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コラム COLUMN                                                   吉家容子
今年、70回目を数えた老舗映画祭“カンヌ”の魅力とは?                      Text & Photo by Yoko KIKKA


■映画ファンを魅了し続けるビッグ・イベント

世界最高峰の映画際が厳戒体制の下、南フランスの高級リゾート地で開催された。フランス大統領選挙の関係で例年よりも一週間遅い会期(5月17日~28日)となり、好天に恵まれた今年のカンヌ国際映画祭は、セキュリティ・チェックが一段と厳しくなったものの、70回目というアニバーサリーイヤーの記念イベントが目白押しで、映画祭自体の華々しいムードはしっかりと維持され、盛況のうちに幕を閉じている。
その模様は岡田氏の「速報!カンヌレポート2017」を参照していただくとして、ここでは、この映画祭の特色と魅力について触れていきたい。 


<写真:マリーナにずらりと並ぶ豪華クルーザー

■数ある国際映画祭の中でも開催規模・作品の質・華やかさと、全ての点において他の追従を許さないオーソリティ

カンヌの最大の魅力は、その風光明媚なロケーションと開催時期だろう。映画祭には新作映画の見本市(マーケット)も付設されるので、人気スターに監督、ジャーナリストや映画ビジネス関係者が世界中からこぞって集う会期中は、陽光きらめくコートダジュールのこぢんまりとした高級リゾード地が映画祭一色に染まる。

続々と現地入りした大物スターが、リュミエール大劇場の正面入り口の階段に敷かれたレッドカーペットでフラッシュの洪水を浴びる姿もカンヌの一大名物で、スターの晴れ姿を一目でも見ようと詰めかけた映画ファンでメイン会場付近は黒山の人だかりとなる。
また、F1のモナコグランプリと開催時期が重なる時には、カンヌまで足を延ばす観光客も多く、プライベートビーチを有する超高級ホテルと有名ブランド・ショップが建ち並ぶ海岸沿いのメインストリート“クロワゼット大通り”は、深夜まで大賑わいとなる。そして、そのプライベートビーチでは連夜、大小何かしらのパーティが行われ、お祭り気分を盛り上げるのだ。

<写真左:メイン会場のリュミエール大劇場  写真右:プライベートビーチの桟橋>

■公式部門の3本柱は「長編コンペティション」「招待上映」「ある視点」

カンヌの公式部門は、最高賞のパルムドールを競う長編および短編の「コンペ部門」と「招待上映部門(アウト・オブ・コンペティション、ミッドナイト・スクリーニング、スペシャル・スクリーニングなどに区分)」、第2カテゴリーのコンペ部門「ある視点」の他、学生の卒業制作映画を対象とする「シネフォンダシヨン部門」やシンポジウム、過去の名作を上映する「カンヌ・クラシック部門」などがある。
また、パブリックビーチに巨大な野外スクリーンを設置し、一般の人も夜の浜辺で人気の旧作を無料鑑賞できる人気企画「シネマ・ドゥ・ラ・プラージュ」も公式部門の一つだ。

その中でも取り分けて注目されるのは、毎年20本前後が賞を競う「長編コンペティション」で、作品の質は三大映画祭(ベルリン/カンヌ/ヴェネチア)の中でも抜群に高く、カンヌのコンペに選出されたとあれば、たとえ受賞を逃したとしても作品に箔がつく。
今年は、70回記念イベントの一環で、過去のパルムドール受賞者などカンヌゆかりの映画人が一堂に会しての記念撮影が行われたのだが、その顔ぶれが実に圧巻で、まさに映画祭の“格”の違いを実感させられた。


■上映会場はウォーターフロントの複合施設“パレ・デ・フェスティバル”(通称パレ)

マリーナ近くに建つパレには、前述したリュミエール(約2300席)、ドビュッシー(約1000席)、中規模のブニュエル、小規模のバザンなど、フランスの著名人の名前を冠した大小様々な上映会場がある。
さらには公式記者会見場や小試写室、「批評家週間」部門の事務局、プレスセンター、レセプション会場やサロン、地下のマーケット・ブースまでを備えた巨大な複合施設で、マーケット会場の“リヴィエラ”と特設上映会場の“60回記念ホール”が隣接している。
パレでは映画祭以外にも様々なイベントが年間を通して催されており、その正面広場には往年のスターや名監督の手形がずらりと並んでいる。

また、白いテントが軒を連ねる海岸際も映画祭特有の風物だ。インターナショナル・ビレッジと呼ばれるこの場所は、各国の映画機構が出展するパビリオン群で、自国映画のアピールや、映画撮影の招聘など、様々なプロモーションを行っている。


<写真:60回記念ホール >

■併行して催される「監督週間」「批評家週間」「ACID」は別組織が運営

公式部門とは異なる事務局が運営しているのが併行部門で、上映会場も別だし会期も少し短い。フランス映画監督協会が主催する「監督週間」のメイン会場は、“クロワゼット大通り”沿いに建っているJW マリオット・ホテルの地下にあるクロワゼット劇場。
監督の第1作目&第2作目を対象とする長編と枠に捕われない短編、そして特別上映作で構成される「批評家週間」はフランス映画批評家組合(SC)の主催で、メイン会場は同じく“クロワゼット大通り”に面する高級ホテル、ミラマー内にあるエスパス・ミラマー。
また、インディペンデント映画普及協会が独自に立ち上げた部門「ACID」も最近気を吐き出している。


<写真左:「監督週間」の事務局 写真右:黒澤明監督の手形 >

■世界中から集うジャーナリスの数も半端じゃない映画の祭典

毎年、4000人以上のプレス(報道陣)が参加しているカンヌ。プレスの登録料はタダ(ベルリンやヴェネチアは有料)で、ニース空港からカンヌ市内を結ぶ高速バスの切符も無償配布されるのだが、そのプレス登録には歴然たるヒエラルキーが存在し、ランクによって待遇に大きな格差がある。

優遇度は一目で判るようにIDバッジの“色”で区分され、最高位の色はホワイト(日本では現在、新聞&通信社媒体の5名のみが取得)。次いで黄色の◯印が付いたピンク、ピンク、ブルー、イエローと続き、このバッチの色によって入場の優先順位や映画の鑑賞場所(席)が全く異なるから、実にシビアである。加えてカメラマン用のオレンジ、技術スタッフ用のグリーンがあり、この2者は上映作の鑑賞は不可なのだ。

また、パレにはプレス向けの出品作資料が、毎日どっさりと投入される“プレスBOX(各個人専用にあてがわれる私書箱みたいなモノ)”が設置されているのだが、その数はプレス登録者の半分ほど。BOXのないプレスは一々資料を貰いにいかなければならないから、その手間と労力の差は大きい。

                                           <写真:IDバッジ&公式プログラム&映画祭オリジナル・バッグ >

■カンヌのプレス対応と、それにまつわるよもやま話

プレスのIDバッジの色は、登録メディアの知名度と大小、カンヌ映画祭の記事(番組)の内容と露出度の高さ(=カンヌへの貢献度)を審査した後に決定されるので、登録希望者は毎回、前年のカンヌ記事(番組)の提出を義務づけられる。
“ランクを上げたいならイッパイ記事を書いてね”という映画祭側の一貫した(少々あからさまな)姿勢が、少しでも良い待遇を得たいプレスの発奮を促しているのは確かで、実に巧みなタクティクスだ。そして活字媒体の方が映像媒体よりも高く評価される傾向にあるのは、活字文化を大事にするフランスならではだろう。また、一部のホワイト・バッジ保有者は“招待”扱いとなり、ホテルの宿泊代を映画祭が負担してくれている。


<写真:木漏れ日の下での“プレス・ランチ”>

■カンヌ市長が報道陣と長編コンペの審査員団を招待する“プレス・ランチ”

映画祭自体の主催ではないが、“プレス・ランチ”も嬉しいイベントだ。これは、カンヌ市の市長が世界中から集った報道陣と、長編コンペティション部門の審査員メンバーを屋外昼食に招待し、南仏の伝統料理を饗する恒例行事で、会場は市内を一望できる旧市街地の高台にあるカストル博物館前の広場。
毎年、地方色豊かな伝統衣装に身を包んだ市民たちが立ち並んで音楽を奏でる中、市長自らが参加者を会場入り口でお出迎えするアットホームな雰囲気の催しで、長テーブルがずらりと並ぶ様は壮観ですらある。

メイン料理は魚のタラとゆで野菜のアリオリ(マヨネーズ&ニンニクのソース)添えというプロヴァンス地方の家庭料理。ロゼと白のワインは飲み放題だし、前菜やデザート&コーヒーまでもが振る舞われる上、お土産として映画祭の特製ラベルが張られたオリーヴ・オイルが配られるという太っ腹なイベントだ。

カンヌのハードスケジュール(プレス試写は、毎朝8時半に始まり、遅いモノは22時半のスタート。その後に囲み取材があったりミッドナイト上映を観たりすると午前様!)をこなさねばならぬ報道陣にとって、“プレス・ランチ”は一息つける楽しい場になっている。
また、この催しには長編コンペティション部門の審査員たちも招かれており、ランチに参加した報道陣に対して写真撮影タイムも設けられるので、審査員たちのカジュアルなサマー・ファッションを捉えられる貴重な場でもある。 (2017年7月5日 記)


<写真上左:お土産のオリーヴ・オイル  写真上右:“プレス・ランチ”の前菜 写真下左:“プレス・ランチ”会場そばにあるランドマークの時計台 
写真下右:“プレス・ランチ”での審査員、左からジェシカ・チャスティン、ペドロ・アルモドバル監督、ファン・ビンビン>




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