ウィリアムズ(ビル・ナイ)だった。向上心をもって公務員となったピーターとは対照的にウィリアムズは明らかに惰性で職務をこなしていた。妻に先立たれたあと彼は同居する息子夫婦に無視され、生ける屍のようになっていた。そんなある日、医者から余命宣告を受けた彼は無断欠勤するようになる。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画ファンには『日の名残り』や『わたしを離さないで』の原作者としてもおなじみのカズオ・イシグロは、映画オタクらしい。プロデューサー氏との映画談議をきっかけにこの企画は実を結んでいった。ブランコに乗って歌う有名なシーン。志村喬バージョンは「ゴンドラの唄」だが、ビル・ナイはウィリアムズの故郷であるスコットランドを想う、ナナカマドの歌を歌いこれもまた心に沁みる。
                  (NORIKO YAMASHITA)
 2023年3月27日 記

監督:オリヴァー・ハーマナス
脚本:カズオ・イシグロ  原作:黒澤明監督作品『生きる』
出演:ビル・ナイ/エイミー・ルー・ウッド/アレックス・シャープ/トム・バーク
2022年イギリス=日本(103分) 英題:LIVING
配給:東宝  公式サイト:https://ikiru-living-movie.jp/
©Number 9 Films Living Limited






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                    『トリとロキタ 』 TORI ET LOKITA
    2023年3月31日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/渋谷シネクイントほか全国順次公開

■難民船の上で出会い、固く結ばれたニセの姉弟ロキタとトリ。借金返済と祖国の母への送金のために、少女ロキタは少年トリとともにドラッグの運び屋をし、さらに正体不明の闇の世界に手を染めてゆく。『ロゼッタ』をはじめ子どもたちに寄り添った秀作を送り続けるダルデンヌ兄弟監督が、祖国を離れ異国の地で危なげに生きる少年少女を描いている。カンヌ映画祭75周年記念大賞受賞作。

■SYNOPSIS■
 トリはベナン出身、ロキタはカメルーン出身。見ず知らずのふたりはアフリカからの難民ボートの上で出会い、姉弟のような強い絆で結ばれている。すでにビザを取得済みのトリに対し未取得のロキタ。ふたりは姉弟だと面接で言い張るロキタだが認めてもらえず、危機感を募らせる。密航あっせん業者からの借金取り立てに追われ、アフリカの母からも送金を迫られる日々。ふたりは麻薬の運び屋としてわずかな収入を得ているが、ビザの取得を焦るロキタは内容も知らない闇の仕事に手を染める。

■ONEPOINT REVIEW■ 外部からの注文をつぎつぎと電話で受け、ひとり黙々とパスタやピザをつくる料理人の男。宅配専門の店なのだろうか。ゆうに生活できそうな繁盛ぶりだが、特別な野心があるのかそれとも大きな借金があるのか。ロキタとトリに運び屋の仕事を発注しているのはこの男だ。ごく普通の市民生活と反社との境目があいまいな世界。そして子どもと言えどお構いなく借金取取り立てをするあっせん業者。そんな世界に放り込まれた子たちはいったいどうしたらいいのか。ダルデンヌ兄弟はいつものように淡々と描いてゆく。    (NORIKO YAMASHITA)
 2023年3月26日 記

監督/脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 
出演:パブロ・シルズ/ジョエリー・ムブンドゥ/アウバン・ウカイ/ティヒメン・フーファールツ/シャルロット・デ・ブライネ/ナデージュ・エドラオゴ/マルク・ジンガ
2022年ベルギー=フランス(89分)  原題:TORI ET LOKITA
配給:ビターズ・エンド  公式サイト:https://bitters.co.jp/tori_lokita/
©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv
– PROXIMUS - RTBF(Télévision belge) Photos ©Christine Plenus






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                 『メグレと若い女の死 』 MAIGRET
        2023年3月17日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

■パリの広場で発見された若い女性の刺殺死体。鋭い洞察力を発揮する担当刑事、メグレ警視が事件の真相と本質に迫り、背景にある社会的な問題も暴いてゆくミステリー作品。古典的名作「メグレ警視シリーズ」の原作のまま、50年代のレトロなタッチで描いたのは、シムノン作品は『仕立て屋の恋』につづきこれが2作目のパトリス・ルコント監督。ジェラール・ドパルデューがイメージに近いメグレ警視を演じている。

■SYNOPSIS■ 婚約披露宴が華やかに行われている会場にひとり現れる若い女性。だが招かれざる客なのか、すぐに主催者の女性の手で追い出されてしまう。翌日、パリのモンマルトル・ヴァンティミーユ広場で若い女性の死体が発見される。死体には無数の刺し傷があり他殺だった。目撃者もなく身元も判明しない難事件。捜査を任されたメグレ警視は、若い女性には不釣り合いな高価なイブニングドレスに着目し、地道に調べを進めてゆくうちに被害者と同居していたある女性にたどり着く。

■ONEPOINT REVIEW■ 生まれ故郷に見切りをつけて憧れの都会にやってくる若者たち。いまも昔も変わらない図式だが、50年代のパリは階級の違いもいまよりはっきりしていたのではないか。憧れの街には来たものの…感が強い。どんよりとした空気が漂う。少なくともここではそう描かれる。そんな年ごろの娘たちに、幼くして亡くした自分の娘を重ねるメグレ。哀愁ただよう男の物語でもある。 
                (NORIKO YAMASHITA)
 20
23年3月17日 記

監督/共同脚本:パトリス・ルコント  共同脚本:ジェローム・トネール
原作:ジョルジュ・シムノン「メグレと若い女の死」
出演:ジェラール・ドパルデュー/ジャド・ラベスト/メラニー・ベルニエ/オーロール・クレマン/アンドレ・ウィルム
2022 年フランス(89分)  原題:MAIGRET  
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/maigret/
©2021 CINÉ-@ F COMME FILM SND SCOPE PICTURES.






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          『コンペティション』 COMPETENCIA OFICIAL(OFFICIAL COMPETITION)
        2023年3月17日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテほか全国公開

©2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

■名声を残そうと富豪の道楽で始まった映画製作。世界有数の映画監督と人気俳優、実力派俳優が招集され、用意されたのはノーベル賞受賞小説。監督と俳優のエゴイズムがぶつかり合う破天荒なリハーサル風景、そして意外な結末を描いたシニカルなヒューマン・コメディ。『ル・コルビュジェの家』の映画監督コンビ、G・ドゥプラットとM・コーンが、自国アルゼンチンからベテランのオスカル・マルチネス、スペインから人気俳優ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスを招いて撮影している。

■SYNOPSIS■ 製薬業界で大成功を収めた男が残り少ない人生で欲しいのは〝名声〟。側近から勧められるまま映画製作を決断し、偉大な作品をということでいまもっとも旬な映画監督ローラ・エクバス(クルス)に白羽の矢を立てる。用意されたのはノーベル賞受賞のベストセラー小説「ライバル」。ローラはみずから脚色し、W主役に世界的な人気スターのフェリックス(バンデラス)と、学者タイプのイバン(マルチネス)という好対照なふたりの俳優を選び出す。3人はさっそく脚本の読み合わせを始めるが、ローラはいきなりリハーサル終盤のような深い感情表現を要求する。

■ONEPOINT REVIEW■ 原作本さえ読む気のないスポンサーのご老人。ついでに娘を映画に出してしまおう、というのはよくある話なのか。それにしてもずいぶんと年の離れた親子。きっと若い妻がいるに違いない。一方、映画界の3人はと言えば、目立ちたがりの監督に、映画業界を首尾よく乗り越えてきたらしいスター俳優、そしてイバンはじつはエセ文化人なのか。だまし合いもあって、さてどう転がってゆくのか。                 (NORIKO YAMASHITA)
 20
23年3月15日 記

監督:ガストン・ドゥプラット/マリアノ・コーン
出演:ペネロペ・クルス/アントニオ・バンデラス/オスカル・マルティネス/ホセ・ルイス・ゴメス/イレーネ・エスコラル
2021年スペイン=アルゼンチン(114分)  
原題:COMPETENCIA OFICIAL(OFFICIAL COMPETITION)  配給:ショウゲート
公式サイト:https://competition-movie.jp/





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                    『The Son/息子』 The Son
           2023年3月17日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■両親の離婚が原因なのか。心に闇を抱え社会に適応できない息子と、息子と新しい家族とのはざまに立ち苦悩する父親。袋小路にはまった家族の姿を描いたのは、緻密な演出で認知症の父を描き注目された『ファーザー』のフロリアン・ゼレール監督。劇作家でもある彼の自作戯曲を、ベテラン脚本家クリストファー・ハンプトンとともに脚本化し映画化した。監督2作目。また主演を買って出たヒュー・ジャックマンが制作総指揮し、彼の父親役を『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスが演じている。

■SYNOPSIS■ 若く美しい妻と幼い息子。政治にも関わろうかという有力弁護士ピーター(ジャックマン)の新生活は順調そうに見えた。だがある日、元妻のケイト(ローラ・ダーン)がやって来て、ふたりの息子ニコラス(ゼン・マクグラス)が不登校で、自分に向ける目にも憎しみを感じると訴える。ニコラスは自傷行為をくり返していた。彼を追いこんだのは自分のせいだとピーターには負い目があり、深く愛してもいた。現妻のベス(ヴァネッサ・カービー)を説得し、息子の望みどおり同居することにしたがある日、ニコラスはベスに対して深い憎しみの言葉を口にする。

■ONEPOINT REVIEW■ ニコラスはただの反抗期か、それとも誠意を尽くして向き合っても解決できない病なのか。重い病だとしてもここにその答えがあるわけではない。けれどゼレール監督は、こころの病に対する対話のきっかけになることを期待すると語っている。            (NORIKO YAMASHITA)
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23年3月14日 記

監督/共同脚本/原作戯曲:フロリアン・ゼレール
共同脚本:クリストファー・ハンプトン  製作総指揮:ヒュー・ジャックマン
音楽:ハンス・ジマー
出演:ヒュー・ジャックマン/ローラ・ダーン/ヴァネッサ・カービー/ゼン・マクグラス/アンソニー・ホプキンス
2022年イギリス=フランス(123 分)  原題:THE SON
配給:キノフィルムズ  公式サイト:https://www.theson.jp/
© THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.






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                      『赦し』 DECEMBER
             2023年3月18日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開

■7年前に重刑の判決が下りたクラスメート殺人事件に再審の機会が与えられ、召喚される被害者の両親。事件後に離婚しそれぞれの道を歩む元夫婦をふたたび襲う悲しみ、怒りが複雑にからみ葛藤する姿と、加害少女との対峙を描いた人間ドラマ。2011年に来日し日本で活動するインド系監督、アンシュル・チョウハンがメガホンを取っている。両親役は尚玄とMEGUMI。個性派の松浦りょうが加害者少女を演じている。

■SYNOPSIS■ 7年前、高校生の娘をクラスメートの少女に殺害されるという事件に遭ったのち離婚し、各々の道を歩む元夫婦。妻の澄子(MEGUMI)は被害者の会で出会った男性と再婚し、夫の克(尚玄)はひとり酒浸りの生活を送っていたが、ある日裁判所からそれぞれに召喚状が届く。未成年で20年の刑を受け服役中の加害者、夏奈(松浦りょう)に再審の機会が与えられたというのだ。怒りが収まらない克、事件を忘れたい澄子。ふたりが顔を合わせるのも久しぶりのことだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 夏奈はなぜクラスメートを殺害したのか。そのわけは少しずつ映画のなかで明かされてゆくが、登場人物である両親は知らない。そのことからふたり、とくに克と観客とのあいだに心情の温度差が生じているように見えるところが面白い。そして終盤、事件当時のできごとが夏奈自身の口から明かされ、一気に緊張感が高まる。              (NORIKO YAMASHITA) 
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23年3月13日 記

監督:アンシュル・チョウハン   脚本:ランド・コルター 
出演:尚玄/MEGUMI/松浦りょう/生津徹/成海花音/藤森慎吾/真矢ミキ 
2022年日本(98分) 英題:DECEMBER
配給:彩プロ  
公式サイト:https://yurushi-movie.com/
©2022 December Production Committee. All rights reserved






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              『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』 MAIJA ISOLA
2023年3月3日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテ/YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

写真下は娘のクリスティーナ・イソラ
© 2021 Greenlit Productions and New Docs

■カーテン生地などのファブリック製品を中心に洋服から日用品まで、色鮮やかな色彩と個性的なデザインで世界に進出したフィンランドのファッションブランド「マリメッコ」。その顔となったデザイナー、マイヤ・イソラの自由奔放な放浪の人生を追ったドキュメンタリー。旅先から娘のクリスティーナに送った手紙、クリスティーナ本人による回想、日記やアーカイブ映像などで生きざま、創作のヒントやインスピレーションの源、あるいはマリメッコのオーナーであるアルミ・ラティアとの確執などを追ってゆく。監督は長編ドキュメンタリー2作目のレーナ・キルぺライネン。マイヤ・イソラのファブリックには子どものころから親しんできたという。

■SYNOPSIS■ 1927年3月15日、フィンランド南部農家の3姉妹の末っ子として誕生。1945年に17歳年上の商業芸術家の男性と結婚。翌年19歳で娘のクリスティーナを出産するも離婚し、娘を母に預けてヘルシンキの芸術大学に進学。やがて旅先からクリスティーナに手紙を送り始める。そして初めての海外旅行先ノルウェーで出合った壺をモチーフにファブリックをデザインし、大学のコンテストに出品。その作品を買い上げデザイナーとして雇ってくれたのが、1951年にマリメッコを創業するアルミ・ラティアだった。さまざまな人気シリーズを繰り出してゆくなかでも「花シリーズ」がマイヤとマリメッコを象徴する人気商品となる。

■ONEPOINT REVIEW■ 根っからのボヘミアンだったのだろう。若き日にはバックパッカーとしてヨーロッパ各地を旅し、野宿することもあった。そのなかでひととのつながりを築き恋もし影響も受け、40代には北アフリカに移住。さらに50代のはじめにはアメリカにも移り住んでいる。娘クリスティーナとは手紙のやり取りが中心になるが、絆はしっかりと築いていたようで、米国からの帰国後は母娘の共同制作も行っている。そして2001年の他界後は娘と孫娘がマリメッコ時代のデザインを継承しているというから、結婚離婚をくり返し波乱に満ちながらも、うらやましいほど幸せな生涯に見える。                  (NORIKO YAMASHITA)
 20
23年3月5日 記

監督/脚本:レーナ・キルペライネン
出演:マイヤ・イソラ/クリスティーナ・イソラ/エンマ・イソラ
声の出演:パイヴィ・ヤルヴィネン(マイヤ・イソラ)/マルギット・ウェステッルンド(アルミ・ラティア)  2021年フィンランド=ドイツ(97分)  原題:MAIJA ISOLA
配給:シンカ + kinologue  公式サイト:http://maija-isola.kinologue.com/






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                『エッフェル塔~創造者の愛~』 EIFFEL
     2023年3月3日(金)から新宿武蔵野館/シネスイッチ銀座/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

■世界有数の観光地フランス・パリのシンボルとして、セーヌ川のほとりにそびえ立つエッフェル塔。100年以上経ったいまも変わらない姿を見せるあの鉄の塔には、いったいどんなドラマが隠されているのか。生みの親ギュスターヴ・エッフェルの知られざる人物像と若き日の激しい恋を、想像もめぐらせながら描いた人間ドラマ。ロマン・デュリスの相手役として、Netflixの人気シリーズ「セックス・エデュケーション」で注目のエマ・マッキーが抜擢。そしてブルブロン監督は本邦初登場。

■SYNOPSIS■ 1886年、アメリカ合衆国に寄贈した自由の女神の基礎をつくった技術者として、一目置かれる存在となったギュスターヴ・エッフェル(デュリス)。周囲からは3年後に迫る万国博覧会へのコンペ参加を進められるも本人は無関心。そんなある日、パーティーである女性と出会いエッフェルは動揺する。それは25年も前の若き日に激しい恋に落ちたアドリエンヌ(マッキー)。階級の違いから女性の親に引き離され、いまはジャーナリストの妻となっていた。動転するなか同席の大臣からシンボル建設を促され、女性からも野心作を期待されたエッフェルは、「パリの中心にブルジョワも労働者も楽しめる300メートルの鉄の塔をつくる」と公言する。

■ONEPOINT REVIEW■ パリにはぜったい欠かせないシンボルにしてランドマーク。しかし100年前パリのひとたちとくに文化人と言われるひとたちは、シックなパリの街に300メートルもの鉄の塔が建設されることに猛反発した。技術的な困難を打開するだけではなく、美的な側面からもエッフェルは闘わなければならなかったのだが、結果彼は技と美の両面を克服する。そしてその原動力としての恋の存在を本作では浮かび上がらせている。           (NORIKO YAMASHITA) 
2023年2月21日 記

監督:マルタン・ブルブロン 脚本:カロリーヌ・ボングラン
出演:ロマン・デュリス/エマ・マッキー/ピエール・ドゥラドンシャン/アレクサンドル・スタイガー/アルマンド・ブーランジェ/ブルーノ・ラファエリ
2021年フランス=ドイツ=ベルギー(108分)  原題:EIFFEL
配給:キノフィルムズ  公式サイト:https://eiffel-movie.jp/
© 2021 VVZ Production – Pathé Films – Constantin Film Produktion – M6 Films






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                『逆転のトライアングル』 TRIANGLE OF SADNESS
             2023年2月23日(木・祝)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

■さまざまなセレブが集う豪華客船が難破。数名が生きて無人島にたどり着くと、そこでリーダーとなるのは裕福な者ではなく、生きるすべを知っている意外な人物だった。シニカルな語り口が持ち味のオストルンド監督は、今回も格差社会を皮肉たっぷりに描き、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』につづいて2作連続でカンヌ映画祭の最高賞パルムドールを受賞。また主要人物のひとりヤヤ役を好演したチャールビ・ディーンは公開間もない昨年8月、32歳の若さで他界している。

■SYNOPSIS■ モデルとして駆け出しのカール(ハリス・ディキンソン)が、恋人で売れっ子モデルにしてインフルエンサーのヤヤ(チャールビ・ディーン)とバカンスを楽しんでいるのは豪華客船のなか。そこには武器の売買で財を成した夫婦からロシアの新興財閥まで、怪しげな商売で成り上がった輩がウヨウヨ。彼らは専制君主のように振い、高額なチップを期待する乗務員はそれに従う。ある日、酒に寄った女性客が女性乗務員に無茶ぶりをしたことから、悪天候もからんで大変な事態となってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ ファッション業界、豪華客船、無人島と舞台は大きく変わってゆくが、一貫してつらぬかれているテーマは格差社会、そしてお金。とりわけカールとヤヤが高級レストランで食事をし、どちらが払うか問題が面白い。明らかにカールよりも稼いでいるヤヤは、自分が払うと誘いながら結局はカールに払わせて彼を激怒させる。これもひとつのジェンダー問題。そしてこの無人島では、サバイバー能力だけでなく若さや美形もものを言ってくる。   (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月19日 記

監督/脚本:リューベン・オストルンド
出演:ハリス・ディキンソン/チャールビ・ディーン/ウディ・ハレルソン/ヴィッキ・ベルリン/ヘンリク・ドルシン/ズラッコ・ブリッチ/ジャン=クリストフ・フォリー/イリス・ベルベン/ドリー・デ・レオンズニー・メレス/アマンダ・ウォーカー/オリヴァー・フォード・デイヴィス/アルヴィン・カナニアン/キャロライナ・ギンニン/ラルフ・シーチア

2022年スウェーデン=ドイツ=フランス=イギリス(147分)
原題:TRIANGLE OF SADNESS  配給:ギャガ
公式サイト:https://twitter.com/triangle0223






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                  『ワ―ス 命の値段』 WORTH
            2023年2月23日(木・祝)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■2001年9月11日の同時多発テロ発生直後に、犠牲者および遺族のために米政府が立ち上げた救済基金。その分配をめぐり基金の責任者となった数字のエキスパートと、受給当事者たちとのあいだに生まれた亀裂およびその顛末を描いた社会派ヒューマンドラマ。実在の弁護士ケン・ファインバーグの回顧録をもとに、『スポットライト 世紀のスクープ』『それでも夜は明ける』のスタッフ、新進のサラ・コランジェロ監督が手がけている。

■SYNOPSIS■ 同時多発テロが起きて間もなくの同年9月22日、数々の訴訟を手がけてきた弁護士で数字の専門家ファインバーグは、政府の司法委員会に召喚される。テロの被害者とその遺族を救済する基金を創設するにあたり、協力してくれないかという打診だった。救済対象は庶民から富裕層まで格差も激しく、トラブルが起きるのは必至。決してやさしい仕事ではなかったが、ファインバーグは考えた末に無償で協力すると申し出て、部下にもそれを伝える。だが最初の説明会から紛糾し、雲行きは怪しかった。

■ONEPOINT REVIEW■ 訴訟大国と言われるアメリカ。基金創設は訴訟を避ける目的もあったが、それにしても政府の動きが早く驚かされる。ファインバーグは稼ぎ高をもとに命に値段をつけることなどしたくなかったはずだ。だが全員同額にしたならば収拾がつかないことも経験から知っている。そこで心を鬼にして…。だがそのクールさが反発を買う。            (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月18日 記


監督:サラ・コランジェロ  脚本:マックス・ボレンスタイン
出演:マイケル・キートン/スタンリー・トゥッチ/エイミー・ライアン/シュノリ・ラーマナータン
2019年アメリカ(118分)  原題:WORTH
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/worth/
© 2020 WILW Holdings LLC. All Rights Reserved.






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                 『エンパイア・オブ・ライト』 EMPIRE OF LIGHT
              2023年2月23日(木・祝)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

■1980年代初頭。イギリスのとある町の歴史ある映画館を舞台に、そこで働く人々の人間模様、上司と従業員の主従関係、そして古参の女性マネージャーと新入り男性の恋愛関係などを描いた人間ドラマ。脚本はサム・メンデス監督自身が、みずからの青春期をふり返りながらコロナ下に書き上げた。 

■SYNOPSIS■ 英国の静かな海辺の町で、市民の娯楽の場として親しまれてきた映画館エンパイア劇場。アールデコ調の豪華で美しい建物はいまも威厳を保っているが、時代に取り残されている感はやや否めない。そこに長年勤める中年女性ヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、心の病を抱えながらも同僚たちの暖かな目で見守られ、マネージャーの職務をこなしている。だが、良好な従業員同士の関係をぶち壊しにしているのが支配人のエリス(コリン・ファース)。彼は部下に威圧的なだけでなく、立場を利用してヒラリーに性的な関係を強いているのだ。ある日、建築家への夢を断たれた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)がスタッフとして加わることになる。


■ONEPOINT REVIEW■ 不況下のイギリスで、仕事を奪ったと勘違いされ逆恨みの標的となった移民たち。西インド諸島からの移民二世スティーヴンもそのひとりで、過去も現在もなにかと因縁をつけられ、生きにくい人生を強いられている。そんな彼が好んで聴いている音楽が、当時世界中で人気を集めていた黒人×白人の混合バンド、スペシャルズであり彼らが在籍したツートーン・レーベル。若き日のサム・メンデスもこの音楽で踊っていたらしい。      (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月17日 記

監督/脚本:サム・メンデス
出演:オリヴィア・コールマン/マイケル・ウォード/コリン・ファース/トビー・ジョーンズ/ターニャ・ムーディ/トム・ブルック/クリスタル・クラーク
2022年イギリス=アメリカ(115分)  原題:EMPIRE OF LIGHT
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.





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                『別れる決心』 헤어질 결심(DECISION TO LEAVE)
               2023年2月17日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

■不審な死を調べるうちに、重要参考人である女性に心を奪われのめり込んでゆく刑事。恋と使命の板挟みとなって苦悩する、仕事熱心で生真面目な男をミステリーで描く愛のドラマ。『オールドボーイ』や「お嬢さん』のカンヌ映画祭の常連パク・チャヌクが同映画祭で監督賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 史上最年少で警部になったチャン・へジュン(パク・ヘイㇽ)は、ひと一倍仕事熱心なだけではなく真面目で品行方正、人間的にも刑事の鑑のような男。仕事を持つ妻とは離ればなれに暮らしていて、週末だけ一緒に過ごすような生活を送っている。ある日、崖から男が転落。若い妻ソン・ソレ(タン・ウェイ)が夫の死にも平然としていることにへジュンは不審を抱き監視を始めるが、そのうちに特別な感情が芽生え、ソレも気づくようになる。そんななかソレにはアリバイがあり男の遺書も見つかったことから、自殺ということで事件は一件落着、に見えたのだが。

■ONEPOINT REVIEW■ パク・チャヌク作品らしく物語は二転三転し、複雑にからみ合い、先の見えない展開になってゆく。ミステリー作品としての面白さだが、それではこの作品はミステリーとラブのどちらに重きがおかれているのか。最後まで観てしまうとこれは、破滅的でしっとりとしたラブストーリーであった。                 (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月15日 記


監督/共同脚本:パク・チャヌク  
共同脚本:チョン・ソギョン
出演:パク・ヘイル/タン・ウェイ/イ・ジョンヒョン/コ・ギョンピョ
2022年韓国(138分)  
原題:헤어질 결심(DECISION TO LEAVE)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/wakare-movie/
© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED






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           『コンパートメント No.6』 HYTTI NRO 6(COMPARTMENT NUMBER 6)
               2023年2月10日(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開

© 2021 - AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION

■モスクワからロシア北端の町までの長距離寝台列車で、粗野な男と同室になった女性の困惑、葛藤を経て心をかよわせてゆく様子を描いた愛の物語。『オリ・マキの人生で最も幸せな日』のユホ・クオスマネン監督が、原作を大きく翻案して映画化した。第74回カンヌ映画祭で次席のグランプリを獲得。

■SYNOPSIS■ フィンランドからロシアの大学に留学中のラウラは、大学教授の恋人イリーナと同棲中だが、イリーナの仲間からは〝下宿人〟と呼ばれていた。その彼女と岩面彫刻遺跡ペトログリフを見に行く計画を立てるも直前にドタキャンされ、ひとりで出かける羽目に。モスクワから終点の目的地ムルマンスクまで長距離列車で2000キロはあろうかという長旅。仕方なくひとりで2等寝台の6号コンパートメントに入ると先客がいた。リョーハというその男はウォッカをラッパ飲みし、下品な言葉を浴びせる粗野な男。ラウラはすぐにも無秩序な列車から逃げ出したくなる。

■ONEPOINT REVIEW■ 不本意にもひとり旅を強いられることになったラウラは、劣悪な環境のコンパートメントから一旦逃げ出すが、心変わりして戻ってくる。妥協点はなにか。遺跡を見たい一心…は別にして、粗野なリョーハを受け入れ得るなにか、シンパシーとまでは言わないが、同じ匂いをどこかに感じ取っていたのかもしれない。ともあれそれをきっかけに、彼のやさしい面を知ってゆくことになる。それにしても劣悪なコンパートメントは論外として、なんと魅惑的な極寒の旅か。異論も多そうだけれど。                  (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月6日 記

監督/脚本:ユホ・クオスマネン
脚本:リヴィア・ウルマン/アンドリス・フェルドマニス
原案:ロサ・リクソム「Compartment No.6」(フィンランディア文学賞受賞)
出演:セイディ・ハーラ/ユーリー・ボリソフ/ディナーラ・ドルカーロワ/ユリア・アウグ/リディア・コスティナ/トミ・アラタロ
2021年フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ(107分)
原題:HYTTI NRO 6(COMPARTMENT NUMBER 6)
配給:アット エンタテインメント 
公式サイト:https://comp6film.com/






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                        『対峙』 MASS
               2023年2月10日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか公開

■6年前に高校の校内で起きた銃乱射事件の被害者と加害者の両親が、初めて顔を合わせて対峙するスリリングな対話劇。俳優としてキャリアを重ねてきたフラン・クランツが、実際に起きた事件やいくつかのリポートに衝撃を受け、みずから脚本を書いた監督デビュー作。映画やテレビ、演劇界で活躍する4人の俳優のコラボも見どころ。


■SYNOPSIS■ 郊外の美しい町並みにたたずむ小さな教会。職員らしき女性が部屋のセッティングをしていると、会合の仲介者と見られる女性が訪れ、挨拶もそこそこに隅々まで神経質そうにチェックする。何の会合か。やってきたのは中年と初老のふた組の夫婦。6年前に地元の高校で起きた銃乱射事件の被害者と加害者の両親で、ジェイとゲイルの息子は射殺され、リチャードとリンダの息子は数名を殺害したのちに本人も命を絶っていた。穏やかに対話が始まるも、ぎこちなさは免れない。息子さんのことを何もかも話して、とジェイが言うと、なぜ?と反射的に言ってしまうリチャード。うちの息子を殺したからよとゲイル。もちろんお話しますと応じたのはリンダだった。


■ONEPOINT REVIEW■ ほぼひと部屋だけで進む対話劇だが、濃密で核心をついた会話はスリリングで、ぐいぐい引き込んでゆく。そればかりか驚くような落ちもある。その落ちを見て『二トラム』の母子関係をふと思った。そして重い会話劇の前後につけられた、心を軽くしてくれるイントロとエンディング。そのテクニックも巧みな、鮮やかな初監督作だった。       (NORIKO YAMASHITA)
 2023年2月4日 記


監督/脚本︓フラン・クランツ
出演︓ リード・バーニー/アン・ダウド/ジェイソン・アイザックス/マーサ・プリンプトン
2021年アメリカ( 111 分)   
原題︓MASS   配給:トランスフォーマー
公式サイト︓https://transformer.co.jp/m/taiji/ Twitter︓@taiji_movie
© 2020 7 ECCLES STREET LLC






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              『すべてうまくいきますように』 TOUT S'EST BIEN PASSE
      2023年2月3日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/渋谷・Bunkamuraほか公開

■脳卒中で体が不自由になり安楽死を望む父と、戸惑いながらも父の幸せを模索する娘たち。安楽死が条件つきで認めらているスイスの隣国フランスを舞台に、ユーモアも交えて描いたオゾン監督最新作。原作者のエマニュエル・ベルンエイムはオゾン作品の共同脚本家として監督と旧知の仲だったが、自身の体験を書いた本作を残し癌で他界している。そのエマニュエル役を演じるのは、オゾンと初共働のフランスの国民的人気者ソフィー・マルソー。共演はアンドレ・デュソリエ、シャーロット・ランプリング。

■SYNOPSIS■ 高齢の父アンドレ(デュソリエ)が倒れ、作家であるエマニュエル(マルソー)が妹のパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)と病院に駆けつけると、身体にマヒが残る父がいた。ふたりはショックを受けるも父の口は相変わらず達者で、毒舌を吐いたり笑わせたり。別居中の彫刻家の妻(ランプリング)も見舞いに来るが、元気そうねと言い残し帰ってしまう。しかし検査をしてみると脳梗塞が見つかり回復は望めそうもない。転院先でエマニュエルとふたりきりになったアンドレは、終わらせてほしいと懇願し娘を動揺させる。なんで私に…。

■ONEPOINT REVIEW■ 米国のように中絶論議が再燃する国がある一方で、ヨーロッパを中心に安楽死を容認する動きもジワリと広がっている。けれどそれを議論する映画ではない。自己チューでひとの意見に耳を貸さない頑固者の父親。あなたの気持ちはわかります。けれどかと言って愛する父親の自死に手を貸せるかどうか。本音が出る人間らしいドラマとなっている。    (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月29日 記

監督/脚本:フランソワ・オゾン   原作:エマニュエル・ベルンエイム
出演:ソフィー・マルソー/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/ハンナ・シグラ
2021年フランス=ベルギー(113分)  原題:TOUT S'EST BIEN PASSE
配給:キノフィルムズ   公式サイト:https://ewf-movie.jp/
© 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES ewf-movie.jp





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              『イニシェリン島の精霊』 THE BASHEES OF INISHERIN
           2023年1月27日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

■評判を呼んだ衝撃作『スリー・ビルボード』から5年。マーティン・マクドナー監督の新作は、舞台をアメリカから彼のルーツであるアイルランドに移しての人間ドラマ。長年の親友と思っていた老境の男から、ある日突然絶交を告げられ途方に暮れる主人公。その戸惑いと葛藤と怒り、さらにはふたりの壮絶な戦いに至る不条理なできごとを、設定に似たアイルランドの島々でロケ撮影した。ふたりの男ファレルとグリーソン、主人公の妹役ケリー・コンドンら地元アイルランド出身の俳優陣が演じている。今回もマクドナー監督の書下ろし脚本。

■SYNOPSIS■ 1923年。内戦が続く本土アイルランドから大砲や銃の音が届きながら、まるでひと事のようにのどかな離れ小島のイニシェリン島。妹や可愛がっているロバと暮らすパードリック(コリン・ファレル)も、豊かではないがお気楽な毎日を過ごしている。この日もいつもどおり親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)を誘い、昼からパブで一杯やろうと彼の家に寄るが彼は出てこない。そして突然絶交を告げられる。理由を聞いても、お前が嫌いになっただけ、つまらない話につき合うのは時間の無駄というばかり。納得のいかないパードリックが食い下がると、恐ろしいことを口にし、彼は実行に移してゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ パードリック側からしてみればあり得ない、不条理なできごと。しかしどうだろう。老年を迎え残りの人生が見えてきたコルムは真剣に、彼とのバカ話で人生を終えたくないと思い始めたのかもしれない。賢い妹のシボーンもお人好しで心優しい兄を愛しながら、突き放したい衝動に駆られるときがあるのかも。人の心の内はそれぞれ。視点を変えるとまったくべつのドラマができそうで面白い。                 (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月23日 記

監督/脚本:マーティン・マクドナー
出演:コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン/ケリー・コンドン/バリー・コーガン
2022年イギリス=アメリカ=アイルランド(109分)
原題:THE BASHEES OF INISHERIN   配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin





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         『ヒトラーのための虐殺会議』 DIE WANNSEEKONFERENZ(THE CONFERENCE)
  2023年1月20日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ有楽町/YEBISU GARDN CINEMAほか全国順次公開

■ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅作戦――。戦後明らかになってゆく「ユダヤ人問題の最終解決」とはどのようなもので、いかにして進められたのか。「ヴァンゼ―会議」と呼ばれるカンファレンスの全貌を描いた歴史映画。地元ドイツでおもにテレビ映画を手がけてきたマッティ・ゲショネック監督がメガホンをとり、ドイツやオーストリアの名優たちが確かな演技で見せてくれる。

■SYNOPSIS■ 1942年1月20日。ドイツ・ベルリンの西端に位置するヴァンゼー(ヴァン湖)湖畔の瀟洒な別荘に、ナチス親衛隊を中心に首相官房局長、内務省次官ら政府高官が招集され、主催した国家保安本部長官ラインハルト・ハイドリヒみずからが議長となった会議が開かれる。議題はユダヤ人問題の最終解決。「最終解決」とは絶滅を意味したがだれひとり驚く者はなく、会議は粛々と進められてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ ナチスの計算では1200万人にも上るユダヤ人絶滅に向け、すでに方々で虐殺が行われているなか、会議の核心はいかに〝効率よく〟絶滅させるか。銃殺では手間がかかり、ガストラックなるものには怖がって乗りたがらないのだという。そこに〝名案〟が示される。より効率的に安楽死させる毒ガスはどうかと。アウシュヴィッツの強制収容所も順調に開所されているという。どこが安楽死なのか。想像力のかけらもないメンツによる狂気の沙汰が、わずかな時間で決められてゆく。                 (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月18日 記

監督:マッティ・ゲショネック
出演:フィリップ・ホフマイヤー/ヨハネス・アルマイヤー/マキシミリアン・ブリュックナー/ジェイコブ・ディール/マルクス・シュラインツァー/フレデリック・リンケマン/マティアス・ブントシュー/ファビアン・ブッシュ/ゴーデハート・ギーズ/ペーター・ヨルダン/アルント・クラヴィッター/トーマス・ロイブル/サッシャ・ネイサン/ジーモン・シュヴァルツ/ラファエル・シュタホヴィアク/リリー・フィクナー
2022年ドイツ(112分)  原題:DIE WANNSEEKONFERENZ(THE CONFERENCE)
配給:クロックワークス  公式サイト:https://klockworx-v.com/conference/ 
© 2021 Constantin Television GmbH, ZDF





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               『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』 SHE SAID
       2023年1月13日(金)からTOHOシネマズ 日比谷/渋谷・ホワイト・シネクイントほか全国公開


© Universal Studios. All Rights Reserved.

■世界を震撼させ、性犯罪告発運動「#MeToo」のきっかけとなったハリウッドのハーヴェイ・ワインスタイン事件。ピューリッツア賞を受賞した米ニューヨーク・タイムズ紙の女性記者ふたりのスクープが回顧録となり、ハリウッドで映画化された。監督は『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』のマリア・シュラーダー、脚本は『イーダ』や『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』のレベッカ・レンキェヴィチと女性陣で固められている。

■SYNOPSIS■ ジャーナリストとしてつねにアンテナを張る米国大手新聞社、ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道記者ジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、ハリウッドの大物プロデューサーとして名高いハーヴェイ・ワインスタインが長年にわたり性暴力を働いているといううわさを耳にし、調査をはじめる。上司のレベッカ・コーベット(パトリシア・クラークソン)に相談すると同僚のミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)を紹介してくれた。ミーガンは性差別に詳しく、ドナルド・トランプによるハラスメントの調査経験もあった。だがふたりの調査は難航する。調査対象の女性たちがそろって何かに怯え、口を開いてくれなかったからだ。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画業界内ではワインスタインの悪徳は薄々知られていたのかもしれない。しかし被害者から告発されないための工作が綿密に行われていたことも調査を進めるうちに明らかになってゆく。どこまで卑劣なのか。そしてそれに巻き込まれ、隠滅工作に手を貸した男たちもまた被害者なのかも。映画は記者ふたりの悪戦苦闘を中心に描いている。        (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月10日 記

監督:マリア・シュラーダー  脚本:レベッカ・レンキェヴィチ
原作:ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー「その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―」(新潮社)/レベッカ・コーベット(当時ニューヨーク・タイムズ紙編集局次長)
出演:キャリー・マリガン/ゾーイ・カザン/パトリシア・クラークソン/アンドレ・ブラウアー/ジェニファー・イーリー/サマンサ・モートン/アシュレイ・ジャッド
2022年アメリカ(129分)  原題:SHE SAID  配給:東宝東和
公式サイト:https://shesaid-sononawoabake.jp/





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                  『モリコーネ 映画が恋した音楽家』 ENNIO
      2023年1月13日(金)からTOHOシネマズ シャンテ/渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

写真中:アカデミー賞名誉賞をクリント・イーストウッドから授与されるエンニオ・モリコーネ
写真下:モリコーネ(左)とジュゼッペ・トルナトーレ監督

■500以上の映画およびテレビのための作品を残し、2020年に91歳で他界したイタリアの音楽家、エンニオ・モリコーネの全貌をとらえたドキュメンタリー。『ニュー・シネマ・パラダイス』以来協働し続けたジュゼッペ・トルナトーレ監督が2016年にカメラを回しはじめ、モリコーネと交流のあった多彩な関係者へのインタビューも交えて構成した入魂の一作。

■SYNOPSIS■ モリコーネは1928年イタリア・ローマの生まれ。トランペット奏者だった父の勧めで幼いころからトランペットをはじめ、やがて音楽院に入学。著名作曲家のゴッフレード・ペトラッシに作曲を学ぶも、父親が病で倒れたことからナイトクラブのバイト演奏を余儀なくされ、クラシック一筋で生きられないことがその後長らく彼を悩ませる。レコード会社と契約を結び、ジャンニ・モランディらポップスシンガーの曲を手がけてヒット曲を連発。やがて映画音楽の仕事が舞い込むようになり、セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演のマカロニウエスタン映画『荒野の用心棒』(1964年)によって、世間はモリコーネを「映画音楽の作曲家」として強く認識するようになってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 『荒野の用心棒』や『ニュー・シネマ・パラダイス』をはじめ、制作秘話がつぎつぎと明かされワクワクするなか、レオーネの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』に至っては作曲済の曲が撮影現場で流され、それに合わせてロバート・デ・ニーロが演技する姿に驚かされる。恩師や音楽院の同窓生からはなかなか認められず葛藤も多かったモリコーネだったが、映画音楽の世界での存在感と栄光は圧倒的で、やはり本人は不本意でも「映画音楽の巨匠」という冠をつけたくなる。
                   (NORIKO YAMASHITA)
 2023年1月7日 記

監督/出演:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:エンニオ・モリコーネ/セルジオ・レオーネ/クリント・イーストウッド/ベルナルド・ベルトルッチ/ピエル・パオロ・パゾリーニ/クエンティン・タランティーノ/ジャンニ・モランディ/ブルース・スプリングスティーン/ジョン・バエズ/クインシー・ジョーンズ
2022年イタリア(157分)  原題:ENNIO  配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/ennio/
©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras





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                    『恋のいばら』 KOINO IBARA
          2023年1月6日(金)からTOHOシネマズ 日比谷/渋谷シネクイントほか全国公開


■わかれた恋人から自分の画像を取り戻したい一心で、元カレの現在の恋人にまとわりつく若い女性。元カノ、今カノふたりの女性はいつしか情報を共有し合うようになり、不思議な三角関係が築かれてゆくミステリアスでコミカルなラブストーリー。監督は『女子高生に殺されたい』などの城定秀夫。今泉力哉監督とのコンビも多い脚本家の澤井香織が、城定とともにひとひねりした脚本を書いている。

■SYNOPSIS■ バイトをしながらダンサーを志す莉子(玉木ティナ)はある日、見知らぬ女性に急接近されしぶしぶ話を聞くと、莉子がいまつき合っているカメラマン健太郎(渡邉圭祐)の前代彼女の桃(松本穂香)だった。彼のパソコンに残された自分の画像が悪用されることを恐れ、それを消す手伝いをしてほしいと言う。〝リベンジポルノ〟
という言葉まで持ち出してきた。聞く耳を持たない莉子だったが、巻き込まれ健太郎の行動を探るうちに、ふたりはしだいにシンパシーを感じるようになってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 恋愛関係にあること「つき合う」とはどういうことなのか。桃はある日唐突に、一年間つき合ってきた健太郎から別れ話を切り出される。そもそもオレたちつき合っていなかったしとも言われる。女の思い込みなのか、男が不誠実なのか。そしてSNS経由の個人情報ダダ洩れ問題。
そんな現代の縮図とは別次元の夢のなかに生きる健太郎の祖母(白川和子)の愛らしいこと。そして、〝つき合っている〟問題はこの物語の結末と大きく関わってくる。
              (NORIKO YAMASHITA) 2022年12月29日 記


監督/共同脚本:城定秀夫  共同脚本:澤井香織 城定秀夫
出演:松本穂香/玉城ティナ/渡邊圭祐/
中島 歩/北向珠夕/吉田ウーロン太/吉岡睦雄/不破万作/阪田マサノブ/片岡礼子/白川和子
2023年日本(98分)  配給:パルコ
©2023「恋のいばら」製作委員会








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                    『MEN 同じ顔の男たち』 MEN 
              2022年12月9日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開


■夫の衝撃の死に直面しそのトラウマを癒そうと滞在したカントリーハウスで、おなじ顔の男たちが現われて女性を恐怖に陥れるホラーサスペンス。『ザ・ビーチ』の原作者にして『わたしを離さないで』ほかの脚本家、『エクス・マキナ』で監督デビューしたアレックス・ガーランドがみずから書きメガホンをとった最新作。主演は『ワイルド・ローズ』「彼女たちの革命前夜』のジェシー・バックリー。共演のロリー・キニアの怪優ぶりも見どころ。

■SYNOPSIS■ なんとしても別れたい妻のハーパー(ジェシー・バックリー)と別れたくない夫のジェームズ。別れたら自殺してやると脅す夫にハーパーはますます嫌気がさしてならない。もつれる離婚話のさなか、不慮の事故なのか自死なのか原因不明のままジェームズが他界し、その瞬間をハーパーは目撃する。それから何日か経ち、癒しの旅に出た彼女が宿泊先に決めたのはロンドン郊外の築500年ほどのカントリーハウス。愛想はいいが風変りな管理人(ロリー・キニア)にハーパーは違和感を覚える。  

■ONEPOINT REVIEW■ 離婚したら自殺して一生罪の意識を背負わせてやると脅す夫。かくれんぼしようとせがんで駄々をこねる大人の顔をした少年。性的な欲望を一方的に語り、それを押し付けてくる神父。甘ったれた男たちがつぎつぎに現われてハーパーをうんざりさせる。そしてそのうんざり感が最後は彼女を爆発させる。終盤、異形がつぎつぎと生まれ出てグロテスクな展開を見せるが、ホラーサスペンス・タッチの人間ドラマでもあった。        (NORIKO YAMASHITA)
 
2022年12月7日 記

監督/脚本:アレックス・ガーランド 
出演:ジェシー・バックリー/ロリー・キニア/パーパ・エッシードゥ/ゲイル・ランキン/サラ・トゥーミィ
2022年イギリス(100分) 原題:MEN   映倫:R15+
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/men/
© 2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.





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                  『あのこと』 L'EVENEMENT(HAPPENING) 
           2022年12月2日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開



■成績優秀で前途洋々の女子大生が、ある日まさかの妊娠。中絶は刑務所送りを免れない60年代フランスを時代背景に、絶体絶命の窮地に追い込まれる主人公を描いてヴェネチア映画祭の最高賞金獅子賞を受賞したのは、脚本家として活躍しこれが長編監督2作目のオードレイ・ディヴァン監督。ことしノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの原作としても話題を集めている。

■SYNOPSIS■ 親元を離れて寮生活を送る大学生のアンヌは、成績が優秀なだけでなく頭脳明晰な余裕からか仲のいい女ともだちらと青春を謳歌。とは言えほかの女子たちは口先ばかりでただの耳年増のようにも見えた。そんなある日、アンヌはからだに異変を感じ、かかりつけの医者を訪ねるとあっさりと妊娠を告げられる。途方に暮れるなか、相談すべきは医者なのか友人なのか母なのか。だが恐る恐る相談しても、違法行為を恐れてだれひとり耳を貸してくれない。妊娠の原因をつくった男もだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 昨年本邦公開された『シンプルな情熱』同様、本作も作者アニー・エルノーの実体験がもとになっている。この映画のなかの女性には人権など微塵もなく、アンヌは孤立無援のなかひとりで前に進むしかない。まだ20年ほどしか生きていないからだを、自ら傷つけるしかないのだ。愛を描いた映画ではなく欲望を描いているとディヴァン監督は言う。からだだけではなく、快楽も欲望も彼女自身のものであるということ。        (NORIKO YAMASHITA)
 
2022年11月28日 記

監督/共同脚本:オードレイ・ディヴァン 共同脚本:マルシア・ロマーノ
原作:アニー・エルノー「事件」
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ/サンドリーヌ・ボネール/アナ・ムグラリス/ファブリッツォ・ロンジョーネ/ケイシー・モッテ・クライン
2021年フランス(100分) 原題:L'EVENEMENT(HAPPENING)
配給:ギャガ  公式サイト:https://gaga.ne.jp/anokoto/
© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILMS






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                  『グリーン・ナイト』 THE GREEN KNIGHT 
             2022年11月25日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開


© 2021 Green Knight Productions LLC.
All Rights Reserved

■「緑の騎士」から持ち掛けられた〝首切りゲーム〟に応じたことから、窮地に追い込まれる青年ガウェインの試練の旅を描いたダークファンタジー。「指輪物語」のJ・R・R・トールキンの現代語版で知られる作者不詳の14世紀の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を、デヴィッド・ロウリー監督が翻案して映画化した。主役は『LION/ライオン~25年目のただいま~』のデヴ・パテル。共演はアリシア・ヴィキャンデル、そしてアントワン・フークア監督の活劇版『キング・アーサー』(04年)ではガウェイン役だったジョエル・エドガートンも出演している。A24製作初の本格的ファンタジー。

■SYNOPSIS■ 憧れの騎士にまだなれず怠惰な日々を送る青年ガウェイン(パテル)は、きょうも恋人エセル(ヴィキャンデル)のところから朝帰り。そんな彼を見て心配する母。その日、母の兄であるアーサー王から呼ばれていたクリスマスの宴に行ってみると、騎士たちが円卓を囲んで勢ぞろいしていた。居心地悪そうなガウェインを呼び「お前を知るためにお前の物語を聞きたい」とアーサー、すると「語るべき物語がありません」とガウェイン。そこに突然、全身が緑色の草木に包まれた騎士が入ってきて、遊び事と称した〝首切りゲーム〟を全員に持ち掛ける。

■ONEPOINT REVIEW■ 叙事詩を壮大なファンタジーに置きかえたのは、不思議で忘れがたい幽霊映画『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』のデヴィッド・ロウリー監督。放蕩息子ではないけれど、騎士として生きるにはいまひとつピリッとしないガウェインが、軽々しく首切りゲームを受けてしまったことから生じる死に至る試練。それを仕掛けるのはじつは身近なあのひと?ということで教訓譚になっている。波乱の旅の果てに彼はなにを得るのか、あるいは失うのか。 
                  (NORIKO YAMASHITA) 
2022年11月22日 記

監督/脚本:デヴィッド・ロウリー 
出演:デヴ・パテル/アリシア・ヴィキャンデル/ジョエル・エドガートン/サリタ・チョウドリー/ショーン・ハリス/ケイト・ディッキー/バリー・コーガン/ラルフ・アイネソン
2021年アメリカ=カナダ=アイルランド(130分)
原題:THE GREEN KNIGHT  配給:トランスフォーマー 
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/greenknight/ 





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                     『ザ・メニュー』  THE MENU
      2022年11月18日(金)からTOHOシネマズ 日本橋/TOHOシネマズ 日比谷/新宿バルト9ほか全国公開

■世界でいちばん予約がとれないレストランの切符を首尾よくゲットして、鼻高々に店を訪れる客たち。だが待ち受けていたのは…。レイフ・ファインズ演じるオーナーシェフが次々と異様な趣向を凝らして料理を出してゆくホラー・サスペンス。売れっ子女優のアニャ・テイラー=ジョイらが演じる客たちの群集劇にもなっている。メガホンをとるマーク・マイロッド監督はじめ、HBO製作のテレビシリーズ「メディア王~華麗なる一族~」製作陣の多くが参入。

■SYNOPSIS■ その店は太平洋沖の小島にあった。簡単には予約が取れない高級レストラン「ホーソン」。いったいどんな人たちが予約チケットを手に入れたのか。レストラン行きの船の出発を待つあいだ、煙草をふかす若い女性マーゴに対し「味覚を殺す!」ととがめるのは彼女を誘ったグルメ・オタクのタイラー。ほかに有名料理評論家や雑誌編集者、落ち目の映画スターやITでひと儲けした成金の男たち…。島に着きレストランのドアを通ると、客席から見えるようにオープンキッチンがあり、そこで整然と盛りつけをするスタッフたち。そしてカリスマ・シェフのスローヴィクが厳かに登場する。

■ONEPOINT REVIEW■ シェフの一挙一動をありがたがるタイラーのようなグルメ・オタクもいれば、話のタネにと思ってやってきた一行、あるいはこの瞬間に居合わせることを自慢したいスノッブな連中も。〝選ばれし〟面々の背後には「優越感」「虚勢」といった言葉が渦巻いていて、そんな世界にシェフはなにを仕掛けようというのか。そこにはさらに「コンプレックス」「遺恨」といったワードも浮かんでくる。    
                 (NORIKO YAMASHITA)
 2022年11月16日 記
      
監督:マーク・マイロッド  脚本:セス・リース/ウィル・トレイシー
出演:レイフ・ファインズ/アニャ・テイラー=ジョイ/ニコラス・ホルト/ホン・チャウ、ジャネット・マクティア/ジョン・レグイザモ
2022年アメリカ(108分) 原題:THE MENU 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン  R15+
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/themenu
©2022 20th Century Studios. All rights reserved.





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              『ザリガニの鳴くところ』  WHERE THE CRAWDADS SING
         2022年11月18日(金)からTOHOシネマズ 日本橋/TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

■両親に捨てられひとり湿地帯に暮らす少女にある日、殺人容疑がかけられる。事件の真相を探るなかで明らかになってくる生い立ちと、ある青年との初恋。動物学者のディーリア・オーエンズが書き世界的ベストセラーとなっている同名小説を、新進のオリヴィア・ニューマンが監督。原作の発見者と言っていい女優でプロデューサーのリース・ウィザースプーンが製作を担当しているほか、主役に抜擢された英国の新星デイジー・エドガー=ジョーンズ、そしてテイラー・スウィフトが書き下ろしたオリジナル・ソングも話題だ。

■SYNOPSIS■ 1969年、米ノースカロライナ州の湿地帯で男性の変死体が発見される。亡くなったチェイスという青年は裕福な家の息子だったが品行が悪く、評判はイマイチ。自殺他殺の両面で捜査が進むなか、人里離れたこの地にひとりで暮らすカイアという少女に嫌疑がかかる。カイアはかつては両親、きょうだいと暮らしていたが、父親の暴力がもとで母親が家を出て一家は離散。最後に父親が出て行ったときカイアは6歳だった。学校にも行かず、もっぱら友となり学びの対象となったのは花や草木、鳥や魚といった自然界の生き物たち。そんな孤独のある日、テイトというさわやかな青年と出会う。

■ONEPOINT REVIEW■ 動物学者のディーリア・オーエンズがリタイア後に書いたこの初小説にはいろいろな要素が混ざり合っている。カイアはひとり暮らすなかで鳥や草木を子細に観察し丁寧に写し取ってゆく。カイアが幼いころに母親から言われた「ザリガニの鳴くところ」まで行きなさいという言葉は、作者自身が母親からもらった言葉だった。森で育ったという原作者自身が少なからずカイアに投影されているのだ。また父親と母親の関係からみられるジェンダーの問題もある。そして幅広く支持される要因となったミステリー的要素。果たして真相は闇の中なのか。(NORIKO YAMASHITA)
 2022年11月13日 記

監督:オリヴィア・ニューマン  脚本:ルーシー・アリバー
原作:ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」(早川書房)
オリジナル・ソング:テイラー・スウィフト「キャロライナ」
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/スターリング・メイサー・Jr./ デヴィッド・ストラザーン
2022年アメリカ(125分) 原題:WHERE THE CRAWDADS SING
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント  公式サイト:https://www.zarigani-movie.jp





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             『ミセス・ハリス、パリへ行く』  MRS. HARRIS GOES TO PARIS
       2022年11月18日(金)からTOHOシネマズ シャンテ/渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

© 2022 FOCUS FEATURES LLC

■家では家事、外では家政婦として働きづめだった女性が、人生の転機を境に夢のドレスを求めて憧れのパリの地を踏む様子をユーモアで描いた人間ドラマ。「ポセイドン・アドベンチャー」などの米国の人気作家ポール・ギャリコの「ハリスおばさん」シリーズを、長編3作目のアンソニー・ファビアンがみずから脚本に加わり映画化。主演は英国のベテラン、レスリー・マンヴィル。共演はフランス勢のイザベル・ユペール、ランベール・ウィルソンら。クリスチャン・ディオールが全面的に協力している。

■SYNOPSIS■ 第二次大戦終戦から何年も経った1950年代ロンドン。家政婦として働きながら出征した夫の帰還を待ち続けるミセス・ハリスのもとに一通の訃報が届く。悲しみを隠し気丈にふるまう彼女はある日、仕事先の金持ちのクローゼットでクリスチャン・ディオールのドレスと出会い衝撃を受ける。こんな美しいものがこの世にあったのかと。生きる目標が定まり、とてつもなく高額なドレスを求めてミセス・ハリスのパリ行き計画がはじまる。

■ONEPOINT REVIEW■ いまの貨幣感覚で言うと数百万円に値する500ポンドものディオールのドレス代とパリ―ロンドン間の渡航費、そして宿泊代。偶然も重なってなんとか大金を工面するのだが、一難去ってまた一難。こんどはディオールのサロンという高い壁が待ち受けている。高飛車で慇懃無礼な店員と高慢な常連客。けれど現金を持ってきたハリスは、じつは資金繰りが厳しいサロンにとってはありがたい客という皮肉。そしてサロンを支えるスタッフの多くはハリスと同じ庶民出という、細部まで行き届いた脚本が楽しませてくれる。 (NORIKO YAMASHITA) 
2022年11月12日 記

監督/共同脚本:アンソニー・ファビアン
共同脚本:キャロル・カートライト/オリヴィア・へトリード/キース・トンプソン
原作:ポール・ギャリコ「ハリスおばさんパリへ行く」
出演:レスリー・マンヴィル/イザベル・ユペール/ランベール・ウィルソン/アルバ・バチスタ/リュカ・ブラヴォー/エレン・トーマス/ローズ・ウィリアムズ/ジェイソン・アイザックス
2022年イギリス(116分) 原題:MRS.HARRIS GOES TO PARIS
配給:パルコ/ユニバーサル映画 公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/mrsharris





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             『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』  PERSIAN LESSONS
2022年11月11日(金)からkino cinéma横浜みなとみらい/kino cinéma立川髙島屋S.C.館/kino cinéma天神ほか全国順次公開

■ペルシャ人に成りすましたことで銃殺から逃れたユダヤ人青年が、生き延びたい一心でニセのペルシャ語をナチス将校に教えて命拾いしてゆく様子を、スリリングに描いた戦争映画。ドイツ人作家コールハーゼの短編小説を、ソ連時代にウクライナ難民としてヨーロッパに渡り、その後カナダで映画を学んだヴァディム・パールマン監督で映画化。主役は『BPM ビート・パー・ミニット』のナウエル・ペレーズ・ビスカヤート。

■SYNOPSIS■ 1942年、ドイツ占領下のフランスでナチスの親衛隊に捕らえられたユダヤ人青年ジルは、移送中に自分はペルシャ人だと言って銃殺を免れる。わずか前にパンと交換したペルシャ語の書物が功を奏したのだ。収容所ではテヘランで料理店を開くのが夢というコッホ大尉が待っていた。怪しまれながらもなんとか認められた彼は、昼は調理人として働き、そのあとに語学レッスンの教師役という特別待遇。だがでたらめなペルシャ語を創作するだけでなく、一語一句すべて記憶しなければ疑われるという死と背中合わせの過酷な日々が始まる。

■ONEPOINT REVIEW■ 口から出まかせの嘘八百のペルシャ語を信じて、有難く受け入れるコッホ大尉はまるで裸の王様のようだ。だが決して笑えないのは、ジルの必死さが伝わってくるから。創作し記憶しなければいけない語が多すぎて窮地に追い込まれてゆくジルの頭にあることが閃く。それはのちにナチスの悪事隠しを暴くことへとつながってゆく。            (NORIKO YAMASHITA)
 2022年11月7日 記

監督:ヴァディム・パールマン 脚本:イリヤ・ゾフィン
原作:ウォルフガング・コールハーゼ
出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート/ラース・アイディンガー/ヨナス・ナイ/レオニー・ベネシュ 
2020年ロシア=ドイツ=ベラルーシ(129分) 原題:PERSIAN LESSONS
配給:キノフィルムズ   公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/persianlessons
HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 ©





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                   『窓辺にて』  BY THE WINDOW
     2022年11月4日(金)からTOHOシネマズ 日比谷/テアトル新宿/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

■評判になったデビュー作を最後に小説家としての筆を折り、ひとりのライターとして生きる主人公。彼は妻の浮気を知りながら、一向に怒りの感情がわいてこない自分に戸惑いを感じている。そんな男を稲垣吾郎が演じている。稲垣との共働が決まったのちに彼のイメージを念頭において書き下ろした、今泉監督オリジナルのラブストーリー。

■SYNOPSIS■ 元作家でいまはフリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)と、編集者の紗衣(中村ゆり)夫妻。茂巳は妻が新進作家の荒川円(佐々木詩音)と不倫関係にあることを知っていたが、問題は一向に怒りがわいてこない自分の感情の希薄さだった。ある日、文学賞の取材で高校生作家の久保留亜(玉城ティナ)と知り合った茂巳は、留亜の真っ直ぐな心と、彼女の小説に出てくる主人公たちに興味を抱く。茂巳は留亜を含めたひととの交流のなか、妻との関係を見つめ直してゆく。


■ONEPOINT REVIEW■ 自分の不倫を夫が察知していて、追及どころか怒りさえわいていないのを知ったなら…。描き方によってはドロドロの恐ろしい映画になっただろう。だが今泉監督の手にかかるとそうはならない。監督は脚本を書くにあたり、穏やかな空気感を出している稲垣吾郎ならこういう主人公でいけると考えた。と同時に監督自身のなかにも、感情の喜怒哀楽がうまく出せない部分があることを感じていたと語っている。ケレン味のない、今泉ワールドが色濃く出た作品。
                 (NORIKO YAMASHITA) 
2022年10月30日 記

監督/脚本:今泉力哉
出演:稲垣吾郎/中村ゆり/玉城ティナ/若葉竜也/志田未来/倉 悠貴/穂志もえか/佐々木詩音/斉藤陽一郎/松金よね子
2022年日本(143分)  配給:東京テアトル
公式サイト:https://madobenite.com/
©2022「窓辺にて」製作委員会





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           『パラレル・マザーズ』  MADRES PARALELAS(PARALLEL MOTHERS)
 2022年11月3日(木・祝)からヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷・Bunkamuraル・シネマ/新宿シネマカリテほか公開

■スペイン内戦中に連行されたまま帰らぬ人となった親族の遺骨探しをするなか妊娠し、赤ちゃん取り違えのアクシデントに巻き込まれてゆくひとりのフォトグラファー。予期せぬ出会いや波乱に満ちた人生の流れを描いたペドロ・アルモドバル監督最新作。彼のミューズ的存在ペネロペ・クルスがシングルマザーとなる写真家を演じている。

■SYNOPSIS■ 一流の写真家として活躍するジャニスはある日、法人類学者アルトゥロのポートレート撮影に臨む。ジャニスはスペイン内戦中に連行され行方知れずとなっている親族たちの遺骨探しを使命と感じており、彼からアドバイスを得たいという思惑があったのだ。アルトゥロは快く引きうけ、彼と恋仲となったジャニスは妊娠し出産する。その子をセシリアと名づけひとりで育てる決心をしたジャニスのもとにある日アルトゥロが訪れ、初めて見たわが子がふたりのどちらにも似ていないことに衝撃を受ける。出産のとき同室にはアナという17歳の少女がいて、同じ日に出産していた。 

■ONEPOINT REVIEW■ 重層的で複雑なプロットを得意とするアルモドバル作品。今回もスペイン内乱の話を最初に振っておいて一転、赤ちゃん取り違えへと物語は転換する。しかも取り違えそのものではなく、アルモドバルが関心を寄せるのは新たな出会いやそこから築かれる新たな人間関係、さらにそれぞれが抱える母と子の物語だ。奔放な主人公ジャニスだからこその波乱の人生だが、彼女の名はヒッピーだった母が歌手のジャニス・ジョプリンにちなんでつけたもの。母はジョプリン同様に薬物のオーバード―スでこの世を去ったというもうひとつの裏エピソード。
                 (NORIKO YAMASHITA)
 
2022年10月29日 記
監督/脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス/ミレナ・スミット/イスラエル・エレハルデ /アイタナ・サンチェス=ギヨン/ロッシ・デ・パルマ/フリエタ・セラーノ
2021年スペイン=フランス(123分)  原題:MADRES PARALELAS  映倫:R15+
配給:キノフィルムズ  公式サイト:pm-movie.jp  twitter:@pm_movie_jp
© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU


【同時公開】   『ヒューマン・ボイス』 THE HUMAN VOICE

■恋人に捨てられてなお未練を残す〝待つ女。ジャン・コクトーのひとり芝居をペドロ・アルモドバルが映像化した。彼初の英語劇。
アルモドバルにとっては古くからなじみのある戯曲で、何度か作品化を試みたりアイデアを自作映画に取り込んできたという。

■「原作に忠実に」取り組もうとしたが結局は「大まかに基づいている」作品となった。また「現代女性への理解に基づいて脚色した。男を狂気に至るまで愛しているが、媚びるほど依存しきってはいないというような女性。原作に登場する女性のように従順ではない。私たちの生きている時代を考慮したらそれはあり得ない」とアルモドバルは語っている。演じるのはティルダ・スウィントン。見どころは多く、アルモドバルの美意識があふれ出た作品になっている。


監督/脚本:ペドロ・アルモドバル 原作:ジャン・コクトー「人間の声」
出演:ティルダ・スウィントン/アグスティン・アルモドバル/ダッシュ(犬)2020年スペイン(30分) 原題:THE HUMAN VOICE  配給:キノフィルムズ 

© El Deseo D.A.




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                      『ノベンバー』 NOVEMBER
            2022年10月29日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

ⓒHomeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017

■すべての物に魂が宿ると信じられる19世紀エストニアの寒村。11月=ノベンバーとなって死者の日を迎え、村の娘リーナは死んだ母親と再会する。その彼女が激しい恋心を抱いているのは青年ハンス、だが彼の思いはちがう娘のほうへと向かう。地元エストニアの人気小説をライナル・サルネット監督が自ら脚本化。土着信仰とキリスト教を交差させながら、白黒映像で美しく描いたダークファンタジー。

■SYNOPSIS■ 農具や廃品に魂を吹き込んでつくられた「使い魔クラット」が立ち働く寂れた村。11月となり死者の日を迎えると、蘇った死者たちはご馳走を食べサウナに入り、貴重品の保管を確認する。彼らは死んでなお強欲なのだ。リーナも死んだ母親と再会を果たすが、死者を迎える場で恋焦がれる青年ハンスとすれ違う。だがハンスは礼拝に来ていたドイツ男爵の娘に一目惚れし、リーナの恋は思うようにならない。そして男爵の娘もまた夢遊病という病を抱えていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 農具やガラクタを寄せ集めてつくった粗末なロボットみたいな「クラット」。ものに魂が宿ったアニミズムの象徴のような存在をファンタジックに描いていて、一見滑稽だが鋭利なカマが大暴れしてひやひやさせられる。そんな土着信仰にとらわれた村人の暮らしと対照的なのが段違いに裕福なドイツ男爵の家。そこで男爵(遺作となったディーター・ラーザー)はベートーヴェンが19世紀初頭に残したピアノソナタ「月光」を奏でる。ドイツの支配下にあったエストニア、そんな時代背景も見えてくる。そして物語の中心にあるふたつの恋。リーナとハンスの恋はそれぞれに激しく、ピュアな恋は破滅的だが美しい。(NORIKO YAMASHITA) 
2022年10月22日 記

脚本/監督:ライナル・サルネット  原作:アンドルス・キヴィラ―ク
出演:レア・レスト/ヨルゲン・リイイク/ジェッテ・ローナ・ヘルマーニス/アルヴォ・ククマギ/ディーター・ラーザー
2017年ポーランド=オランダ=エストニア(115分)  原題:NOVEMBER
配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://november.crepuscule-films.com/





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                     『アフター・ヤン』 AFTER YANG
              2022年10月21日(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国公開

■アンドロイド(人型ロボット)やクローン人間が人びとの生活に溶け込む遠くない未来。家族の一員であり、ひとり娘の兄的な存在でもあるAIロボットが故障し修理に出したことから、彼が過去に見てきたもの、想定外の機能をもっていることなどが明かされてゆく。モダン建築の街を舞台にしたデビュー作『コロンバス』で注目された韓国出身のコゴダナ監督による長編2作目で、A・ワインスタイン作の短編小説を映画化。

■SYNOPSIS■ 茶葉の店をひっそりと開いているジェイク(コリン・ファレル)と外で働くカイラ、養女のミカ。ミカが兄のように慕うAIロボットのヤン。4人はひとつ屋根の下で暮らしていたが、ある日突然ヤンが故障してしまう。コアな部分の故障のため修理は受けられず、しかも中古だったことから怪しげなところに持ち込まれ調べるうちに、博物館の研究者も驚くような貴重なデータが埋め込まれていることが判明する。ジェイクが持ち帰って動画ファイルを再生してみると、緑豊かな自然やミカが赤ん坊だったころなどが映し出され、さらにヤンの意外な心の動きも明らかになってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ コリン・ファレル演じる主人公のジェイクはいくつかの感慨と驚きをもって動画ファイルを再生する。ひとつはロボットと愛のお話。そしてもうひとつはノスタルジー。彼が生きるこの近未来は映像として映し出される過去と間違いなく地続きなのだが、そのグラデーションのなか変化していった、あるいは失われていったなにか。郷愁のようなものが強烈に感じられる。
                (NORIKO YAMASHITA) 
2022年10月14日 記

監督/脚本:コゴナダ
原作:アレクサンダー・ワインスタイン「Saying Goodbye to Yang」(短編小説集「Children of the New World」所収)  音楽:Aska Matsumiya  オリジナル・テーマ:坂本龍一 
フィーチャリング・ソング:「グライド」Performed by Mitski, Written by 小林武史
出演:コリン・ファレル/ジョディ・ターナー=スミス・ジャスティン・H・ミン/マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ/ヘイリー・ルー・リチャードソン
2021年アメリカ(96分 )  原題:AFTER YANG  配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://www.after-yang.jp/
ⓒ2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.

 


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               『ドライビング・バニー』 THE JUSTICE OF BUNNY KING
         2022年9月30日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテほか全国公開

■職もなく家もなく車の窓ふきで日銭を稼ぐ訳ありの中年女性バニー・キング。行政によって引き離されたふたりの子どもと暮らすのが唯一の望みだが、何をやってもうまくいかず大きな事件を引き起こしてしまう。アジア出身ニュージーランド在住の女性監督ゲイソーン・サヴァットが、共同原案と共同脚本も務めた長編初監督作品。

■SYNOPSIS■ 大きな罪をつぐない出所してきたバニー・キングは現在保護観察の身。妹夫婦の家に身を寄せながら車の窓ふきで小銭を貯め、愛しいふたりの子どもとの生活を夢見ているが自由に会うことが禁じられ、一緒に暮らす条件となっている家の確保もままならない。そんなある日、妹の夫が妻の連れ子トーニャを誘惑しているところを見て怒りが爆発。少女との逃避行がはじまる。

■ONEPOINT REVIEW■ 空回りする行政、どん底を一旦味わうと負のスパイラルから抜け出せない不条理。原題は「The Justice of Bunny King」ーバニー・キングの正義。バニーは自身も言うように切れやすい性格が玉にキズ。だがそれにしても、正義はどこにあるのかと。サヴァット監督は英国のケン・ローチ監督あたりが好みそうな問題提起をもって切り込んでくる。そして終盤、逃避行の果てに自暴自棄となって起こす事件は『バニシング・ポイント』や『俺たちに明日はない』といった60、70年代アメリカン・ニューシネマを彷彿とさせるが、最後はちょっとしたユーモアで締めてくれる。  
                  (NORIKO YAMASHITA) 
2022年9月28日 記

監督/共同原案/共同脚本:ゲイソーン・サヴァット
共同脚本:ソフィー・ヘンダーソン  共同原案:グレゴリー・デビッド・キング
出演:エシー・デイヴィス/トーマシン・マッケンジー/エロール・シャン/トニ・ポッター/ザナ・タン
2021年ニュージーランド(100分)  原題:THE JUSTICE OF BUNNY KING
配給:アルバトロス・フィルム  公式サイト:https://bunny-king.com/
© 2020 Bunny Productions Ltd





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           『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』 DOWNTON ABBEY: A NEW ERA
  2022年9月30日(金)からTOHOシネマズ 日本橋/TOHOシネマズ 日比谷/TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開

公式サイト:https://downton-abbey-movie.jp/
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

■1910年代~20年代の英ヨークシャー。時代の転換期にある貴族の館を舞台に、さまざまな人間模様を描いて人気を集めた大ヒット・ドラマシリーズの映画化第2弾。ハリウッドからの撮影隊の来訪がありにぎわいを見せる一方、長老バイオレット(マギー・スミス)に遺産が入り若き日の秘密を知ることに…。脚本は物語の生みの親ジュリアン・フェローズ、監督は『黄金のアデーレ 名画の帰還』のサイモン・カーティス。おなじみのメンツに加え仏エピソードのナタリー・バイらがゲスト出演している。

■SYNOPSIS■ 1928年、英北東部ヨークシャーのダウントン村にあるクローリー邸は、亡き三女シビルの夫だったトムと、一族であるモード・バグショーの娘ルーシーとの結婚式で湧いていた。その一方で家を取り仕切る長女メアリーの頭を悩ませるのが屋敷の老朽化と資金難。そこに撮影のために屋敷を貸してくれないかとハリウッドの映画会社からオファーが入る。謝礼の額を見て喜ぶメアリーと次女のイーディスに対し、父グランサム伯爵は断固反対の立場をとるが、結局は折れることに。おなじころ、ロバートの母バイオレットに南仏の別荘相続の話が転がり込んでくる。贈り主は若き日の知り合いのフランス人公爵だという。ロバートは自分の出生にも関わることかと危惧する。

■ONEPOINT REVIEW■ 当主グランサム伯爵を頂点に召使、料理人らさまざまなひとたちがダウントン館(やかた)というひとつ屋根の下で暮らしている。格式を重んじ階級もくっきりと分かれているけれど、両者のあいだの壁が薄く感じられるのは主の妻のコーラがアメリカ人であること、貴族という存在が時代の境目にあることと無関係ではなさそう。彼らが一体となった和気あいあい感もこの物語の大きな魅力になっているのだ。6シーズンにおよんだテレビシリーズでは実にいろいろな出来事があった。でもこの映画版はそんなことを知らなくてもすっと入り込める脚本になっていて、無理なく最後の大団円を楽しめるはず。    (NORIKO YAMASHITA)   
2022年9月27日 記

監督:サイモン・カーティス  原作/脚本:ジュリアン・フェロウズ
出演:アレン・リーチ/タペンス・ミドルトン/イメルダ・スタウントン/エリザベス・マクガヴァン
/ヒュー ・ボネヴィル/ミシェル・ドッカリー/ローラ・カーマイケル/ハリー・ハッデン=パトン/ペネロープ・ウィルトン/フィリス・ローガン/ジム・カーター/ロブ・ジェームス=コリアー/ジョアン・フロガット/ブレンダン・コイル/レスリー・ニコル/ソフィー・マックシェラ/ケヴィン・ドイル/マギー・スミス/ヒュー・ダンシー/ローラ・ハドック/ドミニク・ウェスト/ナタリー・バイ
2022年イギリス=アメリカ(125分) 原題:DOWNTON ABBEY: A NEW ERA
配給:東宝東和





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                      『渇きと偽り』 THE DRY
               2022年9月23日(金)から新宿シネマカリテほか全国公開

■友人の葬儀のために20年ぶりに戻った故郷で向き合うことになった過去と現在ふたつの事件。連邦警察で働く主人公が、青春の苦い思い出を掘り起こしながら事件の解明に立ち向かうサスペンスドラマ。オーストラリア発のベストセラー小説を、地元で活躍するコノリー監督がスター俳優エリック・バナ主演(共同製作も)で映画化。

■SYNOPSIS■ 10年来の干ばつに苦しむオーストラリアの田舎町キエワラ。メルボルンの連邦警察官フォーク(エリック・バナ)は若き日の友人ルークの葬儀のために20年ぶりに帰郷する。だがフォークがかつて恋心を抱いていた遊び仲間エリーの不審死がいまも影を落としていて、彼の帰郷を快く思わない者も少なからずいた。一方、ルークの死は妻と息子を巻き込んだ無理心中というのが警察の見立てだったが、両親は旧知のフォークに真相の解明を願い出る。苦い思い出しかないキエワラから早く逃れたい…。その一方でふたつの事件に疑問を抱くフォークは調査にのめり込んでゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ ヒット作『ゴーンガール』などを送り出してきたプロデューサーのブルーナ・パパンドレアが早々に権利を獲り、ほぼ純国産でつくったオーストラリア映画。ミステリーとしてのナゾ解きの面白さの背後に、原作者およびスタッフ陣の女性パワーやオーストアリア愛が感じられるのもこの作品の特徴だろうか。水遊びをする若者たちのみずみずしさ。キラキラと煌めくその清らかな川もいまは干からびて…。               (NORIKO YAMASHITA)
  2022年9月22日 記


監督/脚本:ロバート・コノリー
出演:エリック・バナ/ジュネヴィーヴ・オーライリー/キーア・オドネル/ジョン・ポルソン
原作:ジェイン・ハーパー「渇きと偽り」(ハヤカワ文庫)
2020年オーストラリア(117分) 原題:THE DRY
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:http://kawakitoitsuwari.jp/
©2020 The Dry Film Holdings Pty Ltd and Screen Australia





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                      『LAMB/ラム』 LAMB
                2022年9月23日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開

■穏やかに暮らしつつも、どこか喪失感ただよう羊飼い夫婦にある日授けられる異形の贈りもの。ファンタジーかそれとも悪夢か。地元アイスランドの民話的要素を取り入れながら独自の世界観を創り出すのは、これが長編監督第1作の注目株ヴァルディミール・ヨハンソン。アリ・アッバシ監督(『ボーダー 二つの世界』)と現在共働中という脚本家、ショーンの参加も注目される。主演は「ミレニアム」シリーズのノオミ・ラパス。

■SYNOPSIS■ アイスランドの山間の牧場にぽつんと暮らすマリアとイングヴァルの羊飼い夫婦。出産期なのか子羊が次々と生まれて大忙しのある日、ただの羊ではない〝何〟かが生まれてくる。母羊から奪うようにして居室のベビーベッドに寝かせ、ミルクを与えるマリア。夫婦は亡き娘の名をとってアダと名づけて育て始めるが、子を奪われれた母羊が執拗に追ってきて泣き続ける。さらにイングヴァルの弟ペートゥルがふらりと牧場にやってきて、兄夫婦たちの異様な光景を目の当たりにする。

■ONEPOINT REVIEW■ 「壮絶な喪失感を描いた映像詩であり、喜びや幸福感を取り戻すためならどんなことでもしてしまう主人公を描いた」とヨハンソン監督は言う。現実とシュールな世界が交差する映像の向こうにある深い悲しみ、そして常にただよう不吉なトーン。ヘンデルの荘厳な曲「サラバンド」がエンディングを締めている。 

                  (NORIKO YAMASHITA)  2022年9月20日 記



監督/共同脚本:ヴァルディミール・ヨハンソン  共同脚本:ショーン
出演:ノオミ・ラパス/ヒルミル・スナイル・グズナソン/ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン
2021年アイスランド=スウェーデン=ポーランド(106分)
原題:LAMBR  配給:クロックワークス  映倫:15+
公式サイト:https://klockworx-v.com/lamb/
© 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY,
RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON





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                       『3つの鍵』 TRE PIANI
   2022年9月16日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

© 2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

■ローマの高級住宅街のマンションに暮らす3組の家族。住人の乗用車が人身事故を起こし一角に突っ込んだのをきっかけに、問題を抱えるそれぞれの家族の日常が浮き彫りになってゆく。モレッティ監督は初めて既存の小説を映画化。原作では独立していた3つの物語を交差させ、5年後10年後を描きながら映画独自の問題提起を試みている。イタリアの人気俳優が多数出演していて、俳優でもある監督自身も頑迷な男を演じている。

■SYNOPSIS■ ある夜、暴走車が人身事故を起こし建物に突っ込んで止まる。運転者はそのマンションの3階に住む裁判官夫婦の息子で、はねられた女性は死亡する。同じころ2階のモニカは陣痛が始まりひとり病院に向かう。そして仕事場を破壊されて呆然とする1階の若夫婦。3つの家族はそれぞれ問題を抱えていた。3階の裁判官ヴィットリオは唯我独尊の男で、息子の人身事故も彼との軋轢が遠因だった。そして妊娠中も夫が長期出張中で慢性的な孤独を抱えるモニカ。1階の夫婦は認知症気味の老夫婦に子どもを預けたことから、夫が必要以上の猜疑心を発動し、さらに若い娘相手の不祥事も起こす。

■ONEPOINT REVIEW■ 自分が正しいと思うことを「決定事項」として押しつけるひとたち。女性よりも男性の頑迷さが際立っていることを示したのは、共同で脚本を執筆する際の共通認識だったとモレッティ監督は言う。彼らは自分が道理だとさえ思っていると。その最たる人物、裁判官のヴィットリオを監督自身が演じているが、彼のことを非人間的と断じる一方でなぜああなったのか、寄り添いたかったとも語る。彼に反目する息子もまた頑固な青年だが、最後の最後にポッと明かりが灯る。                 (NORIKO YAMASHITA)  
2022年9月13日 記

監督/共同脚本/出演:ナンニ・モレッティ
共同脚本:フェデリカ・ポントレーモリ/ヴァリア・サンテッラ   原作:エシュコル・ネヴォ
出演:マルゲリータ・ブイ/リッカルド・スカマルチョ/アルバ・ロルヴァケル /アドリアーノ・ジャンニ―二/エレナ・リエッティ/アレッサンドロ・スペルドゥティ/デニーズ・タントゥッチ/ステファノ・ディオニジ  2021年イタリア=フランス(119分)  原題:TRE PIANI
配給:チャイルド・フィルム   公式サイト:https://child-film.com/3keys/





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                 『川っぺりムコリッタ』 KAWAPPERI MUKORITTA
      2022年9月16日(金)から新宿ピカデリー/角川シネマ有楽町/TOHOシネマズ日本橋ほか全国公開

© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

■身寄りがなく訳ありの青年が暮らすことになったのは、川辺に佇む築50年の長屋のようなアパート「ハイツムコリッタ」。似たような境遇のひとたちとの出会いが、壁をつくっていた青年の心を少しずつほぐしてゆく。『かもめ食堂』の荻上直子監督による『彼らが本気で編むときは』以来5年ぶりの新作

■SYNOPSIS■ 北陸のとある町の塩辛工場で、陸揚げされたイカを黙々とさばく訳ありの青年、山田(松山ケンイチ)。後押ししてくれる工場長(緒形直人)に紹介された住まいに行ってみると、そこは古いながらもこざっぱりした長屋のようなアパートで、大家でシングルマザーの南(満島ひかり)や墓石売り(吉岡秀隆)の親子らが暮らしていた。久しぶりの熱い風呂、山田がささやかな幸せを噛みしめていると、となりの住人、島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してくれと上がり込んでくる。しかもそれだけではなくこの男、炊き立てのご飯の匂いを嗅ぎつけては自家製の野菜や漬物をたずさえて、連日上がり込むようになる。

■ONEPOINT REVIEW■ ムコリッタとは1日の30分の1を指す仏教用語だという。この物語のとっかかりが遺骨の話だったことと、つまり山田の父親の遺骨の話や、大事なひとを亡くした住人らの話とつながってくる。荻上監督のゆったりとした世界観ともどこかでつながっているように感じる。そして山田の部屋は古く質素で何もないけれど、カメラを引いてとらえた台所のステンレス流し台はとても美しい。荻上監督のミニマルな世界観も健在なのだ。しかしゆったりと撮ってゆくのに、かったるくないのはなぜだろう。ウェットな話にもかかわらず驚くほどカラッとした空気感がここにはある。               (NORIKO YAMASHITA)
  2022年9月10日 記

監督/脚本:荻上直子
出演:松山ケンイチ/ ムロツヨシ/満島ひかり 
江口のりこ/黒田大輔/知久寿焼/北村光授/松島羽那
柄本 佑/田中美佐子/ 薬師丸ひろ子 
笹野高史/緒形直人/ 吉岡秀隆
2022年日本(120分)  配給:KADOKAWA  公式サイト:https://kawa-movie.jp/





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                     『デリシュ!』 DELICIEUX
           2022年9月2日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

© 2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ー
FRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS

■時代の大きな転換期となったフランス革命前夜の1780年代、初めて「レストラン」というものを開店するに至った宮廷料理人の葛藤とその顛末を描いた人間ドラマ。脚本家として出発し長編映画監督はこれが7作目となるエリック・ベナール監督は、ミステリアスな話を盛り込みながら物語を展開してゆくが、綿密なリサーチのもとに想像も交えて生み出した料理の数々も見どころだ。主演は『オフィサー・アンド・スパイ』や『キャメラを止めるな!』のグレゴリー・ガドゥボワ、共演は『奇跡のひと マリーとマルグリット』のイザベル・カレ。

■SYNOPSIS■ マンスロン(グレゴリー・ガドゥボワ)は誇り高いだけでなく、創作意欲にもあふれているところが宮廷料理人としてはタマにキズ。この日も、貴族は口にしないジャガイモとトリュフの創作料理を大事な席に供し、雇い主であるシャンフォール公爵の逆鱗にふれて城を追われる。意気消沈し、引退を覚悟で故郷に戻ったマンスロンのもとにある日、エレガントな女性ルイーズ(イザベル・カレ)があらわれて弟子にしてほしいと懇願する。

■ONEPOINT REVIEW■ フランス革命前後の美食の世界とくれば、ブリア=サヴァランの「美味礼賛」。ベナール監督も参考にしたのかどうか、いやしないはずがない。いずれにしても綿密なリサーチを重ね、食のアドバイザーもつけて再現した宮廷料理の数々。さらに、ときおり見せる泰西名画のような美しい静物画(像)も目を奪う。しかしその一方で、ホコリの積もったような退屈な時代劇になっていないところがこの映画の魅力。人物の描き方もテンポも映像のメリハリも、いまを感じさせるコスチューム劇になっている。
          (NORIKO YAMASHITA)  2022年8月27日 記

監督/共同脚本:エリック・ベナール  共同脚本:ニコラ・ブークリエフ
出演:グレゴリー・ガドゥボワ/イザベル・カレ/バンジャマン・ラベルネ/ギヨーム・ドゥ・トンケデック/クリスティアン・ブイェット/ロレンツォ・ルフェーブル
2020年フランス=ベルギー(112分)  原題:DELICIEUX  
配給: 彩プロ
公式サイト:https://delicieux.ayapro.ne.jp/





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                    『スワンソング』 SWAN SONG
      2022年8月26日(金)からシネスイッチ銀座/シネマート新宿/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

■残りの人生をうらぶれた老人ホームで過ごすひとりの老人。いまは世捨て人のようにして生きる彼にある遺言状が届いたことから、華やかだった過去を回顧しつつ、自分に課せられた最後の使命に向かってよろよろと歩き出すその年老いた男を怪優ウド・キアーが演じている。若い頃に故郷の町で目撃した忘れがたき実在の人物を、トッド・スティーブンス監督が映画化した。

■SYNOPSIS■ オハイオ州の小さな町、サンダスキーのわびしい老人施設でパトリック・ピッツェンバーガーは余生を送っていた。彼がかつては伝説のヘアメイク・アーティストで、ドラァグクイーンでもあったことを知る者はいるのだろうか。そんなある日、既知の弁護士が彼を訪れる。パトリックのかつての顧客で親友でもあった町の名士リタ・パーカー・スローンが亡くなり、「死化粧はパトリックに」という遺言を残したという。謝礼はなんと2万5千ドル。だがパトリックはきっぱりと断る。リタとの間には許しがたい嫌な思い出があったからだ。

■ONEPOINT REVIEW■ 久しぶりに町に出たパトリックは、子どもと過ごすゲイカップルをうらやましそうに眺める。自分たちの若い頃とは隔世の感という思いだろうか。むかしの思い出はきらびやかで美しく彩られるが、その後ろにはいまよりもきつい迫害や蔑視もあったことだろう。そして最愛のひとを奪ったAIDSが蔓延した時代。リタとの軋轢もそんな時代が生んだものだった。   
                (NORIKO YAMASHITA)
 
 2022年8月23日 記

監督:トッド・スティーブンス 
出演:ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス 
2021年アメリカ(105分)
原題:SWAN SONG  配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:https://swansong-movie.jp/    公式SNS:@swansong_movie
© 2021 Swan Song Film LLC





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              『彼女のいない部屋』 SERRE MOI FORT(HOLD ME TIGHT)
            2022年8月26日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

■妻と夫とふたりの子ども4人家族の「ある喪失」を描いた人間ドラマ。物語をいったんバラバラに解体し、主人公のさまざまな想像力を動員しながら描いてゆくのは、監督としても活躍するフランスの性格俳優マチュー・アマルリック。クロディーヌ・ガレア作の戯曲を自ら脚本化して映画化した。主演はルクセンブルク出身、『ベルイマン島にて』などの注目株ヴィッキー・クリープス。

■SYNOPSIS■ 夫のマルク(アリエ・ワルトアルテ)と娘のリュシーと息子のポール。家族のポラロイド写真で神経衰弱をしていた妻のクラリス(ヴィッキー・クリープス)は、寝静まるなか突然荷物をまとめ、悟られないようにそっと家を出る。そして夫の愛車のヴィンテージカー、AMCペーサーに乗り込み静かに車を走らせる…。

■ONEPOINT REVIEW■ 原題は「SERRE MOI FORT」(英題はHOLD ME TIGHT)。きつく抱きしめて、のような意味だろうか。海外資料のストーリー解説には「家出をした女性の物語、のようだ」と一行書かれていただけという。「彼女のいない部屋」という邦題にだまされてはいけない。時の流れが前後し、現実のできごとや想像、妄想が縦横無尽に交差しあるいは重なり合うように物語は進んでゆく。そしてあるシーンに来て観客はハッとするのだ。アマルリックはモンタージュ手法の進歩形を駆使しながら、知的なだけでなく感情に迫る家族の物語を築いてゆく。   
                  (NORIKO YAMASHITA) 
 2022年8月18日 記

監督/脚本:マチュー・アマルリック
出演:ヴィッキー・クリープス/アリエ・ワルトアルテ/アンヌ=ソフィ・ボーウェン=シャテ/サシャ・アルデリ/ジュリエット・バンヴェニスト/オーレㇽ・グルゼスィク
2021年フランス(97分)
配給:ムヴィオラ  原題:SERRE MOI FORT(HOLD ME TIGHT)
公式サイト:https://moviola.jp/kanojo/
© 2021 - LES FILMS DU POISSON – GAUMONT – ARTE FRANCE CINEMA – LUPA FILM





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                   『みんなのヴァカンス』 A’ABORDAGE
              2022年8月20日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開

■小品『女っ気なし』と『やさしい人』の2作で映画ファンの心をつかんだギヨーム・ブラック監督の新作は、2017年の『7月の物語』に続きフランスが誇る演劇学校、国立高等演劇学校(CNSAD)の学生とのコラボレート作品。気のいい若者3人の夏のバカンスがみずみずしく描かれる。

■SYNOPSIS■ お祭り騒ぎの夏のセーヌ川ほとりで若い女性アルマと出会ったフェリックスは、甘い一夜を過ごし恋に落ちるが、当のアルマはさっさと家族とのヴァカンスに出かけてしまう。諦めきれないフェリックスが親友のシェリフを誘い、ネットの情報交換で無理やり相乗りしたのは初対面のエドゥアールの車だった。目的地はアルマのヴァカンス先、南仏の田舎町ディー。だが現地に着いて連絡すると、サプライズに不機嫌なアルマ。一方、母親から借りた車を故障させてしまうエドゥアール、赤ちゃん連れの若い女性と出会うシェリフと、三者三様のヴァカンスは始まったばかりだった。

■ONEPOINT REVIEW■ ヌーヴェルヴァーグの後継者と目されるブラック監督。自身もエリック・ロメールやジャック・ロジエ監督らからの影響を認めていて、ロメールやロジエのテイストがここではいっそう強く感じられる。学生たちとコラボし、素人感、素朴感をたっぷり盛り込みながらも、デンマークのドグマ95とまでは言わないけれど映画ポリシーが明確にあって、じつは練り上げられた作品なのだった                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年8月13日 記


監督/共同脚本:ギヨーム・ブラック 共同脚本:カトリーヌ・パイエ
出演:エリック・ナンチュアング/サリフ・シセ/エドゥアール・シュルピス/アスマ・メサウデンヌ/アナ・ブラゴジェヴィッチ/イリナ・ブラック・ラペルーザ
2020年フランス(100分)  原題:A’ABORDAGE  配給:エタンチェ
公式サイト:https://www.minna-vacances.com/
©2020 – Geko Films – ARTE France





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       『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』 A FELESÉGEM TORTENETE(THE STORY OF MY WIFE)
            2022年8月12日(金)から新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座ほか全国公開

■「運命の女(ひと)」と出逢ったことから、制御不能の愛に溺れてゆくひとりの男の波乱の人生を描いたラブロマンス。『私の20世紀』(89年)でカンヌのカメラドール(新人監督賞)に輝いてから32年。制作数は少なく、本邦公開も『私の20世紀』とベルリン映画祭で金熊賞を受賞した『心と体と』(18年)のみというエニェディ監督だが、本作ではレア・セドゥというスター女優を迎え、語り口も滑らかにミラン・フストの原作を映画化している。

■SYNOPSIS■ 船員たちからの信頼も厚い貨物船の船長ヤコブ(ハイス・ナバー)はある日、料理長から結婚を勧められる。陸に上がり最初に出会った女性と結婚しよう。半ば本気でそう決めた彼の視線の先にいたのは、運命のひとリジ―(レア・セドゥ)だった。ヤコブはその場で結婚を申し込み、週末ふたりは結婚する。そして社交界に顔の広いリジ―にともなわれて夜な夜な社交の場に出没するなか、ある夜リジ―と親しげに言葉を交わすデダン(ルイ・ガレル)という男に出会う。

■ONEPOINT REVIEW■ 過去の主要2作品で強烈な個性を放ってきた女性監督のイルディコー・エ二ェディ。ここではひとりの女性に翻弄されながら人生をさまようヤコブの物語を巧みに語ってゆく。またファム・ファタルを画に描いたような女優レア・セドゥを得て、彼女本来の魅力を存分に引き出してゆくのも見どころだ。監督の意図なのかセドゥの演技なのか、ファッション広告から抜け出たような美しいシーンも見られる。                (NORIKO YAMASHITA)
  2022年8月3日 記
 
監督/脚本:イルディコー・エニェディ  原作:ミラン・フスト
出演:レア・セドゥ/ハイス・ナバー/ルイ・ガレル/セルジオ・ルビーニ/ジャスミン・トリンカ/ルナ・ヴェドラー/ヨーゼフ・ハーダー/ウルリッヒ・マテス/ウド・ザメル
2021年ハンガリー=ドイツ=フランス=イタリア(169分)
原題:A FELESÉGEM TORTENETE(THE STORY OF MY WIFE)   配給:彩プロ
公式サイト:https://mywife.ayapro.ne.jp/
© 2021 Inforg-M&M Film – Komplizen Film – Palosanto Films – Pyramide Productions - RAI Cinema - ARTE France Cinéma – WDR/Arte





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       『映画はアリスから始まった』 BE NATURAL:THE UNTOLD STORY OF ALICE GUY-BLACHE
             2022年7月22日(金)からアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

© 2018 Be Natural LLC All Rights Reserved

公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/aliceguy/

■映画の誕生期にはじつはたくさんの女性監督がいて、なかでもその最初期から活躍して1000本もの映画を撮った女性がいた。しかも彼女は史上初の物語映画の作者であり監督だった。映画の歴史書で語られることのなかった女性監督アリス・ギイの足跡と仕事ぶり、そして映画史のなかに埋没した謎に迫るドキュメンタリー。これが長編初監督のグリーン監督はアリス本人の証言をもとに知られざる真実に迫り、それだけでなく消失寸前の貴重な資料や歴史的な映画作品もつぎつぎ掘り起こしてゆく。

■SYNOPSIS■ 1895年、フランス・リヨンのリュミエール兄弟がシネマトグラフィを発明して映画の上映に成功した年、アリス・ギイはゴーモン社の社長、レオン・ゴーモンの秘書だった。いまも最古の映画制作会社として存在するゴーモン社は、当時は写真機材を扱う会社で映画の機材を発売するにあたり、アリスは販促用の短編映像の制作を申し出て許される。こうしてアリス・ギイの映画制作がはじまった。そして翌1896年、世界で初めての劇映画とされる『キャベツ畑の妖精』が誕生する。

■ONEPOINT REVIEW■ 歴史から学べというけれど、歴史が誤っていたり嘘っぱちだったらどうするのという話。パメラ・B・グリーン監督はおもに1960年代に録られたアリス本人のインタビュー証言をもとに、彼女が最初期の映画監督だったことをフットワーク良く実証してゆく。誠意のある研究者なら、インタビューが公開された時点で訂正の動きがあってもよさそうなものだが、それがないということは悪意さえ感じてしまう。しかもお歴々の研究者のなかにはバイブル的な映画史を著しているあのジョルジュ・サドゥールらもいて、ショックな内容でもある。ジョディ・フォスターのテンポのいいナレーションについてゆけないくらい濃密なドキュメンタリー。    
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年7月21日 記 

監督:パメラ・B・グリーン 
ナレーション:ジョディ・フォスター  製作:ロバート・レッドフォードほか
出演:アリス・ギイ=ブラシェ/シモーヌ・ブラシェ/キャサリン・ハードウィック/パティ・ジェンキンス/ジュリー・デルピー/ピータ・ボグダノヴィッチ/ピーター・ファレリー/ジーナ・デイヴィス/ベン・キングズレー/マーティン・スコセッシ/アニエス・ヴァルダ/ジョルジュ・サドゥール/アンリ・ラングロワ  2018 年アメリカ(103分) 
原題:BE NATURAL:THE UNTOLD STORY OF ALICE GUY-BLACHE  配給:パンドラ





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                  『ボイリング・ポイント|沸騰』 BOILING POINT
         2022年7月15日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか全国公開

■クリスマスシーズンの高級レストランを舞台に、家庭問題をこじらせて悩めるシェフらが織りなすてんやわんやの半日を、スピーディーに描いたアンサンブルドラマ。俳優出身でこれが長編映画2作目のフィリップ・バランティーニ監督は、ワンショットの短編を発展させて90分のドラマもワンカットで撮って見せた。

■SYNOPSIS■ クリスマス直近の金曜日。年で一番の繁忙期だというのにロンドンの高級レストランのオーナーシェフ、アンディは気持ちが整わない。妻と別れて家を出た彼は店の事務所に仮住まいをしていて、密かにアルコールに頼る日々を送る。彼の多忙が原因で悪化した息子との関係性も修復できぬままだ。そんな時によりによって、抜き打ち検査の衛生監視官が評価を下げてゆく。下げられたのは彼が管理ファイルの記入を怠ったから。そして6時の開店とともに次々やってくる予約客。なかにはライバル・シェフもいて、人気のグルメ評論家を同伴してきたことがアンディの心をざわつかせる。さらにあろうことか、食物アレルギーの発作で客が倒れる緊急事態発生。

■ONEPOINT REVIEW■ カメラが流れるように厨房やその裏側、そして満席のフロアの間を進んでゆく。フロア係の黒人女性にあからさまな人種差別発言をする白人の男がいる。かと思えば忙しさで鬼気迫る厨房のなかチンタラ働く見習の若い男もいて、これも国民性なのかと。いまのロンドンが舞台とあって、レストランという小宇宙のなかは多様性の見本市のような状態になっている。そういうなかで生きることの難しさも垣間見えてくる。          (NORIKO YAMASHITA)
  2022年7月15日 記 

監督/脚本:フィリップ・バランティーニ 
出演:スティーヴン・グレアム/ヴィネット・ロビンソン/レイ・パンサキ/ジェイソン・フレミング/タズ・スカイラー
2021年イギリス(95分) 原題:BOILING POINT 配給:セテラ・インターナショナル 映倫:PG12
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/boilingpoint/
© MMXX Ascendant Films Limited





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                       『魂のまなざし』 HELENE
            2022年7月15日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

■フィンランドの国民的画家とされるヘレン・シャルフベックのある一時期を切り取り、絵画への飽くなき追及と成功、およびひとりの年下男性への激しい思いにフォーカスして描いたヒューマンドラマ。監督は米国で映画を学び、MV制作などを経て長編映画に進出した地元フィンランド出身のアンティ・ヨキネン。ことしは画家の生誕160年の年にあたり、それを記念しての公開となる。

■SYNOPSIS■ 若き日に才能を認められ、知る人ぞ知る画家のヘレン・シャルフベック。だが中年になったいまは年老いた母親と田舎で隠遁生活を送り、人知れず絵筆を握る。そんなある日、画商のヨースタ・ステンマンがエイナル・ロイターという若い男性を伴って訪れる。エイナルは森林保護官だったがアマチュア画家でもあって、ヘレンの熱烈なファンだった。大量の作品を見つけ出した画商は首都ヘルシンキでの大規模個展を即決し、画家本人が躊躇するのも構わず話を進めてゆく。そしてヘレンとエイナルの交流も始まる。

■ONEPOINT REVIEW■ 160年前の1862年に生まれたヘレン・シャルフベックは、戦後間もなくの1946年に83歳で他界。その50代の数年間をこの映画は描いている。時代背景的には1917年のロシア革命を機にフィンランドが独立した激動の時代と重なるが、ヘレンもまた写実から画風を変え、大規模個展で人気が拡大した時期であり、なによりエイナル・ロイターという「運命のひと」に出会う。映画はヘレンの内に秘めた情熱をときに激しく、ときに静物画のような静けさと美しさで描いてゆく。
               (NORIKO YAMASHITA)
  2022年7月14日 記
監督:アンティ・ヨキネン
出演:ラウラ・ビルン/ヨハンネス・ホロパイネン/クリスタ・コソネン/エーロ・アホ/ピルッコ・サイシオ/ヤルッコ・ラフティ
2020年フィンランド・エストニア(122分)  原題:HELENE  配給:オンリー・ハーツ
公式サイト:http://helene.onlyhearts.co.jp/
©Finland Cinematic





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                  『戦争と女の顔』 DYLDA(BEANPOLE)
         2022年7月15日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

© Non-Stop Production, LLC, 2019

■日本ではコミック版がベストセラーとなって大注目された従軍女性たちの証言集「戦争は女の顔をしていない」。ノーベル賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの代表作だが、本書に衝撃を受けたカンテミール・バラーゴフがオリジナル脚本を書き下ろして撮った監督デビュー作。鬼才アレクサンドル・ソクーロフの教えを受けたという弱冠30歳の超新星は、アカデミー賞国際長編映画賞ロシア代表に選ばれるなどさまざまな賞を受賞。第二次大戦後間もなくのソ連レニングラードを舞台に、心に傷を抱えたまま戦地から帰還したふたりの若い女性の生きざまが描かれる。

■SYNOPSIS■ 時々発作に見舞われながらも病院で看護師として働くイーヤ。患者は主に傷病軍人で、彼らもまた身体だけでなく心に傷を負った人たち。イーヤの心の慰めは、日中は隣人に見てもらいながら育てている幼いパーシュカ。ところが彼女の発作が原因で大きな事故を起こしてしまう。ほどなく戦友のマーシャが訪れる。ふたりは大の親友同士なのにイーヤは合わせる顔がない。パーシュカは彼女の息子だったのだ。マーシャはイーヤを罵りはしなかったものの、あることを企てる。

■ONEPOINT REVIEW■ 戦地では実際に銃を持った女性もいれば、従軍慰安婦のような役回りの者もいた。どこまでもつきまとう男女の格差。そして帰還してみれば、こんどは富めるものとそうでない者との歴然とした差。さらにはPTSD(心の傷の障害)がつきまとう。けれど、シリアスな物語ではあっても若い世代の監督らしいコミカルな笑いがあり、また映画全編を彩る緑と濃い赤を基調にした色彩も奥深く美しい。そして次から次へと起こる想定外のできごと。まるで質のいいタペストリーのごとく織り込まれた物語に、最後までグイグイと引き込まれてゆく。
               (NORIKO YAMASHITA)
  2022年7月11日 記

監督/脚本:カンテミール・バラーゴフ  共同脚本:アレクサンドル・チェレホフ
原案:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ「戦争は女の顔をしていない」(岩波現代文庫) 
出演:ヴィクトリア・ミロシニチェンコ/ヴァシリサ・ペレリギナ/アンドレイ・ヴァイコフ、イーゴリ・シローコフ
2019年ロシア(137分)  原題:DYLDA(BEANPOLE) 映倫:PG12
配給:アット エンタテインメント   公式サイト:https://dyldajp.com/  





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                 『キャメラを止めるな!』 COUPEZ!(FINAL CUT)
        2022年7月15日(土)から日比谷・TOHOシネマズシャンテ/渋谷シネクイントほか全国公開

© 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

■評判が評判を呼び大ヒットした超低予算映画『カメラを止めるな!』。「カメ止め」の愛称で社会現象にまでなった日本映画が、海を越えてフランスでリメイク。オリジナルをひと捻りした脚本を書きメガホンをとったのは、『アーティスト』でアカデミー賞を席巻したミシェル・アザナヴィシウス監督。ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョら地元のスター俳優をキャスティングしているほか、オリジナル版で注目された竹原芳子も出演し、フレンチ風スラプスティック・コメディーとして楽しませてくれる。

■SYNOPSIS■ 人里離れた廃墟でゾンビ映画を制作中のヒグラシは、俳優たちの大根ぶりとクルーのやる気のなさにブチ切れ。だがそこに本物のゾンビがあらわれて現場は大混乱。逃げ惑う女優の姿を見て、これだよこれとヒグラシは大満足する。
そんな三流ゾンビ映画の撮影を映画監督のレミーが依頼されたのは1か月前のこと。一度は断るものの、娘のお気に入りの俳優がキャスティングされているという情報を妻から聞いて心変わり。近ごろ少しも相手にしてくれない映画監督志望の娘の気を引くには絶好のチャンスだったのだ。だがこのゾンビ映画には制約が色々あって、なかでも難題は30分間カメラを回し続けながらTVで生中継せよという注文だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 幼いころは肩車だってさせてくれたのにいまでは交流ゼロ。映画監督志望なのは自分の影響もあるはずなのに尊敬のかけらもない。そんな娘と少しでもつながりたい一心で、レミーはとんでもないゾンビ映画の監督を引き受けてしまう。ドタバタ調のゾンビ映画の形を借りた、ほっこりするような家族の物語でもある。
               (NORIKO YAMASHITA)  
  2022年7月9日 記


監督/脚本:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ロマン・デュリス/ベレニス・ベジョ/グレゴリー・ガドゥボワ/フィネガン・オールドフィールド/マチルダ・ルッツ/竹原芳子  
2022年フランス(112分)  原題:COUPEZ!(FINAL CUT)  配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/cametome/  公式twitter:@finalcut2207





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                      『WANDA/ワンダ』 WANDA
           2022年7月9日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開


■夫から離縁され、生きる糧もなく、行きずりの男に頼って過ごす女。街をさまようなか、犯罪者と出会ったことから思いもよらない事件に巻き込まれてゆく。
1970年のヴェネチア映画祭で最優秀外国映画賞を受賞し、翌71年のカンヌでは唯一の米国作品として上映されたにもかかわらず、本国ではニューヨークのわずか一軒の映画館で一週間上映されて葬られた幻の作品。マルグリット・デュラスやイザベル・ユペールらの熱烈支持もあり、再発掘、再上映の機運が高まるなかの本邦初公開。女優バーバラ・ローデンの初監督にして遺作となった、魂の一作。

■SYNOPSIS■ ペンシルベニア州の田舎町に暮らす主婦のワンダ・ゴロンスキー(バーバラ・ローデン)。夫から離婚を突きつけられ、離婚訴訟があった裁判所からの帰り道に縫製工場に寄ってみるが、お前は仕事がのろいからと再雇用を断られる。ふらりと入ったバーで見知らぬ男にビールをおごられそのままモーテルへ。だがわずかビール一杯で男に逃げられてしまう。街をさまよい、とあるバーで出会った店主と思しき男(マイケル・ヒギンズ)。男の正体が次第に知れてくる。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画のもとになった実在の事件があり、ワンダのモデルになった実在の女性がいる。その女性と同じように貧しい子ども時代を送ったというバーバラ・ローデンは、自分の身の上を彼女に重ね、ワンダの内面を理解することが自分自身を知ることと考える。当初脚本は、1966年からバーバラが乳がんで亡くなる1980年まで夫だった巨匠エリア・カザン監督が書いたが、結果的にすべて彼女が書き換えた。アメリカン・ニューシネマ真っただ中の1970年、こんなにチャーミングで心に迫る作品があったとは。            (NORIKO YAMASHITA)
 2022年7月4日 記

監督/脚本/出演:バーバラ・ローデン 制作協力:エリア・カザン
出演:マイケル・ヒギンズ/ドロシー・シュペネス/ピーター・シュペネス/ジェローム・ティアー1970年アメリカ(103分)  原題:WANDA  配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:http://wanda.crepuscule-films.com/
© 1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS






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               『わたしは最悪。』 THE WORST PERSON IN THE WORLD
 2022年7月1日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマ/ヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテほか全国順次公開

■優秀な成績を収めそのまま行けば安定路線に乗れるはずがそうはせず、男性とのつき合いにも迷いが生じて乗り換えてしまう。理想と現実、人生の転換期に立つひとりのアラサー女性を、『母の残像』『テルマ』のヨアキム・トリアー監督が故郷ノルウェー・オスロの街を舞台に描いた。主演のレナ―テ・レインスヴェのために書かれたという脚本。彼女はこの演技でカンヌ映画祭の女優賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 成績優秀で医者にだってなれたユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)だが、敢えてドロップアウト。フォトグラファーだのなんだのとやりたいことが次々出てくるものの、これといった道が定まらない。そんなある日、年上のグラフィックノベル作家アクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と出会い意気投合。つき合い始めるものの、子どもを欲しがる彼に違和感を感じてしまう。そしてある夜、ふらりと紛れ込んだパーティでアイヴァン(ヘルベルト・ノルドルム)という若い男性と知り合う。
 
■ONEPOINT REVIEW■ 「わたしは最悪。」(英題はTHE WORST PERSON IN THE WORLD)というタイトルから察して、もっと自虐的なアクの強い話かと思えばそうではなく、仕事も男性も自分にもっと合った別のなにかがあるのではと、突き進む若い女性の結構あっけらかんとした話だった。安定路線には乗らずに自由に生きたい。そこにトリアー監督言うところのロマンチック・コメディ的な側面も持たせながら、さらにお洒落なオスロの街を舞台に描いた、スタイリッシュな作品なのだった。
                 (NORIKO YAMASHITA)
 2022年6月30日 記

監督/共同脚本:ヨアキム・トリアー  共同脚本:エスキル・フォクト
出演:レナーテ・レインスヴェ/アンデルシュ・ダニエルセン・リー/ヘルベルト・ノルドルム
2021 年ノルウェー=フランス=スウェーデン=デンマーク
英題:THE WORST PERSON IN THE WORLD  配給:ギャガ
© 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel ‒ ARTE FRANCE CINEMA





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              『あなたの顔の前に』 당신 얼굴 앞에서(IN FRONT OF YOUR FACE)
   2022年6月24日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテ/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

■異国アメリカに渡って久しい元女優がふるさと韓国に帰郷、妹や甥夫婦と再会し、幼いころの思い出の地も訪れる。突然の帰国の理由は何なのか。そのわけと心の機微を繊細にミステリアスに描いてゆく異才ホン・サンス監督最新作。多作で知られる同監督の26作目になるが、ベルリン国際映画祭銀熊賞(脚本賞)受賞の25作目『イントロダクション』と同時公開となる。

■SYNOPSIS■ 眠っている妹ジョンオク(チョ・ユニ)の手にそっと触れてみるサンオク(イ・ヘヨン)。アメリカ暮らしが長く久しぶりの帰郷となった彼女は、ソウルにある妹のマンションに滞在中なのだ。街なかを軽く散歩してから、池が広がる美しいカフェで昼食をとるふたり。ジョンオクは音信不通だった姉に帰ってきた理由を尋ねてみるが、会いたくなったからと答えるばかり。妹と一旦別れたサンオクは、約束していた初対面の映画監督のもとに向かうと、その映画監督(クォン・ヘヒョ)は女優時代の彼女の熱烈なファンで、映画を撮らせてくれないかとオファーされる。

■ONEPOINT REVIEW■ ホン・サンス監督が毎度楽しませてくれる奥ゆかしく微妙なタッチのユーモアとアイロニー。余計なものをそぎ落とした簡潔な語り口も健在だが、主役サンオクを演じたイ・ヘヨンとの初コラボとなった本作では、彼女の内に秘めた感情が静かなエモーションとなって迫ってくる。そして儚く繊細で美しいエンディングも。                (NORIKO YAMASHITA)
 2022年6月26日 記

監督/脚本:ホン・サンス
出演:イ・ヘヨン/チョ・ユニ/クォン・ヘヒョ/シン・ソクホ/キム・セビョク/ハ・ソングク/ソ・ヨンファ/イ・ユンミ/カン・イソ/キム・シハ
2021年韓国(85分)  
原題:당신 얼굴 앞에서(IN FRONT OF YOUR FACE)
配給:ミモザフィルムズ  公式サイト:https://www.mimosafilms.com/hongsangsoo/ 
© 2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved





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                  『母へ捧げる僕たちのアリア』 MES FRERES ET MOI
                2022年6月24日(金)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

■苦しい生活のなか、昏睡中の母を3人の兄とともに自宅で看病する少年。母と亡き父の思い出のオペラアリアを母に聞かせるのが日課になっているが、ほんもののオペラ歌手との出会いが、思いもよらなかった人生へと彼を導いてゆく。俳優と舞台演出の経験のあるヨアン・マンカ監督による長編映画デビュー作。

■SYNOPSIS■ 海沿いの町にある公営住宅で、3人の兄と母を看病しながら暮らす中学生のヌール(マエル・ルーアン=ベランドゥ)。日課は亡き父と母を結んだパヴァロッティのオペラアリアを母に聞かせること。眠ったままの母がこれを聞いて目覚めるのを願っているのだ。ある日、中学校で社会奉仕作業をしていると聞き覚えのある歌声が。思わず引き込まれのぞいてみると、パヴァロッティの映像を教材に使った歌のレッスンが行われていた。有名なオペラ歌手、らしいサラ(ジュディット・シュムラ)という女性が教えていて、ヌールはその場で歌わせられる羽目に。そしてなぜか「椿姫」の楽譜を渡されレッスンに通うように言われる。

■ONEPOINT REVIEW■ 3人の兄はそれぞれに色がついているが、末っ子のヌールは〝まっさら〟。ふつうで言うと思春期真っ盛りで色気に走るお年頃でもあるが、幼く見える彼にはそれもまだなく、ひたすら白いキャンバスが初々しい。オペラ因子がどこかにあるとするなら父親がパヴァロッティと同郷らしく、歌自慢でもあったことか。ちなみにマンカ監督の公私のパートナーと言われるサラ役の女優ジュディット・シュムラはオペラ歌手でもあって、監督は彼女の「椿姫」を聴いてオペラのとりこになった(恋に落ちた?)という。         (NORIKO YAMASHITA)
 
2022年6月24日 記

監督/脚本:ヨアン・マンカ
出演:マエル・ルーアン=ベランドゥ/ジュディット・シュムラ/ダリ・ベンサーラ/ソフィアン・カーメ/モンセフ・ファルファー
2021年フランス(108分)  原題:MES FRERES ET MOI
配給:ハーク  公式サイト:https://hark3.com/aria/
© 2021 – Single Man Productions – Ad Vitam – JM Films





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                      『ベイビー・ブローカー』 BROKER
                2022年6月24日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

■赤ちゃんポストのある施設で働く青年と、その知り合いで借金に追われる男。ふたりの裏の顔は赤ん坊を内密裡に取引するブローカー。彼らの犯罪行為を追う刑事、心変わりして赤ん坊を取り戻そうとする母親らが交差して描かれるヒューマンドラマ。『万引き家族』がカンヌでパルムドール受賞後にフランスで『真実』を撮った是枝裕和監督が、こんどは韓国を舞台に韓国の俳優&スタッフでつくった韓国作品。ソン・ガンホやカン・ドンウォン、ぺ・ドゥナら、是枝監督旧知の日本でもおなじみの俳優が顔をそろえている。

■SYNOPSIS■ 借金の返済に追われるクリーニング店の店主サンヒョン(ソン・ガンホ)は、赤ちゃんポストがおかれた施設で働く養護施設出身の青年ドンス(カン・ドンウォン)とともに、捨てられた子を盗み出して売買する闇の顔を持つ。そんな彼らをなんとか現行犯逮捕しようと尾行するスジン刑事(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)。だがポストに預けた若い母親ソヨン(イ・ジウン)が心変わりしたことから、話は奇妙な方向に進んでゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 『誰も知らない』に代表されるように、幸の薄い子どもたちを方々で描いてきた是枝監督。今回は母親に捨てられた挙句に売り買いされる子どもの話だが、周囲が好人物ばかりなので悲惨さはあまりない。むしろ心配なのは血縁がプツンと切れていて心寂しい大人たち。『万引き家族』に通じる世界だ。
                  (NORIKO YAMASHITA) 
2022年6月20日 記


監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:ソン・ガンホ/カン・ドンウォン/ペ・ドゥナ/イ・ジウン/イ・ジュヨン 
2022年韓国(130分)  原題:BROKER  配給:ギャガ
ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED





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                           『PLAN 75』
                 2022年6月17日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開


■高齢化が進むなか政府が打ち出した対策は、75歳を境に自分の生死を選べる「PLAN 75」計画。選択を迫られ追い詰められる老人たちと、計画に携わる若者世代の心模様を描いた人間ドラマ。オムニバス作品『十年 Ten Years Japan』(2018年)内の同名短編『PLAN 75』をふくらませて初の長編に挑戦した早川千絵監督。本作はことし、第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、カメラドール特別表彰を受けている。

■SYNOPSIS■ 夫と死別し、いまはホテルの客室清掃の仕事をしながらひとり暮らしをしている角谷ミチ(倍賞千恵子)78歳。ちまたでは〝尊厳死〟を選べる「PLAN 75」が話題になっていたが、自分はまだまだ働ける。そう思っていた矢先に高齢を理由に解雇され、再就職先が見つからず、住居の更新もままならないという負の連鎖に陥ってゆく。一方、公務員として「PLAN 75」の業務に携わる岡部ヒロム(磯村勇斗)は窓口にやってくる老人たちを明るく迎え、粛々と仕事をこなす毎日。そこにある日、疎遠となっていたいまは亡き父の兄弟が訪れる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 尊厳死の権利を訴える動きが欧米を中心にあって、『母の身終い』『92歳のパリジェンヌ』といった映画にもなっている。それはそれで議論の余地大いにありだが、国が主導して推奨するとなると話はまったく違ってくる。選択肢はあなたにまかせますよと言っている一方で、あなたはもういりませんからいつでも死んでくださいとも言っているのだから。なんと冷たい政策だろう。個人を無視してものごとを進めてゆくと、ひとつ間違えばえらいことになるという身近なデストピア世界。
                
(NORIKO YAMASHITA)  2022年6月20日 記

監督/脚本:早川千絵   
出演:倍賞千恵子/磯村勇斗/たかお鷹/河合優実/ステファニー・アリアン/大方斐紗子/串田和美
2022年日本=フランス=フィリピン(110分)  配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/plan75/
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee





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                 『ポーランドへ行った子どもたち』(ドキュメンタリー) 
                 2022年6月18日(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開

写真大:チュ・サンミ監督(右)とイ・ソン
写真小上から:現在は廃墟となった受け入れ先の教会
/映像に残された当時の子どもたちのようす
/子どもたちに教えていた生き証人の元教師

■朝鮮戦争のさなか、北朝鮮からポーランドに送り込まれた1500人もの戦争孤児たち。なにを目的に、そして子どもたちはどうなったのか?
知られざる真相をつき止めようとメガホンをとったのは、育児で休業中に映画の演出を学んだ韓国の女優チュ・サンミ。脱北者の学生イ・ソンを同伴して撮った、サンミ初の監督作品。

■SYNOPSIS■ 女優のチュ・サンミは、ポーランドで制作されたドキュメンタリー映像と小説をベースにシナリオを書き、初めて手がけるドキュメンタリー映画の舞台、ポーランドに向かう。同行するのは、2014年に北朝鮮から韓国に逃れ、いまは脱北者学校で学ぶ女優志願のイ・ソン。ふたりはプワコビツェという小さな村に降り立つが、そこは1950年代初頭、1200人とも1500人ともいわれる戦争孤児たちが、北朝鮮から送り込まれた地だった。薄汚れた白い衣服をまとった子どもたちはシラミや垢にまみれ、身体のなかは寄生虫だらけ。だが不思議なことに寄生虫の種類から北の子どもだけではなく南の子どもも含まれていることが判明する。そんな子たちをポーランドのひとたちは優しく迎え入れ学ばせるが、数年後のある日、北朝鮮から帰還命令が出される。

■ONEPOINT REVIEW■ このドキュメンタリーが心を揺さぶるのは、戦争の犠牲者となった孤児たちの哀しみからだけではない。彼らを心から慈しみ愛したポーランドのひとたち。彼らもまた数年前には、アウシュヴィッツという地獄をすぐそばで見聞きし、あるいは体験してきた国民なのだ。子どもたちを心底可愛がり、しかし北朝鮮の要請で泣く泣く送り帰したようすが、過去と現在の映像から伝わってくる。
                (NORIKO YAMASHITA) 
 2022年6月13日 記

監督:チュ・サンミ  
出演:チュ・サンミ/イ・ソン
ヨランタ・クリソヴァタ/ヨゼフ・ボロヴィエツ/ブロニスワフ・コモロフスキ(ポーランド元大統領)/イ・へソン(ヴロツワフ大学韓国語科教授)/チョン・フンボ(ソウル大学言論情報学科 教授)
配給:太秦
公式サイト:http://cgp2016.com/  公式Twitter :@cgpoland2016
©2016. The Children Gone To Poland.





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       『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』 THE STORY OF FILM:A NEW GENERATION
              2022年6月10日(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開

写真上からマーク・カズンズ監督、ロサンゼルスのハリウッドサイン裏側、スペイン・マドリードのシネマテーク

■映画が生まれて125年あまり。毎年数えきれない数の作品が製作されるなか、過去11年間につくられた映画を中心に、それ以前のものも加えた111作品で映像表現の発展、および映画のいまを示して見せる批評精神あふれるドキュメンタリー。つくったのは北アイルランド出身のドキュメンタリー作家マーク・カズンズ57歳。

■SYNOPSISにかえて■ 映画番組のMCやインタビュアー、映画祭の裏方と幅広い活動を重ねてきたマーク・カインズ監督。2004年には著書「THE STORY OF FILM」を著し、2011年にはその映像版と言える同名のテレビシリーズをJAIHOから配信。さらに10年後に生まれたのが本映画作品。メディアを超えた「THE STORY OF FILM」シリーズの続編であり最新作ということになる。

■ONEPOINT REVIEW■ 『ジョーカー』『アナと雪の女王』と、タイプのちがうふたつのハリウッド人気作ではじまり、作家性が強いタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督『光りの墓』やボリウッド作品『PKピーケイ』へとつないでゆく。さらにオリヴィア・ワイルドの自虐コメディ『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』があるかと思えば、ジョシュア・オッペンハイマー監督『アウト・オブ・キリング』のようなシリアスなドキュメンタリーもあり、製作国もジャンルも異なるのにそれらは実にスムーズにつながれてゆく。そのいくつかには新たな技術の革新が見られ、多くに共通するのは大いなる熱量と確固たるポリシー。
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年6月10日 記

監督/脚本/ナレーション:マーク・カズンズ 音楽: ポール・ウィルソン
出演:アニエス・ヴァルダ/チャールズ・バーネット/アリ・アスター/シャンタル・アケルマン
2021年イギリス(167分)
原題:THE STORY OF FILM:A NEW GENERATION 配給:JAIHO
公式サイト:https://storyoffilm-japan.com/  Twitter:@JaihoTheatre
© Story of Film Ltd 2020





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        『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』 FABIAN - GOING TO THE DOGS
             2022年6月10日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

■ナチスの影が忍び寄る混沌とした世相のベルリンを舞台に、人生の岐路に立つ作家志望の青年の迷える青春の日々を描いた人間ドラマ。
原作は「飛ぶ教室」など児童文学で知られるエーリヒ・ケストナー。彼が書いた大人向け長編小説「ファビアン あるモラリストの物語」を、ベテランながら本邦初登場ドミニク・グラフ監督で映画化。ドイツの男女人気俳優、トム・シリングとザスキア・ローゼンダールが主役ファビアンとその恋人を演じている。

■SYNOPSIS■ 1931年、世界恐慌さなかのドイツ・ベルリン。ドレスデンから出てきた作家志望でコピーライターのファビアン(トム・シリング)は、悪友ラブーデ(アルブレヒト・シューフ)と夜な夜な退廃的な世界を遊び歩く毎日。ラブーデは金持ちの放蕩息子だが、世界変革を夢見る活動家でもあった。ある日、ファビアンは女優を目指すコルネリア(ザスキア・ローゼンダール)と出会いふたりはたちまち恋に落ちる。だが勤務態度の悪い彼は会社をクビになり、失業者であふれかえる職安に足を運ぶ羽目に。一方、有名監督に目をかけられ、しだいにファビアンから離れていくコルネリア。そうしたなかラブーデに事件が起きる。

■ONEPOINT REVIEW■ 現在のとある地下鉄駅構内を、カメラがくぐり抜け階段を上ってゆくと、そこには境目なく90年前のベルリン市内が広がる。青春の輝きも時代の危うさもすべてが地続きとなっている過去といま。
グラフ監督は寄稿文のなかである戯曲のセリフを引用してこう語っている。「愛が欲しい、お金も必要」――これは若者たちにとって真実をついている言葉だと。スターへの階段を欲しがるコルネリアを責めることはできない。生きるためにもがく、愛おしい青春がここにある。        (NORIKO YAMASHITA)
  2022年6月6日 記


監督/共同脚本:ドミニク・グラフ  共同脚本:コンスタンティン・リープ
原作:エーリヒ・ケストナー「ファビアン あるモラリストの物語」(みすず書房)
出演:トム・シリング/ザスキア・ローゼンダール/アルブレヒト・シューフ/ミヒャエル・ヴィッテンボルン/ペトラ・カルクチュケ/エルマー・グートマン/アリョーシャ・シュターデルマン/アンネ・ベネント/メレット・ベッカー
2021年ドイツ(178分) 英題:FABIAN - GOING TO THE DOGS
配給:ムヴイオラ
公式サイト:http://moviola.jp/fabian/





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                  『ニューオーダー』 NUEVO ORDEN(NEW ORDER)
            2022年6月4日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

■貧富の差が人びとを断絶させるなか、貧民層の怒りが爆発して大暴動が勃発。秩序が崩壊し狂気が蔓延してゆく世界を、スリリングに描いた社会派サスペンス。監督と脚本は『或る終焉』などの衝撃作を連発してきたメキシコの気鋭ミシェル・フランコで、2020年(第77回)のヴェネチア映画祭銀獅子賞(審査員大賞)を受賞。

■SYNOPSIS■ 結婚披露パーティーが華やかに行われている高級住宅街の一角。花嫁のマリアンは幸せのさなかにあったが、街のほうでは格差社会に対する抗議デモが行われ暴徒化してゆく。そんななか、妻の手術費用の立替を頼みに来たかつての従業員を門前払いする父や兄。それを見た心優しいマリアンは、助けてあげたい一心で披露宴を抜け出し車で元従業員のもとに向かうが、彼女が踏み込んだのはもはや怒りの対象も定かではない欲得が噴き出した狂気の世界だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 役人に賄賂をわたし財を成してきた富裕層と、彼らを襲撃してその財産を片っ端からうばう暴徒たち。たがいの立場は真逆だが、優位に立った途端に私利私欲に走るその構図は同じだ。一方やるせないのは、マリアンをはじめ善行を行ったばかりにとんでもない目に遭う者たち。サド風に言うと悪徳の栄え、美徳の不幸か。この近未来的デストピアは、間違いなく現実世界と地続きになっている。
                  (NORIKO YAMASHITA)
 2022年6月1日 記


監督/脚本:ミシェル・フランコ
出演:ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド/ディエゴ・ボネータ/モニカ・デル・カルメン
2020年メキシコ=フランス(86分)  原題:NUEVO ORDEN(NEW ORDER)
配給:クロックワークス  
公式サイト:https://klockworx-v.com/neworder/
© 2020 Lo que algunos soñaron S.A. de C.V., Les Films dʼIci





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             『オフィサー・アンド・スパイ』 J'ACCUSE(AN OFFICER AND SPY)
               2022年6月3日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■反ユダヤ主義を背景に、国家ぐるみのスパイ冤罪事件に発展した「ドレフュス事件」の真相を掘り起こす歴史サスペンス。数々のスキャンダルにまみれながらも創作意欲の衰えない長老ロマン・ポランスキー監督の最新作で、ヴェネチア映画祭銀獅子賞(審査員大賞)やセザール賞監督賞ほかを受賞し、地元フランスで大ヒットした。『ゴーストライター』でポランスキー監督とコンビを組んだロバート・ハリスが原作を書き共同脚本も手がけている。

■SYNOPSIS■ 1894年12月、フランス陸軍大尉であるユダヤ人アルフレッド・ドレフュス(ルイ・ガレル)はドイツに機密文書を流した疑いで終身刑となり、一貫して無実を叫ぶも翌年仏領ギニア沖の悪魔島に幽閉される。一方、彼の陸軍士官学校時代の教官だったピカール少佐(ジャン・デュジャルダン)は防諜の要である情報局の局長に任命されるが、そこの風紀は乱れ怪しげな調査が行われていた。そんななか、筆跡などわずかなドレフュス事件の証拠品を見て、違和感と不信感が芽生え始める。

■ONEPOINT REVIEW■ 歴史的に有名だが、じつは地元フランスのひとたちでさえその真実をよく知らない事件をピカールというひとりの軍人の視点から描いてゆく。この時代、常識のようにはびこる反ユダヤ主義が彼の心の中にもあったかどうか。しかし正義感が勝り真実を追求してゆく。いつもはニヤけた役がお似合いのデュジャルダンが、終始きりっとした面持ちで演じている。(NORIKO YAMASHITA)
 2022年5月30日 記

監督/共同脚本:ロマン・ポランスキー 原作/共同脚本:ロバート・ハリス
出演:ジャン・デュジャルダン/ルイ・ガレル/エマニエル・セニエ/グレゴリー・ガドゥボワ/マチュー・アマルリック/ヴァンサン・ペレーズ/メルヴィル・プポー
2019年フランス=イタリア(131分)  原題:J’ACCUSE(AN OFFICER AND SPY)
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/officer-spy/
© 2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEO CINÉMA-RAICINÉMA © Guy Ferrandis-Tous droits réservés





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                   『帰らない日曜日』 MOTHERING SUNDAY
     2022年5月27日(金)から新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町/シネ・リーブル池袋ほか全国公開



■メイドから作家になった女性が、人生の転機となった大切な一日を自作の小説を通してふり返る愛のドラマ。英国のブッカー賞作家グレアム・スウィフトが、〝最良の創造的文学作品〟に授与されるホーソーンデン賞を受賞した「マザリング・サンデー」を、『バハールの涙』のエヴァ・ユッソン監督で映画化。注目の若手ライター、アリス・バーチが脚本を手がけている。
主役はオーストラリア出身の新星オデッサ・ヤング。共演は『ゴッズ・オウン・カントリー』以来躍進著しいジョシュ・オコナー。さらにコリン・ファース、オリヴィア・コールマン、そしてグレンダ・ジャクソンと豪華なメンツが顔をそろえている。

■SYNOPSIS■ 第一次大戦の傷跡が残る1924年3月、英国のとある日曜日。この日はメイドたちが里帰りできる「母の日」だが、ニヴン家に仕える孤児院育ちのジェーンに帰る家などない。そこに電話がかかってきて彼女が出ると、相手はシェリンガム家の跡取り息子ポールで自分との密会の連絡だった。身分も立場もちがう者同士の恋。おまけにポールにはエマという婚約者がいて、この日は前祝いの日。だがエマはもともと戦死したニブン家の息子ジェームズの恋人。結婚は親同士が決めたものだった。ジェーンの身が自由になるこの日、ポールは彼女との逢瀬を選択したのだ。

■ONEPOINT REVIEW■ 主人とメイドの禁断の恋、的なねっとりした悲恋になるかというとそうはならない。主従関係のなかでの悪しき習慣を匂わせつつそうならないのは、天涯孤独でしかも時代の転換期にいたジェーンが、自立した女性だったからだろう。あの一日のことを冷静にふり返る目を持った彼女は、だからこそ作家として大成する。そしてそして、イギリス映画界、演劇界の宝(!)グレンダ・ジャクソンが久々に登場して、ジェーンの晩年を演じている。(NORIKO YAMASHITA)
  2022年5月24日 記 

監督:エヴァ・ユッソン  脚本:アリス・バーチ
原作:グレアム・スウィフト「マザリング・サンデー」(新潮クレスト・ブックス)
出演:オデッサ・ヤング/ジョシュ・オコナー/コリン・ファース/オリヴィア・コールマン/エマ・ダーシー/ショぺ・ディリス/グレンダ・ジャクソン
2021年イギリス(104分)R-15  原題:MOTHERING SUNDAY  配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/sunday/
© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021





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                   『ハケンアニメ!』 HAKEN ANIME!
                    2022年5月20日(金)から全国公開

人気アニメ作家VS新人アニメ作家、視聴率を制するのはどちらの作品か。その覇権(ハケン)争いと、携わるひとたちの人間模様を描いた辻村深月の人気小説を、吉岡里帆×中村倫也共演で映画化。監督はCMやアニメ制作に関わってきた吉野耕平監督で、これが長編映画2作目となる。

■SYNOPSIS■ 公務員という安定路線を捨てアニメ業界に飛び込んだ斎藤瞳(吉岡里帆)、TV局が力を入れる新作アニメ「サウンドバック 奏の石」の監督に大抜擢される。数々のヒット作を放ってきたプロデューサーの行城理(柄本佑)が目を光らせるが、視聴率第一主義の彼と作家気質の瞳に接点はなく衝突が絶えない。
一方、対抗馬となるのは伝説の天才クリエーター、王子千晴(中村倫也)の復帰作「運命戦線リデルライト」。引退状態だった彼をふたたび表舞台に引っ張り出したのはやり手プロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)だったが、気まぐれな王子にふり回される。

■ONEPOINT REVIEW■ 実写部分に巧みに入り込んでくるアニメ作品自体のクオリティが高く、実写とのからみ具合も絶妙でアニメ愛が強く感じられる。吉野耕平監督はCGアーティストとして『君の名は。』などのアニメ作品にも参加してきたひと。ここではアニメ業界の実力派クリエーター、人気声優が多数参加して作品を支えている。
                 (NORIKO YAMASHITA)
 2022年5月17日 記


監督:吉野耕平  脚本:政池洋佑  原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス)
音楽:池頼広 主題歌:ジェニーハイ「エクレール」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
出演:吉岡里帆/中村倫也/工藤阿須加/小野花梨/高野麻里佳/六角精児/柄本 佑/尾野真千子
2022年日本(127分) 配給:東映
公式サイト:https://haken-anime.jp/  公式SNS:@hakenanime2022
© 2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会





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                『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』 MILITARY WIVES
    2022年5月20日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、同渋谷/グランドサンシャイン池袋ほか全国順次公開

■原題は「MILITARY WIVES」。基地で暮らす軍人の妻たちが、パートナーを戦地に送り出したあといかに結束して家庭をまもってゆくか。試行錯誤するなかで合唱団を結成して活動するようすを、笑いと涙で描いたコミカルなヒューマンドラマ。実際にあった話を『フル・モンティ』のピーター・カッタネオ監督、クリスティン・スコット・トーマス×シャロン・ホーガンという英国のベテラン女優ふたりの共演で映画化。

■SYNOPSIS■ 2009年英軍基地。アフガニスタン紛争の戦況悪化でさらなる派兵が決まり、基地は緊張に包まれていた。負傷や失命が現実のものになっていたからだ。そんななか、銃後の家庭を守る妻たちのリーダー格リサ(シャロン・ホーガン)をサポートしようと、上役にあたる大佐の妻ケイト(クリスティン・スコット・トーマス)が割って入ることに。リーダーシップを発揮すればするほど煙たがられるケイト。しかし効果もあって、合唱団をつくり活動をスタートさせる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 基地は自治区のようになっていて、中では序列が歴然としている。いちばんはっきりしているのが恐らく住居で、大佐の妻であるケイトは一兵卒の妻サラの住まいがあまりにも簡素でおどろきを隠せない。けれでそのわりにはおたがいの関係はフランクで、そこが日本とは大きく違うところかもしれない。カッタネオ監督のヒット作『フル・モンティ』もそうだったが、立場や意見の違いを乗り越えてひとつの物をつくり上げてゆく充実感がここにはある。
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年5月16日 記

監督:ピーター・カッタネオ
出演:クリスティン・スコット・トーマス/シャロン・ホーガン/ジェイソン・フレミング/グレッグ・ワイズ/エマ・ラウンズ/ギャビー・フレンチ/ララ・ロッシ/インディア・リア・アマルティフィオ/エイミー・ジェイムズ・ケリー
2019年イギリス(112分) 原題:MILITARY WIVES  配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://singasong-movie.jp/
© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019





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                     『流浪の月』 RUROUNOTSUKI
               2022年5月13日(金)から TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開


■15年前に世間を騒がせた女児誘拐事件。加害者の青年と成人した被害者の不思議な絆を描いたヒューマン・ミステリー。本屋大賞受賞の凪良ゆうのベストセラーを、『悪人』『怒り』の李相日監督が脚本化して映画化。『バーニング』や『パラサイト 半地下の家族』の韓国の撮影監督、ホン・ギョンピョが参加しているのも話題。

■SYNOPSIS■ 行き場がなく雨のなか公園でひとり本を読む少女、更紗。声をかけたのは大学生の文(ふみ)だった。そのまま静かな共同生活を送るが、世間では女児誘拐事件として大騒動となり、発見されたふたりは引き離されて15年が経過する。
中瀬(横浜流星)というサラリーマンと同棲し、まもなく結婚予定の更紗(広瀬すず)。中瀬は生活力がある反面、彼女を支配下に置こうとするような男。更紗はある日、仕事先の同僚に誘われて隠れ家的なカフェを訪れるが、そこでコーヒーを出してくれたのはあの文(松坂桃李)だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 更紗と文の再会は50年前のリリアーナ・カバーニの名作『愛の嵐』のルチア(シャーロット・ランプリング)とマックス(ダーク・ボガート)をふと思わせる。だが決定的に違うのは、そこに性的なエモーションが介在するかしないか。文はある悩みを自分のなかで闇として抱え込み、更紗は子どものころの嫌な体験がトラウマとなって体に染みついている。それはこの作品を裏側で支える核の部分でもある。              
                  (NORIKO YAMASHITA)
 2022年5月8日 記 

監督/脚本:李相日  原作:凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社)
出演:広瀬すず/松坂桃李/横浜流星/多部未華子/趣里/三浦貴大/白鳥玉季/増田光桜/内田也哉子/柄本明
2022年日本(150分)  配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/  © 2022「流浪の月」製作委員会

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                『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』 MY SALINGER YEAR
   2022年5月6日(金)から新宿ピカデリー/渋谷・Bunkamuraル・シネマ/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

■文豪たちの代理業務を多数手がける老舗出版エージェンシーに就職し、J.D.サリンジャー担当者のアシスタントをすることになった作家志望の若い女性。職場での日々と私生活を描いた青春物語。ジョアンナ・ラコフの自伝的小説を、彼女自身の助言を得ながらカナダのファラルドー監督が脚本化し映画化している。

■SYNOPSIS■ 西海岸に恋人を置いて、生まれ故郷ニューヨークで作家を目指すことにしたジョアンナ(マーガレット・クアリー)。1995年のある日、仕事を得ようと職業紹介所に行くと、勧められたのは老舗の出版エージェンシー。面接に行くと迎えてくれたのは気難しそうな幹部社員のマーガレット(シガニー・ウィーバー)で、いくつか質問されただけですんなり採用。さっそくアシスタントをすることになるが、受け持ちはなんとあの隠遁生活を送る伝説の作家、J.D.サリンジャーだった。とは言え、ジョアンナが好んで読むのはおもに古典作品、サリンジャーは一度も読んだことがなかったのだ。

■ONEPOINT REVIEW■ 1995年というとワープロからパソコンへという時代だが、このエージェンシーはパソコンはおろかワープロもなく、主戦力はタイプライター。テープ起こしのための不思議な機器も登場して、この会社の「個性」を浮き彫りにしてゆく。そんななかで主人公が任されたおもな仕事はサリンジャーへのファンレターへ定型の返事を書くこと。だがジョアンナは手紙の一つひとつに感情移入してしまう。
                  (NORIKO YAMASHITA)
  2022年5月3日 記

監督/脚本:フィリップ・ファラルドー
原作:ジョアンナ・ラコフ 「サリンジャーと過ごした⽇々」(柏書房)
出演:マーガレット・クアリー/シガニー・ウィーバー/ダグラス・ブース/サーナ・カーズレイク/ブライアン・F・オバーン/コルム・フィオール   
配給:ビターズ・エンド  
2020年アイルランド=カナダ(101分) 原題:MY SALINGER YEAR
配給:ビターズ・エンド
9232-2437 Québec Inc - Parallel Films (Salinger) Dac © 2020 All rights reserved.





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                        『マイスモールランド』
                 2022年5月6日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開

■父、妹、弟とともに幼いころに日本に逃れ、埼玉の高校に通うクルド人のサーリャ。ある日、難民申請が却下され、無許可で働いていた父が収監、子どもたちも就労はおろか移動などさまざまな行動制限がかけられる。メガホンをとったのは、是枝裕和や西川美和ら日本を代表する映画人が在籍する「分福」の新鋭、川和田恵真監督。英国人と日本人のダブルという出自を生かし、みずから脚本も書いている。

■SYNOPSIS■ 容貌は周囲と違うものの流ちょうな日本語を話し、埼玉の高校に通うサーリャ17歳。仲のいい同級生もいて進学の夢も持っている。むしろ溝があるとするなら、いまも日本語が話せない同胞やクルドの伝統を押しつけてくる父親だろうか。そんな父には内緒でコンビニでバイトをしているが、そこで聡太という高校生と出会う。 
日本という国に溶け込み生活するある日、難民申請が却下され、就労はもちろん移動禁止などさまざまな制限がかけられ、ふつうの暮らしが出来なくなる。

■ONEPOINT REVIEW■ サーリャは親しい友だちにも出自を隠し、自分はドイツ系と話している。真実をあからさまに言えば、差別されるかもしれないことを知っているのだ。クルド系ではないが、日本、ドイツ、イラン、イラク、ロシアの血が流れる現役モデル、嵐莉菜がアイデンティティに揺れる同世代の主人公を演じている、映画初出演。そして聡太役は『MOTHER マザー』で鮮烈デビューした奥平大兼が2度目の映画出演。瑞々しい少年、少女たち。     (NORIKO YAMASHITA)
  2022年5月2日 記


監督/脚本:川和田恵真 
出演:嵐莉菜/奥平大兼/平泉成/藤井隆/池脇千鶴/アラシ・カーフィザデー/リリ・カーフィザデー/リオン・カーフィザデー/韓英恵/サヘル・ローズ
主題歌:ROTH BART BARON 「New Morning」   
配給:バンダイナムコアーツ    公式サイト:https://mysmallland.jp/
© 2022「マイスモールランド」製作委員会 






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                     『不都合な理想の夫婦』 THE NEST
       2022年4月29日(金)からkino cinema横浜みなとみらい/立川高島屋S.C館/天神ほか全国順次公開

■アメリカ在住の英国人の夫と米国人の妻、そして子どもたち。幸せに暮らしているように見えた一家だが、野心あふれる夫の主導で彼の古巣イギリスに移住することになり、そこからすべての歯車が狂いはじめる。プロデューサーで、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』の監督作のあるショーン・ダ―キンによる監督2作目。

■SYNOPSIS■ 1986年、米ニューヨーク。調教師のアリソン(キャリー・クーン)は、貿易の仕事をする英国人の夫ローリー(ジュード・ロウ)とふたりの子どもたちと穏やかに暮らしていたが、ある日ロンドン移住を夫から切り出される。引っ越しはこれが4回目。しかも異国とあって難色を示すも押し切られ、愛馬を伴い英国に渡ることに。彼は古城のような豪邸を用意しており、その浪費ぶりに不安になるがそれだけではなかった。上役のパーティーに内助の功の妻として同伴すると、そこで見たのは嘘八百を並べ立てて見栄を張る夫の姿だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 恐らくローリーはアメリカンドリームを求めて渡米したのだろう。そこで美しい女性と出会って子どもにも恵まれたが、彼の野心は収まらない。自分を偽り野望へと向かう夫の卑しい姿を、妻ははじめて目にする。
こういう役をやらせたらピタリとはまるのがジュード・ロウという俳優だ。乗馬をするような家庭に育った妻とは対照的に、恵まれない子ども時代を過ごした男として描かれており、格差婚、国家間の環境の違いへの戸惑い、新自由主義に浮かれる男…。いろんな問題がここには渦巻いている。 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年4月23日 記

監督/脚本:ショーン・ダ―キン
出演:ジュード・ロウ/キャリー・クーン/チャーリー・ショットウェル/ウーナ・ローシュ
2019年イギリス(107分)  原題:THE NEST  配給:キノシネマ  映倫:R15+
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/thenest
©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019
Dean Rogers






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                  『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』 BOTERO
             2022年4月29日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

© 2018 by Botero the Legacy Inc. All Rights Reserved

■ことし90歳。バリバリの現役にして美術史にその名を残す、画家で彫刻家のフェルナンド・ボテロの足跡を追った本格的ドキュメンタリー。キュレーターや大学などの美術関係者だけでなく、彼の芸術のよき理解者である子どもたち、そして本人提供の資料や証言で特徴的な作風の秘密に迫ってゆく。4月29日(金)から東京・渋谷を皮切りに名古屋、京都と巡回される「ボテロ展 ふくよかな魔法』とリンクした公開となる。

■SYNOPSIS■ 会食をしながら父親の話を熱心に聞く子どもたち。ボテロの父は販売員だったが彼がが4歳のときに急逝。貧しいなか母がお針子の仕事で3人の子どもを育て上げたという。フェルナンド・ボテロは1932年南米コロンビア・メデジンの出身。20歳のころ描いた「海の前で」が高額で売れてヨーロッパに留学。スペインでベラスケスら本場の絵画を堪能するなか、本で知ったイタリアの画家ピエロ・デラ・フランチェスカに魅せられ、これがひとつの転機となる。友人とベスパに乗ってイタリアに向かう。 

■ONEPOINT REVIEW■ イケメンだった若き日の鋭い眼光を残しながらも、にじみ出る穏やかな人柄。息子たちや娘にむかし話をするときも変わることなく、良き父親そのもの。長老ながら生命力あふれる彼本人の口から、芸術に対する飽くなき探求や情熱、無名時代のボヘミアン生活などが語られる姿は貴重だ。野心家ながら品がいいのはそれが金銭への執着ではないからか。人物の魅力そのものにも触れる一作。
                (NORIKO YAMASHITA)  
2022年4月22日 記

監督/共同脚本:ドン・ミラー  共同脚本:ハート・スナイダー
出演:フェルナンド・ボテロ(本人)/フェルナンド・ボテロ・セア(長男)/リーナ・ボテロ・セア(長女)/ホアン・カルロス・ボテロ・セア(次男)/ルディ・キアッピーニ博士(キュレーター)
/アナ・マリア・エスカロン(作家|キュレーター )/クリスチャン・パディラ(作家|キュレーター)/ルーカス・オスピナ(ロスアンデス大学)/エドワード・サリバン博士(ニューヨーク大学大学院)ミリアム・バジリオ博士(ニューヨーク大学)
2018年カナダ映画(82分) 原題:BOTERO 配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://botero-movie.com/






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   『アンラッキー・セックス またはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版』 BAD LUCK BANGING OR LOONY PORN
           2022年4月23日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

■プライベートで楽しむために撮った夫婦のセックス動画がインターネットに流出。流出が止まらないなか教職を解かれるか否か、保護者会で糾弾される名門校の女性教師の一日を切り取ったブラックコメディ。長らくチャウシェスクの独裁政権に苦しんだルーマニア。ジュ―デ監督は国情や歴史も背景にすえながらシニカルに描いてゆく。

■SYNOPSIS■ 一心不乱にブカレストの街を歩き、ときどきスマホで夫と連絡を取るエミが最初に向かったのは、彼女が勤務する名門校の校長の自宅。あわただしく会話を交わしふたたび外に出ると、歩道を陣取る車がエミをイラつかせる。挙句に車も買えない貧乏人とののしられる。彼女が血相を変えているのは、夫婦で撮ったセックス動画がネットに流出し恥さらしな上に、大切な教師の職を失うかもしれないから。夕方学校に到着すると校長や保護者らがすでに集まっており、冷やかしの口笛を鳴らす者もいるなか、まるで異端審問のような保護者会がはじまる。だがエミも負けてはいない。 

■ONEPOINT REVIEW■ 性行為の本番シーンを冒頭に持ってきたオリジナル版は、物議を醸すなか昨年のベルリン国際映画祭金熊賞(最優秀作品賞)を受賞。日本公開版は監督自らが皮肉たっぷりに手を入れた「検閲版」となっているが、声はそのままだから十分センセーショナルではある。手を入れる入れないはべつにして、この冒頭シーンの是非は今後まだまだ議論の余地ありだ。とくに映画界とセクハラの視点において。
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年4月20日 記

監督/脚本:ラドゥ・ジューデ
出演:カティア・パスカリウ/クラウディア・イェレミア/オリンピア・マライ/ニコディム・ウングレアーヌ/アレクサンドル・ポトチェアン
2021年ルーマニア=ルクセンブルク=チェコ=クロアチア(106分)
英題:BAD LUCK BANGING OR LOONY PORN  配給:JAIHO 映倫:R-15
公式サイト:https://unluckysex-movie.com/
© 2021 MICROFILM (RO) | PTD (LU) | ENDORFILM (CZ) | K INORAMA (HR)





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            『パリ13区』 LES OLYMPIADES,PARIS 13E(PARIS,13TH DISTRICT)
                2022年4月22日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開

© ShannaBesson ©PAGE 114 - France 2 Cinéma

■『リード・マイ・リップス』『真夜中のピアニスト』、あるいはカンヌを制した『ディーパンの闘い』など秀作を連発してきたフランス映画界の鬼才監督ジャック・オディアールが、セーヌ川の南に位置する13区を舞台に、パリのいまを危なっかしく生きる若者たちを描いた人間ドラマ。美しいモノクロ映像、そして『燃ゆる女の肖像』で注目されたセリーヌ・シアマら、ふたりの女性映画人が脚本で参加しているのも話題だ。

■SYNOPSIS■ 高学歴を生かした職につかず、親を失望させている台湾系フランス人のエミリー(ルーシー・チャン)。介護施設に移った祖母が所有する広いアパルトマンにひとり暮らしのためルームメートを募集すると、やってきたのはカミーユ(マキタ・サンバ)というアフリカ系男性。同居をはじめたその日にふたりは性的な関係を結ぶも、恋人になったわけではなかった。一方、32歳でソルボンヌ大学に復学することになったノラ(ノエミ・メルラン)はワクワクしながら登校するが、年下のクラスメートと打ち解けることができない。ある日、金髪のカツラをつけてパーティーに参加したことから、大きな試練が身に降りかかってくる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 脚本家として出発したオディアールだが、監督をはじめてから脚本はすべて共作。前作『ゴールデン・リバー』まで4作連続共働のトマ・ビデガンが、ことしのアカデミー賞作品賞受賞作のオリジナル脚本家として脚光を浴びるなか、新たな共作者となったのが『燃ゆる女の肖像』の監督×脚本で大注目のセリーヌ・シアマだった。さらに、若手女性シネアストのレア・ミシウスも加えて、女性目線と思わせるシーンが随所に見られる。セックスシーンに関してはダンスレッスンを行い、女性振付師がついたという話も衝撃的だ。原作はエイドリアン・トミネのグラフィック・ノベル。新星のルーシー・チャンとマキタ・サンバ、シアマ作品でおなじみメルラン、そしてミュージシャンのジェニー・べスが個性豊かにそれぞれ演じている。
                  (NORIKO YAMASHITA)
2022年4月14日 記

監督/共同脚本:ジャック・オディアール  共同脚本:セリーヌ・シアマ/レア・ミシウス
原作:エイドリアン・トミネ「キリング・アンド・ダイング」「サマーブロンド」(国書刊行会)
出演:ルーシー・チャン/マキタ・サンバ/ノエミ・メルラン/ジェニー・ベス
2021年フランス(105分) 原題:LES OLYMPIADES,PARIS 13E(PARIS,13TH DISTRICT)
配給:ロングライド  映倫:R18+  公式サイト:https://longride.jp/paris13/





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                  『ベルイマン島にて』 BERGMAN ISLAND
               2022年4月22日(金)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

© 2020 CG Cinéma ‒ Neue Bioskop Film ‒ Scope Pictures ‒ Plattform Produktion ‒ Arte France Cinéma

■新作創作のためのインスピレーションを得ようと、世界的名匠イングマール・ベルイマン監督ゆかりの地にやってきた映画監督カップル。年上のトニーが順調そうなのに対し行き詰まりを感じていたクリスは、単独で行動するうちに新たな出会いや発見に巡り合い視界が開けてくる。ベルイマン信者のひとり、ミア・ハンセン=ラヴの本邦未公開作をはさみ5年ぶりの公開作。

■SYNOPSIS■ 幼いひとり娘を米国に残し、スウェーデンのフォーレ島にやってきたクリス(ヴィッキー・クリープス)とトニー(ティム・ロス)。「ベルイマン・エステート」という滞在制度を利用して、ふたりが敬愛する映画監督イングマル・ベルイマンゆかりの地で英気を養い、新作の創作をするのが目的。だが順調そうに仕事を進めるトニーに対しクリスは筆が止まったまま。自作の上映会でモテモテの彼を横目に散策していると、ひとりの映画青年と出会い誘われるままに楽しいひとときを過ごす。そんな折にトニーが3日ほど米国に戻ることになり、ひとりで島をめぐっているときに偶然ベルイマンの自宅を発見する。

■ONEPOINT REVIEW■ ミア・ハンセン=ラヴ監督というと彼女の師匠的存在で、私生活のパートナーだったオリヴィエ・アサイアス監督の存在が大きく、設定が似ていることからこの物語はふたりの関係が土台になっていると考えるのが自然だろう。それをいかに作品として昇華させるか。監督自身、虚構として脚本に落とし込んでゆくことがテーマのひとつと語っている。クリスの分身的存在エイミーとしてミア・ワシコウスカが登場する新作の構想部分は、その試みのひとつなのだろう。そして映画ファンにとっての大きなプレゼントが舞台となっているフォーレ島=ベルイマン島だ。まるでベルイマンのテーマパークみたいなのだ。  (NORIKO YAMASHITA)
 2022年4月13日 記

監督/脚本:ミア・ハンセン=ラヴ
出演:ヴィッキー・クリープス/ティム・ロス/ミア・ワシコウスカ/アンデルシュ・ダニエルセン・リー   2021年フランス=ベルギー=ドイツ=スウェーデン(113分)
原題:BERGMAN ISLAND  配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://bergman-island.jp/






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                『メイド・イン・バングラデシュ』 MADE IN BANGLADESH
                2022年4月16日(土)から神保町・岩波ホールほか全国順次公開


■先進諸国が展開する格安ファッションに欠かせないサプライチェーン。その一端を担うバングラデシュの縫製工場で働く主人公は、搾取され貧困にあえぐなか労働組合をつくる権利に目覚めてゆく。実話をもとにコミカルなタッチも交えて描いたヒューマンドラマ。ニューヨーク大学で映画を学び、地元バングラデシュを拠点に活躍する女性監督ホセインが、脚本も書きメガホンをとっている。

■SYNOPSIS■ インドの東に位置するバングラデシュ。失業中の夫と暮らす23歳のシムは首都ダッカの縫製工場で働いているが労働環境は劣悪、きょうも火事騒ぎで命拾いをしたばかり。さらに悪いことに賃金の未払いに苦しめられ、家賃も払えず途方に暮れていたそんなとき、労働者権利団体の女性から声をかけられる。話を聞くうちに自分たちの権利や組合のことを知り仲間を巻き込んでゆくも、その道は多難だった。 

■ONEPOINT REVIEW■ 1971年の建国早々、世界の最貧国と言われたバングラデシュのいまは、ファスト・ファッションに欠かせない縫製産業が国を支える。だが背景には、過酷な労働と低賃金を強いられる女性労働者たちの犠牲の上に成り立っている現実がある。一歩間違えば失業どころか工場閉鎖というなか、恐るおそる声を上げる主人公。この国では明らかに女性は階級の最下層に位置しているように見える、なのに男たちよりずっと元気に見えるのは、彼女たちみずからが働いて稼いでるという強みがあるからかもしれない。       (NORIKO YAMASHITA)
 2022年4月12日 記


監督/脚本:ルバイヤット・ホセイン
出演: リキタ・ナンディニ・シム/ノベラ・ラフマン/パルヴィン・パル/ディパニタ・マーティン
2019年フランス=バングラデシュ=デンマーク=ポルトガル(95分)
英題:MADE IN BANGLADESH   配給:パンドラ
公式サイト:http://pan-dora.co.jp/bangladesh/
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES





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      『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』 BEYOND THE VISIBLE - HILMA AF KLINT
               2022年4月9日(土)から渋谷・ユーロスペース ほか全国順次公開

■近年「発見」され、抽象絵画の先駆者ではないかと再評価されているスウェーデンの画家、ヒルマ・アフ・クリントの知られざる生涯を追ったドキュメンタリー。美術史家やアーティストおよび親族、科学史家らにインタビューするなか、彼女の多大な功績に加え、美術史に埋もれざるを得なかったジェンダーの問題なども浮き彫りになってくる。監督はドイツ出身の女性シネアストでこれが長編デビューのハリナ・ディルシュカ。

■SYNOPSIS■ 始祖とされるロシアのカンディンスキー自身の証言から、1910~11年あたりが抽象絵画の誕生とされてきたが、その数年前に女性画家ヒルマ・アフ・クリントが抽象画的なものを描いていたことがわかり物議を醸す。1862年、スウェーデンの海軍士官の家に生まれたヒルマは王立美術院に入学。職業画家として成功する一方、神智学や神秘主義的なものに興味を引かれ、それを絵画に反映させて独自の境地を切り拓いていった。膨大な数の作品を描いたが、死後20年は公表しないよう言い残し1944年にこの世を去った。

■ONEPOINT REVIEW■ ヒルマは1000点余りの作品を遺したが巨大な作品も多く、受け継いだ遺族もその保管に頭を悩ませたことだろう。1970年には寄贈の申し出をストックホルム近代美術館から断られたいう話も伝わっており、受け継いできた遺族たちの尽力に敬服する。さて、ヒルマは巨大な絵をどのように描いていったのか。ディルシュカ監督は想像を巡らせながらその再現を行い、ドキュメンタリー作品にアクセントをつけてゆく。              (NORIKO YAMASHITA)
 2022年4月5日 記



監督:ハリナ・ディルシュカ
出演:イーリス・ミュラー=ヴェスターマン/ユリア・フォス/ジョシュア・マケルヘニー/ヨハン・アフ・クリント/エルンスト・ペーター・フィッシャー/アンナ・マリア・ベルニッツ
2019年ドイツ(94 分) 英題:BEYOND THE VISIBLE - HILMA AF KLINT
配給:トレノバ  公式サイト:https://trenova.jp/hilma/





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                    『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』 DEUX
              2022年4月8日(金)からシネスイッチ銀座 ほか全国順次公開  


■夢をかなえようと着々と将来の計画を立てる女性同士の老齢の恋人たち。ところがアクシデントが起き、家族がふたりの関係を知らなかったことから大きな障害が立ちはだかる。イタリア生まれの新星フィリッポ・メネゲッティ監督の長編デビュー作は、サスペンスタッチで深い愛を描いてゆく。フランスのセザール賞新人監督賞受賞。『ハンナ・アーレント』のドイツ女優バルバラ・スコヴァと、コメディ・フランセーズのマルティーヌ・シュヴァリエ、ふたりの大ベテランがW主演。

■SYNOPSIS■ アパルトマンの最上階で隣人として暮らす未婚のニナ(バルバラ・スコヴァ)と未亡人マドレーヌ(マルティーヌ・シュヴァリエ)は、ローマで運命の出会いをして以来20年越しの恋人同士。近い将来マドレーヌの部屋を売却し思い出の地ローマで余生を過ごす計画を立てているが、マドレーヌはふたりの関係を娘と息子にカミングアウトする決心がつかずニナを苛立たせる。ある日、マドレーヌが脳卒中で倒れる。

■ONEPOINT REVIEW■ 20年来の恋人なのに相手の家族や社会に認知されていないがために、ニナはまるで盗人のごとくマドレーヌの部屋に忍び込もうとする。社会的な問題をはらみながらも、その様子をあえてスリリングに描いたメネゲッティ監督。スリリングだからこそ、娯楽的な付加価値だけではなくマドレーヌに対するニナの愛の切実さが強調されてくる。ふたりの愛のテーマと言っていい「アイ・ウィル・フォロー・ヒム」で心に残るエンディングを迎える。 (NORIKO YAMASHITA)
 2022年4月4日 記

監督/共同脚本:フィリッポ・メネゲッティ 
共同脚本:マリソン・ボヴォラスミ/フロランス・ヴィニョン
出演:バルバラ・スコヴァ/マルティーヌ・シュヴァリエ/レア・ドリュッケール/ミュリエル・ベナゼラフ/ジェローム・ヴァレンフラン
2019年フランス=ルクセンブルク=ベルギー(95分) 原題:DEUX
配給:ミモザフィルムズ   公式サイト:https://deux-movie.com/
© PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTÉMIS PRODUCTIONS – 2019

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                    『親愛なる同志たちへ』 DEAR COMRADES !
         2022年4月8日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館 ほか全国順次公開

■『暴走機関車』のロシアの名匠アンドレイ・コンチャロフスキ―。80歳を超えた長老が新作で描いたのは、ソ連時代の60年代初頭に多数の犠牲者を出した政府による民衆弾圧事件。主人公の女性はバリバリの体制側でいわばその番人だが、ひとり娘が事件に巻き込まれるなか身内の残忍性と隠ぺい体質を目の当たりにしてゆく。

■SYNOPSIS■ 1962年、ソビエト連邦南部の都市ノボチェルカッスク。恐怖政治で国を治めたスターリンの死去でフルシチョフ時代に入り、平安を取り戻したかに見えたが、こんどは物価の高騰と物資不足が庶民の生活を圧迫する。そんななか共産党員のリューダは物資を融通してもらえる特権階級の端くれ。一般庶民とは違う待遇でひとり娘、高齢の父親と暮らしていたが、工場の労働者たちが大規模なストライキを起こし町は騒然となる。社会主義国ではありえない事態に、体制側は躍起となって制圧に走る。

■ONEPOINT REVIEW■ スターリン時代の終焉はこの国にとって大きなチャンスだったはずだが、経済の破綻、民衆の反乱、弾圧と負のスパイラルは止まらない。登場人物のひとりがつぶやく、「ぜんぶ吹っ飛ばしてイチからやり直すしかない」のかと。これはコンチャロフスキー監督自身の心の声かもしれない。そして主人公リューダが絶望気味に言う「良くならなきゃ、きっと良くなる…」。事件から60年を経たプーチン政権のいま、虚しく響いてならない。   (NORIKO YAMASHITA)
   2022年4月3日 記

監督/共同脚本:アンドレイ・コンチャロフスキー  共同脚本:エレナ・キセリョワ
出演:ユリア・ビソツカヤ/アンドレイ・グセフ/ウラジスラフ・コマロフ/ユリヤ・ブロワ/セルゲイ・アーリッシュ
2020年ロシア(121分) 英題:DEAR COMRADES ! 配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://shinai-doshi.com/
© Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020





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                        『TITANE/チタン』 TITANE
             2022年4月1日(金)から新宿バルト9/渋谷シネクイント ほか全国公開

© KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020

■子どものときに事故に遭い、頭のなかに金属のチタンを埋め込まれた女性。しだいに身体に異変をきたし、性格も狂暴となり事件を起こしてゆくなか、人生が破綻し孤独に生きる中年男性と出会う。生き血を求める女子を描いた、『RAW~少女のめざめ~』でセンセーショナルにデビューしたフランスの新鋭ジュリア・デュクルノーの長編第2作。昨年のカンヌ映画祭(第74回)で最高賞のパルムドールを受賞。

■SYNOPSIS■ 少女時代に父の運転する車で事故に遭い、チタンプレートを埋め込む手術をしたアレクシア(アガト・ルセル)。以来車に執着し、成人したいまはオートショーの過激なパフォーマンスで男たちの視線を集める。やがて体に異変が起き暴力的な衝動に駆られるようになると、巷では残忍な連続殺人が連日報じられる。追われる身となり変装して、10年前に誘拐された少年に成りすますアレクシア。すると息子の失踪以来生きる屍のようにになっていた中年消防士のヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)は、喜んで受け入れるのだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 過剰に過激なバイオレンス・シーンに目をおおう。だが見終わってみれば、暴力以外で心に残るシーンがいくつもあった。インスタグラムで見いだされたという、映画デビューにして初主演のアガト・ルセルがまず鮮烈だ。とりわけ消防士たちの前で、少年の姿のまま怪しげな踊りを見せるシーン。マッチョな男たちは全員が凍りつく。アレクシアが車に執着しているのに対し、ヴァンサンは行方知れずの息子に執着している。偽物でもとにかくすがりつきたい。その彼がバッハの「マタイ受難曲」流れるなか、悲しみの聖母のごとく乳飲み子を抱くシーンが映画のハイライトとなる。               (NORIKO YAMASHITA)
 2022年3月25日 記

監督/脚本:ジュリア・デュクルノー
出演:ヴァンサン・ランドン/アガト・ルセル/ギャランス・マリリエ/ライ・サラメ
2021年フランス(108分) 原題:TITANE  配給:ギャガ 
公式サイト:https://gaga.ne.jp/titane/





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                         『アネット』 ANNETTE
      2022年4月1日(金)から渋谷・ユーロスペース/角川シネマ有楽町/アップリンク吉祥寺 ほか全国公開

© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / EUROSPACE / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

■ロンとラッセルのメイル兄弟によるポップロック・デュオ、スパークスが提供した音楽をもとに、フランス映画界きっての異才監督レオス・カラックスがはじめてロック・オペラに挑戦した。過激な話芸で人気を誇るスタンダップ・コメディアンがオペラの歌姫と恋に落ち、生まれてきた歌の天才少女を搾取してゆくという悪魔的なストーリー。少女の大半をパパペット(操り人形)が演じているのも話題だが、導入部ではカラックスの実の娘も登場する。第74回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作。

■SYNOPSIS■ スタジオのカラックス監督が見守るなか、スパークスの演奏が始まると場面は転換。スタッフに合流した出演者たちが夜の街を闊歩し、やがて彼らは衣装に着替えて物語がスタートする。
オペラの世界的な歌姫アン(マリオン・コティヤール)と、挑発的な話芸で独自の世界を切り拓くスタンダップ・コメディアンのヘンリー(アダム・ドライヴァー)。美女と野獣のようなカップルは激しい恋に落ち、娘が誕生する。その名はアネット。だがヘンリーは嫉妬や猜疑心から自分を見失い、天性の歌の才能を持つアネットは年端もいかないうちから表舞台に立たされる

■ONEPOINT REVIEW■ 前からミュージカルをやりたかったが諦めていたとカラックスは言う。それが前作『ホーリー・モーターズ』でスパークスの曲を使ったことから彼らとの出会いが生まれた。スパークスとカラックスという強烈な個性の、融合なのか衝突なのか。仮にたとえば、ウェス・アンダーソンのような個性がつくったなら、まったく別ものになっただろう。カラックス作品には、たとえそれが大メロドラマであろうと、必ず悪魔的なものが潜んでいる。
               (NORIKO YAMASHITA) 2022年3月25日 記


監督:レオス・カラックス  原案/音楽:スパークス(ロン・メイル/ラッセル・メイル)
脚本:スパークス/レオス・カラックス
出演:アダム・ドライヴァー/マリオン・コティヤール/サイモン・ヘルバーグ
2021年フランス=ドイツ=ベルギー=日本(140分)
原題:ANNETTE  配給=ユーロスペース  
公式サイト:https://annette-film.com/





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                     『英雄の証明』 GHAHREMAN(A HERO)
     2022年4月1日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマ/シネスイッチ銀座/新宿シネマカリテほか全国順次公開

■借金の滞納で服役中の男が、釈放中に拾った金貨を届け出たことから「英雄」として祭り上げられ、周囲やマスコミの偽善、SNSの暴力的な摘発に翻弄され自分を見失ってゆく。『別離』と『セールスマン』で2度のアカデミー賞外国語映画賞に輝くイランのアスガ-・ファルハディ監督が、理不尽な世界を描いた最新作。第74回カンヌ映画祭の2席にあたるグランプリを受賞

■SYNOPSIS■ 元妻の兄からの多額の借金を返せず服役中のラヒム。つかの間の休日に、恋人のファルコンデが借金の返済にと差し出したのは大量の金貨だった。道で拾ったバッグに入っていたという。一旦はその気になったものの、良心の呵責から持ち主を探し出し返却することに。それを知った刑務所の幹部たちは、美談としてマスコミに取り上げてもらうよう画策をする。ラヒム自身の美談として扱われ一躍街のヒーローとなるが、すんなりと事は運ばなかった。

■ONEPOINT REVIEW■ 「英雄」というと時代ものの軍人かなにかの話かと思えばそうではなく、現代に生きるごくふつうの男の話。お国柄の違いもあってわかりにくいところもあるが、市井に生きるひとがある日突然、簡単にヒーローになってゆく。その分、その座から引きずり下ろされるのも早く、男は一喜一憂する。ある意味シンプル。だからこそそこにSNSが入り込めばどうなるか、という話でもある。
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年3月23日 記

監督/脚本:アスガー・ファルハディ
出演:アミール・ジャディディ/モーセン・タナバンデ/サハル・ゴルデュースト/サリナ・ファルハディ
2021年イラン=フランス(127分) 配給:シンカ
原題:GHAHREMAN(A HERO)
公式サイト:https://synca.jp/ahero/
© 2021 Memento Production - Asghar Farhadi Production - ARTE France Cinema

 


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            『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』 CASTING BY
             2022年4月2日(土)からシアター・イメージフォーラム ほか全国順次公開

© Casting By 2012
画像は仕事中の若き日(上2枚)とインタビューに応える晩年のドハティ(下)

■監督のアシスタント的な存在として低く見られていたキャスティングの仕事を切り拓いて高め、作品の質向上にも貢献した伝説のキャスティング・ディレクター、マリオン・ドハティを追った映画ファン必見のドキュメンタリー。2011年の他界前に録られた晩年のインタビューのほか、後継者たちや彼女に見出された幾多の名優、名監督への取材およびアーカイヴを通し、ドハティの人物像を浮き彫りにしてゆく。掘り起こしたのはドキュメンタリー作家で製作者のトム・ドナヒュー。

■SYNOPSIS■ 最初はテレビドラマだった。「裸の街」や「ルート66」のキャスティングに関わったのちに映画界に進出。ジョージ・ロイ・ヒルの隠れた名作『マリアンの友だち』を手がけ、同監督とはその後も『明日に向かって撃て!』『ガープの世界』と続いてゆく。『卒業』のダスティン・ホフマン、『真夜中のカーボーイ』のジョン・ヴォイト、『悲しみの街角』のアル・パチーノ…。彼女やその後継者が大抜擢した無名の新人たちは次々と開花し名を残してゆく。また、後継者の仕事もふくめて、ウディ・アレンやマーティ・スコセッシらとの共働からは数々の名作が生まれた。

■ONEPOINT REVIEW■ ドハティの活躍はハリウッドの変革の時代とも重なる。ステレオタイプや旧態依然のシステムを一掃したアメリカン・ニューシネマの到来。ネームバリューや人気だけに頼らないキャスティングは、作品自体のフレッシュさとうまくリンクして機能した。グレン・クローズは言う「マリオン・ドハティのようなキャスティング・ディレクターの仕事はとても特別で、いつも映画の質にそのまま繋がっていた」、さらにロバート・レッドフォードは「彼⼥は明らかに映画界の⽔準を引き上げた。私⾃⾝もいろいろな役に挑戦できたのは彼⼥のお陰だった」と語っている。  
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年3月21日 記

監督:トム・ドナヒュー
出演:マリオン・ドハティ/マーティン・スコセッシ/ロバート・デ・ニーロ/ウディ・アレン/クリント・イーストウッド/ロバート・レッドフォード/ダスティン・ホフマン/アル・パチーノ/メル・ギブソン/ジョン・トラボルタ/グレン・クローズ
2012年アメリカ(89分) 原題:CASTING BY 
配給:テレビマンユニオン 配給協力:プレイタイム  公式サイト:https://casting-director.jp/ 




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                    『ナイトメア・アリー』 NIGHTMARE ALLEY
             2022年3月25日(金)から日比谷・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
公式サイト:
https://searchlightpictures.jp/movie/nightmare_alley.htm

■見世物小屋で読心術のカラクリを会得した男が、金持ち相手にのし上がっていく様子を描いた怪しげなノワール小説の映画化。『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞の4冠に輝いたギレルモ・デル・トロ監督の受賞第1作で(監督として)、エドマンド・グールディング監督がタイロン・パワー主演で撮った『悪魔が往く町』(1947年)のリメイク作品となる。

■SYNOPSIS■ 1939年、米国のとある町。流れ者のスタン(ブラッドリー・クーパー)は見世物小屋で行われていた「獣人ショー」に目を奪われる。華やかなだけでなく怪しげなカーニバルの世界。雇われることになった彼は心術師のジーナ(トニ・コレット)と親しくなり、彼女のパートナーであるピート(デヴィッド・ストラザーン)が編み出した読心術に興味を抱くようになる。トリックを教えてほしいと頼み込むも「悪用されると危険」と頑なに拒絶されるが、その技を得て、見染めていた電流ショーのモリ―(ルーニー・マーラ)とともに金持ち相手にショーを行うことを計画する。

■ONEPOINT REVIEW■ 『シェイプ・オブ・ウォーター』では半魚人、そしてここでは獣人ショーと、デル・トロ監督の異形=フリークスに対する関心はやまない。そして後半、ようやくケイト・ブランシェット演じる心理学者の登場となるが、結局、主人公スタンの身にふりかかってくるのは因果応報の報いだ。
デル・トロが描くイメージを具現化する一級のスタッフによる技術力が、娯楽色満載の150分を牽引する。      (NORIKO YAMASHITA) 
   2022年3月14日 記

監督/脚本:ギレルモ・デル・トロ 
原作:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム「ナイトメア・アリー 悪夢小路」
出演:ブラッドリー・クーパー/ケイト・ブランシェット/トニ・コレット/ウィレム・デフォー/リチャード・ジェンキンス/ルーニー・マーラ/ロン・パールマン/メアリー・スティーンバージェン/デヴィッド・ストラザーン
2021年アメリカ(150分) 原題:NIGHTMARE ALLEY
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン  

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                        『ベルファスト』 BELFAST
           2022年3月25日(金)からTOHOシネマズ シャンテ/渋谷シネクイントほか全国公開

■宗教的な対立から国内紛争が激化する60年代北アイルランド。シェークスピア劇からハリウッド作品まで多才を発揮してきたケネス・ブラガーが、故郷ベルファストでの幼年期をノスタルジックに描いた自伝的作品。モノクロ映像美を強調したこだわりの作品になっている。

■SYNOPSIS■ 1969年、北アイルランドのベルファスト。子どもたちを見守るやさしい母とイギリスに出稼ぎに出て時々帰ってくる父、ユーモラスな祖父母や仲のいい兄に囲まれてのびのび育った9歳のバディは、きょうも腕白ぶりを発揮して町中を駆けまわる。と、突然プロテスタントの武装集団がカトリック家庭を襲い町は騒然となる。宗派の区別なく町全体がひとつの家族のように穏やかに暮らしてきたはずなのに、分断が加速されてゆく。影響は一家にもおよび、英国に移住する計画が父の口から切り出される。

■ONEPOINT REVIEW■ 『クライング・ゲーム』や『ベルファスト71』など北アイルランド紛争は映画でも間接、直接的に取り上げられ、概要や悲惨な内情を映画作品で学び知ったことも多い。しかしここでは紛争が激化する前夜、不穏な足音が聞こえてくる一方、穏やかでときにユーモラスという、また違ったベルファストの日常が目に飛び込んでくる。そしてベルファストと言えばこのひと、町を象徴するミュージシャンでブラナーにとってもアイドル的存在だったという、ヴァン・モリソンが音楽を担当しているのは大きい。       (NORIKO YAMASHITA) 
  2022年3月16日 記

監督/脚本:ケネス・ブラナー 音楽:ヴァン・モリソン
出演:カトリーナ・バルフ/ジュディ・デンチ/ジェイミー・ドーナン/キアラン・ハインズ/ジュード・ヒル
2021年イギリス(98分) 配給:パルコ/ユニバーサル映画  原題:BELFAST
公式サイト:https://belfast-movie.com/
Ⓒ2021 Focus Features, LLC.





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                     『オートクチュール』 HAUTE COUTURE
  2022年3月25日(金)から新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国公開

■実在するフランスの名門ファッションブランド、クリスチャン・ディオールを舞台に、まもなく引退するベテランのお針子と、彼女が目をかけた若い女性の人生を交差させて描いた人間ドラマ。監督と脚本はユダヤ系チュニジア人でパリ出身、本作が長編2作目となるシルヴィー・オハイヨン。ディオール一級クチュリエ―ルのジュスティーヌ・ヴィヴィアンが衣装の監修を務め、お針子のひとりとして出演もしている。

■SYNOPSIS■ ディオールのオートクチュール部門アトリエ責任者という誇り高い仕事を、まもなく勤め上げようというエステル(ナタリー・バイ)。彼女には悩みがあって、それは疎遠となり一向に改善されないひとり娘との関係だ。ある日、エステルはひったくりに遭いますます落ち込んでしまう。一方、大規模団地に暮らすジャドとスアドの幼なじみ女子ふたり組は、奪ったバッグのなかからユダヤの星のネックレスが出てきてびっくり。怖気づき、ジャド(リナ・クードリ)が持ち主に返しにゆくことに。母親の世話に明け暮れ、将来など考えたこともなかった少女に新たな道が拓け始める。


■ONEPOINT REVIEW■ 身なりが良く上品なエステルを、女子ふたり組は金持ちの有閑マダムと思い込んだ節がある。ところが会ってみると、自分で稼いでいる地に足の着いたキャリアウーマン。さらに言えば、エステルの出自は明かされないが、ジャドのような少女だったかもしれない。オハイヨン監督も子ども時代、パリ郊外の大規模団地で暮らした経験があるという。先に公開された『GAGARINE/ガガーリン』で描かれたような世界だ。針を持ったジャドの目が輝く。ここから先は彼女自身がみずから拓いてゆくことになる。         (NORIKO YAMASHITA) 
  2022年3月15日 記

監督/脚本:シルヴィー・オハイヨン 衣装監修/出演:ジュスティーヌ・ヴィヴィアン
出演:ナタリー・バイ/リナ・クードリ/パスカル・アルビロ/クロード・ペロン/ソマヤ・ボークム/アダム・ベッサ/クロチルド・クロー
2021年フランス(100分) 原題:HAUTE COUTURE
配給:クロックワークス/アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://hautecouture-movie.com/   © PHOTO DE ROGER DO MINH




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                      『二トラム/NITRAM』 NITRAM
                        2022年3月25日(金)から
    新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ渋谷/ヒューマントラストシネマ有楽町/アップリンク吉祥寺ほか全国公開

■1996年にオーストラリアのタスマニア島で実際に起きた大量殺人「ポートアーサー事件」を、ライフルを乱射した当事者、マーティン・ブライアントに焦点を当てて描いた実話物語。監督は地元オーストラリア出身のジャスティン・カーゼル。彼と『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』などで共働してきたショーン・グラントが脚本を書きおろしている。主人公役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズはカンヌ映画祭ほかで主演男優賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 本名を逆さ読みでからかわれ、NITRAM(二トラム)呼ばわりされているMARTIN(マーティン)。両親もお手上げの子どものころからの問題児で、今日も昼間から花火を打ち上げて近所から怒号が飛ぶ。だがある日、彼のことをはじめて認めてくれる中年女性のもとで雑用係として働くようになり、人生が好転する。しかも彼女は指折りの富豪だったのだが、幸運は長くはつづかなかった。


■ONEPOINT REVIEW■ 事件が悲惨であればあるほど、触れられることを嫌がるひとは少なくない。それでも事件から四半世紀経ったいま、あえて映画にしたのは「反銃器」の観点からだと脚本家は言う。マーティンは問題児ではあったが、ある意味ふつうの青年でもあった。だからこそ安易に銃を買うことができた。そういう社会への警告ということだろうか。       (NORIKO YAMASHITA) 
  2022年3月14日 記



監督:ジャスティン・カーゼル 脚本:ショーン・グラント
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/ジュディ・デイヴィス/アンソニー・ラパリア/エッシー・デイヴィス/ショーン・キーナン
2021年オーストラリア(112分) 原題:NITRAM  配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nitram/
© 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited





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                  『林檎とポラロイド』 MIRA(APPLES)
         2022年3月11日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか全国順次公開

■記憶喪失が広がるとある都市。バスで発見された男もまた記憶喪失と診断され、新しい自分探しのプログラムに参加させられる。彼はいったいだれなのか。過去を捨てて新しい自分を築けるのか。リチャード・リンクレーターやヨルゴス・ランティモスの助監督を務めたギリシャの新鋭、クリストフ・ニク監督による長編第一作。ヴェネチア映画祭でこの作品に出会った女優のケイト・ブランシェットが惚れ込み、エグゼクティブ・プロデューサーを買って出ている。

■SYNOPSIS■ マンションの自室で呆然自失気味にイスに座る男。記憶喪失者を救うプロジェクトのニュースが流れ、外に出ると車のドライバーが記憶を失っており、夜には彼自身もまたバスの終点で眠っているところを発見される。医師は記憶喪失と診断し、ポラロイドカメラで課題を記録してゆく「新しい自分プログラム」への参加をすすめられる。同じ境遇の女性と知り合いおたがい課題をクリアしてゆくなか、死の間際のひとを見つけて葬儀まで見届けよ、という新たなミッションが出される。

■ONEPOINT REVIEW■ ポラロイド、カセットテープ、オープンリール、ツイスト…。監督が「近過去」と称するアナログ世界を舞台に、飄々と、ときにユーモアをたたえながら課題をこなしてゆく男。だが彼の瞳の奥には確実に悲しみが存在する。はたして彼はほんとうに記憶喪失者なのか?観客はベールに包まれた彼の過去を詮索するという興味にも巻き込まれてゆく。 (NORIKO YAMASHITA) 
  2022年3月8日 記


監督/共同脚本:クリストフ・ニク 共同脚本:スタヴロス・ラプティス
出演:アリス・セルヴェタリス/ソフィア・ゲオルゴヴァシリ/アナ・カレジドゥ/アルギリス・バキルジス
2020年ギリシャ=ポーランド=スロヴェニア(90分) 原題MIRA(APPLES)
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/ringo/
© 2020 Boo Productions and Lava Films




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               『アンネ・フランクと旅する日記』 WHERE IS ANNE FRANK
             2022年3月11日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

© ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
公式サイト:https://happinet-phantom.com/anne/

■世界中で読まれてきたアンネ・フランクの「アンネの日記」をもとに、彼女がつくり出した架空の人物〝キティ〟が主人公となって動き出す新たな物語。 2008年の『戦場でワルツを』がアニメ作品として初めてオスカーの外国語映画賞にノミネートされ、脚光を浴びたイスラエル出身のアリ・フォルマン監督。同作品や『コングレス未来学会議』で共働したアニメ―ション監督のヨニ・グッドマンとふたたび手を組み、「アンネの日記」に新しい息吹を吹き込んでいる。

■SYNOPSIS■ 「アンネの日記」のオリジナル版が公開中とあって、荒天にもかかわらず開館前の早朝から長蛇の列ができているオランダ・アムステルダムにある博物館「アンネ・フランクの家」。だが陳列されている日記に異変が起き、なかからアンネの心の友、キティが浮かび上がる。「あら、アンネはどこ?」。キティはアンネとの出会いから75年のときを経ていること、彼女になにが起きたかを知らないのだ。外に出てみると、そこは大戦下ではなく現代のアムステルダム。そして、紛争地帯などから追いやられてきた難民の子どもたちがあえいでいる姿も目の当たりにする。

■ONEPOINT REVIEW■ アリ・フォルマン監督の両親もまたホロコースト経験者で、監督自身、過去に何度もアウシュヴィッツに足を運んだ経験があるという。それでもなお完成までに8年もの年月がかかったのは、綿密な調査に徹したからだった。制作を依頼された「アンネ基金」からはふたつの注文が出された。「現在と過去をつなぐこと」、「アンネが最期を迎えるまでの7か月間を描くこと」。負の歴史を現在につなぎながら、ここには血が通った世界が広がる。フォアマン監督は今回もまたアニメの可能性に挑戦している。          (NORIKO YAMASHITA)
   2022年3月4日 記

監督/脚本:アリ・フォルマン 
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン  アートディレクター:レナ・グバーマン
声の出演:ルビー・ストークス/エミリー・キャリー
2021年ベルギー=フランス=ルクセンブルク=オランダ=イスラエル(99分)
原題:WHERE IS ANNE FRANK  配給:ハピネットファントム・スタジオ





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                 『金の糸』 OKROS DZAPI(THE GOLDEN THREAD)
               2022年2月26日(土)から神保町・岩波ホールほか全国順次公開

■ジョージアの首都トビリシの旧市街を舞台に、ソ連時代の過去と向き合いながら執筆をつづける女性作家を描いた人間ドラマ。1928年生まれ、ジョージアを代表する長老女性監督ラナ・ゴゴべリゼが27年ぶりにメガホンを取り、自身の体験も交えて描いた入魂の新作。

■SYNOPSIS■ 旧市街地にある古い生家で、娘夫婦らと暮らす作家のエレネ(ナナ・ジョルジャゼ)。きょうは誕生日だというのに忘れられ、おまけに痴呆症気味の娘の姑ミランダ(グランダ・ガブニア)が越してくるという、嫌な知らせが入る。彼女はソ連時代の政府高官で、反体制寄りのエレネにとっては天敵のような人物なのだ。そこに突然、むかしの恋人アルチル(ズラ・キプシゼ)から電話が入る。エレナの頭には朝までタンゴを踊る若き日の自分たちふたりの姿がよみがえる。そして間もなく、いまだ特権階級意識が抜けないミランダがやってくる。


■ONEPOINT REVIEW■ 力強く深遠な言葉の数々、美しい映像、そして存在感が半端ではない役者たち。ジョージアという国の、そしてゴゴべリゼ監督のアートと向き合う底力を突きつけられる。タイトル「金の糸」は、日本の焼き物の世界に伝わる「金継ぎ」から取られていて、過去と未来をつなぐものとしての暗喩として使われている。エレナ役のジョルジャゼは名の知れた映画監督、そしてゴゴべリゼ作品に多数出演しているミランダ役のガブニアは完成間際に他界し、映画の中でも心に残る退出をする。これが遺作となった。         (NORIKO YAMASHITA) 
    2022年2月20日 記

監督/脚本:ラナ・ゴゴベリゼ 撮影:ゴガ・デヴダリアニ 音楽:ギヤ・カンチェリ
出演:ナナ・ジョルジャゼ/グランダ・ガブニア/ズラ・キプシゼ
2019年ジョージア=フランス(91分) 原題:OKROS DZAPI(GOLDEN THREAD)
配給:ムヴィオラ   公式サイト:http://moviola.jp/kinnoito/
©3003 film production, 2019  





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                   『ゴヤの名画と優しい泥棒』 THE DUKE
               2022年2月25日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

■地元イギリスおよび美術愛好家にはよく知られている名画盗難事件を、盗んだ当事者に焦点を当てて描いた人間ドラマ。『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッシェル監督は奇想天外な展開を見せるこの事件の顛末を、ユーモアとペーソスで描いている。これが遺作となった。

■SYNOPSIS■ 1961年、ロンドンのナショナル・ギャラリーで、英国が大枚はたいて購入したばかりのゴヤの名画「ウェリントン侯爵」が忽然と姿を消す。ロンドン警視庁は巧妙な手口から、大規模な窃盗団の犯行と考えて捜査を進める。
一方、英国北部の都市ニューカッスルで妻と息子とつましく暮らすケンプトン・バントンは、町の活動家。公共放送のBBCを標的に、年金暮らしの老人たちの唯一の娯楽であるテレビの視聴料を無料にせよという活動を行っていた。そんなある日、国が大金を出して買ったゴヤの絵画が、ナショナル・ギャラリーに展示されることを知る。

■ONEPOINT REVIEW■ ウェリントン公爵の肖像画はどこかさえなく、お偉いさんを描いてもゴヤの批評精神みたいなものが出ていて面白いのだが、そんなこともあるから盗んだ絵を見て主人公が、〝たいした絵じゃないな〟とつぶやくシーンは、二重の意味でおかしさが伝わってくる。NHKと重なるBBCの視聴料問題、老け役でちょっとびっくりさせるヘレン・ミレンなど、事件の展開以外にも見どころがあちらこちらに。
               (NORIKO YAMASHITA) 
    2022年2月19日 記


監督:ロジャー・ミッシェル 脚本:リチャード・ビーン/クライヴ・コールマン
出演:ジム・ブロードベント/ヘレン・ミレン/フィオン・ホワイトヘッド/アンナ・マックスウェル・マーティン/マシュー・グード
2020年イギリス(95分) 原題:THE DUKE  配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/goya-movie/
©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020




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                   『GAGARINE/ガガーリン』 GAGARINE
                2022年2月25日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開

■ソ連の宇宙飛行士の名がつけられた仏パリ郊外の「ガガーリン団地」。2019年まで実在した大規模団地の解体を背景に、生まれ育った〝故郷〟の取り壊しに反対するひとりの黒人少年のリアルな感情と、宇宙飛行士への憧れというファンタジーを交差させて描いた青春映画。長編映画ははじめてという男女監督が共同でメガホンをとっている。

■SYNOPSIS■ ソ連の宇宙飛行士ガガーリンと同じファーストネームを持つユーリ(アルセニ・バテリ)は母親が恋人のもとに去り、ガガーリン団地の8階でひとり暮らし。だがこの大規模団地が2024年のパリ五輪に向けて解体されるという噂を聞き不安でならない。行政による建物調査の前に体裁を整えようと、友人のフサームを巻き込み自腹で修理することに。そのとき資材の調達にひと役買ってくれたのが、明るく活発なロマの少女ディアナ(リナ・クードリ)だった。

■ONEPOINT REVIEW■ ガガーリン少佐が「ガガーリン団地」を訪れ、住民たちから大歓迎される1963年の記録映像からはじまる。しかしなぜパリ郊外にガガーリン団地なのか。パリ南東部に位置するイヴリ―・シュル・セーヌ地区はもともと労働者層が多く、仏共産党の地盤という背景があるという。映画のなかの住民は圧倒的に移民が多く、主人公のユーリが惹かれるロマの少女ディアナは、団地の一角に置かれたトレーラーハウスで暮らす。現実には解体後のここはエコ地域として生まれ変わるという。ユーリのいた団地がどう変貌するのか。続編もぜひぜひ見てみたい。
             
(NORIKO YAMASHITA)       2022年2月19日 記

監督:ファニー・リアタール/ジェレミー・トルイユ 
出演:アルセニ・バティリ/リナ・クードリ/ジャミル・マクレイヴン/ドニ・ラヴァンほか
2020年フランス(98分) 原題:GAGARINE  配給:ツイン 
公式サイト:http://gagarine-japan.com/
©2020 Haut et Court – France 3 CINÉMA





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          『オペレーション・ミンスミートーナチを欺いた死体ー』 OPERATION MINCEMEAT
               2022年2月18日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

■第二次大戦のさなかに、連合国軍のイギリスがナチス・ドイツに対して打ち出した奇策「ミンスミート作戦」を、実行役のひとり英国諜報部のモンタギュー少佐を中心に描いた実話物語。コリン・ファースが少佐を演じ、「恋におちたシェイクスピア」のジョン・マッデン監督がメガホンをとっている。

■SYNOPSIS■ 1943年。ナチス・ドイツとの激戦がつづきヨーロッパを占領されるなか英国の諜報機関は、ギリシャから入ると見せかけてシチリアに上陸する作戦をチャーチル首相に提案する。だがいかにして欺くのか。さっそく開かれた会議で、元弁護士の諜報員モンタギュー少佐(コリン・ファース)らがぶち上げたのは、〝偽造文書を持たせた死体を海に流す〟という小説もどきの奇策だった。

■ONEPOINT REVIEW■ おどろくことに作戦のアイデアを出していた諜報員の多くは、ほんとうの小説家たちだったという。その中心を担っていたのが、のちに「007シリーズ」で名を挙げる作家のイアン・フレミングであり、映画にも登場する。また軍事作戦だけではなく、登場人物たちの私生活も並行して描かれる。別居中の妻と助手の女性(ケリー・マクドナルド)との間で葛藤するモンタギュー。コリン・ファースが得意とする、まさにドンピシャの役どころ。
                (NORIKO YAMASHITA)
  2022年2月14日 記


監督:ジョン・マッデン 
原作:「ナチを欺いた死体:英国の奇策・ミンスミート作戦の真実」(中央公論新社)
出演:コリン・ファース/マシュー・マクファディン/ケリー・マクドナルド/ペネロープ・ウィルトン/ジョニー・フリン/ジェイソン・アイザックス
2022年イギリス(128分) 原題:OPERATION MINCEMEAT  配給:ギャガ  
公式サイト:https://gaga.ne.jp/mincemeat/
©Haversack Films Limited 2021





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                   『ブルー・バイユー』 BLUE BAYOU
                     2022年2月11日(金・祝)から
           日比谷・TOHOシネマズ シャンテ/渋谷・ホワイト・シネ・クイントほか全国公開


■シングルマザーの女性と小さな家庭を築きつつあった韓国系の男性がある日、ふとしたことから出生国への強制送還を命じられる。長年アメリカ人として生きながら、理不尽な法律の壁に翻弄される男性とその一家を描いたヒューマンドラマ。俳優としてキャリアを積んだのちに監督の世界にも進出した韓国系アメリカ人、ジャスティン・チョンが監督、脚本、主演の三役を務めている。

■SYNOPSIS■ 幼いころに養子としてもらわれアメリカに渡ってきた韓国系のアントニオ(ジャスティン・チョン)。いまはシングルマザーのキャシー(アリシア・ヴィキャンデル)と結婚し、その娘のジェシー(シドニー・コウォルスケ)、間もなく生まれてくる娘とともにささやかな家庭を築きつつあったが、アジア系で窃盗歴もあったことから、タトゥー職人以外の新たな職にありつけない現実。ある日、避けていたキャシーの前夫で警察官のエース(マーク・オブライエン)と遭遇し、彼の相棒に難癖をつけられたことから逮捕され、挙句に移民局に送り込まれる。

■ONEPOINT REVIEW■ ほぼ100パーセント、米国人として生きてきたアントニオだが、ある日ベトナム系の女性と知り合ったことから、幼いころの母の記憶やアジア系というアイデンティティを少しずつ意識するようになる。そしてベトナム人のパーティーでアリシア・ヴィキャンデル(キャシー)が力強く歌うロイ・オービソンの名曲「ブルー・バイユー」。これは遠く離れた故郷を思う望郷の歌であり、深く心にしみるシーンのひとつ。            (NORIKO YAMASHITA) 
  2022年2月4日 記



監督/脚本/主演:ジャスティン・チョン
出演:アリシア・ヴィキャンデル/マーク・オブライエン/リン・ダン・ファム/エモリー・コーエン 
/シドニー・コウォルスケ/ヴォンディ・カーティス=ホール
2021年アメリカ(118分)  配給:パルコ/ユニバーサル映画  原題:BLUE BAYOU 
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/blue-bayou
©2021 Focus Features, LLC.


*フロントページ「今週の注目のロードショー」紹介作品





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                『ちょっと思い出しただけ』 CHOTTO OMOIDASHITADAKE
       2022年2月11日(金)からTOHOシネマズ日本橋/TOHOシネマズ日比谷/テアトル新宿ほか全国公開

■タクシードライバーの女性とダンサーの男性。毎年めぐってくる男性の誕生日の一日を、6年間にわたって定点観察しながらさかのぼり描いてゆくラブスト―リー。ミュージシャンの尾崎世界観(クリープハイプ)が敬愛する映画監督、ジム・ジャームッシュの代表作に触発されて生まれた曲「ナイトオンザプラネット」をもとに、松居大悟監督が脚本を書き下ろした。池松壮亮と伊藤沙莉、いまを代表する魅力的なふたりの俳優が初共演を果たしている。

■SYNOPSIS■ 2021年7月26日。34回目の誕生日を迎えた照生(池松壮亮)はいつものように朝のルーティンをすませてから、照明の仕事に向かう。一方、タクシー運転手の葉(伊藤沙莉)はコロナ禍のなか、ミュージシャンの男を乗せて東京の夜の街を走っていたが、トイレに行きたいという男とともに途中下車すると近くの劇場からもの音が聞こえ、そこには踊りの練習をする男性の姿があった。。

■ONEPOINT REVIEW■ 元のもとをたどれば、ウィノナ・ライダーがタクシードライバーに扮したジャームッシュ監督の映画『ナイト・オン・ザ・プラネット」がある。同作へのオマージュが随所に見られ、ミニマム志向という共通項も見られるけれど、面白いことにジャームッシュ作品から受ける乾いた感じとは別のウェット感がここにはあり、この作品の大きな魅力にもなっている。(NORIKO YAMASHITA)
 
 2022年2月3日 記


監督・脚本:松居大悟  主題歌:クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」
出演:池松壮亮/伊藤沙莉
河合優実/大関れいか/屋敷裕政(ニューヨーク) /尾崎世界観
渋川清彦/松浦祐也/篠原篤/安斉かれん/郭智博/広瀬斗史輝/山﨑将平/細井鼓太
成田凌/市川実和子/高岡早紀/神野三鈴/菅田俊/鈴木慶一
國村隼 /永瀬正敏 2022年日本(115分) 配給:東京テアトル
公式サイト:https://choiomo.com/  ©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会





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            『クレッシェンド 音楽の架け橋』 CRESCENDO
     2022年1月28日(金)から新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町/シネ・リーブル池袋ほか全国公開

■敵対関係が激化する一方のパレスティナとイスラエルの若手演奏家を集めて、和平コンサートが実現できないかという企画が、世界的指揮者のもとに持ち込まれる。大御所ダニエル・バレンボイムらが組織した実在の和平オーケストラ、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団から着想されたというヒューマン音楽ドラマ。楽団内で生まれたひとつのラブストーリーが予想外の展開をもたらしてゆく。

■SYNOPSIS■ パレスティナとイスラエルから有望な若手演奏家を募って、和平コンサートを開催したいという困難な企画を、結局は引き受けることになったドイツの世界的指揮者エドゥアルト・スポルク。オーディションはイスラエルのテルアビブで行われ、パレスティナの若者たちにとっては厳しい検問所を通過しなければいけないというひとつ目の苦難が待ち受ける。さらにオーディションの結果、イスラエル側に人数が偏るという問題も起きる。ようやく合宿までこぎつけるも、両者は水と油のように分離し、和平オーケストラどころではなかった。そんななか、まるでロミオとジュリエットかというラブ・イズ・ブラインドなカップルが生まれる。

■ONEPOINT REVIEW■ 『ありがとう、トニ・エルドマン』のペーター・シモニシェック演じるオーケストラの指揮者エドゥアルトは、じつはナチスの残党の息子という出自を持ち、彼の心に深い影を落としている。支配するものされるものが複雑に絡み合う歴史の流れ。このものがたりの隠し味的な存在になっているが、拭ってもぬぐいきれない過去。隠し味というにはあまりにも悲しい現実だ。
                 (NORIKO YAMASHITA) 
 2022年1月24日 記

監督/共同脚本:ドロール・ザハヴィ 共同脚本:ヨハネス・ロッター
出演:ペーター・シモニシェック/ダニエル・ドンスコイ/サブリナ・アマーリ/メフディ・メスカル/ビビアナ・べグラウ/
2019年ドイツ(112分) 配給:松竹  原題:CRESCENDO
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/crescendo/
© CCC Filmkunst GmbH




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            『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』 
               FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY,KANSAS EVENING SUN
                     2022年1月28日(金)から全国公開

■個性派監督ウェス・アンダーソンが高校生のころに惹かれたという自国米国の雑誌、「ニューヨーカー」への思いにフレンチカルチャー愛をミックスし、独自の感性で描いてゆくマガジンの世界。
アメリカの新聞社がフランス支局で発行している雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の編集長が急死。追悼版にして最終号の編集をとおして、本誌および看板記者たちの個性と魅力が浮き彫りにされる。映画界を代表する俳優たちが多数出演。

■SYNOPSIS■ フランスの街アンニュイ=シュール=ブラゼを拠点に発行している雑誌「フレンチ・ディスパッチ」は、アートから美食までを独自の視点で取材し、世界中で愛されている人気雑誌。ところがある日、創刊者で名物編集長のアーサー(ビル・マーレイ)が心臓まひで急死し、遺言どおり廃刊が決まる。そして最終号となる追悼版にはひとつのレポートと3つの物語が掲載されることに。

■ONEPOINT REVIEW■ 自由でバラエティに富み、ある意味とりとめのないのが雑誌の世界。アンダーソンはモノクロで撮ったりときにカラーにしたり、その特質をうまく映像のなかに取り込んでゆく。彼の信奉者である有名俳優たちがゾロゾロ登場しても、楽しみこそあれ決して破綻しないのもマガジンの中だからこそ。雑誌の世界観がすごくよく出ているのではないか。    (NORIKO YAMASHITA) 
 2022年1月23日 記

監督/脚本:ウェス・アンダーソン 
出演:ベニチオ・デル・トロ/エイドリアン・ブロディ/ティルダ・スウィントン/レア・セドゥ/フランシス・マクドーマンド/ティモシー・シャラメ/リナ・クードリ/ジェフリー・ライト/マチュー・アマルリック/スティーヴン・パーク/ビル・マーレイ/オーウェン・ウィルソン/クリストフ・ヴァルツ/エドワード・ノートン/ジェイソン・シュワルツマン/アンジェリカ・ヒューストン
2021年アメリカ(108分) 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 
原題:FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY,KANSAS EVENING SUN
公式サイト:https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html
©2021 20th Century Studios. All rights reserved.




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              『ライダーズ・オブ・ジャスティス』 RIDERS OF JUSTICE
                 2022年1月21日(金)から新宿武蔵野館ほか全国公開

■犯罪か単なる事故か? 多数の死傷者を生んだ列車事故に巻き込まれた軍人父娘と理数系のオタクたちが、事故の解明と復讐に向けて手を組むコミカルなサスペンス・アクション。監督と脚本は、ソーレン・クラーク=ヤコブセン監督の『ミフネ』や、スザンネ・ビア監督の『ある愛の風景』『アフター・ウェディング』ほかの脚本家で、『アダムズ・アップル』などを監督しているアナス・トマス・イェンセン。軍人を演じたマッツ・ミケルセンとは過去にも何度か共働しており、デンマークを代表する映画人ふたりがふたたび手を組んだ。

■SYNOPSIS■ 統計学の研究が認められず職を失った数学者のオットー(ニコライ・リー・コース)。帰りの電車で大きな事故に巻き込まれ一命を留めるなか、犯罪集団「ライダーズ・オブ・ジャスティス」が仕掛けた暗殺事件ではないかと直感し調べはじめる。一方、列車事故に妻と娘が巻き込まれたことを知り、赴任中のアフガニスタンから急遽戻ってくる職業軍人のマークス(マッツ・ミケルセン)。そこにオットーらどう見てもオタクな理数系の3人組が訪ねてくる。

■ONEPOINT REVIEW■ とにかくすぐに手が出てしまう血の気の多い職業軍人のマークスと、トラウマをそれぞれ抱えオタクな世界に潜り込んでしまっている理数系の3人の男たち。彼らのやり取りはちぐはぐだけれど通じ合うものもあり、ときにはユーモラスで優しさも感じられる。ミケルセンは派手な銃撃戦も見せてくれるが、思い起こせば始まりは自転車の盗難だった。そんなイントロとみごとに対になった、そしてファンタジックなエンディングが用意されている。(NORIKO YAMASHITA) 
 2022年1月16日 記

監督/脚本:アナス・トマス・イェンセン   
出演:マッツ・ミケルセン/ニコライ・リー・コース/アンドレア・ハイク・ガデベルグ/ラース・ブリグマン/ニコラス・ブロ/グスタフ・リンド/ローラン・ムラ
2020年デンマーク=スウェーデン=フィンランド(116分) 配給:クロックワークス
英題:RIDERS OF JUSTICE 公式サイト:https://klockworx-v.com/roj/
© 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.




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              『シルクロード.com――史上最大の闇サイト――』 SILK ROAD
                  2022年1月21日(金)から新宿バルト9ほか全国公開


■司法の網の目をかいくぐりアマゾン級の闇サイトの構築を夢見る若者と、サイバー部署に異動させられたIT音痴捜査官による攻防。さまざまな犯罪に詳しいラッセル監督が、実際にあった話をもとにエンタメテイストも加味して描いたクライム・サスペンス。

■SYNOPSIS■ 麻薬取締局のリック・ボーデン(ジェイソン・クラーク)は強引な捜査が裏目に出て刑務所入り。復帰するもすぐにサイバー犯罪部署に異動させられる。パソコンの操り方も知らない彼は、情報屋の男を巻き込んでまずは闇サイトにアクセスしてみると、違法薬物が簡単に買えることがわかる。「シルクロード」と呼ばれるその闇サイトはやがて社会問題へと発展してゆく。一方、頭脳明晰ながら定職に就かず親を嘆かせていたロス・ウルブリスト(ニック・ロビンソン)はある日、支払いにビットコインを使うことで警察の捜査が及ばない闇サイトを、恋人や友人の忠告を無視して立ち上げる。

■ONEPOINT REVIEW■ 粗野でIT音痴の捜査官ボーデンと、育ちもよさそうでITにも精通している青年。人生の酸いも甘いも知るボーデンは情報屋を巧みに操って自分の弱点を補ってゆくが、青年ロスのほうは理想を掲げるも、自分が立ち上げた闇サイトがヤバイ犯罪の温床になっていっても考えるアタマをもち合わせていない。成功するか否かは紙一重のように見え、彼だってザッカーバーグになれたかもしれないし、逆にザッカーバーグはもうひとりのロスになっていたかもしれない。        
                 (NORIKO YAMASHITA)
  2022年1月15日 記

監督/脚本:ティラー・ラッセル
出演:ジェイソン・クラーク/ニック・ロビンソン/ジミ・シンプソン/アレクサンドラ・シップ/ダレル・ブリット=ギブソン/ポール・ウォルター・ハウザー
原案:デヴィッド・クシュナー「DEAD END ON SILK ROAD: INTERNET CRIME KINGPIN ROSS ULBRICHT’S BIG FALL」(ローリングストーン誌)
2021年アメリカ(117分) 配給:ショウゲート 原題:SILK ROAD
公式サイト:https://silkroad-movie.com/
ⓒ SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.





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              『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』 I’M YOUR MAN
          2022年1月14日(金)から新宿ピカデリー/渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国公開


■AIの開発が加速する、さほど遠くない未来。恋愛を遠ざけていたアラフォー女性が、ある取引から人型ロボットとお見合いをさせられ付き合いはじめる。
絵に描いたようなイケメン・アンドロイドを演じたのは、TVドラマシリーズ「ダウントン・アビー」のマシュー役ダン・スティーヴンス。そして主人公役のマレン・エッガルトが、第71回ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞を受賞している。監督は女優としても活躍してきたマリア・シュラーダー。

■SYNOPSIS■ ベルリンの博物館で楔(くさび)形文字の研究に没頭するアルマは、とあるクラブでお見合いをすることに。お相手はなんと人型ロボットのトム。アンドロイドの恋人などハナから信じていないばかりか、過去の嫌な経験から恋愛そのものを避けてきたアルマだったが、〝彼〟と付き合う実験に参加すれば研究資金を出してもらえるという裏取引に巻き込まれたのだ。恋人とは名ばかりで冷たくあしらう彼女にとまどうトム。そんなある日、アルマは忘れかけていた若き日のことを思い出す。

■ONEPOINT REVIEW■ スパイク・ジョーンズの『her/世界でひとつの彼女』(2013年)で描かれたような、AIと人間との関係における不気味な世界はもはやここにはない。トムのようなアンドロイドの出現は時間の問題と思わせる空気感とともに、すぐそこまで来ている未来を舞台にAIとの関係をユーモラスに描き出してゆく。しかも見終わってみればテーマとなっているのは、ひとが失うことのないロマンチシズム。AIを描きながら殺伐感のない、感性豊かな近未来作品になっている。
                (NORIKO YAMASHITA) 
 2022年1月8日 記

監督/共同脚本:マリア・シュラーダー 共同脚本:リーザ・ブルーメンベルグ
原作: エマ・ブラスラフスキー
出演:ダン・スティーヴンス/マレン・エッガルト/ザンドラ・ヒュラー/ハンス・レーヴ
2021年ドイツ(107分) 配給:アルバトロス・フィルム 英題:I’M YOUR MAN
公式サイト:https://imyourman-movie.com
© 2021, LETTERBOX FILMPRODUKTION, SÜDWESTRUNDFUNK

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                    『スティルウォーター』 STILLWATER
         2022年1月14日(金)から日比谷・TOHOシネマズシャンテ/渋谷シネクイントほか全国公開

■留学中のフランスで殺人事件に巻き込まれ収監されている娘の事件の真相をさぐろうと、異国でひとり奮闘するアメリカ人男性を描いたサスペンス・タッチの人間ドラマ。マット・デイモンが寡黙な主人公を演じ、『扉をたたく人』や『スポットライト 世紀のスクープ』の脚本、監督で名を馳せたトム・マッカーシーが構想から10年がかりで完成させた。

■SYNOPSIS■ 殺人の罪で収監中の娘に面会するため、仏マルセイユを訪れる米オクラホマ州スティルウォーター在住のビル(デイモン)。女性同士の愛憎のもつれからとスキャンダラスに報じられた事件だったが、娘のアリソン(ブレスリン)は無実を訴え弁護士との接触を父に依頼する。だが弁護士は終わった事件として聞く耳を持たない。フランス語を話すことさえできないビルだったが、たまたま知り合ったシングルマザー親子と親しくなり、その協力のもと独自で調査を始める。

■ONEPOINT REVIEW■ とっかかりはマッカーシー監督によるフランスの暗黒小説への関心からだったという。しかしながら脚本がうまくいかず、『スポットライト…』の製作をはさんだのちにジャック・オディアール監督『預言者』の脚本家トーマス・ビデガンと、『ディーパンの闘い』の脚本家ノエ・ドゥブレというフランスの脚本家ふたりに協力を仰ぎ実を結んでゆく。家族関係をぶち壊し、さらに仕事でも失業中の主人公ビルは異国に入り、まさに無我夢中で事件の真相を追うなか少しずつ生き返ってゆく。人物描写だけでなくロケ中心の撮影など、監督のこだわりが随所に見られる。     
                  (NORIKO YAMASHITA) 
2022年1月11日 記

監督/共同脚本:トム・マッカーシー 
共同脚本:マーカス・ヒンチー/トーマス・ビデガン/ノエ・ドゥブレ 
出演:マット・デイモン/アビゲイル・ブレスリン/カミーユ・コッタン/リル・シャウバウ/ディアンナ・ダナガン/イディル・アズーリ
2021年アメリカ(139分) 配給:パルコ/ユニバーサル映画 原題:STILLWATER
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/stillwater
ⓒ 2021 Focus Features, LLC.





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                   『ハウス・オブ・グッチ』 HOUSE OF GUCCI
           2022年1月14日(金)からTOHOシネマズ日本橋/TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

■イタリアの老舗ファッションブランド、グッチの御曹司殺害事件および、経営をめぐるトラブルから崩壊してゆく一族の末路を描いた実話物語。サラ・ゲイ・フォーデンの原作本をもとに、大御所のリドリー・スコット監督で映画化。物語の中心人物をレディー・ガガが演じているほか、アダム・ドライヴァー、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジャレッド・レトらそうそうたるメンツが顔をそろえている。

■SYNOPSIS■ 父の運送会社を手伝うパトリシア(ガガ)はある日、パーティーで若い男性と出会う。ファッションブランド、グッチの創業者の孫マウリツィオ・グッチ(ドライヴァー)だった。偶然を装い積極的にアプローチするパトリシア。マウリツィオの父ロドルフォ(アイアンズ)は財産目当てを怪しみ息子に忠告するが、父の危惧を尻目にふたりはゴールインする。なににおいても積極的なパトリシアは弁護士を目指すマウリツィオを家業に引き戻し、徐々に本性をあらわしてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 「グッチ」とは名ばかりで、現在の経営陣のなかにグッチ一族はひとりも残っていないらしい。そこにいたる物語だ。長兄アルド(パチーノ)と息子パオロ(レト)の親子喧嘩に端を発して明るみに出る脱税と逮捕劇。あまりにも雑で次元の低い話なのだが、そこに占い師の助言に頼るパトリシアの安直な行動が追い打ちをかける。実話なのに十分にエンタメになっているところが悲しいではないか。
                   (NORIKO YAMASHITA) 
2022年1月9日 記

監督:リドリー・スコット 脚本:ベッキー・ジョンストン/ロベルト・ベンティベーニャ
原作:サラ・ゲイ・フォーデン「ハウス・オブ・グッチ 上・下」(ハヤカワ文庫)
出演:レディー・ガガ/アダム・ドライヴァー/アル・パチーノ/ジャレッド・レト/ジェレミー・アイアンズ/サルマ・ハエック
2021年アメリカ(159分) 配給:東宝東和 原題:HOUSE OF GUCCI
公式サイト:https://house-of-gucci.jp/
ⓒ  2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.  








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                『明け方の若者たち』  AKEGATANO WAKAMONOTACHI
                      2021年12月31日(金)から全国公開

■ウェブ媒体で活躍するカツセマサヒコのデビュー小説を、十代から映画制作を続けてきた大学生監督の松本花奈が映画化。学生から社会人へと移る過渡期の青年を主人公に、年上の女性との恋と社会生活、夢と挫折が交差する人生のいっときが描かれる。

■SYNOPSIS■ なじみの沖縄料理店で開かれた就職内定を祝う飲み会。印刷会社に就職が決まった〝僕〟(北村匠海)も参加するが、場になじめず早々に退散しようとしたとき〝彼女〟(黒島結菜)と出会う。ひと目見たときから気になっていたそのひとはアパレル系に就職が決まった年上の大学院生。どちらかというとぼんやり系の僕と、意志がはっきり目の彼女だったが、意気投合して付き合いはじめることに。一方、企画部を希望していた僕は総務部に配属される。理想と現実のギャップは大きかった。

■ONEPOINT REVIEW■ 明大前、下北沢、高円寺…。出てくる街の景色、そして主人公の佇まいもふくめてどこかレトロ感が漂う。70年代?と思ってもおかしくない懐かしさが随所にあるが、おそらくこれはどの世代にも共通のありふれた、ゆえに普遍的な青春なのだろう。カップルを演じた北村匠海と黒島結菜のさわやかさも加味され、甘酸っぱくほろ苦い、王道の青春映画になっている。終盤、予想外の展開がある。   
                 (NORIKO YAMASHITA)
 2021年12月29日 記

監督:松本花奈  脚本:小寺和久 原作:カツセマサヒコ「明け方の若者たち」(幻冬舎文庫)
出演:北村匠海/黒島結菜/井上祐貴/
楽駆/菅原健/高橋春織/佐津川愛美/山中崇/高橋ひとみ/濱田マリ
2021年日本(116分) 配給:パルコ 公式サイト:http://akegata-movie.com/  R15+(映倫)
©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会 




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    『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』  EN HELT ALMINDELIG FAMILIE(A PERFECTLY NORMAL FAMILY)
               2021年12月24日(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開

■親子四人、ごくふつうの生活を送る一家が、両親の離婚でとつぜん崩壊する。離婚の理由は父親のトランスジェンダー宣言だった。女優と並行して短編を制作してきたマル―・ライマン監督の長編第一作で、彼女自身の実体験が物語のベースになっている。

■SYNOPSIS■ 地元のサッカークラブに所属して、少女時代を満喫する11歳のエマ。姉のカロリーネと母のヘレ、そして大好きなパパのトマスに囲まれてファミリーライフも充実していたが、ある日両親が離婚すると告げられて状況は一変する。しかもその理由はパパが性転換して女性になるから、というもの。理解が追いつかないエマは、ことあるごとに反発してしまう。

■ONEPOINT REVIEW■ ジェンダーを扱った作品は当事者側からの訴えが多いが、ここでは娘である少女エマの視点で描かれている。まずは、どういうことなのか理解が追いつかない。パパがどこか遠くへ行ってしまったようで寂しい。さらには周辺の子どもたちからのいじめ的な問題も起きる。その一つひとつに敏感に反応する一方で、次のシーンでは元気を取り戻した笑顔のエマもいる。行ったり来たり、少しずつ少しずつ亀の歩みのように前に進んで成長してゆく、健気な少女の姿がここにはある。              (NORIKO YAMASHITA)  2021年12月23日 記

監督/脚本:マルー・ライマン 出演:カヤ・トフト・ローホルト/ミケル・ボー・フルスゴー/リーモア・ランテ/ニール・ランホルト  
2020年デンマーク(97分) 配給:エスパース・サロウ
原題:EN HELT ALMINDELIG FAMILIE(A PERFECTLY NORMAL FAMILY)
公式サイト:https://pnf.espace-sarou.com/   © 2019 NORDISK FILM PRODUCTION A/S





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                『ヴォイス・オブ・ラブ』  ALINE THE VOICE OF LOVE
  2021年12月24日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

 ©photos jean-marie-leroy

©photos jean-marie-leroy

■カナダの歌姫セリーヌ・ディオンの生い立ちからデビュー、近年にいたるまでを描いた音楽仕立ての半生記。フランスのコメディエンヌで1997年の『カドリーユ』では初監督も果たしているヴァレリー・ルメルシェが、監督、脚本、主演の三役を務めている。本人と聞きまごうみごとな歌を吹き替えで聞かせているのは、オーディションで選ばれたヴィクトリア・シオ。

■SYNOPSIS■ カナダのフランス語圏ケベック州の田舎町で、音楽好き一家の14人きょうだいの末っ子として生まれた少女アリーヌ。幼いころから評判の歌声は、やがてプロデューサーのギィ=クロードに届けられ、才能にほれ込んだ彼によって大切に育てられる。そして少女歌手はやがて世界的なスターへと上りつめてゆく。一方、大人になるにつれてアリーヌにも恋が芽生え、その相手を知ったとき母親が激怒する。

■ONEPOINT REVIEW■ 1964年生まれのルメルシェは現在57歳。1968年生まれのディオンとほぼ同世代だが、その彼女がいきなり12歳のアリーヌとなって登場する。大人と子どものスケール感も微妙で、ルメルシェ流のジョークというか遊び心だろう。これは著名歌姫の物語だけれどあくまでも映画ですよ、フィクションですよというアピールでもあろうか。実際、虚実ないまぜにしながら、ひとりの女性の愛の物語にもなっている。               (NORIKO YAMASHITA) 
 2021年12月20日 記

監督/共同脚本/ ヴァレリー・ルメルシエ 共同脚本:ブリジット・ビュク
出演:シルヴァン・マルセル/ダニエル・フィショウ/ロック・ラフォーチュン/アントワーヌ・ヴェジナ  2020年フランス=カナダ(126分) 配給:セテラ・インターナショナル 
原題:ALINE THE VOICE OF LOVE  公式サイト:http://www.cetera.co.jp/voiceoflove/
©Rectangle Productions/Gaumont/TF1 Films Production/De l'huile/Pcf Aline Le Film Inc./Belga





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            『世界で一番美しい少年』 THE MOST BEAUTIFUL BOY IN THE WORLD
        2021年12月17日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷/新宿シネマカリテほか全国順次公開

■ヴィスコンティの『ベニスに死す』の主役に抜擢され、作品のアイコンになったことから美の象徴として偶像化され、とりわけ日本で人気の高かったビョルン・アンドレセン。50年前に狂騒を巻き起こした15歳の少年の当時とその後、そしていまを追った地元スウェーデン発、本人の心の深層に迫るドキュメンタリー。

■SYNOPSIS■ 1970年。ルキノ・ヴィスコンティ監督はトーマス・マン原作の『ベニスに死す』の撮影を前に、ヨーロッパ中で主役タジオ役のオーディションを行う。お眼鏡にかなう少年がいないなか、ひときわ輝いていたのがストックホルムで見つけたビョルン・アンドレセンだった。15歳にしては背が高過ぎたのをのぞき、多くがイメージ通り。そして作品が完成し、ヴィスコンティが放った言葉「世界で一番美しい少年」が独り歩きし始める。訳もわからないまま、少年は大人たちの狂騒に巻き込まれてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 飾り窓の娼婦か、はたまた競りにかけられる牛を見るような目で少年たちを品定めしてゆくヴィスコンティ。アンドレセンを前に、上半身裸にさせるシーンも衝撃的だ。ボヘミアン気質のあったシングルマザーの母が蒸発し、母方の祖母に育てられたビョルンは、自分の意志など持たぬまま成長期を過ごし深い闇を抱えてゆく。映画『ミッドサマー』でも見せた白髪の老人になったいまもまた衝撃的だが、けれどアーティスト然とした姿は少年時代の美とはまた違った美しさがにじみ出ていて圧倒する。ヴィスコンティのある種の罪深さを考えさせられると同時に、あなたの審美眼はやはり本物だったのかと思わずにいられない。
                  (NORIKO YAMASHITA)
 2021年12月17日 記


監督:クリスティーナ・リンドストロム/クリスティアン・ペトリ
出演:ビョルン・アンドレセン
2021年スウェーデン(98分) 配給:ギャガ 原題:THE MOST BEAUTIFUL BOY IN THE WORLD
公式サイト:https://gaga.ne.jp/most-beautiful-boy/
© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021





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                            『偶然と想像』
              2021年12月17日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国公開

写真上から 第1話「魔法(よりもっと不確か)」
      第2話「扉は開けたままで」   
      第3話「もう一度」

■『寝ても覚めても』『ドライブ・マイ・カー』と着実にキャリアを重ねてきた濱口竜介監督が初めて手掛けた短編集。「偶然」をテーマに3人の女性たちに起きる3つの物語が描かれてゆく。ことしのベルリン国際映画祭で審査員大賞にあたる銀熊賞を受賞。

■SYNOPSIS■ ●第1話「魔法(よりもっと不確か)」 帰宅のタクシーのなか恋バナで盛り上がるモデルの芽衣子とヘアメイクの親友つぐみ。だがつぐみがタクシーを降りたあと、芽衣子は来た道を引き返す。 ●第2話「扉は開けたままで」 大学の教授で作家の瀬川が芥川賞を受賞。彼から単位をもらえずに就職が取り消しになった学生の佐々木はいまも逆恨みしており、つきあっている年上の院生、奈緒にあらぬことをけしかける。 ●第3話「もう一度」 20年ぶりの高校の同窓会に出席するため故郷の仙台にやってきた夏子は翌日、帰り道のエスカレーターで懐かしい顔とすれ違う。

■ONEPOINT REVIEW■ 先に公開された長編『ドライブ・マイ・カー』と並走するような形で制作された初の短編集。短編集づくりのヒントは仏監督のエリック・ロメール作品にあったようだが、内外から評価を得ているいまも模索し実験をいとわない姿勢。ここでは「偶然」というテーマに想像力をからませてアイロニカルなユーモアを引き出し、さらに第2話などは恐怖映画の様相も帯びてくる。異なった物語をつなぐのはシューマンの「子どもの情景」。そのせいか文学短編集的な香りもする
   
                (NORIKO YAMASHITA) 
 2021年12月15日 記

監督/脚本:濱口竜介
出演:古川琴音/中島歩/玄理/渋川清彦/森郁月/甲斐翔真/占部房子/河井青葉
2021年日本(121分) 配給:incline
公式サイト:https://guzen-sozo.incline.life/  
©2021 NEOPA / fictive





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                      『夜空に星のあるように』  POOR COW
                  2021年12月17日(金)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開

©1967 STUDIOCANAL FILMS LTD.
公式サイト:https://yozoranihoshi.com/

■80歳越えのいまも『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』と問題作を連発し、カンヌ映画祭では2度のパルムドールに輝く名匠ケン・ローチ監督。その長編第1作が53年ぶりにリバイバル上映。社会構造の負のスパイラルから抜け出せず、ダメ男たちにすがるしかない若い女性を40代で早世したキャロル・ホワイトが好演し、売出し中だったテレンス・スタンプが共演している。ドノヴァンの曲を随所で使用。

■SYNOPSIS■ 18歳のジョイ(ホワイト)は病院でひとりで男の子を出産する。夫のトムは無関心なだけでなく暴力をふるうこともあり、仲間の前では彼女を侮辱するような男。だがある日強盗に失敗して逮捕される。そんなときに訪ねてきたのが彼の仲間のデイヴ(スタンプ)。ふたりは惹かれ合い同棲を始めるが、彼もまた足を洗えず刑務所入り。すがる相手もなくなったジョイは幼い息子を抱えてパブに勤め始める。


■ONEPOINT REVIEW■ 息子がいなければ娼婦になっていたとつぶやくジョイ。住む家もなく知り合いのアパートを転々としながら生きている彼女にとっては、嘘でも誇張でもない言葉。けれどほんの少しだけ夢を持って生きている。ケン・ローチの作品からはいつも切なさが漂うが、ドキュメンタリータッチで切り取られてゆく市井の人々のリアルな表情から、その切なさが社会全体に充満しているような印象を受ける。ワーキングクラスのだれもが底辺から抜け出せずにいる焦燥感。60年代後半の英国の空気感を出しているのはドノヴァンの音楽やポップスの数々、ヘアスタイル、ファッション…。ドノヴァンの代表曲「カラーズ」をテレンス・スタンプが弾き語りで歌うというレアなシーンもある。         (NORIKO YAMASHITA)
    2021年12月13日 記

監督/共同脚本:ケン・ローチ 原作/共同脚本:ネル・ダン ⾳楽:ドノヴァン
出演:キャロル・ホワイト/テレンス・スタンプ/ジョン・ビンドン/クイーニ・ワッツ/ケイト・ウィリアムス 1967 年イギリス(102分) 配給:コピアポア・フィルム 原題:POOR COW 




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               『ジャネット』 JEANNETTE, L'ENFANCE DE JEANNE D'ARC
               『ジャンヌ』  JEANNE
            2021年12月11日(土)から渋谷ユーロスペースほか二作品同時、全国順次公開          


『ジャンヌ』 © 3B Productions
『ジャネット』© 3B Productions

『ジャネット』© 3B Productions

『ジャンヌ』© 3B Productions

『ジャンヌ』© 3B Productions

■カール・ドライエルやブレッソンら数々の名匠が手がけてきた歴史上の人物、ジャンヌ・ダルクを『ユマニテ』の鬼才ブリュノ・デュモン監督が音楽劇という意表を突く形で映画化。幼年~少女期の『ジャネット』、異端審問にかけられる晩年までを描いた『ジャンヌ』の2部作になっている。19世紀のオルレアン生まれの作家シャルル・ペギーの著作がベースになっていて、『ジャネット』の劇中歌はそこから引用されているという。

■SYNOPSIS■ 15世紀フランス。王位継承をめぐるイングランドとの百年戦争のただ中。日々荒廃してゆく国を憂う農家の娘ジャネット=ジャンヌはある日、神のお告げを聞く。数年後、故国のために闘う決意をした彼女は、家族に別れも告げずに故郷の村をあとにする。さらに数年後、オルレアンの戦いで勝利に導くもやがてイングランドに捕らえられ、カトリック教会による異端審問にかけられる。

■ONEPOINT REVIEW■ 70年代風ハードロックに原作テキストを載せて、幼き日の物語は進行してゆく。ヘッドバンギングを見せる少女や修道女たち。破壊的でパンク感が半端ないのが1作目の『ジャネット』だ。一方、2作目の『ジャンヌ』は音楽担当も変わり様子が変わってくる。素人をずらりそろえたデュモン流が少し変化し、ファブリス・ルキーニの登場で画面がぐっと引き締まってくるのは監督の想定内?外?。1、2作を通じてジャンヌを演じたプリュドムもド素人だが、結果的に10歳の少女が10代後半の晩年も演じたことで、ひと味違ったジャンヌ・ダルク像が生まれている。またブルーを基調にした鮮やかな色彩が印象的なこと、アミアン大聖堂でのロケも圧巻。
                  (NORIKO YAMASHITA)
  2021年12月8日 記
●ジャネット●
監督/脚本:ブリュノ・デュモン 
原作:シャルル・ペギー「ジャンヌ・ダルク」「ジャンヌ・ダルクの愛の秘儀」 音楽:igorrr
出演:リーズ・ルプラ・プリュドム/ジャンヌ・ヴォワザン/リュシル・グーティエ/アリーヌ・シャルル/エリーズ・シャルル 2017年フランス(112分) 配給:ユーロスペース 
原題:JANNETTE,L'ENFANCE DE JEANNE D'ARC
●ジャンヌ●
監督/脚本:ブリュノ・デュモン 原作:シャルル・ペギー「ジャンヌ・ダルク」
音楽/出演:クリストフ 出演:リーズ・ルプラ・プリュドム/ファブリス・ルキーニ

*フロントページ「今週の注目のロードショー」紹介作品




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                    『ローラとふたりの兄』  LOLA ET SES FRERES
          2021年12月10日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷/新宿武蔵野館ほか全国順次公開

©2018 NOLITA CINEMA - LES FILMS DU MONSIEUR - TF1 DROITS AUDIOVISUELS- FRANCE2 CINEMA

■両親なきあと微妙に距離を保ちながらも支え合い、それぞれの幸せを求めて生きる3人の妹兄弟を描いたアットホームなヒューマンドラマ。フランスの人気女優リュディヴィーヌ・サニエが妹を演じ、ふだんはコミカルな役柄の多い役者らと共演している。監督は俳優でもあるジャン=ポール・ル―ヴ。前監督作『美しき人生のつくりかた』に続きふたたびダヴィド・フェンキノスと共同で脚本を書き、自身も長兄役で出演。

■SYNOPSIS■ 弁護士のサラ、眼鏡士のブノワ、解体業者のピエール。フランスの地方都市アングレームで三者三様に生きる妹とふたりの兄。ふだんは顔を合わせることもないが、妹のサラはなんとか3人の絆を保とうと月に一度、両親の墓に参ることを兄たちに課している。そんなある日、ブノワの3度目の結婚式にピエールが大遅刻。おまけにスピーチの席で花嫁の名前を忘れる失態を犯してしまう。そのピエールは妻と別居状態で私生活が不調なうえに仕事でもミスをする。そしてサラはと言えば新たな恋の予感が。

■ONEPOINT REVIEW■ 大衆的な映画が好きだというル―ヴ監督。一見何も起こらない映画をつくるのはとても難しく、秘訣は登場人物に人間味を与えることだと言う。小さな幸せを見つけるためにそれぞれが闘い、けれどユーモアを忘れずに日々を堅実に生きる人たち。知的な職業についたサラ、メガネ選びの最新機具に夢中なブノワ、そしてガテン系のピエール。3人はどのような子ども時代を送り、進む道が枝分かれしていったのだろう。(NORIKO YAMASHITA)
              2021年12月5日 記

監督/共同脚本/出演:ジャン=ポール・ルーヴ 共同脚本:ダヴィド・フェンキノス
出演:リュディヴィーヌ・サニエ/ジョゼ・ガルシア/ラムジー・ベディア/フィリッピーヌ・ルロワ=ボリュー/フラン・ブリュノ―/ポーリーヌ・クレマン/ガブリエル・ナカ―シュ
2018年フランス(105分) 配給:サンリス 原題:LOLA ET SES FRERES
公式サイト:https://senlisfilms.jp/lola_and_bros/





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                 『悪なき殺人』  SEULES LES BETES(ONLY THE ANIMALS)
         2021年12月3日(金)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開/12月4日(土)からデジタル配信開始

© 2019 Haut et Court – Razor Films Produktion –
France 3 Cinema visa n° 150 076

■女性の失踪事件をきっかけに、登場人物5人の人生が視点を変えながら深堀されてゆくミステリアスな群像サスペンス。監督は『ハリー、見知らぬ友人』のドミニク・モル。モル監督とコンビを組むことの多い脚本家で監督のジル・マルシャンが、今回も共同脚本で参加している。ヴァレリア・ブルーニ・テデスキをはじめフランスの性格俳優をずらりとそろえ、東京国際映画祭では観客賞を受賞。

■SYNOPSIS■ パリから雪深い村にやってきた女性が行方不明になり、ひとり暮らしのジョセフのところにも警官が聞き込みに訪れる。それを知って気が気でないのが彼と不倫関係にある社会福祉士のアリス。そしてふたりの関係を知ってか知らずか、アリスの夫ミッシェルはネットでの疑似恋愛に夢中で仕事に身が入らない。一方、失踪したエヴリーヌの若い恋人マリオンが、失踪前の彼女のあとを追って村を訪れる。

■ONEPOINT REVIEW■ 恋する女たち男たちがゾロゾロ登場する。それぞれの逸話は濃厚で女性失踪という本題を忘れそうになりそうだが、話が進むにつれてカチッカチッとパズルがはまってゆき、真相へと導かれてゆく。フランスの話なのに導入部がアフリカなのは、インターネットが結ぶご縁?のせいなのだ。
(NORIKO YAMASHITA) 
                     2021年12月2日 記

監督/共同脚本:ドミニク・モル 共同脚本:ジル・マルシャン 
原作:コラン・二エル「SEULES LES BETES」
出演:ドゥニ・メノーシェ/ロール・カラミー/ダミアン・ボナール/ナディア・テレスキウィッツ/バスティアン・ブイヨン/ギイ・ロジェ・“ビビーゼ”・ンドゥリン/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
2019年フランス=ドイツ(119分) 配給:STAR CHANNEL MOVIES
原題:SEULES LES BETES(ONLY THE ANMAL)  公式サイト:https://akunaki-cinema.com/





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                 『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』  THE SONG OF NAMES
         2021年12月3日(金)から新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

© 2019 SPF (Songs) Productions Inc., LF (Songs) Productions Inc., and Proton Cinema Kft

■35年前、忽然と姿を消したひとりの青年ヴァイオリニスト。その行方と失踪の謎に迫る音楽ミステリー。日本でも著作が数冊出ている音楽ジャーナリスト、ノーマン・レブレヒトの小説を、『レッド・バイオリン』のフランソワ・ジラール監督で映画化。中年となった主人公ふたりをティム・ロスとクライヴ・オーウェンが演じている。

■SYNOPSIS■ 第二次大戦下のロンドン。少年マーティンの家に、同じ年ごろのユダヤ系ポーランド人少年ドヴィドルがやってきて、一緒に暮らすことに。彼のヴァイオリンの才能にマーティンの父親が一目ぼれしたのだ。はじめは反発し合う少年ふたりだったが、やがて意気投合して親友となってゆく。だが数年後のデビューコンサートの日、ドヴィドルはとつぜん姿を消してしまう。そして35年後のある日、音楽の審査員をするマーティンは、ドヴィドルと同じ所作をする少年ヴァイオリニストに出会う。

■ONEPOINT REVIEW■ 失踪のナゾに迫る面白さ。だがその真相がわかったとき、ミステリーが解けた爽快さとはべつの思いが心に迫ってくる。原作本のタイトルで映画の原題でもある「THE SONG OF NAMES」。「名前たちの歌」とはいったい何なのか?その意味の重要性が一気に浮き彫りになってくる。
(NORIKO YAMASHITA)                2021年12月1日 記

監督:フランソワ・ジラール 脚本:ジェフリー・ケイン
原作:ノーマン・レブレヒト「THE SONG OF NAMES」 音楽:ハワード・ショア
ヴァイオリン演奏:レイ・チェン
出演:ティム・ロス/クライヴ・オーウェン/キャサリン・マコーマック/ジョナ・ハウアー=キング
/ジェラン・ハウエル/ルーク・ドイル/ミシャ・ハンドリー/スタンリー・タウンゼント/マグダレナ・チェレツカ/マリナ・ハンブロ/ダニエル・ムトル/シュウォルツ・ゾルタン
2019年イギリス=カナダ=ハンガリー=ドイツ(113分) 配給:キノフィルムズ
原題:THE SONG OF NAMES   公式サイト:https://songofnames.jp/





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                      『パーフェクト・ケア』  I CARE A LOT
               2021年12月3日(金)から3週間限定全国公開 & デジタル配信開始

■老人たちの老後の資金を狙った介護ビジネスの話。だが、狙った相手がヤバイ系だったことから、やってやられての攻防となるエンタメ犯罪コメディへと転じてゆく。悪徳後見人役のロザムンド・パイクが78回ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞。狙われる高齢者にダイアン・ウィースト、あぶない系の男は名わき役として欠かせないピーター・ディンクレイジ。脚本はJ.ブレイクソン監督自身が書いている。

■SYNOPSIS■ 善良を装い裁判官からの信頼も厚いマーラは、じつは同類の医師や介護施設と結託し老人たちを食い物にしている悪徳法廷後見人。新たなカモを物色中に、悠々自適で小金持ち、親戚縁者もいない高齢女性の情報が入ってくる。情報源である医師に診断書を書かせて後見人になると、法的な強制力を行使してパートナーのフランとともに女性をホームに収容。だが目論見ははずれて予想外の展開になってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 後見人をめぐるブリトニー・スピアーズの騒動もあっただけに、米国ではありえない話ではないのかも。そう思うと胸が苦しくなるような導入部だが、おっとどっこい。犯罪ドラマ風の意外な展開となってゆき、さらにもうひと転びある。(NORIKO YAMASHITA) 
                 2021年11月29日 記

監督/脚本: J・ブレイクソン
出演:ロザムンド・パイク/ピーター・ディンクレイジ/エイザ・ゴンザレス/ダイアン・ウィースト
2020年アメリカ(118分) 配給:KADOKAWA 原題:I CARE A LOT
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/perfect-care/
©2020, BBP I Care A Lot, LLC. All rights reserved.





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                    『ダヴィンチは誰に微笑む』  THE SAVIOR FOR SALE
            2021年11月26日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開


©2021 Zadig Productions ©Zadig Productions - FTV
公式サイト:https://gaga.ne.jp/last-davinci/

■アメリカ南部の一般家庭で見つかり10数万円で売買された絵画が、その後レオナルド・ダ・ヴィンチ最後の真筆「サルバドール・ムンディ」ではないかと論争となり、真偽が定まらないまま史上最高値の500億円超で落札されるまでの騒動を、ミステリアスに描いたアートドキュメンタリー。その顛末と真相の謎に迫るのは、フランスのドキュメンタリー作家でジャーナリストのアントワーヌ・ヴィトキーヌ。

■SYNOPSIS■ 2007年、米国の美術商ロバート・サイモンはある宗教画を1175ドルで購入する。ダ・ヴィンチの模写らしきその絵を修復に出してみると絵画の下から別の筆跡が現われ真筆の疑いが。研究者の意見はさまざまだったが、2011年にロンドンのナショナル・ギャラリー「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」に新発見の真作として展示。2013年にロシアの新興財閥が1億2750億ドル(約157億円)で購入。2017年にはオークションに出され、史上最高額の4億5000万ドル(約510億円)で落札される。 

■ONEPOINT REVIEW■ ロシアの富豪が購入する際に代理人に数十億円中抜きされたり、最後の購入者と目されるサウジアラビア皇太子とフランス政府との裏取引的やり取りなど、ヤクザな話がいろいろ出てきて面白い。だがなかでもいちばん興味を引いたのは、クリスティーズが古典作品としてではなくて現代美術部門でオークションにかけた点だ。来歴を気にする古典ファンにではなく、現代美術愛好家に売ろうとする戦略はまさに功を奏するが、米国流にべたべた上塗りされて修復されたこの絵は、皮肉でも何でもなく現代美術そのものなのかも。(NORIKO YAMASHITA)    2021年11月23日 記

監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ
出演(インタビュー):ロバート・サイモン(美術商)/マーティン・ケンプ(美術史家)/イヴ・ブービエ(代理人)/ニコラス・ジョリー(サザビーズ)/アン・ラミュニエール(クリスティーズ)
2021年フランス(100分) 配給:ギャガ 原題:THE SAVIOR FOR SALE
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                      『茲山魚譜-チャサンオボ-』  자산어보
            2021年11月19日(金)からシネマート新宿/シネマート心斎橋ほか全国順次公開

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公式サイト:https://chasan-obo.com/

■異教であるキリスト教を信仰したことから流刑に処された学者が、流刑先で島民と交流し、青年漁師から得た知識をもとに魚介類の名著「茲山魚譜」を著すまでを描いた歴史ドラマ。『王の男』や『金子文子と朴烈(パクヨル) 』のイ・ジュニク監督は、モノクロ映像で画づくりにこだわりを見せる一方、朗らかに生きる人びとを庶民目線でとらえて人間賛歌をうたっている。

■SYNOPSIS■ 王の死後、キリスト教(天主教)への弾圧が厳しくなった1800年代初頭の朝鮮。信者だった学者三兄弟も捕らえられるが、次男は死刑となり、長男ヤクチョンと三男はそれぞれ違う島に流刑となる。黒土島(フクサンド)に送られたヤクチョンは島民から温かく迎えられ、日々暮らすうちに島で獲れる多様な魚介の奥深さに引かれ、魚介に精通する博学な青年漁師チャンデにある取引きを申し出る。

■ONEPOINT REVIEW■ 島流しされたヤクチョンが長旅を経て島に着くと、モノクロ映像のままなのに、まるで転調したように画面は一気に陽気になる。『パラサイト 半地下の家族』で名を挙げた女優イ・ジョンウンらによる、朗らかでぶしつけでコミカルな演技。そうした物語展開は韓国映画が得意とするところだが、イ・ジュニク監督、そしてヤクチョン役のソル・ギョングは品よくまとめてゆく。
(NORIKO YAMASHITA) 
                    2021年11月16日 記

監督:イ・ジュニク 脚本:キム・セギョム
出演:ソル・ギョング/ピョン・ヨハン/リュ・スンリョン/イ・ジョンウン/ミン・ドヒ
2021年韓国(126分) 配給:ツイン 原題:자산어보 




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                     『フォーリング 50年間の想い出』  FALLING
      2021年11月12日(金)からkino cinema横浜みなとみらい/kino cinema立川高島屋S.C.館ほか全国順次公開

© 2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited· SCORE
© 2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC.
· A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION

■『グリーン・ブック』や『ロード・オブ・ザ・リング』の性格俳優ヴィゴ・モーテンセンが初監督のテーマに選んだのは、偏屈な父親との50年にわたる思い出と確執を描いた半自伝的な物語。監督に加えてランス・ヘンリクセンとのW主演、脚本、作曲と多才を発揮している。モーテンセンと関わりのあるデヴィッド・クローネンバーグも出演。

■SYNOPSIS■ 田舎の牧場でひとり暮らしをする高齢の父ウィリス(ヘンリクセン)の希望でジョン(モーテンセン)は施設探しを始めるが、いざ本人をカリフォルニアに呼び寄せてみると、痴呆症状が進み始めていて自分が言ったことを覚えていない。そして記憶のなかにあるジョンの母親グウェンと後妻のジルをののしり、ふたりの区別もおぼつかない状態。さらにジョンの男性パートナー、エリックや妹サラ(ローラ・リニ―)の子どもたちにも口汚い言葉を連発し、周囲を困らせてしまう。 

■ONEPOINT REVIEW■ ヘンリクセンはじめモーテンセンゆかりの北欧系のひとたちで固めた感があるが、撮影監督のマルセル・ザイスキンドもそのひとり。彼との協働効果は大きかったようだ。信頼できる相棒を得て、映画に対するモーテンセンの情熱やセンス、こだわりが随所に感じられる作品になっている。映画を俯瞰的、包括的に眺めてつくることができるシネアストの誕生だ。(NORIKO YAMASHITA) 
2021年11月10日記

監督/脚本/音楽/出演:ヴィゴ・モーテンセン
出演:ランス・ヘンリクセン/テリー・チェン/スヴェリル・グドナソン/ハンナ・グロス/ヘンリー・モーテンセン/デヴィッド・クローネンバーグ/ローラ・リニー
2020年カナダ=イギリス(112分) 配給:キノシネマ 原題:FALLING
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/falling




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                  『皮膚を売った男』  THE MAN WHO SOLD HIS SKIN
      2021年11月12日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマ/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

© 2020 ‒ TANIT FILMS ‒ CINETELEFILMS ‒ TWENTY TWENTY VISION ‒ KWASSA FILMS‒ LAIKA FILM & TELEVISION ‒METAFORA PRODUCTIONS -
FILM I VAST - ISTIQLAL FILMS- A.R.T - VOO & BE TV

■恋人と引き離された上に自由を奪われたシリア人の男性が、現代アートの作家と出会い背中の皮膚を売る契約を交わす。物議を醸した実在のアート作品に刺激を受けたベン・ハニア監督が、難民問題をからませて書き下ろしたミステリータッチの人間ドラマ。物語のもとになったアート作品の作者ヴィム・デルボアも保険業者役で出演している。

■SYNOPSIS■ 家柄の違いから恋人アビールとの仲を裂かれたサムはある日、自由への渇望を叫んだ動画が流出してシリア国内で拘留される。知り合いの計らいで脱獄してレバノンに逃れたものの、パーティー会場で食べ物を漁るような日々。そんな彼に目をつけたあるアーティストから、自分の作品にならないかと持ちかけられる。大金だけでなく国境を行き来できるビザも手に入れられるという。アビールの嫁ぎ先ベルギーに渡りたい一心のサムは、〝悪魔の契約〟をアーティストと結ぶ。  

■ONEPOINT REVIEW■ サムが暮らす自由のない世界に対し、自由を通り越して傲慢にさえなっているアートシーン。しかし一方、ここでは美意識が映画全体に大きな力を与えているのもたしか。バロック音楽(ヘンデルだろうか?)流れるなか、アーティストのジェフリーがサムにタトゥーを施してゆくシーンなど、力強く美しい場面はこの作品の大きな魅力になっている。カウテール・ベン・ハニア監督はパリでも学んだチュニジア出身の女性監督。(NORIKO YAMASHITA)
           2021年11月9日 記

監督/脚本:カウテール・ベン・ハニア
出演:ヤヤ・マヘイニ/ディア・リアン/ケーン・デ・ボーウ/モニカ・ベルッチ/サード・ロスタン
/ダリナ・アル・ジュンディ/ヴィム・デルボア
2020年チュニジア=フランス=ベルギー=スウェーデン=ドイツ=カタール=サウジアラビア(104分) 配給:コムストック 英題:THE MAN WHO SOLD HIS SKIN
公式サイト:https://hifu-movie.com/




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                      『ほんとうのピノッキオ』  PINOCCHIO
             2021年11月5日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

copyright 2019 ©ARCHIMEDE SRL - LE PACTE SAS

公式サイト:https://happinet-phantom.com/pinocchio/

■ウソをつくとお鼻が伸びるんだよ、という教訓的な話で知られる児童文学の名作。1940年につくられたディズニーのアニメ版がよく知られているが、オリジナルはどんなお話だったのか。原作の地元、イタリアの異才マッテオ・ガローネ監督がほんとうのピノッキオに迫った実写版。ベニーニが久々に登場して、らしさを見せている。

■SYNOPSIS■ 貧しい木工職人のジェペット爺さんがある日、一本の丸太から男の子の人形を彫り上げると、その人形はまるで生きているかのように「パパ」と口を開いた。喜んだジェペットは人形をピノッキオと名づけ、服を着せ、学校にも通わせようとするが、彼は言いつけを守らずにやりたい放題。人形劇一座の親方につかまったり、道で出遭った狐と猫にだまされたり。そんなピノッキオをひとりの妖精が救ってくれる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 2度のカンヌ・グランプリに輝き、前作『ドッグマン』でも曲者ぶりを発揮したガローネ監督による、おとなも子どもも楽しめるダークファンタジーの誕生だ。イタリア遺跡としていまも残っていそうな石造りの町からはじまる、リアルとファンタジーがないまぜになったような導入部。その本物感やクリーチャーの完成度の高さが、一気に心をとらえてゆく。(NORIKO YAMASHITA) 
 2021年11月4日 記

監督/共同脚本:マッテオ・ガローネ 共同脚本/出演:マッシモ・チェッケリーニ
原作:カルロ・コッローディ「ピノッキオの冒険」 影監督:ニコライ・ブルーエル
出演:ロベルト・ベニーニ/フェデリコ・エラピ/ジジ・プロイエッティ/ロッコ・パパレオ/マリーヌ・ヴァクト/アリーダ・バルダリ・カラブリア/マリア・ピア・ティモ/マッシミリアーノ・ガッロ/ジャンフランコ・ガッロ/ダヴィデ・マロッタ/テコ・セリオ
2019年イタリア(124分) 配給:ハピネットファントム・スタジオ 原題:PINOCCHIO




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               『アレックス STRAIGHT CUT』 IRREVERSIBLE STRAIGHT CUT
                 2021年10月29日(金) から 新宿武蔵野館ほか全国順次公開


■パーティー帰りの深夜。一緒に出かけた恋人とは帰らずにひとり帰宅することになった女性アレックスは、人気のない地下道で暴漢に襲われ激しく痛めつけられる。それを知り動揺が収まらない恋人の復讐を、過剰な暴力で描いた衝撃の人間ドラマ。ノエ監督は時間を逆行させて描写した2002年のオリジナル『アレックス』を、時間軸に沿い『アレックス STRAIGHT CUT』として再構築。20年近くを経てふたたび世に問う。

■SYNOPSIS■ アレックス(ベルッチ)とマルキュス(カッセル)のカップル。妊娠もわかり幸せのさなかのふたりは、アレックスの元恋人でふたりの友人でもあるピエール(デュポンテル)とともに3人でパーティーに向かう。パーティー会場で恋人を置き去りにして羽目をはずすマルキュス。彼がクスリもやっていることを知ったアレックスは激怒し、ひとりで帰ることに。道路の反対側に出ようと深夜の地下道をわたっていると、連れに暴力をふるっている男と出遭う。

■ONEPOINT REVIEW■ ノエ監督は性描写も激しいから、日本では全域にボカシがかかりもはや意味不明な作品もある。しかし『アレックス』はその逆だ。ボカシがないのに、こんどはその暴力の激しさから目をそらさずにはいられないという皮肉。原題の「IRREVERSIBLE」は取り返しがつかない、巻き戻し不能の意味で、20年前のオリジナルではあえて巻き戻して描いて見せた。その意図はわかる、それでもなお、このSTRAIGHT CUT版をつくってくれて良かったと思う。アニエス・ヴァルダ監督の『幸福』を思わせるような桃源郷的な入り。ヴァルダはモーツァルトを使ったがノエはベートーヴェンの第7番。美しいがその後のできごとを予兆するような不安げな導入部だ。
(NORIKO YAMASHITA) 
     
                2021年10月21日 記

監督/脚本:ギャスパー・ノエ 出演:モニカ・ベルッチ/ヴァンサン・カッセル/アルべール・デュポンテル/ジョー・プレスティア
2020年フランス(90分) 配給:太秦 原題:IRREVERSIBLE STRAIGHT CUT  R18+指定
©2020 / STUDIOCANAL - Les Cinemas de la Zone - 120 Films. All rights reserved.
公式サイト:https://alex-straight.jp/ 

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                     『スウィート・シング』  SWEET THING
    2021年10月29日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷/新宿シネマカリテ/アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

© 2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS.
ALL RIGHTS RESERVED

公式サイト:http://moviola.jp/sweetthing

■妻に捨てられ酒びたりの父が強制入院。身を寄せた母のもとで少女と少年が遭遇するトラブルと逃避行を、NYインディーズシーンを代表するロックウェル監督がモノクロとカラーを混在させた映像で美しく描いた。主人公ふたりは監督の実の子どもたち。クルーもNY大大学院生を使うなどインディーズの本領を発揮するなか、ウィル・パットンという名優をからませることで瑞々しくもプロフェッショナルな作品になっている。

■SYNOPSIS■ ふだんはひと一倍優しい父だが深酒をすると手におえない酒乱。ついに入院措置となり、残されたビリー15歳、ニコ11歳の姉弟は母のもとに身を寄せる。母の目下のパートナーはクラブの経営者だが、食事の席で母を侮辱しただけではなくニコにも暴力をふるい、さらには人目につかないところであるまじき行動に出る。

■ONEPOINT REVIEW■ 父アダムが好きな歌手のビリー・ホリデイや映画『地獄の逃避行』、『スタンド・バイ・ミー』など実在のひとや作品を匂わせるシーンがいくつも出てくる。そのなかでも作品を象徴し映画のタイトルになっている「スウィート・シング」は、孤高のシンガー・ソングライター、ヴァン・モリソンの楽曲で、ヴァンモリ本人の音源に加えて少女ビリーも映画内で歌っている。スウィート・シングが「愛しい君」のような意味なら、「愛しい」という言葉はこの作品にそのまま捧げたい思いがする。(NORIKO YAMASHITA)
                     2021年10月26日 記

監督/脚本:アレクサンダー・ロックウェル 
出演:ラナ・ロックウェル/ニコ・ロックウェル/ウィル・パットン/カリン・パーソンズ
2020年アメリカ(91分) 配給:ムヴィオラ 原題:SWEET THING




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                     『MONOS 猿と呼ばれし者たち』  MONOS
           2021年10月30日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

© Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine




公式サイト:http://www.zaziefilms.com/monos/

■ひと里離れたところで訓練をおこない、“人質”の監視と世話をする少年少女兵たち。組織の管理のもと統率のとれた行動をとっているが、ある日アクシデントが起きてグループはバラバラになってゆく。大規模なゲリラ組織も生まれたコロンビアの内戦にインスパイアされ、同国の血を引くランデス監督がつくった衝撃の一作。

■SYNOPSIS■ ひと気のない山岳地帯、司令官の指示に従い訓練を行う8人の少年少女兵たち。彼らは「モノス(サルたち)」と呼ばれるゲリラの下部組織で、任務は「博士」と呼ばれる人質の監視と世話。若い彼らのあいだでは恋も芽生え、リーダーのウルフはレディという少女とカップルになることを司令官に認めてもらう。ある日、酒を飲んで羽目を外したメンバーが誤って大切な牛を殺めると、ウルフは責任を感じて自死してしまう。みずから新たなリーダーとなったビッグフッドは独裁色がつよく利己的で、グループ内に不穏な空気が流れはじめる。


■ONEPOINT REVIEW■ 酸素がうすい山岳地帯や密林、急な渓谷でのスタントなしの撮影。どんな安全対策が取られたのかハラハラするほど、過酷さやリアル感がダイレクトに伝わってくる。一方、文学的な要素も随所で見られる。監督が影響を受けたというゴールディングの「蠅の王」や、コンラッドの「闇の奥」(コッポラ監督『地獄の黙示録』の原作)を想起させるシーン。リアルとイマジネーションが緻密に絡まりあって生まれるランデス・ワールド。長編2作目。日本では初お目見えとなるが、要注目のシネアストだ。
(NORIKO YAMASHITA)                 2021年10月20日 記

監督/共同脚本:アレハンドロ・ランデス 共同脚本:アレクシス・ドス・サントス
音楽:ミカ・レヴィ 出演:モイセス・アリアス/ジュリアンヌ・ニコルソン
2019年コロンビア=アルゼンチン=オランダ=ドイツ=スウェーデン=ウルグアイ=スイス=デンマーク(102分) 配給:ザジフィルムズ  原題:MONOS





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                   『モーリタニアン 黒塗りの記録』  MAURITANIAN
               2021年10月29日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

© 2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.




公式サイト:https://kuronuri-movie.com/

■9.11同時多発テロの首謀者のひとりとして拘束されたモーリタニア人の男性と、その弁護を買って出る人権弁護士の女性。黒塗りのまま出版されベストセラーとなった男性の手記をもとに、英国で映画化された実話物語だ。ジョディ・フォスターがゴールデングローブ賞の助演女優賞を受賞し、主演のT・ラヒムもノミネート。製作陣のひとりカンバーバッチも重要な役で出演している。監督はドキュメンタリーでキャリアを重ね、『ラストキング・オブ・スコットランド』の監督でもあるケヴィン・マクドナルド。

■SYNOPSIS■ 人権派の弁護士として腕をふるうナタリー・ホランダー(ジョディ・フォスター)は2005年のある日、裁判も受けずに何年もキューバの米軍基地にあるグアンタナモ収容所に収監されているモーリタニア人、モハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)の存在を知り無償の弁護を買って出る。一方、テロの被疑者たちを有罪に持ち込むことに難航していた米政府は、スチュワート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)に白羽の矢を立て、モハメドゥを起訴して死刑第一号に追い込むよう命じる。

■ONEPOINT REVIEW■ 国家機密を盾に民主主義国家のご本家、米国でも横行する黒塗り文書。しかしその程度の差は、時の政権の質によるかもしれない。ともあれブッシュ(子)政権のこのとき、もはや文書にすらなっていない黒塗りだらけの書類の束をわたされ、弁護側のナタリーも起訴する側のスチュワート中佐も愕然とする。政府のやり口を知りつくし、黒塗り覚悟でモハメドゥに手記を書かせる弁護人ホランダーはかなりの策士であり、フォスターはあえてタフに演じているが、本物は映画の彼女よりもエレガントで穏やかなひとだという。(NORIKO YAMASHITA)    
2021年10月19日 記

監督:ケヴィン・マクドナルド 原作:モハメドゥ・ウルド・スラヒ「グアンタナモ収容所 地獄からの手記」(河出書房新社) 出演:ジョディ・フォスター/ベネディクト・カンバ―バッチ/タハール・ラヒム/シャイリーン・ウッドリー/ザッカリー・リーヴァイ
2021年イギリス(129分) 配給:キノフィルムズ 原題:THE MAURITANIAN




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                  『ビルド・ア・ガール』  HOW TO BUILD A GIRL
                 2021年10月22日(金)から新宿武蔵野館ほか全国公開

© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC,
Channel Four Television Corporation, 2019


公式サイト:https://buildagirl.jp/

■イケてない高校生活を送る少女がある日、文才を活かしてロック誌の花形ライターになるのだが…。“若気の至り”の悔恨を描いたホロ苦青春コメディ。『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』のフェルドスタインが、自信と劣等感が背中合わせとなった主人公を自虐気味にコミカルに演じている。原作者モランの実話物語。

■SYNOPSIS■ 1993年、英国のとある郊外。双子を抱えてウツ気味の母と、いまもロックスターを夢見る父。家族7人で小さな家に暮らすジョアンナ(フェルドスタイン)は学校では友だちもいなく、まったくもってイケていない学園生活を送っている。だがある日、唯一の才能と言っていいい文才を活かし、人気ロック誌のライター募集に応募。なんとか食い込むうちに若年辛口ライターとして人気者になってゆく。そしてある日、ロックスターのジョン・カイト(アルフィー・アレン)に取材し原稿を書くことに。

■ONEPOINT REVIEW■ どんどん人気ライターとして上り詰めてゆくあたりは出世物語かと思えばそうではなく、少女ライターを有頂天にさせる裏切りが背後にあって、現実の話だけに生々しい。子どもっぽい輩が多いなか、ふたりの大人が物語を引き締めている。ひとりはアルフィー・アレンが演じたロックスター。そしてもうひとり、エマ・トンプソンが最後の最後に貫禄で登場する。
(NORIKO YAMASHITA)
                      2021年10月18日 記

監督:コーキー・ギェドロイツ 脚本/原作:キャトリン・モラン「How To Build a Girl」
出演:ビーニー・フェルドスタイン/パティ・コンシダイン/サラ・ソルマーニ/アルフィー・アレン/フランク・ディレイン/クリス・オダウド/エマ・トンプソン
2019年イギリス(105分) 配給:ポニーキャニオン 原題:HOW TO BUILD A GIRL R-15指定




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                         『かそけきサンカヨウ』
                2021年10月15日(金)からテアトル新宿ほか全国公開

©2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会



公式サイト:https://kasokeki-movie.com/ 

■幼いころに生き別れた母への思慕を抱きつづけながら父と暮らし、新しい母と妹を迎えるひとりの少女。同級生への淡い恋の芽生えなど、成長期の繊細な心の動きを描いた青春ドラマ。映画にもなった「ふがいない僕は空を見た」(山本周五郎賞受賞)の作家、窪美澄の短編を『愛がなんだ』の今泉力哉監督で映画化した。

■SYNOPSIS■ 「サンカヨウ」の花を探す母の背中に逆向きにおぶられ空を見る自分。陽(志田彩良)にとっての数少ない母の思い出だが、いまは父親(井浦新)とふたり暮らし。多忙な父に代わって家事は彼女が担当している。そんなある日、父から好きなひとができたと打ち明けられる…。高校で美術部に所属する陽は、おなじく美術部に所属する仲のいい陸(鈴鹿央士)から、こんど一緒に出かけない?と誘われる。誘われた陽が選んだのはある水彩画の個展だった。
          
■ONEPOINT REVIEW■ サンカヨウという植物は水にぬれると花びらが透明になるのだという。画家である陽の母はおそらく、写生するためにその花を求めていたのだろう。母の記憶は少ないけれど、陽もいつしか母と同じような淡い水彩画を好む描き手となっていた。敢えての説明はなくても、ひとの感情が静かに映画のなかで流れてゆく。そしてそれを静かに支えて心地よいのが、志田(陽)と鈴鹿(陸)のふたりの若手だ。
(NORIKO YAMASHITA)
     
                 2021年10月12日 記

監督/共同脚本:今泉力哉 共同脚本:澤井香織 
原作:窪美澄「水やりはいつも深夜だけど」所収「かそけきサンカヨウ」(角川文庫)
出演:志田彩良 /井浦 新/鈴鹿央士/菊池亜希子/梅沢昌代/西田尚美/石田ひかり
2021年日本(115分) 配給:イオンエンターテイメント




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                 『ザ・モール』 THE MOLE:UNDERCOVER IN NORTH KOREA
           2021年10月15日(金)からシネマート新宿/シネマート心斎橋ほか全国順次公開

©  2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS
公式サイト:https://themole-movie.com/

写真上:ウルリク(右)とKFA会長アレハンドロ
写真下:ウルリク(右)とブリュガー監督

■元料理人の一般人の男性が北朝鮮に潜入し、同国がひた隠す武器密輸の闇取引の真相を暴いてゆく衝撃のドキュメンタリー。『誰がハマーショルドを殺したか』などのドキュメンタリー作家でジャーナリストのマッツ・ブリュガー監督が、潜入者の男性と手を組んで10年がかりで完成させた驚きの映像。

■SYNOPSIS■ はじまりはウルリク・ラーセンという元料理人の男性から、ブリュガー監督に送られてきたメッセージだった。監督の個人的なスパイとなってKFA(朝鮮親善協会)に潜入するので、独裁国家の真実を暴くドキュメンタリーをつくってほしいという。知らない人物からの申し出に監督はとまどうが、ウルリクはデンマークの北朝鮮友好協会を経てより大きなKFAに潜入。組織のなかで出世するうちにKFA会長のアレハンドロとも親しくなり、信用されてゆく。彼は北朝鮮の要人にも顔が利く超大物だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 緻密でないスパイ映画のように危機一髪をすり抜けたり、北朝鮮側の警戒が甘かったり、本物のドキュメンタリーとは信じがたいところもあるのだが、正真正銘の本物だというから二度びっくり。監督自身(演技でないのなら)半信半疑のような部分も見受けられるが、2009年につくった『ザ・レッド・チャペル』が北朝鮮の怒りを買って出禁状態の身にとっては、結果的に思わぬリベンジとなった。   
 
(NORIKO YAMASHITA)                      2021年10月11日 記

監督:マッツ・ブリュガー
2020年ノルウェーデンマーク=イギリス=スウェーデン(120分) 
配給:ツイン 協力:NHKエンタープライズ 原題:THE MOLE:UNDERCOVER IN NORTH KOREA




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                         『TOVE/トーベ』 TOVE
      2021年10月1日(金) から 新宿武蔵野館/渋谷・Bunkamuraル・シネマ/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか


■世界中で知られる摩訶不思議なキャラクター「ムーミン」。その生みの親であるトーべ・ヤンソンのアーティストとしての葛藤、自由奔放な生きざまにスポットを当てた伝記物語。バリルート監督と脚本家、ふたりの女性映画人が、世界に誇る地元フィンランド出身の女性アーティストの知られざる半生にフォーカスしてゆく。

■SYNOPSIS■ 第2次大戦末期の1944年フィンランド・ヘルシンキ。両親、弟とともに暮らすトーべはついに家を出る。絵画だけでなくイラストやコミック的なものも手がけるトーベは、それに苦言を呈する彫刻家の父の干渉に耐えられなくなったのだ。幸い内装や設備はボロボロながら天井の高いアトリエ向きの部屋を借りることができ、新たな一歩が始まる。「ムーミン」が形を成し、気の合う男友だちができ、そして運命のひと、ヴィヴィカ・バンドラーと出会う。

■ONEPOINT REVIEW■ 画家のトーベと彫刻家の父ヴィクトルは親子でありながら、おなじ芸術家としてライバルのような存在でもあったのだろう。フィンランドのガラス作家として人気のあるカイ・フランクなども出てきた時代だ。トーベは父の権威主義的なところになじめず許せないが、反発はしても葛藤の材料となって心の底に蓄積されてゆく。また一方で、自分以上に奔放なバンドラーとの出会いは大きな喜びとなり、恋の悩みともなってゆく。そんな悩みの種たちが、ムーミン物語のキャラクターとなっていることも映画を観るとよくわかる。(NORIKO YAMASHITA)  
 
2021年9月25日 記

監督:ザイダ・バリルート 脚本:エーヴァ・プトロ 出演:アルマ・ポウスティ/クリスタ・コソネン/シャンティ・ローニー/ヨアンナ・ハールッティ/ロベルト・エンケル
2020年フィンランド=スウェーデン(103分) 原題:TOVE 配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/tove/    © 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved


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                           『空白』
                   2021年9月23日(木・祝)から全国公開


© 2021『空白』製作委員会
公式サイト:https://kuhaku-movie.com/

■気性が荒くキレやすく、周囲に波風を立てながら生きてきたシングルファーザーの男が、同居して育てるひとり娘を事故で失い、事故に関わるひとたちを不幸に巻き込んでゆく人間ドラマ。『新聞記者』や『パンケーキを毒見する』など問題作を連発して一石を投じてきた河村プロデューサーが今回組んだのは、脚本でも評価が高い『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督。古田新太と松坂桃李の共演も話題の一作。

■SYNOPSIS■ 学校で目立たない存在の少女、花音(伊東蒼)はある日、スーパーで万引きを疑われ、店長の青柳(松坂)に追いかけられるなか事故に遭う。両親の離婚後花音が一緒に暮らしている父の充(古田)は短気な男で、周囲とのいざこざが絶えず娘にも厳しかったが、花音の死にショックを受け青柳を追い詰めてゆく。さらに花音を轢いた女性の謝罪を受け入れず、事故に関わった人びとを次々と不幸に追い込む。

■ONEPOINT REVIEW■ 英題は不寛容を意味する「イントレランス」だという。ひとの過失を許すことができない主人公の性格(あるいは性質なのか)から来ていると思われるが、その一方でここには「悪人」が存在しないことがやるせなさを増殖させてゆく。ひととコミュニケーションが取れず闇を抱えて生きる登場人物たちの連なりが、物語を奥深くしてゆく。(NORIKO YAMASHITA)  
         2021年9月19日 記

監督/脚本:𠮷田恵輔 企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
出演:古田新太/松坂桃李/田畑智子/藤原季節/趣里/伊東蒼/片岡礼子/寺島しのぶ
2021年日本(107分) 配給:スターサンズ/KADOKAWA




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                    『クーリエ:最高機密の運び屋』 THE COURIER
                 2021年9月23日(木・祝)からTOHOシネマズ日比谷ほか






© 2020 IRONBARK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://www.courier-movie.jp/

■東西冷戦が深刻となり「キューバ危機」が勃発する1960年代前半。西側のスパイとしてリクルートされてソ連に送り込まれ、核戦争回避の一助となった英国人セールスマンを描いた実話物語。少ない資料をもとに企画立案したのは脚本家のトム・オコナー。演劇畑で活躍しS・ローナン主演の『追想』で映画監督デビューしたドミニク・クックがメガホンをとっている。そして、彼と仕事経験のあるカンバーバッチが主人公を演じた。

■SYNOPSIS■ 東欧で商いをするセールスマンのウィン(カンバーバッチ)はある日、商務庁の人間だという男女からランチの誘いを受ける。商談かと思い出向くと、女性は米国CIA、男性は英国M16のスパイであることを知る。彼らの狙いは一介のセールスマンでだれにも怪しまれないウィンをスパイとしてソ連に送り込むこと。きっかけはソ連高官から送られてきた一通の手紙だった。手紙には「核戦争勃発の危機を封じる手助けをしたい」と書かれていた。ウィンの役目は高官と接触して情報を運ぶ「運び屋」。危険を感じ固辞するウィンだったが、口車に乗せられ渋々引き受けることになる。

■ONEPOINT REVIEW■ 頻繁に核実験が行われて「死の灰」が日本にも流れ、連日NHKのトップニュースとして報じられていたような時代だ。米ソによる全面核戦争=人類の滅亡は現実的だった。その危機の回避にひと役買った民間人の話。終盤はカンバーバッチの役づくりが見せどころとなっている。ひとつ気になったのはフルシチョフの描き方。スターリンの独裁を暴いたひととして知られる彼を、悪役としてのロシア人として単純に描くのは乱暴に見えた。
(NORIKO YAMASHITA)     2021年9月18日 記

監督:ドミニク・クック 脚本:トム・オコナー 出演:ベネディクト・カンバーバッチ/メラーブ・ニニッゼ/レイチェル・ブロズナハン/ジェシー・バックリー/アンガス・ライト/ジェリコ・イヴァネク/キリル・ピロゴフ/アントン・レッサー/マリア・ミロノワ/ウラジミール・チュプリ
2021年イギリス=アメリカ(112分) 配給:キノフィルムズ 原題:THE COURIER 




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                   『アイダよ、何処へ?』 QUO VADIS, AIDA?
     2021年9月17日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマ/ヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか

© 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion /Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte 

公式サイト:https://aida-movie.com/

■ボスニア紛争の爪痕を描いた『サラエボの花』と『サラエボ、希望の街角』で注目されたヤスミラ・ジュバニッチ監督の新作は、内戦末期に起きた大虐殺を、国連軍の通訳をする女性を主人公に描いた緊迫感あふれる一作。オスカーの国際長編映画賞候補作。

■SYNOPSIS■ 1995年7月。92年にボスニア・ヘルツェゴビナで起きた内戦は混乱を極め、国連が「安全地帯」と定めた地区もセルビア人勢力が包囲。そこに暮らすボシュニャク系市民の半数が国連施設に押しかける事態となる。だが軍事力に勝るセルビア軍を前に国連軍はなすすべがない。国連で通訳を務めるアイダは、なんとかして夫とふたりの息子を施設内に入れようと奔走する。一方、セルビア軍は国連側の制止を無視して施設内に立ち入り、さらに施設内外にあふれる人々を選別してバスに乗せ移動させる。
 
■ONEPOINT REVIEW■ ボスニア紛争は映画を通して知ることが多い。紛争で亡くなった人は20万人。映画で描かれる〝安全地帯〟スレブレニツァではおよそ8000人の市民が虐殺された。すし詰め状態の施設内ではガスが流されるぞと半狂乱になるひとも出るが、その不安はあながち外れていない。外ではまるでアウシュヴィッツさながらに男女が選別され、まさかのことが粛々と行われてゆく。驚いたのはボシュニャク人のアイダ役ジュリチッチがじっさいはセルビア人で、セルビア人将軍役のイサコヴィッチと私生活では夫婦という裏話。このキャスティングは非難や政治的圧力の対象になっているというから、戦争の傷はいまも根深い。(NORIKO YAMASHITA)  
2021年9月11日 記

脚本/監督:ヤスミラ・ジュバニッチ 
出演:ヤスナ・ジュリチッチ/イズディン・バイロヴィッチ/ボリス・レアー/ディノ・バイロヴィッチ/ヨハン・ヘルデンベルグ/レイモント・ティリ/ ボリス・イサコヴィッチ
2020年ボスニア・ヘルツェゴヴィナ=オーストリア=ルーマニア=オランダ=ドイツ=ポーランド=フランス=ノルウェー=トルコ(101分) 配給:アルバトロス・フィルム 原題:QUO VADIS,AIDA?




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                   『アナザーラウンド』 DRUK(ANOTHER ROUND)
        2021年9月3日(金)から新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷シネクイントほか

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

公式サイト:https://anotherround-movie.com/ 

■職場でも家庭でも行き場を失いふさぎがちな主人公が、教師仲間3人とアルコールに関する「実験」を敢行。血中アルコール濃度を0.05パーセントに保つと仕事の効率が上がるというある理論から、それを証明するために4人は職場=学校での飲酒を実行する。『偽りなき者』のヴィンターベア監督がふたたびミケルセンと組んだホロ苦ドラマ。アカデミー賞の国際長編映画賞をはじめ多数の映画賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 高校で歴史を教えるマーティンは無気力授業が問題になり、生徒と保護者から糾弾される。妻に相談しようとするが、夜勤で多忙な妻は話を聞いてくれない。ある日、教師仲間3人と会食し、沈みがちな彼を心配した友人らに進められ酒を口にしたマーティンは、至福感を覚える。そのときに話題になったのが、血中アルコール濃度を0.05パーセントに保つと仕事の効率が上がるという説だった。やがて4人はその理論を検証するために校内での飲酒を実行し、エスカレートしてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ デンマーク語のオリジナル・タイトルは「Druk」で意味は大酒を飲むこと。そして邦題にも使われた英題「Another Round」は「もう一杯」の意味。いずれにしても飲酒にまつわるドラマなのだが、4人が同時進行で飲むこの物語は、悩みを解決するためにお酒に逃げるというありがちな話とも少し違う。そしてミケルセンのダンスシーンが見どころのエンディングはハッピーエンディングなのか?マーティンたちはどうなるのかという心残り。(NORIKO YAMASHITA)
   2021年8月31日 記

監督/共同脚本:トマス・ヴィンターベア 共同脚本:トビアス・リンホルム
出演:マッツ・ミケルセン/トマス・ボー・ラーセン/マグナス・ミラン/ラース・ランゼ/マリア・ボネヴィー/ヘレン・ラインハルト・ノイマン/ス―セ・ウォルド 
2020年デンマーク=スウェーデン=オランダ(117分) 原題:DRUK(ANOTHER ROUND)




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                   『テーラー 人生の仕立て屋』 RAFTIS(TAILOR)
        2021年9月3日(金)から新宿ピカデリー/角川シネマ有楽町/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか

© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/tailor/

■時代遅れになリ客足の遠のいた高級テーラーの二代目が、追い込まれた末に始めたウェディングドレスの仕立てで苦境を乗り越えようとする人間ドラマ。女性監督ソニア・リザ・ケンターマンの長編第1作で、地元ギリシャやイタリアほかで多数の映画賞受賞。

■SYNOPSIS■ 創業36年になる高級テーラーを父とともに切り盛りする独身の二コラ50歳。きょうも三つ揃いのスーツを着て店に立つも、客はひとりもやってこない。仕立て職人としてのプライドはあっても、高級服のオーダーメイドはいまや時代遅れなのだ。崖っぷちの状態のなか父が倒れ、さらに追い込まれるうちに閃いたのが屋台を引いての出張販売。そこでも高級紳士服は敬遠されるが、ウェディングドレスはつくれないの?という声がかかる。

■ONEPOINT REVIEW■ 二コラ50歳はこれまでどういう人生を送ってきたのか。おそらく独身というだけでなく、女性との縁もなかったのではないか。「テーラー」という小さな世界だけで生きてきた50年。それが父の入院を機に、最初は不本意であったかもしれないが、屋台を引き街に飛び出したことから世界が一気に広がる。女性との関わりでひと騒動起きるけれど、彼のアフター50は明るいように見える。
(NORIKO YAMASHITA)
                      
2021年8月30日 記

監督/共同脚本:ソニア・リザ・ケンターマン 共同脚本:トレイシー・サンダーランド
出演:ディミトリス・イメロス/タミラ・クリエヴァ/タナシス・パパゲオルギウ
2020年ギリシャ=ドイツ・ベルギー(101分) 配給:松竹 原題:RAFTIS(TAILOR)




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              『ホロコーストの罪人』 DEN STORSTE FORBRYTELSEN(BETRAYED)
                   2021年8月27日(金)から新宿武蔵野館ほか


© 2020 FANTEFILM FIKSJON AS.
ALL RIGHTS RESERVED.

公式サイト:https://holocaust-zainin.com/

■ナチス・ドイツに加担した自国の罪を、あるユダヤ人家族の受難にフォーカスして描いた人間ドラマ。地元ノルウェーの女性ジャーナリスト、マルテ・ミシュレのノンフィクションを、若手監督スヴェンソンが『トム・オブ・フィンランド』などのオフテブロ主演で映画化した。

■SYNOPSIS■ ボクサーのチャールズは、ノルウェーに暮らす敬虔なユダヤ人一家の次男。アーリア系女性と結ばれ幸せな日々を送るも束の間、ナチス・ドイツが侵攻して一変する。三兄弟と父はある日、強制収容所に連行され財産も没収。やがて女性と子どもを含むすべてのユダヤ人が連行され乗せられたのは、アウシュヴィッツへ向かう大型船「ドナウ号」だった。ノルウェー在住のユダヤ人を入念にリストアップしたのは地元警察の副本部長で、すべてノルウェー国家が積極的にナチスに加担した結果だった。

■ONEPOINT REVIEW■ この作品と対を成すように思い出されるのが、仏作品の名作『サラの鍵』。『サラの鍵』ではナチス占領下の仏ヴィシー政権が1万人以上のユダヤ人を強制連行し、自転車競技場に飲まず食わず5日間監禁した挙句、アウシュヴィッツに送ったという実話を描いた作品だった。仏、ノルウェー両政府に共通するのは、ナチスの指示以上のことをためらいなくやってしまったこと。「厄介払い」的感情は、いまの難民対策にも当てはまるのかもしれない。(NORIKO YAMASHITA)  
2021年8月25日 記

監督:エイリーク・スヴェンソン 原作:マルテ・ミシュレ「DEN STORSTE FORBRYTELSEN」
脚本:ハラール・ローセンローヴ=エーグ/ラーシュ・ギュドゥメスタッド
出演:ヤーコブ・オフテブロ/クリスティン・クヤトゥ・ソープ/シルエ・ストルスティン/ピーヤ・ハルヴォルセン/ミカリス・コウトソグイアナキス/カール・マルティン・エッゲスボ
2020年ノルウェー(126分)  配給:STAR CHANNEL MOVIES  (PG-12)
原題:Den storste forbrytelsen(Betrayed) 




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              『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』 RESISTANCE
               2021年8月27日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか


©2019 Resistance Pictures Limited.

公式サイト:http://resistance-movie.jp/

■独自のアート世界を築いた〝パントマイムの神様〟マルセル・マルソーの、若き日の生きざまを描いたヒューマンドラマ。ナチス侵攻後の仏国ヴィシー政権下でレジスタンスに加わり、親を殺害された多くのユダヤ人の子どもたちを救い出した実話を、いずれもユダヤ系のヤクボウィッツ監督とジェシー・アイゼンバーグ主演で描いている。

■SYNOPSIS■ 第二次大戦前夜の1938年。父が営む精肉店を手伝いながら、夜はキャバレーでパントマイム修行に余念のないマルセル。彼の関心事は演じることと、密かに恋するエマのことだけ。だがある日、エマらに誘われて親を殺されたユダヤ人の子たちの世話を始めたことから、危険極まりないレジスタンス運動に身を投じてゆく。ドイツ国境沿いの仏国の街ストラスブールで暮らすマルセルの家もユダヤ人一家だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 道化師風の白塗りとボーダーシャツがトレードマークだったマルソー。悲しげなあの顔の下にはこんなドラマが秘められていたのだが、自身の口からこの話が語られることは生涯なかったという。ヤクボウィッツ監督は、映画にも登場するマルセルの従兄弟ジョルジュから話を聞き出している。唯一の生き証人ジョルジュさんは当時106歳で2年後に他界。貴重な体験談となった。
(NORIKO YAMASHITA) 
                    
2021年8月24日 記

監督/脚本:ジョナタン・ヤクボウィッツ 出演:ジェシー・アイゼンバーグ/クレマンス・ポエジー/マティアス・シュヴァイクホファー/フェリックス・モアティ/ゲーザ・ルーリグ/カール・マルコヴィクス/ヴィカ・ケレケシュ/ベラ・ラムジー/エド・ハリス/エドガー・ラミレス
2020年アメリカ=イギリス=ドイツ(120分) 配給:キノフィルムズ




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                    『スザンヌ、16歳』 SEIZE PRINTEMPS
                  2021年8月21日(土)から渋谷ユーロスペースほか


■クラスメートたちの会話は退屈でついてゆけない。おなじ年頃の男の子もなんだか…。多感な16歳の少女が春のある日、演劇公演のため街を訪れていた年の離れた青年と出会い恋に落ちる…。すい星のごとく現れたスザンヌ・ランドンという若き才能が、15歳のときに書いた脚本を自ら監督・主演という形で映画化した。共演は『BPMビート・パー・ミニット』のアルノー・ヴァロワ。

■SYNOPSIS■ リセに通うスザンヌ16歳。学校や家ではとくに波風立てることもなく過ごしているが、じつのところクラスメートの話題はつまらないし、同年代の男の子たちにも興味がわかないのはなぜだろう。そんなある日、家から学校までの通学路にあるカフェでひとり本を読み、赤いスクーターで行き来する男性を見かけるようになる。彼は公演のために街を訪れている舞台劇の役者だった。

■ONEPOINT REVIEW■ クロード・ミレール監督×シャルロット・ゲンスブールによる思春期映画の傑作『なまいきシャルロット』と、ディアーヌ・キュリス監督のデビュー作『ディアボロ・マント』を足して2で割ったような、その遺伝子を間違いなく受け継いだ瑞々しい作品の誕生だ。監督、脚本、主演のスザンヌ・ランドンは、フランスの有名俳優カップル(いまは離婚してしまったが)、ヴァンサン・ランドンとサンドリーヌ・キベルランの娘で2000年生まれ。実際に影響を受けた映画に前2作品も挙げており、またヴィヴァルディの『スターバト・マーテル』を使ったダンスシーンは、子どものころから大好きなピナ・バウシュの影響があるというから、その吸収力、早熟ぶりに驚かされる。恋愛映画にありがちな駆け引きは一切なく、また年上の男性が主導するという紋切り型もない。さわやかで小気味が良く、創意に満ち、そしてなにより主演した本人のフレッシュ度も満点のデビュー作。(NORIKO YAMASHITA) 
           2021年8月13日 記

監督/脚本/出演:スザンヌ・ランドン 出演:アルノー・ヴァロワ/フレデリック・ピエロ/フロランス・ヴィアラ/レベッカ・マルデール 2020年フランス(77分) 配給:太秦/ノーム 
原題:SEIZE PRINTEMPS  公式サイト:http://suzanne16.com

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■注目のロードショー アーカイヴス ROADSHOW ARCHIVES
『子供はわかってあげない』  ほか

🄫2020 「子供はわかってあげない」製作委員会  🄫田島列島/講談社

■今週の注目のロードショー PICK OF THIS WEEK
『TOVE/トーベ』TOVE


■今週の扉 アーカイヴス PICK OF THE WEEK ARCHIVES
『ベルリン・アレクサンダー・プラッツ』  BERLIN ALEXANDERPLATZ


© Sabine Hackenberg, Sommerhaus Filmproduktion



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