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シネマカルチャーCinemaCulture REVIEW







    ■レビュー特別編 
    カンヌ国際映画祭2017 
    コンペティション部門19作品を
    あらためてプレビュー!
    <前編 10作品> 

              岡田光由
    Text by Mitsuyoshi Okada

 <後編9作品はこちら>
■70回を迎えた今回の出品作は例年並みの19本。その中にネットフリックス作品が2本あり、ペドロ・アルモドバル審査員長が初日の記者会見で「劇場で観られない作品に賞をあげたくない」と爆弾発言したことから大騒ぎ。その後、発言を撤回して公正に審査すると宣言し、“ネットフリックス問題”は一応収拾したものの、結局2本とも受賞に至らなかった。そして映画祭当局は今後、フランスで劇場公開しない作品のコンペ参加は認めないことに。一方、ベネチア映画祭はネットフリックスなど動画配信会社製作の作品を歓迎する姿勢を見せた。                                       (2017年9月28日 記)

『ラブレス』LOVELESS(NELYUBOV)/アンドレイ・ズギャギンツェフ監督


■凍った池に覆いかぶさるような木々、そんな寂れた森を通り抜けて学校に通う12歳の少年アリョーシャ。その表情はいつも暗くて寂しげ。なぜなら両親は離婚協議中。妊娠した若い女性と同棲している父がたまに帰宅したが、またも母と口喧嘩。母は母でリッチな男の恋人がいる。そんな家庭にいたたまれず、少年は姿を消す。
憎み合う夫婦と邪魔者扱いの息子を、冷徹な視線でリアルに追った残酷な家族ドラマ。映画全体のムードが暗く冷たく緊張感に満ちている。両親にマリアナ・スピヴァクとアレクセイ・ロジン、少年にはマトヴェイ・ノヴィコフ。2014年に『裁かれるは善人のみ』で脚本賞受賞したアンドレイ・ズギャギンツェフ監督作。今回は審査員賞を受賞。
日本配給=クロックワークス


『ワンダーストラック』WONDERSTRUCK/トッド・ヘインズ監督

■1977年、母親を交通事故で失い、叔父夫婦に預けられたベンは、まだ見ぬ実父を捜しにミネソタからNYへ。一方、1927年のニュージャージーに住む孤独なローズは憧れの女優に会いにNYへ。
共に耳の不自由な少年少女が、50年の時を隔てて各々の人生が交錯していく不思議な物語。『ヒューゴの不思議な発明』のブライアン・セルズニックの同名小説を、『キャロル』に次いでコンペ部門に出品のトッド・ヘインズ監督が巧みに映画化。オークス・フェグリーと実際に聴覚障害を持つミリセント・シモンズの子役たちが主演。ジュリアン・ムーアが20年代の女優を雰囲気たっぷりに演じる他、ミシェル・ウィリアムズも共演。20年代でも70年代でもOKなNYの街並みがドラマを何よりもサポート。アマゾン・スタジオが製作に参加。
日本配給=KADOKAWA


『オクジャ』OKJA/ポン・ジュノ監督

■韓国の山中で謎の生物オクジャを10年間育てていた少女ミジャ。ある日、世界的企業によってオクジャはNYへ連れて行かれ、ミジャは救出に向かう。
『グエムル 漢江の怪物』(06)で初めてカンヌ映画祭の監督週間で上映されたポン・ジュノ監督の、初のコンペ部門出品作。それよりネットフリックスが54億円もの製作費を出し、例のネットフリックス問題で騒がれた一作として有名になった。今回登場するオクジャは、イノシシかブタに似た巨大怪物。“トトロ”に影響を受けたと監督自身も述べている。それを育てていた少女と怪物の友情に似た心の触れ合いをメインに、世界への食料提供を目指す巨大企業の策略が描かれる。ミジャに韓国人少女アン・ソウ・ヒュン、他にティルダ・スウィントンが企業側CEOなど二役、お抱え博士にジェイク・ギレンホール、ポール・ダノ、リリー・コリンズなどスターたちが共演。社会問題を取り入れた、ちょっとしたファンタジーでしかなかった。


『ジュピターズ・ムーン』JUPITER’S MOON/コーネル・ムンドルッツォ監督

 


■不法に国境を横断しようとした青年アリアンが撃たれ、負傷する。だがその衝撃で彼は空中を浮遊する能力を身につける。そんな彼を診察した難民キャンプの医師スターンは彼を騙して金を稼ぎ、二人で脱出を試みる。
主人公が空中を浮遊するシーンが何とも心地よい異色ファンタジー。一昨年のカンヌのある視点部門に『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』を出品し、ある視点賞を受賞して注目されたハンガリーのムンドルッツォ監督の新作。主演はゾムボール・イェゲール、メラーブ・ニニッゼ。
日本配給=クロックワークス 2018年1月27日(土)公開


『BPM(ビーツ・パー・ミニット)』BPM(BEATS PER MINUTE)/ロバン・カンピヨ監督

■1990年代初めのパリ。得体の知れない性の病(エイズ)への偏見に立ち向かい、その治療法を見つけ出そうとする若い運動家グループに、ゲイの若者ネイサンは参加する。そこで気になる青年ショーンと親しくなる。
対エイズ活動グループ“ACT UPパリ”に参加して闘う若者たちと、それに加わった青年がエイズで死んでいくさまを追った青春群像ドラマ。何といっても若い運動家たちのエネルギッシュで生き生きとした姿に圧倒される。出演は『午後8時の訪問者』のアデル・エネル以外はほとんど無名に近い若手俳優たち。ネイサン役はアルノー・ヴァロア。脚本家でもあり、監督はこれが3作目のロバン・カンピヨ。前評判が高かったが、準最高賞のグランプリ受賞作。
日本配給=ファントム・フィルム


『ザ・スクエア』THE SQUARE/リューベン・オストルンド監督




■現代美術館の学芸員クリスチャンが次期企画として、人々に利他主義を促すスクエア(広場)を作ろうと提案。だがそのために携帯電話を盗まれたり、彼はさまざまな窮地に陥ってしまう。
現代アート界に生きるヒップな人たちを辛辣に描いた不条理コメディで、エリートたちの欺瞞や奢りが痛快にさらけ出された。主演はクラウス・バング。エリザベス・モス、ドミニク・ウェストが共演。2014年に『フレンチアルプスで起きたこと』である視点審査員賞を受賞したスウェーデンのオストルンド監督の4作目で、最高賞パルムドール受賞作。
日本配給=トランスフォーマー


『ザ・メイヤロウィッツ・ストーリーズ』THE MEYEROWITZ STORIES/ノア・バウムバック監督


■アーティストの老父ハロルドを祝うため、疎遠だった三人の兄妹がニューヨークに集まる。中でも互いに過去の恨み辛みを抱えた長男ダニーと次男マシューはなかなか打ち解けずにいたが、奔放な父親の行動に振り回されているうちに…。
長年仲違いしていた一家が久しぶりに再会し、改めて家族の絆を強くするファミリー・コメディ。ダスティン・ホフマンの父親に、アダム・サンドラーとベン・スティラーが兄弟役で共演。『フランシス・ハ』で注目されたノア・バウムバック監督作だが、平凡な出来。ネットフリックス作品。


『グッバイ・ゴダール!』REDOUBTABLE/ミシェル・アザナヴィシウス監督



■1967年、すでに映画作家として脚光を浴びていたジャン=リュック・ゴダールは、20歳の女優で恋人のアンヌ・ヴィアゼムスキーの主演で『中国女』を撮っていた。だが映画の評価は彼自身に反省を促し、パリ五月革命を拡大させていく。
『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス監督が、若き日のゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキーの新婚生活と五月革命を描いた注目作。大監督ゴダールをおちょくったコメディとして笑わせる。ゴダールそっくりのルイ・ガレルと、ヴィアゼムスキーの雰囲気を漂わせるステイシー・マーティンが見もの。
日本配給=ギャガ  2018年7月13日(金)から本邦公開


『ザ・キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディーア』
THE KILLING OF A SACRED DEER
/ヨルゴス・ランティモス監督


■真面目な外科医スティーブンは美しい妻と二人の子供に恵まれて幸せな生活を送っていた。だが患者の少年マーティンの母親との関係から手厚く面倒をみることになり、図に乗った少年が徐々に彼の家庭に侵入してくる。
負い目を抱えたカリスマ医師が、邪悪な少年患者によって、破滅への道を突き進む悲劇。『ロブスター』で審査員賞を受賞したヨルゴス・ランティモス監督が再びコリン・ファレルと組んだ作品で、ファレルはニコール・キッドマンと『ザ・ビギルド』に次いで共演。またマーティン役のバリー・コーガンの憎々しい演技も見逃せない。彼はこの後『ダンケルク』に出演している。脚本賞受賞作。


『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』RODIN/ジャック・ドワイヨン監督


■1880年のパリ。40歳のロダンは彫像“地獄の門”に取り組み、長年のパートナー、ローズと暮していた。そして42歳の時、弟子入りを切望するカミーユ・クローデルと出会い、アシスタントに就かせるが、若い彼女の才能と魅力に夢中になっていく。
ロダン没後100年を記念し、彼の一途な製作ぶりと、私生活での愛と苦悩に満ちた姿をとらえた伝記ドラマ。『ティエリー・トグルドーの憂鬱』で男優演技賞を受賞したヴァンサン・ランドンがロダン役を熱演。カミーユに歌手で女優のイジア・イジュラン。ベルリン映画祭への出品が多い、『ポネット』のジャック・ドワイヨン監督の力作といえる。
日本配給=松竹&コムストック・グループ
2017年11月11日(土)公開


 




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