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『犬は歌わない』 SPACE DOGS   2021年6月12日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか

■人類の夢の実現のために犠牲になった宇宙犬ライカ。彼女に思いを馳せつつ、その子孫ともいえるモスクワの野良犬たちのいまを追ったオーストリア=ドイツ発ドキュメンタリー。宇宙訓練を強いられる犬たちのようすを収めた1950年代後半のアーカイブと、新たに撮った現在の映像で構成されている。映画学校の同窓生だった男女監督の共作。

■SYNOPSIS■ 宇宙犬として選ばれ人工衛星に乗せられたライカは、街で捕獲されたメスの野良犬だった。そんな彼女とおなじ出自の犬たちが、いまも軒下や廃車などを根城にモスクワの街に生きている。彼らはふだんは穏やかだが、ときおり野生に返る。

■ONEPOINT REVIEW■ 宇宙飛行という人類の夢、そして米国との宇宙開発競争に躍起な当時のソ連。それらの背後に隠れている人間のエゴイズムが、未知の運命におびえて不安げな犬たちの表情から伝わってくる。一方、現在のモスクワで暮らす野良犬たちの映像もリアル感が半端ではないが、その反面、映像美とセレブリャコフのナレーションが独特の詩的空間をかもし出してゆく。(NORIKO YAMASHITA) 
2021年6月6日 記

監督:エルザ・クレムザー/レヴィン・ペーター ナレーション:アレクセイ・セレブリャコフ 
撮影監督:ユヌス・ロイ・イメル 音楽:ピーター・サイモン/ジョナサン・ショア
2019年オーストリア=ドイツ(91分) 配給:ムーリンプロダクション  公式サイト:https://twitter.com/SpaceDogsJP ©Raumzeitfilm



『トゥル―ノース』 TRUE NORTH
                  2021年6月4日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか
■とつぜん連行されて収容所生活を強いられる北朝鮮一家の受難と、強制収容所の悲惨な実態を描いたアニメーション・ドラマ。在日コリアン四世で、ドキュメンタリー映画『happy-しあわせを探すあなたへ』の制作者として評価を得た清水ハン栄治が、元収容者、元看守、脱北者らに取材し、あらゆる資料をもとに構築した渾身の初監督作品。多くのひとに届くようにと、柔らかなタッチの作画にも心を砕いている。

■SYNOPSIS■ 両親とおさない兄妹の4人家族パク一家は、帰還事業で北朝鮮に渡った元在日コリアン。都会で比較的裕福な生活を送っていたが、ある日、父親が政治犯として連行され、残された家族3人も収容所での暮らしを強いられる。そこは布団もなく、真冬でも段ボールをかけて寝るような過酷な生活。つねに監視されており、わずかな食べ物のために密告するものもいた。無垢な存在だった息子ヨハンの心もしだいに荒み、孤立してゆくが、やさしい母ユリのある言葉が彼の心に深く刻まれる。

■ONEPOINT REVIEW■ 清水監督はアウシュヴィッツの実態を記した「夜と霧」からインスピレーションを受けたと語っている。けれどこの物語は過去だけの話ではない、アジアの国で起きている現在進行形のお話だ。そのことにまず衝撃を受ける。そしてもうひとつの衝撃は導入部とエンディング。バンクーバーで講演する脱北者の男性はだれなのか。別の人物を想像するかも。(NORIKO YAMASHITA)
 2021年6月1日 記

監督/脚本:清水ハン栄治 音楽:マシュー・ワイルダー  声の出演:ジョエル・サットン/マイケル・ササキ/ブランディン・ステニス/エミリー・ヘレス
2020年日本=インドネシア(94分) 配給:東映ビデオ ©2020 sumimasen  公式サイト:https://www.true-north.jp/ 



『幸せの答え合わせ』 HOPE GAP   2021年6月4日(金)からキノシネマみなとみらい/立川・天神ほか全国順次公開

■29年連れ添った夫からある日突然、離婚を突きつけられ、その日のうちに置き去りにされてしまう妻と、見守ることしかできないひとり息子。『グラディエーター』をはじめ、娯楽作から人間ドラマまで多彩な作品で評価されてきた脚本家のニコルソンが、自身の両親を題材に自身のために書いたと言える作品。20余年ぶり2度目のメガホン。

■SYNOPSIS■ 切り立つ真っ白な崖と眼下に広がる入江が美しい英シーフィールドの町。リタイアして詩選集の編纂をライフワークとしているグレースと、ウィキペディアへの投稿が趣味の高校教師エドワードは、結婚29年になる熟年夫婦だ。思ったことをすぐに口にする妻と寡黙な夫。どこにでもいそうな夫婦に見えたが、ある日、独立しているひとり息子ジェィミーが父から呼び出され、母と別れることを告げられる。忍耐の限界で、好きなひともいるという。帰ってきた妻にも同じことを言い残し父は家を出る。 

■ONEPOINT REVIEW■ 原題『ホープ・ギャップ」はシーフィールドの入江の名前であると同時に、ボタンの掛け違えのような意味だろうか。望むものが違うことに29年間気づかなかった妻と、言い出せなかった夫。両親を愛する息子のジェィミーにとってもそれはまさかの話であり、思慮深い彼は自身のアイデンティティとの関わりを考えはじめる。夫婦の話なのに奥行きがあって面白いのは、息子=監督のリアルな体験および感情が入っているからだろう。アネット・ベニングとビル・ナイの両ベテランにまざって、『ゴッズ・オウン・カントリー』で注目されたジョシュ・オコナーがみずみずしい。
(NORIKO YAMASHITA)
                                                   2021年5月31日 記

監督/脚本:ウィリアム・ニコルソン 
出演:アネット・ベニング/ビル・ナイ/ジョシュ・オコナー/サリー・ロジャース/アイーシャ・ハート/ライアン・マッケン
2019年イギリス(100分) 配給:キノシネマ 原題:HOPE GAP  © Immersiverse Limited 2018
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/hopegap



『アオラレ』 UNHINGED   2021年5月28日(金)から全国公開

■人生に追い詰められて自暴自棄になった男が、後続車のふとした態度にキレて、あおり運転を繰り返すサイコスリラー。ラッセル・クロウの怪演により、この物語はしだいにホラーの様相を帯びてくる。

■SYNOPSIS■ 離婚してシングルマザーになった美容師のレイチェル。仕事が入っているその朝、あろうことか寝坊してしまう。とりあえずは息子のカイルをオンボロ車に乗せて学校に送り、それから仕事先にという流れのなかで大渋滞につかまり、電話で言い訳するもクビに。それでなくても貧困状態なのに…。先にイライラが募ったのは彼女のほうだった。青信号になっても動こうとしないピックアップトラックに思い切りクラクションを鳴らし、それでも動かないその車を追い越したのが悪夢のはじまりだった。

■ONEPOINT REVIEW■ あおり運転は万国共通のようだ。だがこの男は少し様子が違う。彼はアオリの常習者でもなければ、その行為を楽しんでいるわけでもなく、まさに美容師女性との出会いのタイミングが悪かった。原題どおり「タガが外れた」状態の彼を、もうだれにも止めることはできない。狂気の男のその形相を、ラッセル・クロウがこれでもかと演じて見せる。
(NORIKO YAMASHITA)                            2021年5月24日 記

監督:デリック・ボルテ 脚本:カール・エルスワース
出演:ラッセル・クロウ/カレン・ピストリアス/ガブリエル・エイトマン/ジミ・シンプソン/オースティン・マッケンジー 
2020年アメリカ=イギリス(90分) 配給:KADOKAWA 
原題:UNHINGED 公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/aorare/  © 2020 Unhinged Film Holdings LLC. All Rights Reserved.



『ローズメイカー 奇蹟のバラ』 LA FINE FLEUR   2021年5月28日(金)から新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■大企業の進出で傾きかけているバラ園を、手伝いに雇った落ちこぼれたちとともに立て直そうと奮闘する女性経営者兼、育種家。短編で評価されてきたピノ―監督が、地元フランスのバラ園をロケ地に、カトリーヌ・フロ主演で撮った長編2作目。

■SYNOPSIS■ 父から受け継いだバラ園を、ひとり残った従業員ヴェラと何とか守ってきた独身のエヴ。かつては新種の開発で数々の賞に輝き〝天才〟と謳われたものの、近ごろは大企業ラマルゼル社の台頭で資金繰りが悪化。開発費も出なければ従業員も雇えないという悪循環に陥っている。ラマルゼル社は育種家として才能あふれるエヴを引き抜こうと躍起だが、彼女にも意地がある。傘下に入るよりはつぶれたほうが…。そんなある日、格安で働いてくれるからと落ちこぼれの3人をヴェラが連れてくる。

■ONEPOINT REVIEW■ チューリップといえばオランダ、バラといえばフランスだろうか。バラ栽培に伝統のあるフランスの、なかでも老舗の会社やスペシャリストに監修を仰ぎ、そのひとつドリュ社のバラ園で撮影が行われた。育種家エヴを演じるフロの手元がたしかなのも、直々に手ほどきを受けているからだという。映画の本題は人とひとの絆だが、花好きには交配させ種をとる場面などもお楽しみのひとつだ。  (NORIKO YAMASHITA)
  
    2021年5月23日 記

監督/共同脚本:ピエール・ピノー 共同脚本:ファデット・ドゥルアール/フィリップ・ル・ゲイ
出演:カトリーヌ・フロ/メラン・オメルタ/マリー・プショー/オリヴィア・コート/ファツァー・ブヤメッド 
2020年フランス(106分) 配給:松竹 原題:LA FINE FLEUR  公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/rosemaker/  
© 2020 LA FINE FLEUR – ESTRELLA PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINÉMA – AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINÉMA



『5月の花嫁学校』 LA BONNE EPOUSE(HOW TO BE A GOOD WIFE)
             2021年5月28日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか
■時代錯誤感がぬぐえない古風な花嫁学校に、ジワジワと打ち寄せる変革の波。1960年代末に世界中で起きた意識革命を、その中心のひとつパリからではなく、同じフランスでも超保守的な場所から描いたコメディ。人間ドラマを描かせたら超一級のプロヴォ監督が、50年前の画期的な時代変革を面白おかしく回顧してみせた。

■SYNOPSIS■ 校長のポーレット、経営者で夫のロベール、その妹で料理長のジルベルト、修道女マリー=テレーズで切り盛りするヴァン・デル・ベック家政学校。ことしの入学生は予定より15人も少ない18名。いまどきの少女たちに手を焼きながらも、ポーレットは躾に余念がない。だがある日、夫が急死し、経営をイチから学ぶことに。銀行に行くと赤字経営を知らされただけでなく、応対してくれたのはなんと、戦時中に生き別れになった元恋人のアンドレだった。ポーレットは夫の死を悲しみながらも、彼がいかに自分を支配していたかを自覚しはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ 原題は「LA BONNE EPOUSE」。良き妻の意味だが、邦題の「5月の花嫁学校」はもっと踏み込んで、映画の意図をダイレクトに伝えてくれる。5月革命の嵐が吹き荒れるパリから遠く離れたアルザス地方の村でも、静かに女性たちの意識が変わりつつあったというお話。ドタバタ調のコメディを、ビノシュ、ヨランド、ルヴォフスキの芸達者な女優三人が喜々として演じ、プロヴォ監督の期待に応えている。(NORIKO YAMASHITA)  
 2021年5月22日 記

監督/共同脚本:マルタン・プロヴォ 共同脚本:セヴリーヌ・ウェルバ
出演: ジュリエット・ビノシュ/ヨランド・モロー/ノエミ・ルヴォフスキー/エドゥアール・ベール/フランソワ・ベルレアン/マリー・ザブコヴェック/アナマリア・ヴァルトロメイ/リリー・タイエブ/ポーリ―ン・ブリアン/アルメール 2020年フランス(109分) 配給・アルバトロス・フィルム原題:LA BONNE EPOUSE(HOW TO BE A GOOD WIFE) 公式サイト:https://5gatsu-hanayome.com/
© 2020 - LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 3CINÉMA- ORANGE STUDIO - UMEDIA



『やすらぎの森』 IL PLEUVAIT DES OISEAUX(AND THE BIRDS RAINED DOWN) 2021年5月21日(金)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

■人里はなれた湖のほとりで、密かに暮らす老人たち。彼らの生きざまをめぐって描かれる人の生と死、そして愛。地元カナダ・ケベックの作家ソシエの原作を同郷のアルシャンボー監督が脚色して映画化した。

■SYNOPSIS■ チャーリー、トム、テッド。年老いたヒッピーみたいな3人が、人知れず山林奥の湖畔で暮らしている。知るのは、食料品を届ける森のホテルの管理人スティーヴのみ。老人たちは湖で泳ぎ、愛犬と戯れる気ままな日々を送っているがある日、最高齢のテッドが息を引き取る。彼はこの一帯で起きた大山火事を知る数少ない人物で、生き証人を取材し肖像写真を撮りつづける女性写真家がその存在を嗅ぎつける。一方スティーヴは、長いあいだ精神病院で暮らす叔母ジェルトルードの送迎を頼まれたものの、病院に帰りたがらない彼女を不憫に思い湖に連れてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 孤独のなか最後の日々を生きる老人たち。そこに年老いた女性がやってきて、トムは敬遠するけれど、チャーリーはまるで小動物をいつくしむ犬のように彼女をいたわり、優しく迎え入れ愛が芽生える。死を待つだけではなく灯る希望。トムがミュージシャンであることから、レナード・コーエンやトム・ウェイツらの曲が随所にちりばめられているが、加えて全体の音楽を担当しているケべック出身の男女グループWill Driving Westの存在が、映画全体に現在形の若々しい息吹を吹き込んでいる。そしてカナダの名優ぞろいのキャスティング。ジェルトルード役を美しく演じたラシャペルはこれが遺作となった。
                                                 (NORIKO YAMASHITA)
   2021年5月16日 記

監督/脚本:ルイーズ・アルシャンボー 原作:ジョスリーヌ・ソシエ「IL PLEUVAIT DES OISEAUX」 出演:アンドレエ・ラシャペル/ジルベール・シコット/レミー・ジラール/ケネス・ウェルシュ/エヴ・ランドリィ/エリック・ロビドゥ 2019年カナダ(126分) 配給:エスパース・サロウ 原題:IL PLEUVAIT DES OISEAUX(AND THE BIRDS RAINED DOWN) 公式サイト:https://yasuragi.espace-sarou.com/
© 2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.



『海辺の家族たち』  LA VILLA(THE HOUSE BY THE SEA)   2021年5月14日(金)からキノシネマほか全国順次公開

■南仏マルセイユ近郊の風光明媚な入江の町カランク・ド・メジャン。三者三様の人生を生きてきた兄、弟、妹が美しい思い出の宿る故郷で久々に再開し、忘れかけていた絆を取り戻してゆく。自身もマルセイユ生まれで、『マルセイユの恋』や『キリマンジャロの雪』で知られるベテラン監督ロベール・ゲディギャンが脚本も書いている。

■SYNOPSIS■ 父が突然倒れ、舞台俳優として成功を収めたアンジェルが久々に故郷に戻ってくる。迎えてくれたのは家業のレストランを継ぐ長兄アルマンと、ひと足先に戻っていた次兄のジョゼフ。彼は若い婚約者を伴っていたが、すでに関係は破綻していた。一方、故郷の寂れようは一目瞭然で、ディベロッパーによる別荘開発が加速化するなか難民漂流の情報が入り、3人はある日、見知らぬ子どもたちを発見する。

■ONEPOINT REVIEW■ 常連俳優でガッチリと固めて撮るのがゲディギャン流。今回も妻のアリアンヌ・アスカリッドをはじめ、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイランらおなじみの俳優をそろえているが、ゲディギャン監督は彼らの若き日の映像をうまく使い、まるで自身の集大成のような作品に仕立てている。                                       (NORIKO YAMASHITA) 
          
2021年5月10日 記

監督/脚本:ロベール・ゲディギャン  出演:アリアンヌ・アスカリッド/ジャン=ピエール・ダルッサン/ジェラール・メイラン/ジャック・ブーデ/アナイス・ドゥムースティエ/ロバンソン・ステヴナン
2016年フランス(107分) 配給:キノシネマ 原題:LA VILLA(THE HOUSE BY THE SEA) 
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/lavilla/   © AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016



『ジェントルメン』 THE GENTLEMEN    2021年5月7日(金)から全国公開

■『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・パレㇽズ』『スナッチ』のガイ・リッチー監督が、ふたたびロンドンの裏社会を舞台に描いたスタイリッシュなクライム・サスペンス。米国スターのマシュー・マコノヒーを中心に豪華英国男優陣がかこむ。

■SYNOPSIS■ 英国の名門オックスフォード大学に奨学生として入学し、学生時代から裏ビジネスに才能を発揮する米国生まれのミッキー(マコノヒー)。汚い手も使いながら頭の良さを生かし、大麻栽培で大成功するが、ビジネスを売却して引退するといううわさが。すると裏の顔を持つユダヤ人大富豪や中国マフィア(ヘンリー・ゴールディング)、ロシアン・マフィア、さらにはゴシップ誌編集長(エディ・マーサン)やパパラッチもどきの私立探偵(ヒュー・グラント)までが利権にからみ暗躍しはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ ほんとうはドロドロの世界なのに、ガイ・リッチーが描くとお洒落な空間になる。華を添えるのはマコノヒーをはじめ、チャーリー・ハナム、コリン・ファレル、ヒュー・グラントら中年になったイケメン男優たちだ。映画にまつわる小ネタなどをはさみながら、観客を惑わせつつの軽快なリッチー・ワールドが広がる。                                (NORIKO YAMASHITA) 
          
2021年5月3日 記

監督/脚本:ガイ・リッチー 出演:マシュー・マコノヒー/チャーリー・ハナム/ヘンリー・ゴールディング/ミシェル・ドッカリ―/ジェレミー・ストロング/エディ・マーサン/コリン・ファレル/ヒュー・グラント 2020年英国=米国(113分) 配給:キノフィルムズ 原題:THE GENTLEMEN 
公式サイト:http://www.gentlemen-movie.jp/  © 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.



『ブックセラーズ』 THE BOOKSELLERS (ドキュメンタリー)  
2021年4月23日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿シネマカリテ/アップリンク吉祥寺ほか

■米ニューヨークに店を構える古書店主たち、あるいは店を構えずに珍しい本を探し求めるブックハンター。古書に精通するエキスパートと、古書の魅力に迫るドキュメンタリー。随所にジャズ・ミュージックをはさんだニューヨーク風味漂う1作。

■SYNOPSIS■ NYマンハッタンの一角。世界中の古書店主やブックハンターが集う大規模なブックフェアから映画は始まる。そこで大型本を中心に展示してるのは「重いから早く売れてほしいよ」と言いながらも古書への偏愛著しいデイヴ・バーグマン。ここニューヨークには、ほかにも世界のコレクター垂涎の古書を所有する個性的な店が多数存在する。だが出版の世界にはデジタルの波が押し寄せている。果たして活字の世界はどうなってゆくのか、そして古書を扱うブックセラーたちの未来は?エンドクレジットのあと、辛口評論家フラン・レボヴィッツがD・ボウイに関する笑える暴露話を…。

■ONEPOINT REVIEW■ 古書、とくに希少本にはキンドルで小説を読むのとは違う世界がある。美術品とも骨董品とも違うけれどそれらともクロスする独特の世界が、コレクターたちを魅了する。むしろデジタル化でブックセラーたちが恐れているのは、古書店にわざわざ出向かわなくても世界中の逸品が手に入るネットオークションの世界だ。だがニューヨークの古書店のこの空間には、パソコンでは味わえない〝文化〟そのものが存在する。
                                       (NORIKO YAMASHITA) 
            
2021年4月20日 記

監督:D.W.ヤング 音楽:デヴィッド・ウルマン ナレーション:パーカー・ポージー
出演:ニューヨークのブックセラーたち/フラン・レボヴィッツ(評論家)/ゲイ・タリーズ(作家)
2019年アメリカ(99分) 配給:ムヴィオラ/ミモザフィルムズ 原題:THE BOOKSELLERS 公式サイト:http://moviola.jp/booksellers/
© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved



『彼女』 RIDE OR DIE   2021年4月15日(木)からNetflixで全世界同時独占配信

■学生時代から一方的に想いを寄せる相手と、彼女の夫を殺すことになった片想いの女。逃避行をつづける女たちを描いた愛のものがたり。中村珍の原作漫画を『ヴァイブレーター』の廣木隆一監督で映画化。水原希子とバンド「ゲスの極み乙女」のドラマーで女優のさとうほなみが難役を演じている。Netflixで全世界同時独占配信。

■SYNOPSIS■ 女性と暮らしているレイのもとに、学生時代からの想いのひと七恵から10年ぶりに連絡が入る。夫から暴力を受け全身アザだらけの彼女は死を覚悟していたが、死ぬべきはあなたの夫とレイは口にする。ならばあなたが殺してと七恵。ふたりは女子校の同窓生で、女性しか好きにならないレイと異性愛の七恵とのあいだで恋愛関係が成立することはなかったが、レイの想いが変わることはなかった。そのひと言から殺害を実行することになった女と、事件の発端となった女。ふたりの逃避行がはじまる。

■ONEPOINT REVIEW■ 監督が廣木隆一なら、赤裸々な性描写は避けられないだろう。女優たちはどう折り合いをつけたのか。水原希子は撮影にあたり、インティマシー・コーディネーターの起用をNetflixに提案したという。撮影現場でのセクハラを回避するための新たな専門職。だがそういう配慮があってもなお、覚悟のいる役だったのは間違いない。(NORIKO YAMASHITA)
                 
2021年4月18日 記

監督:廣木隆一 原作:中村珍「羣青(ぐんじょう)」 脚本:吉川菜美 音楽:細野晴臣 出演:水原希子/さとうほなみ/新納慎也/烏丸せつこ/田中哲司/真木よう子2021年日本(142分) 配信:Netflix 英題:RIDE OR DIE (R-18)



『椿の庭』   2021年4月9日(金)からシネスイッチ銀座ほか

■四季折々の花々が美しい日本家屋に孫娘と暮らす年配女性。夫の死にともなう相続税の納付にあたり、長年住み慣れたこの家を手放さなければいけないのか。その葛藤を、広告写真の第一線で活躍してきたフォトグラファーの上田義彦が美しい映像で描いた。長年温めてきた脚本による初めての映画作品。みずからフィルムで撮影している。

■SYNOPSIS■ 死んだ金魚を椿の花びらに包んで弔う絹子(富司純子)と長女の忘れ形見、渚(シム・ウンギョン)。命あるものに必ずやってくる死。亡くなった夫の四十九日もすぎ、相続税の納付期限もそう遠くない。次女の陶子(鈴木京香)は高齢の母を気づかい同居を進めるが、絹子は思い出が詰まった家を離れることは美しい記憶も消えるようで不安でならない。ある日、税理士が家の購入を考えている男性を連れてくる。

■ONEPOINT REVIEW■ 15年ほど前、見慣れた古い家が突然なくなり喪失感に包まれたという上田監督。そのときからこの物語は書かれはじめ、書き溜めていた文章が脚本になり映画は生まれた。みずからカメラを回しており、写真家としての美意識がダイレクトに伝わってくる。そしてある衝撃的なことが起こるエンディング。とても静的なのに心をざわつかせる。(NORIKO YAMASHITA)        
2021年4月8日 記

監督/脚本/撮影:上田義彦 出演: 富司純子/シム・ウンギョン/田辺誠一/清水綋治/チャン・チェン/鈴木京香
2021年日本(128分) 配給:ビターズ・エンド公式サイト:http://bitters.co.jp/tsubaki/  ©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners



『レッド・スネイク』 SOEURS D'AMES(SISTER IN ARMS)  2021年4月9日(金)から新宿バルト9ほか

■イスラム過激派組織IS(イスラミック・ステート)の奴隷となったクルド人女性と、その脱出を助けてともに闘う女性だけの特殊部隊「蛇の軍団」。彼らの過酷な戦いを描いたポリティカルな女性映画。2015年にパリで起きたシャルリー・エブド襲撃事件で仲間を失った、仏国人ライターのカロリーヌ・フレストが監督を手がけている。

■SYNOPSIS■ ヤジディ教徒が住むクルド人の村がISに襲撃され、父親を目の前で殺されたザラは弟とさらわれ、弟とも生き別れとなる。性の奴隷となったザラを買ったのはISの幹部として極悪非道を繰り返す英国人の男。ザラも辱めを受けるなか、なんとか脱出したところを女性だけの特殊組織「蛇の旅団」に救われる。「レッド・スネイク」を名乗り軍団に加わったザラは弟の救出を誓う。

■ONEPOINT REVIEW■ 物語のベースは、戦場記者メリー・コルヴィンの伝記映画としてロザムンド・パイク主演でつくられた『プライベート・ウォー』、エマニュエル・ベルコがコルヴィンらしき人物を演じた『バハールの涙』と同じだろう。ここではクルド人女性ザラにフォーカスする一方で、「蛇の旅団」のシスターフッド(女性同士の共感)にも焦点を当てている。ザラを演じているのはクルド人ジャーナリストの父を持つディラン・グウィン。実力派の女優たちが多数出演し、フランスのベテラン男優パスカル・グレゴリーも参加している。(NORIKO YAMASHITA) 
    2021年4月7日 記

監督/脚本:カロリーヌ・フレスト 出演:ディラン・グウィン/アミラ・カサール/マヤ・サンサ/カメリア・ジョルダナ/エステール・ガレル/パスカル・グレゴリー 2019年フランス=イタリア=ベルギー=モロッコ(112分) 配給:クロックワークス 原題:SOEURS D'AMES(SISTER IN ARMS) 
公式サイト:https://klockworx-v.com/redsnake/
© 2019 Place du Marché Productions – Kador – Davis Films – Délice Movie – Eagle Pictures – France 2 Cinéma



『アンモナイトの目覚め』 AMMONITE  2021年4月9日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか

■大英博物館に収められるような希少な発見をしながら、貧しい家に育ちしかも女性ということで陽の目を見ない古生物研究者と、病気療養のために海辺の町にやってきた裕福な女性。ふたりの激しい恋を、監督デビュー作『ゴッズ・オウン・カントリー』が各国映画祭や日本のレインボーリール映画祭でも注目されたフランシス・リー監督が書き下ろし描いている。

■SYNOPSIS■ 1840年代英国。海辺の町ライム・レジスに母親と暮らすメアリーは化石を採集し研究する一方、みやげ物をつくっては生活を支えていた。大英博物館に入るような大発見をしていたが、労働者階級で女性ということから輝かしい場に立つことはなかった。ある日、化石収集を趣味にする金持ちの男性が妻とともにやってきて、流産でうつ気味の妻シャーロットを療養目的で町に残しロンドンに帰る。育ちも生き方もちがうふたりはなじめぬまま時を過ごすが、ある出来事をきっかけに急接近する。

■ONEPOINT REVIEW■ 魚竜イクチオサウルスの発掘者で化石研究者メアリー・アニングをモデルに、フランシス・リー監督が想像力をめぐらせて物語は構築されている。男性同士の愛を描いて評判を呼んだ監督による女性同士の恋物語。社会的地位もちがえば気性もちがうふたりの、これはリビドーだけの恋なのか。女性の脚本家や監督ならどう描いたか。そんなことも考えた。(NORIKO YAMASHITA) 
   2021年4月5日 記

監督/脚本:フランシス・リー 出演:ケイト・ウィンスレット/シアーシャ・ローナン/フィオナ・ショウ/ジェマ・ジョーン
2020年イギリス(118分) 配給:ギャガ 原題:AMMONITE (R-15)公式サイト:https://gaga.ne.jp/ammonite/
© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited




『サンドラの小さな家』 HERSELF  2021年4月2日(金)から新宿ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■夫の暴力から逃れ幼い娘ふたりと家を出たものの、住む家がない。支援団体から用意されたのは遠く離れた仮住まいのホテルで、追い込まれた主人公はある日、自分で家を建てようと思い立つ。原題は「HERSELF」。原案と脚本を手がけた女優のクレア・ダンがみずから主人公を演じ、監督は舞台で共働し旧知の仲だった『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のフィリダ・ロイドが務めている。

■SYNOPSIS■ 顔にあざができるほどの暴力を夫から日常的に受けていたサンドラは、意を決し幼い娘を連れて家を出る。仕事を掛け持ちしながら娘を育てるなか、支援団体から提供された仮住まいのホテルは仕事場から遠く、公共住宅の順番待ちが巡ってくるのも何年先のことか。挙句に勘違い夫から復縁を迫られるなか、35000ユーロの安価な住宅を自分で建てるというサイトを目にする。

■ONEPOINT REVIEW■ 窮地に追い込まれたひとに対するセーフティネットの不備、社会システムの崩壊に対する告発はケン・ローチ作品を彷彿とさせる。原案・脚本・主演のクレア・ダンが、ホームレス状態の友人から聞いた話をもとに物語は生まれた。安価な住宅建設の話も実話だが、それでは土地はどうするのか。地球の大地を所有するものとしないもの、あらためて考えると理不尽な問題だらけ。でも互助という光明も。
(NORIKO YAMASHITA) 
                    2021年3月30日 記

監督:フィリダ・ロイド 脚本:クレア・ダン 共同脚本:マルコム・キャンベル 出演:クレア・ダン/ハリエット・ウォルター/コンリース・ヒル
2020 年アイルランド=英国(97分) 配給:ロングライド 原題:HERSELF公式サイト:https://longride.jp/herself/  
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



『旅立つ息子へ』 HERE WE ARE  2021年3月26日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■キャリアを捨て、自閉症のひとり息子と生きる男親のアハロン。一方、別れた妻は息子が社会の一員となることを望み、施設探しに奔走する。噛み合うことのない子を思う親の気持ち。追い詰められ息子と逃避行する父は、子の成長を目の当たりにして現実に直面する 。自身の弟と父の関係を描いたダナ・イディシスの脚本を、東京国際映画祭で2度のグランプリに輝くイスラエルのベルグマン監督が映画化。

■SYNOPSIS■「ぼくは星形のパスタが好き?」と父のアハロンにたずねる息子のウリ。彼は自分がどう思い感じているかを必ず父に聞く。そんなふたりの関係に批判的な元妻のタマラは、息子は過保護な父から離れて社会に出るべきと考え、全寮制の施設への入居を進める。ふたりの綱引きが続くなか法的にも追い詰められ、ウリとともに逃避行の旅に出たアハロンは、息子が他者と関わろうとしているようすを目にする。

■ONEPOINT REVIEW■ かつてはアーティストとして活躍していたアハロンは、息子のウリをだれよりもどこの施設よりも完璧に育てるためにキャリアを捨てる。だがベルグマン監督はそうではないと言う。じつは子育てを口実に彼自身が現実逃避しているのだと。彼自身そこから抜け出すことができるか。その視点で見るとこの物語はより奥深くて面白い。(NORIKO YAMASHITA)
               
2021年3月24日 記

監督:二ル・ベルグマン 脚本:ダナ・イディシス 出演:シャイ・アヴィヴィ/ノアム・インベル/スマダル・ヴォルフマン/エフラット・ベン・ツール/アミ―ル・フェルドマン/シャロン・ゼリコフスキー 2020年イスラエル=イタリア(94分) 配給:ロングライド 原題:HERE WE ARE
公式サイト:https://longride.jp/musukoe/  ©2020 Spiro Films LTD.



『ミナリ』 MINARI 2021年3月19日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■新天地米国でアメリカンドリームを夢見る男。だが妻の目には無謀な計画にしか映らず、ふたりの意見はつねに対立する。そこに祖国韓国から呼び寄せた妻の母も加わり、一家5人の生活がはじまる。サンダンス映画祭グランプリ、ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞に加え、オスカーでも6部門候補の注目の一作。監督は韓国系米国人リー・アイザック・チョン。話題作の多いブラッド・ピット率いるプランB×スタジオ24作品。

■SYNOPSIS■ 夫のジェイコブが妻とふたりの子どもを連れてやってきたのはアーカンソーの高原。なけなしの金を投資して畑を作る計画だが、トレーラーハウスを改造した「家」に妻は開いた口もふさがらない。妻の不満を少しでも解消しようと韓国から彼女の母を呼び寄せると今度は〝おばあちゃんぽくない祖母〟になじめない末っ子。心臓の病を抱えていて、それが両親の悩みの種だ。だが天真爛漫な祖母は病身の彼を遠くの沢まで連れてゆき、そこに韓国から持ってきた植物「ミナリ(セリ)」の種をまく。

■ONEPOINT REVIEW■ 料理もできず字も読めない。プロレスに夢中で得意なのは花札くらい…。自分が思い描いていた「理想のおばあちゃん」とはほど遠い祖母になじめず、悪さもする末っ子デヴィッド。だがそんな孫の態度をものともせずにわが道を行く韓国の祖母は逞しい。映画は「すべてのおばあちゃん」に捧げられていて、ふたりが次第に交流してゆく脚本が巧み。(NORIKO YAMASHITA)
    
           2021年3月17日 記

監督/脚本:リー・アイザック・チョン 出演:スティーヴン・ユァン/ハン・イェリ/アラン・キム/ネイル・ケイト・チョー/ユン・ヨジョン/ウィル・パットン  2020年アメリカ(116分) 配給:ギャガ 原題:MINARI
公式サイト:https://gaga.ne.jp/minari/  ©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.



『ビバリウム』 VIVARIUM  2021年3月12日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■ふらりと入った不動産屋の男に誘われるまま、売出し中のニュータウンを見学する若いカップル。だが人っ子ひとりいないその町は画一的なばかりか迷路のようになっていて、ふたりは閉じ込められてしまう。ビバリウム=飼育容器のような場所での生活を強いられる男女の恐怖を描いた不条理なスリラー。

■SYNOPSIS■ ジェマとトムはある日、冷やかし半分で入った不動産屋の口車に乗せられ、郊外にある新興住宅地を見学する。営業マンの車のあとについてゆくと、現れたのはおなじ家がどこまでも連なる画一化された町。いつしか男の姿が消え、ふたりは早々に退散しようとするが、どこまで行っても元の場所に戻ってしまう。そのうちにガス欠となり、携帯も圏外となって外界と完全に遮断される。知らぬ間に届けられる真空パックの食糧。ある日、置かれた箱を開けてみると、中から赤ん坊が出てくる。

■ONEPOINT REVIEW■ シュールレアリズムのルネ・マルグリット、テレビドラマ・シリーズの「トワイライト・ゾーン」や「ロアルド・ダール劇場」。どこか既視感があるのは、フィネガン監督がそういった先達の絵画や物語の影響を受けて、映画に反映させているからだろう。アイルランド・ダブリンの出身。もともとはグラフィック・デザイナー、というセンスもうかがえる。(NORIKO YAMASHITA) 
 
2021年3月10日 記

監督:ロルカン・フィネガン 脚本:ギャレット・シャンリー 出演:ジェシー・アイゼンバーグ/イモージェン・プーツ/ジョナサン・アリス
2019年ベルギー=デンマーク=アイルランド(98分) 配給:パルコ 原題:VIVARIUM
公式サイト:https://vivarium.jp/  © Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film



『フィールズ・グッド・マン』(ドキュメンタリー) FEELS GOOD MAN  2021年3月12日(金)から渋谷・ユーロスペース/新宿・シネマカリテほか

■平和でお気楽なキャラクターとして生まれたカエルの「ペペ」が、ネットの匿名掲示板で拡散されるうちに狂暴化。ヘイトシンボルの烙印を押された挙句に、2016年の大統領選ではトランプ陣営が悪用。生みの親マット・フューリーのそんな窮状を知った友人のジョーンズが、ペペを「オㇽタナ右翼」から取り戻すべくドキュメンタリーにした。

■SYNOPSIS■ ペペはネットで発表したコミック「ボーイズ・クラブ」のキャラクターのひとつとして誕生した。作者ヒューリーと友人たちのたわいのない日常を描いた平和そのものの漫画。だがネット掲示板で取り上げられ、ミームとして拡散されるうちに独り歩きし狂暴化してゆく。そしてついには「名誉棄損防止同盟(ADL)」がヘイトシンボルとして作者の名とともに登録。それはナチスの卍十字にも並ぶ不名誉な烙印であり、さらには大統領選を闘うトランプ陣営が公然と悪用してゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 作者ヒューリーは人気キャラになりつつあったペペを著作権登録するどころか、本来のすがたからほど遠い存在になった時点でも放置しつづける。そんな作者の人の好さが裏目に出た出来事だったが、事態を収拾しようと腰を上げたときにはもはや手の施しようもない状態になっていた。どう決着してゆくのか。ギリギリまで見通せないハラハラ感がある。(NORIKO YAMASHITA) 
         
2021年3月8日 記

監督/脚本:アーサー・ジョーンズ 共同脚本:ジョルジオ・アンジェリーニ/アーロン・ウィッケンデン 出演:マット・フューリー/ジョン・マイケル・グリア/リサ・ハナウォルト/スーザン・ブラックモア/アレックス・ジョーンズ/ジョニー・ライアン/カエルのぺぺ  2020年米国(94 分) 配給:東風+ノーム
原題:FEELS GOOD MAN公式サイト:https://feelsgoodmanfilm.jp/  ©2020 Feels Good Man Film LLC



『レンブラントは誰の手に』(ドキュメンタリー) MY REMBRANDT  2021年2月26日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■オランダのウケ・ホーヘンダイク監督は過去に『ようこそ、アムステルダム国立美術館』ほかで、国立美術館改修工事から生じた大騒動をドキュメントして注目された監督。今回彼女がフォーカスするのは、自国が世界に誇る絵画の巨匠レンブラント。肖像画新発見の真偽を巡る騒動や、アムステルダム国立美術館VSルーブル美術館によるレガシー争奪合戦など、緻密な計算のもとアイロニカルな視点で引きつけてゆく。

■SYNOPSIS■ レンブラントが描いた祖先の肖像画を所蔵するような名門に生まれたヤン・シックス。家柄の呪縛から逃れ画商として成功したい思いがあるが、ある日、競売クリスティーズでとある肖像画を「発見」。レンブラントと直感し、周囲に悟られないように安値で落札する。一方、パリに暮らす富豪ロスチャイルド男爵は、1対のレンブラント作品を手放すことに。アムステルダム国立美術館が高値で名乗りを上げると、フランスのルーブル美術館も参戦。国家対国家という対立構図の様相も帯びてくる。

■ONEPOINT REVIEW■ 「教育のためのドキュメンタリーではなくむしろフィクション映画」「プロットと役柄がはっきりしたシェイクスピア劇のようなもの」を作りたかったと語るホーヘンダイク監督。だが着地点が見えないのがドキュメンタリーの醍醐味。道筋はつけてあげても、その先の筋書きが見えないドラマの面白さがここにはある。(NORIKO YAMASHITA)
                     
2021年2月17日 記

監督/脚本:ウケ・ホーヘンダイク 出演:ヤン・シックス(美術研究者/画商)/エリック・ド・ロスチャイルド男爵(レンブラント画所有)/ターコ・ディビッツ(アムステルダム国立美術館)/エルンスト・ファン・デ・ウェテリンク教授(レンブラント専門家)/バックルー公爵(レンブラント画所有) 2019年オランダ(101分) 原題:MY REMBRANDT  配給:アンプラグド  公式サイト:http://rembrandt-movie.com/ ©2019DiscoursFilm



『あのこは貴族』 2021年2月26日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷・シネクイントほか

■若い女性の生き方をリアルに描いて定評のある山内マリコの小説を映画化。日本の中心、東京に潜む目に見えない「階層」を背景に、対照的なふたりの女性が自分らしさに目覚めてゆくようすが描かれる。原作者よりも若干年下ながら、同じアラフォー世代の岨手(そで)由貴子監督が脚本も手がけている。

■SYNOPSIS■ 結婚こそが幸せと育てられ、疑わずに生きてきた東京の医者一家の三女、華子(門脇麦)。家族の食事会の席で恋人を紹介するはずが破談になり、あらためて結婚相手を探す羽目に。あらゆる出会いを模索するも理想の相手は現れない。そんなときに義兄から、弁護士の青木幸一郎(高良健吾)を紹介される。一方、東京の名門私立大学に合格し、地方都市から上京してきた美紀(水原希子)。そこで初めて感じたのが、都内に代々居を構える名門家に生まれ、付属校から上がってきた「内部生」と、地方出身者との間に歴然と存在する目に見えない「階層」だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 人格や生き方を少なからず形成する「環境」。その環境をみずから築いてゆけるかどうか。女性たちは問題を抱えながらも模索し、アイデンティティーに目覚めてゆくけれど、政治家を目指し世襲するという宿命を負った幸一郎はどうなのか。いちばん問題を抱えているのは彼にほかならない。
(NORIKO YAMASHITA)                                             
2021年2月17日 記

監督/脚本:岨手由貴子 原作:山内マリコ「あのこは貴族」(集英社文庫) 出演:門脇麦/水原希子/高良健吾/石橋静河/山下リオ/佐戸井けん太/篠原ゆき子/石橋けい/山中崇/高橋ひとみ/津嘉山正種/銀粉蝶 2021年日本(124分) 配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ 
公式サイト:https://anokohakizoku-movie.com/    ©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会



『ある人質 生還までの398日』SER DU MÅNEN, DANIEL 2021年2月19日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷/角川シネマ有楽町ほか

■イスラム過激派が暗躍し危険極まりないシリアに入り、IS(イスラム国)に拉致・監禁されてしまう若手カメラマン。本国デンマーク政府から見棄てられ、家族の捨て身の身代金集めによって解放されるまでの1年あまりを描いた実話ドラマ。大ヒットした『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』のベテラン監督アルデン・オプレヴが、人質救出の専門家役として出演もしている俳優のベアテルセンと共同で監督している。

■SYNOPSIS■ 試合中にけがを負い競技生命を絶たれた体操選手ダニエル。第2の人生と定めたのは写真家の仕事だった。戦場カメラマンの助手としてソマリアに同行するなか、戦時の日常をとらえることこそ自分の役目と確信。だが次に入ったシリアでISに誘拐され身代金を要求される。身代金交渉はしないのが祖国デンマークの方針。一家はプロの人質救出人と連絡を取り秘密裏に動きはじめるが、要求額は法外で一般市民が払えるような額ではなかった。一方、ダニエルは生死彷徨う過酷な監禁生活を送っていた。

■ONEPOINT REVIEW■ いちど身代金を払ってしまうとさらに標的にされ、誘拐はいっそうエスカレートするだろう。理にかなった考え方だが、残された家族はどうしたらいいのか。これは欧米だけではなくおそらく日本でも起きていた共通の難題だろう。ドラマチックに描かれているけれど、気の毒なダニエルが無鉄砲で罪なひとにも見えてくる。(NORIKO YAMASHITA) 
                   2021年2月10日 記

監督:ニールス・アルデン・オプレヴ/アナス・W・ベアテルセン 出演:エスベン・スメド/トビー・ケベル/アナス・W・ベアテルセン/ソフィー・トルプ
2019年デンマーク=スウェーデン=ノルウェー(138分) 配給:ハピネット 配給協力:ギグリーボックス  原題:SER DU MÅNEN, DANIEL 
公式サイト:https://398-movie.jp/   ©TOOLBOX FILM / FILM I VÄST / CINENIC FILM / HUMMELFILM 2019




『すばらしき世界』 2021年2月11日(木・祝)からTOHOシネマズ日本橋/TOHOシネマズ日比谷/丸の内ピカデリーほか

■原作は30年ほど前に出された佐木隆三のノンフィクション小説。ヤクザの世界に身を置き重罪を犯した男が、出所後に堅気として歩き出すも思うように行かない。そんな〝不器用な男〟の生きざまを西川監督自身が現代に置き換えて脚本化。オリジナル脚本ばかりを映画化してきた西川監督にとっては初めての自身以外の作家の作品となる。

■SYNOPSIS■
 刑期を終え上京した三上(役所)は支援者の弁護士夫妻から温かく迎えられ、新生活を下町のおんぼろアパートでスタートさせる。だが、職探しが思うようにいかない。一方、三上を取材対象にしたTV番組の話が動きはじめていた。生き別れた母親との再会を描いた感動のドキュメンタリー。やり手プロデューサーの吉澤(長澤)が制作会社を辞めた津乃田(仲野)に話を持ち込むが、津乃田は三上の壮絶な半生を知って尻込みする。

■ONEPOINT REVIEW■
 〝不器用な男〟の代名詞と言えば健さん=高倉健ということになるが、健さんと同じくらいに周囲の共感を呼びそうな不器用な男が、役所広司演じる本作の三上だ。原作小説「身分帳」の主人公は役所本人に言わせると「いやな奴」なのだそうだが、映画の三上はときどきブチ切れるものの人間味があり、なにより品がいい。それは役所本人からにじみ出るものであり、監督が彼にラブコールを送った時点ですでに、この方向性は動き出していたのかもしれない。
(NORIKO YAMASHITA)
                                              2021年2月6日 記

監督/脚本:西川美和 原案:佐木隆三「身分帳」(講談社文庫) 出演:役所広司/仲野太賀/橋爪功/梶芽衣子/六角精児/北村有起哉/長澤まさみ/安田成美
2021年日本 配給:ワーナー・ブラザース映画 
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会    公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/




『春江水暖~しゅんこうすいだん』春江水暖(DWELLING IN THE FUCHUN MOUNTAINS) 2021年2月11日(木・祝)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか
 
■監督のふるさと、中国浙江省は杭州市富陽(フーヤン)を舞台にした家族三世代の物語。背景には富陽を描いた有名な水墨画「富春山居図」の存在があり、再開発で変貌する故郷を映像でとらえた、現代の絵巻物的作品にもなっている。シャオガン監督は1988年生まれの新世代でこれが長編第1作。いきなりカンヌ批評家週間のクロージング作品に迎えられた。

■SYNOPSIS■ 誕生日の祝宴中に主賓の老母が倒れ病院に運ばれる。命はとどめたものの認知症が進み、長男が引き取ることに。不満くすぶる長男の妻の願いは、娘のグーシーが親の決めた相手と結婚してくれること。そうすれば老後も安泰なのだが、娘には好きなひとがいて思い通りにはいかない。一方、自分たちは切り詰めながらひとり息子に家を買ってやろうとする次男夫婦、借金まみれなうえに障害のある息子を抱える三男、勧められるまま見合いをする独身の四男。そんななか再開発が進み街は大きく変わろうとしていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 資金もほとんどないままスタートし、資金繰りをしながら2年がかりでつくられたという本作。クルーを組んで作品をつくるのもこれがはじめてで、しかもキャストの大半が監督自身の親族という異例のプロダクション。にも関わらずこの完成度の高さはなんだろう。緻密に計算されたダイナミックなカメラワーク。若い世代らしいさわやかさも持ち味の、楽しみな新星の登場だ。(NORIKO YAMASHITA)   
2021年1月30日 記

監督/脚本 : グー・シャオガン 音楽 :ドウ・ウェイ 出演:チエン・ヨウファー/ワン・フォンジュエン/スン・ジャンジェン/スン・ジャンウェイ/ジャン・レンリアン/ジャン・グオイン/ドゥ―・ホンジュン/ポン・ルーチー/ジュアン・イー 2019年中国(150 分) 配給:ムヴィオラ 
原題:春江水暖(DWELLING IN THE FUCHUN MOUNTAINS)
公式サイト:http://www.moviola.jp/shunkosuidan/   ©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved




『ベイビーティース』BABYTEETH  2021年2月19日(金)から新宿武蔵野館/渋⾕ホワイトシネクイントほか 

■精神的に不安定な元ピアニストの妻と、その主治医でもある精神科医の夫。ある日、女子校に通うひとり娘のミラが初めての恋と出会い、一家の日常が大きく動き出す。女性プロデューサー陣が見出した戯曲を、原作者である劇作家のリタ・カルネジェイス自身が脚本化。シャノン・マーフィー監督をふくめ、女性色が色濃いオーストラリア発の人間ドラマ。

■SYNOPSIS■ 女子高生のミラはある日、電車を待っているときにモーゼスという若い男と出会い親しくなる。彼はタトゥーだらけで身なりも汚く、どこから見てもあぶなそうな男。両親も危ぶむが、ミラの目にはもはや彼しか映らない。トラブルを次々起こしてとがめる両親に「わたしにだって問題がある」とかばうミラ。そんな娘のようすを見て、両親もときどき嬉しそうな表情を浮かべるのはなぜだろう。彼らが抱える問題はいったい何なのか。

■ONEPOINT REVIEW■ 妻のアナが心不安定で、ピアニストという職を放棄したのはなぜなのか。ミラが出会ったばかりのモーゼスに、自分の髪を切ってもらうのはなぜなのか。いくつもの「なぜ」が、物語が進むうちにベールを脱いでゆく。カルネジェイスの巧みな脚本とマーフィー監督の繊細かつダイナミックな演出。美しいエンディングも心に残る。(NORIKO YAMASHITA)
                                   2021年1月28日 記

監督:シャノン・マーフィ 脚本:リタ・カルネジェイス 出演:エリザ・ スカンレン/トビー・ウォレス/エシ―・デイヴィス/ベン・メンデルソーン 2019年オーストラリア(117分) 配給:クロックワークス/アルバトロス・フィルム 原題:BABYTEETH 
公式サイト:https://babyteeth.jp/    © 2019 Whitefalk Films Pty Ltd, Spectrum Films, Create NSW and Screen Australia

        

『天国にちがいない』 IT MUST BE HEAVEN 2021年1月29日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか 

■ユダヤ人によるイスラエル建国宣言(1948年)によって、不本意にもパレスティナ系イスラエル人としてそこに「間借り」するような形になった先住のアラブ人。そのひとりであり、その特異な出自が大きく作品に反映されているのがナザレ出身のエリア・スレイマン監督だ。みずから演じるのは彼自身を思わせる映画監督。ひょうひょうと生きる彼の眼にはどんな世界が映っているのか。ユーモアにくるんだアイロニカルな視線。

■SYNOPSIS■ ナザレに住む映画監督のES。ベランダの下をふと見ると、男が勝手にESの家のレモンを収穫し水をやり育てている。飛行機に乗りパリに向かう。街を闊歩する美しい女性たちに見とれるも、朝目覚めると夏の休暇に入ったのか街は静まり返っていた。そこにいるのは食事サービスに並ぶひとたちだけ。新作の企画を持ち込むと「パレスティナ色が弱い」とあっさり断られる。次に訪れたのはニューヨーク。パレスティナ人に初めて会ったとはしゃぐタクシー運転手に遭遇。そしてここでもまた新作の売り込みに失敗。ふたたびナザレに戻った彼に、安堵の表情が浮かんだような。

■ONEPOINT REVIEW■ 他人の家のレモンを当たり前のように収穫し、勝手に育てている男がだれを指しているかは一目瞭然だろう。驚きあきれるばかりで何も言わない主人公。その目の奥には驚きだけではなく悲しみがあり、さらには達観せざるを得ない過去の歴史が見え隠れする。また自作のプランを持ってめぐるパリ、ニューヨークの旅は、安住の地を求めて彷徨う監督自身の姿のようにも映る。(NORIKO YAMASHITA) 
  2021年1月22日 記

監督/脚本/エリア・スレイマン 出演:ガエル・ガルシア・ベルナル/タリク・コプティ/アリ・スリマン/グレゴワール・コリン 
2019年フランス=カタール=ドイツ=カナダ=トルコ=パレスティナ(102分)
配給:アルバトロス・フィルム/クロック・ワークス 原題:IT MUST BE HEAVEN  公式サイト:https://tengoku-chigainai.com/ 
©2019 RECTANGLE PRODUCTIONS - PALLAS FILM - POSSIBLES MEDIA II - ZEYNOFILM - ZDF - TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION




『ヤクザと家族 The Family』  2021年1月29日(金)からTOHOシネマズ日本橋/TOHOシネマズ日比谷/新宿バルト9ほか

■映画製作、配給の仕掛け人であるスターサンズの河村光庸が、ともに成功を収めた『新聞記者』の新鋭監督、藤井道人とふたたび手を組んだオリジナル・ストーリー。ヤクザ組織における「家族」と実際の「家族」とのはざまで揺れながら、社会の変化のなか脱落してゆく男たちの姿を、藤井監督自身が人間ドラマとして書き下ろしている。

■SYNOPSIS■ 覚せい剤に手を出し、みじめな最期を遂げた父親。その葬式に出た街のチンピラ、山本賢治(綾野剛)はヤクザ組織を毛嫌いしていたがある時、半死半生のところを柴咲組の組長(舘ひろし)に拾われ、一転父子の契りを結ぶ。彼を息子のように可愛がる様子を見て、兄貴分の中村(北村有起哉)は心中穏やかでない。ある日、天敵の侠葉会とひと悶着あったあと、キャバクラでバイトをする由香(尾野真千子)が傷の手当てをしてくれる。不器用な出会いではあったがやがてふたりは付き合いはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ 暴力団排除条例などが施行され、市民生活は平穏を取り戻しつつある。その実態を暴力団=ヤクザの視点から描くとどうなるのか。肩で風を切って闊歩してきた彼らは一転「肩身が狭い」存在となる。足を洗ってもすぐには「堅気」の職に就けないという制約もある。しかし何よりも厳しいのは世間の目だ。その冷たい目は家族にも向けられ排除されてゆく。ヤクザにしかなれなかった男たち。過渡期とクールに受け止めるにはあまりにも切ない現実。

(NORIKO YAMASHITA)          
2021年1月21日 記

監督/脚本:藤井道人 企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 
出演:綾野剛/尾野真千子/北村有起哉/市原隼人/磯村勇斗/菅田俊/康すおん/二ノ宮龍太郎/駿河太郎/岩松了/豊原功補/寺島しのぶ/舘ひろし 音楽:岩代太郎 主題歌:millennium parade「FAMILIA」2021年日本(136分) 配給:スターサンズ/KADOKAWA
公式サイト:https://yakuzatokazoku.com/  ©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会



『名も無き世界のエンドロール』 2021年1月29日(金)からTOHOシネマズ日本橋/TOHOシネマズ日比谷/新宿バルト9ほか 

■新人作家の登竜門「小説すばる文学賞」を2012年に受賞した行成薫の代表作(発表時は「マチルダ」名)を映画化。幼なじみ男女3人の友情と恋愛の行方が、ある事件をきっかけにミステリアスに展開してゆく。幼き日から現在に至る時間の流れを前後させながら、あっと驚くエンディングを迎える。監督は『キサラギ』のベテラン、佐藤祐一。

■SYNOPSIS■ 落ちこぼれのふたり、キダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)。そこにある日、似た匂いを持った少女ヨッチ(山田杏奈)が転校してくる。少女は最初は突っ張っていたが、ふたりが自分と同じ複雑な家庭環境にあることを知り、急速に打ち解ける。やがて成人して自動車修理工場で働くキダとマコトのもとにある日、ひとりの女性が破損したスポーツカーを運び込む。彼女は人気モデルで政治家令嬢のリサ(中村アン)。彼女に執着を見せるマコトに対し、住む世界が違うからとキダは止めるが、やがてマコトは忽然と姿を消す。

■ONEPOINT REVIEW■ テレビドラマの演出作品も多数あり多作な佐藤祐一監督。そのなかでも脚本家の古沢良太とコンビを組んだ代表作『キサラギ』同様に、この作品の面白さもまた先の見えない展開。子どものころから人を驚かせるのが大好きだったマコトが親友のキダを巻き込み、一世一代の一大サプライズを仕掛ける。 (NORIKO YAMASHITA) 
                                                
2021年1月19日 記

監督:佐藤祐市 原作:行成薫「名も無き世界のエンドロール」(集英社文庫)  出演:岩田剛典/新田真剣佑/山田杏奈/中村アン/石丸謙二郎/大友康平/柄本明  主題歌:須田景凪「ゆるる」 配給:エイベックス・ピクチャーズ ©行成薫/集英社  ©映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会



『聖なる犯罪者』 BOZE CIALO(CORPUS CHRISTI)
2021年1月15日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館/渋谷ホワイト シネクイントほか
 
■ポーランドで実際にあった聖職者成りすまし事件を、同国の新鋭ヤン・コマサ監督で映画化。事件の記事を新聞に書いたパツェヴィチ自身が脚本を手がけている。ふたりはその後、現在NETFLIXで配信中の最新作『ヘイタ―』を発表し、そちらも注目されている。

■SYNOPSIS■ 暴力やいじめがはびこる少年院。殺人罪で服役中のダニエルも暴力的な世界に身を置いていたが、一方で熱心なカトリック教徒であることから、そこで教える神父に一目置かれていた。夢は神父になること。前科のある彼には叶わぬ夢を出所時にいまいちど神父に伝えると、諦めるよう引導を渡される。クラブでひと遊びし、就職先の製材所を覗いてみるも気が乗らず、そのまま地元の小さな教会に入ると、ふとしたことからそこで出会った若い女性に自分は司祭だと嘘をついてしまう。

■ONEPOINT REVIEW■ 聖職者としての知識や教養はないに等しいダニエルだが、聖典にとらわれない彼の生身の言葉は逆に村人たちの心をとらえてゆく。しかしこれは、だれのどういう問題なのだろうか。聖職者こそ彼の天職という考え方もできるし、あるいは言葉巧みな青年に惑わされる愚かな村人たち、という見方もできなくはない。宗教が抱える問題、転落した者の再生の問題、村八分の問題など、ここにはさまざまな問題が渦巻いている。
(NORIKO YAMASHITA)
                                                   
2021年1月13日 記

監督:ヤン・コマサ 脚本:マテウシュ・パツェヴィチ 
出演:バルトシュ・ビィエレニア/エリーザ・リチェムブル/アレクサンドラ・コニェチュナ/トマシュ・ジィェンテク/レシェク・リホタ/ルカース・シムラット
2019年ポーランド=フランス(115分) 配給:ハーク 原題:BOZE CIALO(CORPUS CHRISTI)  
公式サイト:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/  © 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewódzki Dom Kultury W Rzeszowie - ITI Neovision S.A.-Les Contes Modernes





『キング・オブ・シ―ヴズ』 KING OF THIEVES  2021年1月15日(金)から日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか

■2015年に英国ロンドンで実際に起きた大窃盗事件を、新聞や雑誌記事をもとに脚本化して映画化。20数億円という巨額の窃盗額もそうだが、平均年齢60歳超えという高齢者集団だったことも関心を集め、マイケル・ケインを筆頭にジム・ブロードベント、トム・コートネイ、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボンという英国映画界の重鎮たちが集結しているのも話題だ。そのなかのいちばんの若手チャーリー・コックスは、ジェームズ・マシュー監督とは『博士と彼女のセオリー』以来2度目の共働となる。

■SYNOPSIS■ 愛妻のリンと悠々自適の老後を送るブライアンだったが、そのリンが急死。葬儀に来ていたバジルという青年がある仕事を持ちかけてくる。彼はロンドンでも有数のジュエリー街ハットンガーデンにある貸金庫の鍵を持っていて、そこを襲う手助けをしてくれないかというものだった。隠居を決め込んでいたブライアンだったが、むかしの仲間を集めて話は進んでゆく。77歳のブライアン以下、高齢者ぞろいのシルバー集団だった。

■ONEPOINT REVIEW■ マイケル・ケインはじめすごいメンツがそろった。いずれも実年齢に近い役だが、トム・コートネイに至っては1937年生まれだから制作時でも80歳前後。映画史にも出てくる『長距離ランナーの孤独』でデビューした青年がいまも一線で活躍しているのは感慨深い。面々は好々爺というよりひと癖もふた癖もある犯罪者。温厚な役が多いジム・ブロードベントが狡猾でイヤな男というのも面白いし、1940年生まれのマイケル・ガンボンも笑えるほどよれよれの役で登場する。(NORIKO YAMASHITA)
 
2021年1月12日 記

監督:ジェームズ・マーシュ 出演:マイケル・ケイン/ジム・ブロードベント/トム・コートネイ/チャーリー・コックス/ポール・ホワイトハウス/レイ・ウィンストン/マイケル・ガンボン 2018年イギリス(108分) 原題:KING OF THIEVES 配給:キノフィルムズ 
公式サイト:https://kingofthieves.jp/  ©2018 / STUDIOCANAL S.A.S. - All Rights reserved.



『パリの調香師 しあわせの香りを探して』 LES PARFUMS  2021年1月15日(金)からBunkamuraル・シネマ/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 

■いっときは華やかなファッション業界に君臨しながら、いまは無名の存在としてひっそりと生きる調香師のアンヌと、ひょんなことから彼女のお抱えとなる運転手のギヨーム。異質なふたりの出会いが想定外の反応を起こし、ともに新たな人生へと踏み出してゆく。コミカルな味を持つギヨーム役グレゴリー・モンテル×シリアスな演技派エマニュエル・ドゥヴォスという組み合わせも、意外な組み合わせになっている。監督は長編2作目のグレゴリー・マーニュ。

■SYNOPSIS■ 離婚調停中のギヨームの願いは愛娘のレアと暮らすこと。だが現実は厳しく運転手の仕事もクビ寸前。なんとか上司に頼み込み、とある顧客の運転手を振り分けてもらうと、現れたのは気難しそうなひとりの独身女性だった。彼女のひとをアゴで使うような尊大な態度にギヨームはクビ覚悟でキレてしまうが、意外にもふたたび指名される。花形調香師だった彼女はかつて臭覚を失い、華やかな世界から転落というトラウマを抱えていた。

■ONEPOINT REVIEW■ 実在するディオールの人気香水「ジャドール」を生み出した伝説の調香師としてアンヌ(ドゥヴォス)は登場し、実際にディオールやエルメスの調香師たちの監修のもとこの映画はつくられている。だがそんな香水業界のリアル感をベースに語られるのは、対照的な男女ふたりの人生。とくにギヨームはアンヌとの出会いのなかで、運転手以外の才能にも目覚めてゆく。(NORIKO YAMASHITA) 
    
2021年1月8日 記

監督/脚本:グレゴリー・マーニュ 出演:エマニュエル・ドゥヴォス/グレゴリー・モンテル/セルジ・ロペス 2019年フランス(101分) 原題:LES PARFUMS 配給:アット エンタテインメント  公式サイト:https://parfums-movie.com/  © LES FILMS VELVET - FRANCE 3 CINÉMA



『43年後のアイ・ラヴ・ユー』 REMEMBER ME  2021年1月15日(金)から新宿ピカデリー/角川シネマ有楽町/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 

■かつて愛した女性がアルツハイマー病を患っていることを知り、自分もその〝フリ〟をして施設に潜入するひとりの老人。人生を重ねてきたひとならではの茶目っ気を全開させて描かれるユーモラスな愛の物語。スペインの脚本家で監督のラファ・ルッソのアイデアを、同じくスペインのロセテ監督が練り上げて映画化した。

■SYNOPSIS■ 妻に先立たれ、娘や孫娘たちとは離れて暮らす元演劇評論家のクロード。その一日は近所に住む悪友シェーンとのたわいもないおしゃべりから始まる。ある日、久しぶりに自分の仕事をなじみの編集者に売り込みに行くと偶然、かつて愛し合った女優のリリィがアルツハイマーを患い施設に入ったことを知る。走馬灯のように蘇る若き日の恋物語。クロードは自分も病を装い、リリィのいる施設に入ることを画策する。

■ONEPOINT REVIEW■ やたらクスリに詳しい老人がふたり。主人公のクロードと悪友シェーンの会話だが、このひとたちボケてるんだか頭が鮮明なのか…。そんなユーモアたっぷりの導入部が秀逸で、どんどん物語に吸い込まれてゆく。そしてクロードが仕事を売り込みにゆくとそこはすでにデジタル化が進んでいて…。老人の話なのだが、いわゆる「老人力」というのが利いていておかしい。(NORIKO YAMASHITA)
     
2021年1月6日 記

監督/共同脚本:マルティン・ロセテ 共同脚本:ラファ・ルッソ 出演:ブルース・ダーン/カロリーヌ・シロル/ブライアン・コックス/セレナ・ケネディ/シエンナ・ギロリー/ベロニカ・フォルケ 2019年スペイン=アメリカ=フランス(89分) 配給:松竹 原題:REMEMBER ME 
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/43love/  
©2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, TORNADO FILMS AIE, FCOMME FILM .All rights reserved.



『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(ドキュメンタリー)  STUNTWOMEN:THE UNTOLD HOLLYWOOD STORY 
2021年1月8日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■派手なアクションシーンも多いハリウッド映画において欠かせないのが、スター俳優たちの身代わりとなって危険な演技をこなすスタントという仕事だ。そのなかにあって女性スタントたちには、業界に根強く残る女性差別と闘ってきた歴史もある。そんな負の側面を掘り起こしつつ、華麗なる女性スタントの世界をたっぷり見せてくれるドキュメンタリー。製作総指揮を買って出たのは女優のミシェル・ロドリゲス。映画製作や脚本家、ドキュメンタリーの監督としてのキャリアのある女性監督、エイプリル・ライトがメガホンをとっている。

■SYNOPSIS■ TVシリーズ「スパイ大作戦」や映画『ダーティーハリー』などで活躍したジュリー・アン・ジョンソンは1939年生まれ。TVシリーズ「ワンダー・ウーマン」でリンダ・カーターの身代わりとなったジーニー・エッパ―は1941年生まれ。60年代から活躍する草分けが当時の様子を回顧する一方、現在の様子を語ってくれるのはマニーメイカー姉妹ら若い現役世代だ。華やかでありながら命がけのこの仕事には危険がついて回る。演技のイメージがわかなかったらやめること。「繊細さ」も女性スタントの持ち味という。

■ONEPOINT REVIEW■ 〝映画の草創期には女性や移民も働いていたのに、この仕事が儲かるとわかるとハリウッドの男たちは彼らを除外していったんだ〟と語るのは映画史家のベン・マンキーウィッツ。またスタントマンたちの協会に女性は入れてもらえず、ならばとスタントウーマンの協会を立ち上げその役職に就いた途端、何年も仕事を干されたと証言するひともいる。そんな負の歴史と闘いながら女性スタントたちは腕を磨いてきた。男女混合で競われた大会のカースタント部門で、全体の一位を獲得したデビ―・エヴァンスは誇らしげだ。そして初の映画芸術科学アカデミーの会員となったメッリッサ・R・タップㇲはいま、アクション監督として活躍する。(NORIKO YAMASHITA) 
        
2021年1月5日 記

監督:エイプリル・ライト 製作総指揮/出演:ミシェル・ロドリゲス 出演:エイミー・ジョンソン/ジーニー・エッパ―/ジュリー・アン・ジョンソン/ジェイデイ・デイヴィッド/ドナ・キーガン/ジェニファー・カプート/ハイディ・マニーメイカー/レディ・マニーメイカー/デビ―・エヴァンス/ドンナ・エヴァンス/メリッサ・R・スタッブス 2020年アメリカ(84 分) 原題:STUNTWOMEN:THE UNTOLD HOLLYWOOD STORY 配給:イオンエンターテイメント 配給協⼒:REGENTS   公式サイト:http://stuntwomen-movie.com/  
写真上(大):ミシェル・ロドリゲス(左)とデビ―・エヴァンス © STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020



『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』 FETE DE FAMILLE (HAPPY BIRTHDAY)  2021年1月8日(金)からYEBISU GARDEN CINEMAほか

■初期の『倦怠』や『ロベルト・スッコ』で強烈な印象を残し、その後さまざまな作品を撮ってきたセドリック・カーン監督の新作は家族がテーマ。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる一家の長、アンドレアの70歳の誕生日に集まってきた親族一同。なかでも行方知れずだった長女の突然の帰郷が一家にじんわりと波紋を投げかけてゆく。
■SYNOPSIS■ フランス南西部の緑豊かななかに佇む田舎の邸宅。そこで夫と孫娘と暮らす屋敷の主アンドレアが70歳の誕生日を迎え、親族一同が集まることに。するとそこに、何年も音沙汰がなく行方知れずだった長女クレールから連絡が入り、大きな荷物を抱えてやってくる。戸惑いながらも久しぶりに見る娘の姿に大喜びするアンドレア。だが相変わらず自由奔放な彼女のふるまいや、自称映画監督の次男ロマンの身勝手な行いが、久しぶりの家族の団らんにさざ波を立ててゆく。 

■ONEPOINT REVIEW■ 俳優としても活動するカーン監督がはじめて自身の作品に出演しているほか、主役のドヌーヴを軸に曲者ぞろいのキャスティングも見どころのひとつ。なかでもエマニュエル・ベルコとヴァンサン・マケーニュというエキセントリックな俳優ふたりが姉弟役で登場し、ユーモアをたたえながらも狂気すれすれのところで家族をひっかきまわしてゆく。 (NORIKO YAMASHITA)                        
2021年1月4日 記

監督/脚本/出演:セドリック・カーン 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/エマニュエル・ベルコ/ヴァンサン・マケーニュ 2019年フランス(101分) 配給:彩プロ/東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES 原題:FETE DE FAMILLE(HAPPY BIRTHDAY) 
公式サイト:https://happy-birthday-movie.com/ ©Les Films du Worso



『ルクス・エテルナ 永遠の光』 LUX AETERNA  2021年1月8日(金)からシネマート新宿/シネマート心斎橋ほか

■ファッションブランド「サンローラン」がはじめたアートプロジェクトの第4弾は、映画界きっての鬼っ子監督ギャスパー・ノエの新作。舞台はカオスと混乱のなか撮影が進められている映画制作の現場。監督ベアトリスをベアトリス・ダル、ヒロイン役のシャルロットをシャルロット・ゲンスブールが演じ、映画イン映画の入れ子スタイルになったここにはもはや現実とドラマの境もない。そしてクライマックスの磔シーンを迎える。

■SYNOPSIS■ 撮影の休憩タイム中、監督のベアトリスと主役のシャルロットがソファに座り会話をしている。「磔のシーンはやったことあるの?」「ないわ、焼かれるシーンならあるけど」。やがて撮影が再開しようとしていたが、そこにはパパラッチのような男や、シャルロットに出演を依頼する新人監督、彼女の大ファンだという記者など余計な部外者が入り込んで混乱の極み。さらにはベアトリスを監督から引きずり降ろそうとする輩までいた。やがてクライマックスシーンの撮影がはじまると、過剰な光が点滅する。

■ONEPOINT REVIEW■ 前作の『CLIMAX クライマックス』や前々作の『LOVE【3D】』に比べるとぐっと抑え気味とはいえ、ギャスパー・ノエ監督の作品に出ることは俳優にとっては大きな挑戦だ。いまや〝怪優〟と言っていいダルと、サラブレッドながら両親に負けないチャレンジ精神を持つゲンスブーㇽが挑んでいることは大きな意味を持つ。
このふたりの有名女優がいなければ、まったく別の映画になっていたことだろう。(NORIKO YAMASHITA)   2020年11月17日 記

監督/脚本:ギャスパー・ノエ 出演:シャルロット・ゲンスブール/ベアトリス・ダル/アビー・リー・カーショウ/クララ3000 /クロード・ガジャン・マウル/フェリックス・マリトー/フレッド・カンビエ/カール・グルスマン/ローラ・ピリュ・ペリエ/ルー・ブランコヴィッチ/ルカ・アイザック
2019年フランス(51分) 配給:ハピネット 配給協力:スターキャット 原題:LUX AETERNA 
©2020 SAINT LAURENT-VIXENS-LES CINEMAS DE LA ZONE  公式サイト:http://luxaeterna.jp/




<注目のロードショー・アーカイヴ2020> ARCHIVE 2020


『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』(ドキュメンタリー) GOGO  2020年12月25日(金)からシネスイッチ銀座ほか

■『世界の果ての通学路』ほかのドキュメンタリー作家、パスカル・プリッソン監督の心をとらえたのは、90歳を超えてから小学校に入学したアフリカのおばあちゃん「ゴゴ」の現在進行形の物語。小さな子どもたちに溶け込みながら、一緒に学ぶ姿がとらえられてゆく。

■SYNOPSIS■ プリシラ・ステナイ94歳。3人の子どもと22人の孫、52人のひ孫に恵まれた彼女はケニアの小さな村で畑を耕し、牛の世話をして生活してきた。と同時に祖母から助産師の仕事を習い、いまも現役。そんな彼女をみんなは親しみを込めてゴゴ(おばあちゃん)と呼んでいる。だが学ぶことは許されなかった。あるとき、ひ孫娘たちも学校に通っていないことを知り、6人のひ孫娘たちとともに小学校に通うことを決意する。 

■ONEPOINT REVIEW■ 小さな子どもたちとおそろいの、若草色の制服セーターを着たゴゴは驚くほどみんなになじんでいる。その一方で子どもたちは、彼女のことを茶化すわけでも無視するわけでもなく、敬い共存している。そしてゴゴもまた子どもたちの敬いの念に応えるようにリーダーシップを発揮する。この自然体はなんだろう。貧しく質素かもしれないが、「豊かな世界」がここにはあるように見える。(NORIKO YAMASHITA) 
2020年12月24日 記

監督/脚本:パスカル・プリッソン 音楽:ローラン・フェルレ 出演:プリシラ・ステナイ
2019年フランス(84分) 配給:キノフィルムズ 原題:GOGO  公式サイト:http://www.gogo-movie.jp/ © Ladybirds Cinema




『この世界に残されて』 AKIK MARADTAK(THOSE WHO REMAINED)  2020年12月18日(金)からシネスイッチ銀座ほか 

■1948年、第二次大戦後のハンガリー。ナチスドイツによる大量虐殺で家族を失い、トラウマを抱えたままひっそりと生きる中年男性と思春期を迎えた少女がふとしたことから出会い、偏見にさらされながらも絆を深めてゆく。終わらない戦後を描いたのは女性心理学者のジュジャ・F・ヴァールコニ。知人のトート監督が感銘を受け、長編2作目として映画化した。

■SYNOPSIS■ 婦人科医のアルドが勤務する病院に、クララが大叔母オルギに付き添われてやってくる。もうじき16歳なのに初潮が来ないのだという。お母さんも不順だった?と質問するアルドに、まだ生きていると強がるクララ。ある日、ひとりで病院にやってきて、初潮が来たことを告げた少女はそのまま医師のアパートに上がり込む。そうこうするうちにふたりの距離は少しずつ縮まるが、オルギはその関係が心配でならない。クララはほかの親戚の子を孤児院に探しに行ったときに偶然見つけ、そのまま引き取ったのだという。ある日、自分のもとでは彼女は幸せになれないので保護者になってほしいとアルドに頼み込む。 

■ONEPOINT REVIEW■ 妻と子を失い、幸せだったころの家族写真をいまだに見ることができないアルドと、妹を守るよう母親に頼まれながら果たせなかったクララ。重い過去を抱える彼らにさらにのしかかるのは、ソ連=スターリン独裁の支配下となったこの国の政治的背景だ。戦時中の延長線にあるような解放感のない世界。日本の戦後とはまったくちがう戦後がここにはある。(NORIKO YAMASHITA) 2020年12月15日 記

監督:バルナバーシュ・トート 出演:カーロイ・ハイデュク/アビゲール・セーケ/マリ・ナジ カタリン・シムコー/バルナバーシュ・ホルカイ 2019年ハンガリー(88分) 配給:シンカ 原題:AKIK MARADTAK(THOSE WHO REMAINED) 公式サイト:http://synca.jp/konosekai/ ©Inforg-M&M Film 2019




『私をくいとめて』  2020年12月18日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷/テアトル新宿ほか 

■勝手気ままなおひとりさまライフを満喫しながら、どこか物足りなくもある31歳OL。脳内に棲みつくAというもうひとりの自分と共生しつつゆるゆると、しかし確実に進んでゆくひとりの女性の生きるさまを、のんが生き生きのびのびと自然体で演じている。綿矢りさ原作×大久明子監督/脚本、『勝手にふるえてろ』のコンビネーションふたたび。

■SYNOPSIS■ 黒田みつ子(のん)の生活は規則正しい。平日は会社で仕事をこなし、週末になると自分だけの時間を謳歌するいわゆるおひとりさまライフをもう何年もつづけている。トラブルが生じたときや答えに窮したときには脳内に棲むAが解決してくれるので安心。ときにはケンカになることもあるけれど…。だがそんな生活を楽しみながらどこか物足りなさを感じるのは、人生のパートナーがいないからだろうか。ある日、仕事先の年下の営業マン、多田くん(林遣都)がご近所さんであることを知る。

■ONEPOINT REVIEW■ 自分にとってどんな生き方がベストなのか。黒田みつ子はふだんからそんなことを考えているわけではないけれど、ふとした瞬間に寂しさとか物足りなさが頭をもたげてくるのだろう。だからと言って、ちょっと気に入った男の子とつき合って結婚しちゃおう、という映画ではない。その複雑な胸の内をAとともに葛藤するみつ子は、見方によってはかなり変なひとだけれど、のんが演じるとふしぎとさわやか。(NORIKO YAMASHITA)
  2020年12月14日 記

監督/脚本:大九明子 原作:綿矢りさ 出演:のん/林遣都/臼田あさ美/橋本愛/若林卓也/片桐はいり 2020年日本(133分) 配給:日活 
公式サイト:https://kuitomete.jp/ ©2020『私をくいとめて』製作委員会




『NETFLIX 世界征服の野望』 NETFLIX VS. THE WORLD
2020年12月11日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷/池袋シネマ・ロサ/ユナイテッド・シネマ・アクアシティお台場ほか

■世界を席巻中のストリーミング配信サービス、NETFLIXはいかに誕生し急成長したのか。いきさつを取材し著したジャーナリストのジーナ・キーティングが、自ら脚本を書いたドキュメンタリー。共同創業者で初代CEOだったマーク・ランドルフや、そのライバルでときには手も組んだ全米最大のレンタルビデオ・チェーン、ブロックバスターの元CEOジョン・アンティオコラらが、当時の様子を赤裸々に語っている。ショーン・コーセンが初監督。

■SYNOPSIS■ 1997年、初代CEOのマーク・ランドルフや現CEOのリード・ヘイスティングスらわずかなメンバーでNETFLIXは創業した。ビデオがVHSからDVDへと移行しはじめたばかりの頃で、彼らはそのレンタルを店舗ではなくオンラインで行うことを発想。全米に展開するビデオレンタル・チェーン、ブロックバスターが飛ぶ鳥落とす勢いで急成長していた時期でもあり、つねに視線の先には巨大企業のブロックバスターの存在があった。

■ONEPOINT REVIEW■ 映画関係者や映画ファンがNETFLIXを大きく意識したのは、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROME/ローマ』が劇場公開ではなくネット配信ということでカンヌ映画祭から締め出され、その後、アカデミー賞の数部門をさらったあの一連の「騒動」のときではなかったか。筆者も騒動のあとにNETFLIXに加入した経緯がある。このドキュメンタリーでは創業秘話が熱く語られているが、つぎは「映画愛」秘話もぜひ聞きたい。NETFLIXにはその匂いもするから。(NORIKO YAMASHITA) 2020年12月10日 記

監督:ショーン・コーセン 原作:ジーナ・キーティング「NETFLIX コンテンツ帝国の野望 ―GAFAを超える最強IT企業―」 脚本:ジーナ・キーティング 
出演:マーク・ランドルフ(NETFLIX初代CEO、共同創設者)/ジョン・アンティオコ(ブロックバスター元会長兼CEO)/ニック・シェパード(ブロックバスター元COO)/シェーン・エバンジェリスト(ブロックバスター元オンライン事業責任者)/ベン・クーパー 2020年アメリカ(104分) 原題:NETFLIX VS. THE WORLD 配給:TOCANA 公式サイト:https://netflix-seifuku.com/ © NotApollo13, LLC.




『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』 HELMUT NEWTON: THE BAD AND THE BEAUTIFUL 
2020年12月11日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマ/新宿ピカデリーほか 

■60~80年代に一世を風靡し、2004年に自動車事故で他界した写真家ヘルムート・ニュートン。2020年がちょうど生誕100年ということで登場したドキュメンタリー。被写体ヌードとなった女優やモデルたちなどゆかりの有名人女性たちが撮影の様子やその人物像を語り、作品だけでなく当時の撮影風景も多数挿入されてゆく。監督は20数年前から親交があったドキュメンタリー作家で映画製作者のゲロ・フォン・ベーム。

■SYNOPSISに代えて■ ヘルムート・ニュートンは1920年、ドイツ・ベルリン生まれ。家業はボタン製造業だったが父親の期待も虚しく兄は農業、弟のヘルムートは写真家の道に進む。36~38年、女性写真家の草分けであるイーヴァに師事し写真のイロハを学んだ。だがイーヴァのアトリエは営業停止となり彼女は42年にナチスの強制収容所で死亡。一方ニュートンは中国に逃れる途中にシンガポールに滞在し、その後40年にはオーストラリアに渡り17年間過ごすなか、47年に女優のジューン・ブラウンと出会い翌年結婚。ジューンもアリス・スプリングの名で写真家となった。56年にロンドン、さらにパリへと移住。その頃から「ヴォーグ」や「エル」「マリ・クレール」等女性誌や「プレイボーイ」誌などを個性的な女性ヌード写真で飾り、一気に名声が高まった。2004年1月23日、カリフォルニア州ハリウッドで自動車事故に遭い死亡。享年83歳。

■ONEPOINT REVIEW■ 死から16年。忘れたころにやってきたドキュメンタリーだが、ヘルムート・ニュートンの作品はいま見ても鮮烈だ。ナチス時代に青春期を迎えたユダヤ系ドイツ人という出自も少しだけベールを脱ぐ。その一方で、過激な作品群からは到底想像できないような陽気でお茶目、愛妻家にして恐妻家という知られざるチャーミングな人柄も見ることができる。また、インタビューに応えながら冷静に彼の作品を分析するイザベラ・ロッセリーニや、自分のキャリアの方向性を決めた作品と語るシャーロット・ランプリングら、女性たちの多くが理知的に語っていているのも印象的であり、このドキュメンタリーの見ごたえのあるところ。「写真論」も著しているスーザン・ソンタグは彼の「作品」を女性蔑視と決めつけたけれど、その言葉が霞むほど女性たちは被写体だったむかしも生身のいまも力強い。そして彼と彼の作品の背後には、同業の写真家で妻のアリス・スプリング(=ジューン・ニュートン)という存在が見え隠れする。
(NORIKO YAMASHITA) 2020年12月9日 記

監督: ゲロ・フォン・べーム 出演:シャーロット・ランプリング/イザベラ・ロッセリーニ/グレース・ジョーンズ/アナ・ウィンター/クラウディア・シファー/マリアンヌ・フェイスフル/ハンナ・シグラ/シルヴィア・ゴベル/ナジャ・アウアマン/アリヤ・トゥールラ/ジューン・ニュートン/シガニー・ウィーバー/スーザン・ソンタグ/カトリーヌ・ドヌーヴ/ヘルムート・ニュートン 2020年ドイツ(93分) 配給:彩プロ 
原題:HELMUT NEWTON: THE BAD AND THE BEAUTIFUL 公式サイト:https://helmutnewton.ayapro.ne.jp/ Arena, Miami, 1978 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation




『パリのどこかで、あなたと』  DEUX MOI(SOMEONE,SOMEWHERE)  2020年12月11日(金)からYEBISU GARDEN CINEMA/新宿シネマカリテほか

■ともに出会いを求めながら、しかも隣りあわせのアパルトマンに住みながらなかなか巡り合えないアラサー男女。おもにパリを舞台に若者たちのいまを描いてきたセドリック・クラピッシュ監督が、前作『おかえり、ブルゴーニュ』を経てふたたびパリに戻り、寄り添いときに俯瞰的に眺めながら、出会いの顛末を描いてゆく。『おかえり、ブルゴーニュへ』では姉弟役だったアナ・ジラルドとフランソワ・シヴィルがすれ違いのふたりを演じている。

■SYNOPSIS■ 若き研究者として発表の場も与えられ、仕事的には充実しているのだが空虚な日々を過ごすメラニー。別れた元カレが忘れられないのだ。一方、AI化が進む物流センターで同僚がつぎつぎと首になるなか配置換えで済んだレミーも、やるせない気持ちでいっぱい。このふたり、隣りあわせのアパルトマンに住み、会社に行く途中や薬局、エスニック食品店と方々で顔を合わせているのに、お互いその存在に気づくことがない。ある日、レミーの飼い始めた猫が行方不明になりメラニーが拾う。だがそれでもふたりはまだ接近しない…。

■ONEPOINT REVIEW■ 休暇で帰省したときに兄から、パリのような街でひとりだと孤独も募るだろうと言われてレミーは「空気は汚いけどパリのほうが田舎よりもずっと息ができる」と打ち明ける。パリに出たのも黒人の女の子とつき合って陰口叩かれたのが理由だった。クラピッシュ監督は得意のネコや音楽、ダンス、エスニック色、そして今回はSNSも加え、さまざまな小道具をつかって独自色を出してゆくが、最大の小道具はやはりパリ。孤独でアンニュイなふたりの心を反映させたような冬のパリの黄昏どきや夜明けが逆に美しい。
(NORIKO YAMASHITA) 2020年12月7日 記

監督/共同脚本: セドリック・クラピッシュ 共同脚本:サンティアゴ・アミゴレーナ 
出演:アナ・ジラルド/フランソワ・シヴィル/フランソワ・ベルレアン/カミーユ・コッタン/ジネディン・スアレム/ピエール・ニネイ/マリー・ビュネル/パトリック・ダスンサオ/ルネ・ル・カルム 2019年フランス(111分) 配給:シネメディア 原題:DEUX MOI(SOMEONE,SOMEWHERE)
公式サイト:https://someone-somewhere.jp/ © 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE- STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA




『ブレスレス』 KOIRAT EIVAT KAYTA HOUSUJA(DOGS DON’T WEAR PANTS )  2020年12月11日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■妻を不慮の事故で亡くし自分を見失った男が、ふとしたことからSMの世界に足を踏み入れ、生きる望みを見出してゆく異色の愛のドラマ。フィンランドの異才ヴァルケアパー監督の書き下ろしで、彼が主役に選んだのは『トム・オブ・フィンランド』で世界的な注目を集めたペッカ・ストラングと、国内の映画や演劇だけでなく海外でも活躍するクリスタ・コソネン。コソネンは監督自らが半年かけて口説き落としての出演となった。

■SYNOPSIS■ 夏の湖の別荘。外科医のユハは妻と幼い娘の3人で休暇中に、湖の底の網に足をとられ水死する妻を目の当たりにする。異変に気づき救出に向かうも間に合わず、そのときの悪夢のような瞬間だけが脳裏にこびりついて離れなかった。十数年後、娘のエリも年頃となり、舌ピアスを開けたいというので付き添ったとき、隣接するSMクラブに迷い込み、誤って首を絞められた苦痛が妻を失ったときの瞬間と重なって頭から離れなくなる。

■ONEPOINT REVIEW■ ひとが生きる上で非暴力は必然。けれどお互いがそれを楽しむSMの世界を、その愛好家を非難することは難しい。しかしそれでもなお、理解することもなかなか難しいのだが、ヴァルケアパー監督はそれを純粋な愛の世界と結びつけて観客の心をとらえてゆく。背後にある悲しみの世界を薄暗い映像がかもし出し、ストラングとコソネンの両俳優が巧みに演じている。(NORIKO YAMASHITA) 2020年12月6日 記

監督/脚本: ユッカペッカ・ヴァルケアパー 出演:ペッカ・ストラング/クリスタ・コソネン/イロナ・
フッタ/ヤニ・ヴォラネン/オーナ・アイロラ/アイリス・アンティラ/エステル・ガイスレロヴァー
2019年フィンランド(105分) 配給:ミッドシップ 
原題:KOIRAT EIVAT KAYTA HOUSUJA(DOGS DON’T WEAR PANTS ) 公式サイト:https://breath-less.com/  ©Helsinki-filmi Oy 2019




『ハッピー・オールド・イヤー』 HAPPY OLD YEAR  2020年12月11日(金)から新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか 

■海外で学んできたことをさっそく実践しようと、実家の小さなビルをシンプルでお洒落な空間に改装することを目論むスウェーデン帰りのデザイナー、ジーン。ところがあまりにも潔く断捨離してゆくなかで、人間関係に軋みが生じてしまうホロ苦ムービー。20代で長編デビューしてこれが7作目、ことし36歳の新鋭ナワポン監督が、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のスタッフおよび主演女優チュティモンと手を組んだ最新作。

■SYNOPSIS■ デザイナーのジーンは留学先のスウェーデンからバンコクに戻ってきて、母と兄が住む実家の小さなビルをお洒落な空間にリフォームしようと思い立つ。兄はなんとか説得したものの母の反対を無視して、まずはあふれかえっている物の処分から始めるが、問題はインテリア代わりに置かれているグランドピアノ。母は頑として父の思い出の品の処分を許さない。だが父は何年も前に家族を捨てて家を出ており、ジーンにとってはいい思い出さえも苦痛の種だった。一方、送り返した元カレのカメラが受け取り拒否で戻ってくる。

■ONEPOINT REVIEW■ ジーンのように物や人、なにもかもパッパッと捨ててしまえればどんなにさっぱりすることだろう。せめて物だけでも、、、。だがそうは言っても物には思い出=人が沁みついており、だから簡単には捨てられないのだ。「ミニマリズムは宗教」みたいなことを口走るジーンの考えは、やましたひでこの〝断捨離〟よりも近藤麻理恵の〝こんまり〟に近い。実際、こんまりの本やビデオも登場するのだがジーンの考えに深味はなく、ファッションの一部としてしか伝わってこない。けれど彼女の心の奥底には、父親に捨てられたという大きな傷がある。(NORIKO YAMASHITA) 2020年12月5日 記

監督/脚本:ナワポン・タムロンラタナリット 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン/サニー・スワンメーターノン/サリカー・サートシンスパー/ティラワット・ゴーサワン/パッチャー・キットチャイジャルーン/アパシリ・チャンタラッサミー 
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/ ©2019 GDH 559 Co., Ltd.





『おろかもの』 2020年12月4日(金)~10日(木)テアトル新宿 ほか 

■新人監督誕生にひと役買ってきた「田辺・弁慶映画祭」で昨年、グランプリ/観客賞/キネマイスター賞/女優賞(2人)をさらい俄然注目されている作品。主人公の女子高生が兄の浮気相手を探るうちに、その女性とのあいだに奇妙な連帯感が生まれてゆく様子を、さわやかなタッチで描いている。芳賀俊と鈴木祥が共同で監督しており、ともに長編デビュー。

■SYNOPSIS■ 両親の死後、兄妹ふたりで支え合って生きてきた高校生の洋子だが、半同棲の婚約者がいて間近に結婚式を控えているというのに、兄の健治が浮気をしていることを知る。そのひとを尾行して会ってみると、見た目も物腰も兄の婚約者とはまったく違うタイプの女性で、健治に結婚相手がいるのも知っているようだった。ある日洋子は彼女に「結婚式、止めてみますか?」と口走ってしまう。

■ONEPOINT REVIEW■ 監督も脚本も男性たちなのに、どこから見ても「女性目線」で描かれているところが超面白い。最後のシーンは意識したのかどうかはわからないけれどマイク・ニコルズ監督/ダスティン・ホフマン『卒業』の逆パターンであり、パロディなのかもぜひ聞いてみたい。導入部から巧みに引きずり込んでゆく、なかなかのテクニシャンだった。(NORIKO YAMASHITA) 2020年11月26日 記

監督:芳賀俊/鈴木祥 脚本:沼田真隆 出演:笠松七海/村田唯/イワゴウサトシ/猫目はち/葉媚/広木健太/林田沙希絵/南久松真奈 2020年日本(96分)配給:MAP+Cinemago  SNS:https://twitter.com/orokamono_movie ©2019「おろかもの」制作チーム



『ノッティングヒルの洋菓子店』 LOVE SARAH  2020年12月4日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/新宿武蔵野館ほか 

■洋菓子店経営の夢を追う女性と、彼女を支えようとする異世代のふたり。三世代の女性たちの奮闘ぶりを描いたラブコメディー。エリザ・シュローダー監督の長編デビュー作で、自身がじっさいに暮らす英国ノッティングヒルを舞台に撮影。現地発の世界的人気デリカテッセン「オットレンギ」が協力しており、目にも美味しいケーキたちも見どころ。

■SYNOPSIS■ 洋菓子店を出すのが夢のイザベラは、優等生だった製菓学校時代の親友サラとともに念願の店を出すことに。しかし門出の日にサラが事故に遭いすべてが暗転する。悲報はサラの娘のクラリッサとその祖母ミミにも届けられるが、サラとミミの母子が絶縁状態だったため孫娘ともぎこちない。だが接するうちに打ち解けはじめ、クラリッサはイザベラをバックアップしようとミミをそそのかす。とはいえサラに代わる優秀な菓子職人はなかなか見つからない。そんなときに製菓学校時代から因縁のあるマシューが応募してくる。

■ONEPOINT REVIEW■ 目にも美味しそうなケーキたちであっても、洋菓子店激戦区のノッティングヒルで成功するのはたやすくない。そこで閃くのが多民族が暮らすお国柄を反映したオーダーメイド・ケーキ。現実にも「オットレンギ」の人気シェフはイスラエル出身であり、またシュローダー監督もユダヤ系ドイツ人でありながら英国に住み夫はフランス人というバックグラウンドの持ち主。世代、人種、文化…さまざまな多様性のなか、最後は日本の抹茶をつかった〝めんどくさい〟ケーキが決め手となる? (NORIKO YAMASHITA)  2020年11月26日 記

監督:エリザ・シュローダー 出演:セリア・イムリー/シャノン・ターベット/シェリー・コン/ルパート・ぺンリー=ジョーンズ/ビル・パターソン 
2020年イギリス(98分) 配給・アルバトロス・フィルム 原題:LOVE SARAH 公式サイト:https://nottinghill-movie.com/  © FEMME FILMS 2019



『ヒトラーに盗られたうさぎ』  WHEN HITLER STOLE PINK RABBIT  2020年11月27日(金)からシネスイッチ銀座ほか

■デビュー作『ビヨンド・サイレンス』にはじまり『点子ちゃんとアントン』『名もなきアフリカの地で』と、少女を生き生きと描写して佳作を連発してきたカロリーヌ・リンク監督の新作は、ドイツを代表する絵本作家ジュディス・カーの自伝的児童文学の映画化。残念ながら作者カーは完成前の昨年2019年5月に95歳で他界。この追悼的作品は本国で大ヒットした。

■SYNOPSIS■ ナチス・ヒトラーが政権をにぎり、恐怖政治がはじまろうという1933年ドイツ。ユダヤ人でしかもヒトラー批判をしてきた演劇評論家ケンパー一家にも危険が忍び寄る。少女アンナと両親、そして兄の4人家族はベルリンからスイスに移り住むことになるが、ぬいぐるみはひとつだけと釘を刺され、アンナは悩んだ末に大好きなピンクのうさぎを置いてゆく。しかしその後、なにもかもがナチスにうばわれてしまう。田舎暮らしにも慣れてきたころ、こんどは仕事を求めてパリに。さらには英国へとボヘミアンのような生活を強いられる。

■ONEPOINT REVIEW■ カロリーヌ・リンク監督は原作を初めて読んだ40年近く前、内容の明るさに驚いたという。そしてその明るさはこの映画にもしっかりと受け継がれている。貧困に苦しみはしても、両親の早めの行動がナチス政権を巧みにかいくぐり、原作者の少女時代を恐怖から遠ざけることに成功したともいえる。悪い時代を描きながら、監督の過去作品同様にキラキラとした映画になっている。(NORIKO YAMASHITA) 2020年11月23日 記

監督/共同脚本:カロリーヌ・リンク 原作:ジュディス・カー「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」
出演:リーヴァ・クリマロウスキ/カーラ・ジュリ/マルノス・ホーマン/ウルスラ・ヴェルナー/ユストゥス・フォン・ドホナニー 
2019年ドイツ(119分) 配給:彩プロ 英題:WHEN HITLER STOLE PINK RABBIT 公式サイト:https://pinkrabbit.ayapro.ne.jp/  © 2019, Sommerhaus Filmproduktion GmbH, La Siala Entertainment GmbH, NextFilm Filmproduktion GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH



『エイブのキッチンストーリー』 ABE  2020年11月20日(金)から新宿シネマカリテほか 

■イスラム系の母とパレスティナ系の父。複雑な家庭環境のなかニューヨークのブルックリンで生まれ育った12歳の少年エイブが、大好きな料理づくりをとおして自分のアイデンティーを見出し、ファミリーの絆づくりに奔走する人間ドラマ。ジャーナリストで、音楽ビデオ制作やユーチューブなど多彩な活動を続けるブラジル出身の新鋭監督による初の英語作品。

■SYNOPSIS■ 料理づくりが大好きな少年エイブ。ヒマさえあれば正体不明な創作料理づくりに余念がないが、悩みの種はイスラム系の母とパレスティナ系の父がもたらす「家庭内宗教戦争」。両親自身はニュートラルを心がけているものの、厄介なのはファミリーの集まりだ。祖父母の世代ではついつい祖国自慢をして言い争いになってしまうのだ。ある日街で、いろんな食材をミックスしながら楽しそうに料理するブラジル人シェフ、チコに出会う。

■ONEPOINT REVIEW■ ふだんは優しくて穏やかなのに、祖国や宗教がらみの話になると頭に血が上り自分を見失ってしまうエイブの祖父母たち。日本人の多くには計り知れない光景が、世界の紛争の縮図が、ユーモアにくるまれながらもここに存在する。けれど中立を心がけながら息子を育ててきた両親の努力によって、エイブという希望の光もまたここにはある。(NORIKO YAMASHITA) 2020年11月19日 記

監督:フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ 出演:ノア・シュナップ/セウ・ジョルジ/ダグマーラ・ドミンスク/アリアン・モーイエド/マーク・マーゴリス/セーラム・マーフィー/トム・マーデロシアン/ ダニエル・オレスケス 
2019年アメリカ=ブラジル(85分) 配給:ポニーキャニオン 原題:ABE © 2019 Spray Films S.A. 公式サイト:https://abe-movie.jp/



『家なき子 希望の歌声』  REMI SANS FAMILLE  2020年11月20日(金)からYEBISU GARDEN CINEMA/109シネマズ二子玉川ほか

■アニメでもおなじみの児童文学の古典が、フランス映画を代表する俳優たちで映画化。家なき子=レミ役をオーディションを勝ち取ったのは、パリ・オペラ座合唱団のボーイソプラノの経歴がありこれが映画初出演のマロム・パキン。新鋭のアントワーヌ・ブロシェ監督が原作を翻案した脚本も手がけている。

■SYNOPSIS■ 貧しくも優しい母のもと愛らしく育った少年レミ。だが大けがをした父親が出稼ぎ先から帰郷し、旅芸人のヴィタリス親方に売り飛ばしてしまう。レミは10年前、高価な産着にくるまれ捨てられていたのを、礼金目当ての父親に拾われたのだった。一方、親方には音楽の素養があり、少年に目を止めたのもその美しい歌声ゆえ。犬のカピ、サルのジョリクールと旅をつづけるなか、レミは読み書きや音符の読み方などを親方から教わり成長してゆく。ある日、貴婦人の愛娘の誕生会に呼ばれ、レミは娘のリーズと仲良しになる。

■ONEPOINT REVIEW■ 大河ドラマ的な長大な原作をブロシェ監督は巧みにまとめ、さらにオリジナル色も出している。とくにレミの〝歌の才能〟とヴィタリスの〝過去〟は奥行きを出すためにつけ加えた部分。配役も見どころで、オートゥイユとぺランの御大ふたりはもとより、人気の若手女優だったサニエとルドワイヤンもすっかり母親役が似合うようになった。そして芸達者な犬たち。古典の古めかしさなどない安定のファミリー映画。
(NORIKO YAMASHITA) 
                      2020年11月18日 記

監督/脚本:アントワーヌ・ブロシエ 原作:エクトール・アンリ・マロ「家なき子」
出演:ダニエル・オートゥイユ/マロム・パキン/リュディヴィーヌ・サニエ/ヴィルジニー・ルドワイヤン/ジョナサン・ザッカイ/ジャック・ペラン  フランス2018年(109分) 配給:東北新社/STAR CHANNEL MOVIES 原題:REMI SANS FAMILLE  © 2018 JERICO – TF1 DROITS AUDIOVISUELS
– TF1 FILMS PRODUCTION – NEXUS FACTORY - UMEDIA  公式サイト:http://ienakiko-movie.com/



『詩人の恋』   시인의 사랑/ (THE POET AND THE BOY) 2020年11月13日(金)から新宿武蔵野館ほかで公開

■ヒモのような生活を送りながらイノセントな詩作に没頭する男と、たくましく支える妻。そこにあらわれたひとりの青年が詩人の心をとらえ人生が大きく変化してゆく。『息もできない』の監督/主演で注目されたヤン・イクチュンが無垢で愛らしい詩人役を好演し、長編デビューのヤンヒ監督が撮影当時住んでいた済州島を舞台に描いている。

■SYNOPSIS■ 妻とふたり暮らしのテッキは詩人としての収入はほとんどなく、妻が地元済州島で土産物屋を経営し家計を支えている。同好者の集まりでときどき作品を発表しているが、美しくも苦悩や生活感が感じられない彼の詩は評判がいまいち。一方、子どもができないことに悩む妻はテッキを病院に連れてゆき不妊治療を試みる。しかしテッキは憂鬱になるばかりだった。そんなある日、通っていたドーナツ店の店員の青年に心がざわつく。

■ONEPOINT REVIEW■ テッキの詩が方々に挟み込まれ〝詩の世界〟が形成されてゆく。ヤンヒ監督のオリジナルもあれば、主人公のモデルになった詩人ヒョン・テクフンら実在の詩人の作品もつかわれているという。その一方で監督は「面白い作品」にすることにも心を砕いている。アーティスティックな部分とユーモラスでときには激しい愛の感情。詩人を描きながら韓国映画らしいエンターテインメント感のある作品になっている。(NORIKO YAMASHITA)  2020年11月06日 記

監督/脚本:キム・ヤンヒ 出演:ヤン・イクチュン/チョン・ヘジン/チョン・ガラム/キム・ソンギュン/パン・ウニ/ソン・イナン/ウォン・ミヨン/ペク・ジウォン/キム・ジョンス 2017年韓国(110 分) 配給:エスパース・サロウ  英題:THE POET AND THE BOY 
公式サイト:https://shijin.espace-sarou.com/  © 2017 CJ CGV Co., Ltd., JIN PICTURES, MIIN PICTURES All Rights Reserved



『トルーマン・カポ―ティ 真実のテープ』(ドキュメンタリー) THE CAPOTE TAPES  2020年11月6日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほかで公開

■A・ヘプバーン主演で映画化された『ティファニーで朝食を』や実際にあった一家惨殺事件を長期取材して書き上げたベストセラー「冷血」の作者として、あるいはNY社交界の〝顔〟として君臨した作家の真実に迫るドキュメンタリー。1997年にジョージ・プリンプトンが著した伝記本と当時の取材テープをベースに、映画監督デビューのバーノーが新たなインタビューを加えて完成させた。監督はオバマ政権下で働いていたという異色の経歴の持ち主。

■SYNOPSIS■ 1924年9月30日、米ルイジアナ州ニューオーリーンズ生まれ。幼いころにアラバマ州の親族に預けられ十代半ばでNYに移った。映画にもなった「アラバマ物語」の作者ハーパー・リーとは幼なじみだったという。「ニューヨーカー」誌に雑用係として雇われるも解雇。だが19歳のときに書いた「ミリアム」がO・ヘンリー賞を受賞し、作家の道を歩きはじめる。「ティファニーで朝食を」「冷血」で一世を風靡して社交界に君臨するが、友人たちのスキャンダル話を作品中で暴露したのが仇となり、社交界から追放される。

■ONEPOINT REVIEW■ 『ティファニーで朝食を』や『冷血』で名声と巨額の富を得て、望みどおりセレブの頂点に立ったカポーティ。だが未完の遺作『叶えられた祈り』の一部が「エスクァイア」誌に掲載されるや、赤裸々なスキャンダル暴露が友人たちの怒りを買い社交界を追放される。59年という短い生涯、みずから波乱を巻き起こし、良くも悪くも注目される人生だった。 (NORIKO YAMASHITA)    2020年11月04日 記

監督:イーブス・バーノー 出演:トルーマン・カポーティ(アーカイブ映像)/ケイト・ハリントン/ジョージ・プリンプトン/サリー・クイン/ドットソン・レイダー/ノーマン・メイラー/ジョニー・カーソン/ディック・キャベット/ジェイ・マキナニー/スリム・キース/アンドレ・レオン・タリー 
2019年アメリカ=イギリス(98分) 配給:ミモザフィルムズ 公式サイト:http://capotetapes-movie.com/ ©2019, Hatch House Media Ltd.
原題:THE CAPOTE TAPES



『罪の声』  2020年10月30日(金)から全国東宝系で公開

■紳士服の仕立て屋を営みながら家族を支え、誠実に生きるひとりの男性。彼はふとしたことから子どもの頃の自分の「声」がある事件に利用されたことを知る。昭和を震撼させた未解決事件をヒントにしたミステリー小説の映画化。小栗旬と星野源という若手人気スターふたりが、それぞれ刑事と事件に巻き込まれた男を演じている。

■SYNOPSIS■ 京都でテーラーを営む俊也(星野)はある日、押し入れの奥にしまい込まれていた父の遺品の中から不審なカセットテープを発見する。未解決事件で身代金受け渡しに使われた脅迫テープだったが、その声は紛れもなく子どもの頃の自分の声だった。同じころ大日新聞の記者、阿久津(小栗)は未解決事件を追う特別企画班に選ばれ取材をはじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ すでに時効を迎え、忘れかけていたあの一連の未解決事件。子どもの声がつかわれていたがあの子らは実在するのかと、過去の記憶に引き戻される。30数年前に世間を驚かせた一連の食品会社脅迫事件をほうふつとさせながら、イマジネーションを動員して巧みにフィクション化したエンターテインメント作品。 (NORIKO YAMASHITA)   2020年10月26日 記

監督:土井裕泰 原作:塩田武士「罪の声」 脚本:野木亜紀子 出演・小栗旬/星野源/松重豊/古舘寛治/市川実日子/火野正平/宇崎竜童/梶芽衣子
2020年日本(142分) 配給:東宝 公式サイト:https://tsuminokoe.jp/ ©2020 映画「罪の声」製作委員会



『朝が来る』 2020年10月23日(金)からTOHOシネマズ 日比谷/TOHOシネマズ 日本橋ほか

■新しい家族の誕生を願いながら子どもに恵まれない夫婦と、はじめての恋で授かった子を手放さなければならない中学生の少女。遠く離れた土地で起こったふたつの人生が交差して生まれる新たなドラマ。辻村深月の小説を河瀬直美監督が脚本化して映画化。

■SYNOPSIS■ 息子の朝斗が友だちをジャングルジムから突き落としたと幼稚園から連絡が入るが、本人はやっていないと言う。嘘をついているのかと思い悩む佐都子(永作)。佐都子と清和(井浦)夫妻は子どもに恵まれず、偶然知った「特別養子縁組」制度で、生まれたばかりの朝斗を迎えた。強く印象に残ったのは、生みの親が幼さの残るあどけない少女だったこと。
あれから6年。ジャングルジムの件は友だちの嘘がわかって一件落着。そんなある日、「子どもを返してほしい」だめならお金をくださいという不審な電話がかかってきた。数日後、夫婦のもとを訪れたのは見覚えのないヤンキー風の若い女性だった。

■ONEPOINT REVIEW■ はじめての恋。燃えるような甘美な恋をして太陽がさんさんとふりそそぐような人生を謳歌するも束の間、妊娠がわかり両親とのあいだに大きな亀裂が入り少女の人生は暗転する。その一方で、何事もなかったように青春を
リスタートさせる相手男子学生との落差がなんとも痛ましい。河瀬監督は原作とはべつに、デュオグループのC&Kを起用してあることをエンディングで仕掛けてみせた。(NORIKO YAMASHITA)            2020年10月22日 記

監督/脚本:河瀨直美 原作:辻村深月『朝が来る』 出演:永作博美/井浦新/蒔田彩珠/浅田美代子
2020年日本(139分) 配給:キノフィルムズ/木下グループ 公式サイト:http://asagakuru-movie.jp/  ©2020「朝が来る」Film Partners



『空に住む』 2020年10月23日(金)から丸の内ピカデリーほか

■両親の急死で叔父夫婦が所有する超高級高層マンションに住むことになった若い女性が、本来出会うはずのないスター俳優と出会い、夢とうつつのあいだを彷徨うなか、ひとりぼっちになった自分自身を見つめ直してゆく。作詞家、小竹正人の原作をもとに青山真治監督が7年ぶりに手がけた長編。

■SYNOPSIS■ 両親が突然他界し、叔父夫婦の好意で彼らが所有する都心の超高級タワーマンションに住むことになった直美(多部)。運び込まれたのは少しの荷物と両親の位牌だけ。生活感のない住まいと、郊外にある勤め先の小さな出版社を行き来する毎日がはじまった。ある日、エレベーターに乗るとそこで出会ったのは、直美の部屋から見える屋外広告看板に大きな写真が載る、スター俳優の時戸森則(岩田)だった。

■ONEPOINT REVIEW■ スターや投資で儲けたひとなど、ごくひと握りの「特別なひと」たちが暮らす超高級マンション。一方、直美の勤め先は郊外の古い一軒家を事務所に利用した、小さいけれど個性的な出版社。どちらもある意味「おしゃれ」ではあるが、直美がどちらに属している人間かは一目瞭然だろう。とはいえ、機会があれば未知の世界に飛び込むことだって…。(NORIKO YAMASHITA) 
             2020年10月21日 記

監督/共同脚本:青山真治  共同脚本:池田千尋 出演:多部未華子/岸井ゆきの/美村里江/岩田剛典/鶴見辰吾/大森南朋/永瀬正敏/柄本 明 
2020年日本(118分) 配給:アスミック・エース  ©2020 HIGH BROW CINEMA  公式サイト:https://soranisumu.jp/



『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』 ONCE WERE BROTHERS:ROBBIE ROBERTSON AND THE BAND
2020年10月23日(金)から角川シネマ有楽町/渋谷・WHITE CINE QUINTOほか

■ロック史に名を残す伝説のグループ、ザ・バンド。そのフロントマンだったロビー・ロバートソンみずからがバンドの軌跡を語るドキュメンタリー。2016年に自身が著した伝記本の映画化で、ザ・バンド解散後に生まれた若い世代のロアー監督がメガホンをとり、またザ・バンドといえば『ラスト・ワルツ』と言われるほど印象深い音楽ドキュメンタリーをつくったスコセッシと、ロン・ハワードの御大ふたりが製作総指揮に参加しているのも話題だ。

■SYNOPSIS■ 米国人のリヴォン・ヘルムをのぞきロバートソンをはじめ5人中4人がカナダ人。ロニー・ホーキンス率いるホークスのメンバーとしてスタートするが、米国に渡りボブ・ディランのバックバンドに抜擢されたのが転機となった。だが当時はロック過渡期。ディランに同行した方々のステージで、フォークファンからブーイングを受けた話はよく知られている。そんななか、都会の喧騒を離れて移り住んだウッドストックで1枚のアルバムが生まれる。原点となった『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』。彼らの素晴らしさを真っ先に認めたのは、クラプトンやスプリングティーンといったミュージシャンたちだった。

■ONEPOINT REVIEW■ ディランが住むNY郊外のウッドストックでザ・バンドたちの田舎暮らしがはじまる。1960年代後半はヒッピーらによる共同生活がひとつの流行になった時期だ。彼らの暮らしもそんなものだったのではないか。そこで代表曲となる「ウェイト」「アイ・シャル・ビー・リリースト」を含む『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』が誕生する。グループにクラプトンが加わりたいと言って断られたエピソードが面白いが、彼が入っていたら早々に分解していたでしょう。(NORIKO YAMASHITA) 
 2020年10月19日 記

監督:ダニエル・ロアー 製作総指揮:マーティン・スコセッシ/ロン・ハワード 原案:「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」 出演:ザ・バンド(ロビー・ロバートソン/リック・ダンコ/リヴォン・ヘルム/ガース・ハドソン/リチャード・マニュエル)/マーティン・スコセッシ/ボブ・ディラン/ブルース・スプリングスティーン/エリック・クラプトン/ロニー・ホーキンス/ヴァン・モリソン/ピーター・ガブリエル/タジ・マハール/ジョージ・ハリスン 2019年カナダ=アメリカ(101分) 配給:彩プロ 原題:ONCE WERE BROTHERS:ROBBIE ROBERTSON AND THE BAND
公式サイト:https://theband.ayapro.ne.jp/   🄫Robbie Documentary Productions Inc. 2019



『博士と狂人』 THE PROFESSOR AND THE MADMAN  2020年10月16日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■英語の多様な用法を網羅した英語辞典の代名詞「オックスフォード英語辞典(OED)」。編纂に関わった意外な人物ふたりの波乱の人生と、出会わないはずのふたりが出会う不思議な縁を描いた実話物語。辞書の完成に命を燃やすスコットランド人学者と戦争で精神に異常をきたした米国人エリート軍医を、メル・ギブソンとショーン・ペンがそれぞれ演じている。過去にギブソンと監督×脚本家として共働しているシェムランの監督デビュー作。

■SYNOPSIS■ ロンドンの貧民街で殺人事件が起きる。被疑者は米国人元軍医のマイナーだったが、南北戦争で精神を病んでおり刑事犯精神病院に収容される。一方、英語辞典の出版が懸案事項となっているオックスフォード大学では、独学の叩き上げ学者マレーが責任者として指名される。気位の高い同大で部外者が呼ばれるのは異例で不満な者も少なからずいたものの、型破りな発想が必要とされていたのだ。そんななか一般からも用例を募ると、なかにマイナーからの大量の投稿があった。

■ONEPOINT REVIEW■ 辞書を編む学者と精神病院に収容されている元軍医。本来なら交わるはずのないふたりの人生にもうひとり、マレーに殺害された男性の妻がからんで物語が動いてゆく。女性は憎んでいたはずのマレーのジェントルマンぶりに動揺が隠せない。その背後には夫との比較も見え隠れして複雑。 (NORIKO YAMASHITA) 
  2020年10月13日 記

監督/共同脚本:P・B・シェムラン(ファラド・サフィニア) 出演:メル・ギブソ/ショーン・ペン/ナタリー・ドーマー/エディ・マーサン/ジェニファー・イーリー 2018年イギリス=アイルランド=フランス=アイスランド(124分) 配給:ポニーキャニオン 
原題:THE PROFESSOR AND THE MADMAN 公式サイト:https://hakase-kyojin.jp/  ©2018 DEFINITION DELAWARE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.



『スパイの妻<劇場版>』 WIFE OF A SPY    2020年10月16日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開

■第二次大戦下、国の不正義をを知り密かに売国奴的な動きをする貿易商の男と、半信半疑ながらその事実を知ってゆく妻。国家機密の真実と夫婦の愛のゆくえをミステリアスに描いたラブサスペンス。ドラマ版も製作されているが、この劇場版がヴェネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞したことから俄然注目されることになった。

■SYNOPSIS■ 太平洋戦争勃発前夜の神戸。貿易商として成功している福原優作(高橋)は愛妻の聡子(蒼井)と優雅な暮らしを送るなか、趣味の撮影旅行を兼ねて甥とともに満州に渡る。帰国が遅れ、帰りに美しい女性を伴っているのを目撃した聡子は、嫉妬心から夫の行動を疑いはじめるがその女性が変死を遂げる。一方、聡子に思いを寄せる幼なじみの泰治(東出)は憲兵分隊長に出世し、怪しげな動きをする優作の動きを追う側となってゆく。 

■ONEPOINT REVIEW■ ゼロからこの企画はスタートしたという。あったのは「神戸」という土地だけ。黒沢監督に加えて黒沢チルドレンといっていい濱口竜介、野原位の映画人ふたりが脚本に参加して物語は形成されていった。優作の趣味として仕掛けられているムービー制作が、作品のなかのアクセントとなっている。
  (NORIKO YAMASHITA)
    2020年10月12日 記

監督/共同脚本:黒沢清 共同脚本:濱口竜介/野原位 出演:蒼井優/高橋一生/坂東龍汰/恒松祐里/みのすけ/玄理/東出昌大/笹野高史 
2020年日本(115分) 配給・ビターズ・エンド 公式サイト:http://wos.bitters.co.jp/



『異端の鳥』 THE PAINTED BIRD   2020年10月9日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■社会主義諸国で発禁あつかいとなったコシンスキの禁断の書を、マルホウル監督が11年かけて執念の映画化。大戦中に孤児となった少年が行く先々で迫害を受け、人びとのすさまじい生きざまを目の当たりにしながら東欧の村々を彷徨い歩くというお話。偶然出会ってキャスティングされた主役少年の成長も収めるため、撮影に2年の歳月が費やされた。

■SYNOPSIS■ 第二次大戦下の東欧のどこか寒村。預けられ先のひとり暮らしの老婆の急死によって少年の放浪がはじまる。だがユダヤ人らしき容姿が自分たちと違うことから「異物」とみなされ、方々で人とも思えない残忍な仕打ちを受ける。瀕死のところを助けられ愛情らしきものを感じるも束の間、裏切られた少年の心は少しずつ荒んでゆく。
 

■ONEPOINT REVIEW■ 鳥刺しの男が小鳥に白いペンキを塗り群れ飛ぶ鳥のなかに放ってやると、異物であるその小鳥は一瞬にして襲われて落下してくる。原題の「ペインテッド・バード」のもととなったシーンだ。少年は迫害のなか辛うじて生き延び成長してゆくものの、心の屈折も尋常ではない。美しい映像とは対照的な残忍な現実。セリフは少ないが雄弁で、余韻を残したエンディングもこの作品の大きさを物語っている。また各章で登場する名優たちもそれぞれ圧巻。
 
(NORIKO YAMASHITA)                            2020年10月09日 記

監督/脚本:ヴァーツラフ・マルホウル 原作:イェジ―・コシンスキ「ペインテッド・バード」 映倫:R15
出演:ペトル・コトラール/ステラン・スカルスガルド/ハーヴェイ・カイテル/ジュリアン・サンズ/バリー・ペッパー/ウド・キアー  2018年/チェコ=スロヴァキア=ウクライナ(169分) 配給:トランスフォーマー 原題:THE PAINTED BIRD 公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/ 
©2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN ČESKÁ TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA
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『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』LAST BLACK MAN IN SAN FRANCISCO 2020年10月9日(金)から新宿シネマカリテ/渋谷・シネクイントほか

■幼いころ過ごしたはずのヴィクトリア様式の美しい家。心のよりどころとなっているその建物への思いを通し、故郷への愛、親友との絆、そしてなにより自分自身の存在証明を描いたオフビートタッチのヒューマンドラマ。主役のジミー・フェイルズ自身の記憶をもとに、親友であるタルボット監督とともに築き上げた地元サンフランシスコ愛あふれる作品で、小品の秀作を送り出してきたインディペンデント系のA24×プランBが製作している。

■SYNOPSIS■ ジミーはある一軒のヴィクトリア様式の家に固執していた。そこは祖父が建て家族とともに暮らした、良き時代の思い出が詰まる場所。だが人手に渡ったいまは手入れが行き届いておらず、親友のモントとやって来ては家主に見つからないように内緒で修理修繕する毎日。そんなある日、家が売りに出されることになり、ふたりは空き家となったそこに家具を運び込み占拠する。 

■ONEPOINT REVIEW■ 穏やかな黒人ふたり組。ラップの掛け合いをするでもなく、背後に流れる音楽といえばヒッピームーヴメントが盛んだったころの「花のサンフランシスコ」やジェファーソン・エアプレインでありジョニ・ミッチェル。ブラックムービーにジョニ・ミッチェルの「ブルー」?…といって白人に寄せているわけではなく、ブラックカルチャーを黒人みずからの言葉で著した作家ラングストン・ヒューズらも関心の対象であることが伝わってくる。ステレオタイプからさらりと脱したじつに自由な、新世代のシネアストたちだった。 (NORIKO YAMASHITA)   
                   2020年10月05日 記

監督/共同脚本:ジョー・タルボット 原案:ジミー・フェイルズ/ジョー・タルボット  出演:ジミー・フェイルズ/ジョナサン・メジャース/ロブ・モーガン/ダニー・グローヴァー 2019 年アメリカ(120 分) 原題:THE LAST BLACK MAN IN SAN FRANCISCO  配給:ファントム・フィルム  
公式サイト:http://phantom-film.com/lastblackman-movie/  ©2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.



『82年生まれ、キム・ジヨン』  2020年10月9日(金)から新宿ピカデリーほか

■地元韓国で社会現象的な大ベストセラーとなり、日本でも女性を中心に共感の輪が広がったチョ・ナムジュの同名小説の映画化。家父長制度の重圧に押しつぶされて精神のバランスを崩す主人公と、彼女を恐るおそる見守る夫。共演3度目となるスター俳優のチョン・ユミとコン・ユが演じ、長編デビューのキム・ドヨン監督が手がけた。

■SYNOPSIS■ 1982年生まれのキム・ジヨン。大学の先輩デヒョンと結婚し2歳の娘の母。平凡ながら幸せな日々、にみえたが家事と子育てに追われるなか、職場に復帰してバリバリ仕事をしたいという欲求もくすぶっていた。ちいさな事件は夫の実家に帰省中の正月に起きた。夫一族がにぎやかに団らんする片隅で、ひとり台所に立つジヨンはまるで自分の母親が乗り移ったようにこう言った「奥さん、うちのジヨンを実家に帰してください。私も娘に会いたい」。デヒョンは妻の異変に前から気づいていたが言い出せずにいたのだ。

■ONEPOINT REVIEW■ 男の子ばかりを溺愛し進学に男女の差をつける親。子どもを、しかも男の子を産めと迫る夫の親や祖父母。活躍の場が閉ざされた職場。世界中の女性たちの少なからずが経験してきた現実を、ジヨンのものがたりは身近な題材で訴えかけてくる。原作本とはすこし違ったエンディングも見どころとなっている。(NORIKO YAMASHITA) 
                                              2020年10月05日 記

監督:キム・ドヨン 原作:チョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」 出演:チョン・ユミ/コン・ユ/キム・ミギョン 2019年韓国(118分) 
配給:クロックワークス 公式サイト:http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/  © 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.



『エマ、愛の罠』 EMA   2020年10月2日(金)から新宿シネマカリテ/ヒューマントラストシネマ渋谷/ヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■『グロリアの青春』や『ナチュラルウーマン』では製作者として、『NO』や『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』では監督となって問題作を次々送り出してきたチリのシネアスト、パブロ・ラライン。新作はダンスに情熱を傾ける若い女性が、手放した息子への執着から事件を起こし、そのなかで家族の在り方を問題提起してゆくという異色作。過去にも監督と共働しているガエル・ガルシア・ベルナルが夫役として迎えられている。

■SYNOPSIS■ ダンスに情熱を傾ける若い女性エマは、放火騒ぎを起こした養子の息子を手放し後悔の念に苛まれていた。取り戻そうと試みるが、派手な容姿もあって母親失格の烙印を押され取り合ってもらえない。勤務先の小学校でも問題視されて退職に追い込まれてしまう。ダンスカンパニーのリーダーである夫との関係も険悪で、家を飛び出したエマはダンス仲間の女性たちと奔放な生活をはじめるなか、あるひとつの周到な計画を実行する。

■ONEPOINT REVIEW■ エマ(ジローラモ)と夫のガストン(ガルシア・ベルナル)は年が離れていて、同じダンスカンパニーにいながら目指すものが違い意思疎通ができない。けれど根の部分では愛し合っているように見える。エマの策略によって巻き込まれていく弁護士の女性や消防士の男性もエマとは違う世界に生きているが、彼女に強く惹かれ不思議な関係で結ばれてゆく。  (NORIKO YAMASHITA)
                         2020年10月1日 記

監督:パブロ・ラライン 出演:マリアーナ・ディ・ジローラモ/ガエル・ガルシア・ベルナル/パオラ・ジャンニーニ/サンティアゴ・カブレラ/クリスティアン・スアレス  2019年チリ(107分) 配給:シンカ 原題:EMA 公式サイト:http://synca.jp/ema/  映倫:R-15+




『マーティン・エデン』  MARTIN EDEN   2020年9月18日(金)からシネスイッチ銀座/YEBISU GARDEN CINEMAほか

■「野生の呼び声」のアメリカ人作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、米西海岸からイタリアへと舞台を移し、さらに伊語と仏語のセリフをつかって大きく翻案。ドキュメンタリーで注目されてきたイタリアのマルチェッロ監督がみずから脚本(共同)を書き、手がけている。

■SYNOPSIS■ およそ100年前のイタリア・ナポリ。貧しい船乗りマーティン・エデンはふとした善行から金持ちの屋敷に招かれ、美しい令嬢だけでなく、はじめて触れたブルジョワの教養あふれる世界に心を奪われる。そして無謀にも自身の学力や教養を顧みずに作家になることを心に誓う。一心不乱にその夢を追い令嬢との愛も確かめあうが、労働者階級とブルジョワジーとのあいだにはやはり見えない大きな壁があった。

■ONEPOINT REVIEW■ カンツォーネやフランスの歌が劇中つかわれ、フランスかぶれ?の令嬢エレナはボードレールの詩を口ずさんだりもする。J・ロンドンの世界観を描きながら広がる独自のテイスト。けれど、労働者階級とブルジョワジーの断絶した世界は、格差が大きかったヨーロッパが舞台だからこそより際立つのかもしれない(黒人VS白人は別にして)。そして外見は粗野だが知性を内に秘めた主人公役のイタリア俳優、マリネッリの静かな存在感。地元ハリウッドならだれが演じるだろう。 
(NORIKO YAMASHITA)                                             2020年9月17日 記

監督/共同脚本:ピエトロ・マルチェッロ 原作:ジャック・ロンドン「マーティン・イーデン」
共同脚本:マルリツィオ・ブラウッチ 出演:ルカ・マリネッリ/ジェシカ・クレッシー/デニーズ・サルディスコ/ヴィンチェンツォ・ネモラート/カルロ・チェッキ/マルコ・レオナルディ/ピエトロ・ラグーザ  2019年イタリア=フランス=ドイツ(129分) 原題:MARTIN EDEN 配給:ミモザフィルムズ 
公式サイト:http://martineden-movie.com/  ©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE



『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』  2020年9月11日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■音楽的な業績だけでなく、波乱の人生を乗り越えてきた「不屈のひと」として知られる、ブラジルの音楽家ジョアン・カルロス・マルティンスを描いた実話物語。映画化にはクリント・イーストウッドも名乗りを上げていたというが、結局は地元ブラジルでつくられた。

■SYNOPSIS■ 病弱なジョアンは、幼くしてピアノを習い始めると教師を超える神童ぶりを発揮、早々とプロデビューを果たす。20歳のころにクラシック音楽の殿堂NYカーネギーホールに出演。業界の注目を一身に集め家庭も築き順風満帆に見えたが、不慮の事故により生命線である右手に大けがを負ってしまう。シューマンの養成ギプスさながらの器具をはめてリハビリに励むジョアン。人生最大のピンチと思われたが試練のはじまりだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 原題は「JOAO,O MAESTRO」。マエストロ=巨匠でもあるけれど、ここは指揮者ジョアンの意味か。なぜそうなるのか、そこに至るいくつもの試練がここでは描かれている。音楽家以外の時代もあり、もう1本映画がつくれそうなほどドラマチックな人生だ。バッハだけでなく多くが尻込みする現代音楽の超絶難曲にも果敢に挑んだ。実際の演奏の音が映画全編で使われている。 (NORIKO YAMASHITA) 
 2020年9月11日 記

監督/脚本:マウロ・リマ 出演:アレクサンドロ・ネロ/ダヴィ・カンポロンゴ/ロドリゴ・パンドルフ/フェルナンダ・ノーブル/アリーン・モラエス/カコ・シオークレフ 2017年ブラジル(117分) 配給:イオンエンターテイメント 原題:JOAO,O MAESTRO  公式サイト:http://my-bach.jp/




『窮鼠はチーズの夢を見る』   2020年9月11日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか

■男性同士の恋愛を描いた人気コミックを大倉忠義(関ジャニ∞)×成田凌というイケメンふたり×行定勲監督で映画化。『真夜中の五分前』『ナラタージュ』などでしばしば行定監督とコンビを組んできた堀泉杏が今回も脚本を手がけている。

■SYNOPSIS■ 妻がいながら不倫を重ねる大伴恭一(大倉)。ある日、興信所の探偵をしているという大学時代の後輩今ヶ瀬渉(成田)が訪ねてきて、現場を押さえた写真を差し出す。もみ消しを懇願する恭一に渉が出した交換条件はホテルへの誘いだった。そしてむかしから好きだったと告げられる。結局、妻にも好きなひとがいることを知り離婚。独身になった恭一はモテキを維持する一方で、転がり込んできた渉に男同士の居心地の良さも感じるのだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 恭一ひとりを想いつづける渉と、来る者は拒まず流れにまかせて恋愛の川を漂流する恭一。そんなふたりだからこそ確実に交わる点がある。感情と欲情が爆発する瞬間を、主演ふたりと行定監督は照れることなく、ゆえに逆説的だけれどさわやかに描いてみせた。(NORIKO YAMASHITA)
 
                                                               2020年9月9日 記

監督:行定勲 原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」 脚本:堀泉杏 出演:大倉忠義/成田凌/吉田志織/さとうほなみ/咲妃みゆ/小原徳子 2020年日本(130分) 配給:ファントム・フィルム 公式サイト:http://www.phantom-film.com/kyuso/
©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会 映倫:R-15



『スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』   2020年9月11日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■日本でも大ヒットした『最強のふたり』のエリック・トレダノ×オリヴィエ・ナカシュ監督が、ふたたび実話を映画化した社会派ヒューマンドラマ。一見強面ながら心やさしい男ふたりをV・カッセルとR・カテブが演じ、バディムービー的な面白さも出している。

■SYNOPSIS■ 自閉症の無認可施設を運営するブリュノ(カッセル)の一日は多忙を極める。認可施設が手にあまるひとたちをすべて引き受け、セーフティネット的な役割を果たしているにもかかわらず赤字運営で政府の目は冷たく、いまにも取り潰されそうなのが目下の悩みだ。一方、ドロップアウトした若者たちを教育して、ブリュノの施設に送り込む役目を担っているマリク(カテブ)。時間を守れないディランに苛だちぎみだが、施設の問題児ヴァランタンに優しく接する穏やかな彼の姿がそこにはあった。だがある日、事件が起きる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 描きたいものがいつもはっきりしているトレダノ×ナカシュ監督。シリアスなテーマをユーモアにくるんで描くスタイルも一貫しているが、ドキュメンタリー的要素が少しだけ顔をのぞかせる。実際に自閉症で、ジョゼフ役をひときわ印象的に演じた青年ベンジャミン。彼がじっさいの仲間と踊る場面は追加の映像ではあるけれど心に残るシーンになっている。 (NORIKO YAMASHITA) 
                        2020年9月8日 記

監督/脚本:エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ 出演:ヴァンサン・カッセル/レダ・カテブ/エレーヌ・ヴァンサン/ブライアン・ミアロンダマ/ベンジャミン・ルシュー/カトリーヌ・ムシェ 2019年フランス(114分) 配給:ギャガ  原題:HORS NORMES(THE SPECIALS)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/specials/ ©2019 ADNP - TEN CINÉMA - GAUMONT -TF1 FILMS PRODUCTION - BELGA PRODUCTIONS - QUAD+TEN 



『mid90s ミッドナインティーズ』  2020年9月4日(金)から新宿ピカデリーほか

■不在がちの母、暴力をふるう兄。家庭に恵まれない孤独な少年が、似た境遇のスケボー少年たちと出会い絆を深めてゆく青春グラフィテイー。コメディー映画で活躍する名バイプレイヤーのジョナ・ヒルが、青春時代を過ごした90年代半ばを舞台に描いた監督デビュー作。主役のスリッチはじめ少年5人全員が、プロまたはプロ裸足の腕前を持つスケボー少年だ。

■SYNOPSIS■ スティーヴィー13歳。母は優しいけれど自己中な話題ばかり。兄は体格の差をいいことに暴力をふるってくる。父はいない。ある日、スケボーショップにたむろする少年たちと出会い、ちびで愛らしい彼は受け入れられ行動をともにするようになる。だがその一方で嫉妬するものも出てくる。そしてそれぞれが抱える問題も浮き彫りになってくる。

■ONEPOINT REVIEW■ スケボー映画ではないのだが、少年たちをつなぐアイテムとしてスケートボードが重要な役割を果たしている。監督はキャスティングにあたり、役者としての経験よりもスケボーの腕前を優先したのだ。板を滑らせているときだけではなく、佇まいそのもののリアル感。青春映画に余計な言葉は不要なのかもしれない。 (NORIKO YAMASHITA)
                                           2020年9月2日 記

監督/脚本:ジョナ・ヒル 出演:サニー・スリッチ/キャサリン・ウォーターストン/ルーカス・ヘッジズ/ナケル・スミス  2018年 アメリカ(85分) 配給:トランスフォーマー 原題:MID90S  公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/  ©2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.



『ファナティック ハリウッドの狂愛者』  2020年9月4日(金)から全国公開

■ハリウッドにひとり暮らす映画オタク。こころ優しく無害な彼が、ある出来事をきっかけに常軌を逸し、狂気の世界にはまり込んでゆくサイコスリラー。監督は米国の人気バンド、リンプ・ビズキット(ビスケット)のフロントマンで映画監督のフレッド・ダ―スト。トラヴォルタが怪演ぶりを見せてさらなる新境地を開いている。

■SYNOPSIS■ 大通りで観光客相手にパフォーマンスをして、わずかな日銭を稼ぐムース。大の映画狂でとくに人気俳優のハンター・ダンバーは神のような存在。なんとか彼に接しようと日々悪戦苦闘するなか、サイン会があることを知りレアものグッズを手に参加する。ところがあろうことか、自分の番が回ってきたところでアクシデントが起き打ち切られてしまう。しかも目の前にしたダンバーは思い描く人物像とは違い、かなりのゲス野郎だった! 
 
■ONEPOINT REVIEW■ オタク野郎たちが背負っているあのリュックには、いったい何が入っているのだろう。トラヴォルタ演じるムースもその定番スタイルでスクーターに乗って颯爽と?登場する。夏の夜のハリウッド。そのイントロから何かが起こりそうな不吉な雰囲気が漂う。スティーヴン・キングの「ミザリー」にも通じるファンとスターの危うい関係。ムースの唯一の友であるパパラッチ業の若い女性が語り部となって物語は進んでゆく。  (NORIKO YAMASHITA)
                                                                 2020年9月1日 記
監督:フレッド・ダースト  出演:ジョン・トラヴォルタ/ デヴォン・サワ/アナ・ゴーリャ  2019年アメリカ(88分) 配給:イオンエンターテイメント 
原題:THE FANATIC 公式サイト:http://fanatic-movie.jp/  © BILL KENWRIGHT LTD, 2019



『オフィシャル・シークレット』  2020年8月28日(金)からTOHOシネマズシャンテほか

■2003年のイラク戦争開戦前夜、米英によるスパイ活動をマスコミにリークしたとして、ひとりの英国人女性が公務秘密法違反で告訴される。実在の「キャサリン・ガン事件」をナイトリー主演で描いたポリティカル・サスペンス。監督はドローン戦争の不条理と恐ろしさを描いた『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』で強い印象を残したG・フッド。

■SYNOPSIS■ 英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)に翻訳者として就職したキャサリンはある日、職場で一通のメールを受け取り驚愕する。それは米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)からのもので、国連安全保障理事会のメンバーを盗聴せよというもの。イラク侵攻を正当化するための策略だった。開戦に反対する彼女は思い悩んだ末にマスコミへのリークを決意。友人に持ち込んだメールは英「オブザーバー」紙の記者の手にわたる。
  
■ONEPOINT REVIEW■ ひと足先に公開された『ジョーンの秘密』もスパイの話だった。前者はスパイ活動、こちらはスパイ活動のリークと立場は逆だが、一般人が諜報機関にふつうに組み込まれていることにまず驚かされる。やっぱり007の国なのか。ふたりの女性には「正義感」という共通項がある。戦争を止めることこそできなかったが、キャサリンの行いは勇気ある行動として認識されることになった。           (NORIKO YAMASHITA)
 
 2020年8月25日 記

監督:ギャヴィン・フッド 出演:キーラ・ナイトリー/マット・スミス/マシュー・グード/レイフ・ファインズ 2018年イギリス(112分)  
配給:東北新社/STAR CHANNEL MOVIES 原題:OFFICIAL SECRETS  Photo by: Nick Wall  ©Official Secrets Holdings, LLC



『グッバイ、リチャード!』  2020年8月21日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■ガンを告知され、しかもわずか半年という余命宣告を受けてジタバタする大学教授。さらに妻の浮気を知り、自暴自棄な形で残り人生を送りはじめる中年男を、ジョニー・デップが自虐的かつシニカルな笑いで演じたヒューマンコメディ。

■SYNOPSIS■ 余命半年の宣告を受けたこの絶望をどこにぶつけたらいいのか。幸い親友のピーターが涙を流して悲しんでくれたものの、意思疎通のできていない妻の前で口ごもっていると妻のほうから「わたし浮気しているの」と先制パンチ。とりあえずは、学生たちの前でやりたい放題の授業をはじめ、レストランのウェイトレスをナンパして…と。そんななかでわかり合えなかった妻の心情もすこしだけ見えてくる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 死ぬ前にやりたかったのはほんとにそんなことなの?と突っ込みを入れたくなるほど、主人公の大学教授リチャードが残り時間に込めた思いは「ちっちゃい」。原題の「THE PROFESSOR」には皮肉も込められているのかも。それだけ自分を押さえつけて生きてきた反動ではある。しかしそれは助走であって、終焉のときが近づいたときに究極の選択へと向かう。 (NORIKO YAMASHITA) 
     2020年8月日22日 記

監督/脚本:ウェイン・ロバーツ 出演:ジョニー・デップ/ローズマリー・デウィット/ダニー・ヒューストン/ゾーイ・ドゥイッチ/ロン・リビングストン/オデッサ・ヤング 2018年アメリカ(91分) 
配給:キノフィルムズ 原題:THE PROFESSOR 公式サイト:http://goodbye-richard.jp/
©2018 RSG Financing and Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.



『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』  2020年8月21日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■自分たちの高校生活はあやまりだった。卒業前日にそう気づいてしまった仲良しふたり組。失われた日々を一夜で取り戻そうと、高校の〝一軍〟に属するイケてる子たちのパーティー潜入を決行。その顛末を描いた青春コメディ。女性ライターたちが書いた脚本をもとにハリウッドで活躍する女優のオリヴィア・ワイルドが初監督。

■SYNOPSIS■ おたがいイェール大とコロンビア大という名門大への進学が決まり、得意げなモリ―とエミリー。それもこれも遊びを犠牲にして勉学に打ち込んできた賜物。と信じて疑わなかったが卒業の前日、遊びまくっていたクラスメートの少なからずが名門大や優秀企業へ進むことを知って愕然とする。自分たちのあの禁欲的な高校生活はなんだったのか。ふたりはいちども足を踏み入れたことのなかった未知の世界、スクールカースト上位の生徒たちのパーティへの潜入を試みる。

■ONEPOINT REVIEW■ べつに明日死ぬわけでもないのにモリ―とエミリーの狼狽ぶりは尋常ではない。十代半ばのこの数年が、人生のなかでも特別なものであることをうすうす感じとっているからにほかならない。彼女たちの試みが成功するかどうかは見ての通りだが、ふたりの絆がいっそう強まったことは確か。ひょうきんな女子ふたりによるバディムービーの誕生だ。 (NORIKO YAMASHITA) 
              2020年8月日16日 記

監督:オリヴィア・ワイルド 脚本:エミリー・ハルパーン/サラ・ハスキンズ/スザンナ・フォーゲ/ケイティ・シルバーマン 出演:ビーニー・フェルドスタイン/ケイトリン・ディーヴァー/ジェシカ・ウィリアムズ/リサ・クドロー/ジェイソン・サダイキス/モリ―・ゴードン 2019年アメリカ(102分) 
配給:ロングライド 原題:BOOKSMART 公式サイト:https://longride.jp/booksmart/ 



『ポルトガル、夏の終わり』  2020年8月14日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■世界遺産に指定されているポルトガルの美しい海辺の町、シントラで夏を過ごす女優フランキーとその一族。家族や親友が一堂に会した意味深な理由が、それぞれの一日を追ううちに浮き彫りになってゆく。主役を演じたユペールがサックス監督作品に惹かれ、みずからアプローチしたことから生まれた書下ろしドラマ。

■SYNOPSIS■ シントラのホテルのプールで夏の終わりを楽しむ女優のフランキー。一緒に滞在している夫や義理の娘夫婦、孫だけでなく前夫や親友、実の息子などゆかりの人たちがぞくぞく集まってくる。呼び寄せたのはフランキー自身。余命少ないことを悟っている彼女には小さな企みがあるが、人生とは気ままなもの。思惑とは少しずつ違う方向に動いてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 愛する人とかつて愛した人。そこから派生した血のつながった息子や血縁関係のない家族、心の支えとなっている親友。シューベルトやドビュッシーの穏やかな音楽、そしてなによりシントラの美しい自然と遺跡たち。愛すべき人びとや物や自然に囲まれた、これはフランキーという女性の生前葬のような一日だ。そして言葉にできないほど美しいエンディングを迎える。               (NORIKO YAMASHITA)
     2020年8月日12日 記

監督/共同脚本:アイラ・サックス 出演:イザベル・ユペール/ブレンダン・グリーソン/マリサ・トメイ/ジェレミー・レニエ/パスカル・グレゴリー/グレッグ・キニア/ヴィネット・ロビンソン 2019年フランス=ポルトガル(100分) 配給:ギャガ 原題:FRANKIE 公式サイト:https://gaga.ne.jp/portugal/ 
© 2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA © 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions



『ファヒム パリが見た奇跡』  2020年8月14日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■政情不安定な祖国を抜け出し、フランス・パリに新天地を求める難民父子。息子ファヒムのチェスの才能を妬まれ危険を感じたたことも出国の一因だったが、ファヒムはその腕前を異国でも発揮してゆく。実在するチェスの天才少年の波乱の日々を描いた人間ドラマ。おなじような境遇のバングラデシュ出身の少年がオーディションで選ばれ主役を演じている。

■SYNOPSIS■ 妻と話し合いの末、動乱の祖国バングラデシュを抜け出し花の都パリに向かう父と子。息子のファヒムにはチェスの指導者に会うためと言い聞かせていたが、ほんとうは祖国を捨てて新天地を見出す覚悟だった。さっそく伝説のひと、シルヴァンが開くチェス教室を訪れなんとか潜り込むも、難民としての滞在許可証がいっこうにフランス政府から下りない。やがて親子は路上生活を余儀なくされる。

■ONEPOINT REVIEW■  映画では1年半ほどのこととして描かれているが、じっさいは3~4年ものあいだ路上生活を送っていたという。そのぶんチェスの大会で勝ち残ってゆく少年と温かく見守るひとたちの人情に重きがおかれており、ときにユーモラスに描かれるこのドラマはサクセスストーリーとして楽しい。
                                                 (NORIKO YAMASHITA)  
2020年8月日10日 記

監督:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル 出演:ジェラール・ドパルデュー/アサド・アーメッド/ミザヌル・ラハマン/イザベル・ナンティ  2019年フランス(107分) 配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES 原題:FAHIM 公式サイト:http://fahim-movie.com/ ©POLO-EDDY BRIÉRE.



『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』  2020年8月7日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■夏の夜に米南部の田舎町で起きたとある事件。それをめぐる町をあげての騒動を描いた、不可解でミステリアスなダークコメディ。死にかけの人間を十徳ナイフに見立てた不条理ドラマ『スイス・アーミー・マン』で注目されたシャイナート監督第2弾。タイトルロールのディック・ロング役も(なり手がなかったことから?)彼が演じている。

■SYNOPSIS■ 夕食も早々に切り上げ、幼なじみのアール、ディックとともに自宅のガレージでバンド練習にいそしむジーク。バンドの腕が一向に上がらないのは、練習よりも酒を飲んでバカ騒ぎする〝お楽しみ〟のほうが優先だから? ところがその晩ディックにとんでもないことが起き、事件をめぐって町全体が不穏な空気に包まれてゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 影響を受けていると監督も認めるコーエン兄弟の『ファーゴ』的ダークな笑いが映画全体に充満している。ディックはリチャードの愛称だというが、そもそもこのタイトルはなんなのか。母国語の人にもわからないような言葉の変換の話などが会話に盛り込まれていて興味津々。それにしてもわからないから恥も知らずに平気で観られる、という利点もある?                      (NORIKO YAMASHITA)
      2020年8月2日 記

監督/出演:ダニエル・シャイナート 脚本:ビリー・チュー  出演:マイケル・アボット・ジュニア/ヴァージニア・ニューコム/アンドレ・ハイランド/サラ・ベイカー/ジェス・ワイクスラー/ボビー・カニングスハム/ロイ・ウッド・ジュニア/スニータ・マニ/ジャネル・コクラン  
2019年アメリカ(100分)配給:ファントム・フィルム 原題:THE DEATH OF DICK LONG  公式サイト:http://phantom-film.com/dicklong-movie/©2018 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved. 



『ジョーンの秘密』  2020年8月7日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■80代のごくふつうの女性が容疑者として浮上し、英国社会を驚かせたスパイ事件。イギリスの核開発機密をソ連に流したとして容疑をかけられた実在の人物、メリタ・ノーウッドをモデルに書かれた実話物語の映画化。ジュディ・デンチ演じる主人公ジョーンが、若き日をふり返る形でものがたりは語られてゆく。


■SYNOPSIS■ ミレニアムに沸く2000年のある日、夫に先立たれ息子も独立して隠居暮らしをするジョーン・スタンリーが突然逮捕される。容疑は戦中戦後にかけて、英国の核開発機密情報をソ連に流したというものだった。ケンブリッジ大学で物理学を学んでいたジョーンは1938年にユダヤ系ロシア人の女性ソニアと出会い、誘われて参加した共産主義の会合でいとこのレオを紹介される。恋に落ちるふたり、それがすべてのはじまりだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 実在のノーウッドは両親の影響でバリバリの共産主義者だったようだが、映画のジョーンはかならずしも共産主義に賛同していない。そのぶん彼女の真意を追う形でミステリアスな展開になってゆく。また恋多き人としてのドラマティックな側面も映画では強調されている。 
                                                    (NORIKO YAMASHITA) 
 2020年8月2日 記

監督:トレヴァー・ナン 脚本:リンゼイ・シャペロ 原作:ジェニー・ルーニー「RED JOAN」 
出演: ジュディ・デンチ/ソフィー・クックソン/トム・ヒューズ/スティーヴン・キャンベル・ムーア/ベン・マイルズ 2018年イギリス(101分) 配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:RED JOAN 公式サイト:https://www.red-joan.jp/  © TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018



『LETO-レトー』  2020年7月24日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■80年代初頭、一党独裁による規制が厳しいペレストロイカ以前のソ連を舞台に、アンダーグラウンドなロックシーンを牽引する男ふたりと、ひとりの女性のトライアングルな恋愛模様を描いた青春映画。いずれも実在の人物で、男性ふたりは若くして他界した地元の伝説的ミュージシャン。西側生まれの反抗の音楽=ロックへの憧憬を描いた音楽映画でもある。

■SYNOPSIS■ 表舞台に立つことを夢見るヴィクトルは、書き溜めた曲を携えて相棒と海岸に向かう。そこにはロックシーンのリーダー的存在マイクが、仲間と夏の海を満喫していた。妻のナターシャがヴィクトルとすぐに打ち解けるのを見てなにかを察するマイク。それでも若者の才能を認めた彼はバックアップを決め、3人の関係が接近してゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 繊細であやうい恋愛関係、政治背景、音楽事情など見どころは多彩。80年代前半といえばレコードの時代が終わりCDの時代に入ろうというときに、オープンリールの闇テープでロックを聴くという現実。しかもパッケージはオリジナルをコピーしたものだから悲しくもあり、たくましくもあり、そのありがたみが格別だったことが伝わってくる。そして数々のロックナンバーを、市中のおじちゃんおばちゃんたちに突然歌わせる演出や、アニメづかいもこの作品の魅力だ。 (NORIKO YAMASHITA)
                                                2020年7月23日 記

監督:キリル・セレブレンニコフ 出演:ユ・テオ/イリーナ・ストラシェンバウム/ローマン・ビールィク 2018年ロシア=フランス(129分) 
配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:LETO(THE SUMMER) 公式サイト:http://leto-movie.jp/  ©HYPE FILM, 2018


『ぶあいそうな手紙』  2020年7月18日(土)からシネスイッチ銀座ほか

■母国南米ウルグアイを離れて数十年。隣接するブラジル南端の町でひとり暮らす老人のものがたりだ。ある日一通の手紙が故郷から送られてきて、偶然知り合った若い女性を手紙の読み手として雇ったことから、どんよりとしていた人生の最終章が動き始める。

■SYNOPSIS■ 年をとり目も悪くなり、家の中と決まったルートの散歩しかできなくなった独居老人のエルネスト。息子が同居を勧めにやってくるが応じない。そんなある日、故郷の旧友の女性から手紙が届き、代読および代筆係として若い女性ビアを雇うことに。訳ありの彼女は手癖があまりよくなかったが、老人の忍耐が功を奏しふたりは信頼関係を結び始める。そしてエルネストにとっても、若い活力は終盤の人生に大きな影響を与えるのだった。

■ONEPOINT REVIEW■ ブラジル育ちの(生まれも?)息子と同居しようとは思わない、だが人生の最後をどう迎えるのか。そんなときに故郷から一通の手紙が届き、ある若い女性と知り合ったことから、心の奥で消えかけていた希望がまた灯りはじめる。主人公のエルネストは隣国ウルグアイからの移住者であり、隣に住む親友もアルゼンチンの出身。〝望郷〟がこの映画の大きなテーマでもある。  (NORIKO YAMASHITA)
 
             2020年7月15日 記

監督/共同脚本:
アナ・ルイーザ・アゼヴェード 出演:ホルヘ・ボラーニ/ガブリエラ・ポエステル/ホルヘ・デリア/ジュリオ・アンドラーヂ 2019年ブラジル(123分) 配給:ムヴィオラ 原題:AOS OLHOS DE ERNESTO(THROUGH ERNESTO'S EYES)  公式サイト:http://www.moviola.jp/buaiso/


『リトル・ジョー』  2020年7月17日(金)からアップリンク渋谷/アップリンク吉祥寺ほか

■ひとり息子のジョーを愛する一方で、幸せをもたらす花「リトル・ジョー」の開発にいそしむバイオ技術者のお話。遺伝子操作による未知の領域に挑む畏れと、仕事優先で息子に愛情を注ぎきれない二重の負を負ったシングルマザーの話でもある。『ルルドの泉で』の監督が描いた近未来的ミステリーは、主演のビーチャムにカンヌ映画祭女優賞をもたらした。

■SYNOPSIS■ バイオ技術による植物開発を進める会社の研究者アリス。彼女が密かに力を入れているのは「幸せをもたらす花」の開発。ひとり息子のジョーと暮らす彼女はその一株に「リトル・ジョー」と名づけ、会社には内緒で家に持ち帰る。ところが花が成長するにつれて息子のジョーにもある変化が見られ始める。それは単に成長の証なのか。

■ONEPOINT REVIEW■ 現実社会でも大きな問題となっている遺伝子操作。あらためて突きつけられると、この現実のさまざまな変化には目には見えない科学的操作が関係しているようにも思えてくる。とくにそれが感じられるのは何事もなかったようなエンディング。穏やだからこそむしろ不気味なのだ。日本人音楽家・伊藤貞司による古典楽器を使った妖しげな音楽が、ミステリアスな全体を支配する。(NORIKO YAMASHITA)          
2020年7月14日 記

監督/共同脚本:ジェシカ・ハウスナー 出演:エミリー・ビーチャム/ベン・ウィショー/ケリー・フォックス/キット・コナー 
 2019年オーストリア=イギリス=ドイツ(105分) 配給:ツイン 原題:LITTLE JOE 公式サイト:http://littlejoe.jp/  ©COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE  PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019


『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』  2020年7月17日(金)からYEBISU GARDEN CINEMAほか

■孤独な中年男の悲哀をユーモラスに描いて映画化もされた『幸せなひとりぼっち』の作者フレドリック・バックマンが、こんどは孤独な主婦を主人公に本国スウェーデンでふたたびベストセラーとなった作品。スウェーデンの国民的女優を主役に女性監督で映画化。

■SYNOPSIS■ ハウスキーピングをきっちりとこなし、この40年一日のごとく「主婦」の役割を果たしてきたブリット=マリー63歳。夫は多忙で夫婦の会話はほとんどない、ように見える。起伏のない日々を送るある日夫が出張先で倒れ、かけつけてみると見知らぬ女性がすでに付き添っていた。行くあてもないままスーツケースひとつで家を出て仕事探し。職安で紹介されたのは片田舎のユースセンターの管理および、移民の子らを中心に組織されている弱小サッカーチームを指導する仕事だった。

■ONEPOINT REVIEW■ 日本の何倍も女性の社会進出が進む「先進国」スウェーデン。結婚から40年主婦ひと筋のブリット=マリーは特殊な存在なのか?そうとも言えるだろうし、あるいは世界中どこにもいそうな女性を象徴的に描いたようにも見える。40年は無駄だったかもしれない。でもそのまま死ぬよりは行動しよう!とこの映画は言っている。  (NORIKO YAMASHITA)
                                  2020年7月13日 記

監督:
ツヴァ・ノヴォトニー 出演:ペルニラ・アウグスト/ペーター・ハーバー/アンデシュ・モッスリング/マーリン・レヴァノン  
2019年スウェーデン(97分) 配給:松竹 原題:BRITT-MARIE VAR HAR(BRITT-MARIE WAS HERE)
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/bm/  © AB Svensk Filmindustri, All rights reserved


『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』  2020年7月17日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■いまも裁判が進行中の児童性的虐待事件「プレナ神父事件」を取り上げ、カソリック教徒の多い本国フランスで大きな話題となった人間ドラマ。心理描写に長けるオゾン監督が実話に切り込むのはこれが初めてだが、物語は被害者たちに寄りそう形で描かれてゆく。

■SYNOPSIS■ 2014年、社会的にも成功して妻と子どもたちと暮らすアレクサンドル40歳は、知り合いからの一言で子ども時代に受けいまも脳裏から離れない神父からの性的虐待を思い出す。しかも当の本人はいまも子どもたちと接していることを知り、告発を決意する。壁となる枢機卿の存在など困難が立ちはだかるなか警察が動きはじめ、アレクサンドルとは直接接点のないほかの被害者たちも立ち上がり大きな輪となってゆく。

■ONEPOINT REVIEW■ 多くのメディアが取り上げ本国ではだれもが知る周知の事件。ドキュメンタリーにする案もあったというが、フィクションドラマだからこその自由もあった。プポーが演じる最初の告発者アレクサンドルにはじまり、いつしか個性的な告発者がつぎつぎと現れる群像劇になってゆく。  
(NORIKO YAMASHITA)
                                                   2020年7月07日 記

監督/脚本:フランソワ・オゾン 出演:メルヴィル・プポー/ドゥ二・メノーシェ
/スワン・アルロー/ジョジアーヌ・バラスコ/エレーヌ・ヴァンサン 
2019年フランス(137分) 配給:キノフィルムズ/東京テアトル 原題:GRACE A DIEU(BY THE GRACE OF GOD) 
公式サイト:http://www.graceofgod-movie.com/   
©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE


『MOTHER マザー』  2020年7月3日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか

■実際にあった祖父母殺害事件から着想し、祖父母の娘とその息子にフォーカスして描いたオリジナル作品。企画立案は『事件記者』など問題作を送り出してきたスターサンズの河村光庸、監督は『日日是好日』ほかの大森立嗣。オーディションで見いだされた奥平大兼の姿が初々しく、また汚れ役といえる母親役を長澤まさみが演じているのも話題だ。

■SYNOPSIS■ 秋子(長澤)は幼い息子を連れて実家に無心にゆくが、所持金すべてをパチンコにつぎ込む娘に両親は見切りをつけていた。ゲームセンターでホストの遼(阿部)に声をかけ付き合い始める秋子。ところが彼女に気のある市役所職員に因縁をつけて事件を起こしたことから、逃亡生活がはじまり妊娠もする。数年後、息子の周平は17歳となり(奥平)、父親違いの妹があたらしい家族になっていた。児童相談所に救われるも秋子の自堕落な生活は変わらず、再会した遼にふたたび捨てられると周平を連れて実家に向かう。

■ONEPOINT REVIEW■ 育児放棄され命を失う子どもたちの事件の背後には、劣悪な環境で生きざるをえない幾多の子どもがいるのだろう。周平の世界は母とその愛人のみで成り立っており、児童相談所の亜矢から優しい言葉ををかけられると、いっとき新しい世界が広がる。だが母に引き戻されると、抵抗よりも従う気持ちのほうが勝るのがもどかしい。長澤×奥平という独特の魅力を放つふたりが演じたことで、理解を超えた次元へこの映画は引きずり込んでゆく。 
(NORIKO YAMASHITA)                                                   2020年6月30日 記

監督/共同脚本:大森立嗣 共同脚本:港岳彦 出演:長澤まさみ/奥平大兼/阿部サダヲ/夏帆/皆川猿時/仲野太賀/土村芳/木野花 2020年日本(126分)配給:スターサンズ/KADOKAWA 公式サイト:https://mother2020.jp/ ⓒ2020「MOTHER」製作委員会


『カセットテープ・ダイアリーズ』  2020年7月3日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■英語を母語としてつかい、イギリス人として生きてきたパキスタン移民2世の16歳。しかしそこには歴然とした差別があり、古い価値観を押しつけようとする1世の父親に対しても反発しかない。そんな悩める青年がある日、米国のロックカリスマ、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会い光を見る。『ベッカムに恋して』のチャーダ監督がふたたび清新な風を吹かせてくれる青春映画。〝ボス〟の曲も本人の協力を得てふんだんに使われている。

■SYNOPSIS■ 1987年、英国ロンドン近郊の町ルートンに暮らすジャべドは、詩を書くのが好きな〝ふつう〟の高校生。だが家に帰れば移民1世の父親が古いパキスタン流の価値観を押しつけ、また周囲には移民への偏見も蔓延していた。それでも政治活動に熱心なガールフレンドができ、さらにクラスメイトが貸してくれたカセットテープが大きな転機をもたらす。米国の国民的ロックスター、ブルース・スプリングスティーンとの出会いだった。

■ONEPOINT REVIEW■ 原作は英国のジャーナリスト、マンズ―ルの自伝的青春回顧録。チャーダ監督とは周知の仲でともにブルース・ファン。出版後のある日ふたりがライブ会場で出待ちしていると、本人に声をかけられ映画化の話が進んでいったという。彼の音楽との出会いの喜びはミュージカルタッチで描かれるが、スプリングスティーン×ボリウッド風という組み合わせにもふしぎと違和感なし。(NORIKO YAMASHITA)        2020年6月28日 記

監督/共同脚本:グリンダ・チャーダ 原作/共同脚本:サルフラズ・マンズール 出演:ヴィヴェイク・カルラ/クルヴィンダー・ギール/ミーラ・ガナトラ/ネル・ウィリアムズ/ディーン=チャールズ・チャップマン 2019年イギリス(117分) 配給:ポニーキャニオン 原題:BLINDED BY THE LIGHT  
公式サイト:http://cassette-diary.jp/ 
©2019 Warner Bros.Entertainment Inc.All Rights Reserved.


『ワイルド・ローズ』  2020年6月26日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■歌わせたら天下一品。天性の歌声はだれもが認めるところだが、生き方に難ありのシングルマザー、ローズ=リン。目指すはカントリーミュージックの聖地米国ナッシュビル。異国での成功を夢見ながらもがき続ける、ひとりの英国人女性とその家族のものがたり。シンガー・ソングライターでもある主人公役のバックリー自身が全曲熱唱しているのも見どころ。

■SYNOPSIS■ イギリスの工業都市グラスゴー。地元の音楽パブで歌うローズ=リンは、酔った勢いでドラッグがらみの軽犯罪を犯してしまい収監。放免となり家にもどるも、幼いふたりの子どもたちの態度は微妙だ。それでも母のマリオンが愛情込めて育ててくれたおかげで、スクスク成長しているのが微笑ましい。保護観察中ということで音楽の仕事はなくなり豪邸の家政婦として働くことに。その女主人が彼女の歌声に興味を抱く。

■ONEPOINT REVIEW■ バックリー(ローズ=リン)のバックバンドには、実際に腕利きのミュージシャンが集められ、楽曲も一曲一曲が丁寧につくられていて、人間ドラマとしての魅力だけでなくそこここに音楽愛があふれた作品になっている。ちなみに映画のハイライトとなるラストナンバーはナッシュビルのコミュニティで公募したものだというが、採用されたのがたまたま女優メアリー・スティーンバージェンのものだった!という嘘のようなほんとのエピソードもある。 
                                                (NORIKO YAMASHITA) 2020年6月16日 記

監督:トム・ハーパー 脚本:ニコール・テイラー 音楽:ジャック・アーノルド 出演:ジェシー・バックリー/ジュリー・ウォルターズ/ソフィー・オコネドー/クレイグ・パーキンソン 2018年イギリス(102分) 配給:ショウゲート 原題:WILD ROSE 公式サイト:https://cinerack.jp/wildrose/ 
©Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018


『今宵、212号室で』  2020年6月19日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■すっかりくたびれ果ててしまった夫と、いまもアバンチュールを楽しむ若々しい妻。あまりにも不釣り合いになってしまった結婚20年の夫婦の危機を、奇想天外な想像力とユーモアで描いたラブコメディ。元夫婦だったキアラ×バンジャマン・ビオレの夫婦役にも注目。

■SYNOPSIS■ 大学で法律を教えるマリアは結婚して20年になるが、いまも若い男性を見ると心がときめき、現実にもときどき火遊びをして発散している。愛人と会ったその当日、浮気がばれて開き直るも、夫とすこし距離を置こうとマンション向かいの小さなホテルに避難。すると若き日の夫や彼の初恋のひとが現れて、不思議な空間に誘ってゆく。 

■ONEPOINT REVIEW■ ミュージシャンでもあるバンジャマン・ビオレはいつもとてもかっこいいのに、ここでは背中を丸め、すっかり老け込んでしまった夫を演じ、元気はつらつなキアラとの対照が際立つ。キアラと親しいオノレ監督は、おそらくバンジャマンとも交流があったからこそこういうキャスティングが可能だったのではないか。ジャック・ドゥミのファンで音楽映画を撮ることにご執心のオノレ監督は、ここではアズナブールらの曲をふんだんに使いドラマに彩を添えている。                                                 (NORIKO YAMASHITA) 2020年6月6日 記

監督/脚本:クリストフ・オノレ 出演:キアラ・マストロヤンニ/ヴァンサン・ラコスト/カミーユ・コッタン/バンジャマン・ビオレ/キャロル・ブーケ 
2019年フランス=ルクセンブルグ=ベルギー(87分) 配給:ビターズ・エンド  原題:CHAMBRE 212(ON A MAGICAL NIGHT) 
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/koyoi212/  ©Les Films Pelleas/Bidibul Productions/Scope Pictures/France 2 Cinema


『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』  2020年6月12日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか   

■女性のしあわせとは何か?それぞれに個性のちがう4姉妹の生き方で探るオルコットの不朽の名作。いく度となく映画化/ドラマ化されてきた人気小説を、監督2作目のガーウィグがみずから脚本を書き手がけている。姉妹のなかでももっとも現代的な考えを持ち小説家を目指す次女ジョー役を、ガーウィグとふたたび共働するローナンが演じて物語を牽引してゆく。

■SYNOPSIS■ 19世紀の米マサチューセッツ州ボストン。戦争で父親不在のマーチ家。しっかり者の長女メグを筆頭に、活発なジョー、病弱で心優しいべス、華やかな世界にあこがれるエイミーという4姉妹がにぎやかに暮らす。なかでも次女のジョーはぜったいに小説家になるという強い信念を持ち、未婚のまま生きることも辞さない勢い。ある日、資産家のひとり息子ローリー(シャラメ)と意気投合。ジョーは彼からプロポーズされる。

■ONEPOINT REVIEW■ 初代ジョーはキャサリン・ヘプバーンの当たり役だった。ジューン・アリソン(ジョー)×エリザベス・テイラー(エイミー)という人気作をはさみ、90年代には初めて女性監督(ジリアン・アームストロング)が手がけ、ジョー役にウィノナ・ライダーを起用。毎回注目を集めるなか、4度目の映画化をになうのはハリウッドの新世代のシネアスト、ガーウィグだ。おやっ?と思わせるエンディングはひとひねりの結果、らし                                                  (NORIKO YAMASHITA) 2020年6月5日 記

監督/脚本:グレタ・ガーウィグ 出演:シアーシャ・ローナン/エマ・ワトソン/ティモシー・シャラメ/フローレンス・ピュー/エリザ・スカンレン/ローラ・ダーン/メリル・ストリープ  2019年アメリカ(135分) 配給:ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント 原題:LITTLE WOMEN


『15年後のラブソング』  2020年6月12日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか 

■映画『ハイ・フィデリティ』や『アバウト・ア・ボーイ』の原作者で、『17歳の肖像』などの脚本家でもあるニック・ホーンビィの小説が原作。20年前に姿を消したミュージシャンと、彼を崇拝してやまない音楽オタおよびそのパートナー。3人の男女の奇妙な三角関係をぺレッツ監督は、脚本家の妹とともに主人公の女ごころにも心を砕きながら描いてゆく。

■SYNOPSIS■ ロンドンで美術史を学んだあと故郷に戻り、郷土史博物館の仕事を父から受け継いだ30代半ばのアニー。大学の客員教授ダンカンを恋人に満足な人生なのかと思えば、じつはモヤモヤが晴れない。原因はダンカンの〝趣味〟の件。彼がなにより愛するのは、20年近く前に忽然と姿を消したロック・ミュージシャン、タッカー・クロウなのだ。地下にオタク部屋を設け、自身のファンサイトで同好の男たちと盛り上がる毎日。ある日送られてきたタッカーのデモテープを聴いたアニーは、名前を伏せて彼のサイトで批評する。

■ONEPOINT REVIEW■ 「ストーリーの中心にマニアックな音楽ファンの世界があったこ とで僕はますます映画化したくなった」と語るぺレッツ監督。人気ロックバンド、レモンヘッズの元メンバーという経歴があり、自身の音楽オタクを揶揄しながらつくっているようにも見えて可笑しい。愉快で繊細で愛すべき人間ドラマを、イーサン・ホークら自然体の3人が演じていて心地よい。                  (NORIKO YAMASHITA)   2020年6月4日 記

監督:ジェシー・ペレッツ 原作:ニック・ホーンビィ 脚本:エフジェニア・ぺレッツほか 出演:ローズ・バーン/イーサン・ホーク/クリス・オダウド/アジー・ロバートソン 2018年アメリカ=イギリス(97分) 原題:JULIET,NAKED  配給:アルバトロス・フィルム
© 2018 LAMF JN, Ltd. All rights reserved.  公式サイト:https://15-lovesong.com/


『ANNA/アナ』  2020年6月5日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか 

■ヒットメーカー、リュック・ベッソン監督がこれまで手がけてきたいくつかのヒロイン・アクションもののなかでも、代表作『ニキータ』(1990年)にもっとも近い作品の登場。ベッソンの前作『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(2017年)で映画デビューした売れっ子ファッション・モデル、サッシャ・ルスがヒロイン〝アナ〟役に抜擢されている。

■SYNOPSIS■ 両親の死をきっかけに自暴自棄な生活を送るアナは、終止符を打つべく海軍に志願。陸軍士官学校時代からその優秀さに目をつけていたソ連の諜報機関KGB捜査官、アレクセイにリクルートされる。3年後の1990年ある日、モデルとしてスカウトされ華やかな世界に身をおくことになった彼女は、事務所の共同経営者の男とつき合い始める。

■ONEPOINT REVIEW■ 時系列を解体しテンポよく、たたみかけるように物語は語られてゆく。ソ連のKGBだけでなく米国のCIAもからんでアナを巻き込むいわゆる二重スパイの世界。両者の対決がアナをめぐる男同士の張り合いのようにもなってゆき、決着は最後の最後までわからない。さらに仏作家デュラスの風貌を摸したというKGBの上官をヘレン・ミレンが怪演し、ひとつの見せ場になっている。(NORIKO YAMASHITA) 2020年6月2日 記

監督/脚本:リュック・ベッソン 出演:サッシャ・ルス/ルーク・エヴァンス/キリアン・マーフィー/ヘレン・ミレン/レラ・アボヴァ/エリック・ゴドン2019年フランス=アメリカ(119分) 配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:ANNA 公式サイト:http://anna-movie.com/
©2020 SUMMIT ENTERTAINMENT,LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 


『アンティークの祝祭』 2020年6月5日(金)からシネスイッチ銀座ほか

■アンティークに囲まれて半生以上を過ごし、終活のときを迎えたひとりの熟年女性。心の奥にいまも残るある過ちに対する悔恨、それがもとで疎遠となった娘との確執がからんでくる。見どころのひとつはドヌーヴ×キアラというじつの母子共演。デビュー作『やさしい嘘』(2003年)の印象がいまも鮮烈なベルトゥチェリ監督がメガホンをとっている。

■SYNOPSIS■ アンティークに囲まれながらいつものように孤独のなか目覚めたクレール(ドヌーヴ)は〝きょうがわたしの最期の日〟と確信し、長年集めてきたアンティークの数々をガレージセールで処分しようとひらめく。骨董のなかには貴重なものもたくさんあり、さまざまな思い出も染みついていたが彼女の気持ちは固い。母の突飛な行動を親友から伝え聞き、20年ものあいだ疎遠だった娘のマリー(キアラ)が帰ってくる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 断捨離が厄介なのは単に物を捨てるというだけでなく、そこに染みついている思い出とも決別しなければいけないから。若い人なら多かれ少なかれ人生のリセットであり、クレールのような熟年ならば人生を終う終活の一大儀式となる。そんな彼女の役にドヌーヴは白髪姿という自身の老いもさらけ出しながら、相変わらずの潔い演技で応えている。 (NORIKO YAMASHITA) 2020年6月1日 記

監督/共同脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/キアラ・マストロヤンニ/アリス・タグリオーニ/ロール・カラミー 
2019フランス(94分)  配給:キノフィルムズ/木下グループ   原題:LA DERNIERE FOLIE DE CLAIRE DARLING(CLAIRE DARLING) 
©Les Films du Poisson - France 2 Cinema - Uccelli Production - Pictanovo 公式サイト:http://clairedarling.jp/


『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』(ドキュメンタリー) 2020年6月13日(土)から新宿K's cinemaほか 

■ジャン=リュック・ゴダール監督のミューズとして、フランス映画の新しい波ヌーヴェルヴァーグを支えた女優アンナ・カリーナの本格的ドキュメンタリー。恋多き女カリーナはゴダールを皮切りに4度結婚したが、後半生の40年弱をともに暮らした米国人監督みずからがメガホンをとり捧げている。完成から2年後の昨年12月に他界し思い出の作品となった。

■SYNOPSIS■ 1940年9月22日、ナチス占領下のデンマークで誕生。両親はすぐに別れ、可愛がってくれた祖母も4歳のときに他界して孤独な少女に。17歳になると憧れの異国仏パリに上京。カフェでスカウトされてすぐにモデルやコマーシャルの売れっ子に。そのCFを見て一目ぼれをしたのがゴダールだった。作品だけでなく私生活でもパートナーとなる。

■ONEPOINT REVIEW■  本名アンヌ・カリーヌ・べイヤー。それではダメとアンナ・カリーナと命名したのはあのココ・シャネルだった。そんな初期の逸話からヌーヴェルヴァーグ以降のことまで、彼女のすべてがここに凝縮されている。たとえばゲンスブールが書き下ろしたミュージカル映画『アンナ』のこと、リベットの舞台に立ったこと、ハリウッドに進出したこと、フランスの女優として映画監督先駆けとなったこと…。映画のシーンを引用しながらヒロインと本人を巧みにシンクロさせ、その魅力をうまく引き出してゆく夫のベリー監督自身、彼女のファンだったように見える。(NORIKO YAMASHITA) 2020年5月27日 記

監督:デニス・ベリー プロデューサー・シルヴィー・ブレネ 出演:アンナ・カリーナ  2017年フランス(55分) 配給:オンリー・ハーツ 
原題:ANNA KARINA, SOUVIENS-TOI(ANNA KARINA, REMEMBER) © Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017  関連記事⇒⇒FRONTPAGE内


『白い暴動』(ドキュメンタリー) 2020年4月3日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■1970年代後半の英国。経済の破綻を背景に一気に台頭してくる極右団体「国民戦線」と、彼らの差別主義に対抗して生まれた「ロック・アゲインスト・レイシズム(RAR)」運動。両者の攻防を残された映像で追ったドキュメンタリー。パンクやレゲエのミュージシャンと手を組んだRARは大規模イベントを組織し、それが映画のハイライトとなる。

■SYNOPSIS■ たりない労働力を補う貴重な戦力として重宝されてきたはずの移民たちだったが一転、不況に陥るや安い賃金で仕事を奪う悪いヤツとして労働者階級の下層白人からうとまれ始める。そんな彼らを扇動して生まれたのが白人至上主義をうたう極右団体「国民戦線(NF)」だった。そして彼らの目に余る差別主義に対抗してRARが誕生する。さまざまな活動のなかでRARはザ・クラッシュ、トム・ロビンソン・バンド、スティール・パルスといったパンク&レゲエ系のミュージシャンを巻き込み、大規模なデモ行進と最終地点でのロックイベントを実行に移す。   

■ONEPOINT REVIEW■ 1978年、大行進および野外コンサート前夜、ロンドンは大雨に見舞われる。池のようになった会場は水はけも悪く、この分では人は集まらないだろう…。ところが明けてみれば各地から続々ひとが集まり、最終的には10万人参加の一大イベントとなった。このころ英米で猛威をふるい始めたパンク&ニューウェイヴが、単に音楽的な面だけでなく英国社会といかにリンクしていたか、その一端が垣間見られる。(NORIKO YAMASHITA)

監督:ルビカ・シャー 出演:レッド・ソーンダズ/ロジャー・ハドル/ケイト・ウェブ/ザ・クラッシュ/トム・ロビンソン/シャム69/スティール・パルス2019年イギリス(84分) 配給:ツイン 原題:WHITE RIOT
公式サイト:http://whiteriot-movie.com/  ©photograph by Syd Shelton(上部メイン画像)



『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』 2020年3月20日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■日本を代表する作家にして国粋主義的な論客としても知られた三島由紀夫が、70年代安保闘争に揺れ学生運動のさなかにあった東大全共闘の面々と議論を闘わせた伝説のあの瞬間が映画になった。その様子は「討論 三島由紀夫VS東大全共闘《美と共同体と東大闘争》」として書籍化(1969年新潮社刊、その後2000年に角川で文庫化)されているが、映像の存在が明るみに出て、50年の年月を経たいま新たなインタビューも加えてドキュメンタリー化。

■SYNOPSIS■ 1969年5月13日、東大駒場キャンパス。はじまりは東大全共闘からの呼びかけだった。安田講堂事件で粉砕した面々は「東大焚祭(ふんさい)委員会」なるものをつくり、つぎなる活動を模索していた。そこに呼ばれたのが三島由紀夫。会場となった900番教室にはじつに1000人超の学生が集まり、三島をぶん殴ろうと気勢を上げる輩もいれば、彼を守ろうとする盾の会のメンバーも潜伏する。あいさつ替わりにしゃべり始めたのは三島。意外にも彼は全共闘との接点を語り出す。こうして討論会が始まり、しかし奇妙な連帯感も生まれてゆく。  

■ONEPOINT REVIEW■ 国粋主義の最右翼ともいえる三島がじつは実にチャーミングな男だったからややこしい。話は理路整然としているし、ひとの話もちゃんと聞く。おまけに育ちの良さが前面に出て物腰も柔らか。稀代の人たらしだったのではないか、いい意味で。そんな彼に、これまたおぼっちゃま育ちの東大生たちがなんとなくからめとられてゆく様子もおもしろい。それにしても「女性のいない民主主義」が際立っております。(NORIKO YAMASHITA)

監督:豊島圭介 出演:三島由紀夫/芥正彦/内田樹/小川邦夫/小熊英二/木村修/瀬戸内寂聴/平野敬一郎 
ナレーション:東出昌大 配給:ギャガ 公式サイト:https://gaga.ne.jp/mishimatodai/  ©SHINCHOSHA(白黒写真)



『21世紀の資本』 2020年3月20日(金)から新宿シネマカリテほか

■〝成熟した資本主義経済が平等をもたらすなんて嘘っぱち。資本主義が成熟すると中間層が抜け落ち、不平等な世界が加速する〟。詳細なデータとともに独自の経済理論を展開して、世界中の注目と称賛を浴びたフランスの経済学者トマ・ピケティ。話題の書「21世紀の資本」が彼の監修のもと映像化。ニュージーランドの人気ドキュメンタリー作家ペンバートンからピケティへのオファーでで実現した。

■SYNOPSIS■ 1989年、ベルリンの壁が崩壊し東西の冷戦も終結。世界の経済システムは大きく資本主義にシフトしてゆくが、その行き過ぎ、規制緩和の行き過ぎが大きな格差を生んだとピケティは指摘する。わずか1パーセントの貴族に富が集中していた18世紀のヨーロッパのようにいままたなりつつあると。英国では土地の7割を全人口の1パーセントである富裕層が保有し、米国では今後10~15年のあいだに12兆ドルもの資産がごく一部の富裕層の次世代に移されるという。この悪循環からいかにして抜け出せるのか。ほかの専門家たちの声も交えながら検証してゆく。 

■ONEPOINT REVIEW■ ピケティの経済書がこれほどまでに世界中の人々の支持を得たのは、多くのひとたちが薄々かんじていたことを彼が明確にデータ化し、明文化してくれたからではないだろうか。本作はその映像版。彼の経済学はとても分かりやすく理にかなっていて、そのままストレートに聞いていても十分におもしろいが、ここでは既存のハリウッド映画などから引用しながらその理論をさらに身近なものとして解き明かしてゆく。ちなみにピケティ氏は大の映画好きだそうで、ポップなドキュメンタリー映画誕生にはそんな背景があった。(NORIKO YAMASHITA)

監督:ジャスティン・ペンバートン 監修/出演:トマ・ピケティ 2019年フランス=ニュージーランド(103分) 
配給:アンプラグド 原題:CAPITAL IN THETWENTY-FIRST CENTURY 
公式サイト:https://21shihonn.com/ ©2019 GFC (CAPITAL) Limited & Upside SAS. All rights reserved



『シェイクスピアの庭』 2020年3月6日(金)から全国順次公開

■自作戯曲上演の本拠地、ロンドンのグローブ座が焼失し筆を折るウィリアム・シェイクスピア。それを契機に20余年ぶりに帰郷する彼を困惑の思いで迎える家族と、大劇作家のふるさとでの晩年を描いた人間ドラマ。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身で数々のシェイクスピア劇&映画を手がけてきたブラナー自身が演じ監督している。

■SYNOPSIS■ 1613年6月29日、「ヘンリー八世」を上演中のグローブ座が焼失し、落胆したシェイクスピアは筆を折り故郷に帰る。だが8歳年上の妻も娘たちも20余年ぶりの主の帰還に困惑するばかり。妻は「客人には最上のベッドを」と言って彼が寝室に入ることを丁重に拒むありさま。そんななかシェイクスピアにはひとつの計画が…。それは11歳で他界した最愛の息子のために庭をつくること。だが彼の知らない真実がいろいろと浮かび上がってくる。

■ONEPOINT REVIEW■ 
シェイクスピアが20年ぶりに故郷に戻ってみると、そこには妻や娘たち=女たちのうっぷんが渦巻いている。長きにわたり放っておかれた年上の妻だけではない。自分が書いた詩を双子の弟が書いたものと思い込み、男の子ばかりをかわいがっていた父をいまも恨めしく思う次女…。それらの構図はなんと今ふうなことか。シェイクスピア・フリークとして知られるブラナーはその存在を身近に引き寄せ、現代にも通じる物語をつむぎ出してゆく。     (NORIKO YAMASHITA)

監督/出演:ケネス・ブラナー 脚本:ベン・エルトン 出演:ジュディ・デンチ/イアン・マッケラン/キャスリン・ワイルダー/リディア・ウィルソン/ハドリー・フレイザー/ジャック・コルグレイヴ・ハースト 
2018年イギリス(101分) 配給:ハーク 原題:ALL IS TRUE  公式サイト:http://hark3.com/allistrue/  © 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.



『ジュディ 虹の彼方に』 2020年3月6日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか

■ミュージカル映画『オズの魔法使』とその主題歌「虹の彼方に」で一世を風靡しながら、47歳の若さで英国で客死したハリウッドの人気女優ジュディ・ガーランド。そのアメリカの国民的スターの知られざる晩年を描いた伝記映画。タイトルロールを演じたレネー・ゼルウィガーがアカデミー賞主演女優賞を受賞。

■SYNOPSIS■ 『オズの魔法使』の子役スターとして頂点に立ってから30年後の1968年の冬。この間に幾多の名声を得る一方、失態も重ねてきたジュディに映画出演の依頼はなかった。幼い娘と息子を連れてまわる地方のステージ。ところが宿泊費を滞納してホテルを追い出される。そんなとき英国のクラブからショーの仕事が舞い込んでくるがこんどはプレッシャーで押しつぶされそうになり、またしても薬とアルコールを求めてしまう。 

■ONEPOINT REVIEW■ 原作は英国の脚本家ピーター・キルターが書いた舞台。『オズの魔法使』の子役時代、成人してからの『スター誕生』と、ハリウッドのひとというイメージが強烈な米国人女優ジュディ・ガーランド。しかし最後のステージは、自分を育てむしばみもしたハリウッドを離れた異国ロンドンだった。子役スターにありがちなむずかしい人生。そんななかでも最後のきらめきが映画のハイライトとなっている。  (NORIKO YAMASHITA)

監督:ルパート・グールド 出演:レネー・ゼルウィガー/ジェシー・バックリー/フィン・ウィットロック/ルーファス・シーウェル/マイケル・ガンボン2019年イギリス(118分) 配給:ギャガ 原題:JUDY  公式サイト:https://gaga.ne.jp/judy/  
©Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019



『レ・ミゼラブル』 2020年2月28日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■ヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」の舞台となり、いまは移民や低所得者層が多く住むフランス・パリ郊外のモンフェルメイユ。暴力やドラッグなどの犯罪が常態化し、危険と隣り合わせのなかで日常を送る少年たちと、そこをパトロールする3人の警官を描いた人間ドラマ。昨年のカンヌ映画祭では『パラサイト 半地下の家族』と最高賞のパルムドールを競い、審査員賞を受賞。ことしのアカデミー賞国際長編映画賞の仏国代表にも選ばれている。

■SYNOPSIS■ 犯罪防止班に転属されてきた警官のステファンは、相棒となるふたりの警官が住民たちを抑圧し挑むような態度でいることにまず驚かされる。この地区のパトロールの過酷さをあらわしているのか。小さなトラブルは絶えず、そこにサーカスの子ライオンが盗まれる事件が起きると、異民族のギャング同士が一触即発の状態となる。さらに悪いことに警官と少年たちがもみ合いとなり、ステファンの同僚が少年に発砲してしまう。

■ONEPOINT REVIEW■ サッカー・ワールドカップの優勝に沸く2018年夏のパリ。三色旗で埋め尽くされた凱旋門とシャンゼリゼ通り。実写映像で映し出されるその光景から、郊外団地のドラマへと映画は静かに移行する。いっときの晴れの舞台から一転して現実の世界へ。コントラストも鮮やかに地元モンフェルメイユ出身のラジ・リ監督は、過酷ないまを容赦なく突きつけてくる。                           (NORIKO YAMASHITA)

監督/脚本:ラジ・リ 出演:ダミアン・ボナール/アレクシス・マネンティ/ジェブリル・ゾンガ/ジャンヌ・バリバール 2019年フランス(104分) 配給:東北新社/STAR CHANNEL MOVIES 原題:LES MISERABLES
公式サイト:http://lesmiserables-movie.com/   ©SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS 


『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』 2020年2月28日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■細々と営んできた画廊をついに閉じることになった老画商。その間際に名画の匂いのする作者不明の作品と出会い、最後の大勝負に出る。家族を顧みずに自分本位に生きてきた男と、彼に泣かされてきた娘と孫との絆の物語でもある。『ヤコブへの手紙』『こころに剣士を』のフィンランドの監督クラウス・ハロの新作。

■SYNOPSIS■ ネットオークションやオンラインのギャラリーの勢いに押され、画廊をたたむ決心をする老画商のオラヴィ。ひとり寂しく暮らすのは、仕事に打ち込み過ぎて家族を顧みなかったツケが回っているからだ。ある日、オークションの下見会で一枚の出所不明の肖像画と出会い、著名画家の作品ではないかと直感する。そんなときに音信不通の娘から連絡があり、息子のオットーを職業体験で預かっておいてほしいと頼まれる。絵のことで頭がいっぱいで、最初は自分の孫であることも気づかないオラヴィだった。 

■ONEPOINT REVIEW■ 主人公のオラヴィは人いちばい絵画が好きなだけでなく、われを忘れるほど物事にのめり込み、ときに博打打ち気質もあるように見える。だからこそ家族を泣かせ見放されることになったのではないのか。しかしそのことがこの映画を面白くしている。彼が最後の大勝負に出る一枚の絵。その出所をめぐるスリリングな展開は、家族との絆のゆくえとともに終盤の見どころになってくる。                   (NORIKO YAMASHITA)

監督:クラウス・ハロ 脚本:アナ・ヘイナマ― 出演:へイッキ・ノウシアイネン/ピルヨ・ロンカ/アモス・ブロテルス 2018年フィンランド(95分) 配給:アルバトロス・フィルム/クロックワークス 英題:ONE LAST DEAL 公式サイト:http://lastdeal-movie.com/  ©Mamocita 2018


『黒い司法 0%からの奇跡』 2020年2月28日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか

■不当な裁判で理不尽な扱いを受けている黒人囚人のなかに飛び込み、孤軍奮闘するエリート弁護士。実在の黒人弁護士スティーブンソンが書きベストセラーになった告発本を『ショート・ターム』で注目されたクレットン監督で映画化。主人公をマイケル・B・ジョーダンが演じ、ジェイミー・フォックス、ブリ―・ラーソンらが共演。

■SYNOPSIS■ ハーバード大の法科を卒後した若き黒人弁護士ブライアンは、周囲の予想を裏切りエリートコースとは異なる道を歩みはじめる。彼が向かったのはアメリカ南部の町。80年代も後半だというのに人種差別がまかり通ったままで、不当に逮捕され不当な裁判を受けている黒人市民があとを絶たなかった。そんな囚人たちと面会するなか、若い白人女性を殺した罪で死刑を言い渡されているマクミリアン(フォックス)という男と出会う。
 
■ONEPOINT REVIEW■ 主人公のブライアンが目的地に近づくと「アラバマ物語の町」という看板が目に入る。1960年代初頭に、米南部の根深い黒人差別を描きグレゴリー・ペック主演で映画にもなった「アラバマ物語」。まさかのジョークなのか!看板を見た彼は物語が少しも教訓になっていないことに落胆する。これは80年代後半のお話。そこからさらに30年たったいま、この町の正義はどうなっただろうか。                (Noriko Yamashita)

監督/共同脚本:デスティン・ダニエル・クレットン 原作/製作総指揮:ブライアン・スティーブンソン 出演:マイケル・B・ジョーダン/ジェイミー・フォックス/ブリ―・ラーソン/ロブ・モーガン 2019年アメリカ(137分) 配給:ワーナー・ブラザース映画 原題:JUST MERCY
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/kuroi-shiho/ © 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.


『山の焚火』フレディ・M・ムーラー特集/マウンテン・トリロジー第一弾 2020年2月22日(土)から渋谷・ユーロスペースほか

■スイス映画の代表格ムーラー監督による山をテーマにした3作品が「マウンテン・トリロジー」として特集上映。そのなかでも代表作とされる本作『山の焚火』がデジタル・リマスター版で34年ぶりに劇場上映。

■SYNOPSIS■ 広大なアルプスの山の上、周囲から隔絶した形で自給自足の生活を送る両親と娘とその弟。生活は聾唖のひとり息子を中心に回っていたが、悩みの種は彼がときどき起こす癇癪と奇行。ある日、父が大切にしている草刈り機を崖から投げ捨て父を激怒させた彼は、家を出て母屋から離れた山小屋でひとり暮らしをはじめる。心配し食料などを届けにゆく姉。久々に再開したふたりは楽しい一夜を過ごすが、ある日姉の身体に変化が起きる。

■ONEPOINT REVIEW■ ニュー・ジャーマンシネマのファスビンダー監督らとつながりのあったのがスイスのダニエル・シュミット監督だが、彼とともにスイス映画の一時代を築いたのがムーラー監督だ。簡潔な映画文章は35年を経たいまも色あせることなく、多くを語らずにいろいろなことを引き出してゆくちからにあらためて驚かされる。しかも禁断の愛を、ある意味納得のゆく形でこんなにもさわやかに描くとは。              (Noriko Yamashita)

監督/脚本:フレディ・M・ムーラー 出演:トーマス・ノック/ヨハンナ・リーア/ロルフ・イリック/ドロテア・モリッツ/イェルク・オーダーマット/ティッリ・ブライデンバッハ  1985年スイス(117分) 配給:ノーム 原題:HOHENFEUER(ALPINE FIRE)

<フレディ・M・ムーラー特集/マウンテン・トリロジー>①山の焚火 ②我ら山人たち─我々山国の人間が山間に住むのは、我々のせいではない ③緑の山



『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』 2020年2月7日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■厳格な戒律を持つ正統派ユダヤ教社会ではぜったいに許されない女性同士の愛。引き裂かれ別々の土地に暮らす両者が再会したことから、ふたりの感情がふたたび大きく揺れはじめる。女性たちの反逆を描いたデストピア小説「パワー」でも注目を集めたナオミ・オルダーマンの原作を、主演のレイチェル・ワイズがプロデュースし、『グロリアの青春』や『ナチュラル・ウーマン』のセバスチャン・レリオ監督が手がけた。

■SYNOPSIS■ 正統派ユダヤ教の指導者でラビの父が急死し、米ニューヨークに暮らすフォトグラファーのロニートが故郷ロンドンに戻ってくる。父とは絶縁関係にあったが、旧友のエスティが知らせてくれたのだ。ふたりはかつて惹かれ合った仲だったが引き離され、そんなユダヤ教の戒律に疑問を持ったロニートは故郷を去った。事情をを知る周囲は彼女の帰郷に微妙な反応を示す。一方エスティはロニートとの別離後にラビの後継者と目されるドヴィッドと結婚し家庭を築いていたが、彼女との再会で抑え込まれていた感情が頭をもたげはじめる。 

■ONEPOINT REVIEW■ 正統派ユダヤ教の家に生まれ育ったふたりが青春期を迎え、愛を知ったときにそれは禁じられる。故郷を捨ててニューヨークに出たロニートと故郷に残ったエスティ。だがロニートにとっては身内との絶縁を意味し、前に進むも後ろに引くも地獄の世界がそこにはある。一方、聖職者として敷かれたレールの上を生きるドヴィッドの心の内はどうなのか。それぞれの答は切ないが清々しい。  (Noriko Yamashita)

監督/共同脚本:セバスティアン・レリオ 共同脚本:レベッカ・レンキェヴィチ 原作:ナオミ・オルダーマン 出演:レイチェル・ワイズ/レイチェル・マクアダムス/アレッサンドロ・二ヴォラ 2017年イギリス(114分) 配給:ファントム・フィルム 公式サイト:https://www.phantom-film.com/ronit-esti/



『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』 2020年1月31日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか

■『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017年)で認知度を上げたジョンソン監督が、探偵役のダニエル・クレイグをはじめ実力派を揃えてつくった本格ミステリー。これまでも自作品の脚本を手がけてきた監督だが、本作でのプロットはユーモアをたたえつつ濃密。いま風のセンスがあって「本気」でナゾ解きが楽しめる作品になっている。

■SYNOPSIS■ ミステリー小説の大家ハーラン・スロンビー(プラマー)が85歳の誕生日の夜に変死する。屋敷にはハーランの長女と次男のほか、彼らの配偶者や子どもらが一堂に会していた。一週間後、匿名の人物からの依頼で名探偵の誉れ高いブノワ・ブラン(クレイグ)がやってくる。莫大な遺産を巡る親族たちの心の内は複雑だった。 

■ONEPOINT REVIEW■ 19世紀末に建てられた洋館を舞台にした群像ミステリー。いかにも定番の古典推理劇と見せかけて、じつはジョンソン監督の脚本はとても現代的だ。死亡した資産家の作家と法定相続人であるその一族。そこに作家の良き話し相手でもある移民の看護婦もからんできて……さて事件のゆくえは? いまどきの観客をも満足させる複雑なプロットとナゾ解き、着地点は最後の最後まで見えてこない。                (Noriko Yamashita)

監督/脚本:ライアン・ジョンソン 出演:ダニエル・クレイグ/クリス・エヴァンス/アナ・デ・アルマス/ジェイミー・リー・カーティス/マイケル・シャノン/トニ・コレット/ドン・ジョンソン/キース・スタンフィールド/クリストファー・プラマー 2019年アメリカ(131分) 配給:ロングライド 原題:KNIVES OUT 公式サイト:https://longride.jp/knivesout-movie/ ©Motion Picture Artwork  © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.



『男と女 人生最良の日々』 2020年1月31日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■カンヌのパルムドールやオスカーなど受賞歴も輝かしく、クロード・ルルーシュ監督の出世作にして代表作となった『男と女』(1966年)。アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニアンが演じた主人公男女の50余年後を、ルルーシュ自身が書き下ろし同じキャストで撮った人間ドラマ。オリジナルの『男と女』の名場面やフランシス・レイの音楽を随所にちりばめながら描かれるいまのふたり。情緒たっぷり、ルルーシュ節満載の美しい映画が誕生した。

■SYNOPSIS■ 海の見える施設で静かに余生を送る元レーサーのジャン=ルイだが、入所者との交流を好まずその記憶は薄れるばかり。心配した息子のアントワーヌは、父が唯一いまも執着し愛し続けるアンヌという女性の消息を突き止め父との再会を願い出る。再会を果たすふたりだが、ジャン=ルイはアンヌが何者か気づかない。アンヌは愛車のシトロエン2CVに彼を乗せて、思い出の地ノルマンディーへと向かう。

■ONEPOINT REVIEW■  『男と女』を体験してきたひととそうでないひと。両者のこの作品に対する温度差は熱湯と水ほど違うかもしれない。だが前者にとってはこれはひとつの事件である。そしてこの50年間紆余曲折してきたルルーシュ監督がここに戻ってきたこともまた、ひとつの奇跡ではないか。感傷だけでなく新たなクリエイティヴィティをもって、80歳を超えたルルーシュは自身の映画人生をもみごとに締めくくったように見える。
そしてそこにいるだけで相変わらず美しいアヌーク・エーメ、記憶がうすれゆく老人を演じながら驚くほどの記憶力で詩を口ずさむトランティニアン。「男と女」の代名詞、彼らふたりにも魅了される。さらにもうひとつ。2018年11月に他界したフランシス・レイが、ぎりぎり間に合って2曲残したことも幸いだった。彼の音楽なしで『男と女』は考えられないのだから。                                           (Noriko Yamashita)

監督/脚本:クロード・ルルーシュ 音楽:フランシス・レイ  出演:アヌーク・エーメ/ジャン=ルイ・トランティニアン/スアド・アミドゥ/アントワーヌ・シレ/モニカ・ベルッチ 2019年フランス(90分) 配給:ツイン 公式サイト:http://otokotoonna.jp/
原題:LES PLUS BELLES ANNÉES D'UNE VIE  ©2019 Les Films 13-Davis Films-France2Cinema


『母との約束、250通の手紙』 2020年1月31日(金)から新宿ピカデリーほか

■フランスの国民的作家ロマン・ガリの波乱に満ちた半生と、そのアイデンティを支えたシングルマザーとの思い出をつづった実話物語。ガリの自伝的小説「夜明けの約束」をバルビエ監督が脚本化(共同)。役柄と同じユダヤ系ロシア移民の血を引くゲンズブールが母親役を、『イヴ・サンローラン』のニネが息子ロマンを演じている。

■SYNOPSIS■ 1950年代半ば、妻とメキシコ旅行中の外交官で作家のロマン・ガリは、体調を崩しながらも一心不乱にあるものを執筆していた。彼を女手ひとつで育て上げた母のこと。それは彼女が存在し生きた証でもあった。1920年代。ひとり息子のロマンを連れてロシアからフランスに移住してきたユダヤ系ポーランド人のニナは、町の人たちからさげすまれながらもたくましく生き、息子が名士になることを信じてやまない。その母の思いどおり、パリの大学に進学したロマンはやがて作家として大成してゆく。

■ONEPOINT REVIEW■  ゴンクール賞を2度受賞。日本で言うと芥川賞を2度とったような作家にして外務省高官、さらには映画を2本撮り、スター女優ジーン・セバーグの夫でもあったロマン・ガリは1980年、66歳のときに自ら命を絶った。壮絶な人生の背後霊のような存在だったのが母のニナ。典型的なマザーコンプレックスのガリが描く母は、周囲がなんと言おうと愛にあふれていて、ふたりは相思相愛の母子だった。                (Noriko Yamashita)

監督:エリック・バルビエ 出演:シャルロット・ゲンズブール/ピエール・ニネ/ディディエ・ブルドン/ジャン=ピエール・ダルッサン/キャサリン・マコーマック/フィネガン・オールドフィールド 2017年フランス=ベルギー(131分) 配給:松竹 原題:LA PROMESSE 公式サイト:https://250letters.jp/
©2017 - JERICO-PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA


『his』 2020年1月24日(金)から新宿武蔵野館ほか

■恋人に別れを告げてその後結婚した男と、都会での仕事をやめて田舎に移住してきたもうひとりの男。結婚した日比野渚が8年ぶりに井川迅の前に姿をあらわしたことから、消えることのなかったふたりの愛が再燃してゆく。放送作家アサダアツシが書下ろし、『愛がなんだ』の今泉力哉が監督。売出し中の宮沢氷魚が主人公の迅を演じている。

■SYNOPSIS■ 相思相愛に見えたカップルだったが、唐突に別れを切り出したのは日比野渚のほうだった。渚はその後プロサーファーになるためにオーストラリアに留学し、通訳者の女性、玲奈と結婚する。一方の井川迅はゲイであることを隠して生きることに疲れ、すべてを捨てて田舎町に移住する。そこに突然、離婚協議中だという渚がひとり娘を連れてやってくる。はじめは拒否反応を示す迅だったが、8年間消えることのなかった愛の感情が頭をもたげ始める。そんなふたりを住民たちは好奇の目で見はじめる。

■ONEPOINT REVIEW■ 「肯定的な恋愛物語」を…。ゲイの知り合いからのリクエストにアサダアツシが応えて書いたのがこの脚本だった。男性たちの複雑な感情を、ふたりの役者がさわやかに演じてゆく。とくに迅役に抜擢された宮沢氷魚。彼の静かなたたずまいはどこか品がよくて、迅という人物の誠実さをうまく伝えている。(Noriko Yamashita)

監督:今泉力哉 脚本:アサダアツシ 出演:宮沢氷魚/藤原季節/松本若菜/松本穂香/外村紗玖良/中村久美/鈴木慶一/根岸季衣/堀部圭亮/戸田恵子2020年日本(127分) 配給:ファントム・フィルム 公式サイト:http://www.phantom-film.com/his-movie/  ©2020 映画「his」製作委員会



『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』 2020年1月24日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■スランプに見舞われ映像作家としての自信と情熱を失いかけていた男が、学生時代につくった作品と偶然出会い、当時の足跡を追ううちに迷路に迷い込んでゆく奇想天外なファンタジー。撮影中に幾多のアクシデントに見舞われ「呪われた映画」と言われながら、30年かけて完成させたテリー・ギリアム監督「執念」の作品。

■SYNOPSIS■ スペインでの撮影を自ら提案したものの思うようにいかず、CM監督のトビー(アダム・ドライヴァー)はうんざりしていた。そんなとき現場を仕切るボスが彼に渡したのは、偶然なのかトビーが学生時代に制作した映画『ドン・キホーテを殺した男』のDVDだった。現地の素人を役者として起用して制作し、その斬新さが称賛された若き日の作品。当時の撮影現場を訪ねてみると、ドン・キホーテ役に抜擢した靴職人の男ハビエル(ジョナサン・プライス)はあの日から自分を本物のドン・キホーテと思い込み、訪れたトビーを従者サンチョとして迎えるのだった。
  
■ONEPOINT REVIEW■ 最初のキャスティングがフランスの名優ジャン・ロシュフォール×ジョニー・デップ×ヴァネッサ・パラディだったことを思い起こすと感慨深い。撮影中のトラブルが相次ぐなかロシュフォールが腰痛で降板(のちに他界)。この時点ですでに「呪われた映画」の印が押され、その様子を収めたドキュメンタリー『ロスト・イン・ラ・マンチャ』が公開されたこともあった。だがここからさらに十数年の年月が経過して、最終的なクランクインは2017年。風車に突進するラ・マンチャの男のごとく、一心不乱に突き進むギリアム監督自身がドン・キホ―テのようでもある。紆余曲折を経ての完成はそれだけでひとつの事件であり、成果なのではないか。(Noriko Yamashita)

監督/脚本:テリー・ギリアム 出演:ジョナサン・プライス/アダム・ドライヴァー/ステラン・スカルスガルド/オルガ・キュリレンコ 2018年スペイン=ベルギー=フランス=イギリス=ポルトガル(133分)配給:ショウゲート 公式サイト:http://donquixote-movie.jp/  ©2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology,Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU



『ジョジョ・ラビット』 2020年1月17日(金)からTOHOシネマズ日本橋ほか

■第二次世界大戦下のドイツ。ナチスの青少年組織ヒトラーユーゲントに憧れ入団した少年ラビットが、彼を見守るリベラルな母親の行いや、母がかくまうユダヤ人少女との出会いなどを通して成長してゆく人間ドラマ。ニュージーランド出身で母親がユダヤ系、父親が先住民のマオリ系というワイティティ監督が原作を大きく翻案し、アイロニーとユーモアで描いた。また自らジョジョの頭の中の「空想上のヒトラー」を演じている。

■SYNOPSIS■ 憧れのヒトラーユーゲントの合宿に参加したものの、幼さが残るジョジョはなかなか訓練についてゆけない。ウサギを殺すこともできず「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名をつけられてしまう。そんな彼を励ますのは空想上の友人〝アドルフ〟だった。一方ジョジョの母はナチス政権に密かに抵抗しており、やがて目をつけられる。ある日ジョジョは家の隠し扉の奥にひとりの少女を発見する。母がかくまうユダヤ人のエルサだった。 

■ONEPOINT REVIEW■ ナチスドイツおよびヒトラーという重いテーマをワイティティ監督は誤解を恐れずにイマジネーション豊かに描いてゆく。原作にはないという空想上の〝アドルフ〟もそうだが、導入部で使われるドイツ語バージョンによるビートルズの「抱きしめたい」、エンディングのデヴィッド・ボウイ「ヒーロー」(こちらはドイツ東西の壁が壊された当時のボウイのイメージだろう)と、音楽でもグイっと心をつかまれる。 (Noriko Yamashita)

監督/脚本/出演:タイカ・ワイティティ 原作:クリスティン・ルーネンズ 出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス/スカーレット・ヨハンソン/サム・ロックウェル/トーマシン・マッケンジー/レベル・ウィルソン/スティーブン・マーチャント/アルフィー・アレン 2019年アメリカ(109分) 
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 原題:JOJO RABBIT 公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC



『私の知らないわたしの素顔』 2020年1月17日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■恋愛のこじれからSNSにはまってゆく中年女性が、いつしか別人になりすまし葛藤に追い込まれるミステリータッチのサスペンス。フェミナ賞受賞作家カミーユ・ロランスの原作を監督みずから脚本化(共同)。ジュリエット・ビノシュが自身と同年代の50代の主人公を、ニコール・ガルシアが精神分析医を演じている。

■SYNOPSIS■ 大学で文学を教えるクレールはみずから引き起こした不条理な出来事を精神分析医のボーマンに語り始める。夫と別れたのちに付き合い始め、うまくいっていると思っていた恋人リュドに突然捨てられたことから。親子ほども年齢差のある若い建築家で、フェイスブックでのつながりを試みるがそれも拒絶される。そこで別のアカウントをつくり若い女性に成りすますと事態は想定外の方向に進み始める。リュドの友人の男性アレックスとつながり、ふたりはフェイスブック上で相思相愛の仲になってゆくのだった。  

■ONEPOINT REVIEW■ SNSではつながっていたいが個人情報は出したくない。小さなウソ、大きなウソが蔓延している虚構の世界がソーシャル・ネットワークだ。老いを感じ始めているクレールはちょっとした復讐心と遊び心から若い女性に成りすまし、ウソを重ねてゆくうちに本物の恋愛感情に翻弄され行き場を失ってしまう。女性に限らず多くのひとが、若さと決着をつける時期に抱えるであろう心の揺れにふれた残酷な物語でもある。(Noriko Yamashita)

監督/脚本:サリー・ネブー 共同脚本:ジュリー:ペール 原作:カミーユ・ロランス 出演:ジュリエット・ビノシュ/ニコール・ガルシア/フランソワ・シヴィル/マリー=アンジュ・カスタ/ギヨーム・グイ/シャルル・ベルリング 2019年フランス(101分) 
配給:クレストインターナショナル 原題:CELLE QUE VOUS CROYEZ  公式サイト:http://watashinosugao.com/ 



『マリッジ・ストーリー』 2019年12月6日(金)からNetflixで配信中

■女優の妻と舞台演出家の夫。おしどり夫婦に見えたふたりがある日突然破局する。円滑に離婚の手続きが進むかと思えば、妻がやり手弁護士を立てたことから親権問題でこじれてゆく。『フランシス・ハ』や『ヤング・アダルト・ニューヨーク』のバームバック監督が、常連のA・ドライヴァーと初顔のヨハンソンを迎えNetflixでつくった人間ドラマ。

■ニューヨークの先鋭的な小劇場の主宰者で演出家のチャーリーと、その妻で劇団の看板女優の二コル。二コルは映画女優として活躍していたが、彼と出会ったことからそのキャリアを捨て演劇の世界に飛び込んだ。と見えたがじつは少し違っていて、ほんとうは生まれ故郷のLAで映画やテレビの仕事をつづけたかったが、その願いを夫はことごとく無視してきたのだった。彼のほうにその自覚はほとんどない。おまけに二コルは彼の不実も知ってしまう。ひとり息子の親権をふくむ離婚手続きは、妻が敏腕弁護士を立てたことから予想を超える困難な展開を迎える。

■ONEPOINT Review■
情熱を注げる仕事を持つ者同士が結婚したとき、いつの間にか女性は夫の人生に吸収されていってしまう。よくある話かもしれない。それどころかごくふつうのこととして疑問を感じないひとも多いのかも。だがバームバック監督はよくある話ではすまさない。彼の視点が女性目線寄りに感じられるのは、男女が公平になる位置まで引き戻そうとするからだろう。ふたりとも結婚というものを甘く見ていた節はあるが、それをとくに夫に突きつける。波乱の展開のなか激しいやり取りもある。だが終盤、優しい光で画面全体を包み込むあたりがやはりこの監督らしい。(N.Yamashita)

監督:ノア・バームバック 出演:アダム・ドライヴァ―/スカーレット・ヨハンソン/ローラ・ダーン/レイ・リオッタ/アラン・アルダ/ジュリー・ハガティ/メリット・ウェヴァ― 2019年アメリカ(136分) 原題:MARRIAGE STORY 配信:Netflix



『パラサイト 半地下の家族』 2020年1月10日(土)からTOHOシネマズ日比谷ほか(12月27日から先行公開)

■陽も満足に当たらない半地下で暮らす貧乏一家と、高台の邸宅でぜいたくな暮らしをする金持ち一家。〝半地下〟の長男が〝高台〟の家の家庭教師として雇われたことから、思わぬ展開がくり広げられる人間ドラマ。昨年のカンヌで最高賞のパルムドールを獲得したのをはじめ、ゴールデングローブ外国語映画賞受賞など現在各映画賞を席巻中。

■半地下の薄汚れた部屋で、ピザパイの箱を組み立てる内職をする4人家族。現在失職中の父親と、彼に強く当たる母親、そして大学を落ち続けている息子ギウと、美大を目指すもうまくいかず予備校に通うお金もない娘のギジョン。そんなうだつの上がらない一家に、ギウの家庭教師のバイトが決まるというささやかな朗報が舞い込む。友人に紹介された家にギウが訪れてみると、そこには見たこともないようなハイソな世界が広がっていた。

■ONEPOINT Review■
格差社会もここまで来ると笑うしかないか…。ジュノ監督が選んだのは天と地ほども生活に開きのあるふたつの家族。彼らを対比的にすえながらその社会的理不尽を逆手にとり、ハイソな生活にじわじわと忍び込んでゆくたくましい貧乏一家の様子を面白おかしく描いてゆく。だがその結末は、、、。  (N.Yamashita)

監督:ポン・ジュノ 出演:ソン・ガンホ/チャン・へジン/チェ・ウシク/パク・ソダム/イ・ソンギュン/チョ・ヨジョン/イ・ジョンウン 2019年韓国(132分) 配給:ビターズ・エンド 原題:GISAENGCHUNG(PARASITE)  公式サイト:http://www.parasite-mv.jp/ 
©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED



『マザーレス・ブルックリン』 2020年1月10日(土)から新宿ピカデリーほか

■自分を育ててくれた事務所のボスが殺害され調べを進めるうちに、都市計画の背後にある闇に巻き込まれてゆく私立探偵。俳優のエドワード・ノートンが20年ぶりにメガホンを取り主役も演じているフィルムノワールで、彼の演じる主人公が突然奇声を発する障がいを持っていることから、少々風変わりで個性的なサスペンスになっている。

■1957年ニューヨーク。ライオネル(ノートン)が勤める探偵事務所はボスのフランク(ウィリス)の計らいで全員が施設出身の孤児。強いきずなで結ばれており、なかでも記憶力抜群のライオネルはボスに可愛がられているものの、突然奇声を発するという奇病に悩まされていた。ある日、仕事中のフランクが殺害されその真相を追ってゆくうちに、都市計画にからむ巨大な闇の渦に巻き込まれてゆく。

■ONEPOINT Review■
宗教の違う男女3人の友情と恋をさわやかに描いた監督デビュー作『僕たちのアナ・バナナ』からじつに20年。ところが本作はそのころから構想を練っていたというから驚きだ。そんな一球入魂の2作目はとにかくテンポがよくてノートンの才能と実力が画面からほとばしっている。3人の共演男優陣もそれぞれに個性を発揮している。                                                             (N.Yamashita)

監督/出演:エドワード・ノートン 出演:ブルース・ウィリス/ググ・ンバサ=ロー/アレックス・ボールドウィン/ウィレム・デフォー 
2019年アメリカ(144分) 配給:ワーナー・ブラザース映画 原題:MOTHERLESS BROOKLYN 
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/motherlessbrooklyn/  © 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.



『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』 2020年1月10日(土)から新宿ピカデリーほか

■小さな港町から突然ヒットチャートに躍り出た、中年船乗りたちによるアカペラ合唱隊。イギリスで実際にあった話を、彼らの郷土愛や人間臭さをたっぷり織り込んで描いたヒューマン音楽ドラマ。

■悪友の独身最後の日々をともに楽しもうと、音楽業界で活躍するダニーら仲間がやってきたのはイギリス南西端に位置するコーンウォール州の小さな港町ポート・アイザック。そこでむかしから伝わる舟歌を歌って楽しむ、中年男性たちのアカペラ・グループを発見。ダニーは仲間から契約を結ぶようにけしかけられ、しぶしぶ男たちに接近するが、仲間たちの言葉は悪質な冗談で彼らはダニーを残してさっさとロンドンに戻ってしまう。ひとり残され途方に暮れるダニーだったが、村に滞在し人々と交流するうちに本気で彼らの歌とその人間性に惹かれてゆく。

■ONEPOINT Review■
アカペラ合唱隊を構成する船乗りたちの気骨や男気、都会人にはない独特の人間臭さ、そういった魅力をジェームズ・ピュアフォイや、『わたしは、ダニエル・ブレイク』でブレイクしたデイヴ・ジョーンズ、名脇役のデヴィッド・ヘイマンらがみごとに演じている。ピーコートがほんとに似合う男たち。そこに華を添えているのが映画版『ダウントン・アビー』で抜擢されたタペンス・ミドルトン。英国俳優たちの素朴な演技はなかなか魅力的だ。(N.Yamashita)

監督:クリス・フォギン 出演:ダニエル・メイズ/ジェームズ・ピュアフォイ/デヴィッド・ヘイマン/デイヴ・ジョーンズ/タペンス・ミドルトン 2019年イギリス(112分) 配給:アルバトロス・フィルム 原題:FISHERMAN'S FRIENDS 公式サイト:http://fishermans-song.com/  
© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019



<注目のロードショー・アーカイヴ2019> ARCHIVE 2019


『アニエスによるヴァルダ』 2019年12月21日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか

■監督デビューからじつに65年。自作をふり返るアニエス・ヴァルダの最新作。今年2月にベルリン映画祭でお披露目されてわずか1カ月後に急逝し、図らずも遺作となった。マスタークラスでの講演(授業)が中心になっていてその解説は簡潔明瞭、ときにユーモラス。探求心、創意工夫、ひらめき、行動力…、とくに映画を学ぶひとは必見。

■SYNOPSIS■ 1928年5月30日ベルギーで生まれ、十代はじめに家族とフランスに移住。文学と心理学、美術史と写真を学び写真家として活動を始めるが54年、26歳のときに自主制作した『ラ・ポワント・クールト』が評価されて映画の世界に。初の長編商業映画『5時から7時までのクレオ』(61年)は低予算だったことから短時間で撮影を行い、それが功を奏して斬新な作品となった。子育て中の75年『タゲール街の人々』でも、自宅からケーブルが届く範囲で撮影を行うなどウィットに富んだ行動をとり、76年にはフェミニズム宣言ともとれる『歌う女・歌わない女』を発表した。85年の『冬の旅』制作時はまだ十代だった主演のサンドリーヌ・ボネールと今回、当時をふり返るプチカドーもある。

■ONEPOINT Review■
昨年5月のカンヌでは、審査員長だったケイト・ブランシェットが提唱した「#Me Too」行進の先頭に立って歩いたヴァルダ監督。だが翌月のフランス映画祭は来日がキャンセルされて彼女の姿を見ることは叶わなかった。そのときの出品作品『顔たち、ところどころ』(2017年)でこの映画はフェイドアウトされる。彼女が大好きだった海辺。先だった夫ジャック・ドゥミ監督との思い出も深い海辺のシーンで映画は静かにフェイドアウトする。(N.Yamashita)

監督/出演:アニエス・ヴァルダ 2019年フランス(119分) 配給:ザジフィルムズ 原題:VARDA PAR AGNES
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/agnesvarda/ ©2019 Cine Tamaris – Arte France – HBB26 – Scarlett Production – MK2 films

*【RENDEZ-VOUS avec AGNÈS アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画】『アニエスによるヴァルダ』『ラ・ポワント・クールト』
『ダゲール街の人々』 いずれも2019年12月21日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



『THE UPSIDE/最強のふたり』 2019年12月20日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■本国フランスはもとより日本でも大ヒットを記録した『最強のふたり』(2011年)のハリウッド・リメイク版。事故で首から下が動かない富豪と、ひょんなことから介護人として雇われることになったスラム出身の男。真逆のふたりがなぜか気が合い、おたがいの人生を切り開いてゆくバディムービー。実際にあったお話。

■SYNOPSIS■ 仕事もなく妻子にも見放され人生最悪の日々を更新中のデル。ところが仕事の内容も知らずにダメもとで受けた採用試験に合格。車いす生活を送る富豪の身の回りの世話という内容に最初はビビるが、高給なうえに豪邸での住み込みという厚遇に目がくらみ人生初の介護の仕事を引き受けることに。インテリ秘書(キッドマン)の厳しい目が光るなか、気難しくだれも寄せつけない富豪の男になぜか気に入られてしまう。

■ONEPOINT Review■ 一種のおとぎ話でありでありサクセス・ストーリーでもあるこの実話物語にハリウッドが飛びつかないはずがない。移した場所がパリからニューヨークというのもごく自然で違和感がない。たとえば東京となるとそうはいかないだろう。オリジナルとつい比べてしまうとオマール・シーの代わりはだれにもできない。それでもクランストンはお調子者の役にフィットし、ケヴィン・ハートの富豪役もグッド。                (N.Yamashita)

監督:ニール・バーガー 出演:ケヴィン・ハート/ブライアン・クランストン/ニコール・キッドマン/ゴルシフテ・ファラハニ 2017年アメリカ(125分) 配給:ショウゲート 原題:THE UPSIDE 公式サイト:http://upside-movie.jp/ ©2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.



『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』 2019年12月13日(金)から角川シネマ有楽町ほか

■いまではフランスの重要文化財として保存される「奇想の宮殿」を、33年かかってひとりで築き上げた郵便配達員の物語。ドキュメンタリー作家としても知られるタベルニエ監督が、実在する理想宮の現地でロケ撮影しCGをほどこして完成させた。
■1836年、フランス南東部の小さな村で生まれ育ったシュヴァルは、パン職人を経て31歳のときに郵便配達員となった。一度目の結婚でふたりの子どもに恵まれるもひとりは死去し、妻にも先立たれて長男は親族に渡すことに。数年後、フィロメーヌという女性と出会い結婚。娘のアリスが誕生して新たな人生がスタートする。娘が誕生したその年、シュヴァルは配達中に奇妙な形をした石につまずき、そこから33年におよぶ宮殿づくりが始まる。

■ONEPOINT Review■
現存する「理想宮」以外たいした資料もないなか、タヴェルニエ監督は原作をもとにイマジネーションを働かせて物語を築いてゆく。とくにカスタが演じた妻のフィロメーヌに関しては想像力を動員させた部分が大きく、その結果、娘アリスと妻への愛が理想宮を完成させる原動力になったという明確な動機づけとなり、物語の輪郭をくっきりと浮かび上がらせてゆく。久々のジャック・ガンブランが、無口で頑固そうな主人公にみごと化けている。     (N.Yamashita)

監督:ニルス・タヴェルニエ 出演:ジャック・ガンブラン/レティシア・カスタ/ベルナール・ル・コク/フロランス・トマサン 2018年フランス(105分) 配給:KADOKAWA 原題:L'INCROYABLE HISTOIRE DU FACTEUR CHEVAL 公式サイト:https://cheval-movie.com/ 
©2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema




『家族を想うとき』 2019年12月13日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■実りのない非正規の仕事を脱し宅配のフランチャイズ・オーナーになったものの、夢と現実は大違い。いっそうの負のスパイラルにはまってゆくある父親の物語。『わたしは、ダニエル・ブレイク』でカンヌの最高賞を受賞後引退宣言をしていたローチ監督が、さらなるテーマを見つけてふたたび挑戦した最新作。脚本はいつものポール・ラヴァティ。
■金融危機で住宅ローンが破綻しただけでなく仕事も失い、まるで小僧のような非正規職を転々とする4人家族の大黒柱ポール。一念発起して宅配ドライバーのフランチャイズ・オーナーになろうと、妻が介護の仕事に使う車を売って宅配用の高額なバンを購入する。ところが始めてみればオーナーとは名ばかり。親会社が課すノルマと管理は厳しく、身も心も追い詰められる。車の売却で妻の拘束時間も増し、もっとも大切にしていた家族の絆にも影が落ち始める。

■ONEPOINT Review■
「新自由経済が持ち込まれてから労働者を守る仕組みが崩壊した」とローチ監督は言う。〝鉄の女〟サッチャー元英国首相による施策が30、40年経ったいま、じわじわと英国の下層社会を脅かしているのだ。それにしてもここに描かれていることは、日本の宅配ドライバーやコンビニ・オーナーが抱える問題とあまりにも酷似していて驚かされる。ポール役をはじめ半アマチュアに近い無名の役者たちのリアル感も半端ではない。             (N.Yamashita)

監督:ケン・ローチ 出演:クリス・ヒッチェン/デビ―・ハニーウッド/リス・ストーン/ケイティ・プロクター/ロス・ブリュースター 2019年英国(100分) 配給:ロングライド 原題:SORRY WE MISSED YOU  公式サイト:https://longride.jp/kazoku/  © Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions,
Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019



『エッシャー 視覚の魔術師』 2019年12月14日(土)からアップリンク吉祥寺/渋谷ほか

■「だまし絵」の第一人者として知られ、日本でも人気の高い版画家マウリッツ・エッシャーとはどんな人物だったのか?その生涯と作品を彼の日記や手紙、親族へのインタビューなどで構築したドキュメンタリー。彼と同郷のオランダの映像作家ルッツが手がけ、俳優で作家、映画監督としても活躍する英国のS・フライがナレーションを務めている。
■1898年にオランダの裕福な家に生まれたエッシャーは、建築装飾芸術学校で絵の才能を見出され版画と絵画を学び始める。その後、イタリアで出会った娘イェッタと結婚。2人の息子をもうけた。多数の傑作を生み出してゆくなか、世界にその名を轟かせるのは1950年代に米国のタイム誌とライフ誌でインタビュー記事が掲載されて以降。ロック世代にも大きな影響を与え、本作もミュージシャン、グラハム・ナッシュのインタビューから始まる。

■ONEPOINT Review■
なんどかのエッシャー・ブームが訪れその作品を見慣れていても、アニメーションも使った本作での作品分析はわかりやすく楽しい。それにしてもヒッピーの時代に彼の作品が無断で彩色され、サイケデリックアートに変身させられていたことを本人は快く思っていなかったという事実。ミック・ジャガーがアルバム・ジャケットを依頼して断られていたという逸話も面白いが、たしかバウハウスらには提供しているのは死後の話だからか。(N.Yamashita)

監督:ロビン・ルッツ ナレーション:スティーヴン・フライ 登場人物:グラハム・ナッシュ/ジョージ・エッシャー/ヤン・エッシャー/リーベス・エッシャー2018年オランダ(80分) 配給:パンドラ  原題:ESCHER: HET ONEINDIGE ZOEKEN(ESCHER: JOURNEY INTO INFINITY) 
公式サイト:http://pan-dora.co.jp/escher/  ©All M.C. Escher works © the M.C. Escher Company B.V.- Baarn – the Netherlands



『リンドグレーン』 2019年12月7日(土)から神保町・岩波ホールほか

■「長くつ下のピッピ」や「ロッタちゃん」シリーズで知られるスウェーデンの児童文学作家アストリッド・リンドグレーンの物語。影響を受けたというデンマ―クを代表する女性監督のクリステンセン監督が、20世紀を生き抜いたリンドグレーンの青春期を切り取り、その人生のエッセンスを抽出してゆく。絵本作家としても知られるキム・フォップス・オーガソンとの共同脚本。
■敬虔なクリスチャン一家に育ったアストリッドだが、どこのだれよりも自由奔放。周りを笑わせ、母が男のきょうだいをひいきすると反論もいとわない。書くことが大好きな彼女は中学を卒業したある日、地方新聞の目に留まり、尊敬する編集長の秘書兼記者として働き始める。やがて既婚の彼と恋仲になり19歳で未婚の母となる。

■ONEPOINT Review■
生き生きと自由奔放に生きる少女たちを描き、世の女子たちの未来に光を照らしたリンドグレーンとはいったいどんなおばあさんだったのか。いやいや、ここで描かれるのは有名になってからの彼女ではなく知られざる青春期。好きな活字の世界に飛び込み、恋をして挫折もして、さらに先を歩いてゆく。成功譚の前段だから派手さはないが、その人柄が伝わるような滋味あふれる作品になっている。                      (N.Yamashita)

監督:ペアニレ・フィッシャー・クリステンセン 出演:アルバ・アウグスト/マリア・ボネヴィー/マグヌス・クレッペル/ヘンリク・ラファエルセン/トリーネ・ディアホム 2018年スウェーデン=デンマーク(123分)配給:ミモザフィルムズ 原題:UNGA ASTRID(YOUNG ASTRID) 
公式サイト:http://lindgren-movie.com/© Nordisk Film Production AB / Avanti Film AB. All rights reserved.



『THE INFORMER/三秒間の死角』 2019年11月29日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■スウェーデン発の人気ミステリー小説を映画化。刑期を無効にするというFBIとの裏取引で麻薬密売の情報屋になった男が、八方ふさがりのなか、すべてからの解放を図る脱出劇。たたみかけるような展開が見どころのスリリングなサスペンス。
■愛する妻子もいるのにふとしたことから人を殺め、懲役20年を言い渡された元狙撃兵のピート。仮釈放中なのはFBIとの裏取引で麻薬密売組織に潜入中だから。その最後の任務を遂行中に予期せぬことが発生して刑務所に舞い戻る。そしてこんどは刑務所内での麻薬取引を立証するといういっそう危険な任務を命じられる。

■ONEPOINT Review■
FBIからつぎつぎと提示される危険な仕事。そして麻薬組織を泳がされた挙句にFBIにも切り捨てられとき、主人公のピートは孤立無援となり、麻薬組織、囚人たち、刑務所の悪徳看守、ニューヨーク市警という大きな敵とひとり戦う羽目に。物語のハイライト「三秒間の死角」に至るスリリングな展開、そしてジョエル・キナマン演じる主人公の超人的なタフさも娯楽作としてのこの映画の魅力になっている。                (N.Yamashita)

監督:アンドレア・ディ・ステファノ 出演:ジョエル・キナマン/ロザムンド・パイク/コモン/アナ・デ・アルマス/クライヴ・オーウェン 2019年イギリス=アメリカ=カナダ(113分) 配給:ショウゲート 原題:THE INFORMER 公式サイト:https://informer-movie.jp/  ©Wild Wag films Productions 2018



『テルアビブ・オン・ファイア』 2019年11月22日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■イスラエルとパレスティナがいまもいがみ合うイスラエル国を舞台に、その日常をコミカルにシニカルに描いたポリティカル・コメディー。テルアビブ大学を卒業後NYのコロンビア大学で学んだパレスティナ人監督が手がけている。
■エルサレムに住むパレスティナ人のサラームはプロデューサーの叔父を頼ってTV局で修業中。ヘブライ語がわかるため叔父が担当するメロドラマの脚本チェックにも一役買っているが、ある日、検問所で引っ掛かり、妻がそのドラマに夢中だというイスラエル軍の司令官に目をつけられてしまう。パレスティナ人女性とイスラエル軍人の禁断の恋を描いたその恋愛ドラマは、国境を越え政治を超えてイスラエル人の女性たちにも大人気なのだった。

■ONEPOINT Review■
中東ではTVドラマが大人気だそうで、映画の微妙な演技や会話よりもドラマでの大げさな表現を人々は信じていると監督は言う。できなかったかもしれない探求をドラマという存在が可能にしたと。劇中のTVドラマでイスラエル軍人が感情的に話しても、それはそれとしてパレスティナ人は受け止め、また逆にイスラエルの女性たちはパレスティナ人女性の許されない恋に自分自身を投影してゆく。そうした感情のねじれを逆手に取った秀逸なコメディになっている。
                                         (N.Yamashita)
監督:サメフ・ゾアビ 出演:カイス・ナシェフ/ヤニブ・ビトン/マイサ・アブドゥ・エルハディ/ルブナ・アザバル 2018年ルクセンブルク=仏国=イスラエル=ベルギー(97分) 配給:アット エンタテインメント  公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/ 
© Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623




『盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲』 2019年11月15日(金)から新宿ピカデリーほか

■高級クラブで「盲目のピアニスト」として人気を集めるひとりの男。ところが彼が殺人現場を「目撃」したことから事件に巻き込まれ大変なことになってゆく、びっくり仰天のサスペンス。だまし合いと波乱万丈な展開が笑えるインド映画の人気作。
■演奏テクニックと芸術性を高めるために、練習のときだけではなく外出時や仕事のときも盲目を装って生きるピアニストのアーカーシュ。恋人の父の店で専属ピアニストとして演奏していると、往年のスターの目に留まり彼の家で演奏することに。ところがいつものようにサングラスをかけ杖をついて出向くと、そこでとんでもないものを目撃する。

■ONEPOINT Review■
盲目の女性が事件に遭遇するオードリー・ヘプバーンの『暗くなるまで待って』的なものを想像するとそうではなく、人々の目を欺いていたのはじつは彼だったというところからこの物語は始まる。その彼が殺人現場を目撃し、さらに話は流転していって最後は思いもよらない話になってゆく。                (N.Yamashita)

監督:シュリラーム・ラガヴァン 出演:アーユシュマーン・クラーナー/タブー/ラーディカー・アープテー
2018年インド(138分) 配給:SPACEBOX 原題:ANDHADHUM  公式サイト:http://m-melody.jp/  ©Eros international all rights reserved



『 i ー 新聞記者ドキュメント ー』 2019年11月15日(金)から新宿ピカデリーほか

■〝攻める〟ジャーナリストとして注目を集める東京新聞の現役記者、望月衣塑子。著作「新聞記者」がドラマ映画化されていっそう知られることになったが、彼女に密着取材するのはドキュメンタリー作品を通していろいろな問題提起をしてきた森達也監督。結果的に本作自体が世に蔓延する不条理を浮き彫りにする形になった。
■早朝から夜遅くまで精力的に取材を重ねてゆく望月記者を、森監督自身による手持ちカメラが克明にとらえてゆく。取材の対象は基地移設で住民と政府が真っ向から対立する辺野古問題から、何者かの権力行使によってもみ消された準強姦事件、森友―加計問題までさまざま。だがどれを見ても権力側による無理強いや圧力の影が漂う。

■ONEPOINT Review■
制作から公開までの時間差もあって、多くの人々が忘れかけ、うやむやにされかけていた未解決問題が新たに提示されるのも本作品の有意義なところ。また実際はどうだったのか、それが見えてくる部分もある。たとえば望月記者が一躍知られることになった菅官房長官との記者会見でのやり取り。これを見ていると彼女以外の記者たちのダンマリぶりも大いに考えさせられる。                                 (N.Yamashita)

監督:森達也 出演:望月衣塑子 2019年日本(113分) 配給:スターサンズ
公式サイト:http://i-shimbunkisha.jp/  ©2019「i-新聞記者ドキュメント-」製作委員会



『スペインは呼んでいる』 2019年11月8日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■スティーヴ・クーガンとロブ・ブライドン、英国の人気コメディアンふたりが実名で登場するグルメ珍道中の第3弾。前回のイタリアからスペインに舞台を移し、食だけでなくスペイン文化全体にも踏み込む真面目な内容、がなぜかふたたび爆笑の旅に。虚実の境界を取り払った展開に、クーガン+ブライドン+監督の才能が爆発。
■俳優で脚本家でもあるクーガンのところに、映画のプロモーションの一環としてNYタイムズ紙からグルメ記事の依頼が入る。同行者として同業の旧友ブライドンを誘ってみると、育児にお疲れ気味の彼はふたつ返事で引き受ける。英国のプリマスからスペインのサンタンデールにフェリーで渡り、ドン・キホーテばりのおかしな旅が始まる。

■ONEPOINT Review■
仕掛け人マイケル・ウィンターボトム監督が用意した台本が映画のベースになっている。だがそこから脱線してゆくところがこの映画の魅力であり監督が意図するところ。博識家でもあるふたりがあることないこと(?)うんちくを傾けながら、またマーロン・ブランドやデヴィッド・ボウイなど得意とする有名人の物まねやエピソードを織り込みながら、とりとめのない話は止まらない。とくに映画ファンにはツボな物まねや会話が満載。         (N.Yamashita)

監督:マイケル・ウィンターボトム 出演:スティーヴ・クーガン/ロブ・ブライドン/クレア・キーラン/マルタ・バリオ/レベッカ・ジョンソン/マルゴ・スティリー 2017年英国(108分) 配給:ハーク 原題:THE TRIP TO SPAIN 公式サイト:http://www.hark3.com/trip-to-spain/ ©SKY UK LIMITED 2017.



『グレタ GRETA』 2019年11月8日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■地下鉄に置き忘れられたバッグが発火点となり広がってゆく目に見えない恐怖。『クライング・ゲーム』の名匠ニール・ジョーダン監督が、イザベル・ユペールとクロエ・グレース・モレッツというふたりの個性派女優で仕掛けるサイコ・サスペンス。
■ニューヨークの高級レストランで働く若い女性フランシスは、地下鉄の座席に置かれたままのバッグに気づき届けようとするが、窓口が締まっていて持ち帰ることに。身分証を頼りに直接届けに行くと持ち主のグレタは年配の女性で、母を亡くして間もないフランシスは彼女に親しみと優しさを感じ仲良くなる。だがある夜、グレタの家の戸棚を開けたときに信じられない光景を目にする。

■ONEPOINT Review■
同じ内容であっても監督と俳優が違えばテイストの異なるもっとおどろおどろしい作品になっていたかもしれない。だがジョーダン監督はあくまでもスタイリッシュにときにユーモアも交えて描いてゆく。それを支えているのが恐ろしい役をエレガントに演じたユペール。だからこそ本性が露わになったときに恐いのだが。
                                                                (N.Yamashita)

監督:ニール・ジョーダン 出演:イザベル・ユペール/クロエ・グレース・モレッツ/マイカ・モンロー/スティーヴン・レイ 2018年アイルランド=米国
(98分) 配給:東北新社 原題:GRETA公式サイト:http://greta.jp/   ©Widow Movie, LLC and Showbox 2018. All Rights Reserved.



『ドリーミング 村上春樹』(ドキュメンタリー) 2019年10月19日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■1995年に村上春樹の『ノルウェイの森』に出合って20年以上。彼の作品を日本語から翻訳してその魅力を母国デンマークに伝えてきた翻訳家メッテ・ホルムにフォーカスしたドキュメンタリー。
■メッテが初来日したのは1983年。仏国留学中に川端康成の作品と出合ったがきっかけだった。京都で日本語と茶道を学び、日本の魅力にのめり込んでゆく。村上作品は以前は英語版から翻訳されていたが、日本語からダイレクトに訳す彼女のやり方が功を奏したのか、初翻訳「ねじまきクロニクル」(01年)以降村上人気は一気に高まってゆく。

■ONEPOINT Review■
メッテの功労もあって村上は2016年に栄誉あるアンデルセン文学賞を受賞し、授賞式出席と講演会のためにデンマークを訪問する。それに合わせて刊行される合本「風の歌を聴け&1973年のピンボール」翻訳中の彼女をカメラは追ってゆく。画面には村上作品を彷彿とさせるさまざまなオブジェや場面―かえるくんや夜空に浮かぶ二つの月などなど―を登場させあるいは挿入し、ドキュメンタリーの枠を超えた幻想的な作品をつくり出してゆく。(N.Yamashita)

監督:ニテ―シュ・アンジャーン 出演:メッテ・ホルム 2017年デンマーク(60分) 配給:サニーフィルム 原題:DREAMING MURAKAMI
公式サイト:https://www.sunny-film.com/dreamingmurakami  ©Final Cut for Real



『ガリーボーイ』 2019年10月18日(金)から新宿ピカデリーほか

■階級制度、格差、女性蔑視…というインド社会の厳しい現実のなか、「ガリーボーイ=路地裏の少年」と名乗るラッパーとして世の中の不条理を訴えてゆくひとりの青年。恋愛を含めた彼の生きざまを中心に、女性監督×女性脚本家コンビが多角的な視点で描いたインド映画の社会派ニューウェイヴ。実在のふたりのラッパーがモデルになっている。
■ムンバイのスラム街で両親、祖母、弟と肩寄せ合って生きるムラド。金持ちの雇われ運転手をしている父は貧困から抜け出そうと息子を大学に通わせているが、ある日狭いわが家に第二夫人を迎え入れ、母親っ子のムラドの怒りが爆発する。ムラドには13歳から付き合っている恋人の医大生がいるが、彼女の父は診療所を営む医者でここにもまた格差が生じていた。ある日、大学のキャンパスで観たラッパーに心を打たれ、自分でも詞を書き始める。

■ONEPOINT Review■
おなじムンバイでも同時多発テロ事件を描いた『ホテル・ムンバイ』でのきらびやかな高級ホテルと、ここで描かれるスラム街との落差の激しさ。また父に代わり臨時で運転手を務めるムラドは、雇い主の娘に口をきくことすら許されないが、もうひとつのニューウェイヴ映画『あなたの名前を呼べたなら』で雇い主をご主人様としか呼べない現実と重なる。映画を通し、いまも平然とまかり通るインドの不公平社会を垣間見ることができる。(N.Yamashita)

監督:ゾーヤ・アクタル 脚本:リーマー・カーグティー 出演:ランヴィール・シン/アーリア―・バット/シッダーント・チャトゥルヴェーディー/カルキ・ケクラン 2019年インド(154分) 配給:ツイン 原題:GULLY BOY 公式サイト:http://gullyboy.jp/



『天才たちの頭の中~世界を面白くする107のヒント~』(ドキュメンタリー) 2019年10月12日(土)から新宿武蔵野館ほか

■「あなたはなぜクリエイティブなのですか」と問い続けて30年。1000人を超える著名人へのインタビューの成果がドキュメンタリー映画という形になった。厳選された107名の言葉とその映像がつながれてゆく。
■ロンドンの広告代理店時代にふと疑問に思った「クリエイティブ」の謎。それを解くためにハーマン・ヴァケス監督はカメラとスケッチブックを携えて質問の旅に出る。取材の仕方はいろいろ。映画祭でのアポなしもあれば単独のものもあるが、デヴィッド・ボウイへのインタビューなどはそれ自体がすでにクリエイティブの体を成している。

■ONEPOINT Review■
「あなたはなぜクリエイティブなのか」という質問自体、とくにアーティストにとっては蜜のように甘い言葉なのではないだろうか。取材を受ける多くのひとたちはそれがたとえ突撃であっても、まんざらでもなさそうに答えてゆく。ただブッシュ米元大統領(父のほう)だけは聞かれてもなんのことだかわからない?あるいは皮肉を察したのか面食らっている様子が伝わってくるのもインタビュー成功の証と言えるかもしれない。(N.Yamashita)

監督:ハーマン・ヴァスケ 出演:デヴィッド・ボウイ/ウィレム・デフォー/ダライ・ラマ/スティーヴン・ホーキング/ネルソン・マンデラ/荒木経惟/クエンティン・タランティーノ/山本耀司/オノ・ヨーコ/アイ・ウェイウェイ/ヴィヴィアン・ウエストウッド/ジム・ジャームッシュ 2018年ドイツ(88分) 配給:アルバトロス・フィルム 原題:WHY ARE YOU CREATIVE? 公式サイト:http://tensai-atama.com/ ©2018 Emotional Network



『ボーダー 二つの世界』  2019年10月11日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■さまざまな違法物をかぎ分けられる特殊能力を生かし、税関で働くひとりの女性。彼女をめぐる驚愕の出生の秘密に迫る幻想的なミステリー。スウェーデンアカデミー賞など多数の賞を受賞。
■特異な容貌がひと際目を引くティーナだが違法物のかぎ分けを得意とし、その特殊能力を生かして入国審査の窓口に立つ。ある日、ひとりの男に反応するも違法物はなく、その代わりにふつうとは違う身体をしていることが検査で判明する。ふたたび出会いその男に引きつけられていくうち、ふたりは同類だということがわかってくる。

■ONEPOINT Review■
原作は『ぼくのエリ 200歳の少女』の作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。共同脚本も担当しているが、ヴァンパイアの少女とふつうの少年の恋を描いたときと同じような独特のロマンチシズムと繊細さ、切なさがこの作品にもある。また主演ふたりの特殊メイク前の顔を見るとその変身ぶりにも驚かされる。
                                                                (N.Yamashita)
監督:アリ・アッバシ 原作/共同脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト 出演:エヴァ・メランデル/エーロ・ミロノフ 2018年スウェーデン=デンマーク(110分) 配給:キノフィルムズ/木下グループ 公式サイト:http://border-movie.jp/  ©Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018 (R-18作品)



『ブルーアワーにぶっ飛ばす』  2019年10月11日(金)からテアトル新宿ほか

■人生につまづき悶々とするひとりの女性が、不意にあらわれた〝なじみの〟女性とともに旅に出るロードムービー風人間ドラマ。CM界で活躍する箱田優子の映画監督処女作で、脚本も自ら手掛けている。
■仕事仲間とW不倫中のCMディレクター砂田夕佳。その関係は惰性的で中途半端。一方、夫は温厚で優しいが彼女にだけではなく人間全般に無関心のように見える。仕事にも疲れうつうつとした日が続くある日、よく知る清浦あさ美が突然目の前にあらわれ、女性ふたりだけの思いがけない実家茨城への旅がはじまる。

■ONEPOINT Review■
車に乗って出かける女性だけの気ままな、ゆるーい旅。そのやり取りを面白くしているのは夏帆とシム・ウンギョン、日韓の個性派女優ふたりだ。ウンギョンは『新聞記者』に続く邦画出演。彼女たちは箱田監督の化身とも言えるが、 3人の女性が協働してゆくなか本音の詰まったさわやかな作品になった。(N.Yamashita)

監督:箱田優子 出演:夏帆/シム・ウンギョン/渡辺大知/ユースケ・サンタマリア/でんでん/南果歩/黒田大輔/嶋田久作 
2019年日本(92分) 配給:ビターズ・エンド 公式サイト:http://blue-hour.jp/ ©2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会



『エセルとアーネスト ふたりの物語』(アニメーション)  2019年9月28日(土)から神保町・岩波ホールほか

■「スノーマン」や核の恐ろしさを訴えた「風が吹くとき」の作者として敬愛される英国の絵本作家レイモンド・ブリッグズ。1928年から71年という激動の時代を寄り添いながら生きた自身の両親の半生を、イラストでノスタルジックに描いた実話物語。ブリッグズをよく知るアニメーターのメインウッド監督(制作後に死去)で映画化された。
■1928年、牛乳配達人のアーネストは配達中にふと目が合ったメイドのエセルを見初め、やがてふたりは結婚する。ローンで小さな家を購入し中古品で家具を揃え、ささやかだが幸せな新婚生活がスタート。待望の長男レイモンドも誕生するが、やがて戦争がはじまり生活に暗い影を落としてゆく。

■ONEPOINT Review■
ひとの人生いろいろ。そのなかで、ど真ん中の平凡な人生を生きるエセルとアーネストの物語が感動的なのはなぜだろう。作者ブリッグズは新しい時代の洗礼を受け、両親の反対を押し切ってアートスクールに進む。親の世代とは違う生き方だが、結局作者の心に深く残るのは両親の善良さだ。その思いが強く作品に表れている。(N.Yamashita)

監督:ロジャー・メインウッド 声の出演:ブレンダン・ブレッシン/ジム・ブロードベント/ルーク・トレッダウェイ/ヴァージニア・マッケンナ 2016年英国=ルクセンブルク(94分) 配給:チャイルド・フィルム/ムヴィオラ 原題:ETHEL & ERNEST 公式サイト:https://child-film.com/ethelandernest/
©Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A., The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016



『ホテル・ムンバイ』  2019年9月27日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか

■2008年にインド最大の都市ムンバイの10か所で起きた同時多発テロ。その1か所、実在の5つ星ホテル、タージマハル・ホテルにフォーカスして群像劇で描いたパニック映画。
■誇り高い5つ星ホテルの給仕として働くアルジュンだが、この日は出勤に遅れあやうく仕事を外されそうになる。ホテルにはさまざまなVIP客が宿泊していて、そのひと組の若夫婦は幼子をベビーシッターに預けて食事に向かう。一方、海辺の漁村に小舟に乗った男たちが武装して上陸し方々に散ってゆく。若者を中心にしたイスラム過激派のメンバーだった。やがてムンバイの各所で爆発が起こりホテルでも無差別の乱射がはじまる。

■ONEPOINT Review■
アルジュン役のパテルと言えば出世作『スラムドッグ$ミリオネア』が印象に残るが、ダンスシーンを撮ったのがその数か月後に襲撃されたムンバイの駅だったという。そういう思いもこもった作品となったが、あくまでも方向性はエンターテインメント。旧名ボンベイが極右政権によってムンバイとなった経緯、5つ星ホテルでの歴然とした格差社会などなど、観る側としてはスリリングな展開を楽しむ一方で複雑な心境となる作品ではありました。(N.Yamashita)

監督:アンソニー・マラス 出演:デヴ・パテル/アーミー・ハマー/ナザニン・ボニアディ/ティルダ・コブハム・ハーヴェイ/アヌパム・カー/ジェイソン・アイザックス 2018年オーストラリア=アメリカ=インド(123分) 配給:ギャガ 原題:HOTEL MUMBAI 公式サイト:https://gaga.ne.jp/hotelmumbai/©2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC


『レディ・マエストロ』  2019年9月20日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■女性指揮者の草分け、オランダ出身のアントニオ・ブリスコを描いた実話物語。以前から彼女のことを映画化したいと望んでいた同郷の女性監督マリア・ペーテルスが脚本も書いて映画化した。
■1926年のニューヨーク。コンサートホールの案内係ウィリーは、あろうことか尊敬する指揮者のコンサートで通路の最前列に陣取って鑑賞し、つまみ出されてしまう。出生の秘密を抱え、養父母とともにオランダから移住してきた彼女の夢は指揮者になること。しかし女性指揮者の前例はほとんどなく、夢を口にするだけで失笑される時代。行く手にはさまざまな困難が待ち受けていた。

■ONEPOINT Review■
100年近く前のこの時代だけでなく、いまも数少ない女性指揮者。その先駆者のブリスコは里子に出され養父母に育てられた若き日だけではなく、映画には出てこないが有名なシュヴァイツァー博士の助手としてアフリカに渡るなど波乱に満ちた人生を歩んだ。そして何より男性オンリーの指揮者の世界に果敢に突き進んでゆく無鉄砲さと勇気。ここではホロっとさせるラブストーリーも交えながら、エンターテインメントで描いてゆく。(N.Yamashita)

監督:マリア・ペーテルス 出演:クリスタン・デ・ブラ―ン/ベンジャミン・ウェインライト/スコット・ターナー・スコフィールド 2018年オランダ(139分)配給:アルバトロス・フィルム 英題:THE CONDUCTOR 公式サイト:http://ladymaestro.com/  ©Shooting Star Filmcompany - 2018



『プライベート・ウォー』  2019年9月13日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■戦場の前線に立ち、現実を伝えつづけた隻眼の戦争ジャーナリスト、マリー・コルヴィンを描いた実話物語。ドキュメンタリー作家として評価の高いハイネマン監督が初めて劇映画に挑戦した。
■地元アメリカの名門イエール大を卒業後UPI通信に入社。やがて英国のサンデー・タイムズに移ったコルヴィンは、世界中の至るところで絶えない戦火に自ら飛び込み、自分の目で見た真実を伝えてゆく。だが2001年、スリランカの内戦を取材中に左目を失明。黒い眼帯がトレードマークとなり注目を集めるも心の傷は癒えず、アルコールに頼るようになる。それでも内なる記者魂が消えることはなく、2012年危険きわまりない内戦中のシリアに入ってゆく。

■ONEPOINT Review■
エヴァ・ユッソン監督『バハールの涙』でエマニュエル・ベルコが演じた隻眼の女性記者は物語をつなぐ役目も負っていた。だが本作では彼女の人生に踏み込みその人と成りを描いてゆく。演じるのはこのところ強い女役の多いロザムンド・パイクで、実物の写真と比べると華やかさも含めかなり似ている。相棒だった実存のカメラマン、ポール・コンロイによると、コルヴィンという女性は謙虚で戦場の自慢話をするようなひとではなかったという。(N.Yamashita)

監督:マシュー・ハイネマン 出演:ロザムンド・パイク/ジェイミー・ドーナン/ショーン・ライアン/スタンリー・トゥッチ 2018年イギリス=アメリカ(110分) 配給:ポニーキャニオン 原題:PRIVATE WAR  公式サイト:http://privatewar.jp/  ©2018 APW Film,LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


『今さら言えない小さな秘密』  2019年9月14日(土)からシネスイッチ銀座ほか

■自転車屋を営む主人公が抱える小さいけれど重大な秘密。その秘密をずっと抱えて生きてきた彼の悩ましい人生を、のどかにノスタルジックに描いたフレンチ・コメディ。ジャン=ジャック・サンぺの人気絵本を実写映画化。
■村でいちばんの自転車屋を営むラウル・タビュランはそのプロフェッショナルとして一目置かれている。幼いころ自転車に乗ったまま宙を舞ったことも伝説化されていて、村では自転車のことをタビュランというほど。ところが当のラウルはある秘密を抱えて生きてきた。じつは自転車に乗れないのだ。何度も告白しようと努めてきたがそのタイミングで父親が雷に打たれたり、恋を失ったりでトラウマとなっている。もちろん妻にも内緒。ある日、街からやってきた写真家のエルヴェが村人の写真を撮り始め、親しくなったラウルにも自転車に乗っているところを撮りたいと申し出る。

■ONEPOINT Review■
自転車のロードレース、ツールドフランスが国民的行事の国という事情が物語の背景にある。しかもラウルの村はその通過地点で選手は無条件で女性にもてる。自転車に乗れない男などありえないのだ。なんでもないような小さな悩みはじつはお国柄、土地柄の悩みでもあった。人気コメディ俳優ポールヴ―ルドとベールが共演。(N.Yamashita)

監督:ピエール・ゴドー 出演:ヴノワ・ポールヴ―ルド/エドゥアール・ベール/スザンヌ・クレマン 2018年フランス(90分)  配給:セテラ・インターナショナル 原題:RAOUL TABURIN 公式サイト:http://www.cetera.co.jp/imasaraienai/  ©Pan-Européenne - Photo : Kris Dewitte



『荒野の誓い』  2019年9月6日(金)から新宿バルト9ほか

■インディアンの征服と未開地の開拓を終えて「フロンティア消滅」の時代に入った100余年前のアメリカ合衆国。先住民を移送する任務を命じられた軍人と、そこに途中合流することになったひとりの女性、そして移送される先住民一家。さまざまな思いが交差するなか、冷酷非道なコマンチ族が一行の行く手をはばむ。
■1892年のニューメキシコ州。インディアンとの戦いの英雄で彼らを収容する刑務所の看守を務めるジョーは、あろうことか先住民の長とその家族を居留地のモンタナ州まで送り届けよという屈辱的な命令を受ける。絶対的命令に背くことはできず旅を続ける途中、コマンチに家族を皆殺しされた女性ロザリーを拾う。コマンチは移送中のシャイアン族も恐れる野蛮な部族として知られ一行もその標的となる。ジョーらは不本意ながらも結束の方向に向かってゆく。

■ONEPOINT Review■
「アメリカ先住民に対してのひどい扱いはいまではみんなが知っているけれど、同じようなことを有色人種やLGBTのひとたちに対してやっている」とクーパー監督。裏返せば100年前もいまも同じ問題を抱えているということになるが、西部劇=時代劇は今日的な問題をもストレートに語らせる有効な手段だ。そして制作の陰には先住民に関する綿密な調査研究があって誠実な映画づくりを支えている。また過酷な状況のなか保たれるジョー(ベイル)とロザリー(パイク)の微妙な関係。新しい時代の到来をも予感させるそんなエンディングを迎える。(N.Yamashita)

監督:スコット・クーパー 出演:クリスチャン・ベール/ロザムンド・パイク/ウェス・ステューディ/ベン・フォスター 2017年アメリカ(135分) 配給:クロックワークス/東北新社/STAR CHANNEL MOVIES 公式サイト:http://kouyanochikai.com/   ©2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.


『フリーソロ』(ドキュメンタリー)  2019年9月6日(金)から新宿ピカデリーほか

■命綱を一切つけず素手だけで行う命知らずなクライミング「フリーソロ」。1000メートル級の岩山に挑戦することは、“成功か死”のいずれかを意味する。第一人者アレックスはだれも成功したことのない絶壁への挑戦を決意。山岳映画『MERU/メルー』で知られた夫婦監督が密着しその姿をとらえてゆく。オスカーの長編ドキュメンタリー賞受賞。
■この道のスーパースター、アレックスの夢は地元カリフォルニア州ヨセミテ国立公園にそびえる975メートルの巨岩エル・キャピタンを征服すること。難所が多く素手での成功者はいない。ベテランのクライマーとまずロープを使って登ってみるが足を痛めその過酷さを実感する。綿密な準備と訓練を重ね機をうかがううちに1年が過ぎてゆく。

■ONEPOINT Review■
撮影隊にとっても命がけの仕事。全員が熟練のクライマーだという。また彼らには死の瞬間をとらえるのではという葛藤もあった。それにしてもカメラの前でのクライミングはいっそうのプレッシャーではないのか。ところがアレックスは、躊躇する自分の背中を押してくれたのがこの映画だったと言う。「一度もトライせずに人生を終えることこそ最大の恐怖」と。他者との関係でいうと彼のストイックさとは対照的なあっけらかんとした恋人の存在がちょっと笑える。(N.Yamashita)

監督:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ/ジミー・チン 出演:アレックス・オノルド/トミー・コールドウェル/ジミー・チン/サンニ・マッカンドレス/チェーン・ランぺ 2018年アメリカ(100分) 配給:アルバトロス・フィルム 原題:FREE SOLO  公式サイト:http://freesolo-jp.com/ 
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『ガーンジー島の読書会の秘密』  2019年8月30日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■イギリス王室保護領でありながら第2次大戦中に防衛を放棄され、ナチスドイツの占領地となったガーンジー島。そこで戦時中に生まれた読書会にまつわる秘密を、ウィットとラブストーリーをからめて描いた人間ドラマ。
■戦後間もない1946年のロンドン。作家のジュリエットはガーンジー島のドーシーという男性から一通の手紙を受けとる。ナチスから解放されたもののいまだ本屋が復活していないので、ロンドンの書店の住所を教えてほしい。所属する「読書とポテトピールパイの会」はドイツ軍から豚肉を隠すために誕生しました、と書かれていた。処分した古本にあった彼女の住所宛に送られてきたもので、さっそく返事を書くとさらに返信がきてそこには興味津々の内容が…。記事にしたいと思い立ったジュリエットはドーシーの返事も待たずに島を訪れる。

■ONEPOINT Review■
英海峡に浮かぶ小さな島ガーンジー島は、戦略的観点から英国に見放され結果ナチスドイツに占領される。そんな歴史的悲劇を背景にした、ひと組の男女の秘話。監督は英国的ユーモアを交えながら、主役のリリー・ジェームスの現代性も生かしつつ快活に描いてゆく。だが原作がふたりの米国人女性作家というのは意外だった。(N.Yamashita)

監督:マイク・ニューウェル 出演:リリー・ジェームズ/ミキ―ル・ハースマン/グレン・パウエル/ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ/キャサリン・パーキンソン/マシュー・グード/トム・コートネイ/ペネロープ・ウィルトン 2018年仏国=英国(124分) 配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:THE GUERNSEY LITERARY AND POTATO PEEL PIE SOCIETY 公式サイト:http://dokushokai-movie.com/   ©2018 STUDIOCANAL SAS



『トールキン 旅のはじまり』  2019年8月30日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか

■世界中で読まれてきた壮大なファンタジー「指輪物語」の作者、英国の作家J・R・R・トールキン。創作に至る知られざる半生を『トム・オブ・フィンランド』のドメ・カルコスキ監督で映画化。
■父を亡くし母と弟とともに田舎で暮らすことになるトールキン。生活は貧しくとも美しい自然に囲まれ教養のある母から教育を受け、精神的に豊かな幼少期を過ごす。だが母の死でそんな生活も終わりをとげ、篤志家夫人の家に下宿し、名門キング・エドワード校に通うことに。そこで3人の悪友と出会い議論を交わしながら友情を築いてゆく。

■ONEPOINT Review■
トールキンの人生にはいくつかの大きな影が差している。ひとつは銀行家だった父の死とそれにともなう経済的困窮。ふたつめは彼の素養のもととなるさまざまな教育を授けてくれた母の早世。そして第一次大戦での過酷な戦いと友人らの死。一方そのあいだには名門男子校で結ばれた深い友情とのちに結婚する女性エディスとの出会いがあり、人生における明暗がトールキンという人物を形成してゆく。(N.Yamashita)

監督:ドメ・カルコスキ 出演:ニコラス・ホルト/リリー・コリンズ/コルム・ミーニイ/アンソニー・ボイル/パトリック・ギブソン/トム・グリーン=カーニー/デレク・ジャコビ 2019年アメリカ(112分) 配給:20世紀フォックス 原題:TOLKIEN 
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/tolkienmovie/  ©2019 Twentieth Century Fox



『ジョアン・ジルベルトを探して』(ドキュメンタリー)  2019年8月24日(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか

■記念すべきボサノヴァ第1号と言われる「想いあふれて」をアントニオ・カルロス・ジョビンらとつくり、創唱したブラジルのジョアン・ジルベルト。隠遁生活を送る伝説のミュージシャンを追った異色のドキュメンタリーだ。
■テナーサックスのスタン・ゲッツと組んだ「イパネマの娘」が世界中で大ヒットしたことでも知られるが、しばしば身を隠しその存在はベールに包まれている。ブラジル音楽関連のドキュメンタリーを3本制作したガショ監督は、ある日、1冊の本を手にしたことから、まるで幻のように手が届きそうで届かない伝説の男の所在を探し始める。

■ONEPOINT Review■
ガショ監督が手にしたのはマーク・フィッシャーというドイツ人ジャーナリストが著したジョアン・ジルベルトを追う本だった。しかし作者がジルベルトに会うことは叶わず、本が出版される1週間前に自ら命を絶った。監督はその思いを引き継ぐ形で、まずフィッシャーが歩いた足跡をなぞってゆく。その過程で出会うのがフィッシャーのアシスタント女性や、ジルベルトの2度目の妻で歌手のミウシャたち。そのミウシャは昨年2018年12月に病気で他界し、なんとジョアン・ジルベルト本人も本作完成後、本邦公開間近の2019年7月6日に亡くなって驚かせた。(N.Yamashita)

監督/出演:ジョルジュ・ガショ 出演:ハケル/ミウシャ/ガリンシャ/ジョアン・ドナート/アンセルモ・ホシャ/ホベルト・メネスカル/オタヴィオ・テルセイロ/マルコス・ヴァ―リ 2018年スイス=ドイツ=フランス 配給:ミモザフィルムズ 原題:WHERE ARE YOU, JOAO GILBERT? 
公式サイト:http://joao-movie.com/ 



『ドッグマン』  2019年8月23日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■画に描いたように温厚だが気が弱く、凶暴な友人の支配から逃れられないひとりの男が、最終的にひき起こす過激な結末。実際にイタリアであった事件からインスピレーションを得てつくられたバイオレントで不条理な人間ドラマ。
■地元で犬のトリミングサロンを営み穏やかに暮らすマルチェロ。バツイチながら愛娘にも会え、地元の仲間ともサッカーに興じるなど良好な関係を築いているが、大きなネックとなっているのがシモーネという友人の存在。警察も手を焼くならず者でキレると手がつけられない彼は、マルチェロを悪に巻き込みその支配はだんだんエスカレートしてゆく。あるときシモーネの罪をかぶって刑務所入りし1年後に戻ってくると、仲間たちは彼を完全無視する。

■ONEPOINT Review■
この主人公の心のなかを読むのはなかなか難しい。もしシモーネがいなければあるいは地元警察がもっとしっかり仕事をしていたなら、彼の人生は大きく変わっていたのだろうか。イタリアのうらぶれた町でこの映画に似たような出来事が実際に起きたという事実。マルチェロはシモーネに復讐するのか。映画はリアルな暴力シーンから転じてまるで幻を見るように締めくくられる。(N.Yamashita)

監督:マッテオ・ガローネ 出演:マルチェロ・フォンテ/エドアルド・ぺッシェ/ヌンツィア・スキャーノ 2018年フランス=イタリア(103分) 
配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:DOGMAN公式サイト:http://dogman-movie.jp/  ©2018 Archimede srl - Le Pacte sas  



『アートのお値段』(ドキュメンタリー) 2019年8月17日(土)から渋谷・ユーロスペースほか

■アートの価格、とりわけ現代アートの価格が高騰している。しかし億単位で取引される美術品がある一方、相変わらず不遇の画家も多く、十分な収入が得られるものはほんのひと握り。父と母が著名な建築家だったナサニエル・カーン監督は、「芸術と金」の関係を探ろうとさまざまな角度から取材してゆく。
■評価と金銭両面で大成功を収めるアーティストと言えば、俗悪すれすれの作品で物議をかもす現代アートのジェフ・クーンズがいる。100人を超えるアシスタントを使って大作を創作中のクーンズを直撃。かと思えば60年代から地道に独自の作風を追求するラリー・プーンズ。人里離れたアトリエでパートナーと創作する「孤高の画家」を訪ねる。作家だけでなくオークション運営、評論家、コレクター、ギャラリー経営、キュレーターと美術界の多彩な人物が登場。

■ONEPOINT Review■
「アートと金」というテーマをもって撮影に入ったカーン監督だが、さまざまな関係者に会ううちに有機的な広がりを見せていったという。実際、いろんな作品に出合う楽しみをこの映画は教えてくれる。あるいは相変わらず精力的な創作を続けるクーンズのすごさなども、あらためて見せてくれる。カーン監督は言う、大事なのは目を見開き、思うがままにアートを見ることだと。(N.Yamashita)

監督:ナサニエル・カーン 出演:ラリー・プーンズ/ジェフ・クーンズ/マリリン・ミンター/エイミー・カペラッツォ/メアリー・ブーン/ステファン・エドリス 2018年アメリカ(98分) 配給:ユーロスペース 原題:THE PRICE OF EVERYTHING  公式サイト:http://artonedan.com/  



『永遠に僕のもの』 2019年8月16日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■地元アルゼンチンではだれもが知るという〝美貌の〟連続殺人犯をモデルにした犯罪映画。スペインの大御所ペドロ・アルモドヴァル監督がプロデュースしており、ナゾの多い主人公にアプローチした心理ドラマにもなっている。
■ブロンドの巻き毛に甘いルックス。犯罪者の一般的なイメージからはほど遠いカルリートス。まだあどけなささえ残るというのにその悪さは度を越しており、しかも悪事がばれても悪びれる様子もない。以前から薄々感じていながら放置状態の両親は転校させるという手段でその場を収めるが、カルリートスは転校先でおなじ悪の匂いのするラモンを見つけ急接近。足を洗っている彼の父親を巻き込み、銃を使った重犯罪へとエスカレートさせてゆく。

■ONEPOINT Review■
拳銃をまるでおもちゃのピストルのようにあつかい、10人以上のひとたちをつぎつぎ殺していった映画の主人公は実在の人物だ。オルテガ監督は、彼が精神を病んだいわゆるサイコパスではないという見地からこの物語を描いた。彼の犯罪はあっけらかんとしてシンプルそのものだが、だからこそその心はいっそう複雑に見えてくる。(N.Yamashita)

監督:ルイス・オルテガ 出演:ロレンソ・フェロ/チノ・ダリン/ダニエル・ファネゴ/セシリア・ロス
2018年アルゼンチン=スペイン(115分) 配給:ギャガ 原題:EL ANGEL(THE ANGEL)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono/  ©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO



『カーマイン・ストリート・ギター』(ドキュメンタリー) 2019年8月10日(土)から新宿シネマカリテほか

■ビート詩人の拠点として、またジャズやモダンフォークの発信地として1950~60年代に一世を風靡したニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジ。そこに静かにたたずむ伝説のギター店を掘り起こしたドキュメンタリー。
■ヴィレッジに70年代後半に出した店を、店主のリック・ケリーが現在のカーマイン・ストリートに移したのは90年のこと。ある日、映画監督のジム・ジャームッシュがやって来て、自宅から出た木材を使ったギターを注文。それをヒントにケリーはNYの歴史的建造物をはじめ、取り壊しなどで出た廃材でギターづくりをはじめる。こうして「カーマイン・ストリート・ギター」は特別なギター店としていっそうミュージシャンのあいだで知られるようになる 。奥のほうで簡単な経理と留守番をするのはケリーの母ドロシー。そして弟子のシンディも細かな細工のギターを創作する。

■ONEPOINT Review■
有名無名のミュージシャンが自分だけのオリジナルの、しかも音のいいギターを求めてリックの店にやってくる。すっかり歳をとったが相変わらずかっこいいイケメン・ギタリストのチャーリー・セクストンや、パティ・スミス・バンドのレニー・ケイ。独特の音色のギターを弾くビル・フリーゼルは若き日にアストロノウツをコピーしたことを明かし、ビーチボーイズの「サーファーガール」を披露する。音楽好き、ギター好き垂涎の一作。(N.Yamashita)

監督:ロン・マン 出演:リック・ケリー/シンディ・ヒュレッジ/ドロシー・ケリー 2018カナダ(80分)配給:ビターズ・エンド 
原題:CARMINE STREET GUITERS  公式サイト:http://bitters.co.jp/carminestreetguitars/   ©MMXVIII Sphinx Productions.



『ピータールー マンチェスターの悲劇』 2019年8月9日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■いまからちょうど200年前の1819年にイギリス北部のマンチェスターで起きた民衆弾圧事件。あまり知られていないその真実を、英国の重鎮マイク・リー監督がみずから脚本を書いて映画化した。
■1815年のウォータールーの戦いでフランス軍に勝利し平和が訪れたはずの英国。だが庶民の生活は困窮の一途をたどり不満がくすぶる。貧富の差の根源にあるのは労働者たちに選挙権がないこと。改革派のひとたちはそれをあくまでも平和裡に訴えようと、ピクニックのように穏やかなデモ行進と集会を計画する。ところが民衆の不満が爆発することを一方的に恐れた政府や雇い主ら特権階級は、それぞれに軍を配備し会場の聖ピーターズ広場に乱入する。

■ONEPOINT Review■
マンチェスターで育ちながら事件のことをよく知らなかったというリー監督は、映画化するにあたり丁寧にリサーチを重ねた。その結果、隅々までリアルが追及された作品になったが、面白いのはリアルでありながら映像の一つひとつがまるで絵画みたいに美しいところ。それは画家を描いた前作『ターナー、光に愛を求めて』以上と言っていいくらい絵画的だ。(N.Yamashita)

監督:マイク・リー 出演:ロリー・キニア/マキシン・ピーク/デヴィッド・ムーアスト/ピアース・クイグリー
2018年イギリス(155分) 配給:ギャガ 原題:PETERLOO 公式サイト:https://gaga.ne.jp/peterloo/
©Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.



『風をつかまえた少年』 2019年8月2日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■農業を唯一の生活手段にしながら洪水と干ばつを繰り返し、電気や灌漑(かんがい)施設もなく天からの雨の恵みに頼って生きるアフリカの最貧国マラウイ。その地でガラクタを組み合わせ、自力で風力発電をつくり上げたひとりの少年の実話物語。『それでも夜は明ける』のアフリカ系俳優イジョフォーがベストセラー本を初監督した。
■木が次々と伐採され洪水被害が心配されるなか、断固として木を売らないトライウェル。善良だが頑固、なにをやってもうまくいかず5人家族は貧困にあえいでいた。息子ウィリアムは中等学校に通わせてもらうが学費が続かず退学。だが機械いじりが好きな彼は廃品をつかった風力発電を思いつく。干ばつが解消され食料を確保できるはず。

■ONEPOINT Review■
イジョフォー監督は原作者のウィリアムが実際に住んでいたマラウイをロケ地に選び、そこで実際に使われているチェワ語を交えながら撮影を行った。食糧難にあえぐ人々と政府の無策、廃品を使った小さな発明、そうした日常の背景にあるアフリカの美しい大地…。サクセスストーリーに至るさまざまな事柄をしっかり描いてゆく。ただ自ら父親役を演じたイジョフォーがあまりにもインテリっぽく、「ダメ父さん」に見えないのが少々ご愛敬。(N.Yamashita)

監督/出演:キウェテル・イジョフォー 出演:マックスウェル・シンバ/リリー・バンダ/アイサ・マイガ
2018年イギリス=マラウイ(113分) 配給:ロングライド 原題:THE BOY WHO HARNESSED THE WIND 公式サイト:https://longride.jp/kaze/ 
©2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION/THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC



『あなたの名前を呼べたなら』 2019年8月2日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■越えられない階級制度の壁が厳然と存在するインド社会を舞台に、ひとつ屋根の下に暮らす金持ちの御曹司と住み込みのメイド。ふたりが心を通わせてゆく様子を繊細なタッチで描いたラブストーリー。あえて「ありえない」設定で脚本を書き問題提起しているのは、米国の大学で学びキャリアを積んできたインド生まれの女性監督。
■わずか4か月で未亡人になり都会の裕福な家で住込みのメイドとして働くラトナ。家主の結婚式のあいだ里帰りするが急遽呼び戻される。相手女性の浮気がばれて破談になったからだ。瀟洒なマンションに戻ると疲れきった雇い主アシュヴィンが帰ってくる。彼は実家に呼び戻されるまで米国で暮らしていた現代的な好青年だが、ここインドで召使が雇い主を名前で呼ぶことはない。彼をご主人様と呼ぶラトナ。だがふたりのあいだの空気感が少しずつ変わってゆく。

■ONEPOINT Review■
監督自身「ありえない」設定と認めるほどインドの階級制度は強固で揺らぎないものらしい。だがそれでもなおこのシチュエーションを選んだのは、悪しき制度を揺さぶる数少ない手段だから。旧態依然な作品群の対極にあるインド映画のニューウェーブと言っていいだろう。階級制度に物申す同じくニューウェーブの匂いのする女性監督作品『ガリーボーイ』が10月18日に公開されるので、あわせて注目!(N.Yamashita)

監督:ロヘナ・ゲラ 出演:ティロタマ・ショーム/ヴィヴェーク・ゴーンバル 2018年インド=フランス(99分) 配給:アルバトロス・フィルム 
原題:SIR 公式サイト:http://anatanonamae-movie.com/    ©2017 Inkpot Films Private Limited, India © Inkpot Films



『トム・オブ・フィンランド』 2019年8月2日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■同性愛がいまよりも数段タブーだった時代。そのありさまを赤裸々に表現し、アウトサイダーの画家として知られたひとりの男。いまではフィンランドが誇るサブカルチャーの代表的アーティストとして語られる彼の半生を、『トールキン 旅のはじまり』も間もなく公開される同国の注目株カルコスキ監督が描いている。
■第二次大戦後のフィンランド。同性愛が法律で厳しく取り締まられるなか、帰還兵のトウコは公園で刹那の相手を求め、またその様子を密かに描いてははけ口としていた。広告業界で働くようになった彼は絵の腕前を上げ、プライベートで描いてきた作品が同性愛コミュニティで評判となる。さらに米国の雑誌に送った作品が転機となり、「トム・オブ・フィンランド」の名で成功を収めるも、やがてAIDS蔓延という冬の時代がやってくる。

■ONEPOINT Review■
筋肉ムキムキのマッチョマンやレザーパンツとジャケットにはち切れそうな肉体を包んだ男たち。トムが描く男たちはどれもカリカチュアライズされていて特徴的だ。1920年生まれだからその表現がいかに先鋭的だったか。後年はAIDSの時代に見舞われるが、その困難に果敢に立ち向かう姿も終盤描かれる。(N.Yamashita)

監督:ドメ・カルコスキ 出演:ペッカ・ストラング/ジェシカ・グラボウスキ―/ラウリ・ティルカネン
2017年フィンランド=スウェーデン=デンマーク=ドイツ(116分) 配給:マジックアワー
原題:TOM OF FINLAND 公式サイト:http://www.magichour.co.jp/tomoffinland/ ©Helsinki-filmi Oy, 2017



『隣の影』 2019年7月27日(土)から渋谷・ユーロスペースほか

■1本の古木がもとで険悪になってゆく隣人同士。閑静な郊外の住宅街を舞台に、大騒動にまで発展してゆく隣人トラブルをブラックなユーモアで描いた北欧サスペンス。
■老夫婦インガとバルドウィンの家の庭には古木が立派な枝を張るが、隣家の主の新しいパートナーはその影が気に入らない。日光浴の妨げになるのだ。クレームがつけられ夫バルドウィンは仕方なく手入れしようとするも、妻のインガは断固許さない。おたがい神経質になり愛犬のこと愛猫のこと、すべての悪い出来事が隣のせいに思えてくる。

■ONEPOINT Review■
もともとそこに住んでいた古参の老夫婦に、隣家の新参パートナーがクレームをつけたことが大ごとのもとか。ふだんから仲良く付きあっていれば回避できたトラブルだったかも。だがそうはならずマイナスのスパイラルは止まらない。最後はここまでやるかというとんでもない域に達し、恐ろしくもちょっと笑えるエンディング。(N.Yamashita)

監督:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン 出演:ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン/エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル/シグルズ―ル・シーグルヨンソン 2017年アイスランド=デンマーク=ポーランド=ドイツ(89分) 配給:ブロードウェイ 原題:UNDIR TRENU(UNDER THE TREE)
公式サイト:https://rinjin-movie.net-broadway.com/  2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants



『よこがお』 2019年7月26日(金)から角川シネマ有楽町ほか

■ごくふつうの善良な看護師が、ふとしたことから転落しすべてを失ってゆくサスペンスタッチの人間ドラマ。筒井真理子が『淵に立つ』(16年)につづき深田作品に出演。事件前と事件後とでは落差の激しい主役を演じている。
■優しくて誠実でだれからも慕われている訪問看護師の市子。中年子持ちながら医師の婚約者もいて平凡だが幸せな後半生を送ろうとしていたが、ある日懇意にしている訪問先の娘が誘拐され思わぬところから信頼が揺らいでゆく。

■ONEPOINT Review■
髪の毛をきちっとひとつにまとめ、糊のきいた清潔な看護師のユニフォームを着た市子と、がらんとしたうらぶれた部屋でひとりなにかを企むリサ。まるで別人のようだがじつは同一人物。事件前と事件後の白川市子の姿だ。深田監督は転落のきっかけとなった誘拐事件、彼女を慕う女性(市川実日子)の愛憎と嫉妬、さらにはマスコミの思い込みと暴走などを多角的に提示し時間軸を解体しながら、ひとりの女性が負の連鎖にはまってゆく恐ろしさをスリリングに描いている。
(N.Yamashita)

監督:深田晃司 出演:筒井真理子/市川実日子/池松壮亮/吹越満 2019年日本(111分) 配給:KADOKAWA
公式サイト:https://yokogao-movie.jp/  ©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS



『五億円のじんせい』 2019年7月20日(土)から渋谷・ユーロスペースほか

■高額な費用の心臓手術を、幼いころに善意の募金で受けて生き延びた青年。しかし周囲の暖かな目や期待が重圧となり押しつぶされそうな苦悶の日々。そんなひとりの若者の気持ちをユーモアも交えて描いた青春ストーリー。
■17歳の高月望来(みらい)がいまこうして元気に生きていられるのは6歳のときに受けた心臓手術のおかげ。その費用じつに5億円。一般市民が一生かけても払えない金額だが、すべてまわりの人々の寄付で賄われ返済する必要はない。だが果たして自分に5億円の価値があるのか。重圧から解放されたいと願う望来はある日、SNSの匿名アカウントで自殺を宣言する。すると「5億円稼いで借金を返してから死ね」というメッセージが届く。

■ONEPOINT Review■
新たな才能を発掘する「NEW CINEMA PROJECT」で第1回グランプリに選ばれたムン・ソンホ監督と蛭田直美脚本による企画の映画化。蛭田直美の脚本もまったくのオリジナルで、手術で生き延びたものの生きる意味を見出せない主人公が、そこから逃れようと自殺を宣言したとたんにほんとうの人生が動き出してゆく。脚本の骨格がしっかりしているので安心して物語にのめり込んでゆける。そんな楽しさがこの作品にはある。(N.Yamashita)

監督:文晟豪(ムン・ソンホ) 出演: 望月歩/山田杏奈/森岡龍 2019年日本(112分) 配給:NEW CINEMA PROJECT 
公式サイト:https://gyao.yahoo.co.jp/special/5oku/    ©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT



『ハッパGoGo 大統領極秘指令』 2019年7月13日(土)から新宿K's cinemaほか

■世界ではじめてマリファナを合法化した国、南米ウルグアイ。ところが「正規」の栽培が間に合わず海外にルートを求め、調達人を一般市民のなかからリクルート。その極秘指令の顛末を、当時のホセ・ムヒカ大統領も動員して描いたシニカルな実話コメディ。ちなみにムヒカ大統領は「世界一貧しい大統領」として話題になったあの人物だ。
■マリファナの販売が合法化され、薬局を営むアルフレッドはさっそくケーキに練り込み売り出すとこれが大成功。だが密売者から仕入れたことがばれて逮捕される。一方、法案成立後も供給されず不満を募らせる人々。大統領は国外に供給ルートを求め、獄中のアルフレッドにその任務を託す。彼と母親マルタのマリファナ調達の珍道中がはじまる。

■ONEPOINT Review■
マリファナ1本で社会的立場を奪われかねない日本から見るとびっくり仰天のお話。法案の狙いは「麻薬密輸業者と戦うための大いなる実験」だった。マリファナが一般市民に浸透している現実があり、そこに高額で売り付けて荒稼ぎする密輸組織がある。そんな闇のルートを断つための法案。大真面目な法律なのだが、どうしてもコミカルになるのはつくり手の意図だけでなく、当事者たちにとってもやはりどこかおかしみのある話なのだろうか。(N.Yamashita)

監督/出演:デ二―・ブレックナー 出演:タルマ・フリードレル/グスタボ・オルモス/イグナシオ・ロケ 2017年ウルグアイ=米国(75分) 
配給:Action Inc./Smoke 原題:MISION NO OFICIAL(GET THE WEED)公式サイト:https://www.8855movie.com/  ©Loro films 



『さらば愛しきアウトロー』 2019年7月12日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■かつてのイケメン俳優の代名詞、ロバート・レッドフォードが80歳を超えてついに俳優引退を宣言。引退作に選ばれたのは80歳まで脱獄を繰り返したという伝説の銀行強盗の実話物語。若手注目株ロウリー監督がメガホンをとり、同監督とコンビが多いC・アフレックが重要な役どころで登場。また性格俳優シシー・スぺイセクとの共演も見どころだ。
■紳士然とした男が銀行に入りまもなく出てくる。平然としているが強盗を終えたばかりで、追われているさなかにエンストで立ち往生している中年女性を手助けし、警察の目をくらませる。彼の名はフォレスト・タッカー。世に知れた銀行強盗で脱獄犯としても鳴らしていた。そんな男に興味を抱いた刑事ジョンが彼の捜査をまかされるが、やがて犯罪がエスカレートしFBIが乗り出したために任務から外されてしまう。ある日、ジョンのもとに一通の手紙が届く。

■ONEPOINT Review■
美貌でもてはやされたひとが老いた姿をカメラにさらすというのはどんな胸中なのか。ただレッドフォードの場合は監督としても成功し、またサンダンス映画祭を主宰し育てたことが後年の俳優の立場に勇気を与えていたように見える。最終作でロウリー監督は16ミリカメラ×スーパー16ミリフィルムを使い70年代テイストを出した。ここにバカラックの「雨にぬれても」的なキャッチ―な曲が入ればもっと面白いことになっていたのかもしれない。(N.Yamashita)

監督:デヴィッド・ロウリー 出演:ロバート・レッドフォード/ケイシー・アフレック/ダニー・グローヴァ―/トム・ウェイツ/シシー・スぺイセク 
2018年アメリカ(93分) 配給:ロングライド 原題:THE OLD MAN & THE GUN  公式サイト:https://longride.jp/saraba/  



『田園の守り人たち』 2019年7月6日(土)から神保町・岩波ホールほか

■およそ100年前、男手が戦争に駆り出された第一次大戦中のフランスの田園地帯で、だいじな刈入れを総出で乗り切ってゆく女性たち。その様子をさまざまな人間模様を交えながら描いたヒューマンドラマ 。ナタリー・バイ×ローラ・スメットの母子共演、新星イリス・ブリ―らで見せる女性映画。
■第一次大戦下のフランス。息子ふたりを戦場に送り出している未亡人オルタンスは、近くに嫁いでいる娘ソランジュらと収穫を乗り切らなくてはならない。村にはほぼ女性しか残っておらず、ある日、孤児院出身の若い娘フランシーヌを雇うことに。まじめで働き者の彼女はみんなに受け入れられ、雇用の延長を許される。そんな彼女に休暇帰省中のオルタンスの次男ジョルジュも惹かれフランシーヌも心を許すが、ふとしたことから思わぬ事態に向かってゆく。

■ONEPOINT Review■
俳優としても知られるボ―ヴォワ監督だが、カンヌでグランプリをとった『神々と男たち』など近年は監督作で存在感を示し、ここでも銃後を守る農家の女たちを名手シャンプティエの撮影を借りながら力強く美しく描いてゆく。制作の過程で物語はどんどん動いていったようだが、なかでも街中でスカウトしたフランシーヌ役のブリーは輝きを放ち、監督にインスピレーションを、そして映画に新たな息吹を与えることになった。(N.Yamashita)

監督:グザヴィエ・ボ―ヴォワ 出演:ナタリー・バイ/ローラ・スメット/イリス・ブリ―/シリス・デクール/ジルベール・ボノー 2018年フランス=スイス(135分) 配給:アルバトロス・フィルム 原題:LES GARDIENNES   公式サイト:http://moribito-movie.com/  ©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse



『ワイルドライフ』 2019年7月5日(金)からYEBISU GARDEN CINEMAほか

■夫の解雇をきっかけに見る見る崩壊してゆく若い夫婦。その様子を息子の視点からとらえた人間ドラマ。個性派俳優ポール・ダノの監督第一作で、彼自身がパートナーのゾーイ・カザンとともにR・フォードの原作を脚本化した。
■1960年代、カナダ国境近くに越してきたジェリーとジャネット、そして息子ジョーの若い一家。ある日、夫ジェリーがゴルフ場勤務を解雇され、その後解雇は撤回されるものの意固地なジェリーは復職せず家でぶらぶらする毎日。見かねた妻のジャネットが働きだしジョーもアルバイトを始めるが、気に入らないジェリーは山火事消火の半ボランティアに志願して家を出て行ってしまう。見捨てられたと思い込んだジャネットは自暴自棄になってゆく。

■ONEPOINT Review■
まるでデビュー時のポール・ダノの分身のようなオクセンボールド少年演じるジョーは、自分勝手極まりない両親の様子を淡々と見つめ、不平不満ひとつもらすことはない。それはスポイルされた少年のようであり、あるいは老成して達観したおとなびた子どものようでもあるが、そのどちらでもなくなにか特別の存在のようでもある。遠くからふたりを俯瞰する「なにか」。この不思議な存在がドラマの奥行きを広げ、面白いものにしている。(N.Yamashita)

監督:ポール・ダノ 出演:キャリー・マリガン/ジェイク・ギレンホール/エド・オクセンボールド/ビル・キャンプ 2018年アメリカ(105分) 
配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:WILDLIFE  公式サイト:http://wildlife-movie.jp/   ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.



『Girl/ガール』 2019年7月5日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか

■少年から少女(ガール)になることを夢見、憧れのバレリーナを目指すひとりのトランスジェンダーの苦闘の青春物語。その美形からかテーマからか、第2のグザヴィエ・ドランと目されるルーカス・ドン監督の長編第1作。
■15歳のララが目指しているのはただのバレエダンサーではない。女性へと性転換してバレリーナになることを夢見ているのだ。父子家庭だが幸い父の理解があり現在通院中。また努力の甲斐あって国内有数のバレエ学校への編入も認められたが、股間にテープを巻いてのレッスンは明らかに周囲の女の子からは浮いた存在。つま先立ちのレッスンが遅れていて焦りが募るうえに、治療の成果もなかなか出てくれない。ある日クラスメイトから屈辱的な嫌がらせを受ける。

■ONEPOINT Review■
ひときわ目を引く美貌の主人公ララ役には、適材が見つからずに苦慮しているときに現れたララと同世代の現役ダンサー、ヴィクトール・ポルスターが選ばれた。彼もまた主人公同様、初めて履くトウシューズに苦労したという。ララがつま先立ちのレッスンのあと痛そうにしているのは、ポルスターにとっても現実そのものだったのだろう。カンヌ映画祭で新人監督に与えられるカメラドール受賞。アカデミー賞外国語映画賞ベルギー代表など。(N.Yamashita)

監督:ルーカス・ドン 出演:ヴィクトール・ポルスター/アリエ・ワルトアルテ/オリヴァー・ボダル
2018年ベルギー(105分) 配給:クロックワークス 原題:GIRL  公式サイト:http://girl-movie.com/  © Menuet 2018



『ペトラは静かに対峙する』 2019年6月29日(土)から新宿武蔵野館ほか

■不明の父を探す旅に出る女性の物語。目星をつけたのは著名な彫刻家だったが、接近し生きざまを知るにつれて不信感や困惑が彼女を襲う。カンヌで評価の高いロサレス監督が、才能あるスタッフ、キャストでつくった入魂の一作。
■画家のペトラは作品制作をするためにカタルーニャ地方にある著名彫刻家ジャウメのアトリエに滞在する。しかし真の目的は彼が自分の父親かどうかを確かめること。ともに生活をし息子のルカスや家政婦のテレサらと親交を深めてゆくなか、ジャウメが冷酷な男であることが浮き彫りになってくる。ある日テレサが自殺する。

■ONEPOINT Review■
悲劇の静脈が流れた作品、探求と贖罪についての映画だと監督は言う。過去4作と区切りをつけ、前作からは新たな映画制作が始まったとも語っているが、そのひとつが観客を意識した作品づくり。綿密な構成や深い洞察力だけではなく、観るものを引きつける映画の楽しみがここにはある。しかも多くを語らずに本題へとぐいぐい引き込んでゆく手腕はみごとだ。(N.Yamashita)

監督:ハイメ・ロサレス 出演:バルバラ・レニー/アレックス・ブレンデミュール/ジョアン・ボテイ/マリサ・バレデス 2018年スペイン=フランス=デンマーク(107分) 配給:サンリス 原題:PETRA   公式サイト:http://www.senlis.co.jp/petra/  
©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE 



『COLD WAR あの歌、2つの心』 2019年6月28日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか

■第2次大戦後も長く混乱の時代がつづいた東欧の国ポーランドを舞台に、ひと組の男女の波乱に満ちた愛の世界を描いた激動のラブストーリー。アカデミー賞外国語映画賞受賞の前作『イーダ』で大注目されたパヴリコフスキ監督が、亡き父と母をモデルに構想を練り、ふたりにささげた作品。
■1949年、3人の男女が地方の村々を訪ねあるき、民族音楽を採集している。国立の民族舞踊団を立ち上げるためで、歌唱力と踊りの才能に恵まれたタレントの発掘も同時に行い、またたく間に舞踊団は結成される。そのなかに審査員でピアニストのヴィクトルの心をとらえたズーラという少女がいた。父親殺しの問題児だと相方のイレーヌが忠告するがその存在感はずぬけていて、舞踊団でも輝きを放つ。彼女とヴィクトルは激しい恋に落ちてゆく。

■ONEPOINT Review■
民族音楽を採集する導入部はまるでドキュメンタリーのようで意表をつく。ところが物語が進むにつれてヴィクトルとズーラに的が絞られ、ふたりのあと戻りのできない関係に観客は引き込まれてゆく。10年にわたる歳月のなか、パリ、ベルリン、ユーゴスラビアと場所を移し、たがいに違う相手ともつき合うのにふたりの視線の先、こころのなかにあるのはいつもおなじふたり。破滅的だが究極の愛をパヴリコフスキは描いてみせた。(N.Yamashita)

監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 出演:ヨアンナ・クーリク/トマシュ・コット/アガタ・クレシャ/ボリス・シィツ/ジャンヌ・バリバール/セドリック・カーン 2018年ポーランド=イギリス=フランス(88分) 
配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:ZIMNA WOJNA  公式サイト:https://coldwar-movie.jp/  



『アマンダと僕』 2019年6月22日(土)からシネスイッチ銀座ほか

■父子家庭でささえ合いながら生きてきた姉と弟。ある日、姉のサンドリーヌが突然他界して、彼女の幼い娘アマンダと叔父にあたる弟ダヴィッドが取り残される。ふたりの悲しみと葛藤を繊細なタッチで描いた人間ドラマ。
■アマンダの迎えをして姉の手助けをするダヴィッド。だがきょうも時間に遅れて姉を怒らせてしまう。彼自身まだおとなになり切れていないのだ。でも三人の関係は良好でまるで小さな家族のよう。しかしある日、パリ市内で起きたテロにサンドリーヌが巻き込まれ急逝する。呆然とするダヴィッド、帰ってこない母を恋しがるアマンダ。ダヴィッドの恋人も巻き込まれ心に深い傷を負うという二重の悲しみのなか、ダヴィッドは姪の去就を考えねばならなかった。施設送りになるのかどうか、幼い少女の今後はおとなたちの決断にゆだねられていた。昨年の東京国際映画祭グランプリ。

■ONEPOINT Review■
作品成功の大きなカギを握ったアマンダ役は、体育教室の前で張っていた監督!にスカウトされた演技素人の少女イゾール。屈託ない笑顔や悲しげな表情が観たあとも思い出されるのは、監督の直感があたった証しだろう。本作が気にいったひとにはこの習作のような同監督の前作『サマーフィーリング』(7/6公開)もおすすめ。(N.Yamashita)

監督:ミカエル・アース 出演:ヴァンサン・ラコスト/イゾール・ミュルトリエ/オフェリア・コルブ/ステイシー・マーティン/グレタ・スカッキ 2018年フランス(107分) 配給:ビターズ・エンド 原題:AMANDA 公式サイト:http://www.bitters.co.jp/amanda/   
©2018 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA



『パピヨン』 2019年6月21日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

■殺人の罪を着せられ島流しにされた男が執念の脱獄を図る。そんな実話物語を当時の人気スター、スティーヴ・マックイーン×ダスティン・ホフマン共演で描いて大ヒットしたヒューマンドラマが、40数年ぶりにリメイクされた。主役パピヨンを演じるのは『キング・アーサー』などの英国俳優チャーリー・ハナム、脱獄の相棒役はこのあと撮った『ボヘミアン・ラプソディ』で大ブレイクしたラミ・マレック。監督はデンマーク出身マイケル・ノア―という顔ぶれ。
■1931年パリの暗黒街。胸に蝶の刺青があるパピヨンは宝石を盗む仕事を請け負うが、ネックレスをくすねたのがばれ、報復として殺人の罪を着せられ流罪となる。そこは劣悪な環境のなか過酷な労働が課せられ、多くはその地に骨をうずめるという流刑地。だがパピヨンは金をため込んでいるらしい相棒を見つけ、脱獄への執念を見せる。

■ONEPOINT Review■
73年のオリジナル版ではジェリー・ゴールドスミス作曲の「パピヨンのテーマ」が効果的につかわれ、抒情的な面が強調された。ここでももしやと思ったが、あの曲が鳴り響くことはなかった。それもそのはず、監督は78年生まれ。オリジナル版が世に出たときはまだ生まれていなかったのだ。とはいえ旧版を意識したことはたしか。(N.Yamashita)

監督:マイケル・ノア― 出演:チャーリー・ハナム/ラミ・マレック/イヴ・ヒューソン/ローラン・モラー/ヨリック・ヴァン・ヴァ―ヘニンゲン 
2017年アメリカ(133分) 配給:トランスフォーマー 原題:PAPILLON 
公式サイト:http://transformer.co.jp/m/Papillon/   ©2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.



© Belvedere, Wien, Photo: Johannes Stoll(左上)©Archiv des Belvedere, Wien, Nachlass Ankwicz-Kleehoven(左下)© Belvedere, Wien(右)

『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』4K(ドキュメンタリー) 2019年6月8日(土)からシネスイッチ銀座ほか

■19世紀末~20世紀初頭のウィーンを代表するふたりの画家、グスタフ・クリムトとエゴン・シーレに焦点を当て、変革期にあったこの時代を探るドキュメンタリー。ふたりに限らず同時代に影響を与えたさまざまな人物に注目し、掘り下げてゆく。案内役はイタリアの俳優のロレンツォ・リケルミーとイギリスの女優リリー・コール。
■1862年生まれのクリムトと1890年生まれのシーレ。28の年の差があるふたりだが、ともにこの時代の「異端児」という点で共通する。とくにクリムトは既存の美術集団に異議を唱えて独自のアート集団「分離派」を設立。シーレはそんなクリムトを師と仰ぎながらオリジナルな感性を磨いて彼に追いついてゆく。また周辺では、精神分析のフロイトや作家のシュニッツラー、音楽家のマーラーやシェーンベルクらが新しい思想や芸術を切り開いてゆく。

■ONEPOINT Review■
フロイトで有名な「エロス(生の欲動)」と「タナトス(死の欲動)」は、まさにクリムトとシーレの芸術をあらわしたような言葉。かれらの絵画はいま見ても赤裸々で衝撃的、当時の人々を驚かせたが、その一方で彼らにも古典の影響は少なからずあった。クリムトが20代のころ、古典収蔵で有名な美術史美術館から依頼を受けて提供した壁画は、旧世代と新世代をつなぐものとしていまいっそう興味深い。(N.Yamashita)

監督:ミシェル・マリー 出演:ロレンツォ・リケルミー/リリー・コール 日本語ナレーション:柄本佑  2018年イタリア(90分) 配給:彩プロ 
英題:KLIMT & SCHIELE EROS AND PSYCHE 公式サイト:http://klimt.ayapro.ne.jp/ 7月10日まで東京都美術館で「クリムト展 ウィーンと日本1900」開催



「スノー・ロワイヤル』  2019年6月7日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか

■模範市民賞を受賞して市民のお手本となったはずの男が一転、ひとり息子を殺されたことから頭に血が上り、復讐の鬼と化して関係者をつぎつぎ処罰してゆくサスペンス・アクション。誘拐された娘を奪還する『96時間』シリーズで新境地を開いたリーアム・ニーソンが、今度は豪雪のコロラドを舞台に息子の復讐に燃える。
■ネルズ・コックマンは雪深い町でコツコツと除雪作業をしてきたことが評価され、市から模範市民賞を授与。だがその直後、息子が麻薬組織に殺されたことから立場を棚上げして犯罪者となってゆく。憎きは麻薬王バイキング。犯罪小説で得た知識をもとに関連人物をひとりずつつぶしてゆくと、バイキングは敵対するネイティブ・アメリカンの麻薬組織ホワイトブルの仕業と勘違い。いつしか大がかりで見当違いな組織同士の抗争へと発展してゆく。

■ONEPOINT Review■
2014年のノルウェー映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』を監督自身がセルフリメイク。恐ろしい犯罪の背後にダークな笑いを配し、奥行きのあるアクションに仕立てている。またシンプルな思考で動く男たちとは対照的な強く賢い女性がつぎつぎと登場するのも、監督の意図するところだったようだ。
(N.Yamashita)

監督:ハンス・ぺテル・モランド 出演:リーアム・ニーソン/トム・べイトマン/トム・ジャクソン/エミー・ロッサム/ジュリア・ジョーンズ/ローラ・ダーン2019年アメリカ(119分) 配給:KADOKAWA 公式サイト:https://snowroyale.jp/   ©2019 STUDIOCANAL SAS ALL RIGHTS RESERVED



『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』   2019年6月7日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか

■才能の片りんを見せる娘と一緒にバンドを組みたい〝音楽バカ〟の父親と、音楽は大好きだけど自分の人生を切り開こうと医師の道を目指す娘。人生の転換期を迎えた父と子の葛藤を、オリジナルのポップスにのせて描く人間ドラマ。
■ニューヨークの下町ブルックリンで長年レコードショップを営むフランクは元ミュージシャン。いまも暇さえあれば曲作りや練習に余念がなく、楽しみは娘のサムとセッションをすること。妻の事故死によって残され、ひとりで育ててきた愛娘だ。ある日のセッションでサムがひそかに書いていたオリジナル曲を演奏したところ、予想以上の出来にフランクは有頂天。だが親子で音楽をやりたいという父の夢にサムは戸惑いを見せる。なぜなら彼女には医師の道という強固な目的があり、また思いを寄せるガールフレンドもできて自分自身の人生を歩みはじめていたからだった。

■ONEPOINT Review■
フランクは好きな音楽ひと筋、気ままに生きてきた男だ。けれどそんな人物にありがちな、女性にもルーズなところは少しもなく、死んだ妻を思い続けるロマンチスト。娘のサムはそんな父が大好きで、だからこそ一緒に音楽をやりたいと自分に甘える彼を簡単に無下に出来ない。ふたりの思いが伝わってくるさわやかな音楽映画だ。 (N.Yamashita)

監督:ブレット・ヘイリー 出演:ニック・オファーマン/カーシー・クレモンズ/トニ・コレット/テッド・ダンソン/ブライス・ダナー/サッシャ・レイン2018年アメリカ(97分) 配給:カルチャヴィル 公式サイト:http://hblmovie.jp/   ©2018 Hearts Beat Loud LLC



『氷上の王、ジョン・カリー』(ドキュメンタリー)  2019年5月31日(金)から新宿ピカデリーほか

■伝説のアイススケーター、ジョン・カリーの知られざる氷上の雄姿と、人となりを掘り起こした貴重なドキュメンタリー。2014年に出された伝記本に触発されたエルスキン監督が、そこから資料を集めはじめ完成させた労作だ。
1949年、英国バーミンガム生まれ。バレエの道は父に阻まれたがフィギュアスケートは許され、7歳からレッスンを開始。16歳のときに父が自殺。ロンドンに拠点を移し頭角をあらわし始め、全英チャンピオンとなる。76年、オリンピックで金メダルを獲得した直後に同性愛をスクープされてスキャンダルに。91年にAIDSを発症し94年に他界した。

■ONEPOINT Review■
評伝を読み刺激を受けた監督は映画制作をスタートさせようとするものの、そこに素材らしい素材はほとんどなかった。結局個人所蔵のプライベート・フィルム頼みとなったが、素人素材のなかにいくつかの「お宝」があって監督を喜ばせた。そのひとつが「ムーンスケート」であり「青き美しきドナウ」(美しく青きドナウ)。関係者らの証言をはさみながら、アーティストとしてのジョン・カリーのすごみ、バレエダンサーのヌレエフにたとえられるほどの卓抜した芸術性、自由な生きざま、家庭内での葛藤やセクシャリティなどが浮き彫りにされる。(N.Yamashita)

監督:ジェイムズ・エルスキン 出演:ジョン・カリー/ディック・バトン/ロビン・カズンズ/ジョニー・ウィアー/イアン・ロレッロ 2018年イギリス(89分) 配給:アップリンク 原題:THE ICE KING 公式サイト:http://www.uplink.co.jp/iceking/  ©New Black Films Skating Limited 2018



『パリの家族たち』  2019年5月25日(土)からシネスイッチ銀座ほか

■原題「LA FETE DES MERES」は「母の日」の意味。出産したばかりで仕事との両立を不安に感じる女性大統領、認知症の母を抱える三姉妹、過干渉な息子がうっとおしい舞台女優など、さまざまな母と子の葛藤を描いた群像劇だ。
強烈なリーダーシップで絶大な支持を得てきた女性大統領のアンヌが出産。子育てと職務との両立を不安に思う本人の心理が伝わったのか、国民の気持ちも揺れる。一方、ジャーナリスト、大学教授、医師というインテリ三姉妹の母は認知症気味。そんな母の面倒を見ているのはおもに医師のイザベルだが、彼女にも将来の設計があった。

■ONEPOINT Review■
個人主義の国といえばフランス。この国では結婚という形式を選ばないカップルもふえているようだが、それでも家族は家族。母と子の絆もだからといって変わるわけはなく、うっとしいほどの愛情が返ってくることもあれば、涙ながらに高齢の母を突き放さなければならないときもある。インテリ三姉妹の苦渋の決断は、子ども時代の母との関係が背後に潜んでいるとはいえとても現実的。だがやるせなさが残る。(N.Yamashita)

監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール 出演:クロチルド・クロ/オドレイ・フル―ロ/オリヴィア・コート/パスカル・アルビロ/カルメン・マウラ/マリー=クリスティーヌ・バロー/ニコール・ガルシア 2018年フランス(103分) 配給:シンカ 原題:LA FETE DES MERES  
公式サイト:http://synca.jp/paris/   © WILLOW FILMS – UGC IMAGES – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINÉMA



『パリ、嘘つきな恋』2019年5月24日(金)から新宿ピカデリーほか

■本気の恋などしたことがなく、いつもその場限りの戯れごとばかりで生きてきた独身の中年男が、車いすの女性と出会いその魅力にどんどん惹かれてゆく。本国フランスでヒットした大人のラブコメディ。
ビジネスマンとして成功し女性にもモテるジョスランだが、求めるのは性的な快楽のみ。ある日、軽い気持ちで恋の小道具として使った車いすがもとで、車いす生活を送る女性と遭遇。彼女の前向きな生き方や魅力が気になりはじめる。

■ONEPOINT Review■
原題は「誰もが立っている」の意味だろうか。偏見を逆手にとったすごいタイトルだが、少なくともプレイボーイの主人公にとって恋のお相手は健常者、それ以外は目にも入らないところからこのドラマははじまる。ところがふとついた嘘から出会った身障者の女性に恋心を抱き、その嘘はどんどんエスカレート。監督、脚本、主演を務めたデュボスクはフランスの人気コメディアン。監督デビュー作だが、くり出される少々下世話な笑いのなか、アバンチュールにしか興味がなかった軽薄男がほんとうの恋に目覚め変わってゆく様子を、面白おかしく描いている。(N.Yamashita)

監督/出演:フランク・デュボスク 出演:アレクサンドラ・ラミー/キャロライン・アングラード/エルザ・ジルべスタイン/ジェラール・ダモン/クロード・ブラッスール 2018年フランス(108分) 配給:松竹 原題:TOUT LE MONDE DEBOUT   公式サイト:http://paris-uso.jp/   
©2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public



『居眠り磐音』  2019年5月17日(金)から全国公開

■時代小説のベストセラー作家・佐伯泰英の人気作のなかでも全51巻、累計2000万部超えという驚異の部数を誇るシリーズ「居眠り磐音」。テレビで活躍中の脚本家・藤本有紀が手腕を発揮し長大な作品をまとめ上げた娯楽時代劇だ。
江戸でのお勤めを終えて地元・豊後関前藩に戻ることになった坂崎磐音、小林琴平、河出伸之輔の幼なじみ三人組。同じ道場に通う剣の達人たちであり、とくに磐音は「居眠り剣法」と呼ばれるユニークな構えで凄腕を発揮していた。磐音は琴平の妹・奈緒との祝言を控え人生最高のときを迎えようとしていたが、思わぬ惨事が起こり両家はお家断絶の危機に見舞われる。

■ONEPOINT Review■
三人組の笑顔の帰郷から一転、凄惨な事件が矢継ぎ早に起こりおどろくほどのテンポで物語は展開してゆく。舞台も江戸から故郷、ふたたび江戸と変わるなか、最初のハイライトは磐音と幼なじみ琴平の対決シーン。チャンバラ映画的なお楽しみだ。一方、ラブストーリーも物語の中心にあって、クライマックスとなるのが終盤の吉原での花魁道中。お約束以上に色気たっぷりな松坂=磐音と清純さがにじみ出る奈緒役の芳根。はまり役のふたりが甘く切ない悲恋をいっそう鮮やかに映し出してゆく。そして全体に配されたユーモアのセンスは本木監督のものだろうか。(N.Yamashita)

監督:本木克英 脚本:藤本有紀 主題歌:MISIA「LOVED」 出演:松坂桃李/木村文乃/芳根京子/柄本佑/杉野遥亮/佐々木蔵之介/中村梅雀/柄本明
2019年日本(120分) 配給:松竹 公式サイト:http://iwane-movie.jp/ ©2019映画「居眠り磐音」製作委員会



『僕たちは希望という名の列車に乗った』  2019年5月17日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国公開

■1956年のハンガリー動乱に端を発し、東ドイツの高校で起きたある事件。当時高校生だった当事者のひとりが2006年に一冊の本を著したことから世に知られることになり、事件から60数年をへて映画になった。
東ドイツで暮らす高校生のテオとクルトは冒険気分で西ベルリンの映画館に行き、ニュース映像でハンガリー動乱を知る。さらに情報を求め仲間たちと法律で禁止されている西側の放送を聞き、数百名の市民とともにサッカーの英雄も命を落としたことに動揺する。後日クルトは教室で黙とうを呼びかけるが、それが国家的な問題に発展してゆく。

■ONEPOINT Review■
1945年にドイツは日本とともに敗戦国となり、やがて首都ベルリンは東側がソ連、西側が米国・英国・仏国に占領され分断される。だがいわゆるベルリンの壁ができるのは61年、まだなんとなく行き来できるそんな状況が映画の時代背景にはある。社会主義国家が吉と出るか凶と出るか国の命運はまだわからないが、直感的に西の文化に憧れ、国家の締めつけに疑いと不安を感じる青年たち。時代の先を読んだ若者たちの物語ともいえる。(N.Yamashita)

監督:ラース・クラウメ 出演:レオナルド・シャイヒャー/トム・グラメンッツ/レナ・クレンク/ヨナス・ダス
ラー/イザイア・ミカルキ/ロナルト・ツェアフェルト 2018年ドイツ(111分) 配給・アルバトロス・フィルム 原題:THE SILENT REVOLUTION
公式サイト:http://bokutachi-kibou-movie.com/     ©Studiocanal GmbH Julia Terjung


『スケート・キッチン』  2019年5月10日(金)から渋谷シネクイントほか全国公開

■ニューヨークで母と暮らす多感な少女カミーユ17歳。孤独のなかスケートボードに没頭する日々、友情と恋、そして母との葛藤を瑞々しく描いた青春映画。ドキュメンタリーで評価されてきたモーゼル監督の長編劇映画デビュー作だ。
練習中にけがをして母からスケボー禁止令を出されたカミーユは、反抗し母の目が届かないところへと遠出する。そこで出会い意気投合する女子だけのスケボーグループ「スケート・キッチン」。だがある少年と親密になったことから裏切りへと発展してゆく。

■ONEPOINT Review■
モーゼル監督はある日、電車のなかでスケボー少女軍団に遭遇し、その会話の面白さに引かれて接近する。そして生まれたのが彼女らを主人公にした短編であり、それをふくらませたこの長編だった。ふだんから自然体で自由奔放そのものの少女たち。ドキュメンタリー出身の監督はそのリアルを損なうことなく、つくりものではないドラマを生み出してゆく。一方、物語のアクセントとなるのがカミーユの恋であり、それがもとでこじれてゆくはじめての友情。その絶体絶命の危機を、おどろくほどのシンプルさと爽やかさで少女たちは切り抜けてゆく。(N.Yamashita)

監督:クリスタル・モーゼル 出演:レイチェル・ヴィンバーグ/ジェイデン・スミス
2018年アメリカ(106分) 配給:パルコ 原題:SKATE KITCHEN  ©2017 Skate Girl Film LLC.  公式サイト:http://skatekitchen.jp/



『幸福なラザロ』  2019年4月19日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

■小作人制度が廃止されたのも知らず、地主にだまされ搾取されつづける村人たち。一方、その最下層の青年ラザロは苦役を苦役とも思わず、無垢の心をもって黙々と働きつづける。イタリアのとある村であった実の詐欺事件をもとに、聖書に出てくる聖人「ラザロ」から着想した青年を主人公にして生まれた現代の寓話物語。
ある日、地主の息子が事件を起こしたことから村に警察が入り、村人らは初めて自分たちが地主にだまされていたことを知らされる。希望ある新天地を求めて村を捨てる人びと。だがラザロは谷に落ちて忘れられる。

■ONEPOINT Review■
ラザロが谷に落ち村人が街に流出するあたりから映画は不思議な世界に入ってゆく。長いときを経て復活する死んだはずのラザロ。そこで彼が見るのは、困難から逃れて都会に出た人びとがけっして幸せにはなっていない姿だ。ロルヴァケル監督は問題提起を内包させながら、美しくユニークな作品を生み出した。(N.Yamashita)

監督:アリーチェ・ロルヴァケル 出演:アドリアーノ・タルディオーロ/アニェーゼ・グラツィアーニ/アルバ・ロルヴァケル/セルジ・ロペス 
2018年イタリア(127分) 配給:キノフィルムズ/木下グループ  原題:LAZZARO FELICE(HAPPY AS LAZZARO)  公式サイト:http://lazzaro.jp/
©2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE


『荒野にて』  2019年4月12日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

■15歳でひとりぼっちとなった少年が、お払い箱寸前の競走馬ピートとともにアメリカ中西部の荒野を彷徨うロードムービー。『さざなみ』で注目されたイギリスのヘイ監督が米国の小説を映画化した。
チャーリーが父とふたり暮らしなのは、遠いむかしに母が出て行ったから。父は息子を愛しながらも自己中心的で飲んだくれ。息子の母親代わりだった姉ともケンカ別れし、彼女は所在不明となっていた。学校も行っていないのかチャーリーは競馬場でアルバイトをはじめ、ピートという馬の世話を任される。そんなある日の夜中に家で事件が起きる。

■ONEPOINT Review■
チャーリーがピートとともに荒野を彷徨い目指すのはなにか。彼が恵まれない家庭に育ちながら転落してゆかないのは、母親代わりだった伯母マージ―の愛情があったからではないのか。そんな物語の布石が終盤の感動へと導いてゆく。 米国を舞台にしながらイギリス人監督によってひと味違う味わいのロードムービーとなった。(N.Yamashita)

監督:アンドリュー・ヘイ 出演:チャーリー・プラマー/スティーヴ・ブシェミ/クロエ・セヴィニー
2017年イギリス(122分) 配給:ギャガ 原題:LEAN ON PETE   公式サイト:https://gaga.ne.jp/kouya/    
©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017


『マックイーン モードの反逆児』  2019年4月5日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開

■ファッション界に旋風を巻き起こし、その中心にいながら40歳で命を絶ったデザイナー、リー・アレキサンダー・マックイーン。プライベート・フィルムも交えながら、短くも濃い人生が浮き彫りにされる。
学校へ行くでもなければ仕事に就くでもない。中途半端な毎日を送るリー少年に仕立て職人の仕事を進めたのは、母親のジョイスだった。母親っ子のリーは進めに応じ、その後イタリアでロメオ・ジリのアシスタントに抜擢。英国に戻った彼は美術大学で学び、その卒業制作が目利きイザベル・ブロウの目に留まったのが快進撃のはじまりだった。

■ONEPOINT Review■
ごくふつうの青年アレキサンダー・マックイーンは、内に秘めた天才をふとしたことから見いだされファッション界の寵児となってゆく。感性がすべてのアートの世界、その頂点を極めたはずがさらにその上を目指さねばならず、彼に目をつけた巨大ファッショングループのあいだでは板挟みにもなる。そして減量した容姿は精悍そのものだが、かつての優しくておおらかだった青年の面影=彼の大きな美点はもはやない。監督と脚本を共働したエテッドギーとボノートは全体をスタイリッシュに構築しながら、ドラマチックな生涯を残酷にえぐり出してゆく。(N.Yamashita)

監督:ピーター・エテッドギー/イアン・ボノート 出演:アレキサンダー・マックイーン/イザベラ・ブロウ
2018年イギリス(111分) 配給:キノフィルムズ/木下グループ 原題:MCQUEEN
公式サイト:http://mcqueen-movie.jp/ ©2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION ALL RIGHTS RESERVED.


『希望の灯り』  2019年4月5日(金)から渋谷・Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

■かつては東ドイツだった町の郊外にぽつんと建つ巨大スーパーマーケット。そこで働く人たちのささやかな営みと
ひと組の男女の淡い恋を描いた人間ドラマ。
内気で無口な男クリスティアンはトラブルで仕事を首になり、スーパーの在庫係に雇われる。商品の保管場所は先が見えないほど広大なところで、飲み物係の彼はフォークリフトの技術も習得することになるが、まじめゆえにしだいに上司や周囲から認められるようになってゆく。そんなある日、お菓子係の年上の女性に恋をする。
■ONEPOINT Review■
東西ドイツの壁の崩壊からちょうど30年を迎え、必ずしもめでたしとはならなかった東西統一後の旧東ドイツの現実や、ノスタルジックな過去への思いが垣間見えてくる。原作者のクレメンス・マイヤーも、共同で脚本を練ったステューバー監督もともに旧東ドイツの出身。旧西ドイツ作品とはどこか違う空気感、においが伝わってくる。音楽にのせてフォークリフトが優雅に動き回るシーンは原作になくあとで追加したもの。現実からふと離れたその感じがおもしろく、またスーパーの巨大さを象徴するようでもあって印象的だ。(N.Yamashita)

監督:トーマス・ステューバー 出演:フランツ・ロゴフスキ/ザンドラ・ヒュラー/ペーター・クルト
2018年ドイツ(125分) 配給:彩プロ 英題:IN THE AISLES  
公式サイト:http://kibou-akari.ayapro.ne.jp/   ©2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH



『私の20世紀』(4Kレストア版)  2019年3月30日(土)から新宿シネマカリテほか順次公開

■文明が大転換してゆく19世紀末から20世紀にかけて、運命の別れ道に立った双子の姉妹の波乱万丈、数奇な人生を描いた不思議なテイストの物語。
新しい世紀に入ろうという少し前、アメリカのエジソンが白熱電球を発明し、世の中はガス灯から電灯へと大きな変化を迎える。そのころハンガリーのブダペストで双子の姉妹が誕生するが、孤児となったことから別々にもらわれてゆき、ひとりは生真面目な革命家、一方は色仕掛けの詐欺師となる。その姉妹を同一人物と勘違いし、つき合いはじめるひとりの男。

■ONEPOINT Review■
『心と体と』で少々風変わりな恋愛を描き注目されたエニェディ監督が30年前に発表し、カンヌで新人監督賞のカメラドールを受賞した作品。いわば出世作だが、独特な感性はここでもかなり強烈。そして全編白黒フィルムで撮影された映像は極めて美しくファンタスティック、100年前の時代感も強く伝わってくる。タルコフスキー作品でおなじみ、いまは亡きオレグ・ヤンコフスキーの存在感も忘れがたい。(N.Yamashita)

監督:イルディコー・エニェディ 出演:ドロタ・セグダ/オレグ・ヤンコフスキー/ペーテル・アンドライ
1989年ハンガリー=西ドイツ(103分) 配給:サンリス 英題:MY 20TH CENTURY  公式サイト:http://www.senlis.co.jp/my20th/


『エマの瞳』  2019年3月23日(土)から新宿武蔵野館ほか順次公開

■目が見えないハンディはあるけれど自立して人生を謳歌している女性と、彼女に惹かれてゆくひとりのプレイボーイ。ふたりの恋の顛末をイタリア映画らしい陽気さを交えて描いたラブストーリー。
広告代理店で働くテオはある日、暗闇のなかで体験する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というワークショップに参加。そこで働く盲目の女性エマと出会い心惹かれる。ふたりは付き合い始めるが、じつはテオには中途半端な関係の恋人がいて、彼女と鉢合わせしたときにエマを失望させるような言動をしてしまう。

■ONEPOINT Review■
ソルディーニ監督は『多様な目』というドキュメンタリーをつくるなかで盲目の人たちと出会い、その生き方が一般的に語られるのとは違って生き生きしていたことに心を動かされた。それが本作のアイデアにつながったという。
テオは純粋にエマの美しい容姿や前向きな生き方に恋したのだろう。一方エマはテオの陽気さやバリアのない性格に惹かれたのかもしれない。あるいは彼が発するフェロモンに…。そんなふたりを監督はとても色っぽく描いている。(N.Yamashita)

監督:シルヴィオ・ソルディーニ 出演:ヴァレリア・ゴリノ/アドリアーノ・ジャンニ―二 2017年伊国(117分) 配給:マンシーズエンタテインメント
原題:IL COLORE NASCOST DELLE COSE(EMMA)   ©Photo by Rocco Soldini  公式サイト:https://www.emmahitomi.net/

『ブラック・クランズマン』  2019年3月22日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■白人ばかりの警察署に初めて採用された黒人刑事が、白人刑事と組んで白人至上主義組織に潜入捜査するおどろきのブラックムービー。米地方都市であったほんとうの話を、スパイク・リー監督がユーモアをを交えて描いた。
情報部に異動した黒人刑事ロンはある日、白人至上主義の秘密結社KKKの広告を新聞で目にし、身分や人種を隠して接触。同好の士と間違えられたことから自分は電話の声だけを担当。同僚の白人刑事フリップが同一人物として組織に潜入する。声の主ロンも実際の潜入者フィリップもKKKに気に入られ、しかしその一方で怪しむ会員も出てくる。

■ONEPOINT Review■
ブラックムービーと言えばこのひと、と言われるスパイク・リーが久々に「らしい」作品をつくった。ときは黒人パワー台頭の1970年代半ば。主人公ロンが初潜入を命じられるのはその最先鋒ブラックパンサー党の集会で、もともと彼のヘアスタイルがその場にフィットしそうなアフロヘアであるところがまず笑わせる。そんな新世代の黒人青年を演じるのは俳優デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントン。コンビを組むのは、相変わらずのおとぼけ演技が印象的なアダム・ドライヴァー。(N.Yamashita)

監督:スパイク・リー 出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン/アダム・ドライヴァー/トファー・グレイス
2018年アメリカ(135分) 配給:パルコ 原題:BLACKKKLANSMAN  
公式サイト:http://bkm-movie.jp/  ©2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED

『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』  2019年3月15日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■およそ550年前の16世紀半ば、スコットランドとイングランドに君臨したふたりの女王、メアリー・スチュアートとエリザベス1世。実際には書簡交換のみで出会うことがなかったふたりの実話に豊かなイマジネーションを重ね、とくにメアリー(シアーシャ・ローナン)にフォーカスした歴史&人間ドラマになっている。
スコットランド女王メアリーは仏国王太子と結婚。王妃になるも18歳で未亡人となり帰還する。しかし故国ではプロテスタント勢力が拡大しており、カソリックのメアリー一派との軋轢は激しくなってゆく。一方、イングランド王位継承のライバルであるメアリーの帰国を受けて、エリザベスの周囲は彼女に世継ぎを生むようにプレッシャーをかける。

■ONEPOINT Review■
英国での主要劇場初の女性芸術監督として、またロイヤル・シェークスピアなどの舞台演出家として活躍してきたジョージ―・ルーク監督は、女王ふたりをおたがい一目おく存在として描いている。周囲でうごめく男たちの嫉妬や権力争い。矛盾するようだがここは男性優位社会。メアリーは望まない権力闘争の渦に巻き込まれてゆく。(N.Yamashita)

監督:ジョージ―・ルーク 出演:シアーシャ・ローナン/マーゴット・ロビー/ジャック・ロウデン 2018年イギリス(124分) 配給:ビターズ・エンド 
原題:MARY,QUEEN OF SCOTS  公式サイト:http://www.2queens.jp/  ©2018 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
予告編 https://youtu.be/xzo9YBta8bE


『マイ・ブックショップ』  2019年3月9日(土)からシネスイッチ銀座ほか全国公開

■いまから60年も前、1959年のイギリス。都会とは船で結ばれ、テレビはもちろん娯楽らしい娯楽のひとつもない小さな村に、はじめての本屋をつくろうとひとりの女性が立ち上がる。戦争で先立った夫との共通の夢でもあったが、機が熟しいよいよ行動に移すときがやってきたのだ。だがいろいろな障害が彼女の前に立ちふさがる。いちばんの壁は既得権者たちによるいやがらせ。そのいっぽうで勇気ある行動を称賛するしずかな賛同者もあらわれる。

■ONEPOINT Review■
英国の女性作家ペネロピ・フィッツジェラルドの原作を『死ぬまでにしたい10のこと』で知られるスペインのコイシェ監督が気品ある作品に仕上げた。品の良さは主人公フローレンス(モーティマー)からにじみ出るものでもあるが、それだけではなく彼女の選書がおもしろい。ブラッドベリの「華氏451」からナボコフの「ロリータ」まで、この時代に生まれ物議をかもしていた作品たち。外見からはなかなか想像がつかないフローレンスのラディカルな内面を、本に語らせているのもこの作品のおもしろさだ。それと騎士然としたビル・ナイ、一見の価値あり。(N.Yamashita)

監督:イザベル・コイシェ 出演:エミリー・モーティマー/ビル・ナイ/パトリシア・クラークソン
2017年イギリス=スペイン=ドイツ(112分) 配給:ココロヲ・動かす・映画社 原題:THE BOOKSHOP  公式サイト:http://mybookshop.jp/   
© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.


『たちあがる女』  2019年3月9日(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

■美しい自然に囲まれた北の果ての国アイスランド。環境保護をねがい孤軍奮闘する女性をユーモラスにちょっとシニカルに描いた人間ドラマ。背景には工業化を進めるこの国の現実がある。
ふだんは市民合唱団の指導者、そのうらで環境活動家として秘密の行動をつづける中年女性ハットラ。弓矢を背に野山を駆けめぐって送電線を切って回るその姿はまるでニンジャ?果敢そのものだ。テレビはその「山女」の話題でもち切り、警察も「テロ犯」を追ってヘリコプターを飛ばすがなかなか捕まえられない。ある日ハットラは、すっかり忘れていた里子受け入れ申請通過の知らせをもらいふと立ち止まる。思いもよらない知らせ、しかし長年の夢だった。

■ONEPOINT Review■
風変りで忘れがたい『馬々と人間たち』で登場したエルリングソン監督の長編2作目。彼いわく、ほんとうの人間になろうと奮闘する女性についての映画だと言う。監督と主演女優の共働も心地よく、映画全体をリベラルでさわやかな風が吹き抜ける。サントラをになう音楽隊が画面の方々で登場する試みもファンタジック。
(N.Yamashita)

監督:ベネディクト・エルリングソン 出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル 2018年アイスランド=フランス=ウクライナ(101分)
配給:トランスフォーマー 英題:WOMAN AT WAR  公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/tachiagaru/    
©2018-SlotMachine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Köggull Filmworks-Vintage Pictures

『ウトヤ島、7月22日』  2019年3月8日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

■湖に浮かぶ小島でサマーキャンプを張っていた若者たちのうち69人が、わずか数時間でひとりの極右思想の男に銃で乱射され殺害された事件。ノルウェー本国だけでなく世界中を震撼させた惨劇が、歳月を経て相次いで2本劇映画化された。本作はそのうちの1本で地元ノルウェーでつくられたもの。
2011年夏、首都オスロにほど近いウトヤ島で恒例のサマーキャンプが催される。そこは労働党所有の島で親も公認の夏の思い出を彩るイベント。政治に関心のある者に限らず、はじめてのキャンプに胸躍らせる子どもたちや出会いを求めるごくふつうの若者でにぎわっていた。ところがその穏やかな空気が一変する。
■ONEPOINT Review■
『ヒトラーに屈しなかった国王』で知られる地元ノルウェーのエリック・ポッペ監督が、いまも国を揺るがすこの大事件を勇気をもって映画化した。おもにひとりの少女の視点に立ちほぼワンカットでカメラを回してゆく。銃声がほうぼうで轟き逃げ惑う少年少女たちの声は聞こえるが、犯人の姿は見えない。この少女は助かるのか、ケンカ別れした妹とは出会えるのか。悲しい結末はわかっているが、彼女とともに助けを求めずにはいられない。(N.Yamashita)

監督:エリック・ポッペ 出演:アンドレア・バーンツェン/エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン
2018年ノルウェー(97分) 配給:東京テアトル 原題:UTOYA 22.JULI  ©2018 Paradox  公式サイト:http://utoya-0722.com/

『シンプル・フェイバー』  2019年3月8日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

■おなじ幼稚園に子どもを通わせる母親同士ながら、ゴージャズで近寄りがたい雰囲気のエミリー(ライブリー)と庶民的な愛らしさを持つステファニー(ケンドリック)。憧れのまなざしで自分のことを見るステファニーを、白亜の邸宅に招き入れたのはエミリーのほうだった。おどおどしながらもちゃっかりエミリーのママ友となり、昼間からカクテルを空けるなど彼女のペースに飲み込まれてゆくステファニー。そうこうするうちにエミリーが忽然と姿を消す。

■ONEPOINT Review■
ゴージャズなだけでなくどこか品の良さもにじみ出ているエミリー。だからこそステファニーも観客も騙されてしまうのだが、その意味でもライブリーはまさに適役。しかし秘密を抱えているのはエミリーだけだろうか。ふたりが親密になり包み隠さず打ち明け話をするうちに、ステファニーの意外な側面(本性?)も明らかになってゆく。人間性をふくめてどんでん返しの連続。結末は最後の最後までわからない。(N.Yamashita)

監督:ポール・フェイグ 出演:アナ・ケンドリック/ブレイク・ライブリー/ヘンリー・ゴールディング 2018年アメリカ=カナダ(117分) 
配給:ポニーキャニオン 原題:A SIMPLE FAVOR  公式サイト:http://simplefavor.jp/  ©2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights

『ビール・ストリートの恋人たち』 2月22日(金)からTOHOシネマズシャンテほか

●ごくふつうの若い黒人男女が、おたがい運命と思えるような恋をして結ばれる。おそらく彼らはごく平凡な家庭生活を営み人生を送るはずだったろう。ところが青年が差別主義者の白人警官によってレイプ犯に仕立てられたことから、尋常ではない道を歩むことになる。黒人文学を代表するジェームズ・ボールドウィンの原作をバリー・ジェンキンス監督が自ら脚本化して映画化した。アカデミー賞作品賞受賞の『ムーンライト』以来初めての、いわゆる受賞第1作。

■ONEPOINT Review■
ボールドウィンを敬愛してやまないジェンキンス監督は、舞台を原作通り1970年代初頭に設定しニューヨークのハーレムで撮影した。ムーディーなジャズが流れ、スタイリッシュな映像が愛の物語をとらえてゆくその背後に、シビアな問題が横たわる。人種差別だけではなく女性への暴力など、メッセージをはらんだラブストーリー。演技的に印象深いのはやはり母親役のレジーナ・キング。(N.Yamashita)

監督:バリー・ジェンキンス 出演:キキ・レイン/ステファン・ジェームズ/レジーナ・キング 2018年アメリカ(119分)配給:ロングライド 
原題:IF BEALE STREET COULD TALK  ©2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.  公式サイト:http://longride.jp/bealestreet/

『女王陛下のお気に入り』 2月15日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

●『ヴィクトリア女王―最期の秘密ー』(1月25日公開)『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(3月15日公開)そして本作と今年に入って「イギリス女王もの」が相次いで公開されるなか、いちばん退廃的で淫靡な世界を描いているのが本作。監督の個性際立つ作品になっている。女王役のコールマンを筆頭にふたりの侍女役ワイズとストーン、英米女優3人の演技も話題でともにアカデミー賞にノミネートされている。19世紀のヴィクトリア女王と16世紀のメアリー&エリザベスに対し、本作の主人公は17~18世紀に生きたアン女王。17人の子どもをすべて失った悲劇のひと、その孤独な彼女の寵愛を射止めるのは古参と新参どちらの侍女か。
■ONEPOINT Review■
ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督は出世作の『ロブスター』、つづく『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』と注目作2作でいずれも生き物を象徴的に扱った。ここでもそのスタイルは踏襲され、おびただしい数のウサギが登場する。ウサギを1羽2羽と数える意味がこの映画を観るとよくわかる。パタパタと鳥の羽のような、あるいは昆虫の羽がこすれるようなウサギの耳の音が不安気に画面に響く。(N.Yamashita)
監督:ヨルゴス・ランティモス 出演:オリヴィア・コールマン/レイチェル・ワイズ/エマ・ストーン 
2018年アイルランド=イギリス=アメリカ(120分) 配給:20世紀フォックス映画 原題:THE FAVOURITE  
©Twentieth Century Fox Film Corporation  公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/

『ナポリの隣人]』 2月9日(土)から神保町・岩波ホールほか

●孤独なリタイア生活を送る元弁護士の男ロレンツォと、亡き母を裏切った父を許すことができない娘のエレナ。奥底の心情とは裏腹に、いったんほころびた絆をなかなか結びなおすことのできない親子の物語だ。
そのロレンツォのひとり住まいの隣にある日、若夫婦一家が越してくる。快活な主婦ミケーラに受け入れられ、ロレンツォはまるで失った家族を求めるように親しいつき合いを始めるが、想像を絶する事件が起きる。
■ONEPOINT Review■
イタリアの家族主義を象徴するような町、ナポリを舞台にした父と娘の断絶を描いたお話。とは言え,どこかで求め合っているこの親子は完全には崩壊していない。一方、隣人のミケーレとファビオ夫婦はどうだろうか。一見ふつうのカップルに見えるが、じつはわかりあっていなかったということか。おなじ家族でも夫婦と親子の違いもある。さまざまな人とひとのつながりの難しさを、名匠アメリオ監督は深く考えさせてくれる。(N.Yamashita)
監督:ジャンニ・アメリオ 出演:レナート・カルペンティエーリ/ジョヴァンナ・メッゾジョルノ 
2017年イタリア(108分)配給:ザジフィルムズ 原題:LA TENEREZZA  ©2016 Pepito Produzioni  公式サイト:http://www.zaziefilms.com/napoli/

『We Margiela マルジェラと私たち』 2月8日(金)からBunkamuraル・シネマほか

●天才とうたわれながら一線から姿を消して久しい伝説のデザイナー、マルタン・マルジェラにフォーカスしたドキュメンタリー。名声を得ながらなぜ彼はファッションシーンから消えてしまったのか。「メゾン マルタン マルジェラ」の創設(1988年)から2009年に姿を消すまでの軌跡、そしてその芸術の神髄を、共同創設者ジェニー・メイレンス(2017年に他界しており声のみ)をはじめとした創設メンバー、デザイン協力者らクリエイティブ・チームの証言をもとに探っている。

■ONEPOINT Review■
創設者でありメゾンの要であったマルジェラが去ったいまも「メゾン マルタン マルジェラ」はつづく。去った事情は映画を観れば分かるが、彼の在籍中とあととではスタイルや理念に変化が生じている。証言者である当時のクリエイティブ・チームの面々は彼との仕事に誇りを持ち、マルジェラの作品同様に清々しく美しいひとたちだ。ファッションは人なり。そのことが強く伝わってくる作品でもある。(N.Yamashita)
監督:メンナ・ラウラ・メイール 出演:ジェニー・メイレンス(声のみ)/ディアナ・フェレッティ・ヴェローニ 2017年オランダ(103分)配給:エスパース・サロウ 原題:WE MARGIELA   ©2017 mint film office / AVROTROS  公式サイト:http://wemargiela.espace-sarou.com/

『バハールの涙』 1月19日(土)からシネスイッチ銀座ほか

●反社会組織IS(イスラミックステート)に拉致され、性奴隷となった女性たちが奇跡的に脱出し、女性だけの抵抗部隊を組織して戦う話だ。2014年から2015年にかけてイラクのクルド人自治区で実際に起きた、ISによる奇襲攻撃と大量虐殺事件がもとになっている。女性監督のエヴァ・ウッソンが綿密な取材を重ねて映画化した。
夫、息子とともに平穏な生活を送っていた弁護士のバハールはある日、ISの襲撃を受けて奴隷となり、幼い息子も戦闘員の養成学校に送り込まれる。しかしある日、仲間とともに脱出に成功。息子を取り返すために前線に立つ。
■ONEPOINT Review■
ウッソン監督はIS側への取材はあえてせず、徹底して被害者=女性の視点に立って描いてゆく。そのひとつの試みが、戦場に入って取材する隻眼の女性記者、マチルドの存在だ。ジャーナリストとしての客観的視点と、バハールらと共有する女性としての視点を合わせ持った存在。またこの物語は奇しくも、ノーベル平和賞のナディア・ムラドさんの体験とも重なる。恐ろしくも過酷なこの状況は、まさにいま起こっている現実なのだ。(N.Yamashita)
監督:エヴァ・ウッソン 出演:ゴルシフテ・ファラハニ/エマニュエル・ベルコ  2018年フランス=ベルギー=ジョージア=スイス(111分)
配給:コムストック・グループ/ツイン 原題:LES FILLES DU SOLEIL  公式サイト:http://bahar-movie.com/
©2018 - Maneki Films -Wild Bunch - Arches Films - Gapbusters - 20 Steps Productions - RTBF (Télévision belge)

『マチルド、翼を広げ』 1月12日(土)から新宿シネマカリテほか

●おかあさんが大好きでたまらないマチルド。だが母は風変りを通り越して奇行を繰り返す。突然姿を消しては数日帰ってこなかったり、試着したウエディングドレスのまま街を歩き回ったり…。それでも母を待ち思慕する娘の健気な姿と心情を、少女の視点からさわやかに描いた胸を締め付けられるような作品だ。ノエミ・ルヴォウスキー監督が自ら脚本を書き(共同脚本)女優でもある彼女自身が母を演じている。またマチュー・アマルリックが離婚した父親役で出演している。
■ONEPOINT Review■
マチルド役の主演リュス・ロドリゲスが健康上の理由で途中降板、なんと撮影は半分で一旦中止となったという。さてどうするか。監督と編集者は撮影済みの映像を巧みに構成し、さらに急遽、成人したマチルドとその後の母の映像を追加した。そして生まれたのがこの作品だ。試行錯誤の果てにたどり着いたエンディングがもたらす余韻。奇跡に近い結果と言っていいだろう。(N.Yamashita)
監督/出演:ノエミ・ルヴォウスキー 出演:リュス・ロドリゲス/マチュー・アマルリック 
2017年フランス(95分)配給:TOMORROW films./サンリス 原題:DEMAIN ET TOUS LES AUTRES JOURS(TOMORROW AND THEREAFTER) 
公式サイト:http://www.senlis.co.jp/mathilde-tsubasa/   © 2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinéma




<注目のロードショー・アーカイヴ2018> ARCHIVE 2018

■シシリアン・ゴースト・ストーリー    
12月22日(土)から新宿シネマカリテほか

●イタリアで実際に起きた事件の犠牲者の少年を悼み、イマジネーション豊かで美しいラブストーリーが生まれた。1993年、マフィア発祥の地として知られるシチリアで、密告者の男性の口封じのためにわずか13歳の息子が誘拐され779日間監禁の挙句に殺害されるという事件が起きた。遺体は硫酸で溶かされる凄惨なものでイタリア社会に大きな衝撃を与えたが、そこから生まれたのがマルコ・マンカッソーラの短編小説「白い騎士」。本作のもととなった。●同級生のジュゼッペに恋をする少女ルナは放課後、思いを託したラブレターを手に握りしめそっと彼のあとをつける。彼女の気持ちはやっとの思いで伝わるが、その日、少年は忽然と姿を消してしまう。  ■ONEPOINT Review●実際のジュゼッペは恋も知らずに短い命を終えたのだろうか。凄惨な事件の部分に焦点を当てるのではなく、少年と少女の淡い恋という架空の物語を紡いだ原作者と映画スタッフに乾杯したい。(N.Y.)    監督/脚本:ファビオ・グラッサドニア/アントニオ・ピアッツア 原作:マルコ・マンカッソーラ「白い騎士」 出演:ユリア・イェドリコヴスカ/ガエターノ・フェルナンデス/ヴィンチェンッォ・アマート/サビーネ・ティモテオ 2017年伊国=仏国=スイス(123分) 
配給:ミモザフィルムズ 原題:SICILIAN GHOST STORY 公式サイト:http://sicilian-movie.com/


■彼が愛したケーキ職人
12月1日(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか

邦題を言い換えると「夫が愛したケーキ職人」。つまり妻の視点だが、映画はケーキ職人の視点からも描かれてゆく。男性のケーキ職人と、ある夫婦の三角関係を描いた愛の物語であり人間ドラマ。
●出張のためにイスラエルからドイツにやって来てはそこにある菓子店に通い、ケーキとコーヒーを注文し、シナモンクッキーを土産に買ってゆく中年男性オーレン。
店主でケーキ職人のトーマスといつしか恋仲になってゆくが、あるときからオーレンはぱったりと姿を見せなくなる。いったい何があったのか。ドイツにトーマスが訪ねてゆくと彼はおらず、彼がときどきその様子を話してくれていた愛妻アナトの姿があった。
■ONEPOINT Review●映画は淡々と描かれ、そのなかで次第にトーマスとアナトの心の襞が浮き彫りになってくる。安易には終わらせないエンディングも余韻を残す。(N.Y.)
監督:オフィル・ラウル・グレイツァ 出演:ティム・カルクオフ/サラ・アドラー/ロイ・ミラー
2017年イスラエル=ドイツ(109分) 配給:エスパース・サロウ 英題:THE CAKEMAKER   
公式サイト:http://cakemaker.espace-sarou.com/


■ア・ゴースト・ストーリー 
11月17日(土)~渋谷・シネクイントほか

●ある若い夫婦の物語。彼らが暮らす家の所在地はどうやらアメリカの開拓史時代に端を発する古い土地で、そこに幽霊譚がからんでくる。
作曲家のC(ケーシー・アフレック)と妻のM(ルーニー・マーラ)は平屋の一軒家で暮らしているが、夫と違いMはほかの場所に越したいと思っている。そんなある日、事故が起きて夫が急逝。途方に暮れたまま彼の死を確認したMが安置室を去ると、まもなく死体がゆっくりと起き上がってくる。白いシーツを被っただけのあまりにもシンプルな姿の幽霊!こうしてひとつのゴースト・ストーリーが始まってゆく。
●ONEPOINT Review●会うひとごとに「ア・ゴースト・ストーリー」観ました?” と聞く。なぜならオチが気になって仕方ないから…。Cが残したメモにはいったい何が書かれていたのか。これから観るひとに尋ねたい、あのメモの正体を。(N.Y.)
監督:デヴィッド・ロウリー 出演:ケイシー・アフレック/ルーニー・マーラ 2017年米国(92分) 配給:パルコ 原題:A GHOST STORY
 公式サイト:http://www.ags-movie.jp/


■世界で一番ゴッホを描いた男(ドキュメンタリー)10月20日(土)から新宿シネマカリテほか

●ルイ・ヴィトンのバッグからディズニーのキャラクターまで、コピー天国が横行する中国。その中でも名画の複製画を量産する油絵の街として知られるのが大芬(ダーフェン)だ。1万人の画工が働くと言われるそこで、20年間ひたすらゴッホの名作を写し描いてきた男がいる。独学で絵を学び家族とともに複製画の制作(製造?)で生計を立てている趙小勇(チャオ・シャオヨン)。ユイ・ハイボーとキキ・ティンチー・ユイの親娘監督は2年間彼らの生活に密着し、その実態といつかゴッホの故郷オランダに行きたいと夢見る趙小勇の絵画に対する純粋な思いを描き出してゆく。

監督:ユイ・ハイボー/キキ・ティンチー・ユイ 出演:趙小勇(チャオ・シャオヨン)
2016年オランダ=中国(84分) 配給:アーク・フィルムズ/スターキャット 英題:CHINA'S VAN GOGHS
公式サイト:
http://chinas-van-goghs-movie.jp/     © Century Image Media (China) 


■愛と法(ドキュメンタリー) 
9月22日(土)からシネ・リーブル梅田で先行公開/9月29日(土)から渋谷・ユーロスペースほか

●映画の主人公・南和行と吉田昌史は日本では珍しいゲイカップルの弁護士夫夫(ふうふ)。彼らのもとに相談にやってくるのは、おもに人権にかかわることで泣かされてきた人たちだ。たとえば、突然居場所を失った少年や、君が代を歌わずに処分された学校の先生、あるいは「ろくでなし子」のように猥褻裁判にかけられたアーティストもいる。映画を観てよくわかるのは、彼らがいかに理不尽な扱いを受けてきたか。ふたりはそれらに立ち向かう「人権弁護士」と言っていいだろう。ときにユーモアを交えてすっきりさわやか、ポジティブに映像化したのは、オランダで育ちロンドン大学で映像を学んだ女性監督の戸田ひかる。南と吉田、ふたりの私生活も見せながら描いてゆく。

監督:戸田ひかる 出演:南和行/吉田昌史 2017年日本=英国=仏国(94分) 
配給:東風 原題:OF LOVE & LAW
公式サイト:http://aitohou-movie.com/   ©Nanmori Films 


■若い女  
8月25日(土)から渋谷・ユーロスペースほか

●長年付き合った恋人に捨てられた若い女。やり場のない怒りを世間にまき散らし、そうこうするうちに落ち着きを取り戻して自分自身を見つめ直してゆくというお話。そうは言っても一筋縄ではいかない。この若い女(31歳だから若くもないか)かなりの個性の持ち主だから。上の写真の髪型も一見ただの奇抜なヘアスタイルに見えるけれど、じつは訳あってこんな風になってしまった!そんな微妙な笑いを脚本も書き下ろしたセライユ監督は方々にちりばめている。10年来付き合った有名カメラマンの恋人に捨てられ怒り心頭のポーラ。捨てられてみれば自分にはなにも残らず、友人や出会った人に頼りながらのその場しのぎの刹那の日々が始まる。ポーラを演じリュミエール有望女優賞を受賞したレティシア・ドッシュの怪演が見どころのひとつだ。またこれが長編第1作となったレオノール・セライユ監督は、新人監督に与えられるカンヌ映画祭カメラドールを受賞している。
監督/脚本:レオノール・セライユ 出演:レティシア・ドッシュ/グレゴワール・モンサンジョン/スレイマン・セイ・ンディアイ/ナタリー・リシャール 2017年仏国(97分) 配給・サンリス 原題:JEUNE FEMME 英題:MONTPARNASSE BIENVENUE  ©2017 Blue Monday Productions
公式サイト:http://www.senlis.co.jp/wakai-onna/  


■スターリンの葬送狂騒曲 
8月3日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか

●1953年、ソ連の最高権力者でいまはドイツのヒトラーとともに独裁者の代名詞のようになっているスターリンが、暗黒政治のさなかに急逝する。床に倒れた彼を放置し、救急車を呼ぶでもなく遠巻きに眺めながら今後の椅子取りゲームを思案するのは、中央委員会第一書記のフルシチョフをはじめとした彼の側近たちだ。極めて現実に近い内容とも称されるフランス発のグラフィックノベルを、シニカルなテレビシリーズや映画を送り出してきたスコットランド出身のイアヌッチ監督が映画化した。目指したのは「悲劇的なコメディ」と彼が言うように、ブラックなユーモア満載の作品になっている。
監督:アーマンド・イアヌッチ 出演:スティーヴ・ブシェミ/サイモン・ラッセル・ビール/ジェフリー・タンバー/マイケル・ペイリン/オルガ・キュリレンコ
仏国=英国=ベルギー=カナダ(107分) 配給:ギャガ 原題:THE DEATH OF STALIN  
©2017 MITICO・MAIN JOURNEY・GAUMONT・FRANCE 3 CINEMA・AFPI・PANACHE・PRODUCTIONS・LACIE CINEMATOGRAPHIQUE・DEATH OF STALIN THE FILM LTD
公式サイト:http://gaga.ne.jp/stalin/         


■君が君で君だ 
7月7日(土)から新宿バルト9ほかで公開

●青春の10年間をひたすら、ひとりの女性に捧げつづけた無謀な男たちの物語。ひとりは「尾崎豊」、もうひとりは「ブラピ」、残るひとりは「坂本龍馬」になりきって! 
出会いは場末のカラオケ店だった。青年ふたりはそこで働く暗い眼をした少女ソン(キム・コッピ)に一目ぼれ。外でからまれている彼女を助けようとして逆にボコボコにされてしまう。だがこれがきっかけで、その後の10年間を彼女の人生とともに歩むことになろうとは…。途中からもうひとりの男も合流して、三人はソンが好きだという人物になりきる。尾崎豊(池松壮亮)とブラピ(満島真之介)と坂本竜馬(大倉孝二)。四六時中監視することで彼女を守ろうとする彼らにストーカーの意識はまったくない。尾崎豊はきっぱりと言い切る、僕らはソンを守る「兵士」なのだと。
奇想天外な物語を原案から生み出したのは、『アフロ田中』や『アズミ・ハルコは行方不明』の松居大悟監督。池松、満島、大倉の熱演に対して、YOUと向井理のオフビートな演技も楽しませてくれる。
監督/脚本:松居大悟 出演:池松壮亮/満島真之介/大倉孝二/YOU/向井理/キム・コッピ 
2018年日本(104分)配給:ティ・ジョイ ⓒ2018「君が君で君だ」製作委員会  
公式サイト:https://kimikimikimi.jp/         


■祝福~オラとニコデムの家(ドキュメンタリー)  6月23日(土)から渋谷・ユーロスペースほか

●母は家を出て別の男と暮らし、家の大黒柱である父は飲酒をやめられない。そんな崩壊寸前の家を切り盛りしながら、自閉症の弟ニコデムの世話までしている14歳の少女オラ。その日常を追ったドキュメンタリーだ。本作が長編第一作となったアンナ・ザメツカ監督は忍耐強くアプローチし、その結果、登場人物たちはカメラなどないような自然なふるまいを見せる。大きな不満を抱えながらも辛抱強いオラ。彼
女の精神力を目下支えているのは、弟ニコデムが控える一大イベント初聖体式だ。成功はオラのサポートにもかかっているから。それにしてもこの責任感はどこからくるのか。口にはしないが母の帰還という儚い願いもある。 その母との関係も含めて観客は、健気な少女オラの幸せを願わずにはいられない。

監督:アンナ・ザメツカ 出演:オラ・カチャノフスカ/ニコデム・カチャノフスキ  
2016年ポーランド(75分) 配給:ムヴィオラ 原題:COMUNIA 
公式サイト:http://www.moviola.jp/shukufuku/  


■男と女、モントーク岬で
5月26日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町


●売れっ子で尊敬もされている作家のマックスは新作の宣伝のためにベルリンからニューヨークにやってきて、NYで暮らす若いパートナーのクララと久々に再開する。いかにも相思相愛のふたりだが、マックスはふとしたことからかつて熱愛したレベッカと出会い、その心は一気に彼女へと傾いてゆく。愛は再燃するのか。男の身勝手と自惚れにガツンと一発食らわせるのは御大シュレンドルフ監督。シニカルなエンディングを用意している。スウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドと『ベルリンから来た女』のドイツ女優ニーナ・ホスが共演。

監督:フォルカー・シュレンドルフ 出演:ステラン・スカルスガルド/ニーナ・ホス
2017年独国=仏国=アイルランド(106分) 配給:アルバトロス・フィルム 
原題:RETURN TO NONTAUK


■モリのいる場所
5月19日(土)から シネスイッチ銀座ほか

 

●「変人」として知られた実在の伝説の画家、熊谷守一の日常を、山崎努と樹木希林の名優コンビでつづる人間ドラマ。
すでに大家として世間に知れわたっている熊谷だが、30年来家から外に出たことがなく、ひたすら庭の草木や虫などの生き物たちを観察しては制作の糧にするという日々を送っている。その風変りな生きざまに動ずることもなく付き合ってきたのが妻の秀子だ。
そこに彼の様子をカメラに収めようと写真家とそのアシスタントがやってくる。
監督:沖田修一 出演:山崎努/樹木希林 2018年日本(99分) 配給:日活
©2017「モリのいる場所」製作委員会


■ジェイン・ジェイコブズ――ニューヨーク都市計画革命――(ドキュメンタリー)
4月28日(土)から渋谷・ユーロスペースほか









監督:マット・ティルナー 声の出演:マリサ・トメイ/ヴィンセント・ドノフリオ
2016年米国(92分) 配給:東風/ノーム 原題:CITIZEN JANE Battle for the City


■シューマンズ バー ブック
4月21日(土)から
渋谷・シアター・イメージフォーラムほか








監督:マリーケ・シュレーダー 出演:チャールズ・シューマン
2017年独国(98分) 配給:クレストインターナショナル 英題:BAR TALKS BY SCHUMANN


■ラッキー LUCKY
3月17日(土)~新宿シネマカリテ他



 




       
監督:ジョン・キャロル・リンチ 出演:ハリー・ディーン・スタントン/デヴィッド・リンチ
2017年米国(88分) 配給:アップリンク 原題:LUCKY






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