グザヴィエ・ルグラン監督インタビュー XAVIER LEGRAND |

■「DV」と「親権問題」をテーマとした作品を撮ろうと思ったのはなぜでしょうか。
フランスでは3日に1人の女性が暴力で命を落とすという現状があり、私自身も家父長制度色のある家庭で育ち祖父母は離婚しています。家父長制度や男性優位について自問自答することが増え、次第に社会に対して問いかけることができないだろうかと思うようになりました。文字ではなく映画だったらそれができるのではないかと考えました。
■短編を撮る前からすでに続編となる長編制作は決まっていたのですか。
1作目の短編を制作しているときは短編3部作で考えていました。しかしこのテーマなら、長編で撮るほうが描きたいことをより表現できるのではないかと思うようになり、残り2部の短編を長編にすることを決めました。
■これまで役者として活動されてきましたが、なぜ監督に挑戦してみようと思ったのでしょうか。
役者をしているなかで少しずつ興味を持つようになりました。もともとシナリオを書くのが好きで、(舞台俳優なので)戯曲をよく書いていました。しかし、戯曲はフランスではとても敷居が高いものなのです。自分には恐れ多いという思いがあり、映画なら自分にも作れるのではないか思いました。また、舞台ではよくリーダー的な立場となり後輩を指導していたのですが、その時間が好きで自分に向いていると感じたので監督を志すようになりました。
■ショッキングな映画ですが、監督自身、忘れられない衝撃を受けた映画はありますか。
ミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』(2001年)、アレクサンドロス・アブラナス監督『Miss Violence』20(13年)、マイク・リー監督『秘密と嘘』(1996) 、この3作です。『ピアニスト』は、ひとが愛情の面でどのように変貌していくかということをよく描いています。また、その演出、演技指導、ストーリーとさまざまな側面から衝撃を受け、参考になる作品でした。『秘密と噓』では、初めて見たときに思わず涙するほどの衝撃だったを受けました。
■ヴェネチア映画祭で銀獅子賞を受賞したときはどのような気持ちでしたか。どの部分が評価されたと思いますか。
本当に感激しました。新人賞にノミネートされただけでも満足していたのに、監督賞で名前を呼んでもらったときは涙が止まりませんでした。また、この年のヴェネチア映画祭は、アカデミー賞をにぎわせたギレルモ・デル・トロ監督などそうそうたるメンバーのなかでの受賞でとても自信になりました。評価されたのは、テーマとよく練られた構成の部分ではないかと思います。
■本作をどんな方に観てほしいですか。
ぜひ多くの人に見て欲しいと思います。本作のテーマは家族や親権といった社会問題ですが、同時にサスペンスやスリラーの要素も含んでおり、さまざまなひとに見てもらえる作品だと思います。たとえば文化的背景が違っていても、感情的に描いている作品なので絵や音でも感じてもらえるだろうし、作家主義的ではなく大衆向けに制作したので多くの人々に見ていただければうれしいです。
■トーマス・ジオリアほかキャストの素晴らしさや魅力についてはいかがですか。
トーマス・ジオリア(ジュリアン役)は、年齢のわりにとても大人びていました。なにより聞く力と観察眼が突出していて、子どもながらに本作のテーマをしっかりと理解しているところが素晴らしいと思います。彼はとても役者に向いていると思います。自分も幼い頃から舞台に立っていたので、この年齢でここまで出来るなんてちょっと嫉妬してしまうくらいです。レア・ドリュッケール(母ミリアム役)、ドゥニ・メノーシェ(父アントワーヌ役)はともに、人間性の深いとろまで考えて謙虚に演じてくれるところが素晴らしいと思いました。大げさな演技をせずに、真摯に役に取り組んでくれました。また、マチルド・オネヴ(ジュリアンの姉ジョゼフィーヌ役)も含め、意表を突く役者的知性も持っています。実力のある俳優たちに役を受けてもらえて本当にうれしく思います。
■父親のアントワーヌが病的なまでの行動を起こしてしまうことについて、背景や心情をどのようにお考えですか。
最初からモンスターだったわけではなく、ひとりの人間が追い詰められた結果モンスターと化してしまった。その追い詰められて変わってしまう過程も描きたいと思いました(マインドコントロールされる過程を描きたかった)。家父長制度の強い家で育ったであろう背景があり、それが追い詰められて過度になった結果、暴力により妻を支配することが正統であるという考えに至ってしまった。夫としての権力を利用して妻を取り戻そうとして、判事を操ることで子どもを取り戻そうとします。それがかなわないのなら、相手に死んでほしいと思ってしまうのがアントワーヌのようなひとなのです。
■直接的な被害を受けない姉の存在が効果的でしたが、演出において歳の離れた姉弟とした理由は?
制作にあたり徹底的に調査をしたのですが、本作で描かれているような家庭内暴力がある環境が子どもに与える影響に男女の違いがあることを知りました。一般的に、女の子は早く家庭から自立して自分の家庭を持とうとし、男の子は暴力に敏感になるか同じく暴力的になる2パターンがあると言われています。このことを描くために、きょうだいの存在が必要だったし、ジョゼフィーヌの年頃がちょうどいいと思いました。
■今後はどういったテーマで作品づくりをしていく予定ですか。
これと決めているわけではありませんが、次回作も普遍的なテーマである家族を描く予定です。
■ご自身が気に入っているシーンはどこでしょうか。
パーティーのシーン。劇中で初めて音楽が出てくるとても大切なシーンです。音楽が使われることによってようやく息遣いというか雰囲気がかもしだされる。ダンスもありとてもハッピーな場面でもあります。それまでは、たとえるなら青やモノトーンのあまり色のないシーンが続き、パーティーの場面は温かみのある赤やハッピーな色を感じさせます。また主要キャストが全員登場しているという点でも重要なシーンです。
トーマス・ジオリア(ジュリアン役)インタビュー THOMAS GIORIA |
■ジュリアン役が決まった時の気持ちを聞かせてください。
母から合格の知らせを聞いたときは、初めての映画出演なので飛び上がって喜びました。ちょうどクリスマスくらいの時期でプレゼントのように思いました。
■離婚した父と母の間で苦悩する息子を見事に演じ切っていました。離婚する前のジュリアンと父アントワーヌの関係はどんなものだったと想像しますか?
脚本ではそこまで描かれていないからわかりませんが、ジュリアンにとってずっと恐ろしい父であったと思う。ジュリアンが物心つく頃から父は暴力的な性格であったと思うし、あまり良好な関係ではなかったと思います。
■緊張感が続く作品ですが実際の撮影現場はどんな雰囲気でしたか。
とても和気あいあいとしていて、良い雰囲気でした。チームみんな仲が良く、信頼関係がしっかりしている現場でした。なので安心感を持って撮影に臨めました。
■本作はスリルのあるサスペンス・タッチの作品ですが、トーマスさんはどんな映画がお好きですか?
ホラー映画が好きです。
■実生活はどんなご家族ですか。
両親は離婚しており母子家庭です。兄とぼくと弟の3兄弟。この映画のように隔週で父と会っています。
■今後はどんな役に挑戦してみたいですか。
これからも役者を続けていけるかは、正直まだよくわかりません。これから重要なバカロレア試験も待っています。でも役を頂けるなら、本当に自分が演じるべき役かどうかをしっかりと考えて、いいと思った役をやりたいです。
■目標としている俳優はだれですか。
『フォレストガンプ』(94)が大好きで、トム・ハンクスに憧れています。
■本作を通して役者としてどんなところが成長したと思いますか。
さまざまな面で成長できたと思います。まず、以前より大人になれたと思う。『ジュリアン』のおかげで海外にも行けたし、いろいろな出会いを通じて成長できたのではないかと思っています。
■気に入っているシーンは?
たくさんありすぎて全部は言えないけど(笑)、まずひとつは、祖父母の家で父アントワーヌや祖父母とともにごはんを食べているシーン。ぼくは食べるのが大好きだから撮影していて楽しかったです。また車に連れていかれるシーンも印象に残っていて、演じていても衝撃を受けました。 |