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シネマカルチャーCinemaCulture REVIEW







    ■レビュー特別編 
    カンヌ国際映画祭2017 
    コンペティション部門19作品を
    あらためてプレビュー!
    <後編 9作品> 

              岡田光由
    Text by Mitsuyoshi Okada

 
 <前編10作品はこちら>
『ハッピー・エンド』HAPPY END/ミヒャエル・ハネケ監督

■フランス北部の町カレー。パリ・ロンドン間の国際超特急列車が通り、近くに難民キャンプがある海辺の町で暮らす裕福なローレン家の人たち。これまで優雅な生活を送って来た一家にも、難民問題をはじめとする現代社会の様々な問題が一家に及んでくる。そして崩壊の危機が迫る。
二度のパルムドール受賞に輝くミヒャエル・ハネケ監督が、『ピアニスト』のイザベル・ユペールと『愛 アムール』のジャン=ルイ・トランティニャンと再び組んで、ヨーロッパのブルジョワ一家が味わう様々な困難を、独特の毒をちりばめて描く。他にマチュー・カソヴィッツ、トビー・ジョーンズが共演。ラストシーンが衝撃的で、熱演するトランティニャンが痛ましい。
日本配給=ロングライド


『ザ・デイ・アフター』THE DAY AFTER/ホン・サンス監督



■。小さな出版社に勤めることになった女性が、初出勤日に社長からランチに誘われる。彼は最近、前任者の女性と別れたばかりだった。家に帰らずにいる彼に、彼女は好意を抱く。そんなある日、彼の妻が社に乗り込んで来た。
韓国映画界で動のポン・ジュノ監督とは対照的な静のホン・サンス監督が描く不倫ドラマ。妻帯者である出版社社長が女性社員を愛してしまい苦労する話を淡々と描くもので、その作風は相変わらずで、好みによって賛否が分かれる。出演はクォン・ヘヒョ、キム・ミニ、チョ・ユニ、キム・セビョク。


『THE BEGUILED/ビガイルド 欲望のめざめ』
THE BEGUILED/ソフィア・コッポラ監督

■南北戦争末期の南部ヴァージニア州。世間からかけ離れた大邸宅で、ミス・マーサが開いていた女性たちだけの学園。そこに負傷した北軍兵士が瀕死の状態で転がり込んできた。年頃のエドウィーナや性に興味を抱くアリシア、それに少女たちまで、珍しい男性客に色めき立つ。
トーマス・P・カリナンの小説の、ドン・シーゲル監督に次いでソフィア・コッポラ監督による二度目の映画化で、ニコール・キッドマンをはじめ、キルステン・ダンスト、エル・ファニング、それにコリン・ファレルの豪華キャストも話題に。クリント・イーストウッド主演によるシーゲル監督作『白い肌の異常な夜』(71)は官能的スリラーの色合いが濃かったが、今回は女性心理に重きを置いた女の園的フェミニンなドラマに仕上がっている。さらにコッポラ監督らしい繊細な映像美も見どころで、監督賞を受賞。 日本配給=アスミック・エース/STAR CHANNEL MOVIES 2018年2月23日(金)公開

『グッド・タイム』GOOD TIME/ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟監督



■ニューヨークのスラム街に生きるコニーは、弟ニックと銀行強盗をやらかすが失敗。彼は逃げおおせたが、弟は捕まって投獄されてしまう。弟の保釈金を工面しようとする中、弟が獄中でいじめられて病院に移されたと聞き、コニーを助け出そうとする。
『神様なんかくそくらえ』のジョシュア&ベニー・サフディ兄弟監督が、NYの貧民街を舞台に、弟思いの孤独な男の苦悩と暴走を描いた犯罪ドラマ。ロバート・パティンソンが粗野な男を熱演。弟役にベニー・サフディ監督、さらにジェニファー・ジェイソン・リーが共演。
日本配給=ファインフィルムズ。2017年11月3日公開。


『ア・ジェントル・クリーチャー』A GENTLE CREATURE
/セルゲイ・ロズニツァ監督


■服役中の夫に送った荷物が返送されてきたため、遠隔地にある刑務所まで直接届けようと自宅を出発した妻。やっとたどり着いても、面接は出来ず、荷物も受け取ってもらえない。さらに夫の居場所も怪しく、官憲は国家機密だからと教えてくれない。彼女の周囲には同じ状況の人たちが多く、彼らを世話する怪しい人たちが盛んに声を掛けてくる。
カンヌやベネチアへの出品が続くウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督が、獄中の夫に荷物を届けようとする妻の不条理な旅を綴るドラマ。そこには社会主義国家の深い暗部をのぞかせて、恐ろしい。主演はヴァシリナ・マコフシヴァ。共演はマリーナ・クレシュチェヴァ、ボリス・カモルツェン。


『イン・ザ・フェイド』IN THE FADE/ファティ・アキン監督

■ ハンブルグで、トルコ人の夫との間に幼い息子をもうけて幸せな毎日を送るドイツ人女性カーチャ。だがそんな日々も、ネオナチによる爆破襲撃で愛する夫と息子を一瞬で失ってしまう。そこで彼女は事件を調べ上げ、実行犯とされるネオナチグループの男女の行方を追い、復讐を謀る。
ドイツのトルコ・コミュニティを背景に、テロで愛する家族を失った女性の苦闘ドラマ。『愛より強く』(04)でベルリン金熊賞、『そして、私たちは愛に帰る』(07)でカンヌ脚本賞を受賞したトルコ系ドイツ人監督ファティ・アキンが、移民やネオナチなどヨーロッパが抱える問題を盛り込んだ意欲作。主演のダイアン・クルーガーが美貌をかなぐり捨てて汚れ役を熱演し、女優演技賞を受賞。共演はデニス・モスキット、ヨナス・クリッシュ。
日本配給=ビターズ・エンド


『アマント・ダブル』AMANT DOUBLE/フランソワ・オゾン監督



■鬱を抱えたクロエはクリニックを訪れ、そこでセラピストのポールと出会い、たちまち恋に落ちてしまう。やがて二人はつき合い始めるが、ポールに隠し事があることに気づく。
『スイミング・プール』(03)、『17歳』(13)に次いでカンヌに出品のフランソワ・オゾン監督が手掛けたヒッチコックばりのエロティック・スリラー。種明かしはタイトルから推察できる。主演は『17歳』のマリーヌ・ヴァクトと『エタニティ 永遠の花たちへ』のジェレミー・レニエ。ジャクリーン・ビセットが共演。
日本配給=キノフィルムズ


『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』YOU WERE NEVER REALLY HERE
/リン・ラムゼイ監督


■セックス産業に売り飛ばされた少女たちを救い出す仕事を請け負うジョーは、元海兵隊員で元FBIエージェント。ある日、NYの議員からマンハッタンの売春宿が娘を助け出す仕事を受けるが、そこにはある陰謀があった。
アメリカの闇世界に生きる男をダイナミックに描いた犯罪捜査ドラマ。これで男優演技賞に輝いたホアキン・フェニックスの演技と、『少年は残酷な弓を射る』(11)のリン・ラムジー監督の男勝りの演出が見もの。共演はアレッサンドロ・ニヴォラ、エカテリーナ・サムソノヴ。ラムジーは脚本賞を受賞。
日本配給=クロックワークス


「光」RADIANCE/河瀨直美監督

 

■目の不自由な人のため、映画の音声ガイドの製作に携わる美佐子は、その試写会でモニターの一人、雅哉から何度もダメ出しを受ける。彼は弱視のカメラマンで、彼が撮影した夕日の写真に美佐子は心を突き動かされていく。
『萌の朱雀』(97)でカメラドール(新人監督賞)、『殯の森』(07)でグランプリを受賞した河瀨直美監督が、人生に迷い生きる女性と視力を失いつつあるカメラマンの恋を描いたラブストーリー。『あん』の永瀬正敏と再び組んで、ヒロインには目が印象的な水崎綾女を抜擢。他に藤竜也、神野三鈴が共演。エキュメニカル賞受賞。
日本配給=キノフィルムズ。2017年5月27日公開。

                                                               (2017年10月6日記)

 




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